藤岡簡易裁判所 平成20年(ハ)14号 判決 2008年7月02日
東京都港区六本木一丁目8番7号
原告
かざかファイナンス株式会社(旧商号 株式会社ライブドアクレジット)
同代表者代表取締役
●●●
同訴訟代理人
●●●
群馬県●●●
被告
●●●
同訴訟代理人弁護士
金井厚二
主文
1 被告は,原告に対し,金19万6944円及び内金19万4073円に対する平成17年9月2日から支払済みまで年6パーセントの割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを2分し,それぞれを各自の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
被告は,原告に対し,金19万6944円及び内金19万4073円に対する平成17年9月2日から支払済みまで年26.28パーセントの割合による金員を支払え。
第2請求原因の要旨
1 原告(旧商号株式会社ライブドアクレジット)と被告は,平成17年5月2日,次の約定の金銭消費貸借基本契約(極度額契約)を締結した。
(1) 借入極度額 金50万円
(2) 弁済方法及び弁済金額 融資金額スライドリボルビング方式
借入金額20万円以下の場合 金7000円
(3) 弁済期日 毎月1日限りとする。
(4) 利息及び遅延損害金の割合 年29.2パーセント
(5) 利息の支払期 上記(2)の弁済金額支払時同時払い。
(6) 期限の利益喪失特約
上記(2)に基づく弁済金額の支払を1回でも怠った場合は,当然に期限の利益を喪失し,直ちに元金残高に利息及び遅延損害金を加算して一時に支払う。
2 原告は,上記1の基本契約に基づき,平成17年5月2日,被告に対し,金20万円を貸し付けた。
3 ところが,被告は,支払期限の平成17年9月1日に支払うべき上記分割金の支払を怠り,期限の利益を喪失した。
被告は,別紙計算書のとおり支払をしたのみで,その余の支払をしない。
4 そこで原告は,被告に対し利息制限法所定の利率に引き直して,被告の弁済金を別紙計算書のとおり充当した。
5 よって,原告は,被告に対し,残元金19万4073円及び未払利息金2871円並びに残元金に対する平成17年9月2日から支払済みまで年26.28パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。
第3答弁の要旨
1 原告主張の基本契約締結の事実及びその基本契約に基づき被告が平成17年5月2日に原告から金20万円を借りたことは認める。
2 被告が平成17年8月2日に金1万5000円の支払をしたことは認め,その余の主張は争う。
3 原告の被告に対する本件貸付は,貸金業規制法第13条の過剰貸付禁止規定に違反している。よって,裁判所が原告に対し,減額を命ずる判決を下すことを求める。
4 過剰貸付であることを基礎付ける具体的事実
(1) 平成17年4月当時の被告の生活経済状態は,次のとおりであった。
(家族と仕事)
① 被告本人(昭和●●●年●●●月●●●日生,32歳)
(株)●●●勤務(給料1か月約30万円)
② 妻●●●(昭和●●●年●●●月●●●日生,32歳)
●●●店パート勤務(給料1か月約8万6000円)
③ 長女●●●(平成●●●年●●●月●●●日生,7歳)
④ 二女●●●(平成●●●年●●●月●●●日生,5歳)
(借家)
家賃 1か月 3万5000円
(負債)
① 原告を除いた消費者金融会社5社に対し合計約234万円。そしてその支払が滞っていた。
② 国民健康保険,国民年金の滞納額 約18万円
③ 妻の自動車税滞納額 約2万7000円
(資産)
預・貯金額は,給料が振り込まれた後,生活費を支弁すると残りはなくなり,消費者金融への返済に困っていた。
(父,母からの借入)
それで,父(●●●勤務,●●●),母(パート勤務)に泣きついて借り,やっと遣り繰りをして生活していた。
(2) 本件貸付の端緒等
平成17年4月ころ,被告が消費者金融会社5社への返済に窮し悩んでいたとき,どういうことか,突然,原告会社(株式会社ライブドアクレジット)水戸支店から,被告宛に融資勧誘の郵便物が届いた。
それで,消費者金融会社5社への返済に苦悩していた被告は,「溺れる者藁をも掴む」の思いで,郵便物に書いてあった電話番号宛に架電した。
すると,相手から,氏名や生年月日,他社からの借入状況,収入などを聞かれ,ありのままに答えると,その場で20万円なら貸せると言われ,被告は,20万円あれば,消費者金融会社5社に対して滞っていた末払金の支払に遣え,一時凌ぎができると思って融資を受けることにした。そして,相手から言われたとおり,コンビニエンスストアのファクシミリを借りて,自動車免許証や預金通帳のコピーを相手に送信すると,間もなくして,原告会社から借入契約書の用紙が郵送されてきたので,それに記入して返送した。
そして,5月初旬,原告会社から被告の預金口座に20万円が振り込まれてきた。それで,被告は,返済に苦悩していた消費者金融会社5社への支払に遣い,一時を凌いだのである。しかし,当然のことながら,負債額は以前よりも更に増え,より窮迫した苦しい立場に追い込まれることとなった。
(3) 平成18年改正法における総量規制等
多重債務者が増大した理由の一つは,借手の返済能力を超える過剰貸付が行われたことにあり,平成18年の貸金業法の改正で,1社で50万円,または他社と合わせて100万円を超える貸付を行う場合には,源泉徴収票等の提出を受けることを業者に義務づけ(13条3項),年収等を基準にその3分の1を超える貸付を原則禁止する総量規制が導入された(13条の2第2項)。
これを,平成17年4月,原告が被告に本件貸付をしたときに当てはめてみると,当時被告は,5社からの借入残高合計が約234万円となっており,被告からの借入20万円を加えると合計借入残高は254万円となる。他方,当時の被告の年収は約360万円(30万円×12=360万円)であるから,年収の3分の1は120万円であり,合計借入残高254万円は,これを超えているどころか,平成18年改正法の総量規制基準値の2倍を超える極めて異常な過剰貸付であったことが明らかとなる。
5 被告代理人弁護士受任後の経緯等
(1) 被告は,平成17年8月当時,いわゆるサラ金6社に対する負債その他の負債があって,支払不能となり,その解決を当代理人弁護士金井に委任した。当代理人弁護士金井は,平成17年8月11日付けで,被告など金融業者6社宛に「受任通知と照会」(自己破産申立予定の通知)をし,自己破産申立ての準備にとりかかった。
(2) しかし,その後,いくつかの金融業者から,債権額を減額するので,和解によって解決できないかとの申し出があった。そこで,当代理人弁護士金井は,被告及びその妻(パート勤務)と相談をした結果,減額と長期分割が可能ならば,努力をして返済をしていこうということになり,任意整理へと方針を切り替えた。
(3) そこで,当代理人弁護士金井は,金融業者各社と折衝を行い,現在までに,6社の内4社(4社の業者主張額合計約144万円)との間で,和解(4社に対する支払合計約85万円・59パーセント支払で最長5年の分割払)が成立し,現在分割返済中である。
しかし,現在,原告(請求残元金19万4073円)とT社(その請求残元金約100万円)の2社との和解が成立していない。
(4) 当代理人弁護士金井は,被告の原告に対する分割金の返済が1回しかないことを配慮して,平成19年10月15日,金22万円を28回払(初回金6万円,以降は毎月6000円の分割払,但し最終回は端数)の和解案を最終案として提示した。
(5) ところが,原告は上記の最終提案を拒絶するとともに,被告の住所地から遠方の東京簡易裁判所に本件訴えを提起した。その後,本件訴訟は藤岡簡易裁判所に移送となり,現在に至っている。
(6) 原告は,残元金及び残元金に対する経過利息(利息及び遅延損害金)を付加した金員の一括払いでしか和解には応じられないなどと頑なに主張しており,被告としては,減額及び分割払いに応じてくれた他の金融業者とのバランスを失することも問題であるし,ひいては任意整理の前提となる土台自体が揺らいで,自己破産・免責の申立ても再検討せざるを得ない状況に追い込まれかねず,極めて憂慮している。
(7) 債務者が多数の金融業者から借入をし,全額返済が不能状態であるが和解交渉をし,半数を超える多くの業者に減額をしてもらって解決あるいは解決できる状況にあるとき,1ないし少数の業者が他の業者と大きく公平性を欠いた請求額を訴える事案に対して,裁判所はこれを許していない。本件においても,裁判所が原告に対し,減額を命ずる判決を下すことを求める次第である。
第4被告の主張に対する原告の反論
1 原告は,被告からの借入申込を受け付けた後,電話にて被告本人から現在の収入並びに借入の状況,返済の状況並びに遅滞の有無,家族構成等について聞き取り調査を行い,甲第3号証(借入申込書)のとおり,月収が金38万円であると申告を受けた。
2 上記の聞き取り調査の結果,被告の申告では,借入申込時点での他社からの借入は4社の240万円(甲第3号証)ということであったが,原告の加入する信用情報機関での調査結果では,5社の金232万円であることを確認した。そして,今後の返済計画については,当社への返済分として金7000円程度の分割金の支出が加算されることになることを説明し,その返済能力を尋ねたところ,被告から全く問題がない旨の意思表示がなされたので,融資の実行に至ったものである。
3 原告は,貸金業法第13条の遵守並びに金融庁・事務ガイドラインの趣旨を十分にふまえ,又,信用情報機関を活用しながら,被告本人からの聞き取り調査により補充し,総合的に判断して融資実行に至っているものである。およそ貸金業を営むものとして,その目的は融資を行うことにあるのではなく,融資した元金はもとより利息を回収して初めて「業」として成り立つものである以上,与信の判断については誰の指摘を待つまでもなく,貸金業者自身が最重要事項として取り扱うことは当然であり,この点,原告会社での融資実行においては,融資金額の大小にかかわらず複数名による「決済」を経て実行に至る扱いとなっている。
4 被告代理人は,原告に対し,本件貸付が「過剰融資」に当たると主張しているが,前記のとおり,支払が滞ることを前提に融資する貸金業者は存在しない。むしろ,問題は借手側(被告)にあるのである。本件のみならず,貸手側の信用情報機関の調査だけでは,借手側の必ずしも正確な借入状況を把握することは困難である。被告代理人の主張は,貸金業者に対し正しい情報を開示しなければならない取引上の義務が存するという認識に欠ける,およそ実務をわきまえない,極めて一方的な不当な主張であると言わざるを得ない。仮に被告代理人が主張する原告による支払能力の調査が十分になされれば判明する「何か」があったとすれば,それは被告自身において原告に対し開示すべきものであり,こうした開示すべき重要な情報を開示しないでおきながら,原告の貸付が貸金業法第13条で規制する過剰融資にあたり,またガイドラインの趣旨に反するとして当該貸付の無効とも取れる「減額」を主張するがごとき被告代理人の主張は,到底許されるものではない。
5 もし,被告自身が「過剰借入・支払不能」状態でありながら,原告会社に申込をして,あたかも「支払可能」であると原告に見せかけ,融資契約を交わしていたとしたら,それは欺罔行為に当たることになる。その場合は,損害賠償金を含め,本件請求の趣旨及び請求金額を訂正する考えである。
6 被告は,平成17年5月2日融資契約における,初回弁済期が到来する前の,平成17年5月18日付けで,訴外司法書士へ既に債務整理を依頼している(甲第4号証・通知書)。この受任通知に対し,原告は真摯に対応したが,平成17年6月29日付けで,その代理人司法書士は辞任した(甲第5号証)。それを受けた原告は,被告本人へ電話連絡をして,ようやく平成17年8月2日付けで金1万5000円の弁済を受けられたものである。その後,平成17年8月11日付けで現在の被告代理人が債務整理を開始したものである。
7 前述のとおり,被告は融資契約の16日後に,一度も弁済を行わずに前任代理人の司法書士へ債務整理を依頼している。この期間から考慮した場合,その「依頼相談」は,原告からの融資前に行われたものと推測され,融資金の一部は,その「依頼金」に使用されたものと考えられる。そしてそれは,被告の「支払意思」が,借入申込当初から無かったものと考えざるを得ない。そして,結果的にこれら被告の行為は,始めから計略されたものと言わざるを得ない。この状況をもって,「過剰融資」及び「債務額減額」との被告の主張は,信義則にも反する悪質なものであると原告として主張する。
8 結語
(1) 原告は被告に対し「融資勧誘」を行った事実はなく,被告への融資も貸金業規制法上,違反した事実はない。したがって,被告の「過剰貸付」及びそれを根拠とする「債務額減額」の旨の主張は失当である。
(2) 原告は被告の最終弁済の平成17年8月2日以降,一切の弁済を受けていない状況であり,その間,被告に融資した金員分の,銀行からの借入について利息を払い続けている。債務整理を依頼すること自体に問題はないが,しかし,その債務整理の決着に至るまでは,原告は債務者からの一切の弁済も受けられず,その間も,債務者に融資した金員分の調達金利を支払い続けなくてはならない状況に置かれるのである。したがって,原告としては,進展見込みの無い案件をこれ以上傍観できる状況ではないため,やむなく本訴提起に至ったものである。
第5当裁判所の判断
1 はじめに
請求原因事実は当事者間に争いがなく,また,原告の請求は,私的自治の限界を画する強行法規たる利息制限法に則ったものであるから,特段の事情なき限りは全面的に認容されるべき性質のものである。そこで,その「特段の事情」の有無につき項を改めて順次検討することとする。
2 貸付総額(総量)の客観的過剰性について
証拠並びに弁論の全趣旨によれば,次の各事実を認めることができる。
(1) 本件借入の直近である平成17年4月当時の被告の負債状況等は次のとおりであった。
① 原告を除いた消費者金融会社5社からの借入合計 約234万円
② 国民健康保険,国民年金の滞納額 約18万円
③ 自動車税滞納額 約2万7000円
④ 証書貸付の方法により,かんら信用金庫から平成14年9月に借り受けた192万8150円の分割返済金の負担
通常月 1万8529円
ボーナス月(2月,8月) 13万0196円
但し,被告の勤務先はボーナスの支給なし。
⑤ 毎月支払うべき家賃の額 3万5000円
(2) 他面において,同時期における被告の収入は,弁当屋である株式会社●●●から支給される給料が,1か月当たり,手取り約30万円であった(ボーナスはないので,年収約360万円)。
(3) まとめ
上記の負債と収入の状況を対比したのみでも,平成18年改正貸金業法の総量規制基準値(年収等を基準にその3分の1を限度とする)に照らすまでもなく,被告の返済能力を超えた過剰債務(返済不能の多重債務)の客観的状況にあることが明らかである。
3 上記の客観的過剰性についての原告の主観的認識について
原告の主張によれば,原告の貸付担当者が,被告からの借入申込を受け付けた際に把握した被告の負債・収入の状況については次のとおりである。
(1) 他社借入額は,被告の申告では4社の240万円ということであったが,信用情報機関での調査結果により5社の232万円であることを確認した。
(2) 甲3号証(借入申込書)のとおり,被告の月収が38万円であるとの申告を受けた。
ちなみに,被告本人尋問の結果及び乙第8号証の給与振込額の記載によれば,38万円は総支給額としての月収であって,所得税の源泉徴収等を受けた後の手取額は約30万円であることが明らかである。なお,原告の貸付担当者は,被告からの借受申込に際して所得証明書等の収入を証する書面を徴求してはいない。
(3) まとめ
原苦の貸付担当者が認識していた数値そのものを前提としてさえも,被告は,当時,年収(38万円×12=456万円)の2分の1(228万円)を超える232万円を他社から既に借り入れていたことになるのであって,客観的過剰性についての原告の認識若しくは認識可能性は十分にあったものというべきである。
4 本件貸付の端緒等について
証拠によれば,平成17年4月ころ,被告宅に,原告会社水戸支店から融資勧誘の郵便物が送付されてきた事実が認められる。顧客の勧誘を行うこと自体は企業としては当然のこととも言えるが,郵便物が送付されてきたところからすると,当時,原告会社水戸支店においては,被告の住所・氏名等の登載された何らかの名簿等を入手していたであろうことが推測される。
5 被告側の背信性の有無について
被告本人尋問の結果によれば,本件貸付に際して,被告が意図的に詐言や虚言を弄して欺罔行為を行った事実は認められない。もちろん,多重債務状態にありながら,返済は何とか回していけるだろうと安易に考えるルーズな金銭感覚等に問題は存するにしても,背信的行為といえるほどの具体的事実は認められない。
6 支払不能後の経緯
被告本人尋問の結果によれば次の事実が認められる。
被告は,原告からの借入金20万円を消費者金融会社5社への支払に遣い,一時を凌いだものの,結局は返済に窮し,職場の同僚から教示された東京の司法書士の許へと債務整理の相談に出向いた。そして,一旦は,当該の司法書士に委任をしたものの,弁済原資として毎月7万円を準備するようにとの指示の実行は不可能であるところから,結局は同司法書士を解任した。
そして,実父母に対し,現状をありのままに告白したところ,某藤岡市議会議員が行っている無料生活相談に行こうということになり,当該の相談日に同市議会議員の許に来ていた被告訴訟代理人弁護士(以下,「金井弁護士」という。)を紹介されて,同弁護士に委任をするところとなった。
7 金井弁護士受任後の経緯
証拠並びに弁論の全趣旨によれば,被告が支払不能の状態にあるところから,金井弁護士は,当初,自己破産・免責の申立てをなすべくその準備を進めた。しかし,その過程において,いくつかの金融業者から,債権額を減額するので和解によって解決ができないかとの申し出があったところから,被告夫婦と相談をした結果,減額と長期分割が可能なようであれば,自己責任の原則に照らして,より健全な方途である任意整理の方法により,努力をして返済をしていこうということになり,方針を変更した。
そこで,金井弁護士は,鋭意,金融業者各社と折衝を行い,現在までに,6社の内4社(4社の業者主張額合計約144万円)との間で,和解(4社に対する支払合計約85万円・59パーセント支払で最長5年の分割払)が成立し,現に分割返済中である。ちなみに,被告は,弁済原資として,未だ和解の成立していない2社の分も含め,毎月,4万円を,欠かさず金井弁護士に預託し,自力による経済的再建に向けて努力中である。
金井弁護士は,原告に対する被告の分割金の返済が1回しかないことを考慮して,平成19年10月15日,金22万円を28回払(初回金6万円,以降は毎月6000円の分割払)の和解案を提示したが,原告はこれを拒絶するとともに,東京簡易裁判所に本件訴えを提起した。
8 受移送後の経緯
本件が当裁判所に係属後,折に触れて和解勧試をなすも奏効しない。原告の一貫した主張は,和解成立日までの未払利息,確定遅延損害金を含む貸金合計額の一括払いか,分割払いであれば,完済に至るまでの将来利息の支払を認める内容でなければ,訴訟上の和解には一切応じられないということである。
9 まとめ(当裁判所の判断)
本件貸付が被告の返済能力を超えた過剰貸付(過剰債務)の客観的状況にあって,貸付当時,原告もそのことを認識し,若しくは認識可能であったことは先に摘示したとおりである。
さらに,金井弁護士の尽力により,金融業者6社の内4社とは既に和解(減額及び分割の内容)が成立し,被告もそれなりに精一杯の努力をし,現に分割弁済を継続中であるという現実がある。そして,仮にここで原告の請求を全面認容するとすれば,任意整理の前提となる土台自体が崩壊し,自己破産・免責等の法的整理へと追い込まれかねない現実的危険があるが,そのようなことは既に和解をした他の金融業者との公平性の面で問題があるばかりでなく,社会的にみても決して望ましいことではない。
その他,本件貸付の端緒,被告側の背信性の有無等,先に検討したところを総合すれば,信義則の上からも,本件請求は主文の限度で認容するのが相当であると認められる。
よって,主文のとおり判決する。
(裁判官 木村愛一郎)