秋田地方裁判所 昭和29年(行)1号 判決 1959年3月23日
原告 越山寅五郎 外一名
被告 大館市長
主文
被告が昭和二八年七月七日付で原告等に対してした大館都市計画桂城土地区劃整理に因る換地予定地指定の処分はこれを取消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、その請求の原因として
一、被告は、都市計劃法に基き施行した大館都市計画桂城土地区劃整理のため、原告寅五郎に宛てて昭和二八年七月七日付通知を以つて原告寅五郎所有の大館市片町五番の五畑二〇歩、同町五番の六畑一二歩、同町五番の一〇宅地一六坪七合六勺、同町五番の一一宅地一一坪、及び、原告文雄所有の同町五番の四宅地二四坪、同町六番の一宅地一五二坪(以上原告等所有地の配置は別紙添附第一図面表示の通りである)に対する仮換地として、別紙添附第二書面の「大館都市計画桂城土地区劃整理による換地予定地指定の件」と題する書面を以て、同書面に表示の如く、仮地番<4>の部分を指定し、原告寅五郎は、その頃その通知書を受領した。
二、しかしながら、右仮換地指定処分には、次のような違法がある。
(一) 元来土地区劃整理法による仮換地(大館都市計画桂城土地区劃整理施行規定では換地予定地)の指定は、土地所有者各別になすべきところ、被告の原告等に対する右仮換地の指定は、原告等が前記の如く各別に土地を所有していたにも拘らず、原告等各別に指定せず、前記仮地番<4>の部分を一括して原告両名に対する仮換地として指定したのは違法である。
被告は右一括指定が原告等の希望に基き、原告等の諒解の下になされたと主張するが斯様な事実はない。乙三号証の二には右主張にそう記載があるけれども、同号証は大館市の吏員山本与之亟が勝手に書いたもので、原告文雄は、単に両者の換地は隣接して指定せられたい旨の依頼をしたに過ぎない。
(二) 又、原告等に対して指定された前記仮換地が、近隣者に対する仮換地に比較して、著しく不利不公平でこの点でも違法である。
すなわち原告等が従前所有していた土地は、別紙第一図面表示の如く隣接した一団地を形成して居り、これを合わせれば、表道路に面した間口は八間半、奥行二六間の形を呈していたところ、前示仮換地処分では、表道路に面した間口は七間六分、奥行三〇間、底幅六間二分の尻絞りの梯形をなし、宅地としての利用価値は、従前に比して著しい減少を来たしている。元来原告文雄所有の六番の一は別紙第一図面表示のとおり狭長な土地であるため、本件区劃整理に際して、原告等は、特に、その幅員の維持について重大な関心を有していたものであつて、前記山本に対しても従前の間口は八間五分であるので、奥行を多少削られることは止むを得ないが、間口を削られることは困るから絶対にこれを維持して貰いたい旨申し入れたのである。しかるに山本は、右申し入れを無視して表間口を七間半、裏間口を六間として大巾に横幅を削り取り、奥行は逆に従前の二六間を三〇間余に延長し、いやが上にも細長さを増した。これは、本件区劃整理施行細則第四条の劃地の標準とも著しい懸隔を有し、且つ原告等にとり、その利用価値を著しく減少する仮換地の指定である。土地区劃整理のための仮換地の指定にあたつては、その指定をなす者は、土地の形状、位置、広狭、地価等土地自体の具備する具体的条件を尊重して仮換地の指定をなすべき義務があるのに、本件区劃整理においては単に減歩率にのみ重点をおき、右の具体的条件を無視してその指定をしたため原告らにとり極めて不利な処分である。しかも近隣者に対する仮換地は、表道路に面した間口が、夫々従来のそれに等しいか或は従来のものと比較にならぬ程増大しているため、宅地としての利用価値も亦著しく増大している。これを数字をもつて表わせば、次表の通りである。
土地所有者氏名
従来表道路に面した間口
換地予定地による同上間口
地積減歩率
権利地積
換地予定地積
不足地積
不足地積の権利地積に対する比率
原告両名
間
八、五
間
七、六
%
七
坪
二一九、二五
坪
二〇八、四七
坪
一〇、七八
%
四、九一
松岡三郎
五、二
五、〇
同
四八、三六
四八、〇〇
〇、三六
〇、七四
関谷ジユン
五、〇
三、〇
七、五
同
一二〇、九〇
一一七、〇五
三、八五
三、一八
太田清蔵
〇
六、七
同
八〇、九一
七九、九二
〇、九九
一、〇九
小野地直吉
六、五
二一、〇
同
一〇七、八八
一〇二、二六
五、六二
五、二〇
右不足地積だけを比較すれば、訴外小野地直吉分が、原告両名分より若干上廻つていて、最も不利な立場にある如く見受けられるが、しかしながら同訴外人に対する仮換地は、別紙第二書面の図示するように角地となつてて、道路に面した部分が、従前のそれに比較して三倍以上も増大している故、原告両名に比し、有利とは云い得ても、決して不利であるということはできない、訴外関谷ジユンに対して西側表道路に面した間口七間半の宅地の外に北側表道路に面した間口三間の飛地を仮換地として指定した。又他の三名と比較しても、原告等は間口の点においても、権利地積に対する不足地積の割合においても、著しく不利なものとなつている。このような不公平な指定処分がなされたのは、次のような事情に因るものである。
昭和二八年大館市大火後の都市計画に際し、他地区においては、土地区劃整理委員会が、関係土地所有者の集合を求め、その意見を徴して協議し利害を調整した上で市当局の諮問に応え、もつて公平な配分案を作成したが、原告等居住地区においては、右のような協議がなく、専ら大館市土木課の区劃整理関係者の肆意によつて配分が決定されたためである。殊に関谷ジユンに対する飛地の指定はその表向きの理由は、旧関谷宅地の表道路沿いの部分に訴外太田清蔵が借地して家屋を所有していたので、同人の右借地権を認めるためとされているが、同人の右借地権を認めるためとされているが、同人は別地区である片町五番の三と五番の一の所有宅地について西側表道路に面した仮換地を指定されていて、関谷に対する右借地権は放棄しているので理由がない。そこで考えられることは、関谷ジユンの娘婿で当時大館市商工会議所の事務局長であつた石垣某が、同会議所の罹災後暫時市役所内に事務所を間借していたので、その間に同人が尽力して関谷のため前記飛地が与えられたのが真相であると思料される。しかし、関谷の相続人は現在北海道の松炭鉱の病院長をしていて近い将来大館市に帰来する模様はなく、仮に帰つたとしても、間口三間の右飛地に医院を建設できるものではなく、結局関谷方では右飛地を必要とする事情はない。結局前記石垣某が後日他に有利に転売する予定で温存するに過ぎず、現在空閑地(畑)となつているものである。この部分を調整すれば、訴外松岡三郎及び原告等の仮換地の間口は従前のものに近くなるよう増加させることができる筈である。
三、よつて原告等は、被告の原告等に対する違法な仮換地指定処分の取消を求めるため本訴に及んだ、と述べた。
(証拠省略)
被告訴訟代理人は、原告等の請求はこれを棄却する、訴訟費用は原告等の負担とする旨の判決を求め、請求の原因に対する答弁並びに主張として、
原告等主張の請求原因事実中一の事実、二の(一)のうち被告が原告等に対し仮換地として原告主張の土地をその主張の如く一括して指定した事実、及び二の(二)のうち原告等の従前所有していた土地の形状並びに原告等に指定した仮換地の形状がいずれも原告主張の通りである事実は認めるが、その余の事実は争う。被告が、原告等に対しその主張の仮換地を、その主張の如く一括して指定したのは、原告等の希望に基き、且つ原告等の諒解のもとになしたもので何等違法の点はない。原告等に指定された仮換地が原告等の従前の所有地に比して著しくその利用価値の減少を来たしたものとは認められないし、原告等に対する指定が近隣地所有者に対する仮換地の指定に比して著しく不公平なものであるということも認められない。故に原告等の請求は理由がなく、失当として棄却さるべきであると述べた。
(証拠省略)
理由
被告が都市計画法に基き大館都市計画桂城土地区劃整理(以下本件区劃整理という。)を施行したこと、本件区劃整理地区内に、原告寅五郎が、大館市字片町五番の五畑二〇歩、同町五番の六畑一二歩、同町五番の一〇宅地一六坪七合六勺、同町五番の一一宅地一一坪を、原告文雄が同町五番の四宅地二四坪、同町六番の一宅地一五二坪を夫々所有していること、右原告等所有地の配置が、別紙添附第一図面表示の通りであること、被告が、本件区劃整理施行のため、昭和二八年七月七日附別紙添附第二書面に表示の如く、仮地番<4>の部分を原告両名に対し前示各土地に対する仮換地として一括指定し、原告寅五郎に対しその頃、その旨の通知をしたこと以上の事実は当事者間に争いがない。
一、そこで先ず、原告等に対する仮換地一括指定の点につき審按する。
都市計画における換地処分は合筆しない限り従前の土地に対し各筆毎にすべく、しかも合筆は所有者を同じくする土地についてのみすべきものである(成立に争いのない乙一号証大館都市計画桂城土地区劃整理施行規程第一八条参照)を原則とするものであつて、この原則は仮換地指定にも同様であるべきものである。
ところで本件における原告らの従前の土地及び仮換地指定の土地の大部分は昭和二八年四月二九日の大火に罹災し更地となつた土地であることは弁論の趣旨に徴し明かであり、且つ原告らの従前の土地は前示のように原告ら各自の単独所有であつて共有地でないのであるから、合筆従つて一括指定をすることはできないものである。そうすると前示のように、被告が原告ら両名の前示土地につき原告ら両名に各別に指定することなく一括指定した右仮換地指定処分は違法である。(なお原告文雄に対しては本件仮換地指定の通知をしていないことが原告本人越山文雄の供述により明かであるからこの点においても違法である)
被告は本件仮換地一括指定は、原告等の希望に基き且つ原告等の諒解のもとになしたもので何等違法の点はないと主張するが、右主張の趣旨に添う記載のある乙三号証、証人樋口文雄、同山本与之亟、同島田光幹、同白根英の右主張に添う証言部分は当裁判所措信出来ない。却つて、原告本人文雄の供述によれば、昭和二八年五月下旬頃原告文雄が大館市役所において、土木係長訴外山本与之亟に対し直接口頭で原告らの従前の土地に対する仮換地の指定にあたつては従前の土地と同様隣接するように指定して貰いたい旨要望したにとどまり一括指定を希望したものでないことが認められるから、被告の右主張は理由がない。
二、次に本件仮換地は原告らに著しく不利不公平な処分であるかどうかの点につき審按する。
先ず、原告ら従前の土地との対比において利、不利の点を考えて見るに原告らの従前の土地が別紙第一図面表示の如き形状で相隣接していたこと、被告が原告等に対しなした本件仮換地指定が別紙第二書面の図示する如く(<4>)細長い尻絞りの梯形であることは、当事者間に争いがない。しかして、証人野口民治郎の証言原告本人越山文男、越山寅五郎(一部)の供述及び検証の結果によれば、原告らに対する本件仮換地は、ほゞ原告ら従前の土地の上に指定されたものであるが、原告らの従前の土地は北側のみ道路に面し、その合わせたものの道路に面する間口が八間半奥行が二六間であること、本件仮換地指定地の道路に面する間口(北側)が七間三尺、後間口が六間一尺六寸八分、奥行は、東側奥行が三〇間四尺八分、西側奥行が三〇間二尺八寸二分の尻絞り梯形であること以上の事実を認めることができる。右認定に反する証人桜庭末吉及び原告本人越山寅五郎の各供述部分は信用しない。而して、前示採用の証人野口民治郎原告本人両名の供述及び検証の結果によれば、原告らの従前の土地は全地域がほゞ平らで高低なく乾地であつたのが、本件仮換地指定地は道路に面する間口を約一間減ぜられて前示の様に細長い尻絞りの梯形となり、しかも裏間口の部分約三〇坪は表間口部分(従前の土地の部分)に比し二尺程低くて湿気が甚だしく現状のままでは住宅地として甚だ不健康地であるばかりでなく、前示の様に細長い尻絞りの地形で表間口の部分が道路に面する外他の三面は他の個人に仮換地指定されたため、表間口からの通路を開設しない限り裏側の宅地としての利用価値は殆んどなく、又若し右の通路を開設するとすれば、表間口の宅地としての利用地域は著しく減ぜられる状況であることが認められる。従つて本件仮換地指定が従前の土地に比し原告らに著しく不利であること明かである。
次に他の者らと対比し原告らの利、不利の点を検討してみることにする。成立並びに原本の存在につき争いのない甲一号証、証人野口民治郎、山本与之亟(一部)の各証言及び検証の結果並びに弁論の全趣旨を綜合すると本件区劃整理地区内の土地所有者の内昭和二十八年四月二九日の大火に罹災した者及び同人らの従前の土地の地積これに対する仮換地指定の地積、右両者の間口、減歩率等は次に掲げる表のとおりであること
土地所者有氏名
従来表道路に面した間口「北、西」は道路に面する方位
仮換地による同上間口( )の数字は仮地番北、西同上
権利地積(従前の土地)の地積
仮換地の地積
不足地積
不足地積の権利地積に対する比率
原告両名
間
北 八、五
間
(4)北七、六
坪
二一九、二五
坪
二〇八、四七
坪
一〇、七八
%
四、九一
松岡三郎
北 五、二
(5)北五、〇
四八、三六
四八、〇〇
〇、三六
〇、七四
関谷ジユン
北 五、〇
(6)北三、〇
(8)西七、五
一二〇、九〇
一一七、〇五
三、八五
三、一八
太田清蔵
なし
(9)六、七
八〇、九一
七九、九二
〇、九九
一、〇九
小野地直吉
北 六、五
北三、五
(7)
西一七、五
一〇七、八八
一〇二、二六
五、六二
五、二〇
本件区劃整理地区の北側(原告らが仮換地指定を受けた土地の北側)は片倉線道路が拡張改修され、西側は新大橋線道路が新に開設されて右片倉線道路側は商店街官庁街となつていること及び右の者らに対する仮換地指定が別紙第二書面表示の図示するとおりであること明かである。以上の事実によると訴外小野地直吉は原告らより減歩率大であるけれども右の様に商店街の角地で利用価値大であり(原告ら以外の者より不利であるかどうかはさておく)又他の者らは原告らに比し減歩率も少なく間口(道路に面する部分)と奥行がほゞ権衡を得て、宅地としての利用価値は十全に近く、しかも訴外太田清蔵は別紙第一図面表示の様な袋地を右の様な仮換地指定を受け、又訴外関谷ジユンは北側と西側の二ケ所に仮換地指定を受けているのであるから原告らが前認定の様な地域の仮換地指定を受けたのは他の者に比し著しく不利であるというべきである。
そこで原告らに対する仮換地指定が不公平であるかどうかの点を検討して見るに、右の様な土地配分状況(別紙第二書面表示の図示状況)から見ると他の一部の者らに対する土地配分を工夫することにより、他の者らに対する宅地の利用価値をさして減少することなく、原告らの宅地の利用価値を大ならしめる配分が可能であること明かであるから、原告らに対する前示仮換地指定は他の者に比して著しく不公平で宅地の利用増進を目的とする都市計画の目的にも反する違法な処分であるといわなければならない。
以上のとおりであるから、いずれにしても、被告の原告らに対してした前示仮換地指定処分は違法であつて、その取消を求める原告等の請求は理由があるから、これを正当として認容することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 小嶋弥作 長井澄 木村輝武)
(別紙省略)