秋田地方裁判所能代支部 昭和54年(ワ)49号 判決 1980年12月18日
原告
小川浩平
ほか一名
被告
関根守
ほか一名
主文
一 被告らは連帯して、原告小川浩平に対し金一二三一万四一〇〇円及び内金一〇二三万四一〇〇円に対する昭和五三年七月二日から支払ずみにいたるまで年五分の割合による金員、原告小川トシエに対し金九五九万四一〇一円及びこれに対する昭和五三年七月二日から支払ずみにいたるまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告らのその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを四分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。
四 この判決は、一項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 原告
1 被告両名は連帯して、原告小川浩平に対し金一五二一万一九五〇円及び内金一三〇一万一九五〇円に対する昭和五三年七月二日から支払ずみにいたるまで年五分の割合による金員、原告小川トシエに対し金一二二一万一一九一円及びこれに対する昭和五三年七月二日から支払ずみにいたるまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
との判決及び仮執行の宣言を求める。
二 被告
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
との判決及び予備的に仮執行の免脱宣言を求める。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 本件死亡交通事故の発生
(一) 発生日時 昭和五三年七月一日午後一時二五分ころ
(二) 発生地 宮城県仙台市長町一丁目一番四号先交差点
(三) 加害車両 大型貨物自動車(宮一一や六五三八)
(四) 同運転者 被告関根勝
(五) 被害車両 原動機付自転車(仙台市六四七〇)
(六) 同運転者 訴外亡小川浩司
(七) 被害者
(1) 被害者名 訴外亡小川浩司
(2) 性別・年齢 男・一八年
(3) 死因 脳挫傷により死亡
(4) 死亡時刻 昭和五三年七月一日午後二時四五分
(八) 事故の態様
国道四号線を仙台市河原町方面から長町駅前方面に向つて進行し、交通整理の行なわれている前記交差点に至り、青信号に従つて第二車線から市道広瀬橋鹿ノ又線へ左折を開始した加害車両が左側車線を直進してきた被害車両に衝突
2 被害者の権利の承諾
原告小川浩平は訴外亡小川浩司の父であり、また原告小川トシエは右訴外人の母であり、同訴外人の死亡により原告らは、法定相続分に従い同訴外人の権利各二分の一づつを承継した。
3 責任原因
(一) 被告関根守は加害車両を所有し、自己のため運行の用に供していたものであるから、自賠法三条による責任がある。
(二) 被告関根勝は次記のごとき過失により本件事故を発生せしめたものであるから、民法七〇九条による責任がある。
被告関根勝は、前記加害車両を運転し、前記交差点で青色信号に従つて左折進行するにあたり、当時第二車線を進行していたため左側車線を直進しようとする車両のあることが予測されるから、直接あるいは左前バツクミラーにより左後分の交通状況を注視し安全を確認しながら左折進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、左方に設置されてある横断歩道の歩行者に気をとられ、左後方の注視不十分のまま時速約一〇キロメートルで漫然左折進行した。
4 損害
(一) 逸失利益 三一一八万九七〇〇円(昭和五三年度賃金センサス中規模一〇〇〇人以上の企業中大卒の平均賃金を基礎にし、二二歳から六七歳まで稼働するものとし、控除すべき生活費を五割としてライプニツツ方式により算出)
(二) 葬祭費 五〇万円(原告小川浩平において出費)
(三) 遺体引取費用 三〇万円(前同)
(四) 慰藉料 原告両名につき各六〇〇万円(訴外亡小川浩司は小学校以来学業優秀かつスポーツ万能で、中学校では全校生徒会長、卓球部主将をつとめた。能代高校でも成績はトツプクラスで卓球部主将として活躍、学業とスポーツを両立させた模範的生徒であつた。同校卒業後現役で東北大学工学部原子核工学科に合格、卓球部に入部将来を期待されていた。明朗快活、思いやりのある子で原告らの期待は大きかつた。同訴外人が前途に富みながら無惨な死を遂げたことによつて原告らの受けた衝撃は大きく筆舌に尽しがたいものがある。反面、被告らには全く誠意がなく、ために原告らは全く慰藉されていない。)
(五) 弁護士費用
原告らは弁護士伊勢正克に本件訴訟代理の委任にあたり原告小川浩平は同弁護士に着手金として二〇万円を支払い、また成功報酬として二〇〇万円を支払う旨約した。
5 損害の填補
原告らは、自賠責保険金一八七六万五七九九円の支払を受けたが、うち九三八万二九〇〇円を原告小川浩平の損害賠償請求債権(ただし弁護士費用を除く)に充当し、残九三八万二八九九円を原告小川トシエの損害賠償請求債権に充当した。
6 したがつて、被告らは連帯して原告小川浩平に対し、相続にかかる逸失利益一五五九万四八五〇円、葬祭費五〇万円、遺体引取費用三〇万円、慰藉料六〇〇万円合計二二三九万四八五〇円から自賠責保険金充当分九三八万二九〇〇円を控除した金一三〇一万一九五〇円及びこれに対する本件事故の翌日である昭和五三年七月二日以降完済までの年五分の割合による遅延損害金並びに弁護士費用二二〇万円の支払義務があり、原告小川トシエに対し、相続にかかる逸失利益一五五九万四八五〇円、慰藉料六〇〇万円から自賠責保険金充当分九三八万二八九九円を控除した金一二二一万一九五一円及びこれに対する本件事故の翌日である昭和五三年七月二日以降完済までの年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるので、これが支払を求めて本訴に及んだ。
二 請求原因に対する答弁
請求原因事実中1は認める。2は不知。3の(一)は認める。3の(二)は争う。4の(一)ないし(四)は不知。4の(五)中原告らが弁護士伊勢正克に訴訟代理委任した事実は認めるが、その余不知。5のうち自賠責保険金一八七六万五七九九円が原告らに支払われた事実は認めるが、その余不知。6は争う。
三 抗弁
本件事故発生については、訴外亡小川浩司にも少なからぬ過失がある。すなわち、一般に大型車の左側を後進する原付自転者としては、常に大型車の動静あるいは方向指示器による合図を注視して大型車が直進するか左折するか十分見極めて衝突を回避すべきところ、訴外亡小川浩司は加害車両の左折の合図を見落し、またその動静に注意を払わないで左折を開始した加害車両の進路直前を漫然と直進通過しようとしたものであり、前記交差点が交通渋滞が激しく、第二車線から直接市道広瀬橋鹿ノ又線第二車線へ左折する車両も極めて多いという交通状況を加味するときは、訴外亡小川浩司の過失割合は少なくとも五割を下らないというべきである。
四 抗弁に対する認否
争う。
第三証拠〔略〕
理由
一 請求原因一、3(一)の事実は当事者に争いがなく、原告小川浩平、同小川トシエの各供述によれば、同2の事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。
二 被告関根勝の過失
成立に争いのない甲第四、第八、第九、第一一、第一三ないし第一五号証及び被告関根勝本人尋問の結果によれば、請求原因3(二)の事実を認めることができ、右認定を覆えすに足る証拠はない。
三 訴外亡小川浩司の過失
二掲記の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件事故発生については、訴外亡小川浩司にも次の過失があつたことが認められ、これを覆えすに足る証拠はない。
本件交差点は国道四号線を仙台駅方面から南下し広瀬橋を通過した直後にあり、そのまま直進すれば長町駅方面に、また左折すれば市道広瀬橋鹿ノ又線に入り国道四号線仙台バイパスに至る。このように本件交差点は仙台市内から国道四号線仙台バイパスに抜ける重要な交差点であつて、日頃から渋滞も激しく、そのため、国道四号線を南下し、道路交通法三四条一項に違反する左折方法であるが、その第二車線から直接左折を開始し市道広瀬橋鹿ノ又線の第二車線に入る車両もひんばんに見受けられる。ところで、被告関根勝は仙台駅方面から南進し、本件交差点で左折する準備としてその約四〇メートル手前で左の方向指示器を点灯したのであるが、第一車線が連続進行の状況にあつたことから進路を変更して第一車線に入ることをせずに、そのまま第二車線を進行して本件交差点内で、第二車線から直接左折して市道広瀬橋鹿ノ又線第二車線に入つた前車に続いて時速約一〇キロメートルで左折を開始し、その左折途中において、第一車線左側を進行して同交差点に入り同交差点を直進通過しようとしていた被害車両に全く気付かぬまま自車前部をこれに衝突させたのである。他方、訴外亡小川浩司は仙台駅方面から国道四号線を南下し第一車線上を連続進行していた自動車の左側を進行して本件交差点にさしかかり、同所をそのまま直進通過しようと同交差点内に入つた直後、第二車線から左折してきた加害車両に気づき、左へ転把しながら衝突を回避しようとしたが避けきれず、自車右側に加害車両前部を衝突され、加害車両下部に自車もろとも巻き込まれたものである。このような本件事故の状況に照らすと、被告関根勝に、大型貨物自動車という事故の発生した場合重大な結果を惹起する可能性の高い自動車を運転しながら、また道路交通法に違反する左折方法をあえてとりながら、前記二認定のとおりの不注意な運転方法をとつたという著しい過失のあつたことが本件事故の重要な要因となつていることはいうまでもないが、他面、訴外亡小川浩司にも、第二車線から直接左折してくる自動車のありうることを予測し、右前方に対する注視をするとともにこのような右折車があつてもそれとの衝突を避けられるような速度と方法で運転をなすべき注意義務があるのにこれを怠つたという軽度の過失を肯認できる。
四 損害
1 逸失利益
訴外亡小川浩司が本件事故当時満一八歳の男性であつたことは当事者間に争いがない。また原告小川浩平、同小川トシエの各本人尋問の結果を総合すれば同訴外人は東北大学工学部原子核工学科一年に在学中であつたこと、同科の卒業生の殆んどは大企業に就職していることが認められ、右認定に反する証拠はない。そこで同人の得べかりし利益を左のとおり算定する。
(一) 就労可能年数 四五年(二二歳から六七歳に達するまで)
(二) 算定年収額
(二二歳から二四歳)
一八五万九九〇〇円(労働省統計情報部昭和五四年七月発行の昭和五三年賃金センサス中産業計規模一〇〇〇人以上の企業における大卒労働者の平均賃金)
(二五歳から二九歳)
二八四万三三〇〇円 (右同)
(三〇歳から三四歳)
三八〇万四一〇〇円 (右同)
(三五歳から三九歳)
四八九万七一〇〇円 (右同)
(四〇歳から四四歳)
五八八万〇九〇〇円 (右同)
(四五歳から四九歳)
六八六万〇四〇〇円 (右同)
(五〇歳から五四歳)
七五五万九四〇〇円 (右同)
(五五歳から五九歳)
五七〇万四二〇〇円 (前記賃金センサス中産業計企業規模計の大卒労働者の平均賃金)
(六〇歳から六四歳)
四四一万〇二〇〇円 (右同)
(六五歳から六六歳)
四〇〇万五七〇〇円 (右同)
(三) 生活費
五〇パーセント
(四) ライプニツツ係数
(二二歳から二四歳) 二・二四〇五
(二五歳から二九歳) 三・〇七六九
(三〇歳から三四歳) 二・四一〇八
(三五歳から三九歳) 一・八八八九
(四〇歳から四四歳) 一・四八
(四五歳から四九歳) 一・一五九七
(五〇歳から五四歳) 〇・九〇八六
(五五歳から五九歳) 〇・七一一九
(六〇歳から六四歳) 〇・五五七八
(六五歳から六七歳) 〇・一八七七
(五) 逸失利益額
三一〇六万円 (一〇〇〇円以下切捨て)
2 葬祭費
原告小川トシエ本人尋問の結果によれば、原告小川浩平において訴外亡小川浩司の葬儀関係費として五〇万円を下らない金員の出捐を余儀なくされたことが認められ、右認定に反する証拠はなく、かつ社会通念に照らし、右金額は、本件事故と因果関係のある損害として被告らに負担させるのが妥当と判断される。
3 遺体引取費用
原告小川トシエ本人尋問の結果によれば、原告小川浩平が訴外亡小川浩司の遺体を引取るための費用として三〇万円を下らない出捐をなしたことが認められ、右認定に反する証拠はない。
4 原告らの慰藉料
原告両名の各本人尋問の結果及び成立に争いのない甲第二九ないし第三二号証によれば、原告らが愛しみ育て、また将来の大成を期待していたその子小川浩司が突然の事故で無惨な死を遂げ再び相まみえることができなくなつたことにより、原告らが受けた悲しみ苦痛は想像以上のものがあり、他方、被告らは今日に至るまで原告らに対する慰藉のため誠意ある行動を必ずしもとつていないことが認められ、これらの事情のほか前認定の本件事故の状況その他を考慮すると、原告らの慰藉料はそれぞれ五〇〇万円と認めるのが相当である。
5 弁護士費用
原告らが弁護士伊勢正克に本件訴訟代理を委任したことは当事者間に争いがなく、原告小川トシエ本人尋問の結果によつて真正に成立したと認められる甲第三七号証及び弁論の全趣旨によれば、右訴訟代理の委任にあたつて、原告小川浩平が弁護士伊勢正克に着手金として二〇万円支払い、また成功報酬として原告らの請求認容額合計の一割相当を支払う旨約したことが認められるところ、本件事案の内容、審理の経過、後記認容額等に徴すれば、原告小川浩平が支出しまた支出することを約した弁護士費用中二〇〇万円を本件事故と相当因果関係のある損害として、被告らに負担させるのが妥当である。
五 過失相殺
本件事故発生については、被告関根勝及び訴外亡小川浩司の双方に過失のあつたことは前記二、三のとおりであるが、その過失の態様等を考慮すると、民法七二二条二項により前記四認定の損害のうち1、2、3の金額につきその一〇パーセントを過失相殺するのが相当である。
六 損害の填補
請求原因5の事実中、原告らが自賠責保険金一八七六万五七九九円の支払を受けたことは当事者間に争いがなく、その余の事実については弁論の全趣旨によりこれを認めることができる。
七 原告らの損害額
以上の認定によれば、原告らの損害額は次のとおりとなる。
1 原告小川浩平
一二三一万四一〇〇円(但し、うち二〇〇万円は弁護士費用)
2 原告小川トシエ
九五九万四一〇一円
八 結論
そうすると、被告らは連帯して原告小川浩平に対し金一二三一万四一〇〇円及び遅延損害金の請求のなされていない弁護士費用二〇〇万円を除いた残金一〇二三万四一〇〇円に対する本件不法行為の日の翌日である昭和五三年七月二日から支払ずみにいたるまで民法所定年五分の割合による遅延損害金、原告小川トシエに対し金九五九万四一〇一円及びこれに対する本件不法行為の翌日である昭和五三年七月二日から支払ずみにいたるまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。そこで、原告らの各請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用し、仮執行免脱宣言は相当でないからこれを付さないこととし、主文のとおり判決する。
(裁判官 須田贒)