秋田地方裁判所 昭和41年(行ウ)15号 判決 1971年9月27日
秋田市中通三丁目四番三六号
原告
秋田勤労者音楽協議会
右代表者委員長
川辺和雄
右訴訟代理人弁護士
金野繁
同
金野和子
秋田市中通五丁目五番二号
被告
秋田南税務署長
小丸嘉清
右指定代理人
伊藤俊平
同
後藤真治
同
家藤信正
同
須田勝寿
同
福田隆映
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一、当事者の求めた裁判
一、原告
1. 被告が原告に対してなした別表一記載の処分はいずれもこれを取消す。
2. 訴訟費用は被告の負担とする。
二、被告
主文同旨。
第二、当事者双方の主張
一、請求原因
1. 原告は、音楽を愛好する勤労者を中心とした一般市民、学生などが、原則として会員三名以上のサークルを単位として構成した自主的組織であつて、働く者の豊かな文化的向上をはかるため、会員相互の自主的活動を通じ、いわゆる興行主の手を排して会員自らの手で、健康で文化的な音楽や舞踊を企画立案し、経費を持ち寄り安い費用でこれらを鑑賞すると共に地域、職場等における音楽活動に積極的に協力し、もつて日本文化の創造的発展に寄与することを目的とするものである。
そして、右の目的を達成するため、定期的な音楽会の開催(いわゆる例会活動)、レコード・コンサート・音楽講座、研究会、批評会、地域での音楽家民主団体との提携機関紙、ニユースの発行等多様な活動を行つている。
2. ところが、被告は原告が別表二記載の日時、場所で同表記載の内容で開催した各例会活動に対し、別表一記載のとおり入場税、無申告加算税の賦課処分(以下単に本件課税処分という。)をした。
3. しかしながら、被告の右処分は、以下述べるように入場税法の解釈適用を誤つた違法な処分である。すなわち、
(1) 原告の組織原則は、サークル活動を基礎にした民主的運営であり、原告の組織と活動は、これを構成するサークルとその活動の総体以外の何ものでもなく、従つて、原告は、サークル内の会員相互の契約関係が活動の基礎となつている組合的要素の非常に強い団体である。すなわち、会員は一定のサークルに加わつて労音活動に参加すること、入会はサークル代表者を通じて、サークルがない場合は原則としてサークルを結成したうえで申込むことと規約に定められており、全会員の約一割にも満たない個人会員の存在はサークルが基礎であるという本質には全く影響がない。
そして、原告は、サークル代議員によつて構成される総会、総会で選出される運営委員会、運営委員会で互選される常任運営委員会、サークル代表者によつて構成されるサークル代表者会議等の機関を有し、会員の意思はサークル活動の中で集約され、サークルの代表者や委員を通じて、或いは会員の委任によるアンケート調査によつて右各機関に反映され、労音の活動全般が企画立案され、右機関および会員各自の手で実行に移される。
例会は全サークルの合同の活動にすぎず、本質的には各サークルにおいて行われている小例会ともいうべき音楽鑑賞等の活動と異なるところはなく、例会の準備、運営は輪番でサークル会員によつて行われ、会員が例会に出演することもあり、また、原告の役員もサークルの一会員であり無報酬で会費を支払つて活動しているのであるから、例会は会員の共同の企画運営による対内活動であるというべく、原告と会員との間には対立した取引関係はない。従つて、原告は入場税法三条にいう「主催者」ではなく、例会は同法第二条一項にいう「催物」に該当しない。
(2) 仮に原告が人格なき社団であるとしても、入場税法上の主催者には人格なき社団は含まれず、原告は入場税法上の納税義務者ではない。
すなわち、憲法三〇条、八四条に定める租税法律主義は厳格に解されなければならないから、原則として権利義務の主体となり得ない人格なき社団に納税義務を認めるためには、その旨の明文規定を要するところ、入場税法三条の文言自体からは人格なき社団を含むか否かが明らかでない以上、人格なき社団は納税義務者に含まれないと解すべきである。これは、同法の納税義務者に関する基本法条たる同法一条ないし三条の補充規定たる同法二三条、二五条ないし二八条からも明らかである。
なお、被告は、同法八条一項免税規定の別表上欄の社会教育法一〇条の社会教育団体には、人格なき社団も含む旨主張するが、入場税の納税義務者に関する解釈は、前記各基本法条に基づいて人格なき社団は含まないと解すべきである以上、右別表掲記の社会教育団体とは、そのうちの権利能力を有するものに限られていると解すべきである。社会教育法は、団体の利益のために人格なき社団をも対象に含めているのであり、入場税法とは全く立法趣旨が異なることからも右の法理は明らかである。また間説税の分野において明文の規定を必要としないということは、租税法律主義並びに人格なき社団の法的取扱の原則からして理由がない。
さらに、法令上の用語として、自然人、法人を通じ、法律上の人格を有するものの単数または複数を指称する場合には「者」を用い、人格なき社団等が含まれる場合には「もの」を用いるのが原則であることは公知の事実であり、これも原告の前記主張を裏付けるものである。
(3) 会費は入場税法にいう入場料金に該当しない。すなわち、会費は、被告主張のように例会を唯一の契機として領収される入場の対価ではなく、会員の資格を取得し、例会を含めた原告の諸活動に参加するために運動の経費を分担し合つている性格のものである。例会は、原告の活動の重要ではあるが一部分にすぎず、従つて、会費は例会のみに支出されるものではなく、機関紙発行、レコード・コンサート、レクリエーシヨン、学習会等原告の諸々の活動に費消されているのである。
また、会員たる資格は、単に入会金と会費を支払えば取得できるというものではなく、サークル等で承認されてはじめて取得できるのであり、かつ、原告の目的と規約を承認することが前提となつているのである。従つて、被告主張のように、会員資格の得喪が単に会費の納入の有無にかかつているわけではなく、会員として原告の諸活動に参加する意思の有無が重要なのであり、会費の納入が一ケ月以上延滞しても、退会の意思を表明しない場合は、後日納入されることを前提として会員資格を認めているし、また、その月の例会に参加しない会員も会費を納入している。従つて、会員数が原告の活動如何によつて増減することはあつても、被告主張のように例会の内容によつて加入脱退がくり返されているということはない。
さらに、会員は、労音活動をより発展させるための活動全般に参加する義務を負うのであり、例会そのものだけに責任を負うものではない。
また、整理券は、被告主張のような一般前売券とは異なり、これを当日持参しなくとも、サークル所属の会員であると判明すれば入場を拒絶されないのである。
以上のとおり、会費は入場の対価ではないが、このことは税務当局自身昭和三八年一二月以前は、労音に対し入場税法七条により経費課税を課していたことによつても示され、経費課税の当否は別として、被告が会費の全額について入場の対価性を認めたことは明らかに誤りである。
4. そこで原告は被告に対し、本件課税処分につき昭和四一年一月二〇日異議申立をしたが、被告は同年四月一三日右申立を棄却した。次いで、原告は、昭和四一年五月一一日仙台国税局長に対して審査請求をしたところ、同局長は審査請求を棄却する裁決をなして同年七月三〇日付で通知をなし、右通知は同年八月一日原告に到達した。
5. しかしながら、本件課税処分は前記のとおり入場税法の適用を誤り違法であるので、その取消を求める。
二、請求原因に対する被告の認否
1. 第1項中、原告がそのいわゆる例会活動、機関紙の発行をしていることおよび原告の目的についてその規約にうたわれている範囲でこれを認める。
2. 第2項は認める。
3. 第3項は争う。
4. 第4項は認める。
三、被告の主張
1. 原告は、音楽愛好者らを構成員とし、「働らくもののゆたかな文化向上をはかるよめ、、、、、会員の希望する音楽等の上演および地域、職場等における音楽活動に積極的に協力し、働くものの文化をうち立てるとともに、日本文化の創造的発展に寄与する」等を目的として結成され、規約に基づき、議決機関として総会および運営委員会、執行機関として常任運営委員会を有し、委員長を代表者と定め、事務局を設置するところの人格なき社団であり、事業として音楽会、批評会、音楽講座等の開催、機関紙、ニユース等の発行とその他規約に定める目的を達成するのに必要な一切の活動を行うことと規約にうたつているが、その事業のうち重要なものは音楽会(例会活動と称する)である。原告の総会には通常総会と臨時総会とがあり、出席代議員の過半数により議決することとされ、運動方針の決定等を行い、運営委員会がその運営方針を決定し、常任運営委員会がこれらを執行することとされている。例会の企画は、総会において決定された運動方針に基づき、運営委員会、常任運営委員会で検討され、漸次具体化して上演の運びに至るのであるが、上演種目の決定については、会員から希望種目のアンケートや過去の実施催物の批評等を募りいわゆる市場調査をして観客たる会員の動向を把握することに努めているが、それは企画の参考に資するためのものであつて、それに拘束されるわけではなく、原告が出演者の都合、会場の予約の能否、他の労音の例会企画との調整その他一切の事情を考慮して催物を決定実施するのである。例会が企画されると、原告は、その名において出演者と交渉して出演契約の締結、会場の借受け、機関紙「あきた労音」、「労音ニユース」その他の印刷物の発行、ポスターの掲示等の例会の宣伝、会費の徴収、整理券の交付等の準備活動をし、それに伴う出演料、会場費、印刷代その他の費用は原告が負担する。そして、原告は会員に例会を鑑賞させるのであるが、会費を納入した会員に対し整理券等を交付し、その所持人のみ入場を許し、その持参なき者は会員といえども入場を拒否している。
会員は、会費を納入すればこれを唯一の契機として、原告から整理券等の交付を受けて例会を鑑賞することができる。(ただし、昭和四一年一一月頃から整理券を廃止し、会員納付済の会員証を提示すれば入場できることとされた)そして、会員資格の得喪は専ら会費の納入の有無にかかつており、入会 退会が自由である。
すなわち、例会の鑑賞を希望する者は誰でも所定の入会金と会費を納めて入会し、当該例会を鑑賞することができる。そして、会費を一ケ月以上滞納すれば退会とされるので、ある月の例会の鑑賞を希望しないときは会費を納入せす退会することができるが、翌月の例会に入場するためには、改めて入会金と会費とを納めなければならない。会員数は、昭和三九年九月頃には約九〇〇名、昭和四一年四月頃は約一、二〇〇名、同年六月頃は約六〇〇名と変動し、例会の内容如何によつて会員の加入脱退がくり返されているようである。
また、会員数が、職場、学校等を基準にして三人以上になると一単位としてサークルを形成し、この場合、会員が当該例会の鑑賞を希望するときは、サークル代表者に申出て、所定の会費を納入することとなるが、これは、原告が一人一人の会員と連絡(会費の徴収、催物の種目の伝達入場券等)することの繁雑さを軽減し、会員の固定、増加をはかるための便宜に出たものにすぎず、職場、地域等のの基準によるサークルを形成しなくとも所定の入会金と会費を原告に支払えが個人会員として例会に入場することができる。
2. 右のとおり、原告は社会的実在としては、その構成員たる個々の会員とは別個の存在である団体として活動し、例会を催しているのであつて、会員は、ただ会費を納入して整理券等の交付を受け、上演される例会を鑑賞するにすぎない。従つて、例会を主催する主体は、とりもなおさず、右会費を領収した原告自身であり、会員は単なる観客にすぎず、例会を共同主催するものではない。
そして、例会は多数の入場者たる会員に見せまたは聞かせるものであり、入場税法二条一項は観客が特定人であるか否かを問わないから、例会は同条項所定の「催物」に該当する。また、会員は、会費を支払わなければ整理券等の交付を受けることができず、従つて、例会に入場することも許されないが、会費さえ納入すれば、これを唯一の契機として整理券等の交付を受け、例会を鑑賞することができるのであるから、当該会費は、入場に対する対価であり、入場税法二条三項所定の「入場料金」にあたる。
以上のとおり、原告は例会という催物を主催する入場税法上の主催者であり、入場者たる会員から会費という名の入場料金を領収しており、入場税法所定の納税義務者である。
3. 原告は別表二記載のとおり例会を主催しているにもかかわらず、申告および納税を行わず、また、税務署の調査にも応じなかつたので、被告は原告に対し、別表一記載のとおり、国税通則法二五条により調査確認し得た限度で入場税を決定し、同法六六条一項一号により無申告加算税の賦課決定を行い、本件課税処分がなされるに至つたのである。
4. 原告は、入場税法の予定する納税義務者は個人および法人に限られ、原告には納税義務がない旨主張するが、入場税法三条が納税義務者を経営者または主催者と定め、これらの者が同法二条三項にいう入場料金を同法一条の興行場等への入場者から領収することをもつて課税要件とし、また、入場税がいわゆる間接税の一種として、興行場への入場につき、その誤楽的消費支出に担税力があるものと認めて入場料金たる経済的負担に対して課せられるものであり、納税義務者が、入場者から右課税対象となる入場料金を領収する者として規則されていることから、社会生活上の統一的活動体として、その名において、実際上「臨時に興行場等を設け、または興行場等をその経営者もしくは所有者から借り受けて催物を主催」し、入場者から入場料金を領収することができるものであれば、入場税法上の「主催者」に該当し、人格なき社団も当然これに含まれ得るのであるから、原告も右の主催者に該当する。納税義務者として法人、個人と人格性を明記し、これを基礎にして条文を構成している所得税法、法人税法等の直接税法に定められているような人格なき社団も納税義務者に含む旨の特別規定がないからといつて、入場税法が人格なき社団を納税義務者から除外していると解すべきではない。また、同法八条所定の免税興行に関し、同法別表上欄第四号所定の社会教育法一〇条の社会教育団体は明文で法人格の有無を問わない旨規定されており、さらに、右別表第一号所定の団体は通常法人格を有しないものであることからも入場税法は人格なき社団をも納税義務者として規律していることが明らかである。
原告は、入場税法二三条、二五条ないし二八条を根拠に納税義務者は個人および法人に限ると解すべきである旨主張するが、同法二三条は、期限内の納税申告、開廃業等の申告および記帳の各義務の承継規定であり、これは人格なき社団を含むすべての者の納税義務の承継について定める国税通則法五条ないし七条、一七条ないし一九条とは別に、特に、入場税法中に規定する納税義務者に課せられた多数の義務のうち、比較的長期にわたつて継続的に興行を行い、承継事例がありうる個人一法人のなすべき申告、記帳等の義務についてのみ限定的に規定したものであり、また、入場税法二五条ないし二八条の罰則規定は、立法時における課税権確保の必要性に関する政策的考慮から限定的に規定したものであるから、これらの規定を根拠に入場税法が人格なき社団の納税義務を否定したものと解することはできない。
原告は、会員たる資格はサークル等で承認されてはじめて取得するものであつて、一定の金額を納入すれば一定の音楽会場等に入場できるものとは異なり、さらに、会費は例会活動のみに使用されるものではないから、会費は入場の対価たる入場料金ではない旨主張する。しかし、例会の経費が会費によつてまかなわれていることは原告の認めるところであるのみならず、原告は専ら例会を唯一の契機として会費を領収し、或いは入会の勧誘を行い、個人でも入会金と会費の納入をもつて容易に入会できるのであり、会員は例会毎にその会費を全額支払うことによつてのみ整理券等の交付を受け、それによつてのみ入場できるのであるから、会費はまさに入場の対価である。原告が例会以外の活動に会費のうちから支出しているとしても、会費を支払うことが例会鑑賞のため必要であるという対価関係がある以上、その金額が入場料金にあたることには変りがない。また、原告が例会以外の諸活動を行う場合はその参加者から毎月の会費とは別にそれぞれ内容、規模に応じた参加費を徴しており参加費を徴収しない活動は経済的価値がないものであるうえ、これらは、「良い音楽を安く多くの人に」というスローガンに基づき、会員の拡大を重要目的として行われ、会員の一部が参加するにすぎず、会員以外の者も自由に参加できるのであつて、つまるところ、原告の中心的活動である例会を成功させるための付随的活動というべきであるから、仮に会費の一部を支出している例会以外の活動があるとしても、それは例会費の余剰を充てているのにすぎない。
原告は、会費納入を延滞しても会員と認め、例会に参加しない会員も会費を納入しているから、会費は入場料にあたらない旨主張するが、会費納入の延滞の事実があつたとしても、結局会費全額を支払わない限り例会を鑑賞できないことに変りはないのであるから、後納にかかる会費も亦入場料金にあたるというべきであり、また、会費を支払つたが勤務その他の都合により偶々例会に参加できなかつたとしても、一般興行における前売入場所持者の入場棄権と異ならないから、会費の入場料金性が損われるものではない。
会費と引換えに交付される整理券等は、家族、友人、知人等に譲渡することもできるのであつて、このことは、会員以外の者も例会を鑑賞していることからも明らかである。
なお、会員は、その月の例会の上演種目、内容等に応じて臨時会費、例会賦課金等に加算して決定されるため、殆んど毎月の会費金額が異なること、また、同一月中に二つ以上の例会が開催され、両方に参加しようとするときは、各例会について定められたそれぞれの会費を支払わなければ入場できないことからも、会費が入場と対価関係にあることが明らかである。
6. 原告は、例会は会員自らの手で運営する対内活動であり、会員と原告との間には対立関係がないから、入場税法上の「催物」にあたらない旨主張するが、人格なき社団たる原告そのものを一個の社会的存在として法律的に認識し、これに法律的地位を認める以上、事実上会員がその例会活動に手をかすか否か、対内活動であるか否かにかかわりなく原告は会員とは別個の法律的存在として会員とは主催者と観客という関係に立ち、例会は入場税法にいう催物にあたる。
以上詳論したとおり本件課税処分はすべて適法である。
第三証拠
一、原告
1. 甲第一ないし第三号証、第四号証の一、二、第五ないし第二三号証 第二四号証の一、二 第二五号証、第二六号証の一、二、第二七ないし第四六号証提出。
2. 証人阿部始、同熊谷しのぶ、同近藤玲子、同松浦君子、同山内武美、同高杉文雄、同瀬川裕子、同瀬川忠雄の各証言および原告代表者本人尋問の結果各援用。
3. 乙第一九号証、第四一、第四二号証、第五〇ないし第六五号証の各成立は不知、その余の乙号各証の成立は認める。
二、被告
1. 乙第一ないし第八号証、第九号証の一、二 第一〇ないし第一三号証、第一四号証の一、二、第一五号証の一、二第一六号証の一、二、第十七ないし第二一号証、第二二号証の一ないし三、第二三号証の一、二第二四号証の一ないし三第二五、第二六号証、第二七号証の一、二、第二八号証の一、二、第二九号証の一ないし四、第三〇ないし第三六号証、第三七号証の一ないし四、第三八ないし第四二号証、第四三号証の一ないし三、第四四号証の一、二、第四五ないし第六五号証、第六六号証の一、二、第六七、第六八号証、第六九号証の一ないし五、第七〇、第七一号証提出。
2. 証人須田昭の証言援用。
3. 甲第一四、第一五号証、第一八ないし第二〇号証、第二二、第二三号証、第二四号証の一、二、第二六号証の一、二、第二八ないし第三二号証、第四〇ないし第四四号証の各成立は不知、その余の甲号各証の成立は認める(甲第四五、第四六号証は原本の存在も認める)
理由
一、請求原因第2項および第4項の事実はいずれも当事者間に争いがない。
二、そこで以下本件課税処分の適法性について検討する。
1. 成立に争いのない甲第一号証、乙第一七、第一八号証、第二〇、第二一号証、第二二号証の二第四三号証の三、第四四号証の二、第四五号証、原告代表者本人尋問の結果および弁論の全趣旨を総合すると、原告は、働く者の豊かな文化的向上をはかるため、健康で文化的な音楽や舞踊を安い費用で鑑賞すると共に地域、職場等における音楽活動に積極的に協力し、もつて、日本文化の創造的発展に寄与すること等を目的として設立され、その目的達成のため定例音楽会(いわゆる例会)を中心として、レコード・コンサート、機関紙その他の印刷物の発行等の事業を行い、規約に基づき、議決機関として総会、運営委員会、執行機関として常任運営委員会、代表者として委員長、諮問機関としてサークル代表者会議を採し、事務局を設置する団体であり、会員の入会退会は自由で、その変動にかかわりなく存続し、議決機関の決定する団体意見に基づき執行機関がその業務を執行するものであるが法人格を有しないことが認められる。右によれば、原告は人格なき社団というべきである。
次に、前掲各証拠に、成立に争いのない甲第二、第三号証第六ないし第九号証、第一三号証、第二一号証、第三四号証第三五ないし第三八号証、乙第二二号証の一 第二三号証の一、二、第二四号証の一ないし三 第二七号証の一 第二八号証の一、第二九号証の一、第三〇ないし第三六号証、第三七号証の一ないし四、第三九、第四〇号証、第四三号証の一、二、第四四号証の一、第四六ないし第四八号証、第六七号証第六九号証の一ないし五、第七〇 第七一号証、証人須田昭の証言によつて被告主張の内容の写真と認められる乙第四一第四二号証、証人阿部始、同瀬川裕子、同瀬川忠雄、同須田昭の各証言および弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められ、他にこれを覆えすに足りる証拠はない。
すなわち、原告の活動の中心は、原則として毎月一回開催される例会であるが、それは前記意思決定機関によつて上演種目、内容等が決定され、前記執行機関がこれを実行に移し出演者との出演契約の締結および報酬の支払、会場の借受けおよび質料の支払、機関紙「あきた労音」、「労音ニユース」その他の印刷物の発行、ポスターの掲示による例会の宣伝等の例会の準備活動すべて原告の名義で行われ、その費用は原告が負担している。(もつとも、後記のとおり一部の会員が自主的に自弁で右準備活動に労力を提供することはある。)そして、例会に要する費用は会員から徴収する会費によつてまかなわれ、会員も右の趣旨を了承のうえ会費を支払つている。会員は、原則として三名以上の会員からなる一定のサークルに所属することとされ、入会もサークルの承認を得てサークル代表者を通じ、サークルがない場合はサークル結成したうえで申込むこととされているが、サークルに所属したい個人会員も認めているので、例会の鑑賞を希望する者は、入会金と会費を支払えば容易に入会でき反面一ケ月分以上の会費の不払により当然会員資格を失うこととされているので、当該例会の鑑賞を希望しない会員はその月の会費を納入しないことにより自由に脱会でき、従つて、会員数は例会の内容如何によつても変動する。また、会員は会費を納入すると原告から整理券の交付または会員証に納付済のスタンプを受け、右整理券または会員証を持参しなければ例会場へ入場できない。会費は、例会の上演種目や使用する会場等によつて定まる費用に応じて、臨時会費 例会賦課金等の名目で加算されて決定されるため、殆んど毎月の例会ごとにその金額が異なり、また、同一月中に二回の例会が開催されることがあるが、その場合には、例会ごとに会費が決定され、会員はそれぞれについて会費を支払わなければこれらを鑑賞することができない。以上の事実が認められる。
以上の事実によれば、原告は個々の会員とは別個独立の社会的存在を有する人格なき社団とし、その団体意思に従い執行機関によつて例会を準備し、多数の会員に鑑賞させているものであつて本件課税処分の対象たる例会は入場税法二条一項の催物に、原告は同条二項の主催者に該当するといわなければならない。そして、会費が例会の経費に充てられるものとして徴収され(もつとも、会費の一部が、別途支出されることもあるが、これがその対価性を左右するものでないことは後記する。)、その支払が例会への入場の条件であること、会員資格の得喪が、毎月の会費の支払の有無にかかつていることから、原告の領収する会費は会員資格の取得および存続の要件たる一面をもつと共に、他面において例会への入場の対価たる実質をもつものと認められるのであり、会費が右の実質をもつものである以上、同法二条三項にいう入場料金に該当するものと解するのが相当である。
2. しかるところ、原告は、人格なき社団は入場税法上の納税義務者に含まれていない旨主張する。なるほど入場税法には法人税法、所得税法のように人格なき社団を法人とみなす旨の明文規定は存しないが、入場税はいわゆる間接税の一種として興行場への入場について、その娯楽的消費支出に担税力があるものと認めて課税されるものであり、税の実質的負担は入場者に帰し、入場税法三条は、経営者または主催者が入場者から入場料金を領収することを もつて課税要件としているのであるから、右のように入場料金の領収がなされている限り、主催者の性質、人格にかかわりなく等しく課税することを予定したものということができ、従つて、人格なき社団といえども社会生活上の統一的動体として、自己の名において催物を主催し、前記のように入場者から入場料金を領収しているとみられる以上、入場税法上の「主催者」として納税義務を負うものといわなければならない。そして、このように入場税法が人格なき社団を納税義務者から除外する趣旨でない(換言すれば、同法がその前提として納税義務者たる人格なき社団を予定している。)ことは、同法八条一項の別表第一および第四号に免税興行の対象として明らかに人格なき社団を含む団体を掲記していることからも窺われる。
なお、入場税法は申告納税制度をとりながら、右のように人格なき社団に関し、直接明文の規定を欠いているのであり、立法論的には検討されるべきであろうが、しかし、同法の趣旨、同法の規定相互の関係から明らかに人格なき社団を納税義務者として予定していることが推知される以上、なお、租税法律主義の要請は充足しているというべきである。
さらに、また原告は同法二三条および二五条ないし二八条が人格なき社団を対象としないことを指摘するが、右各規定はいずれも徴税の実効を期するため設けられた規定であつて納税義務者の範囲を定めた規定ではないから、これを根拠に原告の納税義務を否定することも適当でない。
従つて、原告の前記主張は理由がない。
3. 次に原告は、例会は会員の共同の企画運営による対内的活動であり、原告と会員との間には対立した取引関係がないから、例会は催物に該当せず、原告は主催者ではない旨主張する。
そして、成立に争いのない甲第一、第一七、第二一、第二五、第二七、第三四および第三九号証、乙第二二号証の二、第二三号証の二、第二五、第二六号証、第二七号証の二、第二八号証の二、第二九号証の二、第三六号証、第四三号証の三、第四四号証の二、第四五号証、証人阿部始、同熊谷しのぶ、同近藤玲子、同瀬川裕子、同瀬川忠雄の各証言、原告代表者本人尋問の結果を総合すると、会員は原則としてサークルに所属するものとされ、現に大部分の会員はサークルに所属しサークル活動を基礎にした民主的運営のスローガンのもとに、種々のサークル活動が行われ、サークル代表者等を通じ、或いはアンケート等により各会員の意思をできるだけ原告の団体意思決定に反映されるべく努力が払われていることは認められるにしても、右事実は、前記のとおり原告が個々の会員とは別個独立の社会的存在として例会を主催するものであることと何ら矛盾するものではなく、原告が、その民主的運営を意図としていることを示すにすぎず、もちろん各会員が共同で直接例会を企画運営していることを裏付けるものではない。また、前記各証拠によれば原告の役員も一会員として無報酬で会費を支払つて活動しており、サークル会員が自主的に自弁で例会運営に労力を提供したり、例会に出演したりすることもあると認められるがこれらは例会の経費を安くすると共に、より多くの会員の参加を得るための一部会員による自発的な努力にほかならないと解されるから、例会が催物であり、原告が主催者であることに何ら消長を来すものではなく、原告の右主張も失当である。
4. さらに、原告は、会費は例会以外の原告の活動にも支出されるので、例会を唯一の契機として領収される入場の対価ではなく、会員の資格を取得し、例会を含めた原告の諸活動に参加するために運動の経費を分担し合つている性格のものである旨主張する。
なるほど、証人阿部始、同高杉文雄、同松浦君子、同瀬川裕子、同瀬川忠雄の各証言、原告代表者本人尋問の結果および弁論の全趣旨によばれ、原告は、例会以外に機関紙「あきた労音」、「労音ニユース」等の発行、レコード・コンサート、各種サークル活動への援助等に会費の一部を支出していること、会費の支払の猶予を認めることがあること、会員は例会に参加できない場合にも会費を納入することがあることが認められる。しかし、前記のとおり、原告の活動の中心は例会であり、右各証拠によるも、会費の大半は例会に充てられており、右の例会以外の活動への会費の支出は、いわば例会の付随的活動について会費の余剰分を充てているにすぎないことが窺われるから、会費が例会入場の対価であることを否定し得ず、また会費を納入した会員の例会不参加は一般の興行における前売券所持人の入場棄権と異るものとは認められないし、一部会員がその会員資格を維持するためにのみ会費を納入して例会に参加しなかつたとしても、全体として会費が入場の対価であることに消長を来さないものというべきであり、会費の支払猶予の事実も会費の対価性と何ら矛盾するものではない。従つて、原告の右主張も亦失当である。
5. 前記のとおり、原告が別表二記載の日時、場所で同表記載の内容の例会を開催したことは当事者間に争いないところ成立の争いのない乙第四九号証、証人須田昭の証言により真正に成立したものと認められ、第五〇ないし第六五号証および右証言によれば、原告は別表二記載の入場者から同表記載の会費(入場料金)を領収しているのに、原告は、その入場税額等を申告しなかつたことが認められ、他に右認定をを覆えすに足りる証拠はない。そうすると、原告は入場税法および国税通則法に基づき別表一記載の入場税および無申告加算税を納付すべき義務があるというべきであるから、被告の原告に対する本件課税処分はいずれも適法である。
三、よつて、原告の本訴請求はいずれも失当であるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して注文のとおり判決する。
(裁判長判官 篠原昭雄 裁判官 鈴木之夫 裁判官 多田元)
別表一
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別表二
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