秋田地方裁判所 昭和54年(ワ)396号 判決 1981年1月30日
原告
佐々木良一
ほか一名
被告
秋田県
主文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、
(一) 原告佐々木良一に対し、金三二二七万五一六四円及びこれに対する昭和五四年一一月一六日から支払いずみまで年五分の割合による金員を、
(二) 原告佐々木百合に対し、金三三〇万円及びこれに対する昭和五四年一一月一六日から支払いずみまで年五分の割合による金員を、
それぞれ支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨
第二当事者の主張
一 請求の原因
1 事故の発生
原告佐々木良一(以下単に「原告良一」という。)は、昭和五二年六月二六日午後五時一五分ころ、秋田県横手市赤川字村の前二九番二号先の県道横手大森大内線と県道金沢吉田柳田線の交差点(以下「本件交差点」という。)を、田根森方向から横手方向に向かい普通貨物自動車を運転して進行中、折から境町方向から旭町方向に向かい同交差点に進入して来た訴外藤田勝美運転の普通乗用自動車に自車左前側部に衝突され、その結果、脳挫傷、頭蓋骨骨折、左急性硬膜外血腫の傷害を受けた(以下「本件事故」という。)。
2 被告の責任
(一) 本件事故の際、訴外藤田が進行していた県道金沢吉田柳田線(以下「藤田進行道路」という。)は、被告の設置管理にかかる公の営造物であり、また藤田進行道路の本件交差点入口には、以前、秋田県公安委員会の設置管理にかかる公の営造物たる一時停止標識が存在していた。
(二) ところが、右一時停止標識は、冬期間の除雪の際ブルドーザーに倒され、横手警察署によつて取り外されたまま、消雪期における道路標識等の一斉点検期間後も放置され、本件事故当時には設置されていなかつた。これは、被告の藤田進行道路の設置若しくは管理の瑕疵又は被告の機関たる秋田県公安委員会の右道路標識の設置若しくは管理の瑕疵にあたる。
(三) 本件事故は、右一時停止標識が存在しなかつたため、訴外藤田が本件交差点入口で一時停止をせず、自己進行道路が非優先道路であることを認識しないまま時速五〇キロメートルで本件交差点に進入したために発生したものである。
よつて、被告は、国家賠償法二条一項により、原告らに生じた後記損害を賠償する義務がある。
3 原告らの損害
(一) 原告良一の損害
(1) 医療費関係 合計二九五万一二一三円
原告良一は、本件事故により、昭和五二年六月二六日に平鹿総合病院に入院したが、同日、秋田県交通災害センターに転院し、更に、昭和五三年三月一三日、秋田神経精神病院に転院し、現在に至つている。その間の治療等に要した費用は次のとおりである。
(ア) 治療費
平鹿総合病院(入院一日) 八万三六〇円
秋田県交通災害センター(入院二六一日) 一五一万七六一四円
秋田県神経精神病院(昭和五三年七月三一日までのもの) 二一万四七九一円
秋田赤十字病院 八四六〇円
秋田大学医学部附属病院 一万二六一二円
(イ) 附添費(平鹿総合病院、秋田県交通災害センター入院分)
附添婦依頼分 一二一日 七六万七三七六円
妻 一四〇日 三五万円
(一日二五〇〇円)
(2) 休業損害 二三六万七〇七二円
原告良一は、本件事故時、四五歳であり、室内装飾・寝具の外売及び卸・小売を業としていたが、昭和五一年一月から一二月までの仕入高は三六〇六万五五四円であり、純利益を少なくとも仕入高の一割とすると、同原告の年間純益は三六〇万六〇〇〇円を下回らない。
一方、昭和五〇年の四五歳から四九歳までの男子労働者の全国平均年給与額は三〇〇万五八〇〇円であり、昭和五一年はこの五パーセント増とすると三一五万六〇九〇円である。
従つて、原告良一の本件事故当時の年間所得額は、右三一五万六〇九〇円を下回らないと見るべきであり、原告良一は、本件事故後、後記の症状固定の日まで九か月間休業のやむなきに至つたから、右年間所得額から九か月分の休業損失を計算すると二三六万七〇七二円となる。
(3) 逸失利益 四四五一万三四九三円
原告良一の本件事故による症状は昭和五三年三月五日に固定し、脳挫傷、血腫による後遺症は、「痴呆状態のため自覚症状はなし、1意欲全くなし、終日臥床状態、2会話可能であるが内容はトンチンカン、見当識は全くなし、記銘力なし、暗算は一桁のものは可能、3大、小便失禁、4経口摂取可能、食欲応進の傾向あり、5軽度の右片麻痺あり、独立起立不能、介取起立可能、以上のとおりで他人の介助なしには生存不能」と診断され、後遺障害等級一級三号と認定された。
よつて、原告良一は、労働能力を一〇〇パーセント喪失したものであるが、症状固定時の年齢は四六歳であり、本件事故がなければ更に二一年間は就労可能であつたから、前記(2)の年間所得額三一五万六〇九〇円に二一年間の年別ホフマン係数一四・一〇四を乗じて逸失利益の症状固定時の現価を算出すると四四五一万三四九三円となる。
(4) 慰藉料 一二〇〇万円
原告良一は、本件事故により、働き盛りの時に、症状固定時までの九か月間重症患者として秋田県交通災害センターに入院し、更に、後遺障害等級一級三号に認定される生ける屍となつて、今後他人の介助を必要としながら、一生重症患者として秋田神経精神病院に入院のやむなきに至つている。この原告良一の精神的苦痛を慰藉するための金額は一二〇〇万円を下回らない。
(5) 弁護士費用 三〇〇万円
原告良一は、本件事故により本件訴訟の提起を余儀なくさせられ、弁護士金野和子にその訴訟代理を委任し、着手金として四〇万円を支払い、成功報酬は受益額の一割と約した。従つて、原告良一は、本件事故によつて、少なくとも三〇〇万円の弁護士費用を負担せざるを得なくなつた。
(6) 損害の補填
原告良一は、本件事故による損害につき、自動車損害賠償責任保険から一六〇〇万円、訴外藤田から一六五五万六六一四円の各支払いを受けた。
(二) 原告佐々木百合の損害
(1) 慰藉料 三〇〇万円
原告佐々木百合は、原告良一の妻であるが、本件事故により、働き盛りの夫が生ける屍となり、一生その看護を続けていかざるをえなくなつた。この精神的苦痛を慰藉するための金額は三〇〇万円を下回らない。
(2) 弁護士費用 三〇万円
原告佐々木百合は、本件事故により本訴訴訟の提起を余儀なくさせられ、弁護士金野和子にその訴訟代理を委任し、成功報酬は受益額の一割と約した。従つて、原告佐々木百合は、本件事故により三〇万円の弁護士費用を負担せざるを得なくなつた。
4 結論
よつて、被告に対し、国家賠償法二条に基づく損害賠償請求として、原告良一は三二二七万五一六四円、原告佐々木百合は三三〇万円、及び右各金員に対する弁済期の経過後である昭和五四年一一月一六日から各支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
二 請求の原因に対する認否
1 請求の原因1の事実は認める。
2 同2の(一)の事実は認める。
同2の(二)の事実のうち、本件事故当時、一時停止標識が存在しなかつたことは認めるが、その余は否認する。後記三の1のとおり、被告の道路及び道路標識の設置管理には瑕疵がない。
同2の(三)の事実のうち、訴外藤田が本件交差点入口で一時停止をせず、時速五十キロメートルで同交差点に進入したことは認めるが、その余は否認する。後記三の2のとおり、一時停止標識がなかつたことと本件事故との間には相当因果関係がない。
3 同3の事実中、(一)の(6)の原告良一の受領額は、自動車損害賠償責任保険から一六〇〇万円、訴外藤田から二〇〇〇万円である。その余の事実はいずれも知らない。
三 設置、管理の瑕疵等についての被告の主張及び抗弁
1 設置及び管理の瑕疵の不存在
(一) 昭和五二年四月五日、横手警察署巡査千葉洋一は、交通安全協会旭支部の役員一〇名とともに、同巡査が勤務する旭駐在所管内の交通要所において立看板の設置、破壊標識の整備を実施し、その際、藤田進行道路の一時停止標識が倒壊しているのを発見し、右役員数名とともに、以前標識が設置されていた場所に杭をうち、右標識をこれに針金で固定して補修した。
(二) その後、同巡査は、同年六月上旬ころ、右役員らとともに旭駐在所管内を点検した際、右のとおり補修した一時停止標識が取り外され、近くの家の軒先に立てかけられているのを発見し、右と同様に補修した。
(三) 以上のとおり、右一時停止標識の維持には十分の配慮がなされていたから、その管理に瑕疵はなく、また、一時停止の規制は、その標識の存在によつて初めて効力が生じるものであるから、その不存在が、直ちに設置又は管理の瑕疵となるものではない。
更に、一時停止標識の設置及び管理は、道路の設置及び管理とは関係がない。
2 相当因果関係の不存在
本件事故は、訴外藤田と原告良一の次の過失によつて生じたものであり、一時停止標識が存在しなかつたこととの間には相当因果関係がない。
(一) 訴外藤田の過失
本件交差点は訴外藤田の進行方向からは左右の見通しが悪いから、訴外藤田には徐行義務があつたうえ、藤田進行道路は本件交差点の手前約二四〇メートルまでは耕田の中を走る幅員わずか三・五メートルの道路であり、本件交差点を越えると再び幅員が減少するものであること、及び、訴外藤田は本件事故前には本件交差点を通行したことはなかつたことを考慮すると、自動車運転者として訴外藤田は、本件交差点を通行する際、特に慎重に運転すべきであつた。また、藤田進行道路の本件交差点入口には一時停止線が明確に標示されており、反対側入口には一時停止標識があり、これは容易に発見できた。
しかるに訴外藤田は、何らの根拠もなく自己進行道路を優先道路と思い込み、時速五〇キロメートルで本件交差点に進入したのであり、重大な過失がある。
(二) 原告良一の過失
本件交差点は、原告良一の進行方向からも左右の見通しが悪く、同原告の進行道路には、本件交差点内を通して追越しのための右側部分はみ出し通行禁止の黄線標示が設けられていたが、右標示は道路中央線とは異なるものであるから、右道路は優先道路ではない。従つて、原告良一には、本件交差点に進入するに際し徐行義務があつた。
仮に、右黄線標示が道路中央線とみなされ、原告良一の進行道路が優先道路であるとしても、同原告は道路交通法三六条四項、七〇条の注意義務を免れるものではない。そして、本件交差点の交通量は少ないこと、交差道路との広狭が判然としないこと、本件交差点を越えると原告良一の進行道路は幅員が減少し、見通しの悪い曲線になつていること、原告良一は本件交差点をよく通行し、その形態を熟知していたこと等を考慮すれば、同原告には、本件交差点を通行するに際し、なお徐行義務があつたというべきである。
しかるに原告良一は、本件交差点に高速で進入したものであり、同原告にも過失がある。
3 過失相殺
仮に、被告に損害賠償義務があるとしても、原告良一には前記2の(二)の過失があるから賠償額の算定につき、これをしんしやくすべきである。
4 免除
(一) 原告良一は、昭和五三年六月一七日訴外藤田との間で示談をし、本件事故についての損害賠償として同人から三六〇〇万円(自動車損害賠償責任保険一六〇〇万円、任意保険二〇〇〇万円)を受領するとともに、同人に対し、右金員を超える損害賠償債務を免除した。
(二) 仮に被告が本件事故につき訴外藤田とともに損害賠償義務を負うとすれば、右免除は、訴外藤田の負担部分について被告の利益にも効力を生じるところ、前記のとおり本件事故についての訴外藤田の過失は大きく、被告の責任は極めて小さい。
四 抗弁に対する認否
1 本件事故につき原告良一に過失があつたことは否認する。原告良一の進行道路中央には本件交差点を通して黄線が設けられており、右黄線は追越しのための右側部分はみ出し通行禁止の標示であると同時に道路中央線でもあるとみるべきであるから、原告良一の進行道路は優先道路である。従つて原告良一に徐行義務はなかつた。
2 原告良一が訴外藤田に対し示談で定めた額を超える損害賠償義務を免除したことは認めるが、訴外藤田と被告の損害賠償債務は、いわゆる不真正連帯債務とみるべきであるから、訴外藤田に対する免除は被告に対して効力を生じない。
第三証拠 〔略〕
理由
一 事故の発生について
請求の原因1の事実については当事者間に争いがない。
二 被告の責任について
1 本件事故前、藤田進行道路の本件交差点入口に秋田県公安委員会により一時停止標識が設置されていたこと、ところが、本件事故時には右標識が存在しなかつたこと、本件事故の際、訴外藤田が本件交差点入口で一時停止をせず、時速五〇キロメートルで同交差点に進入したこと、以上の事実については当事者間に争いがない。
2 そこで、次に本件事故が右一時停止標識が存在しなかつたことにより発生したものであるか否かについて判断する。
まず、藤田進行道路及び本件交差点の状況についてみると、成立に争いのない甲第一三号証、第一四号証、乙第一号証、第二号証によれば、藤田進行道路は、境町方向から進行して来ると、本件交差点の手前約二五〇メートルの地点までは両側が田で幅員は約三・四メートルであるが、同地点で右に屈曲し、幅六メートルの橋を越えた後は幅員が約五・五メートルとなること、その後同道路は一直線に本件交差点に向かつているが、同交差点の手前約五〇メートルの地点までは引き続き両側が田であり、畔道の他に交差道路はなく、暗くなければ、前記の橋を越えた地点から、建物が建ち並ぶ本件交差点附近を見通せること、同道路を境町方向から進行して来ると、本件交差点の手前約五〇メートルの地点で同交差点の存在すなわち交差道路の存在を認識でき、左側には道路に接して建つ建物がないため、同交差点左方の見通しは比較的良いが、右側は、右五〇メートル手前の地点附近から建物が並び、交差点角に道路に接して建つ作業小屋があるため、同交差点右方の見通しは悪いこと、藤田進行道路は、本件交差点の約二〇メートル手前で幅員が約六・七メートルに広がるが、交差道路である原告良一の進行道路の同交差点入口での幅員は、それよりもやや広く六・八メートルであること、本件事故当時藤田進行道路に速度標識はなく、また、本件交差点入口には前記のとおり一時停止標識はなかつたが、同入口附近には道路上に停止線が設けられていたこと、以上の事実を認めることができる。
次に、本件事故の際の訴外藤田の運転状況をみると、前記甲第一四号証、成立に争いのない甲第一五号証、乙第一〇号証の一、二及び四並びに証人藤田勝美の証言によれば、訴外藤田は、本件事故の日、秋田市から車を運転して湯沢市に帰る途中道を誤り、それまで通行したことのない藤田進行道路に入り、同道路を境町方向から旭町方向に向かい時速約六〇キロメートルで進行したこと、当時、天気は晴でまだ暗くはなつていなかつたため見通しは良かつたこと、訴外藤田は、本件交差点から約五〇メートルの地点で同交差点の存在に気付き、同交差点右方の見通しが前記のように悪いことを認識したが、同交差点に接近するまで交差道路を通行する車がなく、また、自己進行道路がこの附近の道路としては広く「優先道路」であると感じたために、同交差点の手前約二〇メートルの地点で変速ギアを第四速から第三速に落として時速約五〇キロメートルに減速しただけで同交差点を通過しようとしたこと、ところが、同交差点の手前約六・六メートルの地点に至り、前記停止線の存在に気付くとともに、右斜め前方約一四・八メートルに、交差道路から同交差点に進入して来る原告良一運転の車を発見し、あわてて転把するとともに制動の措置を講じてこれを避けようとしたが間に合わず、自車右前部を原告良一の車の左前部に衝突させたことと、以上の事実を認めることができる。
そして、証人藤田勝美は、仮に藤田進行道路の本件交差点入口に一時停止標識が存在したとすれば、同人は必ず一時停止をしたであろう旨供述し、同人が一時停止をしていれば本件事故が避けられたであろうことは推認に難くないから、右供述のとおりであるとすると、一時停止標識の不存在と本件事故との間には条件関係が存することとなる。
しかしながら、前記認定のとおり、藤田進行道路は、本件交差点附近に至るまでは、幅員は小さいものの、田の間を通り、畔道の他に交差道路もなく、最高速度を法定速度以下に制限する標識もなかつたのであるから、訴外藤田が時速六〇キロメートルで車を進行させたことに過失はないとしても、本件交差点の約二五〇メートルに至れば、前方の本件交差点附近に建物が建ち並んでいることを十分見通すことができるのであるから、自動車運転者としては、同附近に接近するにあたり、交差道路の存在等に備え減速する等十分の注意を払うべきであり、更に、訴外藤田は、本件交差点の手前約五〇メートルの地点で同交差点の存在に気付き、同交差点の右方の見通しが悪いことも認識したのであるから、一時停止標識がない場合には、同人には速やかに減速して徐行する義務があり、同人も自動車運転者として当然これを認識すべきであつて、同人が右注意義務を尽くしていれば、原告良一の車の発見も早く(前記甲第一四号証によれば、訴外藤田が原告良一の車を一四・八メートルの距離に発見した地点からは、右方道路の二五・八メートルを先を通行する車を見通すことができる。)、前記停止線にも容易に気付き、また、有効な避譲措置を講じることができたことは明らかである。しかるに訴外藤田は、前記認定のとおり、何らかの客観的根拠もなく自己進行道路を優先道路(同人が優先道路の意味を全く理解していないことは前記甲第一〇号証の一及び証人藤田勝美の証言から明らかである。)と思い込み、本件交差点に接近した際、約二〇メートル手前で速度をわずかに減じただけで、見通しの悪い交差点を通行する速度としては無謀とも言える時速五〇キロメートルの速度で同交差点に進入し、その結果、原告良一の車を発見してもこれを避けえなかつたのであり、訴外藤田には自動車運転者として重大な過失があつたと言うべきである。
そして、原告良一の本件事故の際の運転状況を確知するに足る証拠はないから、本件事故についての同原告の過失の有無及び程度を判断することはできないが、訴外藤田の前記の過失の内容及び程度に、見通しの悪い交差点の入口に一時停止標識が存在しないことが、法令上はともかくとしても、一般の自動車運転者に対し、自己進行道路が優先道路であるとか徐行義務が免除されているとかの印象を与えるとは言えないこと、また、一時停止標識は、信号機等に比し、見落とされることや無視されることが多いと考えられることを併せ考慮すれば、仮に一時停止標識の不存在と本件事故との間に前記の条件関係があつたとしても、両者の間には、通常起こりうる原因と結果の関係、いわゆる相当因果関係はなく、本件事故は、専ら訴外藤田の過失によつて生じたものと言うべきである。
三 結論
以上の次第で、原告らの本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 鈴木健太)