秋田地方裁判所 昭和25年(ヨ)77号 判決
申請人 日本通運株式会社
被申請人 内山雅夫 外九十三名
一、保証 無保証
二、主 文
一、申請人から被申請人等に対して提起する解雇有効確認業務妨害排除請求訴訟事件の本案判決確定に至るまで、
(一) 別紙不動産目録第一号記載の不動産に対する被申請人等の占有を解き、申請人の委任する秋田地方裁判所執行吏にその保管を命ずる。執行吏は申請人の申出により申請人に右不動産の使用を許すことができる。
(二) 被申請人等は別紙不動産目録第一号及第二号記載の不動産(但し第二号記載の不動産中、七及八を除く)に立入つてはならない。
(三) 執行吏は前二項の目的を達するため適当な公示方法をとるべく、その他適当と認める処置をとることができる。
二、申請人のその余の申請はこれを却下する。
三、訴訟費用は被申請人等の負担とする。
三、申請の趣旨
申請人代理人は主文第一項(一)及(二)と同旨並に「執行吏は右一の分に付適当な公示方法をとれ」との判決を求め、被申請人等代理人は「本件申請を却下する」との判決を求めた。
四、事 実
申請人の主張
申請人代理人はその申請の理由として次の通り述べた。
一、本件争議行為に至るまでの事情
申請人日本通運株式会社は通運貨物自動車運送倉庫営業等運輸に関する事業を目的とし、本社を東京都に置き、新潟市その他全国九箇所に支社を設け、秋田市外全国三百余箇所に支店を置き、更に全国約四千三百余箇所の営業所を設けて、全国的な規模でその営業を行つている会社であり、訴外全日通労働組合は右会社の従業員を以て組織され右会社の機構に対応して東京都に本部を置き、支社毎に地区を設け、府県別に支部を支店別に分会を置き、更に営業所別等に応じて班を設けている単一労働組合であり、被申請人等の内目録冒頭記載の内山雅夫以下五名は昭和二十五年七月八日まで三浦鶴吉以下八十九名は同月九日まで申請人会社新潟支社、秋田支店、秋田支店各営業所等に勤務してゐた従業員であり且つ右全日通労働組合の新潟地区、秋田支部秋田分会等に属していた組合員である。
申請人会社と右全日通労働組合は労働協約の改訂に関して昭和二十四年末以来交渉を続けていたが、昭和二十五年四月頃右交渉は決裂するに至つたので組合は同年五月十三日、中央労働委員会に対し要求事項たる(一)四月以降の賃金ベース改訂、(二)結婚資金の支給、(三)寒冷地手当の支給、(四)退職慰労金の改正、(五)労働協約の改訂に関して調停の申立をなし、同月二十二日委員会はこの申立を受理した。所がこれより先、全日通労働組合は労働組合法に定められた資格を具備するか否かに付て中央労働委員会の審査を受けた所、委員会は昭和二十五年二月十日附を以て組合に対しその規約を次の趣旨に従つて改訂するやう勧告を発した。
(一) 非組合員たるべきものに付ては将来中央労働委員会が指示する規準に従つて処置すること
(二) 使用者から経済的援助を受ける規定を除くこと(就業時間中の組合活動に付て、該当時間に対する賃金の支払を受けないこと)
(三) 規約中の数箇所の字句を労働組合法第五条第二項に適合するやう改正すること(「無記名投票」とあるのを「直接無記名投票」とする等)
これに対して組合は速かに正規の手続を経て勧告の趣旨に添う旨を囘答したので、右勧告に従つて規約を改正することを条件として審理に合格したが、その後組合は結局規約を改めるに至らず右条件は成就されないまゝでいた。このやうな事情があつたので前述のやうに組合は中央労働委員会に対して調停の申立をしたけれども、昭和二十五年五月二十三日に右委員会から前記勧告に従はない限り法内組合と認めることができないから調停を受附けても実質審議に入ることはできない旨を告知されたのであつた。
かうして全日通労働組合と申請人会社間の紛争に付て中央労働委員会の調停が開始されないでいる内、右組合新潟地区は組合本部と無関係に昭和二十五年七月六日申請人会社新潟支社に対し、(一)就業時間中の賃金差引の通告即時撤囘、(二)四月賃金一万二千円即時支給、(三)雪害、寒冷地手当要求の即時支給、(四)臨時作業員全員の即時入籍、なる要求を提出して七月十日までに囘答を求め、その囘答をも待たずに同月八日被申請人等の属する秋田支部秋田分会に対してストライキに突入すべき旨を指令した。而して新潟地区はこの指令を発するに際し、組合中央本部に対して七月六日争議権限の委譲を求めたが翌七日これを拒否されるや、本部の指示を無視して単独で罷業の指令を発したものであり、且つこの指令を発するに付て新潟地区は組合員又は組合員の直接無記名投票により選ばれた代議員の直接無記名投票による表決を行はなかつた。この指令を受けた秋田支部も亦、支部として組合員全体の意思を表決することなく更にこれを秋田分会に伝達し、秋田分会はその組合員全体の総意を問ふことなく分会傘下の各班毎に個別的に賛否の投票を行つた上、結局総数八百名余の組合員中ストライキに賛成したものは二百七十九名に過ぎないのに分会として罷業態勢に入ることゝし、被申請人等はこれに参加したのである。
二、本件争議行為の違法性と申請人会社の解職処分
被申請人等の参加した本件争議行為は左記の理由によつて違法である。
(一) 前述したやうに、全日通労働組合は、労働組合法第二条並に第五条に規定された要件に欠ける所があり、その結果、この要件を具備することを条件として中央労働委員会の資格審査に合格したが、現在に至るまで未だその条件を成就するに至つていないものであるから、労働組合法、労働関係調整法等に規定される手続に参与し、救済を与へられる資格のない所謂法外組合であるといはなければならない。
更に全日通労働組合秋田分会に於ては秋田支店管下十三箇所の営業所の所長の他、支店に於ける庶務係長、主計係長等を組合員に包含しているが、これは労働組合法第二条第一号にいふ「使用者の労働関係についての計画と方針とに関する機密の事項に接しそのためにその職務上の義務と責任とが当該労働組合の組合員としての誠意と責任とに直接にてい触する監督的地位にある労働者その他使用者の利益を代表する者の参加を許す」労働組合であつて、従つて右秋田分会は同条に定められた資格を備へた労働組合といふことができない。その他新潟地区管下に於ては柏崎分会等も右と同様のものであり、従つてこれら分会を含む新潟地区全体も前記法条の要件を備へない法外組合であるといふべきである。
そこで結局、全日通労働組合、並にその新潟地区以下の下部組織体は何れも法外組合であるから争議権を有していないものであり、従つて被申請人等の参加した本件争議行為は違法なものである。
(二) 全日通労働組合新潟地区は、前述したように四項目の要求を新潟支社に提出した上、ストライキに入るべき旨の指令を発した。しかるに前に述べた所から明かなように右四項目の中、第一項と第四項は組合本部が中央労働委員会に調停を申立てた事項の内にはない新規の要求事項であり、殊に右第一項は前記中央労働委員会の補正勧告の趣旨にも相反するものである。又、第二、三項は本部の調停申立条項中に含まれてはいるが、この点に関して新潟地区だけで同盟罷業に入るに付ては本部から争議権の委譲がなければならないのに本部は地区に対してこれを拒否している。従つて新潟地区が指令した争議は本部とは無関係に独自の立場から行われたものといわねばならないが、単一組合の一支部が組合全体に関係のある問題に関連して本部と無関係に争議を行うことは許さるべきではないから、新潟地区の指令によつて被申請人等が参加して行われた本件争議行為は違法なものである。
更に、仮に新潟地区が組合本部とは独自の行動をとり得る権限があるとしても、新しい要求事項に関しては新たに労働委員会に対して調停の申立をなし労働関係調整法第三十七条所定の所謂冷却期間を経た上でなければ、公益事業に関する行為はなし得ないのに、この期間を経ないで新潟地区がストライキの指令を発し、これに従つて被申請人等が本件争議行為を行つたことは違法であるといわねばならない。
(三) 更に新潟地区、秋田支部、秋田分会は何れもその規約中に、労働組合法第五条第二項第八号の趣旨に従い、同盟罷業は組合員又は組合員の直接無記名投票により選挙された代議員の直接無記名投票の過半数による決定を経なければ開始しない旨の規定を置いているが、前述したように新潟地区はこの規定に則ることなくストライキの指令を発し、秋田支部も亦かかる投票を行うことさへなくこれを秋田分会に伝え秋田分会は右規定の趣旨に合致した決定を行わずに本件争議行為に入つたものであつて、従つてかかる行為は右規約に反し、前記労働組合法の規定に反する違法な行為であるというべきである。
以上の如く何れの点からしても本件争議行為は違法なものであるといわねばならないが被申請人等は何れもこのことを熟知しながら、申請人会社秋田支店長の再三の警告にも拘らず敢て前述の如き行為に出でたのである。そこで申請人会社は七月八日、秋田支部及秋田分会の執行部を構成している被申請人内山雅夫以下五名(被申請人目録冒頭記載のもの)を含めた十四名の者に対し、就業規則第四十四条第一項第五号の「重大なる事由ある」ものと認めて即時解職の辞令を発し直にこれを通告した。而して更に会社は罷業中の従業員に対してその争議行為が非合法であることを示して即時職場に復帰するように命令しこの命令に違反したものは更に解雇する旨を告示したが、被申請人等全員を含む百八十四名の者は翌九日に至るも依然として職場を離脱し罷業を続けているので、申請人会社は已むなく前日解職した五名以外の被申請人等全員を含めて総計百七十名の者を解雇し、直にこれを通告した。
三、被申請人等のその後の行動と仮処分を必要とする事情
以上のように申請人会社は被申請人等を七月八、九両日にわたつて解職したから、爾後は被申請人等は争議行為を続けて会社所有の建物に立入つたり会社の業務を妨害したりするような何等の権利なきものといわねばならない。しかるに被申請人等九十四名は解雇された後も申請人会社所有の別紙不動産目録第一号記載の車庫及びその操車広場を占拠し、職場管理と称して右車庫内の貨物自動車二十四台の始動鍵を引渡さずその運転を暴力を以て妨げる等申請人会社の業務を妨害し、更に申請人会社の執務時間中、団体交渉に名を借りて会社所有の別紙不動産目録第二号記載の営業所等に侵入し日本共産党のインターナショナル歌を高唱して会社の執務を妨げ、又支店長社宅を訪問して支店長に面会を強要する等のことをしている。のみならずその後全日通労働組合本部が新潟地区の争議指導を否認して自ら事態の拾収に乘り出したので被申請人等は情勢不利と見るや八月十三日以来連日にわたつて数十名の集団を以て別紙目録各号記載の支店々舗等に押しかけ、支店幹部に面会を強要し、威力を以てその退出を不能ならしめ、又は別紙第二号目録記載の支店長社宅や会社寮等に見張りを付して支店長その他を尾行し、更にその後支店幹部の所在を見失つたため八月十八日以来車庫内にある自動車の内三台を申請人の承諾も得ずに不法に運転し「迷子の支店長中崎三郎ヤーイ」と叫び廻つたりして示威運行をする等、会社の業務の運営を妨げ、その信用を害する如き行為を続けている。申請人会社は被申請人等のかくの如き行動のため日々重大な損害を蒙り、一般市民も輸送力の減退によつて迷惑を受け公共の利益も侵害されつつある状況である。
そこで申請人会社は被申請人等九十四名に対して解雇処分有効確認業務妨害排除請求の訴訟を提起しようと準備中であるが、事態は既に右の如くであり、本案判決の確定を待つていてはこの急迫した強暴を防ぎ且つ著しい損害を避けることができないので申請の趣旨記載の如き仮処分申請に及んだものである。
被申請人等の答弁
被申請人等代理人は答弁として次の通り述べた。
一、争わない事実
申請人の主張事実中、(一)申請人会社及び訴外全日通労働組合の組織機構、並びに被申請人等のこれらに対する関係、(二)全日通労働組合が申請人会社との間の交渉に関して申請人主張の如き調停の申立を中央労働委員会に対して行つたが、中央労働委員会は組合の資格に関し疑義があるからと調停手続を開始しなかつたこと、(三)その内新潟地区が申請人主張のように新潟支社に対して四項目の要求を提出し、昭和二十五年七月八日に被申請人等の属する秋田支部秋田分会に対してストライキに突入すべき旨を指令したこと、(四)この指令を発した新潟地区もこれを受けて秋田分会に伝達した秋田支部も組合員の直接無記名投票による意思決定を行わなかつたこと、(五)秋田分会が傘下の各班毎に個別的に賛否の投票を行つた上で罷業態勢に入り、被申請人等がこれに参加したこと、(六)申請人会社がその主張のように被申請人等に対して解職処分を行つたこと、(七)被申請人等がその後申請人会社所有の自動車車庫操車広場を占拠し、自動車二十四台の始動鍵を引渡さずにその運転を妨げ、支店店舗等に立入り支店幹部に団体交渉を求め、会社の自動車一台を使つて支店幹部を探し廻つたこと、は何れもこれを認めるが、その余の主張事実で被申請人等の争議行為並に解職処分後に於ける行動の違法性を前提とする事実は何れもこれを認めない。
二、本件争議行為の違法性の主張に対する答弁
被申請人等の行つた本件争議行為は左の理由によつて何等違法なものではない。
(一) 全日通労働組合は労働組合法第二条及第五条第二項の規定に適合する法内組合であり、昭和二十五年二月二十三日中央労働委員会からその旨の証明書の交付を受けているものであるが、仮に法外組合であるとしても法外組合であるが故に争議権をも有しないとなすことはできない。労働関係調整法は、公益事業に関しては「関係当事者」から労働委員会に対して調停の申立があつてから三十日の冷却期間を経過すれば争議行為を行い得る旨を定めているが、この「関係当事者」とは資格を備えた法内組合だけに限るものと解すべきではない。もし法外組合はこの調停の申立てをすることができないとすれば、公益事業に関しては法外組合は絶対に争議行為を行い得ず憲法の保障する労働者の団体行動権を奪われる結果となるからである。従つて法外組合もこの調停の申立をなすことができ、三十日の冷却期間を経過することによつて争議行為を行うことができ、正当な争議行為に付ては民事刑事の免責を受けるものと解するのが正当というべきである。中央労働委員会が全日通労働組合の資格審査に藉口して調停手続を開始しないことは労働委員会の職務怠慢以外の何物でもなく、全日通労働組合は仮に法外組合であるとしても調停申立の受理された時から三十日の期間を経過したことによつて、既に本件争議行為発生の時には争議権を獲得していたのである。
(二) 新潟地区が新潟支社に提出した四項目は組合本部が中央労働委員会に調停を申立てた事項と別個のものではない。第一項の就業時間中の賃金差引の通告即時撤囘という要求は今次の賃金要求の一環として取上げたものであつて本部の要求事項と全く別個なものではなく、第四項の臨時作業員全員の即時入籍なる要求も労働協約改訂要求の事項の内に包含されているものであつて全然別個の要求とはいい難い。この二項は何れも組合本部の調停申立条項の内に包含され、唯文言上これと異なつた形をとつているだけであつてこの程度の派生的従属的な相違を以て争議の同一性を害するものということはできない。従つて新潟地区は前述したように既に争議権を獲得した全日通労働組合の一支部として、本部の要求事項と同一の事項に関してストライキの指令を発したものであり、本部の意向との間に若干の喰違いがあつたにしても、この行為を以て違法な争議行為となすことはできない。組合内部に於ける規律違反を以て直に外部に対しても違法な行為とすることはできないのである。
更に新潟地区の右要求事項は組合本部の調停申立事項と同一なものであること前述の通りなのであるから地区の要求事項に関して新たな冷却期間を必要としないことは当然というべきである。
(三) 同盟罷業を行うに付ての組合員の直接無記名投票は実際に争議行為を行う組織に於てこれをなせば足りるものと解すべきである、本件に付ても実際にストライキに入つた秋田分会ではその傘下の各班毎に無記名投票によつてその可否を決め、これを可と決定した班から争議行為を開始したものである。従つて本件争議行為の開始に付て申請人主張の如き手続がとられなかつたことは、決して右行為を違法とするものではない。
以上の如く何れの点からしても被申請人等が参加した本件争議行為は違法のものではないから、被申請人等がかかる行為を行つたことを理由として申請人等を解雇したことは不当でありその解雇処分は無効であるといわねばならない。
三、解雇処分後の被申請人等の行動等について
前述した如く被申請人等の本件争議行為は正当なものであつて、解雇処分後の被申請人等の行動も支店幹部との団体交渉によつて事態を早急に解決しようとする意図に出でたものであつてその間暴力を行使するが如き事実は一も存しない、既に正当な争議行為である以上、それが使用者側の所有権、経営権を或る程度侵害することがあつても、何等違法のものとはいえないのである。一方に於て労働者の生存権を護るために団結権、団体行動権等を保障するとともに、他方私有財産権は絶対不可侵のものではない旨を宣言している憲法の規定の趣旨を考へるならばこのことは余りにも明白な事実といわねばならない。
以上の如く被申請人等の本件争議行為は飽くまで正当なものであつて、申請人会社の所有権経営権の侵害の如きは当然容認し得る軽微なものであり、申請人の主張するような急迫した強暴とか損害とか著しい損害とかは何等発生していない。よつて仮処分の必要は毫も存在しないから、申請人の申請は失当であるといわねばならない。
四 (疏明省略)
五、理 由
第一本件争議の違法性に付ての判断
一、全日通労働組合は法外組合であるから被申請人等の本件争議行為は違法であるという主張に付て
(一) 日本国憲法は、労働者に対して団結権、団体交渉その他の団体行動をする権利を、侵すことのできない基本的人権として保障している。思うにその趣旨とする所は、使用者に対して比較的弱者の地位にある労働者を使用者との交渉に於て対等の立場に立たしめるために、労働者が自主的に団結して団体を結成しその労働条件に付て使用者との間に団体交渉を行い、且つその交渉に関して争議行為その他の団体行動をなすことを許し、これによつて労働者の地位の向上をはかろうとするにあると考えられる。使用者に対しては勿論のこと一般第三者に対しても損害を及ぼすことが少くない争議行為が、正当な範囲のものである限り、已むを得ぬ手段として労働者に認められるのも、右の目的を達成するためには使用者や第三者に或る程度の犠牲を甘受させるのも已むを得ないと考えられるからに他ならない。従つてこの労働者の争議行為その他の団体行動を行う権利そのものは権利の濫用や公共の福祉に反すると認められる場合でない限りこれを制限したり剥奪したりすることは絶対に許されないものと解すべきである。
而してこのような奪うことのできない労働者の権利とは、労働組合法に規定された要件を備えた労働組合にのみ与えられるものではなく、その要件を備えていない非自主的組合(労働組合法第二条の要件を欠く組合)や非民主的組合(同法第五条第二項の要件を欠く組合)や、更には又未組織の労働者の団体にもひとしく与えられている権利であるといはねばならない。労使対等の立場の促進ということは、憲法が労働者に右の諸権利を保障していることの根本精神であつてこの根本精神から考える時は、団結権や団体交渉権、殊に正当な範囲の争議権は一応すべての労働者に対してひとしく与えらるべきものである。労働組合法によつて労働組合たる資格がどのように定められようとも、そのことから、憲法上の保障を、憲法上の保障の内に当然含まれていると考えられる制限を超えて制限し、若くは否定することはできない。
かう考えると、申請人の主張する所がもしも労働組合法の要件を備えない所謂法外組合には争議権そのものがないという趣旨であるとするならば、本件に於て訴外全日通労働組合が申請人の主張するように法外組合であるかどうかの点を確定するまでもなく、申請人のこの点に関する主張は明かに失当であるといわねばならない。
(二) 次に労働関係調整法の規定によると、公益事業に関し、関係当事者が争議行為をなすには、同法の規定に従つて調停の申請がなされた日から三十日を経過した後でなければならないとされている。而して訴外全日通労働組合が申請人会社との間の紛争に関し昭和二十五年五月十三日に中央労働委員会に対して調停の申立をなしたことは両当事者間に争のない所であり、申請人会社の事業が運輸に関する事業を目的とするものであることも両当事者間に争なく、右の事業は労働関係調整法にいう公益事業に該当すると認めるべきであるが、申請人は、右の法律による調停の申立は資格を備えた労働組合でなければできないから、法外組合たる全日通労働組合のなした調停の申立は何等の効力を生ぜず、従つてその後三十日を経過しても同組合は争議権を獲得していない、と主張している。しかしながら、労働関係調整法に所謂関係当事者とは、広く労働関係の当事者一般を指すものと解すべきであつて、資格を備えた所謂法内組合だけに限られるものではない。労働組合法第五条第一項本文が「労働組合は、労働委員会に証拠を提出して第二条及び第二項の規定に適合することを立証しなければ、この法律及び労働関係調整法に規定する手続に参与する資格を有せず、且つこれらの法律に規定する救済を与えられない。」と定めているのは、このような立証を経ない労働組合は、同法等の定める不当労働行為若しくは調停等の手続に労働組合としては参加する資格がなく又労働組合法第二十七条の定める労働委員会の命令による救済手続を受け得ないというにとどまり、これらの点を除けば、その他の関係、例えば協約締結、団体交渉、正当な争議行為による民事刑事の免責等に付ては、立証を経ない労働組合も同じ取扱いを受けるものと解すべきであり、このことは前示憲法の規定の趣旨からいつても当然であるといわねばならない。従つて所謂法外組合も、労働関係調整法による調停申請の如きは労働組合としてではなく、実質上の労働関係の当事者としてその手続に参与し得るものと解すべく、而して公益事業に関しては法定の冷却期間を経過した後に、かかる労働関係の当事者として争議を開始することができるものというべきである。しからば全日通労働組合が申請人主張の如く法外組合であるかどうかを判断するまでもなく、同組合は労働組合として若くは労働関係の当事者として調停の申請をなすことができると解すべきであり、中央労働委員会が右組合の資格に疑義があるとして調停手続の開始を無期延期したこと(この事実は両当事者間に争がない)も、右の解釈を左右するには足りない。従つて全日通労働組合がこの調停申立ができないことを前提とする申請人の主張は失当であるといわねばならない。
二、本件争議は全日通労働組合新潟地区が組合本部と無関係に行つた争議行為であるから違法なものであるいう主張に付て
全日通労働組合新潟地区が組合本部の調停申立てによる手続が開かれないでいる内、昭和二十五年七月六日に(一)就業時間中の賃金差引の通告即時撤囘、(二)四月賃金一万二千円即時支給、(三)雪害寒冷地手当要求の即時支給、(四)臨時作業員全員の即時入籍の要求を新潟支社に提出し、この要求事項に関聯して秋田支部秋田分会に対してストライキに突入すべき旨を指令したことは両当事者間に争がない。申請人は右の要求事項中の第一項と第四項とは組合本部が調停を申立てた事項と別個のものであつて単一組合の一支部たる新潟地区が組合全体に関係のある問題に付て本部と無関係に争議行為に入ることは許されないと主張し、被申請人は右項目は組合本部の調停申立事項と別個のものではないことを主張している。思うに全日通労働組合の如く全国的な組織を持ち大きな下部機構を有している労働者の団体(その組織機構が申請人主張の如きものであることは両当事者間に争がない。)にあつては、それが全体として一個の統一した組織を持ち、全体として団結し団体交渉し団体行動をする権利を有することは当然であるが、他方それが全国的単一組織体であることだけの故を以て、その下部機構たる労働者団体の各々に付ては何等の独立した権利がないものであるということは必ずしもできないであろう。労働者が使用者に対して要求し交渉する事項中には、全日通労働組合の如き全国的な団体にあつては、全国的な要求事項として全組合員に利害関係のある事項ばかりでなく、地域的な要求事項として或る一地域内の組合員のみに関係のある事項もあり得ることは当然である。さうしてそのような地域的な要求事項であつて他地域の組合員とは無関係に処理し得るものに付てはその地域内の労働者団体は他地域の団体や全国的な組合全体とは一応無関係に団体交渉をし団体行動をすることができると解すべきであり、全国的に統一された単一組合の下部組織であつても独自の組合規約を有し独自の活動をなしている独自の社会的組織体と認められるものである以上、右に述べた制限内に於て独自の団体交渉等をなし得るものといわねばならない。唯、右の如き独自の権限も、それが全国的に統一された組織体の下部機関の権限である以上、全体の意思に明かに反し、中央本部の統制をみだすような行動までを含むものでないことは当然であり、下部組織のなし得る独自の活動はこの範囲内で許されると解するのを相当とする。
所で、これを本件新潟地区の要求事項に付て見るに、組合本部の調停申立事項が(一)四月以降の賃金ベース改訂、(二)結婚資金の支給、(三)寒冷地手当の支給、(四)退職慰労金の改正、(五)労働協約の改訂の五項目であつたことは両当事者間に争のない所であるが、前示の新潟地区の要求事項中の第一項と第四項とは明かに、右の五項目の何れにも含まれていない。被申請人等は、右第一項は今次の賃金闘争の一環として取上げられたものであり、第四項目労働協約改訂の要求中に包含されているものであつて、これらの要求事項は文言は異るけれども組合本部の調停申立事項と別個のものではないと主張しているけれども、成立に争のない疏乙第二十二号証中に記載された、この点に関する菅原恭蔵の供述は信用しがたく、他にかかる事情を認めるに足りる疏明は何等存在しないから被申請人等の主張は到底採用できない。而して右二項目が新潟地区内の組合だけに特殊な利害関係のある要求事項であるとは到底考えられないし、その旨の疏明もなく、その上、右の内第一項の要求事項は全日通労働組合が中央労働委員会の資格審査を受けた際に補正勧告を受けて組合全体として論議中の問題であること(この事実は成立に争のない疏甲第三及第四号証によつて疏明される。)を考え併せれば、結局新潟地区は新潟地区内の組合員だけに特殊な事項でない。全国組合員に関係のある事項を本部の要求とは全く別個な立場から提出したものであると認めざるを得ない然らば前に説いた所に照して新潟地区のとつたかかる行動は違法のものであつたと断定しなければならない。被申請人等はかかることは組合内部の統制違反、規律違反の問題になつても外部に対してまでその行為を違法とすることはできないと主張しているけれども、凡そ団体が組織されて団体としての行動が行われる所には、当然或る範囲の組織強制が存し、団体員は団体員である以上、その範囲内での団体の統制を無視し逸脱することは許されないと解すべきであるから、被申請人等の主張はこれを採用することができない。
よつて新潟地区として三十日の冷却期間を経ないで争議に入つたとの点に立入つて判断するまでもなく、新潟地区の右行為はこの点に於て既に違法なものというべきである。
三、新潟地区、秋田分会、秋田支部が本件争議に入るに付て、組合員の直接無記名投票の過半数による意思決定を経なかつたから、右新潟地区等の争議行為は違法であるという主張に付て
本件争議行為の指令を発した新潟地区もこれを受けて秋田分会に伝達した秋田支部もこの指令に関して組合員の直接無記名投票を行わず、秋田分会は傘下の各班毎に個別的に賛否の投票を行つた上で罷業態勢に入つたことは両当事者間に争がない。申請人はこのような手続だけで争議行為を行うことは違法であると主張しているのでこの点に付て判断する。思うに労働組合法が、同盟罷業の開始に付ては組合員又は組合員の直接無記名投票により選挙された代議員の直接無記名投票の過半数によるべき旨を定め、この規定に適合した規約を設けない労働組合には法内組合としての資格を与えないことにしているのは、労働者に与えられた争議権の内でも同盟罷業行為は他の種の怠業行為と違つて使用者並に第三者に与える影響が重大であるから、かかる重大な行動に入るためには特に組合員の過半数による直接の意思決定を要することとし、組合員多数の意思に反して一部の闘争委員会その他の決定だけでこの行為に入ることを防ぎ、役員の専制を抑えて組合の民主化をはかろうとするものと解すべきであり、この趣旨はそもそも人の集りである社会的組織体が団体としてその意思を決定し団体としての行動をとる場合には当然適用される社会的な原則であるといはねばならない。
法規の根本趣旨並に団体の意思活動に関する社会的な根本原則は右の如くであり、而も全日通労働組合に於ては組合自体のみならず、新潟地区、秋田支部、秋田分会に於ても各々その規約中に右の労働組合法の規定に対応した規定を置いていること(この事実は両当事者間に争がない)を考え併せるならば、本件に於て新潟地区がその組合員若くは組合員の直接無記名投票によつて選挙された代議員の直接無記名投票の過半数による意思決定を行うことなく争議行為に入るべき旨の指令を発したこと並にこの指令を受けて秋田分会に伝達した秋田支部が右のような意思決定の方法をとらなかつたことは当然違法であるといはねばならない。而して秋田分会はその傘下の各班毎に個別的に賛否の投票を行つたとはいえ、成立に争のない疏甲第十九、二十四号証、同疏乙第二十二、二十三、二十四号証、並に右疏乙第二十四号証中に記載の内山雅夫の供述によつて真正に成立したものと認められる疏乙第十四、十八号証を綜合すると、秋田分会では傘下各班毎の自主性を尊重する意味で各班毎に個別的にストライキ決行の可否に付て分会役員立会の下に無記名投票を行い、その結果は各班毎に投票数中過半数の賛成者を出した班もあり賛成者が過半数に満たなかつたものもあつたが、これを集計すると分会所属組合員八百余名中合計二百七十九名の賛成者を出したに過ぎないのに、これを以て分会としては絶対多数の意思決定を得たものとして過半数に達した班から争議行為に入ることを決め、これを秋田分会は秋田支部を介して新潟地区に報告しこれによつて新潟地区は前記ストライキの指令を発するに至つたものであることが一応認められる。このような秋田分会の意思決定の仕方も亦、前示の労働組合法の趣旨と人の集団の意思活動に関する根本原則とに照して考える時は、違法なものであると認めざるを得ない。秋田分会が秋田分会としての意思を決定するには、秋田分会所属の組合員全員の直接に表明した自由な意思をまとめた上でのことでなければならない。本件に於て秋田分会はストライキ決行の可否に付て各班毎に投票を行つて各班毎に意思を決定しこれをとりまとめて秋田分会としての意思を決定しているけれども、このような方法は組合員全員の直接に表明された意思をまとめたものであるとは認め難い。何故なら、もしもかくの如き方法をとる時は、秋田分会の各班中に於て過半数の賛成投票を得た班の数が過半数に達するならば、たとえ爾余の班に於て絶対多数を以て不賛成の投票が行われ、所属組合員個々の意思を集計すれば賛成者は組合員総数の半ばに達しない場合でも、各班毎の班としての意思決定の集計の結果として秋田分会全体としては賛成投票の方向にその意思を決定せざるを得なくなるであろう。このような結果を許すことは、組合員個々の平等な取扱いと組合の民主的な運営とを企図する労働組合法の精神に背き、秋田分会自らの規約にも違反し、民主的な団体に於ける多数決原理という根本的な原則にももとることとなるからである。被申請人等は、同盟罷業を行うに付ての組合員の直接無記名投票は実際に争議行為を行う組織に於てこれをなせば足りるものと解すべきであると主張しているけれども、このような主張は右に述べた所に鑑みて到底認めることができない。現に本件に於ても秋田分会の総組合員中、ストライキに賛成したものはその半数に満たなかつたことは前示認定の通りであつて、それにも拘らず秋田分会が分会として罷業態勢に入つたことは違法のものであつたと認める外はないのである。
以上の如くであるから、仮に本件の場合に付て新潟地区以下の各組織体が全日通労働組合本部とは別個に争議行為に入る権利を持つていたとしても、右争議行為の開始に付て、新潟地区、秋田支部、秋田分会のとつた意思決定の手続は何れも前記の趣旨から見て違法であつたと認めなければならない。
四、以上の三点を綜合して考える時は、前記の二点に於て全日通労働組合新潟地区以下の行つた本件争議行為は違法のものであつたと認めるべく、従つてこれに参加した被申請人等の行動(被申請人等がこれに参加した事実は、両当事者間に争がない)は何れも違法のものであるといはなければならない。
第二申請人会社の解職処分並に本件仮処分の必要に付ての判断
申請人会社が昭和二十五年七月八日被申請人等の内、内山雅夫以下五名を、次いで翌九日三浦鶴吉以下八十九名をそれぞれ就業規則第四十四条第五号に該当することを理由として解職処分に付したことは両当事者間に争がなく、且つ成立に争のない疏甲第十九号証、並に同号証中に記載の斎藤辰馬の供述によつて真正に成立したものと認められる疏甲第十一号証の一乃至三を綜合すると申請人会社は、被申請人等が本件争議行為に入るに先立つて七月六日及び七日の両度にわたつて違法な争議行為に入ることを戒めもしこれに違反する時は会社として断固たる処置をとるべきことを警告し、更に本件争議行為の発生後も、七月八日その行為が違法なものであることを告示して速かに職場復帰をすすめる旨の勧告を行つたことが一応認められる。而して成立に争のない疏甲第十二号証によると、申請人会社と全日通労働組合との間に協定された就業規則第四十四条第五号には申請人会社は重大な事由がある時はその従業員を解職する旨が規定されて居ることが疏明されるが、右に認定したように被申請人等が申請人の再三の警告にもかかわらず、敢て本件の如き違法な行動に出たことは、右の就業規則にいう「重大な事由がある時」に該当するものと認めなければならない。従つてこれを理由として申請人会社が被申請人等を解職に付した処分は正当なものであると認めるべきである。
次に、被申請人等がその後申請人会社所有の別紙不動産目録第一号記載の自動車車庫、操車広場を占拠し、自動車二十四台の始動鍵を引渡さずにその運転を妨げ、且つ別紙不動産目録第二号記載の申請人会社支店店舗等(右目録中一乃至六記載のもの)に立入つていることは両当事者間に争がない。而して証人斎藤辰馬の証言によつて真正に成立したものと認められる疏甲第十六号証によると、被申請人等の右の行動によつて申請人会社は七月八日から十一日までの間に要運搬トン数七二四、四トンの内会社の自動車を運転できないため滞貨六九一、二トンを出し、市内各所から自動車等を借入れて辛うじて業務を運営しその後も同様な状態を続けて毎日相当の損害を蒙つていることが一応認められる。しからば、既に前に一応認定したように、被申請人等に対する申請人会社の解職処分が正当なものであるとする以上、被申請人等が自動車車庫等を占拠し、支店店舗等に立入つている行動は違法なものであると認めるべく、これによつて申請人会社が著しい損害を蒙つていることも右認定の通りであるから、かかる損害を避けるために被申請人等が右車庫等に立入ることを禁止する旨の仮処分を求める申請人の本件申請は結局正当であるといわなければならない。
次に、別紙不動産目録第二号中、七及八記載の支店長社宅並に会社寮に被申請人等が押しかけ、会社幹部等に面会を求めたことは両当事者間に争がないが、この事実だけでは、未だ申請人会社が被申請人等に対して右の建物等に立入ることを禁止する旨の仮処分を求める必要を認めるには足りないから、申請人の本件申請中この部分に付ては失当としてこれを却下すべきである。
よつて訴訟費用の負担に付て民事訴訟法第九十二条但書、同第九十三条第一項本文を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 徳倉正治 安田忠治 秦不二雄)
別紙目録<省略>