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舞鶴簡易裁判所 平成18年(ハ)2号 判決 2006年6月07日

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原告

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同訴訟代理人弁護士

西村幸三

鳥取市戎町471番地

被告

日本海信販株式会社

同代表者代表取締役

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同代理人支配人

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主文

1  被告は,原告に対し,金10万2842円及び内金10万1866円に対する平成17年12月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

主文第1項と同旨

第2事案の概要

本件は,貸金業者である被告から金員の借入及びその返済を繰り返していた原告が,被告に対し,利息制限法の制限利率を超過する利息を支払ったとして,不当利得金返還請求権及び不当利得金に対する利息請求権に基づき,超過して支払った利息の返還及びこれに対する年5分の割合による利息の支払を請求した事案である。

1  争いのない事実等

(1)  被告は,貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業法」という。)による登録を受けた貸金業を業務とする株式会社である。(弁論の全趣旨により容易に認められる。)

(2)  原告は,被告との間で金銭消費貸借契約を結び,平成6年5月30日から反復して,別紙計算書の「貸付・返済日」欄,「実際交付額」欄及び「返済額」欄に記載のとおり,金員の貸付けを受け,また返済をしてきた。

2  争点

(1)契約の個数及び充当方法

(被告の主張)

原告と被告間の貸金契約は次の4件が存在していた。

① 平成6年5月30日付金銭消費貸借契約 貸付金49万8800円

② 平成8年9月10日付金銭消費貸借契約 貸付金84万0532円

③ 平成11年10月22日付金銭消費貸借契約 貸付金50万円

④ 平成14年9月10日付クレジットカード利用契約(キャッシング及びショッピング)

そのうち①ないし③の各貸付は通常貸付であり,その貸付の都度現金の交付をしていて金銭消費貸借における要物性の要件を充足しているのであるから,それぞれ独立した別個の取引である。また,③の貸付は,原告が①と②に基づく借受金を全額弁済した日から479日経過した後であり,④の貸付は,③の貸付に基づく借受金を全額弁済した日から530日が経過した後であることに照らすと金銭消費貸借の連続性は認めがたいというべきである。

本件のように複数の貸付がある場合,1個の貸付について過払いが発生しても,その返還請求権が発生するに過ぎず,未だ発生していない別口の債務に当然に充当されることはない。本件について,①と②の貸付を通して発生した過払金を当時未だ存在しない③の貸付元金に充当することは失当である。同様のことは④についてもあてはまる。

(原告の主張)

利息制限法所定の利率を超えて被告が受領した部分の利息は,別紙計算書のとおり順次元金に充当される。その結果,既に残元金が0円になり,その後に被告が受領した分は,法律上原因なく受け取ったもので不当利得になる。

被告主張の①ないし④の各取引は一連の取引とみるべきものである。例えば,②の取引は,明らかに従前の元金と追加貸付を合体させて一個の金銭消費貸借契約とするものである。③及び④の取引は,返済が進んだ顧客に追加貸付・再貸付することにより貸付残高を維持して高金利を収受することを目的としてなされたものである。④の取引については,被告の貸付がATMによるリボルビング貸付に移行したことによるものである。いずれにしても,不当利得と追加貸付・再貸付との充当関係について当事者の合理的意思解釈に何ら差が生ずるわけではない。

(2)悪意の受益者

(原告の主張)

被告は,本件貸付の利率が利息制限法所定の利率を超過している事実を知りながら貸付を行い,原告から返済を受けていたのであるから悪意の受益者(民法704条)であり,その不当利得分につき年5分の利息が発生する。

(被告の主張)

原告主張事実を否認する。

第3当裁判所の判断

1  争点(1)契約の個数及び充当方法について

(1)争いのない事実等,証拠(甲1,甲2,甲3の1,甲3の2)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

被告は①の取引に続いて②の追加貸付をした。②の取引は平成10年6月30日全額弁済され,その後479日経過した平成11年10月22日に③の貸付が行われた。③の貸付は「パソコン購入資金」として50万円の貸付がなされた。③の取引が終了した平成14年4月4日から約5か月経過した後に④のクレジットカード利用契約(キャッシング及びショッピング)が締結され,原告はそのカードを使用して平成15年9月16日から9回に渡り金銭を借り受けた。

これらの事実に照らすと,①ないし④の取引がすべて一連の契約に基づくものであるとは認められない。①と②の取引,③の取引,④の取引は,各別個の金銭消費貸借契約による取引であると認められる。

(2)そこで,①と②の借入金完済時における過払金を,その時点で未だ存在していない③の借入による借入金に,また③の借入金完済時における過払金を,その時点で未だ存在していない④の借入による借入金に各充当されるかについて検討する。

「同一の貸主と借主との間で基本契約に基づき継続的に貸付けが繰り返される金銭消費貸借取引において,借主がそのうちの一つの借入金債務につき法所定の制限を超える利息を任意に支払い,この制限超過部分を元本に充当してもなお過払金が存する場合,この過払金は,当事者間に充当に関する特約が存在するなど特段の事情がない限り,民法489条及び491条の規定に従って,弁済当時存在する他の借入金債務に充当され,当該他の借入金債務の利率が法所定の制限を超える場合には,貸主は充当されるべき元本に対する約定の期限までの利息を取得することができないと解するのが相当である。」と解されている(最高裁判所平成15年7月18日第二小法廷判決・民集57巻7号895頁)。

ところで,同一当事者間において,基本契約に基づいて継続的に貸付と返済が繰り返されている場合に,過払金が他の借入金債務に充当されると解するのは,そのような場合,借主は,借入総額の減少を望み,複数の権利関係が発生するような事態が生じることは望まないのが通常と考えられるから,特段の事情のない限り,弁済当時存在する他の借入金債務に対する弁済を指定したものと推認できるためである。

そうすると,本件は,前記のとおり別個の契約によるものであるが,原告と被告は①と②の取引で借換えや借増しを長年継続してきた上,③の取引及び④の取引をなし,何回も借入をしていたことを考えると,原告が一方で過払金につき不当利得返還請求権を有しながら,他方で借入金債務を負担するという債権債務が存在する状態を望んでいたとは推認できず,反対に過払金を新規の借入金債務の元本に充当し早期に元本が減少して利息の負担が軽減されることを望んでいたと推認できる。

また,過払金発生時に新規の借入金債務が存在していないので充当関係が生じないのではないかという点については,同一当事者間における金銭消費貸借の取引において,一方で過払金について不当利得返還請求権が発生し,民法所定の年5分の割合による利息が発生するに止まるのに,他方で約定による高い利息が発生すると解するのは公平に反しこれを取得させるべきでないし,原告の過払金を他の借入金債務の元本に充当する意思は,借入金債務が過払金発生後に生じたものであっても変わるものではないと推認されることから,過払金は新規の借入金債務に当然充当されると解すべきである。

したがって,本件においても,過払金は後の借入金債務に充当されるものと解するのが相当である。

2  争点(2)悪意の受益者について

被告は,貸金業法の登録を受けた貸金業者であり,貸金業を営利目的で行っており,みなし弁済(貸金業法43条)が認められる場合を除き,利息制限法所定の制限利率を超える部分の利息が不当利得となることを認識していたものと認められる。

本件において,被告はみなし弁済の主張をせず,その証拠も提出していないのであるから,被告は過払金発生当時,みなし弁済が成立することを認識していたと認めることはできず,過払金について,過払金発生時点で受益について法律上の原因がないことを認識していたと考えられる。したがって,被告は,民法704条の悪意の受益者と認められる。

3  原告が被告に返済した返済金を利息制限法所定の利率により計算して残債務に充当すると,別紙計算書記載のとおりになり,平成17年12月6日の時点で10万1866円の過払金及び976円の過払金利息が発生していることが認められる。

4  よって,原告は,被告に対し,過払金10万1866円並びに最終取引日の平成17年12月6日時点での過払金利息976円及び過払金に対するその翌日である平成17年12月7日から年5分の割合による利息の各支払請求権を有するものと認められ,原告の請求は理由があるからこれを認容する。

(裁判官 青木光彦)

<以下省略>

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