秋田地方裁判所 昭和27年(ワ)136号 判決
原告 京谷仁左衛門
被告 株式会社久末船舶部
一、主 文
被告は原告に対し、別紙目録<省略>記載の土地につき昭和二十四年四月七日附売買(但し売主原告、買主被告)を原因とする所有権移転登記手続をしなければならない。
訴訟費用は被告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は主文通りの判決を求め、その請求の原因として、「原告は昭和二十四年四月七日その所有に属する別紙目録記載の土地を被告に対し代金十二万円で売渡し、即日代金の支払を受けた。しかるに被告は右の売買による所有権移転登記の手続に応じないため、原告は右土地に対する固定資産税の賦課を受けるなど頗る迷惑を蒙つているので、かかる不利益を排除するため、被告に対し前示土地につき売買に因る所有権移転手続を求めるため本訴に及んだ。」と陳述した。<立証省略>
被告は請求棄却の判決を求め原告主張の請求原因事実は全部否認する。本件土地を買受けたのは被告ではなく、その代表者久末鉄男個人であると述べた。<立証省略>
当裁判所は職権で原告本人を訊問した。
三、理 由
証人深谷谷平(第一、二回)、同川口直治の各証言及び原告本人訊問の結果によると、被告会社は札幌市に本店を有し、昭和二十年より同二十五年頃迄の間秋田市土崎港に支店を設け海産物売買等の営業をしていたが、この間昭和二十四年四月七日、その事業のための建築敷地として(本件土地の内地目畑の一筆も当時の現況は宅地と認められる)原告より本件土地を買受けたことを認めることができる。
被告は右土地を買受けたことなく、右は被告会社代表者久末鉄男個人で買受けたものと争い、これに符合する奥村竜蔵の証言及び乙第一、二号証の記載があるが、奥村証人の右証言は前示各証拠及び後記認定の事情に照らし、そのまま措信し難く、乙第一、二号証の記載も後記認定の事情に照らし、冒頭の認定を覆えすに足るものと認め難い。
前示深谷証人(第一、二回)川口証人の各証言及び原告本人訊問の結果を綜合すると、本件係争の経緯として次の事情を推認することができる。すなわち、被告は原告より本件土地を買受け、登記手続を遅延しているうち、昭和二十五年中事業不振のため土崎港における営業を廃止することとしたこと、一方被告には昭和二十三年頃千代田海上火災保険株式会社に対する被告所有船舶の保険料の内三十四万八千七百五十円を訴外川口直治に立替支払つて貰つた関係から、同訴外人より右立替金の償還を請求されていたが、これが支払えないのでやがては被告所有の財産も右債権のため差押を受けるおそれがあつたこと、偶々原告名義で出された本件土地代金の領収書は内一枚が被告会社宛となつていたが、他の一枚は単にその代表者たる久末鉄男の氏名のみが宛名として記載されていたので、被告会社は昭和二十六年末又は同二十七年に入つた頃その使用人奥村竜蔵をして、原告の事務の補助をしていた深谷谷平の所に赴かしめ、前記会社宛の領収書を久末鉄男個人宛に書き替えて貰い、その後川口は前記債権につき、確定判決を得被告所有財産に対する強制執行をせんとする形勢にあるので、被告会社は、買受人が久末個人であると主張して原告から所有権移転を受けることを拒んでいる事情を推認することができる。
従つて久末鉄男宛の本件土地代金領収書(乙第一、二号証)の存することは、上述の認定を覆えすに足りないものといわなければならない。他に右認定を左右するに足る格別の証拠はない。
本件二筆の土地はいずれも原告から被告に対し売渡されたもので、被告にその所有権が移転したものというべきであるが、一般に物権変動の当事者は、登記の記載が真実の権利関係に合致しない場合相互に登記手続を請求し、又これに協力する権利義務を有するものと解するのが相当であつて、本件の場合所有権移転登記を請求し得るのは買受人たる被告会社のみならず、売渡人たる原告も又相手方に対し、登記簿上真実の権利関係を表示するがため登記請求権を有するものと解するのが相当であつて、権利取得者にのみ、右請求権を認むべしとする何等の根拠はない。
しからば、被告に対し本件土地につき冒頭判示の売買に基く所有権移転登記手続を求める原告の請求は理由があるからこれを認容すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条の規定を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 安岡満彦)