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遠野簡易裁判所 平成18年(サ)24号 決定 2007年3月02日

岩手県●●●

申立人(原告)

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同訴訟代理人弁護士

貞弘貴史

東京都文京区本郷3-33-5

相手方(被告)

UFJニコス株式会社

同代表者代表取締役

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同訴訟代理人弁護士

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主文

相手方は,本決定送達の日から14日以内に,次の各文書を提出せよ。

1  申立人作成の,平成元年12月1日から平成7年4月27日までの取引にかかる借入申込書

2  申立人及び相手方作成の,平成元年12月1日から平成7年4月27日までの取引にかかる金銭消費貸借契約書(写しを含む。)

3  相手方作成の領収書の控え(平成元年12月1日から平成7年4月27日までの取引にかかるもの)

4  相手方が申立人との貸付取引(平成元年12月1日から平成7年4月27日までのもの)に関して作成した顧客別管理台帳(顧客管理カード等)

5  当事者間の貸付取引(平成元年12月1日から平成7年4月27日までのもの)に関して貸金業の規制等に関する法律19条及び同法施行規則16条所定の事項を記載した帳簿

理由

第1申立ての趣旨及び理由等

1  申立人は,別紙文書目録1ないし5記載の文書(以下「本件文書1」ないし「本件文書5」という。)につき,文書提出命令を求め,その理由として,別紙「文書提出命令申立書」,「文書提出命令申立書の反論に対する意見書(求釈明)」及び「文書提出命令申立書の反論に対する意見書2」記載のとおり主張した。

2  これに対し,相手方は,本件申立ての却下を求め,その理由として,基本事件の平成18年10月30日付け及び同年11月16日付け各準備書面記載のとおり主張した。

第2当裁判所の判断

1(1)  本件にかかる基本事件は,申立人(原告)が相手方(被告)に対し,貸金取引において利息制限法所定の制限を超える利息等の返済をしたことによる過払金の返還等を求める不当利得返還等請求事件である。

(2)  本件文書1ないし本件文書5は,民事訴訟法220条3号後段の法律関係文書に該当し,申立人の主張事実を立証するために必要な文書であると認められる。

そして,相手方は,本件文書1ないし5を所持していたこと自体を争っていないため,相手方が過去に上記各文書を所持していたことが推認される。

(3)ア  相手方は,社内の文書管理規程により,取引履歴の保存期間を10年間と定め,同保存期間を経過した資料につき,機密文書の抹消等を業とする会社に毎月送付して廃棄処分を委託しており,平成7年7月以前の取引履歴は存在しない旨主張するため,以下,相手方の上記主張の当否について検討する。

イ  一件記録によれば,以下の事実が認められる。

(ア) 平成14年4月1日に改訂された相手方の文書管理規程(規程番号総規03)において,「文書」とは,別表「文書保管期間一覧表」で掲げた書類及び電子的記憶媒体・磁気的記憶媒体上の記録等をいい,郵便物,ファックス,磁気テープ,コムフィルム,マイクロフィルム,フロッピーディスク等の業務上必要な一切の記録を含むとされ(2条),各文書の主管部が当該文書の保管期間を定め(17条1項),各主管部はその定められた保管期間について総務部長の承認を受けるものとし(同条2項),各主管部は「文書保管期間一覧表」を定期的に見直すものとされている(同条3項)。

(イ) 相手方作成の文書保管期間一覧表において,「COM関係」についての主管は事務統括部とされ,総合COMと入金状況COMの保管期間は10年とされている。

(ウ) 相手方において,作成時から10年以上経過したCOMに関して「【管理】10年超COMの適正処分について」と題する文書が存在し,対象となる10年超COM(入金状況COM及び請求総合COM)については,すべて株式会社ワンビシアーカイブス(以下「本件業者」という。)にて適正に廃棄することとされ,平成5年6月分までのすべての対象COMについては平成15年7月15日までに一度に本件業者に到着するよう手配し,平成5年7月分以降の対象COMについては,10年超分1か月分ずつを,平成15年8月より毎月10日までに本件業者に到着するよう手配すること等,その方法が定められている。

ウ  本件での基本事件のような借主の貸金業者に対する過払金返還請求において,取引期間が長期間であるほど過払金額も高額になるのが通常であるところ,貸金業者から取引履歴に関する資料が提出されなければ,正確な過払金額を算定することが不可能となり,取引経過を推測するしかなくなるなど,貸金業者にとって有利になる場合が多いものと解される。そうであるとすれば,コストを負担して実際に文書を廃棄するかどうかにかかわらず,貸金業者が文書の廃棄に関する社内規程を定めておくことには合理性がある(それ自体何らコストがかからない上,これによって,文書が廃棄済みであると主張できる。)といえるから,そのような規程の存在をもって,直ちに規程どおりの運用が行われていると推認することはできない。

前記イのとおり,相手方の社内において,文書等の廃棄に関する規程が存在することは認められるが,相手方は,上記規程の定めどおりに文書等を現実に廃棄していることに関する証拠(相手方と本件業者との契約書,個々のCOM送付の際の本件業者への配達手配書の写し等)を一切提出しない。相手方が,実際に文書等の廃棄を本件業者に委託しているのであれば,上記証拠の提出は極めて容易であると解されることからして,相手方の主張どおりの方法による廃棄が行われているものとは認め難い。そして,仮に,相手方が,本件業者に対して,何らかの文書の廃棄を委託しているとしても,本件文書1ないし5が,廃棄された文書に含まれていたことを認めるに足る証拠もない。

また,COMの廃棄に関する相手方の主張を前提としても,COM(コムフィルムと同じものと解される。)とマイクロフィルムの異同,取引履歴等のCOM以外の媒体への保存の有無,当該媒体上の取引履歴等の廃棄の有無も不明といわざるを得ない。

エ  このように,本件文書1ないし5が廃棄されたものとは認められない。

(4)  したがって,本件文書1ないし5は現存するものと推認されるから,相手方に対し,これらの文書の提出を命じることとする。

2  よって,本件申立ては理由があるから,主文のとおり決定する。

(裁判官 矢口俊哉)

(別紙)

文書目録

1 申立人作成の借入申込書(平成元年12月1日から平成7年4月27日までの間の取引に係るもの)

2 当事者間で作成された契約証書又はその控え(平成元年12月1日から平成7年4月27日までの間の取引に係るもの)

3 相手方作成の領収書の控え(平成元年12月1日から平成7年4月27日までの間の取引に係るもの)

4 相手方が申立人との貸付取引に関して作成した顧客別管理台帳(顧客管理カード等)(平成元年12月1日から平成7年4月27日までの間の取引に係るもの)

5 当事者間の貸付取引に関して貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業法」という。)19条及び同法施行規則16条所定の事項を記載した帳簿(平成元年12月1日から平成7年4月27日までの間の取引に係るもの)

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