秋田地方裁判所 昭和54年(ワ)337号 判決 1982年5月25日
原告
高橋金作
ほか一名
被告
戸沢建材こと戸沢直
ほか一名
主文
一 被告らは各自、原告高橋に対し金八二〇万七八一二円、原告秋田くみあい運輸株式会社に対し金二六一万六二六八円および右各金員に対する昭和五四年一〇月九日以降右支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告らのその余の請求は、いずれもこれを棄却する。
三 訴訟費用は、原告高橋と被告らとの間においてはこれを二分し、その一を同原告の負担、その余を被告らの連帯負担とし、原告くみあい運輸株式会社と被告らとの間においては、これを四分し、その一を同原告の負担、その余を被告らの連帯負担とする。
四 第一項は仮に執行できる。
事実
(申立)
第一原告
一 被告らは各自、原告高橋金作に対し金二二九五万一七九八円、原告秋田くみあい運輸株式会社(以下原告会社という)に対し金三一〇万二九三六円および右各金員に対する昭和五四年一〇月九日以降右各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告らの連帯負担とする。
三 仮執行宣言
第二被告ら
一 原告らの請求は、いずれもこれを棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
(主張)
第一請求原因
一 事故の発生
1 発生日時 昭和五三年二月二二日午後二時一〇分ころ
2 発生場所 秋田県横手市睦成字七間川原五三番地二先路上
3 被害者 原告高橋
4 加害車両の運転者 被告加藤
5 事故の態様
被告加藤は、前記日時場所において呼気一リツトルにつき一・五ミリグラムのアルコールを保有し、酒に酔い正常な運転ができない状態で大型貨物自動車(以下被告車という)を運転し、横手市方面から大曲方面に向け時速約四一キロメートルの速度で進行中、対向して進行してきた原告高橋運転の普通貨物自動車(以下原告車という)が道路上において除雪作業中のグレーダーの追越しを始めたのを前方約一〇〇メートルの地点で発見し、危険を感じて急ブレーキをかけたが、酔いのためブレーキの操作を過つて被告車後部を対向車線に滑走させ、すでに追越しを終えて左側車線に入つていた原告車の右前部に被告車の右後部荷台付近を衝突させた。
右事故は、被告加藤が前方約一〇〇メートルの地点に原告車を認め、道路上の積雪と凍結のため急ブレーキをかけることは極めて危険を伴なうのに拘わらず、またそもそも急ブレーキをかける必要がないのに飲酒酩酊のためブレーキ操作を過つたため生じたものであり、同被告に過失がある。
二 責任原因
被告戸沢は、加害車両の保有者および被告加藤の雇用者として、自賠法三条・民法七一五条により、被告加藤は民法七〇九条により、原告らに生じた人的・物的損害を賠償する義務がある。
三 原告高橋の損害
1 原告高橋は、右事故により、左下腿開放骨折等の重傷を受け、事故当日(昭和五三年二月二二日)から同五四年三月二七日までの間、入院二二七日、通院一七二日(内実治療日数三七日)の加療をなした。しかし結局後遺症を免れず、右膝関節の障害は自賠法施行令別表身体障害等級表一二級七号に、左足関節の障害は同表一〇級一一号に各該当し、自賠責保険の給付にさいし、合わせて後遺障害九級と認定された。
2 右事故によつて原告高橋の蒙つた損害は次のとおりである。
(一) 治療費等
(1) 治療費
(イ) 平鹿総合病院 昭和五三年二月二二日から同年四月一一日(入院四九日) 金三万三六〇円
(ロ) 秋田組合總合病院 同年四月一一日から翌五四年三月二七日(入院一七九日、通院一七二日但し右通院の内治療実日数三七日) 金六二二〇円
(2) 附添看護料 平鹿病院分四九日 一日金二五〇〇円合計金一二万二五〇〇円
(3) 入院諸雑費 一日金六〇〇円―二二七日 合計金一三万六二〇〇円
(4) 通院交通費
バス 金二八〇円―三七回 金一万三六〇円
列車 金二〇〇円―三七回 金七四〇〇円
(二) 逸失利益
(1) 休業損害 金五一万四八〇六円
原告高橋は、本件事故による傷害のため昭和五三年一一月三〇日まで欠勤し、同年一二月一日より勤務したが、充分な勤務ができなかつたので、賞与は次のとおり減額支給された。
受給すべき額 受給額 差額
昭和五三年七月 二三万四二〇〇円 一五万五〇七八円 七万九一二二円
同年一二月 三八万四〇八〇円 一二万七七九五円 二五万六二八五円
昭和五四年三月 一九万四〇〇〇円 八万六〇四六円 一〇万七九五四円
同年七月 二四万八八〇〇円 一七万七三五五円 七万一四四五円
合計 五一万四八〇六円
但し、右の計算が相当でない場合、次の計算によるべきである。
(イ) 後遺症固定日 昭和五四年三月二七日
(ロ) 日数(事故からの)三九九日
(ハ) 損失月額 金二万九六一七円
(ニ) 合計 金三九万三九〇六円
(2) 後遺症による逸失利益 金二〇五四万一四五二円
(イ) 平均賃金 昭和五三年度賃金センサス
男子四〇歳~四四歳
決つて支給される現金給与額 金二三万五一〇〇円
年間賞与その他特別給与額 金八五万九八〇〇円
年間総給与 金三六八万一〇〇〇円
235,100×12+859,800=3,681,000
(ロ) 労働能力喪失率 三五パーセント
(ハ) 減収期間 二五年間(四二歳~六七歳)
(ニ) 新ホフマン係数 一五・九四四
(ホ) 3,681,000×0.35×15.944=20,541,452
仮りに右の算定によることが、不適当だとしても、現行の実際の給与額を基準にした次の算式による分金九一一万三六二六円(前記後遺症固定までの分含む)は認容されるべきである。
(A) 後遺症固定から停年(五六歳)まで
(イ) 年数 一四年
(ロ) ホフマン係数 一〇・四〇九
(ハ) 減収額 一ケ月 金二万九六一七円
(ニ) 金額 金三六九万九四〇〇円
29,617×12×10.409=3,699,400
(B) 停年より六七歳まで
(イ) 基準月額収入 金二三万二九〇〇円
(ロ) 労働能力喪失率 三五パーセント
(ハ) ホフマン係数 五・五三五
(ニ) 金額 金五四一万四二二六円
232,900×12×0.35×5.535=5,414,226
(三) 慰藉料
(1) 入・通院分 金一八九万二〇〇〇円
(2) 後遺障害分 金二六一万円
(四) 以上総損害合計 金二五八七万一七九八円
(五) 自賠責保険からの填補 金四九二万円
(六) 残損害額 金二〇九五万一七九八円
(七) 弁護士費用 金二〇〇万円
(八) 残総損害額 金二二九五万一七九八円
四 原告会社分
1 原告車を破損されたことによる損害
(一) 被害車両の破損による損害 金七〇万円
(二) 被害車両けん引費 金七万円
(三) 休車損害 金二四万五七〇六円
(但し一日金七九二六円×三一日)
2 原告高橋へ支払つた給与等 金一八〇万七二三〇円
3 以上1、2の合計 金二八二万二九三六円
4 弁護士費用 金二八万円
5 以上総合計 金三一〇万二九三六円
五 よつて被告ら各自に対し、原告高橋は金二二九五万一七九八円、原告会社は金三一〇万二九六三円および右各金員に対する訴状送達の翌日である昭和五四年一〇月九日以降右支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
第二請求原因に対する答弁
一 請求原因一項1ないし4は認める。5は否認もしくは争う。
二 同二項は認める。
三 同三項は不知もしくは争う。原告高橋の収入の計算の基礎は賃金センサスによるのでなく現実の収入によるべきである。そしてまた後遺症の存続期間は一四年程度みれば充分である。
第三抗弁
一 原告高橋は、除雪車の追越しにかかる前に、被告車を発見し得た筈である。
原告高橋のいうとおり、同人が追越し開始後、除雪車の中間点に至つて始めて被告車を発見したとすると、被告車を発見するまでの時間の経過は、約二・三八秒(時速四〇キロメートル、除雪車の時速五キロメートル、同長さは八メートル、原告車と除雪車との距離は一〇メートル、除雪車同士の距離も一〇メートル)であり、この間に、原・被告車が動く距離は二六・四二メートルとなる。そうすると、原告高橋が被告車を発見したのは、その距離は二〇〇メートルであつたというのであるから、原告車が前記追越しを開始したときの相互の距離は二五二・八四メートルあつた筈である。
ところで、現地の道路は平坦で見通しも良く、運転台の目の位置からすると、高さ一メートルの周囲の雪壁も、見通しの妨げとはならない。そうすると原告高橋は被告車を充分発見し得たのに、前方の対向車両の確認を怠つたまま、追越しを開始したものである。
二 原告らは、原告車が二台目の除雪車と並んだとき、進路前方一二〇ないし一三〇メートルの地点に被告車を発見したというが、右距離は、危険というべき距離である。
すなわち、原告車が除雪車を追越し、一〇メートル先まで行く時間を計算すると、原告車の車体の長さ七・七メートル、自車線内に戻る時間を一秒とすれば、二・六秒であり、その間の両車の走行距離は五七・七メートルとなる。そうするとそのときの両車間の距離は六二・三メートルから七二・三メートルである。この距離を時速四〇キロメートルで対向して走行する二台の車がすれ違うまでに要する時間は二・八一秒から三・二六秒である。
右の距離・時間からすると、一二〇ないし一三〇メートルという距離は危険というべき距離である。
なお原告らの主張する交差までの時間五・四〇秒から五・八秒は追越し車の車体の長さ等を無視している。
三 衝突場所が、原告車の自車線内というのも疑問である。目撃者らの供述も自車線内に戻つていなかつたことを裏付けている。
四 また原告らは、被告加藤の原告車発見が遅れ、それが被告車が急制動をかけた原因であるとする。一般的に、自車線内を走行する車両運転者は、対向車のセンターラインオーバーを予期すべき注意義務は要求されない。しかも対向車が、通常追越しの予想されない追越禁止区域で、一二〇ないし一三〇メートル(原告らの主張)前方自車線内を走行してくるのを発見した場合、運転者として驚くのが当然である。被告車が急制動をかけたのはやむを得ない措置である。
五 本件事故発生は、前方の安全を充分確認しないまま、無謀な追越しをした原告高橋の行為に基因する。本件事故に対する過失割合は、少くとも原告側八割、被告側二割とすべきであり、右割合で過失相殺し、損害の負担額を定めるべきである。
第四抗弁に対する認否
一 一項は争う。
原告高橋は、除雪車の追越しを開始するとき、前方を確認したが、被告車はなく、除雪車と除雪車との中間地点に達つしたとき、進路前方約二〇〇メートルに被告車を発見し、さらに進行して先行する除雪車と並んだときの原告車と被告車との距離は一二〇ないし一三〇メートルであつた。ところで本件事故現場付近の道路は、原告車側からみると斜度二・五度の上り勾配で右側へカーブし、その先はやや下り勾配をなしている。しかも事故当時は、道路の両側に雪壁があつたので、原告車側からみれば、前方二〇〇メートルの距離に達つして初めて対向車を発見できる。
むしろ被告加藤こそ原告高橋と同程度の注意を前方に払つていれば、前方二〇〇メートルの地点に原告車を発見できた筈である。
それにも拘わらず、被告加藤は酒に酔つて目がかすみ、一〇〇メートルに接近してから原告車を発見、約一一・六メートル進行した後に急制動をかけ、被告車後輪を滑走させた。そもそも路面凍結の下り坂で、かつ左側に弯曲している道路において急制動をかければ、反対車線上に滑走することは、運転者の常識であり、しかも被告車はエアーブレーキを装備しているのであるからブレーキの効目が顕著で、それだけ滑走した場合の距離も長い。
本件事故は、常識を無視した被告加藤の運転により発生した。
二 同二項も争う。
被告らの主張を前提としても、原告車が二台目の除雪車を追い越して、自車線内に戻つた時点において、被告車との距離は、六二・三ないし七二・三メートルあることになる。原告車と被告車との距離が一二〇ないし一三〇メートルあり、かつ原告車の速度が時速四〇キロメートル、除雪車のそれが時速五キロメートルである場合、そもそも除雪車の長さや、速度は問題となり得ない。
なお一般に追越車、対向車の速度がそれぞれ時速四〇キロメートルで、仮に被追越車の速度が時速三〇キロメートルとしても、全追越視距二〇〇メートル、最小必要追越視距一五〇メートル、追越完了時における対向車との車間距離二五メートルである(甲第五一号証)。
いずれにしても原告高橋の追越方法は、充分なゆとりを持つたものであつた。
三 同三項も争う。
原告車は自車線内で衝突された。そのことは関係の各証拠からもまた両車の衝突個所からも明らかである。当時の道路の有効幅員、両車の車幅からすれば、対向車線内で衝突すれば、被告車の前部と原告車の前部とが衝突した筈である。しかし実際は、原告車の右側運転席側と被告車の荷台後部とが接触したのである。
四 同四項も争う。
そもそも被告車は、急制動をかけなくても安全にすれ違いができた筈である。前方一〇〇メートルで初めて発見し、そのままの速度ではすれ違いが危険だと感じたとしても、軽くブレーキを踏む程度で充分に走行できた筈である。
五 同五項も争う。
(証拠)〔略〕
理由
一 請求原因一項1ないし4および同二項の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。
二 そこでまず本件事故につき、被告車の運転者被告加藤に過失があつたかどうか判断する。
いずれも成立に争いのない甲第一四号証の一ないし一一、乙第一ないし第三一号証、証人佐藤岩夫、原告高橋・被告加藤各本人尋問の結果を総合すると、原告側の過失はさておき、被告加藤は、酔つぱらい運転のため、前方注視が困難でかつブレーキ等の的確な操作ができなくなつていたにも拘わらず、大型貨物自動車の運転を継続したこと、またその結果対向して進行してきた原告車を発見したさい、路面が凍結、滑走しやすい状態であつたにも拘わらず、酒勢にかられて急制動をかけて被告車を滑走させ、後部を右側に振らせる状態となり、原告車の前部に被告車右側後部を衝突させたことが認められ、被告加藤に過失のあつたことは明らかである。被告加藤本人尋問の結果も右認定を左右せず、他にこれを覆えすだけの証拠はない。
そうすると、被告戸沢は、自賠法三条、民法七一五条、被告加藤は民法七〇九条に基づき、原告らに生じた物的・人的損害を賠償する責任がある。
三 そこで以下損害につき検討する。まず原告高橋関係につき判断する。
1 請求原因三項1の事実は、成立に争いのない甲第一ないし第七号証、第九・一〇号証・第四〇号証(いずれも原本の存在・成立とも争いがない)、前記乙第一号証により、これを認めることができ右認定に反する証拠はない。
2(一) 治療費等
(1) 治療費
(イ) 前記甲第一・二号証によると、原告高橋の負担した平鹿病院関係の治療費(診断書作成、附添寝具料等)が、合計金三万三六〇円であることが認められる。
(ロ) 前記甲第三ないし第六号証によると、秋田組合總合病院関係の自己負担分が合計金六二二〇円であることが認められる。
(2) 附添看護料
前認定の平鹿病院への入院治療の事実と前記甲第七号証によると、右入院期間中附添看護を要したことが認められる。右看護料は一日少くとも金二五〇〇円は要すると認められるので、四九日間の合計は金一二万二五〇〇円。
(3) 入院諸雑費
前認定の入院治療日数、入院諸雑費は一日金六〇〇円を要すると認められるので、入院二二七日の合計金一三万六二〇〇円。
(4) 通院交通費
前記甲第四ないし第六号証、第一〇号証、弁論の全趣旨によると、原告高橋は、秋田市土崎港所在の秋田組合總合病院に、治療のため三七回通院し、その一回分の交通費が金四八〇円であることが認められる。右合計は金一万七七六〇円。
(5) 以上(1)ないし(4)の合計は金三一万三〇四〇円
(二) 逸失利益
(1) 休業損害
前認定の原告高橋の治療の実状ならびに前記甲第一〇号証、証人片岡太一の証言(第一、二回)により真正に成立したと認められる甲第八号証、第三七・三八号証、第四一ないし第四五号証に右証言(第一、二回)を総合すると、原告高橋は、事故後後遺症固定時の昭和五四年三月二七日までの間に昭和五三年一一月三〇日まではその勤務を休み、同年一二月一日からは出勤したこと、しかし以前のような勤務はできず、原告会社としても基本給等は全額支給したが、乗務手当および昭和五三年七月、一二月、翌五四年三月分の賞与を減額支給せざるを得なかつたこと、その減額分は乗務手当が原告主張どおり平均月額金二万九一六七円、右期間中三九九日分として合計金三九万三九〇四円、賞与が原告主張どおり三回分合計で金四四万三三六一円であること(なお右は「休業損害」ではなく症状固定時までの損害であるが、計算の便宜上ここで算定する。また原告主張の損害額をこの項だけは上廻ることになるが、総額において上廻らなければそのように認定しても差支えない。)が認められる。右総合計は金八三万七二六五円
(2) 後遺症による逸失利益(停年まで)
前記三項1、同2(1)認定の各事実、前記甲第九・一〇号証、第三七・三八号証、第四一ないし第四五号証、証人片岡太一の証言(第二回)により真正に成立したと認められる第四八号証の一ないし三に右証言(第一、二回)、原告高橋本人尋問の結果を総合すると、原告高橋は、その傷害が業務上のものであつたため、原告会社から、休業中も給与の支払を受け、かつ職場復帰後も特に不利益な扱いは受けず勤務を継続していること、但し前記障害のため運転手としての稼動は不能なので倉庫係として勤務していること、しかし乗務手当等運転手としての勤務に対して支払われる手当等はカツトされ、その平均の金額は一ケ月当り金二万九一六七円であること、なお原告会社としては停年の五六歳まで右扱いを続けるつもりであること、が認められる。
そうするとその逸失利益は、四二歳から右停年までは原告会社の給与を基準とするのが相当であり、一ケ月の損失額金二万九六一七円を用いてホフマン式で計算すると、その額は、原告主張どおり金三六九万九四〇〇円となる。
29,617×12×10.409=3,699,400
(3) 停年より六七歳までの逸失利益
(イ) 前記甲第九・一〇号証、前記三項1の認定事実、原告高橋本人尋問の結果を総合すると、原告高橋は、前記事故により、右膝、右足関節の可動域制限(健康なそれより前者が45度、後者が25度制限を受ける。)が残り、かつ右下肢が〇・五センチメートル短縮され、そのため、将来の機能回復は見込まれないこと、長年継続してきた大型貨物自動車の運転は不可能となり、これをあきらめざるを得ず、また日常の立居振舞も制限を受けることが認められる。従つて事務系労働者でない原告高橋として、後遺障害による労働能力喪失は六七歳まで継続すると解するのが相当である。
(ロ) ところで原告高橋が五六歳以上になつても、右障害がなければ大型貨物の運転手として稼動すると考えるのは、一般的には無理であるから、基準収入としては、賃金センサスを用いるべきである。そして後遺症固定時の昭和五四年度の男子労働者の五五歳から五九歳の平均賃金は、決つて支給する現金給与額が一ケ月金一七万九二〇〇円、年間賞与等が金五三万九二〇〇円であるから、その年間給与額は金二六八万九六〇〇円となる。また前記障害による労働能力喪失率は三五パーセントと認められるので、ホフマン係数五・五三五を乗ずると、その額は金五二一万四二七円となる。
179,200×12+539,200=2,689,600
2,689,600×0.35×5.535=5,210,427
(三) 慰藉料
(1) 入・通院分
前認定の傷害の部位・程度、入・通院治療の日数および前記甲第一ないし第七号証、第九・一〇号証から認められる治療の実状からすると、その慰藉料は少くとも金一八九万二〇〇〇円とするのが相当である。
(2) 後遺障害分
前認定の後遺障害の部位・程度、原告本人尋問の結果から認められる日常生活への影響等からすると、その慰藉料は、少くとも金二六一万円とするのが相当である。
(四) 以上(一)ないし(三)の合計金一四五六万二一三二円
四 次に原告会社関係の損害につき判断する。
1 車両関係
前記甲第一四号証、乙第八、九号証、成立に争いのない甲第一六号証、証人片岡太一の証言(第一回)を総合すると、原告車は本件事故により大破し、修理不能となつたので、所有者である原告会社としてはこれを廃車処分とし、昭和五三年三月二五日その登録を抹消したことが認められる。
(イ) 車両破損による損害
証人片岡太一の証言(第一回)により真正に成立したと認められる甲第一七号証に右証言を総合すると、原告車の本件事故当時の価格は、金七〇万円であつたことが認められる。
(ロ) 車両牽引による損害
証人片岡太一の証言(第一回)により真正に成立したと認められる甲第一五号証、第三九号証の一ないし三に右証言を総合すると、本件事故現場から原告車を秋田まで牽引するのに、原告会社が金七万円を要したこと、事故の後始末として右牽引は不可欠であつたことが認められる。
(ハ) 休車損害
前(イ)の認定のとおり原告車の登録抹消に一ケ月を要しているが、本件はまつたく突発的な事故であり、各種登録の手続、代車の手配等に一ケ月を要したとしても、他に格別の主張・立証がない以上、やむを得ないところと認められるので、右期間中つまり本件事故の翌日二月二三日から登録抹消の前日三月二四日までの三〇日間は、原告会社は、原告車を運行できないことによる損害を蒙つたものと認められる。
そして証人片岡太一の証言(第一回)により真正に成立したと認められる甲第一八ないし第二〇号証、第二二号証の一ないし四一、第二三号証、第二四号証の一ないし一六、第二五・二六号証、第二七号証の一ないし三、第二八号証、第二九号証の一、二、第三〇号証、第三一号証の一、二、第三二ないし第三六号証に右証言を総合すると、原告会社側での事故前の過去三ケ月(一二月、一月、二月分)の原告車の利益の総額は金七一万三四〇〇円であり、一日平均の利益は金七九二六円と算出されたことが窺われる。
ところで右の数字(特に甲第一八号証記載の)を検討すると、諸経費がすべてのそれを網羅していないのではないか(例えば保険料等)とか、超繁忙の一二月を入れているなどの、利益増加計算の要因がある反面、一一、一二月は冬期にはいるところで車両整備費等が必要(二月末から三月末ともなればそれほどでもない)であり、また一二月の賞与を、前記三ケ月のみの経費とするなど、減少要因も同様に算入されているなど、その他前記各証拠から認められる諸般の事情も合わせ考え、休車損害としては、結局原告の算出した一日当りの利益の三〇日分金二三万七七八〇円が妥当な数字であると認められる。他に右認定を左右するだけの的確な証拠はない。
2 原告高橋へ支払つた給与分
(イ) 前認定のとおり、原告高橋は、本件事故後昭和五三年一一月三〇日まで原告会社を休業し、翌一二月一日から出勤したものである。
(ロ) 次に前記甲第三七・三八号証に証人片岡太一の証言を総合すると、原告会社は、前月二一日から当月二〇日までの分を当月分の給料として支払うシステムを採つているので、昭和五三年三月分の給与のうち二日分は実働したものと計算し、一方一二月分については、働かなかつた一一月二一日から三〇日までの分が支払われているので、二一日から三〇日までの分一〇日分を損害として計上すべきである。そうすると三月分は、金一一万五四四九円、一一月分は一〇日分として金四万二〇六六円となり、結局昭和五三年二月二三日から同年一一月三〇日までの分として、支払つた給与の総計は、金一四一万一三五九円となる。もつとも右のうち三月分の賞与は、二月二二日以前の勤務に対する分も含まれていると推認されるが、逆に一二月の賞与は、少くとも八月以降の勤務に対するそれを含むものと解されるので、結局差引勘定はバランスが保たれるものと考えられる。そうすると結局右一四一万一三五九円が、原告高橋が勤務しないのに原告会社が同人に支払つた給与であり、本件事故により原告会社の蒙つた損害である。
3月分 124,330×26/28=115,449
12月分 126,200×10/30=42,066
3 以上合計金二四一万九一三九円
五 次に過失相殺につき判断する。
1 まず道路状況等について判断する。
前記甲第一四号証の一ないし一一、乙第一、二号証、第七、八号証、第一三ないし一五号証、第二四ないし第二六号証、第三一、三二号証を総合すると、次の事実が認められ、右認定を左右するだけの証拠はない。
本件事故現場は、国道一三号線の横手川にかかる横手川橋を、大曲方面から横手方面に渡り切つたところである。右橋は全長約八〇メートル、幅員は七メートル、一方現場付近の道路は幅員七・六メートルであつたが、いずれも両側に約一メートルの高さの除雪した雪の壁があり、有効幅員は前者で六メートルそこそこ、後者で七メートルもない位であつた。道路は、アスフアルト舗装であるが、当時は、凍結し、滑走しやすい状態であつた。現場付近は、公安委員会によりはみ出し禁止と、時速五〇キロ制限の規制がなされていた。
ところで右一三号線は、大曲方向から横手方向に橋を渡つて間もなく、ゆるやかな上り勾配でかつ右にゆるやかなカーブを描き、右橋から約三六〇メートル位のところに奥羽本線に架橋された陸橋がある。
原告車は、車長七・七七メートル、車幅二・四九メートル、車高二・八〇メートルであつて、事故当時米袋を積み、一方被告車は、車長七・五〇メートル、車幅二・四六メートル、車高二・九五メートルで、荷物は積んでいない。
そして原告車は、大曲から横手方向に、逆に被告車は横手から大曲方向に進行していた。原告車は事故の直前橋の上で二台の除雪車(時速約五キロメートル・間隔一〇メートル位)を追い越した。原告車・被告車とも時速四〇キロメートル位の速度で進行していた。衝突前にどちらもブレーキをかけている。
そして原告車進行方向と運転手の目の高さからして、橋の手前から、右陸橋付近まで見通しが利き、(甲第一四号証の七、乙第三二号証の各写真)また被告車の進行方向からも、陸橋を渡り終えた付近から右橋の大曲寄りの地点まで見通せた。当日は曇天ではあつたが、降雪等はなく、視界を妨げるものはなかつた。
2 次に被告らは、原告車の追い越しは、被告車との関係で危険な運転方法である旨主張するので以下それらの点につき判断する。
被告加藤は、乙第九号証の実況見分のさい一人立会し、双方の車両の位置関係について指示し、その後の各供述も右指示とほぼ同様のことを繰りかえしている。しかし右実況見分調書は、原告高橋らが立会せず、かつ前記乙第一八ないし第二一号証、第二四ないし第二六号証によると、被告加藤は事故当時かなり酔つていたわけであり、右指示をそのまま採用することはできない。
ところで前記乙第八・九号証により衝突地点は特定できるが、一方前記乙第二三号証によると、二台のうち先行していた除雪車の運転手は、橋の中央付近で原告の車に追い越され、かつそのさい橋の中央付近にあるジヨイントに除雪車のハイド板が引つかからぬよう持ち上げようとしていたというのであるから前記乙第九号証、第一三号証、原告高橋本人尋問の結果も合わせ考え、原告車は橋の中央付近で除雪車を追い越したものと認められる。
そうすると、前1認定の事実、乙第九号証などによると、右位置から衝突地点までは、五五メートル前後の距離はあり、かつ前記原・被告車の速度や、また前記乙第一三号証などによると衝突前に原告高橋はブレーキをかけ原告車を減速した状態(右一三号証では停止直前という)にしているのに対し、被告車は二〇メートル以上滑走して衝突(乙第九号証、第二四号証)しているなどの事実を合わせ考えると、前記原告車が橋の中央付近で除雪車を追い越したとき原・被告車の距離は一一〇メートル以上すなわち約一二〇メートル位はあつたものと認めるのが相当である。なお右距離関係は、原告高橋本人尋問の結果乙第一三号証の記載ともほぼ合致する。
3(一) 右2の距離関係、特に除雪車の速度が毎時五キロメートルと遅いことを合わせ考えると、原告車が、通常の方法で(右除雪車との関係では充分の安全度を見込んだとしてかつ除雪車・原告車の車長を考慮して)、対向車線から自車線内に戻れば、そのときの原告車と被告車との間の距離は、約五〇メートルはあつたもの(原告車が除雪車を追い越したときの、原・被告車の距離が一二〇メートルであつたとすれば、被告も右結論は認めている。)と認められる(なお本件全証拠によつても原告車が自車線に戻ることが特に遅かつたとは認められない)。そして右は、時速四〇キロメートルで対向して走行している車両の追い越し完了時(自車線に戻つたとき)の安全距離二五メートル(成立に争いのない甲第五一号証)を大幅に上廻つているのである。
そうすると、原告高橋が被告車を発見した位置の特定が明確にできないとしても、通常の道路・車両の運行状況の下では、右原告車の追い越しの方法は、安全配慮に欠けるところはなかつたというべきである。
(二) なお成立に争いのない乙第一六号証では、原告車が対向車線内にはいり切らない内に被告車と衝突したように記載されているが、原告車と被告車との衝突の各部位、前記乙第八号証(衝突直後車両を移動しない状態で見分し、撮影された右見取図もしくは写真によれば、原告車は自車線内で、しかもやや中央線寄りを向いて停止している。対向車線内で衝突したとは認められない。)などと対比し、右記載は採用できず、他に前記認定を左右するだけの証拠はない。
4 以上1ないし3の事実を勘案し、特に原・被告車とも大型車であるのに、有効幅員は七メートルもなく、かつ道路が凍結していたのであるから互いに急ブレーキをかけるような運行方法はすべきでないこと、さらに除雪車がいたとはいえはみ出し禁止区域であつたこと(追い越し自体は障害物が道路にある場合同様やむを得ないであろう)、一方前認定のとおり、被告加藤は酔つぱらつたうえ、前方注視を怠たり、かつ危険なブレーキ操作をしていることなど双方の事情をあれこれ考え合わせると、前記追い越しの方法を考慮しても、原告側に過失なしとは認められず、その割合は被告側八・五、原告側一・五とするのが相当である。
六1 前記各損害額を、右五項の認定割合で過失相殺すれば、原告側の損害のうち被告側で負担すべき金額は、原告高橋分が金一四五六万二一三二円の八・五割、金一二三七万七八一二円、原告会社分が金二四一万九一三九円の八・五割、金二〇五万六二六八円となる。そして原告高橋が、自賠責保険から金四九二万円を受領していることは、自認するところであるから、前記金額からこれを差引くと、原告高橋の残損害は金七四五万七八一二円となる。
2 原告らが本件訴訟を弁護士に委任して追行したことは、明らかであり、かつその内容からして、本件は弁護士に委任して追行せざるを得ないと認められるところ、本件事故の損害と認めるべき弁護士費用は、原告高橋につき金七五万円、原告会社につき金二一万円とするのが相当である。
3 そうすると原告高橋が被告ら各自に対して支払を求め得る総損害は金八二〇万七八一二円、原告会社のそれは金二二六万六二六八円となる。
七 むすび
そうすると原告高橋の請求のうち、被告ら各自に対し金八二〇万七八一二円とこれに対する記録上訴状送達の翌日であることの明らかな昭和五四年一〇月九日以降右支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は理由があるので認容し、その余は失当として棄却し、原告会社の請求については金二二六万六二六八円と、前同様これに対する記録上訴状送達の翌日であることの明らかな昭和五四年一〇月九日以降右支払ずみまで年五分の割合の遅延損害金の支払を求める限度で理由があるので認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行宣言につき同一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 鈴木経夫)