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秋田地方裁判所 昭和53年(ワ)250号 判決 1980年11月11日

主文

被告らは各自原告に対し、金九七二万六三三一円及びこれに対する昭和五〇年一二月三日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告の被告らに対するその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを三分しその一を原告の負担とし、その余を被告らの連帯負担とする。

事実

第一当事者の申立て

一  請求の趣旨

被告らは各自原告に対し金一五八七万二八九〇円及びこれに対する昭和五〇年一二月三日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  事故の発生

被告高橋登は、昭和五〇年一二月一日午後一一時二五分ころ普通乗用自動車(埼五五ゆ八五八一号)を運転し、埼玉県川越市南台三丁目七番地の五先道路を走行中、右道路を歩行していた訴外亡三浦義見(以下「亡義見」という)に衝突させ、同人に対し頭蓋骨骨折、脳挫傷等の傷害を与え、右傷害により、翌二日午後四時四〇分ころ、同人を同市脇田本町二五の一九赤心堂病院で死亡するに至らしめた。

2  責任原因の

右事故は、被告高橋登が酩酊して前記自動車を運転していたため、進路前方を進行中の自転車を発見するのが遅れ、右自転車を間近かに発見し、あわててハンドルを左に切つた過失により、折柄同所を歩行中の亡義見に自車を衝突させたもので、被告の酩酊運転による前方注視義務違反の過失に基因するものであり、被告高橋正人は当時被告高橋登運転の自動車を所有し、自己のため運行の用に供していたものであるから、被告高橋登は不法行為者として民法七〇九条により、被告高橋正人は保有者として自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という)三条により、各自亡義見に対し本件事故によつて生じた損害を賠償する責任がある。

3  損害

(一) 治療費 三三万五五〇〇円

右は亡義見の死亡に至るまでに要した治療費である。

(二) 逸失利益 金二一八五万八三五〇円

亡義見は本件事故当時満三二歳(昭和一八年三月二一日生)の男子で、事故に遭わなかつたならば六七歳に達するまでの三五年間就労可能であるところ、昭和五〇年賃金センサス第一巻第一表によれば、企業規模計・産業計三〇歳ないし三四歳の小学・新中卒男子労働者の年収額は二一九万四九〇〇円であり、生活費控除率は右年収の五〇パーセントと認めるのを相当とするから、就労可能期間中における純収入の総額から、年五分の中間利息(ホフマン係数一九・九一七四)を控除し、事故時の現価を算出すると二一八五万八三五〇円となる。その算式は次のとおりである。

219万4,900×0.5×19.9174=2,185万8350

(三) 慰謝料 六〇〇万円

亡義見は前記事故により受傷し、その一七時間後に死亡するに至つたもので、亡義見の精神的損害に対する慰謝料は六〇〇万円が相当である。

4  損害の填補

被告らは治療費三三万五五〇〇円を支払つたほか、相続財産管理人は自賠責保険より一一九八万五四六〇円の給付を受けた。

5  よつて、原告は被告らに対し、各自一五八七万二八九〇円及びこれに対する亡義見の死亡の日の翌日である昭和五〇年一二月三日以降支払済みに至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否及び主張

(認否)

1 請求原因1、2項は認める。

2 同2項(一)は認め、(二)(三)は争う。

3 同4項は認める。

4 同5項は争う。

(主張)

1 原告主張の逸失利益請求権については、相続説に従えば相続人が存在して初めて発生するもので、相続人の存在しない本件においては逸失利益請求権の帰属者を欠き、扶養請求権侵害説に従えば扶養請求権者が固有の権利として被告らに請求すべき筋合であり、また慰謝料請求権についても、亡義見固有の慰謝料は原告にその行使が許されるとしても、原告の主張する請求金額は亡義見固有の慰謝料としては高額に過ぎる。

2 かりに逸失利益の請求が許されるとしても、亡義見は本件事故当時現実に稼働し給与を受けていたのであるから、逸失利益の算出にあたつては現実の収入を基礎とすべきであるところ、亡義見は昭和五〇年九月一八日訴外登洋瓦工業株式会社に日給で就職し、同年一一月二八日退職しており、その間の稼働日数は五一日間、欠席日数は一〇日間でその勤務状況は必ずしも芳しくなく、その稼働による収入は殆んど自己の生活費と飲食代に費消されていた。

三  抗弁

かりに原告の本訴請求が認められるときは、仮定的に次のとおり主張する。すなわち被告らは、示談金の内金として訴外嘉記治に対し二〇〇万円を弁済した。右金員の支払は亡義見の被つた損害の一部を填補するためのものであるから、右は原告主張の損害額の一部に充当されるべきである。

四  抗弁に対する認否

訴外嘉記治が被告らから二〇〇万円の支払を受けたことは認める。

五  再抗弁

訴外嘉記治は亡義見のため葬儀を行い、その費用として右受領金のうちから別紙葬儀費用一覧表記載のとおり合計九四万一六六〇円を支出した。

六  再抗弁に対する認否

右主張の事実は争う。

第三立証〔略〕

理由

一  請求原因第1、2項の事実は当事者間に争いがない。そこで以下本件事故により亡三浦義見の被つた損害について判断する。

1  亡義見の死亡に至るまでの治療費として三三万五五〇〇円を要したことは当事者間に争いがない。

2  ところで亡義見の逸失利益について、被告は亡義見に相続人の存在しないことを理由にその存在を争うので検討するに、成立の真正に争いのない甲第一ないし第三号証、第二五ないし第二七号証、第三〇ないし第三二号証、証人三浦嘉記治の証言により成立の真正を認める甲第一〇号証、右証人三浦嘉記治、同三浦チセの証言によれば亡義見は訴外三浦嘉市、同三浦テツ両名の長女訴外三浦カツエの子であるが、右カツエは精神病に罹患していたため、同女の実弟にあたる訴外三浦嘉記治(以下「嘉記治」という)、同三浦チセ夫妻の保護のもとに生活する間、婚姻外の子として昭和一八年三月二一日亡義見を出産し、昭和二三年三月九日に死亡したこと、右のような事情から、亡義見は出生後嘉記治夫婦により実子同様に養育され、昭和三三年三月秋田市立天王中学校を卒業したこと、カツエの子としては亡義見以外にはなく、亡義見は未婚で同人に推定相続人は存在しないが、嘉記治は秋田家庭裁判所に対し、利害関係人として相続財産管理人の選任申立てをなし、同裁判所は昭和五二年一一月一一日弁護士廣嶋清則を相続財産管理人に選任してその旨公告し、ついで、右管理人の申立により昭和五三年五月二五日相続人捜索の公告がなされたが、同年一二月一〇日の催告期間内に相続人の申出がなかつたので、嘉記治は昭和五四年二月二六日亡義見の特別縁故者として相続財産分与の申立をなしたこと、以上の事実が認められる。

右認定の事実によれば、亡義見の損害賠償請求債権は、亡義見の死亡と同時に法人格を有する原告亡義見相続財産に帰属するに至つたものとみるべく、相続財産管理人において亡義見の死亡による得べかりし利益の喪失を、その損害賠償請求債権額算定の基礎として主張することを不当とする事由は何ら存しないので、被告らの前記主張は採用し得ない。

3  そこで逸失利益の存否について検討する。

前掲甲第一、第一〇号証成立の真正に争いのない乙第七、第九号証、第一〇号証の一、二、証人佐藤孝の証言によれば、亡義見は昭和三三年三月中学校卒業後、嘉記治方の農作業に従事する傍ら、農閑期には出稼ぎに出て収入を得ていたが、昭和四五年四月東京都内のロツテ製菓株式会社に就職するため上京して以来、嘉記治の許を離れ単身関東方面に居住して生活し、昭和五〇年九月一八日以降同年一一月二八日までの間東京都練馬区関町二の八五六所在登洋瓦工業株式会社に製瓦工として稼働し、同会社から日給により九月分として三万七七〇五円(欠勤一日)、一〇月分として六万五八八〇円(欠勤一〇日)、一一月分として一〇万七〇〇〇円(無欠勤)の給与の支払を受けていたことが認められ、証人三浦嘉記治、同三浦チセの証言中右の認定に反する部分はたやすく措信し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

ところで、右認定にかかる短期間における稼働状況によつては未だ亡義見の逸失利益を認定することは困難であるが、前記認定の稼働状況と成立の真正に争いのない甲第九号証(賃金センサス昭和五〇年第一巻第一表の抜すい)によつて認められる企業規模計・産業計の小学・新中卒男子労働者中、三〇歳ないし三四歳の現金給与月額が一四万五七〇〇円であることに照らし、他に何らの資料の存しない本件においては、少くとも月平均一四万五七〇〇円程度の得べかりし利益の喪失があつたものと事実上推定するのを相当とし、生活費控除率は右収入の五〇パーセントと認めるのを相当とするから、新ホフマン方式により中間利息を控除し、就労可能期間である三五年間の逸失利益の本件事故時における現価を算出すると、次のとおり一七四一万一七九一円となる。

14万5,700×12×(1-0.5)×19.9174=1,741万1,791

4  亡義見固有の慰謝料は、本件事故の態様、年齢その他諸般の事情を斟酌し、六〇〇万円と認めるのを相当とする。

二  以上認定の損害額合計二三七四万七二九一円のうち、治療費三三万五五〇〇円については、被告らにおいてすでに支払済みであり、本件事故につき、相続財産管理人が自動車損害賠償責任保険から一一九八万五四六〇円の給付を受けていることは当事者間に争いがないから、残額は一一四二万六三三一円となる。

三  そこで被告らの抗弁について判断する。

嘉記治が被告らから、本件事故に関連し二〇〇万円の金員を受領していることは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨に照らし、右は亡義見の損害賠償請求債権の一部の弁済として授受されたものと推認するのを相当とするところ、原告は、嘉記治において右金員中より亡義見の葬儀費用として九四万一六六〇円を支出した旨主張するので検討するに、証人三浦嘉記治の証言及びこれによつて成立の真正を認める甲第一一ないし第一三号証、第二八、第二九号証によれば、被告らは嘉記治の承諾のもとに、東京都内で一〇一万四五四〇円を支出し、亡義見の遺体を火葬に付して葬儀を執り行つた後、嘉記治が遺骨を引取り、同人方の墓地に埋葬するに際し、同人は再度葬儀を執り行い、右葬儀に関連して別紙葬儀関係費用一覧表中番号1、2、3、4、5、7記載のとおり金員を支出していることが認められ(6の遺骨引取等交通費についてはこれを肯認するに足る証拠はない)、右葬儀関係費用中三〇万円の限度で必要かつ相当の支出と認めるから、同額を前記嘉記治の受領金二〇〇万円から控除した残額一七〇万円については亡義見の相続財産に帰属するものとみるべきである。

四  そうすると、原告の本訴請求は九七二万六三三一円及びこれに対する本件事故日以後の昭和五〇年一二月三日以降支払済みまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度でその理由があるから正当として認容し、その余を失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を仮執行の宣言は相当でないのでこれを却下し、主文のとおり判決する。

(裁判官 名越昭彦)

葬儀関係費用一覧表

<省略>

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