秋田簡易裁判所 昭和40年(ろ)58号 判決
判決理由〔抄録〕
依って審按するに<証拠>を綜合すると本件交通事故の発生した場所及び衝突の状況は大体大同小異で大差はない但し嵯峨強の検証の際に於ける指示中同人が(ア)点を進行中バスが(イ)点に停車して居た更に進んで(エ)点に来たときバスの先端が(オ)点に(カ)点に来たときバスの先端が(キ)点を進行して居たとの指示は遽かに信用し難いところである蓋し嵯峨強が(ア)点(エ)点(カ)点に於いてバスの進行状況を其の指示したように確認して居たとすれば同人は当然バスの先端及び後部の左端に左折の方向指示があったことを従って同バスが左折して秋田駅方面に進行するものであることは当然確認し得た筈であり又バスの左側を土手長町中丁方面に向って直進するような無謀な運転は敢えて為し得ない筈だからである寧ろ嵯峨は土手長町上丁の(ウ)点を進行中前方の信号が青となり土手長町中丁方面への進行が可能の状態となったので被告人のバスも同方面に直進するものと思いその儘の時速を以って広小路交差点に直進した為め折柄前記青信号により秋田駅方面に向って左折進行中の被告人のバスの乗降口に衝突するに至ったものなることを認むることが出来る(嵯峨強の検察官に対する供述調書、児玉三男の司法警察員に対する供述調書末尾記載証人堀尾銀之助の各証言参照)。
このように前方の信号に従い交差点を左折進行するに当ってバスの運転者たる被告人として如何なる運転上の注意義務を必要とするかその前方は勿論左右後方に至る迄自車の周囲全般に亘って注意し殊に本件の如く左側からの直進車の有無、直進車が法規を無視して交差点に進入しバスの左方からバスを追越して進行するのではないか等迄予想して注意しながら左折する義務があるかどうかである、尤もこのような場合左折車の運転者としては可能な範囲に於いて事故防止の注意義務の存することは勿論であるが本件に於いて仮りに被告人がバックミラーにより左側を進行し来る他車を認めたとしてもそれが左折車でない限り被告人は左折の方向指示をして居る以上左側車に優先して進行することが出来る筋合であるから直進車である嵯峨は当然停止線に停車し被告人その他の左折車が進行を終った後直進するものと思うのが常識であり、左折車の運転者たる被告人に前記のような注意義務を負わしむることは難きを求むるに等しく当裁判所の遽かに左袒し難いところである。自動車の運転に際しては何れの運転者も特別の事情の存しない限りは交通法規を守って運行するものなることを予想し之に応じた注意義務を尽せば足りるものと解する従ってバスの運転者たる被告人としては嵯峨が自車の左側から前車の左折方向指示を無視して交差点に進入直進し又は被告人のバスの左方から追越し進行することを迄予想し之に注意して左折する業務上の注意義務は存しないものと解するを相当と信ずる。果して然らば本件に於いて被告人としてはその業務上の注意義務は尽したものと言うことが出来るから被告人に注意義務違反の事実は認め難く此点に関する証明は充分でないから刑事訴訟法第三百三十六条により主文の通り判決する。