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那覇地方裁判所 平成元年(行ウ)2号 判決 1991年12月25日

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、沖縄県島尻郡豊見城村に対し、金三億〇五〇四万一一〇〇円及びこれに対する平成元年六月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

(本案前の答弁)

1 本件訴えを却下する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

(本案の答弁)

主文と同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1(当事者)

原告らは普通地方公共団体沖縄県島尻郡豊見城村の住民であり、被告は昭和五七年一〇月から平成二年一〇月までの間同村の村長であった者である。

2(本件売買契約)

(一)  豊見城村は、昭和六二年に挙行された国民体育大会の馬術競技場として使用するために公有水面を埋め立てて造成した同村字与根西原五〇番三八所在の雑種地一四万六〇五一平方メートルの土地(以下「本件土地」という。)を、国体終了後、用途をゴルフ場として指定し、一般競争入札の方法により売却することとし、「入札最低価格二三億四六四七万円(但し最高限度価格を設定する。)」とした「村有地処分要綱」を作成し、昭和六三年一月一六日、同土地の競売公告を出した。

(二)  そして、同村は、右最高限度価格を二四億五六七五万四〇九〇円と決定した。

(三)  同月二五日、右物件の入札がなされ、守礼観光開発株式会社(以下「守礼観光開発」という。)二四億四〇三二万八八〇〇円、大和観光開発株式会社二五億一〇七二万二九〇〇円、那覇カントリー株式会社(以下「那覇カントリー」という。)二七億四五三六万九九〇〇円の入札がなされたが、同日、同村は、後二者の入札は入札価格が前記の最高限度価格を超えているため無効であるとして、守札観光開発を落札者として決定した。

(四)  被告は、豊見城村長として同月二六日、守札観光開発との間で、本件土地を二四億四〇三二万八八〇〇円で売却する旨の仮契約を締結し、同年三月一七日、同村の議会の議決に付すべき契約及び財産の処分に関する条例三項の規定による同村議会の議決を経、同月二四日、公有水面埋立法二七条一項の埋立地に関する権利の処分にかかる知事の許可を受けて、本契約(以下「本件売買契約」という。)を締結し、同年四月四日付で守礼観光開発へ所有権移転登記手続をした。

3(本件売買契約の違法性)

(一)  地方自治法二三四条三項は、普通地方公共団体は契約の締結に際し、一般競争入札に付する場合は、予定価格の制限の範囲内で最高又は最低の価格をもって申込みをした者を契約の相手方とするものと規定し、普通地方公共団体の支出の原因となる契約についてその唯一の例外を設けているのであるから、収入の原因となる契約については、最高限度価格を設けることはできない。

すなわち、「予定価格」とは、地方公共団体が契約の締結に際してあらかじめ作成する契約価格の一応の基準となる価格のことをいい、収入の原因となる契約については地方自治体が契約の締結に応ずべき下限額としての意味を有し、「予定価格の制限の範囲内」とは予定価格を最低としてそれ以上の価格で入札した額の範囲内を意味する。したがって、地方自治体の収入の原因となる契約の競争入札において上限額を意味する最高限度価格を設定するような競争入札の方法は、地方自治法二三四条三項に違反する。

また、公有水面埋立法二七条の規定は埋立地の処分にあたって県知事が許可をするか否かの観点から規定されたものであり、一般競争入札において最高限度価格設定の根拠となるものではない。一般競争入札の方法による処分を選択した以上、公有水面埋立法を根拠に一般競争入札制度の原理をゆがめることはできない。

(二)  したがって、本件売買契約は右規定に違反した違法なものであり、その結果、豊見城村は本件売買契約の代金額と最高入札額との差額三億〇五〇四万一一〇〇円の損害を被ったものである。

4(被告の責任)

被告は、当時、同村の村長として、地方自治法一四八条、一四九条に基づく担任事務の遂行として、本件土地の処分を行ったものであって、右違法な契約を締結するにつき故意又は過失があるので、右損害を賠償すべき義務がある。

5(監査請求)

原告らは、平成元年三月一五日豊見城村監査委員に対し監査請求をなし(以下「本件監査請求」という。)、同監査委員は、同年五月一二日付けで右監査請求を棄却し、右結果はそのころ原告らに通知された。

6 よって、原告らは、地方自治法二四二条の二第一項四号に基づき、豊見城村に代位して、被告に対し、損害賠償金三億五〇四万一一〇〇円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成元年六月二五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  被告の本案前の主張

1  本件監査請求は期間を徒過した不適法なものであるから、本件訴えは適法な監査請求を欠く不適法な訴えであって、却下されるべきである。

2  すなわち、原告らの本件訴えは、昭和六三年一月二五日に実施された一般競争入札の落札者の決定及び右決定に基づき締結された翌二六日の売買契約の違法を原因として賠償請求しているものであるから、地方自治法二四二条二項の監査請求の出訴期間の起算日は遅くとも本件売買契約の相手方を決定し、同人との間において具体的売買条件を定めて本件売買契約書を作成した昭和六三年一月二六日であると解されるところ、本件監査請求は右出訴期間経過後の平成元年三月一五日になされたものであり不適法である。そして、右売買契約書の中の「仮契約書」との文言及び同契約書一四条の「議会の議決のあった日をもって本契約に代わるものとする。」との規定は、法令に則った処理を条件として私法上の契約の効力が生ずる旨の契約の付款と解すべきであって、契約自体は落札者の決定及び右契約書の作成によって成立したものと解すべきである。

三  本案前の主張に対する原告らの反論

1  本件監査請求の対象は、本件売買契約が違法であるか否かであり、本件売買契約が成立した日を監査請求期間の起算日とするべきである。

2  地方自治法二三四条五項によると、普通地方公共団体が契約につき契約書を作成する場合は契約書の作成をもって契約が成立することとなっており、本件売買契約についても、昭和六三年一月二六日付で契約書が作成されているが、右契約書は仮契約締結に伴う仮契約書であって本契約書ではない。

3  すなわち、豊見城村規則(昭和四九年七月三〇日規則第一一号)三八条によると、「議会の議決に付すべき契約を締結しようとする場合においては、村長は、議会の議決を経たときに当該契約が成立する旨を契約の相手方に告げ、かつ、その旨を記載した仮契約書により仮契約締結する。」となっており、前記の売買契約書一四条には「この契約は、公有水面埋立法第二七条第一項及び豊見城村議会の議決に付すべき契約及び財産の取得又は処分に関する条例の規定による議会の議決のあった日をもって本契約に代わるものとする。」との条項が存する。議会の議決及び公有水面埋立法二七条一項の知事の許可は本件売買契約の成立要件であるから、議会の議決及び知事の許可のあった日をもって本件売買契約の成立日とすべきである。

4  本件売買契約は昭和六三年三月一七日付で議会の議決を経、同月二四日付で知事の許可を受けたので、同月二四日に成立したものと解すべきである。

5  したがって、本件監査請求は出訴期間を遵守した適法なものであり、本件訴えは適法である。

四  請求原因に対する被告の認否

1  請求原因1の事実は認める。

2(一)  同2(一)の事実のうち、「国体終了後本件土地の用途をゴルフ場と指定し」の部分を否認し、その余の事実は認める。

すなわち、豊見城村は、昭和六〇年七月五日付の本件土地を含む島尻郡豊見城村字与根地先公有水面埋立免許申請にあたり、右公有水面埋立の目的を産業廃棄物処理用地、国体馬術競技場と定め、かつ、跡地利用計画として、1 ゴルフ場、2 公共事業代替用地、3 地区公園、4 国道、5 国体記念馬術公園、6 多目的広場、7 道路用地と利用する旨定めていたものである。

(二)  同2(二)の事実は認める。

(三)  同2(三)の事実のうち、「那覇カントリーが入札に参加した。」点及び同社の入札を無効にした理由の点は否認し、その余は認める。

すなわち、本件入札に那覇カントリー名義で参加がなされているが、実態は本件入札参加資格のない儀間慶太なる人物が那覇カントリー名義で入札したものであり、入札自体無効である。

(四)  同2(四)の事実は認める。

3  同3(一)は争う。同(二)の事実は否認する。

4  同4は争う。

5  同5の事実は認める。

6  被告の主張

(一) 地方自治法二三四条三項によれば、一般競争入札といえども、予定価格の範囲内で最高又は最低価格入札者を落札者と決定すべきというのであって、常に無制限に最高又は最低価格入札者を落札者と決定しなければ違法となるというものではない。

(二) 埋立地は、安い価格で土地を確保できるという有利性により公共事業用地の確保及び政策的な配慮等により一定の資格要件を満たした者に安い価格で土地を提供することを目的として造成される。したがって、その処分は、一般的には一定の資格要件を満たした購入希望者に対し抽選にて処分されている。

(三) しかし、本件土地の処分にあたっては、ゴルフ場という特殊な土地利用であり、特定少数企業を対象とした処分であるため、公有水面埋立法二七条の法規制を遵守しながらも可能な限り高額で処分できる方法として競争入札制度を採用したものである。

(四) そして、公有水面埋立法二七条、同法施行規則六条によって埋立地の処分によって不当に利得することが禁じられており、又、地価高騰を抑制し(国土法の精神の遵守)周辺地価との均衡を保つ必要があるため、最低売却価格に四・七パーセント利益率を計上した額をもって最高限度価格を設定したのである。

(五) 右最高限度価格の定めは地方自治法二三四条三項の「予定価格の制限」であり、本件売買契約は右予定価格の制限の範囲内の入札者との間でなされた契約であるから違法である。

(六) 仮に本件売買契約の締結が地方自治法に違反するとしても、当初より処分価格を決定の上公募し、抽選で処分すべきであったとした場合、処分価格は公有水面埋立法二七条、同施行規則六条の規制があるため、一般的に原価主義によって計算され、本件土地の場合処分価格は最低売却価格と同額の二三億四六四六万七七三六円と決定され、本件売買契約の売買価格よりも低額となったはずである。したがって、本件売買契約により豊見城村には何らの損害も生じていない。

第三  証拠(省略)

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