秋田地方裁判所 昭和26年(行)11号 判決
原告 佐藤健次郎 外一名
被告 釈迦内村選挙管理委員会
一、主 文
釈迦内村議会解散請求署名簿に対する原告等の異議申立について、被告が昭和二十六年二月十日なした決定は取り消す。
訴訟費用は、被告の負担とする。
二、事 実
原告等訴訟代理人は、主文第一、二項同旨の判決を求め、その請求原因として、「原告等は釈迦内村議会解散請求者の代表者となつて昭和二十五年十二月十日より釈迦内村議会解散請求署名簿(分冊十三冊)に住民の署名押印を求め、村内有権者三千三百十八名の三分の一を超える千四百六十二名の署名押印を得て、昭和二十六年一月五日該署名簿を被告に提出して、これに署名し印を押した者が選挙人名簿に記載された者であることの証明を求めたところ、被告は審査を行い、該署名簿は有効であるが、署名者のうち四百四名の署名は無効であると決定し、その旨を証明し該署名簿を関係人の縦覧に供したので、原告等は縦覧期間内に被告に対し該署名簿の署名に関し異議の申立をなした。而して被告は右異議申立に対して、該署名簿が法令に定める成規の手続によらないものであるとの理由で、昭和二十六年二月十日署名簿全冊(十三冊)を無効と決定し、同日その旨を原告等に通知があつたから、右二月十日被告のなした決定の取消を求めるため、本訴に及んだ。」と述べた。
被告訴訟代理人は、「原告等の請求は棄却する。」との判決を求め答弁として、
「原告等の主張する事実は全部認めるが、該署名簿は地方自治法施行規則第九条別記様式に定められた様式と異るもの(備考欄を設けず法規の要求を充たさない。)であるから違法なものであるので該署名簿は全部無効である。」と答えた。
原告等訴訟代理人は、被告の答弁に対して、
「一、地方自治法施行規則第九条別記様式の署名簿の様式の定めは一種の事務規定であつて、署名簿に備考欄の有無は署名簿の効力に影響がない。
二、昭和二十六年一月十日被告において前記署名簿を受理し、審査を行い、署名の効力を決定しているから地方自治法第七十六条、第七十四条第一項の規定による審査は終了しているものである。」と述べた。
(各証拠省略)
三、理 由
原告等が釈迦内村議会解散請求者の代表者となり、法定数以上の署名を得て、昭和二十六年一月五日該署名簿を被告に提出し、証明を求めたところ、該署名簿は有効であるが、署名者中四百四名の署名は無効であると決定し、原告等はこれに対して異議の申立をなし、被告は法令による成規の手続によらないものであると認めて同年二月十日該署名簿全冊無効を決定し、同日その旨原告等に通知したことは当事者間に争いがない。
そこで、本件署名簿が有効であるか否かについて案ずるに、
地方自治法施行令第百条本文の規定により準用する同令第九十二条第二項は「署名し印をおすことを求めるため云々署名簿を用いなければならない。」と規定し、該署名簿の様式については、同法施行規則第十一条の規定により同規則第九条の規定に準じて調製しなければならないとしている。而して、同条別記様式によれば、被告が主張するように備考欄の記載が要求されているところ、原告等が署名を求めた前記署名簿に備考欄の記載がないことは、原告等の認めるところであり右署名簿は明かに同規則第九条別記様式に反する不適法なものであることは言を俟たないところであるが、さればとて、にわかに右署名簿は無効であると断定することはできない。
およそ地方自治法の規定による直接請求の制度の企図するところは所謂間接民主主義の明白な欠陥を修正する手段として地方自治行政が真に住民の手によつて、その創意と責任とにおいて運営されることを期待し、地方自治行政の基礎が深く住民全体に根ざすことを目途とするものであると解せられる。さればこそ署名の審査を規定し(同法第七十四条第一項、第七十四条の三、第三、四項、同法施行令第九十二条第四項第九十四条第一、二、四項及び同法施行規則第九条)、署名の審査基準を法定しているのである(同法第七十四条の三第一、二項)。これらの規定によつて署名という要式行為により住民の真意を把握しようとするものであることは容易に知ることができる。
而して、他面地方自治法施行令第九十七条第一項において、前記署名簿の有効署名の総数が法定数に達しないとき、又は所謂直接請求が五日の法定期間の経過後になされたときには普通地方公共団体の長はこれを却下しなければならないと厳格に規定しているに拘らず、同条第二項において特にその請求が適法な方式を欠いている場合について規定し、かかる場合においては三日以内の期限を附けてこれを補正させなければならないとし、請求の方式に関する法律違背はこれが欠缺を前叙のように補正し得べき旨を規定している法意に鑑みるときは、本件署名簿に偶々備考欄を欠いたとしても、これに記入すべき証明の修正に関する附記事項は下段の余白に記入ができるし、かかる程度の方式の欠缺は容易に補正し得べきものであり、又本件署名簿のかしが住民の意思を左右する程度のものであるとは到底考えられないから、備考欄を欠いたとの一事によつて直ちにこれを無効であるものというべきではなく、却つてこれを有効なものであると解するのが相当である。
以上判断したようにその余の審査をするまでもなく、原告の請求は正当であるからこれを認容し、訴訟費用については民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 百武一 安田忠治 荒井徳次郎)