茨木簡易裁判所 昭和59年(ハ)79号 判決 1985年12月20日
原告 甲野花子
右訴訟代理人弁護士 福本基次
右同 小田耕平
右同 平野鷹子
被告 東京美粧株式会社
右代表者代表取締役 川崎厚美
右訴訟代理人弁護士 井上二郎
被告 株式会社オリエントファイナンス
右代表者代表取締役 阿部喜夫
右訴訟代理人弁護士 中垣一二三
右同 針間禎男
右同 綿島浩一
右同 北野幸一
右訴訟代理人支配人 岡田英雄
右訴訟代理人 浅村博美
主文
被告東京美粧株式会社は原告に対し、別紙目録記載の化粧品の引渡をうけるのと引換えに金一万五、〇〇〇円を支払え。
原告の被告東京美粧株式会社に対するその余の請求を棄却する。
原告の被告株式会社オリエントファイナンスに対する昭和五八年八月二六日付立替払契約に基づく金一五万四、〇〇〇円の債務の存在しないことを確認する。
被告株式会社オリエントファイナンスは原告に対し、金一万四、〇〇〇円を支払え。
訴訟費用は、原告に生じた費用の二分の一と被告東京美粧株式会社に生じた費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その余は被告東京美粧株式会社の負担とし、原告に生じたその余の費用と被告株式会社オリエントファイナンスに生じた費用を被告株式会社オリエントファイナンスの負担とする。
この判決は、主文第一項及び第四項に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告東京美粧株式会社は原告に対し、金一万五、〇〇〇円を支払え。
2 被告株式会社オリエントファイナンスの原告に対する昭和五八年八月二六日付立替払契約に基づく金一五万四、〇〇〇円の債務の存在しないことを確認する。
3 被告株式会社オリエントファイナンスは原告に対し、金一万四、〇〇〇円を支払え。
4 訴訟費用は被告らの負担とする。
5 第一項及び第三項について仮執行宣言の申立。
二 請求の趣旨に対する答弁
被告ら
1 原告の被告らに対する請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、昭和五八年八月二五日被告東京美粧株式会社(以下被告東京美粧という)との間で、別紙目録記載の化粧品(但し書の部分を除く)を買受け、かつ二〇回のエステティック美容(美容を目的とする役務)をうける契約(以下単に化粧品購入契約という)を代金一六万五、〇〇〇円(内訳化粧品購入代金一〇万円、エステティック美容代金六万五、〇〇〇円)の約束で締結した。
2 原告は被告東京美粧に対し、化粧品購入契約の代金の一部として右契約日金一万円を、翌八月二六日金五、〇〇〇円を支払った。
3 原告は、昭和五八年八月二六日被告株式会社オリエントファイナンス(以下被告オリエントファイナンスという)との間で次のとおり立替払契約を締結した。
(イ) 原告は被告オリエントファイナンスに対し、原告の被告東京美粧に対する化粧品購入契約に基づく代金の内金一五万円を同被告に立替払することを委託する。
(ロ) 原告は被告オリエントファイナンスに対し、右立替金一五万円に手数料として金一万八、〇〇〇円を付加した合計金一六万八、〇〇〇円を、昭和五八年九月から昭和五九年八月まで毎月二七日限り金一万四、〇〇〇円ずつ分割して支払う。
4 右立替払契約に基づき、原告は同年一一月四日被告オリエントファイナンスに対し金一万四、〇〇〇円を支払った。
5(一) 原告は、被告東京美粧との間で化粧品購入契約を、又被告オリエントファイナンスとの間で立替払契約を各締結した昭和五八年八月当時は満一八才で未成年であった。
(二) 原告は被告東京美粧に対し、昭和五九年一月三〇日付内容証明郵便をもって同被告との間の化粧品購入契約を取消す旨の意思表示をなし、同書面はその頃同被告に到達した。
(三) 原告は被告オリエントファイナンスに対し、本件訴状をもって同被告との間の立替払契約を取消す旨意思表示をなし、本件訴状は昭和五九年六月四日同被告に到達した。
6 被告オリエントファイナンスは原告に対し、立替払契約に基づく金一五万四、〇〇〇円の債権が存在すると主張している。
7 よって原告は、
被告東京美粧に対し、不当利得返還請求権に基づき、同被告が化粧品購入等の代金として原告から受領した金一万五、〇〇〇円の支払を求め、
被告オリエントファイナンスに対する立替払契約に基づく金一五万四、〇〇〇円の債務の存在しないことの確認及び不当利得返還請求権に基づき、同被告が立替払金として原告から受領した金一万四、〇〇〇円の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
被告東京美粧
1 請求原因12の事実は認める。
2 同5(一)の事実は知らない。
3 同5(二)の事実は認める。
被告オリエントファイナンス
1 請求原因34の事実は認める。
2 同5(一)の事実は知らない。
3 同5(三)の事実は認める。
4 同6の事実は認める。
三 抗弁
被告東京美粧
1 原告と被告東京美粧とが化粧品購入契約を締結した昭和五八年八月二五日当時原告が未成年者であったとしても、原告は右契約に際し、契約申込書に自己の生年月日を昭和三八年一月二六日である旨記載して成年者であるかのように自己の年令を詐称し、被告東京美粧はこれによって原告を能力者であると信じて右契約を締結した。
2 原告は、被告東京美粧との間で右契約を締結した当時訴外丙川株式会社に勤務して自ら収入を得ていたものであるから、右契約代金一六万五、〇〇〇円程度の財産については目的を定めることなく法定代理人である親権者からその処分を許されていたものである。
3 被告東京美粧は原告との間の右契約に基づき原告に対し、昭和五八年九月一四日までに別紙目録記載の化粧品(但し書の部分を除く)を引渡しているものであるから、仮に原告による右契約の取消が有効であって、被告東京美粧が原告に対し、右契約に基づき受領した代金一万五、〇〇〇円の支払義務を負うものであっても、被告東京美粧の右代金の支払義務は原告の右化粧品返還義務と同時履行の関係にあるから、原告が右義務を履行するまで被告東京美粧は右代金の支払を拒絶するものである。
被告オリエントファイナンス
原告と被告オリエントファイナンスとが立替払契約を締結した昭和五八年八月二六日当時原告が未成年者であったとしても、原告は同年八月二五日被告東京美粧との間の化粧品購入契約の締結に際し、被告オリエントファイナンスに対する立替払契約の申込書に、自己の生年月日を昭和三八年一月二六日と記載し、かつ翌八月二六日被告オリエントファイナンスの原告に対する電話による右契約内容の確認に対しても、右書面の記載に誤りのない旨陳述して、自己が成年者であるかのように年令を詐称したものであり、被告オリエントファイナンスはこれによって原告は成年であって能力者であると信じて立替払契約を締結した。
四 抗弁に対する認否
被告東京美粧の抗弁について
1 抗弁1のうち、原告が被告東京美粧主張の申込書に自己の生年月日を昭和三八年一月二六日と記載した事実は認めるが、原告がこれにより成年者であるかのように自己の年令を詐称したとの事実は否認する。
昭和五八年八月二五日原告が被告東京美粧との間に化粧品購入契約を締結するに際し、原告は、同契約締結について権限を有する被告東京美粧の従業員井口順子、及び田村某に対し生年月日は昭和四〇年一月二六日であって年令は満一八才である旨告知したところ、右従業員らは未成年では信販会社との間の立替払契約が締結できないので、原告をして単なる書類作成上の内部手続と誤信させて、生年月日を昭和三八年一月二六日年令を満二〇才と記載するよう指示し、前記申込書にその指示どおり虚偽の事実を記載させたものである。
2 同2のうち、原告が被告東京美粧主張の契約締結当時、訴外丙川株式会社に勤務していたことは認めるが、その余の事実は争う。
3 同3のうち、原告が被告東京美粧からその主張のとおりの化粧品の引渡をうけた事実は認める。
被告オリエントファイナンスの抗弁について
抗弁事実中、原告が被告オリエントファイナンス主張の申込書に自己の生年月日を昭和三八年一月二六日と記載した点に関する認否は、被告東京美粧の抗弁1に対する認否と同じであり、被告オリエントフィイナンスの原告に対する電話確認の点については、同被告主張の日に同被告から原告に対し電話があったことは認めるが、それは契約の金額に対する確認がなされたものであり、原告が、生年月日は同被告主張の申込書に記載したとおり昭和三八年一月二六日であることに間違いない旨回答した事実は否認する。
五 被告東京美粧に対する再抗弁
原告は被告東京美粧から引渡しを受けた化粧品について、いずれも一部を使用し、現存するのは各化粧品について一部ずつである。
六 再抗弁に対する被告東京美粧の認否
再抗弁事実は知らない。
第三証拠《省略》
理由
一1 請求原因12345の(二)、5の(三)及び6の事実は当事者間に争いがない。
2 《証拠省略》によると原告は昭和四〇年一月二六日生れであって、本件化粧品購入契約及び立替払契約を締結した昭和五八年八月当時は満一八才であったことが認められる。
二 そこで被告らの抗弁について判断する。
1 被告東京美粧の抗弁1及び被告オリエントファイナンスの抗弁について
(一) 右各抗弁事実のうち原告が被告ら主張の立替払契約申込書等にその生年月日を昭和三八年一月二六日と記載した点及び被告オリエントファイナンスの抗弁事実のうち、同被告主張の日に同被告から原告に対し電話があった点については当事者間に争いがない。
(二) 《証拠省略》を総合すると、原告は昭和五八年八月二五日買物のため大阪市南区道頓堀を通行中、被告東京美粧の従業員である井口ら二名から化粧品販売の勧誘(いわゆるキャッチセールス)のため声をかけられ、その付近に所在の同被告の事務所に趣き、同所でエステティック美容及び化粧品購入を内容とする本件化粧品購入契約を代金一六万五、〇〇〇円(内化粧品代金一〇万円エステティックの代金六万五、〇〇〇円)で締結することにして同契約に関しクレジットを利用することにしたが、立替払契約は被告オリエントファイナンス以外の信販会社との間では締結することはできず、同契約申込の手続は被告東京美粧の右従業員らからショッピングクレジット及びファイナンスカード会員申込書とショッピングクレジット契約書等が一綴りになっている用紙を示され、その用紙にそれぞれ所定の事項を記入することによってなされたものであること、被告東京美粧は被告オリエントファイナンスを代行し、本件立替払契約の締結の申込の取扱及び平素これと同種の行為をしていたものであること、原告は右契約申込の際、被告東京美粧の従業員らから右用紙の記載事項の一つである年令を聞かれ、生年月日は昭和四〇年一月二六日で満一八才である旨答えたところ、同従業員らから右用紙の所定らんに生れた年を昭和三八年と記入するよう指示され、原告はその指示に従い同所定らんに生年月日を昭和三八年一月二六日と記載したことが認められる。《証拠判断省略》
(三) そこで右各事実のもとに、原告が立替払契約等の申込書に真実と異なる生年月日を記載したことが、被告らに対し自らを能力者であると信じさせるために詐術を用いたことにあたるか否かについて判断する。
前記認定のとおり原告は昭和五八年八月二五日被告東京美粧との間に化粧品購入契約を締結するにあたり、その衝に当る同被告従業員らに対し、自己の真実の年令、生年月日を告げているものであり、前記立替払申込書等に真実と異なる生年月日を記載したのは右被告従業員らが指示して原告に記載せしめたものであって、このような状況にあっては原告は化粧品購入契約に際し、右被告に対し真実の生年月日を告知したものとみるべく、原告が右経緯により前証申込書等に真実と異なる生年月日を記載したとしても、これをもって原告が自ら成年者であって能力者であることを右被告に信じさせるために詐術を用いたことにはあたらないと言うべく、よって被告東京美粧の抗弁1は理由がない。
次に被告オリエントファイナンスの抗弁について検討するに、前記認定によれば、被告オリエントファイナンスと被告東京美粧とは加盟店契約を結んでいる信販会社と加盟店である販売店であって、被告オリエントファイナンスは立替払契約の申込に関する事務を被告東京美粧に代行させ、同被告を一種の自己の機関として契約を締結していたものであり、原告は被告オリエントファイナンスとの本件立替払契約締結にあたり、右のとおり事務を代行する被告東京美粧の従業員に対し、自己の真実の年令、生年月日を告知しているのであり、かつ立替払契約書等の真実と異った年令の記載は、同従業員らの指示に基づくものであって、この場合原告が積極的に被告オリエントファイナンスをして自己を能力者と信ぜしめる意思のもと、その手段として右申込書等に虚偽の年令を記載したものと認められるときは、同記載は詐術に当ると言うべきであるが、原告自身としては右従業員に真実の年令、生年月日を告げたものであり、何ら被告オリエントファイナンスを誤信させることを欲するものではなかったにもかかわらず、被告オリエントファイナンスの立替払契約の事務を代行する被告東京美粧の従業員により、右申込書等に生年月日を昭和三八年一月二六日と記載するよう指示され(原告はクレジット取引について未経験であって智識が乏しかった)その指示のとおり記載したものであると認められるものであって、この場合に単に右記載の一事をもって、被告オリエントファイナンスに対し自己を成年者であって能力者であると信じさせるための詐術に当るというのは相当でないと言わねばならず、右記載によって、被告オリエントファイナンスが原告を成年者と誤信することがあるとしても、それは自己が立替払契約の締結事務を代行させている被告東京美粧の従業員が右事務代行に当り原告に指示して右のとおり生年月日を記載せしめた結果によるものであって、前記のとおり原告に対し詐術を用いた場合にあたるものと主張することはできない。
昭和五八年八月二六日被告オリエントファイナンスから原告に対し立替払契約に関し電話があった際、原告が同被告に対し、原告の生年月日が立替払申込書に記載のとおり昭和三八年一月二六日に相違ない旨回答した事実についてはこれを認めるに足りる証拠はない。
よって被告オリエントファイナンスの抗弁は理由がない。
2 被告東京美粧の抗弁2について
原告が、被告東京美粧との間で化粧品購入契約を締結した昭和五八年八月二六日当時訴外丙川株式会社に勤務していた事実は当事者間に争いがない。
《証拠省略》によれば、原告が昭和五八年八月頃訴外丙川株式会社から受取っていた給料は一か月の手取金額で約七万ないし八万円位であってその内食費として約三万ないし四万円位を費消し、その残額から実家への送金分を差引くと残りが約二万ないし三万円位であったことが認められる。さて原告の月収金額と化粧品購入代金額一六万五、〇〇〇円を比照するに、化粧品代金は月収に比し約二倍に相当する金額であって、かつ食費及び実家への送金分を差引いた残額が約二万ないし三万円であることを考慮すれば、本件化粧品購入金額はその処分につき予め親権者から包括的に同意を与えられていたとみるには高額に過ぎるものであり、原告の同購入をもって親権者から処分を許された財産の使用と認めることは難しい。尚被告オリエントファイナンスに対する立替金の支払が一か月一万四、〇〇〇円であっても、原告が分割払について期限の利益を失う事態が生じた場合は契約代金全額について直ちに支払うべき義務が生ずるものであって、一か月一万四、〇〇〇円の分割払の金額をもって考慮の対象とすることは相当でない。
3 被告東京美粧の抗弁3について
原告が被告東京美粧との間の化粧品購入契約に基づき同被告から昭和五八年九月一四日までに別紙目録記載の化粧品(但し書きの部分を除く)の引渡しを受けたことについては当事者間に争いがない。
三 再抗弁について
《証拠省略》によれば、原告は被告東京美粧から受取った化粧品についてそれぞれその一部を使用していることが認められる。
四 以上により原告と被告東京美粧との間の化粧品購入契約の取消により、原告においても同被告から受取った化粧品を現存する範囲で返還すべき義務があり、右義務は被告東京美粧の原告に対する金一万五、〇〇〇円の支払義務と同時履行の関係にあるから、原告の被告東京美粧に対する本訴請求は、原告が所持する別紙目録記載の化粧品を引渡すのと引換えに右支払金一万五、〇〇〇円の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、原告の被告オリエントファイナンスに対する本訴請求はいずれも理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき、原告と被告東京美粧との間では民事訴訟法八九条、九二条を、原告と被告オリエントファイナンスとの間では同法八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を各適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 谷口伊一郎)
<以下省略>