秋田地方裁判所 昭和53年(行ウ)9号 判決 1981年5月25日
原告 宮越富士之助
右訴訟代理人弁護士 廣嶋清則
被告 秋田県町村土地開発公社
右代表者理事 東海林金二
被告 沢井作蔵
右両名訴訟代理人弁護士 加藤堯
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 原告
1 阿仁町と被告秋田県町村土地開発公社間の昭和五〇年一〇月二九日付土地買収委託契約に基づく阿仁町の被告秋田県町村土地開発公社に対する別紙返済予定表記載のとおりの割賦金支払債務の存在しないことを確認する。
2 被告両名は、阿仁町に対し、各自金一、三五七万六、六七二円及びこれに対する昭和五五年一〇月一日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。
4 2項についての仮執行宣言
二 被告ら
(本案前の申立て)
1 本件訴えを却下する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
(本案についての答弁)
主文同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、肩書住所地に居住する阿仁町の住民である。
2 阿仁町長である被告沢井作蔵(以下「被告沢井」という)は、昭和五〇年一〇月二九日、被告秋田県町村土地開発公社(以下「被告公社」という)との間において左の内容の土地買収委託契約(以下「本件契約」という)を締結した。
(一) 阿仁町は、被告公社に対し、別紙目録記載の土地(以下「本件土地」という)を阿仁町水無部落から買収することを委託する。
(二) 阿仁町は、被告公社に対し、売買代金・利息・事務費などを別紙返済予定表記載のとおり一〇年の割賦で支払い、本件土地を引取る。
(三) 本件土地の所有権は、右(二)の金員全額の支払を完了した時に被告公社から阿仁町に移転するものとする。
3 しかし、本件契約当時、本件土地は、次のとおりいずれも阿仁町の所有する行政財産であった。
(一) かつて別紙目録一、二記載の土地は訴外斉藤繁蔵と同村岡国治の共有、同目録三記載の土地は訴外秋山虎男、同目録四記載の土地は訴外上杉利三郎、同目録五記載の土地は訴外中村鶴治、同目録六記載の土地は訴外米谷力也、同目録七、一一記載の土地は訴外福田新次郎、同目録八記載の土地は訴外庄司武治、同目録九、一〇記載の土地は訴外庄司泰三、同目録一二記載の土地は訴外大野俊蔵、同目録一三記載の土地は訴外加藤金次郎、同目録一四記載の土地は訴外春日留五郎、同目録一五記載の土地は訴外大野寅五郎、同目録一六記載の土地は訴外庄司欽四郎、同目録一七記載の土地は訴外伊藤利吉の各所有に属していたが、いずれも昭和二七年一〇月三一日強制譲渡により国の所有となり、同目録一八記載の土地は、かつて訴外片山亀治の所有であったが、昭和三三年三月三日相続により訴外片山隆一の所有となり、同目録一九記載の土地は、かつて訴外合名会社古河林業部が所有していたが、昭和三三年四月一〇日売払により訴外古河林業合資会社の所有となりその後昭和四二年七月一日会社合併により訴外古河林業株式会社の所有となり、同目録二〇記載の土地は、かつて訴外佐藤栄蔵の所有であった。
(二) 阿仁町は、昭和三三年四月一〇日、国から別紙目録一ないし一七記載の土地の売払を受け、昭和五〇年八月二〇日、同目録一八ないし二〇記載の土地を右各所有者から買受け、本件土地は、いずれも現在登記簿上阿仁町の所有名義になっている。
(三) 阿仁町は、昭和五〇年五月一七日、本件土地を町立小学校建設予定地として公共の用に供する旨の決定をした。従って、既に阿仁町の所有に属していた別紙目録一ないし一七記載の土地は、右決定の時点で行政財産となり、同目録一八ないし二〇記載の土地は、右決定後の昭和五〇年八月二〇日阿仁町がその所有権を取得することにより行政財産となった。
4 従って、本件契約は、阿仁町の行政財産である本件土地を売り払い又はこれに担保権を設定したもので地方自治法二三八条の四第一項に反し無効である。
5 しかるに被告沢井は、本件土地が阿仁町の行政財産に属することを知りながらこれを前記水無部落の所有として本件契約を締結し、昭和五五年九月三〇日までに本件契約に基づく割賦金の支払にあてるため阿仁町の公金から一、三五七万六、六七二円を支出し、また、被告公社は、本件土地が阿仁町の行政財産に属することを知りながら本件契約を締結して右金員を受領し、その結果、阿仁町は同額の損害を受けた。従って、被告沢井及び被告公社は、右阿仁町に対し、共同不法行為に基づく損害の賠償として、各自一、三五七万六、六七二円を支払う義務がある。
6 そこで原告は、昭和五二年一〇月三〇日及び昭和五三年四月一日阿仁町監査委員に対し、右違法行為の是正を求めて措置請求をしたが、それぞれ昭和五二年一一月一五日及び昭和五三年五月二五日付書面をもって、いずれも右措置請求は理由がない旨の通知を受けた。
7 よって、原告は、阿仁町に代位して、被告公社に対し、本件契約に基づく割賦金支払債務の不存在確認を、被告沢井及び被告公社各自に対し、共同不法行為に基づく損害賠償として金一、三五七万六、六七二円及びこれに対する弁済期の後である昭和五五年一〇月一日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める。
二 請求原因に対する被告らの認否及び主張
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2の事実は認める。
3 同3(一)の事実のうち、本件土地がかつて原告主張の私人又は会社の共有あるいは所有に属していたことは認め、その余の事実は否認する。同3(二)の事実のうち、本件土地が登記簿上阿仁町の所有名義になっていることは認め、その余の事実は否認する。同3(三)の事実は否認する。本件土地は、水無部落あるいは同部落自治会が昭和二六年一〇月ころ、原告主張のもとの共有者又は所有者であった私人又は会社から売買あるいは交換契約により取得したが、別紙目録一ないし一七記載の土地については、農地法等との関係から同部落への所有権移転登記ができなかったため、形式上、国がいったん強制買収したうえ阿仁町に売り払ったこととしてその旨の登記が経由され、また、同目録一八ないし二〇記載の土地については同部落の所有権取得後、その所有権移転登記未了のまま経過していたところ、昭和五〇年五月一七日に、阿仁町が右各土地を小学校建設用地として同部落から買収することを決定し、その代金につき債務負担行為の議決を経たため、本件契約を待たず、もとの所有者から阿仁町への直接の所有権移転登記がなされたものである。
4 同4の事実は否認する。
5 同5の事実のうち、被告沢井が原告主張の金額の公金を支出し、被告公社がそれを受領していることは認め、その余の事実は争う。町の執行機関である町長は議会に予算案を提出し、それが議決されれば、予算を執行する責任があるから、被告沢井が町長としてなした原告主張の公金の支出は法令に違反するものではなく、違法とはいえない。
6 同6の事実は認める。
三 被告らの主張に対する原告の反論
地方公共団体の長その他の職員による公金の支出は、一方において議会の議決に基づくことを要するとともに、他方法令に従わなければならないものであって、議会の議決があったからといって法令上違法な支出が適法となるものではない。
四 抗弁
仮に原告主張のとおりの経緯により本件土地が阿仁町の所有に帰属したとしても、水無部落は、昭和二六年一〇月以降本件土地を占有し、その占有の始め本件土地が自己の所有に属すると信じたことについて過失がなかったから、一〇年を経過した昭和三六年一〇月末日時効の完成により本件土地の所有権を取得したものであり、仮に過失があったとしても、二〇年を経過した昭和四六年一〇月末日時効の完成により本件土地の所有権を取得したので、本訴において右の時効を援用する。
五 抗弁に対する認否
抗弁は争う。
六 被告らの本案前の主張
本件訴えは、地方自治法二四二条の二の住民訴訟として提起されているものであるから、その訴えには同法二四二条の二第二項規定の出訴期間(三〇日)の制限があり、またそれに先立つ監査請求においても同法二四二条二項規定の監査請求期間(一年)の制限があるところ、本件訴えは、次のとおり右出訴期間及び監査請求期間を徒過しているから、不適法として却下されるべきである。
(一) 訴外亡田口久雄は、単独で昭和五一年八月二七日阿仁町監査委員に対し、本件契約に関し阿仁町長に対する措置請求(以下「第一次監査請求」という)をし、これを受けた阿仁町監査委員は、同年一〇月二五日付をもって右請求は理由がない旨の監査結果を右訴外人に通知した。
(二) ところが原告は、訴外亡田口外六名とともに右第一次監査請求後一年余を経過した昭和五二年一〇月三〇日右と同様の措置請求(以下「第二次監査請求」という)をしたので、阿仁町監査委員は、「既に昭和五一年一〇月二五日阿発監第七号をもってその監査結果を通知済みである」旨通知し、参考までに第一次監査結果の写しを送付した。
(三) ついで原告は、訴外亡田口とともに、昭和五三年四月一日(同年三月二九日作成日付の書面による)前同様の措置請求(以下「第三次監査請求」という)をしたが、右請求も理由がないとして排斥された。
(四) 以上のとおり、原告の第二次及び第三次監査請求は、訴外亡田口が単独でなした第一次監査請求と同様の内容であるから、本件訴えは、いずれも昭和五一年一〇月二五日付監査委員の監査結果から一年ないし二年五か月余も経過してから提起されたものであり、地方自治法二四二条の二第二項の出訴期間の制限に違反し、不適法である。
(五) 仮に第二次及び第三次監査請求が第一次監査請求とは別個であるとしても、右両請求は本件契約が締結された昭和五〇年一〇月二九日から二年以上も経過してなされたもので、同法二四二条二項に違反し、本件訴えは不適法である。
七 被告らの本案前の主張に対する原告の反論
第二次及び第三次監査請求は、行政財産たる本件土地の譲渡、土地買収委託契約に基づく支出負担行為及び右負担行為に基づく公金の支出等の一連の違法な行為によって阿仁町が損害を被ることを防止せんがために行ったものであって、地方自治法二四二条二項にいう「当該行為の終わった日」とは右公金支出の終了した日を指すものである。そして、右公金支出は昭和六〇年九月三〇日に終了する予定であるから、第二次及び第三次監査請求には期間制限の違反はない。
第三証拠《省略》
理由
一 被告らの本案前の主張についての判断
被告らは、本件訴えは、いずれも出訴期間を徒過しており、かつ、監査請求期間内の適法な監査請求の前置を欠くから不適法である旨主張する。
そこで判断するに、《証拠省略》によれば、阿仁町住民である訴外亡田口久雄は、昭和五一年八月二七日、阿仁町監査委員に対し、本件契約に基づく不当違法な債務負担、公金の支出を是正するための必要な措置を求めて措置請求をなしたところ、同委員は、同年一〇月二五日付書面をもって右請求は理由がない旨の監査結果を同訴外人に通知したこと、その後阿仁町住民である原告は、右訴外田口外六名とともに昭和五二年一〇月三〇日右同様の請求をしたが、これに対し同委員は、同年一一月一五日付書面をもって「既に昭和五一年一〇月二五日阿発監第七号をもってその監査結果を通知済みである」旨通知したこと、さらに原告は、右訴外田口とともに昭和五三年三月二九日前同様の請求をしたが、同委員は、同年五月二五日付書面をもって、右請求は理由がない旨の通知をしたこと、以上の事実が認められる。
ところで、地方自治法二四二条の二第二項は、住民訴訟は当該監査結果の通知があった日から三〇日以内に提起しなければならない旨定めているが、右出訴期間の制限は、当該監査請求をした住民ごとに、個別的に判断するのを相当とするから、前記のとおり、訴外田口が単独で原告の監査請求と同内容の監査請求をなし、これについて、昭和五一年一〇月二五日に監査委員の監査結果の通知があったとしても、原告の本件訴えの出訴期間に何らの消長をきたすものではないといわなければならない。また同法二四二条一項の監査請求については、その回数を制限する規定や根拠もないから同一人が同一内容の監査請求を数次に亘ってなしている場合であっても訴訟の提起が当該監査結果の通知があった日から三〇日以内になされる限り、出訴期間の制限に反せず適法というべきところ、前記認定のとおり、原告は、昭和五二年一〇月三〇日及び昭和五三年三月二九日監査請求をし、それぞれ昭和五二年一一月一五日付、昭和五三年五月二五日付各書面により監査結果の通知を受けているが、原告は各監査結果の通知のあった日から三〇日以内である昭和五二年一二月一三日に被告公社に対する本件契約に基づく法律関係不存在確認の訴え(当裁判所昭和五二年(行ウ)第七号事件)を、ついで昭和五三年六月二一日に被告沢井に対する損害賠償請求の訴え(同昭和五三年(行ウ)第九号事件)を提起し、同年六月九日付訴変更の申立書で、被告公社に対する法律関係不存在確認の訴えに損害賠償請求を関連請求事件として追加的に併合する申立てをしたことは本件記録に徴し明らかである。そして、右被告公社に対する損害賠償請求の追加的併合の申立ては出訴期間の経過後になされたものであることが明らかであるけれども、出訴期間の制限に関しては、行政事件訴訟法一五条三項、二〇条の類推適用により、被告公社に対する本件契約に基づく法律関係不存在確認の訴えが提起された時に本件被告公社に対する損害賠償請求の訴えも提起されたものとみなすのが相当であるから本件訴えはいずれも出訴期間内に提起されたものといわなければならない。
次に、被告沢井が被告公社との間において、昭和五〇年一〇月二九日、本件契約を締結したこと、その内容は、阿仁町が被告公社に対し、本件土地を水無部落から買収することを委託し、その売買代金・利息・事務費などを別紙返済予定表記載のとおり一〇年の割賦で支払い、本件土地を引取るものとし、本件土地の所有権は右金員全額の支払を完了したときに被告公社から阿仁町に移転するものであること、そして右割賦金の支払は、昭和五一年三月三一日に始まり、昭和六〇年九月三〇日に終了する約定であることは当事者間に争いがない。
ところで、地方自治法二四二条一項の住民監査請求は、同条二項により「当該行為のあった日又は終わった日」から一年以内になされなければならないところ、本件契約のように、地方公共団体が売買代金などの割賦金として公金を数年に亘って支出する場合、右規定の適用にあたっては、その支出を一体のものとみて、その支出の原因である契約が締結された日や個々の支出が行われた日ではなく、右支出が終了する日をもって「当該行為の終わった日」と解し、その日から監査請求期間を起算するのが相当である。そうすると原告の監査請求が地方自治法所定の期間内になされたことは明らかであり、従って、本件訴えについては適法な監査請求の前置があるものといわなければならない。
以上の次第で、原告の本件訴えは適法であり、被告らの本案前の主張は理由がない。
二 本案についての判断
1 請求原因1及び2の事実はいずれも当事者間に争いがない。
2 原告は、本件契約当時、本件土地は阿仁町の所有する行政財産であった旨主張するので判断する。
かつて本件土地のうち、別紙目録一、二記載の土地は訴外斉藤繁蔵と同村岡国治の共有に属し、同目録三記載の土地は訴外秋山虎男、同目録四記載の土地は訴外上杉三郎、同目録五記載の土地は訴外中村鶴治、同目録六記載の土地は訴外米谷力也、同目録七、一一記載の土地は訴外福田新次郎、同目録八記載の土地は訴外庄司武治、同目録九、一〇記載の土地は訴外庄司泰三、同目録一二記載の土地は訴外大野俊蔵、同目録一三記載の土地は訴外加藤金次郎、同目録一四記載の土地は訴外春日留五郎、同目録一五記載の土地は訴外大野寅五郎、同目録一六記載の土地は訴外庄司欽四郎、同目録一七記載の土地は訴外伊藤利吉、同目録一八記載の土地は訴外片山亀治、同目録一九記載の土地は訴外合名会社古河林業部、同目録二〇記載の土地は訴外佐藤栄蔵の各所有に属していたことは当事者間に争いがない。《証拠省略》によれば、本件土地のうち、右目録一ないし一七記載の土地については、昭和三四年八月二六日受付で昭和二七年一〇月三一日の強制譲渡を原因とする各前所有者から農林省への所有権移転登記が経由されたうえ、昭和三四年一〇月二日受付で昭和三三年四月一〇日の売払を原因とする農林省から阿仁町への所有権移転登記が経由されていること、阿仁町議会は、昭和三三年四月一九日、右各土地を農林省から買受ける旨の議決をしていること、また同目録一八記載の土地については、昭和四二年一月二四日受付で昭和三三年三月三日の相続を原因とする前所有者から訴外片山隆一への所有権移転登記が経由されたうえ、昭和五〇年一〇月一五日受付で同年八月二〇日の売買を原因とする同訴外人から阿仁町への所有権移転登記が経由されており、同目録一九記載の土地については、昭和三四年一〇月二日受付で昭和三三年四月一〇日の売払を原因とする前所有者から訴外古河林業合資会社への、その後昭和四九年二月一九日受付で昭和四二年七月一日の会社合併を原因とする同訴外会社から訴外古河林業株式会社への各所有権移転登記が経由されたうえ、昭和五〇年一〇月一三日受付で同年八月二〇日の売買を原因とする同訴外会社から阿仁町への所有権移転登記が経由されており、同目録二〇記載の土地については昭和五〇年一二月一〇日受付で同年八月二〇日の売買を原因とする前所有者から阿仁町への所有権移転登記が経由されていること、以上の事実が認められ、本件土地の登記簿上の所有名義は、その後変更がなく現在も阿仁町にあることは当事者間に争いがない。
以上の事実を総合すれば、本件契約当時、本件土地は、右各登記のとおり阿仁町の所有に属していたものと推認すべきである。
この点に関し、被告は、水無部落あるいは同部落自治会が、昭和二六年一〇月ころ、当時の所有者から本件土地を売買あるいは交換契約により取得したと主張し、《証拠省略》によれば、阿仁町監査委員の訴外田口に対する監査結果についての通知書には、監査委員の判断として、本件土地は戦時中開拓地として水無部落が使用していたもので、このうち別紙目録一ないし一七記載の土地は、戦後自作農創設特別措置法に基づき農林省がその所有権を取得し、水無部落は、昭和二七年の講和条約発効を記念するグランド用地として国から右土地の売払を受けるとともに、私人あるいは会社名義となっていた同目録一八ないし二〇記載の土地も買収し、以後同部落において維持管理していたが、登記については、水無部落に法人格、買受資格等の問題があったことから、便宜上阿仁町の所有名義とし、右三筆の土地については登記手続が遅れ昭和五〇年まで完了していなかった旨記載され、証人柴田三郎もそれに沿う供述をするが、右記載及び供述は、前記のとおり、阿仁町議会において一七筆の土地について農林省から買受ける旨の議決をしていること、水無部落が本件土地の売払を受けた時期自体明確を欠くうえ、そもそも同部落がいわゆる権利能力なき社団とみなしうるのか疑問であること及び前記農林省の強制譲渡、売払の性格等に照らし、たやすく措信できず、他に前記推定を左右するに足りる証拠はない。
被告らは、抗弁として、水無部落が本件土地の所有権を時効により取得した旨主張するけれども、同部落が被告主張の日時以降本件土地を占有している事実を認めるに足りる証拠はない。
そして、《証拠省略》によれば、阿仁町議会は、昭和五〇年五月一七日、町立阿仁合小学校外三校を統合し本件土地に新たに町立阿仁合小学校を設置する旨の議案、及び右小学校の新設に伴い阿仁町立学校条例の一部を改正する旨の議案をそれぞれ議決したことが認められる。
右認定の事実によれば、阿仁町は、昭和五〇年五月一七日本件土地を、地方自治法二三八条三項にいう公共用に供することと決定したものとみるべきであるから、すでに阿仁町の所有に属していた別紙目録一ないし一七記載の土地について、右議決がなされた同日をもって、また同目録一八ないし二〇記載の土地について、他に特段の立証のない本件においては登記原因として記載された同年八月二〇日をもって、それぞれ阿仁町の行政財産となったものというべきである。
3 そこで本件契約が地方自治法二三八条の四に反し無効であるか否かにつき判断する。
本件契約の内容は前判示のとおりであるところ、《証拠省略》によれば、被告公社は、昭和五〇年一〇月二九日本件契約を締結すると同時に、水無部落会長庄司助松との間で本件土地を代金一、六三八万五、〇〇〇円で買受ける旨の売買契約を締結していることが認められるのであるが、本件土地が当時阿仁町の所有する行政財産に属していたと認められることは前判示のとおりであるから、阿仁町は、被告公社との間において自己所有の財産の買収を委託したこととなるが、本件契約の締結及びこれに基づく前記被告公社と水無部落会長庄司助松との間の本件土地の売買契約の締結によっては、本件土地の所有権に実体上何らの変動を来すものではなく、右土地買収委託契約をもって阿仁町が本件土地を被告公社に売り払い、あるいは本件土地に担保権を設定することを合意したものと解することはもとより、後記認定の事実に照らし、本件契約が虚偽仮装のもので、実質は阿仁町が本件土地を被告公社に売却し、その代金を同公社に割賦で返済し、本件土地を買い戻す内容の合意の成立があったものと推認することも困難である。却って《証拠省略》によれば、阿仁町は、児童数の減少に伴い、町立阿仁合小学校外三校の町立小学校を統合した統合小学校を建設する計画をたて、昭和五〇年三月三日同町水無部落において、町側から被告沢井及び学務課長が出席のうえ、説明会を行ったが、同部落においても役員会において協議を行い、それに基づき同年五月一六日部落臨時総会を開催し、統合小学校用地の問題について協議した結果、本件土地を統合小学校建設用地として無償で阿仁町に寄附する旨の決議をなしたこと、そして、それに基づき翌日同部落会長らが被告沢井に会い本件土地の寄附採納願いを申入れたところ、当時町の財政が逼迫し、統合小学校建設について、その費用を十分捻出するだけの財源が不足していたという財政事情から、最終的には同部落は本件土地の寄附採納願いを撤回し、統合小学校建設費として一、六三八万五、〇〇〇円を町に寄附することとし、その方法として、同部落が本件土地を被告公社に売却し、その代金を阿仁町に寄附することとしたこと、右寄附金採納については、昭和五〇年五月一七日阿仁町議会においてこれを承認する旨の議決を経ていることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
右認定の事実によれば、被告ら及び水無部落の関係者らはいずれも過去における本件土地の利用状況に照らし登記簿の記載にかかわらず、本件土地が実体上水無部落に属するものと信じ被告らの間で本件契約を締結し、被告公社は水無部落との間に売買契約を締結したものと認めるのを相当とする。
以上の次第で、本件契約が地方自治法二三八条の四第一項に違反し無効であることを前提として阿仁町の被告公社に対する割賦金支払債務の不存在の確認を求める原告の被告公社に対する請求は失当である。
4 次に被告らに対する損害賠償の請求について判断する。
原告の被告らに対する損害賠償の請求は、被告らが本件土地が阿仁町の行政財産に属することを知りながら地方自治法二三八条の四第一項に違反する契約を締結したとして、右契約に基づく違法な公金の支出により阿仁町の蒙った損害の賠償を同町に代位して町職員たる被告沢井及び当該行為の相手方である被告公社に請求するにあるところ、阿仁町と被告公社との間の本件契約の締結が行政財産の処分に該当せず無効ということを得ないことは前判示のとおりであるから、被告らによる契約の締結行為は何ら不法行為を構成するものではないというべきであるのみならず、本件契約当時別紙目録二〇記載の土地を除くその余の本件各土地の所有名義人が阿仁町であったとしても、前記認定の本件契約締結に至るまでの経緯に照らし、被告らにおいて本件土地が阿仁町の行政財産に属することを知りないしは知らなかったことに過失があったものと断定することはできず他にこれを認めるに足りる証拠はない。
以上によれば、被告沢井及び被告公社の本件契約の締結及び原告主張の金額の公金支出又はその受領について、不法行為の成立は肯認し難いものというべきである。
三 以上の次第で、阿仁町に代位し、被告公社に対して本件契約に基づく割賦金支払債務の不存在確認を、被告沢井及び被告公社各自に対して金一、三五七万六、六七二円及びこれに対する弁済期の後である昭和五五年一〇月一日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 鈴木健太 山﨑勉 裁判長裁判官名越昭彦は転補のため署名押印することができない。裁判官 鈴木健太)
<以下省略>