秋田地方裁判所 昭和25年(ヨ)119号 決定
申請人 菅原恭蔵 外四名
被申請人 日本通運株式会社
一、主 文
本件申請は、いづれも却下する。
申請費用は、申請人らの連帯負担とする。
二、理 由
本件当事者双方の提出した疏明方法により一応認められる事実関係にもとずく本裁判理由の要旨を次に掲げる。
一、申請の趣旨
被申請人が申請人らに対してなした昭和二十五年七月十五日附懲戒解雇の意思表示は、その効力を停止する。
訴訟費用は、被申請人の負担とする。
二、当事者間に争いのない事実
(一) 申請人らはいづれも被申請人会社の従業員であつて、申請人A、同C、同Dは同会社秋田支店に、申請人Eは同会社横手支店に、申請人Bは同会社大館支店にそれぞれ勤務している者であり、訴外全日通労働組合(以下全日通という。)の組合員である。而して、全日通は全日本の通運業に従事する労働者を以て組織され、その下部組織として被申請人会社支社単位に地区を各府県別単位に又は国鉄旧鉄道管理部単位に支部を、被申請人会社支店単位に分会を有し、申請人らはいづれも全日通の下部組織である新潟地区内秋田支部に所属し、該支部の専従役員である。
(二) 被申請人は肩書地に本社を置き、全国に三百数十ケ所の支店及び三千五百ケ所の営業所を有する資本金六億四千五百万円の通運業を営む会社である。
(三) 全日通と被申請人会社との間には昭和二十三年七月十二日締結し現在有効の労働協約があり、又被申請人会社には同年三月一日施行現在有効の就業規則がある。
(四) 全日通と被申請人会社との間には昭和二十四年十月労働協約案が被申請人会社から全日通に提示され、ついで同年十二月全日通から全日通案を被申請人会社に提出し、爾来、これについて協議が重ねられていたが、その内経営権、組合活動、非組合員の範囲及び苦情処理機関等の問題について、双方意見の一致をみないため、その部分に関する事項とともに当時やはり双方意見の一致をみるに至らなかつた四月以降の本格賃金改訂、退職慰労金制度の改正、結婚資金及び寒地手当等の諸要求を併せて全日通は、昭和二十五年五月十三日被申請人会社の事業が公益事業であるところからこれが解決を図るため労働関係調整法(以下労調法という。)第十八条第三号の規定にもとずいて中央労働委員会(以下中労委という)に対して調停の申請をなしたが、中労委は全日通の組合資格に関し疑義があるとして調停手続を開始しなかつた。
(五) 全日通新潟地区(以下新潟地区という。)は全日通の右(四)の要求に対応して被申請人会社新潟支社に対して、団体交渉を開始したが妥結に至らないため、昭和二十五年七月八日に申請人らの属する全日通秋田支部(以下秋田支部という。)、同支部秋田分会(以下秋田分会という。)等に対してストライキに突入すべき旨の指令を発した。
(六) この指令を受けた秋田分会は組合員の直接無記名投票による意思決定を行わないで、同分会の下部組織である各班毎に個別的に賛否の投票を行つた上でストライキ態勢に入り申請人等はこれに参加した。
(七) 被申請人会社は昭和二十五年七月十五日申請人らに対して懲戒解雇処分をなした。
三、申請人らの主張
(一) 全日通は労働組合法第二条及び第五条第二項の規定に適合せる所謂法内組合である。
(二) 申請人の所属組合に争議権がないと主張することは失当である。
(三) 申請人らは本件ストライキを指導したことはなく、ただ秋田支部の組合専従役員として新潟地区指定の秋田分会に対する指令を伝達したにすぎない。
(四) 秋田分会のストライキを実施した際の手続は労働組合法第五条第一項第八号に違反しない。又申請人らは秋田分会の下部組織である各班のストライキ実施についての賛否投票を指導したことはない。
(五) 被申請人会社が申請人らに対して示した解雇の理由は、不当抗命秩序紊乱の事由により、申請人らの所属する組合が争議権がないのに拘らず違法なストライキをなし、該ストライキは申請人らの指導によるものであり、その責任を問うため就業規則第百十七条第九号及び第百十八条第三号により懲戒解雇する。
というのであるが、右解職処分は、
(1) ストライキの発生中であり、又秋田支部専従役員全員九名(申請人らを含めて)に対し懲戒解雇処分に附した点からみて明かに申請人らが組合活動をしたことを理由とするものといい得るから不当労働行為として無効である。
(2) 被申請人会社就業規則第百二十一条の規定による懲戒委員会の諮問を経ていないから同条に違反した無効のものである。
(3) 被申請人会社は申請人らに対して解雇予告手当を支払うことなく申請人らを即時解雇したものであるから労働基準法第二十条に違反して無効である。
(4) 労働協約第六条、第七条の規定に違反する行為であると同時に信義誠実の原則からみて不当な処分である。
(六) 申請人らに対してなした解職処分により被申請人は就業規則所定の退職慰労金の債務を免れ、又永年誠実積極的に社業発展に寄与した優秀な申請人らを解職処分に附した被申請人会社の行為は権利の濫用である。
(七) 被申請人会社の申請人らに対してなした解職処分は労調法第七条に規定する「争議行為に対抗する行為であつて業務の正常なる運営を阻害せる」争議行為である。
従つて同法第三十七条に規定せる所謂冷却期間を経過しなければ申請人らに対して解職処分をすることができないものであるから同法第三十九条の規定に違反する。
四、申請人A、同B、同C及び同Dの追加的主張
(一) 申請人らは本件ストライキに関し何等指導的、支配的地位なく又該ストライキが違法であるという理由で申請人らを解職処分に附するのは法律上許されない。
(二) 申請人らが本件ストライキを共産党の政治目的のためにする情を知つていながら、これに参画、指導したとて被解雇適格者と認め企業防衛上解雇するのは当然であるとする主張は現在の社会的、法律的常識に合致しない不当なものである。労働者を基盤とする特定の政治的思想に労働者が支配されることは当然で、これを以て本件解雇を正当ずけようとするのは法の解釈を誤つたものである。
(三) 被申請人は本件解雇後の申請人らの行動を云々し、これを以て解雇処分の正当性の裏付けとするのは「山猫争議」の解釈を誤つたものである。
(四) 労働基準法第二十条は被解雇者保護の規定であるところの所謂強行規定であるから同条に対する被申請人会社の解釈は不当である。而して申請人らは右手当を不払給料の一部として受領したものであつて、受領後も解雇の当否について訴訟上争う必要がある。
(五) 組合推薦の委員が出席しない懲戒委員会は就業規則第百二十一条の規定による懲戒委員会ということはできないから、仮令懲戒委員会を開催したとしても、本件解雇は同条に違反しているに変りはない。
五、被申請人の主張
(一) 本件ストライキは次の通り違法なものである。
(1) 全日通、新潟地区及びその下部組織は、いづれも所謂法外組合である。
(2) 新潟地区が全日通と無関係に行つたストライキであるから違法である。
(3) 秋田分会がストライキに入る手続について労働組合法第五条第八号の違反があるから違法である。
(4) 申請人らは日本共産党員又はその同調者であるところ、党の目的遂行の一環であることを認識しながら、これに参画指導したもので、日本共産党が北鮮問題に起因する内外情勢に応ずる政治上の目的からなさしめた所謂「政治スト」であり、又憲法第十二条、労調法第一条に規定する権利の濫用である。
(二) 申請人らは秋田支部執行委員として違法なストライキを指導、煽動し、その範囲を逸脱した不法占拠の事故を惹起し、故意に会社業務に損害を与え不当に命令に反抗し、職場の秩序を乱した事実により、その責任を問うため就業規則第百十七条第九号、第百十八条第三号の規定により懲戒処分に附したものである。
(三) 本件懲戒解雇処分は就業規則に準拠し、適法な懲戒委員会の諮問を経てなしたものである。
(四) 次の理由により労働基準法第二十条には違反しない。
(1) 本件解雇は申請人らの責に帰すべき事由にもとずくところの処分であるから解雇予告手当の支払をなす必要がない。
(2) 申請人らは本件申請提起前解雇を承認し、解雇予告手当を受領した事実があるから、仮令事情如何とあれ解雇は有効であるのみならず何等急迫の事情もないから本件申請は理由がない。
(3) 仮りに労働基準法第二十条の規定による解雇予告手当の支払をなす必要があるとしても、被申請人は当初からこれが支払の意思を有し、然も昭和二十五年八月八日法定額を供託して支払を了したから、遅くとも同日には本件解雇は有効となつたから申請人らの本件申請は理由がない。
六、省略
七、当裁判所の判断
第一、本件争議の違法性について
(一) 法内組合なりや否やについて。
法内組合と法外組合との労働組合法適用上の差異は、同法第五条第一項の手続えの参与及び救済が許されるか否かの点にあるだけである。然るに労調法は広く、「労働関係の当事者」といい、当事者の概念を特に労働組合に限定していない。
従つて同法によれば未組織労働者と雖も労働委員会の斡旋、調停及び仲裁の手続に参与し得るものである。
そこでもし労働組合法第五条第一項を厳格に解釈して、法外組合には右手続きの参与を絶対に許さないとするならば、未組織労働者より強固な組織を有する労働者の団体が、より保護に値しないということになり、この解釈は到底是認し得ない。殊に公益事業においては争議に入る前提として、労働委員会に調停の申請をなすべきことが要求されていること被申請人主張の通りであるが(労調法第三十七条)法外組合が調停申請をなし得ないとすれば、結局争議行為を禁ずることとなり、単なる手続上の理由を以て憲法の認める争議権をも奪うことになるから、かかる解釈は採用し得ない。果して然らば、法外組合も労働組合としての資格においてではなく、争議団その他の労働者の団体としての資格において労調法所定の手続に参与する限り、同法の保護が与えられるものと解する。
法外組合について以上のように解釈するならば、被申請人のこの点の主張はその余の判断を俟つまでもなく失当である。
(二) 本件ストライキは、新潟地区が全日通と無関係に行つたストライキであるから違法であるとの点について。
申請人らは、新潟地区がさきに全日通から中労委に対してなした調停事項について、その要求貫徹を期して被申請人会社新潟支社と数回に亙り団体交渉を行つて来たと主張するけれども、新潟地区が昭和二十五年七月六日全日通の被申請人会社に対する要求項目とは別個に一、就業時間中の賃金差引の通告即時撤回、二、四月賃金一万二千円即時支給、三、雪害寒冷地手当組合要求の即時支給及び四、臨時作業員全員の即時入籍を被申請人会社新潟支社に提出していることが認められるところ、被申請人は新潟地区の前記要求項目中第一項と第四項とは全日通が中労委に対してなした調停申立事項とは別個のものであつて、単一組合の支部である新潟地区が組合全体に関係ある問題について全日通と無関係にストライキに入ることは許されないと主張し、申請人らは右項目は全日通の調停申立事項とは別個のものではないと主張しているから先づこの点について考えるに、争議の目的となつている要求が新らしい要求か、それとも従前の要求の単なる一部追加又は訂正とみるべきか否かを決するには争議の当事者なり、調停委員会なりが、争議解決のための準備や調停ないし斡旋を新規にやり直さなければならない程度のものかどうかを基準にして考えるべきである。
ひるがえつて、本件についてみるに全日通のように全国的な団体にあつては独り全組合員にのみ利害関係のある事項ばかりではなく、或る一地域内の組合員についてのみ利害関係のある事項の存在することも亦容易に推測されるところであり、後者の事項について必ず上部単一組合だけが団体交渉乃至団体行動をする権利があり、下部組織体にはその権利は存在しないということができないのも亦当然の理である。この観点に立てば新潟地区、秋田支部及び秋田分会と雖も前示の事項については独自の組合規約を有し、独自の活動をなし得る組織体ということができるが、それはあくまで前示特定事項に限定され、それ以外の事項については全日通の統制に服さなければならないのも亦論理の教えるところである。そうであるならば、本件ストライキの端緒となつた新潟地区の前示四項目の要求事項について、それが新潟地区組合員全員についてのみ利害関係があるものなりや否やについて検討を加えなければならないこととなる。
そこで、本件において争いとなつている新潟地区要求項目第一項及び第四項は全日通の調停申立事項とは明かに別個のものであると認められ、他に申請人らの主張を認めるに足る何等の疏明資料はないから採用しない。
而して右二項目が新潟地区内の組合員だけに特殊な利害関係ある要求事項であるとは考えられないし、その旨の疏明資料もない。従つて全日通傘下の全組合員に関係ある事項を全く別個な立場から提出したものであると認めざるを得ない。
前示のような新潟地区、秋田支部及び秋田分会が全日通の指揮統制に違反する点はなるほど、組合内部の責任問題ではあろうが、全日通から脱退することなく、全日通内部の一団体たる資格において使用者に立向い、あえて、全日通対被申請人間の団体交渉を排除し、自己との交渉に応ずべく強制する点に本件ストライキの違法性の契機が存在するといえるであろう。
よつて、その余の判断をするまでもなく申請人らの主張は認めることができない。
(三) 労働組合法第五条第二項第八号について。
申請人らは本件ストライキは秋田分会組合員の直接無記名投票を行わないが、各班毎に個別的に賛否の投票を行い、所属班員の過半数の賛成を得た班のみストライキに突入し、過半数を得ない班は現実にストライキを実施していないのであるから違法ではないと主張するけれども、秋田支部規約第四十条の規定によると「同盟罷業は組合員又は組合員より選挙された支部代議員の直接無記名投票の過半数の賛成を得て開始する」とある、申請人らの主張は明かにこの規約に反することは疑のないところであるが、ストライキに突入した班の争議行為が秋田分会自体のものか、或は一部組合員の争議行為によるものかについて結論が異るのでこの点について考えるに、本件ストライキは秋田分会所属組合員八百余名中合計二百七十九名の賛成者を出したに過ぎないところ、これを使用者との関係において考え、また、前示かしある決定もストライキが統一性を保ち団体交渉の責任主体と争議行為の責任主体とを明かにする限り、組合内部における規約違反の責任問題を生ずるに止まり、ストライキ自体は違法なものとはならないが、かかる事実を肯認するに足る何等の疏明資料もないから、本件においては、労働組合法第五条第一項第八号に違反するものといわざるを得ない。
叙上(二)、(三)において判断したように本件ストライキは違法であるからその余の判断はしない。
第二、解職処分について
(一) 申請人らは本件ストライキを指導し、支配的地位についたことはなく、ただ秋田支部専従役員として新潟地区指定の指令を秋田分会に伝達したに過ぎないと主張するけれども、申請人らがストライキに参加するに先だち七月六日、七日の両日に亙つて申請人らに対して違法な争議行為に入ることを戒め、もしこれに違反するときは会社として断乎たる処置をとるべきことを警告し、更に本件争議行為の発生後も七月八日その行為が違法なるものであることを告示して速かに職場に復帰をすすめる旨の勧告を行つた。而して申請人らは全日通の規約、運動方針、統制事項を無視した本件ストライキの計画に直接参画し、これを指導し、九月二十二日迄違法なストライキを継続させたものであると認めることができる。よつて申請人らの主張及びこの点に関する申請人A、同B、同C及び同Dの追加的主張は採用しない。
(二) 就業規則第百二十一条について
被申請人会社新潟支社長は昭和二十五年七月十二日同社懲戒委員会に対して申請人らを不当抗命、秩序紊乱の事由により懲戒処分に附する件を諮問し、同月十四日同委員会はこれが処分さるべきことを答申しているので、就業規則第百二十一条の規定に違反するものではないからこの主張も亦採用するに由ない。
この点に関し申請人A、同B、同C及び同Dらは組合推薦の委員が出席しない懲戒委員会は同条の規定による懲戒委員会ではないと主張するのでこの点について考えるに、同条には「懲戒委員会の規約は別に之を定む」とあり、これが組織構成についての規約は現在に至るまで制定されていないが、概ね懲戒委員会は設置されているが、その組織、構成については各支社、各店共その取扱が区々である。又昭和二十三年十二月頃同委員会規約制定をめぐつて被申請人会社と全日通との間に折衝が重ねられていたが被申請人会社より暫定措置として組合推薦の委員を加えるよう指令している。しかし、申請人ら主張のように組合において委員を推薦して参加を求めたにかかわらずこれを拒まれたとの事実を認めるに足る何等の疏明資料はないから被申請人会社新潟支社が組合推薦の委員を参加させないで同委員会を開き懲戒処分に関する諮問に応じ、答申したからとて就業規則第百二十一条による同委員会に変りはないからこの主張も採用しない。
叙上論じたように被申請人会社が申請人らを解職に附した処分は正当なものであると認めるべきで、他に右認定を覆して被申請人の不当解雇意思を肯認するに足る疏明資料のない本件懲戒解雇処分の有効なることは明かであるから、その余の判断を俟つまでもなく、申請人らのその無効を前提とする本件仮処分申請は失当として却下を免れない。
よつて訴訟費用につき民事訴訟法第八十九条、第九十三条第一項但書の規定を適用して主文の通り決定する。
(裁判官 百武一 安田忠治 荒井徳次郎)