秋田家庭裁判所大館支部 平成20年(家)114号 審判 2009年3月24日
申立人
○○児童相談所長○○○○
事件本人
A
親権者母
B
主文
本件申立てを却下する。
事実及び理由
第1申立ての趣旨
申立人が事件本人に対する児童養護施設入所措置の期間を平成21年×月×日から更新することを承認する。
第2当裁判所の判断
1 一件記録によれば,以下の事実が認められる。
(1) 関係者等
事件本人(平成×年×月×日生)は,事件本人親権者母(以下「母」という。)及び父Cの長男である。母は,平成15年×月×日,Cと調停離婚し,同日以後母が事件本人の親権者である。
(2) 原審判前の事情
母は,平成17年×月×日,○○児童相談所に対し,電話で,事件本人に関し「子供を殺してしまいそう。」などと言って相談し,○○児童相談所は,同年×月×日から同年×月×日まで事件本人を一時保護した。母と事件本人は,平成17年×月×日,○○市内の母子生活支援施設「○○ホーム」に入所した。
母は,○○ホーム入所後も,事件本人の盗癖や虚言癖等を理由に,事件本人を居室から追い出して入室を拒んだり,事件本人を残して行く先を告げずに外泊し,あるいは執拗に事件本人を責めるなどした。
事件本人は,平成18年×月×日,△△児童相談所の一時保護所に入所した。○○児童相談所は,同年×月×日,事件本人を○○市内の児童養護施設「○○学園」に一時保護委託した。その後,事件本人の生活状況は落ち着いた。
母は,○○児童相談所及び○○ホームの職員に強い不信感を持ち,○○児童相談所との関わりを強く拒否していた。母は,平成18年×月×日,青森県○○市在住の当時の交際相手の自宅に転居した。
(3) 原審判
平成18年×月×日,秋田家庭裁判所大館支部において,概ね(1)及び(2)記載の事実を前提として,母が事件本人の心身の成長及び人格形成を妨げる行為をしており,今後も同様の行為が繰り返される蓋然性が高いとして,申立人が事件本人を児童養護施設に入所させることを承認する旨の審判がされ(原審判),平成19年×月×日,原審判は確定した。
申立人は,同日,事件本人を○○学園へ入所させる措置をとった。
(4) 原審判後の事情
ア 母の○○児童相談所及び○○学園に対する対応
母は,平成19年×月×日,○○児童相談所の担当者に対し,「虐待したとは思っていないが,子にしてみればつらかったと思う。かわいそうなことをしたと思う。」と述べた。
母は,同年×月×日,○○児童相談所の担当者らに対し,事件本人との面会に同担当者らが立ち会うことに不満を述べた。母は,同日以外にも度々,同様の不満を述べたり,○○児童相談所の担当者や○○学園の職員らの事件本人や母への対応について不満を述べ,あるいは批判をした。
母は,同年×月×日,○○児童相談所の担当者に対し,事件本人と一日も早く同居するには何をすればよいかを質問し,これに対し,○○児童相談所の担当者は,虐待を認め事件本人に謝罪すること,○○学園を信頼することが必要である旨説明した。母は,虐待は認め,事件本人にも謝罪した,○○学園に対しては同学園がきちんとした対応をすれば何も言わない旨述べた。
母は,同年×月×日,○○児童相談所の担当者に対し,事件本人の心理を知りたい,面会頻度の根拠を説明してほしい,事件本人の学校行事に参加したいと述べたほか,母自身が変わる必要を感じたこと等から○○児童相談所との今後の関わり方のあり方について質問したが,一方で,児童相談所は敵である旨も述べた。
母は,平成20年×月×日,○○学園の職員に対し,虐待の後遺症を解く方法について質問した。
母は,同年×月×日,○○児童相談所の担当者に対し,母と事件本人との外出時の様子を○○児童相談所の担当者に対して説明することに難色を示したものの,協力する旨述べた。
イ 事件本人の状況等
事件本人は,平成19年×月×日,○○学園の職員に対し,母について,「寂しくなった。でも頻繁に会うと一緒に居た時の嫌なことを思い出すので,ずっと一緒には居たくない。」と述べた。
事件本人は,同月ころ,母からもらったタオルを踏みつけた。
事件本人は,同年×月ころ,○○学園の職員らに対し,母について,好きであり,二人きりで面会したいが,同居するのは現在は無理だと思っている旨述べた。
事件本人は,平成20年×月×日ころ,○○児童相談所の担当者に対し,母は以前より優しくなり,中学校入学後同居したい旨述べ,同年×月×日にも同旨の内容を述べた。
事件本人は,○○学園に入所してからは他人の物を盗む行為をしていないが,自分より弱い子供に圧力を掛けたり,女子職員に対して挑発的な言動をしたり,嘘をついたりするなどの行動面での過ちについては,自己の非を十分に認めることができていない。
ウ 母と事件本人との面会等
母と事件本人とは,平成19年×月×日から平成20年×月×日に至るまでの間,概ね1か月から3か月の間に1度程度,面会,外出若しくは外泊するなどした。平成20年×月×日以降,○○児童相談所は母と事件本人との面会等を禁止した。
エ 事件本人の養育状況に関する母の現在の認識,母の現在の生活状況等
母は,原審判時の交際相手方から,平成19年×月×日に転居し,同居宅においては,6畳間1室を事件本人の居室にあてることが可能である。
母は,事件本人を養育するには十分な程度の収入を有している。
母は,現在は,精神的にゆとりがあり,原審判時のような母子関係にはならないし,仮に事件本人に虚言癖や盗癖が発露したとしても,原審判時のような対応をせず,暖かく見守って受け入れる旨述べている。
また,母は,原審判以前における事件本人への対応方法について,愛情に基づくものであったが,行きすぎた点があり,事件本人からすればつらかったと思う旨述べ,事件本人と同居した場合には,今後も事件本人の養育に関して青森県○○市の児童相談所の継続的な指導を受けるほか,職場の関係者や事件本人の祖母に相談していく意向を明らかにしている。
2 以上の事実を前提として判断するに,原審判時以前における事件本人の問題行動のうち,盗癖については改善していると認められる。一方,その余の問題行動については,今後も事件本人においてこれらの行動が発現する可能性は否定できないので,母が,事件本人と同居し,かつ,事件本人にこれらの行動がみられた場合において,事件本人を居宅から追い出したり,事件本人に行き先を告げずに外泊したり,執拗に事件本人を責めたりするなど,事件本人に対する虐待,監護懈怠その他の事件本人の福祉を害する対応をするおそれの有無を検討する。
前記認定のとおり,母は,○○児童相談所や○○学園に対して批判的な言動をしつつも,(1)原審判時以前における自らの事件本人に対する対応の仕方に行きすぎた部分があったこと,これを改める必要性,事件本人の養育方法について児童相談所ほかの関係機関の関与を受け入れる必要性を各認識していること,(2)母が事件本人のための居室を準備し,経済的にも事件本人を受け入れることが可能な状況にあること,(3)事件本人が母との同居を強く望んでいることがそれぞれ認められる。以上の各事情からすると,原審判に基づく措置を継続しなければ母が事件本人を虐待し,著しくその監護を怠るなどして著しく事件本人の福祉を害すると認めることはできない。
なお,申立人は,上記各事情のほか,母の影響から事件本人が母の存在をかさにきた威圧的な言動をすることをも本件申立の理由として主張するところ,その具体的な言動とは,①○○学園の職員が預金通帳を事件本人に開示することを拒んだ際,事件本人が,「無くしたら母さんに怒られる。母さんは怒ったら怖いや。」と述べたこと及び②○○学園の職員が就寝後騒いでいた事件本人に対し,「俺の家にはお金がいっぱいある。」と述べたことである。母が○○学園を含む関係機関の対応に批判的な言動をしていたことからすると,事件本人に上記各言動をするような影響を与えていた可能性は否定しがたいものの,一方で,母が,本件の審問手続きにおいて,今後は,関係機関に不信感を抱くことがあるとしても,これを事件本人に伝達するなど事件本人へ悪影響を与えるような行為はしない旨述べていることをも併せ鑑みるに,これが事件本人の虐待や監護の著しい懈怠若しくはこれらに比肩しうるような事件本人の福祉を著しく害する行為を推認させる事情であるとは評価しがたい。
3 よって,主文のとおり審判する。
(家事審判官 進藤光慶)