那覇地方裁判所 平成10年(ワ)603号 判決 2001年3月13日
原告(反訴被告)
甲
同
乙
以上二名訴訟代理人弁護士
新垣勉
被告(反訴原告)
丙
上記訴訟代理人弁護士
与世田兼稔
同
阿波連光
主文
1 本訴原告ら(反訴被告ら)の本訴請求を棄却する。
2 反訴原告(本訴被告)の反訴請求を棄却する。
3 訴訟費用は、本訴について生じた費用については本訴原告ら(反訴被告ら)の、反訴について生じた費用については反訴原告(本訴被告)の各負担とする。
事実及び理由
第1 請求
(本訴事件)
本訴被告(反訴原告、以下、単に「被告」という。)は、A漁業協同組合に対して、一四五万九六五六円及びこれに対する平成八年三月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(反訴事件)
反訴被告ら(本訴原告ら、以下、単に「原告ら」という。)は、被告に対して、各自、二〇〇万円及びこれに対する平成一〇年一一月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件本訴事件は、A漁業協同組合(以下「本件組合」という。)の組合員である原告らが、本件組合の組合長である被告に対して、本件組合が、漁業補償金の配分に際して、当該漁業補償金の配分を受ける資格のない者に対して一〇四万九六五六円を配分したこと及び本件組合の旅費規程に反する日当合計四一万円の支払をしたことについて、被告には忠実義務違反があるとして、水産業協同組合法(以下「水協法」という。)四四条が準用する商法二六七条に基づき、上記各違法行為によって本件組合が被った損害一四五万九六五六円及びこれに対する上記各違法行為の後である平成八年三月一六日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を本件組合へ賠償するよう求めている事案であり、本件反訴事件は、本件本訴事件の提起が被告に対して精神的苦痛を与えることを目的とするもので不法行為に該当するとして損害賠償金二〇〇万円(慰籍料一〇〇万円、弁護士費用一〇〇万円)及びこれに対する不法行為の後である平成一〇年一一月六日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めている事案である。
1 争いのない事実等
(1) 当事者
ア 原告甲は、昭和五八年三月二日に本件組合の准組合員となり、その後、昭和六一年五月に正組合員となり、現在に至っているが、昭和六一年五月から平成八年八月二〇日までは本件組合の監事の地位にあり、そのうち、昭和六三年五月から平成八年五月までは代表監事の地位にあった。
原告乙は、昭和五七年四月二日に本件組合の准組合員となり、その後、昭和五八年四月に正組合員となり、現在に至っているが、平成元年五月から平成六年五月まで本件組合の監事の地位にあった。
イ 被告は、本件組合の理事であり、平成六年六月から代表理事(組合長)の地位にある。
ウ 本件組合は、水協法に基づき設立された漁業協同組合である。
(2) 定款及び組合員資格審査基準、取扱要領の規定
本件に関連する本件組合の制定にかかる規則の概要は別紙のとおりであるところ、本件組合は、平成五年七月一四日、臨時総会において、組合員資格審査基準取扱要領の一部を改正し(以下、改正前の審査基準取扱要領を「旧審査基準取扱要領」といい、改正後の審査基準取扱要領を「新審査基準取扱要領」という。)、以降、新審査基準取扱要領に基づき、正組合員及び准組合員の資格審査を行っている。
(3) 屋良和男の加入
ア 屋良和男(以下「屋良」という。)は、平成七年二月二四日、本件組合に加入申出をし(出資引受口数四八一口、一口出資額一五〇〇円、出資金額七二万一五〇〇円。)、組合員資格審査委員会において、准組合員として本件組合へ加入が承認され、平成七年三月二八日に開催された理事会において、同委員会の答申を受けて、准組合員として本件組合への加入が最終的に承認され、さらに、その後、平成八年五月一日に開催された理事会において、正組合員の資格が最終的に承認された。
屋良は、本件組合に対し、平成七年三月三一日、出資引受申出額のうち、三六万一五〇〇円(二四一口)を払込み、平成七年一一月一日、残額三六万円(二四〇口)を払い込んだ。
イ 屋良は、本件組合に加入申込する際、本件組合の壼川支部における「鮮魚直売店さかな」(以下「壼川支部直売店」という。)での水揚実績により本件組合への加入を認めて貰う趣旨で、壼川支部直売店における水揚げの領収書を資格審査のための資料として提出した。
(4) 壼川支部直売店は、本件組合の壼川支部に加入している組合員の一部の者が開店したものであるが、平成六年八月からは、木嶋清(以下「木嶋」という。)の個人経営となっている。
(5) 漁業損失補償金の配分
ア 本件組合は、宜野湾マリーナ拡張工事(以下「本件埋立工事」という。)に伴う漁業損失補償金(以下「本件漁業補償金」という。)として二億一九七一万八三一〇円の支払を受けた。
イ 本件組合は、屋良に対して、平成八年三月一五日、本件漁業補償金の配分として一〇四万九六五六円を配分した。
(6) 被告及び松竹敏雄への日当の支払
ア 本件組合は、被告及び松竹敏雄(以下「松竹」という。)が平成六年一〇月二二日から平成七年一一月二〇日までの間にアクアポリス工事に関する那覇市沿岸漁協公有水面埋立補償委員会(以下「補償委員会」という。)のうちの漁業補償交渉委員会(以下「漁業補償交渉委員会」という。)に出席したことから、平成七年七月二八日、被告及び松竹に対して五日分の日当としてそれぞれ五万円を支給した。
イ 本件組合は、被告及び松竹が平成五年八月三〇日から平成七年一一月二四日までの本件埋立工事に関する漁業補償交渉委員会に出席したことから、平成八年三月一五日、被告に対しては一七日分の日当として一七万円を、松竹に対しては一四日分の日当として一四万円をそれぞれ支給した。
(7) 責任追求のための訴えの提起の請求
原告甲は、平成一〇年六月三月及び同年七月七日、本件組合に対して、被告の責任を追及するよう請求したが、本件組合は三〇日を経過しても訴えを提起しなかった。
2 争点
(1) 本訴事件
ア 忠実義務違反の有無
A 本件漁業補償金の配分についての忠実義務違反の有無
B 日当支給についての忠実義務違反の有無
イ 損害額
(2) 反訴事件
本訴事件提起による不法行為の成否
3 争点に対する当事者の主張
(1) 本件漁業補償金の配分についての忠実義務違反の有無(争点(1)アA)について
(原告らの主張)
以下のとおり、屋良は、本件漁業補償金の配分のための基準日(平成五年八月三〇日)には本件組合の組合員でなく、本件組合が本件漁業補償金の配分のための基準日とした平成七年四月五日にあっても、水揚実績が不足している点、実績判断期間が不足している点、出資金全額の払込みをしていない点で、本件組合への加入資格はなかった。
ア 本件組合への加入及び本件漁業補償金の配分手続について
A 新審査基準取扱要領において、本件組合への准組合員としての新規加入要件として要求される水揚実績(年間四五日以上の水揚日数及び年間九六万円以上の漁獲水揚)は、本件組合又はその系統の市場を通した水揚実績でなければならないことについて
a 新審査基準取扱要領は、准組合員の資格要件について、当組合及び系統を通した市場水揚日数として年間四五日以上の水揚日数及び年間九六万円以上の漁獲水揚を充たすことを必要としているが、この「当組合及び系統を通した市場水揚日数」及び「漁獲水揚」とは、本件組合のセリ市場又は本件組合が加盟する沖縄県漁業協同組合連合会傘下の漁業協同組合のセリ市場での水揚げを意味し、個人営業の販売店での水揚げは「当組合及び系統を通した市場水揚日数」及び「漁獲水揚」とはいえない。
なお、平成五年七月一四日に旧審査基準取扱要領が改正され、新審査基準取扱要領となったが、この改正によって、本件組合への加入要件として本件組合又はその系統の組合の市場を通した水揚実績が不要となったのでないことはその文言上明らかである。この点、被告は、上記改正により、旧審査基準取扱要領の「2新規加入資格の要件」の(1)の中に存した「水揚実績(当組合市場実績)」という文言が削除されたことを理由に、新審査基準取扱要領の「漁獲水揚」とは「当組合市場実績」に限られない旨主張する。しかし、旧審査基準取扱要領においては、水揚実績は「当組合市場水揚」に限定されていたところ、組合員の中には他の漁業協同組合の市場に水揚げをする者も存することから、「当組合市場」と限定するのでは狭すぎるとして、「当組合市場」を「当組合及び系統を通した市場」と拡大することにしたのが上記改正の趣旨であり、これに反する被告の主張は、理由がない。
b また、本件組合の新審査基準取扱要領Ⅰ1(1)及びⅡ1は、組合員の資格要件として本件組合及びその系統の組合の市場を通した水揚日数が四五日以上であることを要求しているが、同規定は、水協法一八条に違反せず、有効である。
すなわち、水協法一八条は、どのようにして漁業日数を認定するのかという具体的な手続について何ら触れていない。そこで、多くの漁民の漁獲物が漁業協同組合のセリ市場を通じて売買されるという実態に着目して、漁業従事日数を漁業協同組合の市場を介して売買される漁獲実績を基に判定することにし、これを基準化したのが新審査基準取扱要領Ⅰ1(1)及びⅡ1の規定であり、同規定は合理的内容を有する。そして、新審査基準取扱要領Ⅰ1(1)及びⅡ1の規定は、全国的に共通の規定として作成され、沖縄県の指導の下に各漁協において総会で承認され、長年施行されてきたものである。
さらに、新審査基準取扱要領Ⅰ1(1)及びⅡ1の規定は、被告が理事を務める本件組合が自ら定めたものであり、自ら定めた規定を改正しないでおいて、これを無効と主張することは、信義則に反する。本件組合は、長年、新審査基準取扱要領Ⅰ1(1)及びⅡ1の規定は有効なものとして、同規定に基づき資格審査を行ってきたのであり、本件訴訟において突如として同規定の無効を主張するのは、道理に反する。
B 壼川支部直売店での水揚実績は、新審査基準取扱要領において本件組合への新規加入要件として要求される水揚実績に該当しないことについて
a 前期Aのとおり、新審査基準取扱要領にいう「当組合及び系統を通した水揚日数」並びに「漁獲水揚」には、個人営業の販売店において取り扱われた水揚げは含まれないから、本件組合の組合員個人である木嶋が経営する壼川支部直売店において取り扱われた水揚げは新審査基準取扱要領の「水揚」及び「漁獲水揚」には当たらない。
b この点、被告は、平成四年六月二三日に開催された理事会において、壼川支部直売店での水揚実績を特別に本件組合への新規加入要件である水揚実績として認める旨の決議がされた旨主張する。しかし、上記理事会は、壼川支部直売店が本件組合の事業として設置される店舗であることを前提として、同年五月の理事会において壼川支部直売店の開設が決議されたことを受けて、壼川支部直売店における水揚手数料を何パーセントにするか、及び同店の伝票の取扱いについて審議した理事会であるから、上記理事会の決議は同決議以降に個人店舗となった壼川支部直売店での水揚げを本件組合への加入要件である水揚実績と認める趣旨のものではなく、被告のいう主張は理由がない。
c なお、新審査基準取扱要領Ⅱ2にいう「(漁獲水揚の)五パーセントに相当する手数料を組合に納める」とは、水揚げの都度支払っている手数料を意味し、水揚げの際には手数料を支払っていない者が新規加入にあたって過去分を遡って支払う場合を含まない。
C 組合は、加入申込を受け付けた後、最小限一年を経過しなければ、資格審査できないことについて
新審査基準取扱要領Ⅲ2は、「組合は、加入申込証を受け付けた後は、原則として最小限一年を経過しなければ、資格審査の判断材料とはならない。」と規定している。
D 本件漁業補償金の配分についての資格認定基準日について
a 本件組合の「漁業権等公有水面埋立補償金配分に関する基本方針」では、「配分対象者の資格は、当該埋立補償交渉の初回の日において当該組合の正組合員となっている者」とされているところ、本件組合が最初に交渉を行ったのは、平成五年八月三〇日である。
b 自白に当たらないことについて
被告は、原告らが資格認定基準日を平成七年四月五日であると自白した旨主張するが、原告らの訴状の請求原因二1(三)(3)では、原告らは、組合の理事会において平成七年四月五日を資格認定基準日と決定したという客観的事実を指摘したにすぎず、同基準日が適法なものであることを原告らが認める趣旨で主張したものではない。
また、被告から「自白」を援用する旨の主張が提出されたのは、平成一一年一月二六日付けの被告準備書面(一)においてであるが、原告らはすでに前年の一一月二七日付け原告らの第一準備書面において補償金配分基準日は平成五年八月三〇日である旨主張しており、仮に「自白」をしたとしても、既に撤回されている。
E 組合員の資格を取得するには出資引受申出額全額を払い込むことが必要であることについて
本件組合の定款九条二項には、「出資金の払い込みをさせた後、組合員名簿に記載する。」との規定があるところ、同条項は、申込者が引き受けた出資口数全額の払い込みをしたことを確認した後、組合員と認めて組合名簿に記載するという趣旨であり、このことは出資金の完納後に組合員としての取扱いを行うことを意味する。
これに対して、被告は、出資引受申出額の一部を支払えば組合員の資格が認められる旨主張するが、同主張によると、加入者が出資金の一部を払込み、残りの出資金を払うことができない場合でも組合員の資格を取得し、後日になって除名されることになり、不合理である。
なお、水協法一九条と定款九条二項とは何ら抵触するものではなく、定款九条二項は、水協法を前提として、新規加入者が加入申込の際に約した出資金全額の払込を資格取得要件としたものであり、このことには合理的な理由が認められる。
イ 被告の忠実義務違反について
前記のとおり、屋良は、壼川支部直売店が個人経営となった後である平成七年二月二四日に、本件組合への加入申込みをし、同年三月二八日に准組合員として加入が承認されているが、その際の資格審査のための資料として、壼川支部直売店の伝票を提供していること、本件組合への加入申込みがされた一か月あまり後の同年三月二八日に准組合員としての加入が承認されていること、出資引受額全額を支払ったのが本件漁業補償金の配分についての資格認定基準日(平成五年八月三〇日)の後である平成七年一一月一日であることから、同人は、資格認定基準日においては組合員資格がない。
そして、理事会は、資格審査委員会の答申を受けて組合加入を認めるか否かの最終決定を行うものであるから、被告は、代表理事として、その職責上、定款、組合員資格審査基準及び審査基準取扱要領に基づいて、資格審査委員会の答申に誤りがないか否かを審査すべき責任を負っているのであり、それにも関わらず、屋良の本件組合への加入を認めた点、また、被告は、補償委員会のうちの漁業補償配分委員会(以下「漁業補償配分委員会」という。)の委員長の地位にあるのであるから、その職責上、漁業補償金の配分にあたっては、配分のための基準日に配分対象者が資格を有しているか否かを審査すべき責任を負っているにも関わらず、屋良に対して漁業補償金の配分をした点において義務違反があり、かつ、被告には、その各義務違反をなすについて過失がある。
(被告の主張)
以下のとおり、屋良は、本件漁業補償金の配分のための基準日である平成七年四月五日には本件組合の組合員であった。
ア 本件組合への加入及び漁業補償金配分の手続について
A 新審査基準取扱要領において、本件組合への新規加入要件として要求される水揚実績は、本件組合又はその系統の組合の市場を通した水揚実績でなくてもよいことについて
a 平成五年七月一四日開催の本件組合の臨時総会で審査基準取扱要領が改正されたが、新審査基準取扱要領では、旧審査基準取扱要領において新規加入の要件とされていた「当組合市場実績」が除外された。
したがって、新審査基準取扱要領では、新規加入資格要件として、本件組合及びその系統の組合の市場を通した水揚実績があることが不要となり、新規加入に当たっては、「当組合市場実績」ではなく、漁業を営んでいる実績の有無が審査され、漁業を営んでいる日数を証明する資料があれば新規加入が承認されるという制度に改正されたものである。
この改正は、水協法一八条の制度趣旨に合致するものであり、かつ、本件組合の監督行政庁である沖縄県農林水産部漁政課の行政指導に従った合理的な改正であった。
b 仮に、平成五年七月一四日に開催された臨時総会での上記決議においても、新規加入要件として本件組合及びその系統の組合の市場を通した水揚実績の要件が不要となったとはいえないとしても、水協法における地区漁協の正組合員資格は、住所要件及び漁業日数要件を充足していれば足り、水揚実績は要件とされておらず、一方、水協法二五条は、「組合員たる資格を有する者が組合に加入しようとするときは、組合は、正当な理由がないのに、その加入を拒み、又はその加入につき現在の組合員が加入の際に附されたよりも困難な条件を附してはならない。」と規定していることから、本件組合の新審査基準取扱要領が正組合員の資格要件として年間一二〇万円以上の漁獲水揚があること及び同水揚げの五パーセントに相当する手数料を組合に納めることを要求していることは水協法に則って解釈すれば、新審査基準取扱要領が、本件組合及び系統を通した水揚実績を要件としている趣旨は、水協法が規定する漁業日数要件の充足の有無を確認するためであり、同要件を欠いていたとしても他の疎明資料により漁業日数の要件を充足していることが証明されれば、正組合員資格が承認されるべきである。
一方、准組合員については、水協法によっても、漁業日数は資格要件とされておらず、したがって、上記要件の充足の有無を確認するための本件組合及びその系統の組合の市場を通した水揚実績の存在は要件とならない。
B 仮に、新審査基準取扱要領において、本件組合への新規加入要件として要求される水揚実績が本件組合又はその系統の組合の市場を通した水揚実績であると解したとしても、壼川支部直売店での水揚実績は、本件組合及びその系統の組合の市場での水揚実績に該当することについて
本件組合には、四つの支部があり、そのうちの壼川支部の組合員は壼川漁港を利用していたが、同漁港から本件組合のセリ市場まで漁獲物を運ぶことになると相当な時間を要し、非常に不便であったことから、平成四年二月ころ、壼川支部から本件組合の理事会に対し、壼川支部直売店を支部組合員全員で設置するので承認されたい旨の要望が出された。同要望を受けて、本件組合は、壼川支部直売店の設置を認めたが、壼川支部直売店での水揚実績を本件組合の水揚実績として認めるかどうかが問題となったことから、平成四年六月二三日に開催された理事会において、上記問題が討議され、その結果、壼川支部直売店での水揚実績を旧審査基準取扱要領における本件組合への加入要件である水揚実績として認める旨の決議がされた。
このような経緯で壼川支部直売店が開設されたのであり、この経緯に照らすと、上記理事会決議は、壼川支部直売店での水揚実績は、正・准組合員の資格維持を確認するためだけではなく、本件組合への新規加入要件である水揚実績としても認める旨の決議と解すべきである。
C 組合は、加入申込を受け付けた後、最小限一年を経過しなくとも、支部に加入してから一年を経過すれば資格審査できることについて
本件組合には四つの支部が存在し、本件組合の組合員は、各支部のいずれかに所属していなければならず、新規加入の資格要件の規定として、「新規加入者については、その申込時において、いずれかの支部に加入していることを原則とする。」との規定があるのは、組合員が各支部に分散していることから、その地区から直接新規加入希望者が本件組合に加入申込をしても、資格審査委員会及び理事会では、漁民か否か判断しにくいので、生活の根拠が近い支部に漁民として認められて同支部への加入が許されてから本件組合への加入申込をさせるためである。そして、新審査基準取扱要領Ⅲ2が「組合は、加入申込証を受け付けた後は、原則として最小限一年を経過しなければ、資格審査の判断材料とはならない。」と規定したのも、非漁民を排除する目的からであり、同条項は、支部に加入してから一年を経過しなければ、原則として資格審査の判断材料とならないという意味である。
したがって、組合は、加入申込を受け付けた後、一年を経過しなければ資格審査できないというものではなく、支部に加入してから一年を経過していれば、資格審査できる。
なお、屋良は、壼川支部へ平成五年九月一三日に加入している。
D 本件漁業補償金の配分についての資格認定基準日について
a 漁業補償交渉は、本件組合の総会において共同漁業権の消滅についての同意決議が成立して初めて可能となる。
宜野湾マリーナ拡張に伴う「宜野湾港整備事業に伴う共同漁業権第一五号の一部消滅及び漁場の一部制限の同意」についての本件組合の臨時総会は、平成六年一一月二九日に開催され、同意決議された。同決議によって、当該漁業補償に関する具体的な交渉が可能となる。
また、沖縄県土木建築部中部土木事務所長豊元實正による調査嘱託回答によれば、漁業補償交渉とは、漁業組合総会の同意を得て組合の交渉委員を含む組合幹部に対して、漁業補償額を項目ごとに金額を提示して合意を求めるものであり、平成五年八月三〇日は、本件組合らに対する説明会であって、漁業補償交渉ではなかったとされている。
b 原告らは、訴状において、配分資格者認定基準日が平成七年四月五日であることを自白している。しかるに、原告らは、原告らの第二準備書面で、同基準日が平成五年八月三〇日であると主張する。
しかし、これは自白の撤回に該当し、被告はこの自白の撤回には異議がある。
c したがって、漁業補償金配分についての資格認定基準日は、平成五年八月三〇日ではない(平成七年四月五日である。)ところ、平成七年四月五日には、屋良は本件組合の組合員であった。
E 組合員の資格を取得するには出資引受申出額全額を払い込むことは必要ないことについて
水協法にも、本件組合の定款にも出資金全額を支払わなければ准組合員の資格が認められないという規定はなく、むしろ、水協法一九条は、「出資一口以上」を有しなければならないと規定している。
したがって、出資引受申出額全額を支払っていなくても、その一部を支払った時点で准組合員の資格が認められると解すべきである。
イ 被告の忠実義務違反について
A 本件組合への加入及び漁業補償金配分の手続は前記主張のとおりであり、屋良に対して本件漁業補償金の配分をしたことは同手続に違反していないから、被告に忠実義務違反はない。
B 仮に、屋良に対して本件漁業補償金を配分したことが上記手続に違反しているとしても、屋良の本件組合への加入は、資格審査委員会の答申を受け、かつ、理事会で承認を得た上で認めている以上、被告に忠実義務違反はない。
(2) 日当支給についての忠実義務違反の有無(争点(1)アB)について
(原告らの主張)
前記のとおり、本件組合は被告及び松竹に日当を支給しているが、本件組合においては、旅費規程一五条に定める場合のほかには実費弁償をすることができないが、本件組合のした日当の支給は、被告及び松竹のいずれについても旅費規程一五条に該当しない。
この点、被告は、漁業補償交渉委員会の費用支弁規定による日当の支給である旨主張するが、被告は、組合長として、右委員会の委員長に就任し、同委員会へ参加するものの、これは、組合長の業務の一環として参加するものであり、組合長の業務の範囲に含まれており、また、漁業補償交渉委員会は漁業補償額についての交渉権を委ねられているが、漁業補償委員会が専権的に最終的な補償額を決定することはできず、最終的には理事会の承認が必要とされているのであるから、被告の同主張は理由がない。
(被告の主張)
ア 漁業補償交渉委員会は、組合規約四一条に定める理事会の諮問機関としての委員会ではなく、独立の権限を有する特別な委員会である。すなわち、共同漁業権の消滅又は制限についての補償請求権の主体は、法律上、組合となっているが、実質的な見地からすれば漁業を実際に営んでいる漁民たる組合員に対して補償すべきであることから、本件組合は、補償の交渉問題を組合の通常業務とせずに組合員の代表者により構成する漁業補償交渉委員に補償額を決定する権限を付与したのである。
そして、補償委員会は、「補償委員会の委員手当の支給要領」という全く独自の費用支弁規定を有している。つまり、漁業補償交渉委員会出席のための日当は、本件組合の一般財源からではなく、本件組合が取得する漁業補償金から、「補償委員会の委員手当の支給要領」の規定に従い交付されるのである。このような支給方法は、本件組合の長年の慣行として、確立、容認されてきたものである。
イ 被告及び松竹は、前記「補償委員会の委員手当の支給要領」に基づき、原告らが主張する日当の支給を受けたのであるから、同日当の支給は適法である。
(3) 損害額(争点(1)イ)について
(原告らの主張)
本件組合は、被告の前記(1)及び(2)の忠実義務違反行為により、屋良に対して本件漁業補償金の配分として一〇四万九六五六円を支払い、被告及び松竹へ漁業補償交渉委員会へ出席したことの日当として合計四一万円を支払ったことから、その合計一四五万九六五六円の損害を被った。
(被告の主張)
争う。
なお、仮に屋良に対して本件漁業補償金の配分をしたことが違法であったとしても、同補償金の配分は本件組合の固有の財産から出捐したものではないから、本件組合には損害が発生していない。
また、仮に、漁業補償交渉委員会へ出席したことについて、日当を支給したことが違法であったとしても、同日当は本件組合の一般財源からではなく、漁業補償金から支給されたのであるから、この点についても本件組合には損害が発生していない。
(4) 本訴事件提起による不法行為の成否(争点(2))について
(被告の主張)
原告らは、被告を含む本件組合の現執行部体制に反感を抱く人物であり、ことある毎に本件組合の現理事と対立的な行動をとり、本訴事件の提起もその一連の反対行動としてされたものである。
そして、原告らは、旧審査基準取扱要領が改正された平成五年七月一四日当時、同改正の手続に関与し、壼川支部直売店の水揚問題に関する前記理事会にも出席していたのであるから、旧審査基準取扱要領当時においても壼川支部直売店の水揚実績は本件組合市場実績とみなすとの決議があること及び審査基準取扱要領の改正の趣旨を知悉しており、屋良の本件組合への加入には全く問題がないことを認識しており、さらに、種々の漁業補償交渉に出席した経験があり、漁業補償の説明会と補償交渉の違いは明確に認識していた。また、原告らは、監事又は漁業補償交渉委員等の要職を歴任しており、その経験及び知識からして、自己の主張が理由のないことを認識していた。それにもかかわらず、本訴を提起しており、同訴えは、主たる権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものであることを知りながら提起したものと解すべきであり、不法行為に当たるというべきである。
(原告らの主張)
争う。
第3 当裁判所の判断
1 本件漁業補償金の配分についての忠実義務違反の有無(争点(1)アA)について
(1) 当事者間に争いのない事実等、甲七、乙二の1、12、32、33の1ないし7、証人久保裕の証言及び被告本人尋問の結果によれば、次の事実を認めることができる。すなわち、
ア 平成四、五年当時、本件組合の壼川支部に加入している者は約五〇名いたが、壼川支部に加入している者が、捕獲した魚等を本件組合の競り市場まで運ぶのは、その拠点とする港から同市場までの距離があり不便であったため、同港から近い場所に水揚げすることができるよう、本件組合は、壼川支部直売店の設立を検討し、平成四年五月一二日に開催された理事会において、壼川支部直売店の設立が承認され、壼川支部直売店は、壼川支部組合員のほとんどの者の出資により、平成五年五月一日に開店した。
壼川支部直売店が設立された当初は、同店で水揚げをした場合、販売利益の二パーセントを本件組合に手数料として納めることになっていた。
イ その後、壼川支部直売店の経営が悪化したことから、同店の出資者は一三ないし一六名に減少し、平成六年八月一一日には、木嶋がその営業権を譲り受け、以後、木嶋が壼川支部直売店を経営することになった。
ウ 他方、平成四年六月二三日に開催された理事会において、壼川支部直売店の設立が承認されたことを受けて、壼川支部直売店での水揚手数料率及び伝票の取扱いについての議題が協議され、その中で、壼川支部直売店での水揚げを組合員資格要件としての水揚実績として認める旨決議され(壼川支部直売店での水揚げが組合員の資格維持の要件としての実績としてのみ認める趣旨か、それとも新規加入要件としての実績としても認める趣旨であるかについては判然としない。)、次いで、平成五年七月一四日開催の総会で組合員資格診査基準取扱要領を改正し、旧級審査基準取扱要領を新審査基準取扱要領に改正することが承認されたが、組合員から、正組合員の資格要件として要求される年間一二〇万円の漁獲水揚額には他の組合の市場での水揚額も算入可能であるかとの質問が出され、これに対して、組合長(村上一男)は、系統の組合の市場での水揚額であれば資格要件としての水揚実績として認めること、その場合の本件組合へ入る手数料は一パーセントとなること、このように系統の組合の市場に水揚げをした場合は本件組合には手数料が一パーセントしか入らないので、本件組合の経営の改善及び安定のため、可能な限り本件組合の市場に水揚げして欲しいことを内容とする回答をした。
エ 屋良は、本件組合に加入申込する際、壼川支部直売店での水揚実績により本件組合への加入を認めて貰う趣旨で、壼川支部直売店における水揚げの領収書(平成六年一月分以降のもの)を資格審査のための資料として提出し、被告及び本件組合の理事会、資格審査委員会は、壼川支部直売店の水揚実績を准組合員の加入資格である水揚実績と認めて、屋良の新規加入についての資格審査をした。
以上の事実関係を認めることができる。
(2) 屋良を本件組合に加入させたことについての忠実義務違反の有無
ア 原告らは、新審査基準取扱要領においては、准組合員の加入資格としても「当組合及び系統」の市場を通した水揚実績が必要とされるところ、壼川支部直売店は「当組合及び系統」の市場ではないから、これを水揚実績に含めることはできない旨主張するので、まず、この点について検討する。
A 新審査基準取扱要領中の組合員資格要件の解釈について考えるに、新審査基準取扱要領は、正組合員については、当組合の地区内に住所を有する漁民で、年間漁業日数が九〇日を越え、かつ、当組合及び系統を通した市場水揚日数が年間四五日以上の実績を有するか、年間一二〇万円以上の漁獲水揚があり、かつ、その五パーセントに相当する手数料年間六万円以上を当組合に納めることが資格要件とされ、准組合員については、地区内に住所を有しない者で年間漁業日数が九〇日を超え、かつ、当組合及び系統を通した市場水揚日数が年間四五日以上の実績を有するか、年間九六万円以上の漁獲水揚があり、かつ、その五パーセントに相当する手数料を組合に納めるものでなければならないとされているにすぎないから、新審査基準取扱要領においては、文言上は、准組合員として新規加入するに際しては、年間九六万円以上の漁獲水揚があり、かつ、その五パーセントに相当する手数料を組合に納めるものであれば足り、上記漁獲水揚が本件組合及び系統を通した市場におけるものであることまでは要求されるものではないと解される。
原告は、准組合員については、当組合及び系統を通した市場水揚日数が年四五日以上の実績を有するほかに年間九六万円の漁獲水揚があり、かつ、その五パーセントに相当する手数料を本件組合に納めることが必要であると解釈するようであるが、そうすると、文言上、地区内に住所を有する者は、年間九六万円以上の漁獲高があっても、准組合員になる資格がないことになるのであって、このような解釈が不合理なことはいうまでもない。
また、原告は、上記漁獲水揚については、本件組合のセリ市場、又は本件組合が加盟する沖縄県漁業協同組合連合会傘下の漁業協同組合のセリ市場での水揚げを意味する旨主張するところ、なるほど、新審査基準取扱要領の文言上そのように解する余地もあるし、証人村上一男の証言からすると、そのように解釈していた組合員も存することが窺われる。
しかしながら、水協法一八条は組合員の資格要件として漁業日数を要件とするにすぎず、組合市場への水揚げを要件とするものでないこと、乙一六の一ないし五に弁論の全趣旨によれば、平成五年一二月二七日に全国漁業協同組合連合会から、組合員の資格審査について、正組合員の資格要件としては、水揚日数要件のみが要求されること、同水揚日数には、当該組合の市場以外の市場での水揚日数も含まれること、新規加入申込みをした者が新たに行おうとする漁業に係る条件の具備及びその意思があり、正組合員の資格要件を充たすことが確実であると見込まれる場合は、その者を正組合員として加入させるべきであること、上記各要件を充たしていなくとも、定款で定めた要件を充たしていれば、准組合員の資格を認めるべきであることを内容とする基準例が送付され、同連合会及び県農林水産部漁政課から、同基準例を参考にして、本件組合の組合員資格審査に関する規定を改めるよう指導され、さらに、県農林水産部漁政課から、漁業を行う意思のある者の組合加入を制限してはならないこと、漁業を営む日数が年間九〇日に満たない非漁民であっても、水産業に関わりを持っている者は準組合委員の資格は認めるべきであること、新規加入申込みをした者が漁業を営むことが確実であれば、それだけで正組合員として加入させ、それが確実でないとしても、准組合員として加入させること、浜売りの場合も、その漁業日数は資格要件としての漁業日数として認められることを内容とした書面の送付を受けるなどの行政指導が本件組合に対してもされていることが認められ、新審査基準取扱要領は、この内容を先取りしたものとも見られることを考慮すると、あえて法律や行政指導の趣旨に反して准組合員の資格要件を厳しくする解釈をとるべきではないし、原告ら主張の解釈が一義的に正しいともいえない。
B 一方、証人村上一男、同久保裕の証言によれば、組合員中には、新審査基準取扱要領にあっても、准組合員の新規加入資格には、「当組合及び系統」を通した水揚実績が必要であると解する者があること、及び屋良の新規加入を審査するにあたり、資格審査委員会の委員や理事中には、この解釈を前提として、壼川支部直売店での水揚実績は「系統」を通した水揚実績に含まれるとして審査をした者があることも窺われるので、壼川支部直売店での水揚実績をどのように解すべきかについてもみてみるに、前記のとおり、平成四年六月二三日に開催された理事会において、壼川支部直売店での水揚実績を組合員としての水揚実績として認める旨の決議がされていること、上記決議は、明確とはいえないものの、被告主張のように壼川支部直売店での水揚実績を新規加入要件としての水揚実績としても認める趣旨であるとみることも可能であること、上記決議は、旧審査基準取扱要領を前提とするものではあるが、新審査基準取扱要領においても、同様に解釈すべきであると考えることも全く理由のないものではないこと、壼川支部直売店が個人経営に移行したのは、平成六年八月であり、そのことが水揚実績を考慮するうえで重要な変更であるとの指摘が、屋良の資格審査をするまでの間、審査委員や理事のみならず、組合員からもなされた形跡がなく、その論議がされた形跡もないこと、等の事情からすると、壼川支部直売店での水揚実績は「系統」を通した水揚実績に含まれると解することも全く理由がないことではない。
さらに、被告本人は、准組合員の新規加入資格には、「当組合及び系統」を通した水揚実績は必要ではないものの、水揚実績を考慮するうえでは、「当組合及び系統」のほかは、単なる個人経営の店への売上では足りず、壼川支部の組合施設内に店があり、組合員が実際に水揚げが確認できる壼川支部直売店におけるもの以外は実績として考慮されない旨供述するところ、壼川支部直売店が単なる個人店でなく、組合施設内にあることは、他の単なる個人店とは異なるものであることは、被告本人の指摘するとおりであり、被告本人の見解もあながち根拠のないことではない。
C 以上、要するに、当裁判所としては、新審査基準取扱要領の解釈としては、准組合員の新規加入資格については「年間九六万円以上の漁獲高があり、その五パーセントに相当する手数料を組合に納付するもの」であれば足り、同漁獲高が「当組合及び系統」を通したものであることまでは必要ないとすることが相当と考えるが、仮に、同漁獲高が「当組合及び系統」を通したものであることが必要であると解したとしても、壼川支部直売店での水揚実績は「系統」を通した水揚実績に含まれると解することも全く理由がないことではないのであり、逆に、壼川支部直売店での水揚実績は「系統」を通した水揚実績に含まれないが、壼川支部直売店での水揚実績を資格審査の手続内で考慮することには意味があると考えることにも根拠が認められるのであって、屋良の資格審査にあたって、壼川支部直営売店の水揚実績を資料として加入資格の有無を判断することが、明確に新審査基準取扱要領に反するとまではにわかにいうことはできないし、当時、被告が明確に本件組合の内部規則に反して屋良の加入を認めたとか、内部規制の解釈に重大な手落ちがあったとかを認めることはできない。
なお、漁獲高の五パーセントに相当する手数料を組合に納付するについて、水揚げの都度納めることが要件とされているか否かであるが、前記のとおり系統の組合市場での水揚げの手数料は、水揚げの一パーセントしか本件組合には入らず、資格要件として要求される五パーセントとの差額である四パーセントの手数料は後に一括して納付せざるを得ないのであるから、原告らが主張するように、水揚げの都度納付することが必要であるとすると、結局、系統の組合市場での水揚げを資格要件としての水揚実績は認めないというに等しいことになるが、このような解釈が正当でないことはいうまでもない。また、壼川支部直売店における水揚げを水揚実績として認めるのであれば、壼川支部直売店において直接組合に納付しない分は後に納付することにならざるを得ないのであるから、結局後に納付しても差し支えないとみるのが相当である。
したがって、結局、この点に被告に過失は認められない。
イ 次に、新審査基準取扱要領のⅢ2の「組合は、加入申込みを受け付けた後は、原則として最小限一年を経過しなければ、資格審査の判断材料とならない。」との規定についてであるが、同規定の文言上は、原告らが主張するように、本件組合は、加入申込みを受けた場合、その申込み後一年を経過して初めて申込者の資格審査をできると規定したものと解することができる。
これに対して、被告は、上記規定は、支部に加入してから一年を経過しなければ、資格審査ができないという意味である旨主張し、同主張によると、加入申込後の最初の資格審査委員会の時点で支部に加入してから一年を経過していれば、同資格審査委員会で資格審査をすることができることになるところ、被告本人尋問の結果中には、被告の同主張に副う部分も存し、また、乙三の2、4の2ないし4によれば、実際にも、平成七年度の資格審査委員会においては、加入申込みをした六名の者について、申込後一年を経過せずに、その資格審査をし、同六名は最終的に支部加入から一年経過後に本件組合への加入が認められている事例があることも認められる。加えて、原告らの主張する解釈は組合加入の要件を厳しくするもので、水協法の趣旨に反するものであることを考慮すると、被告の解釈も全く取り得ないものではない。また、原告らの主張する解釈も、単に「原則として」判断材料とならないとするに過ぎず、そうでない場合に直ちに義務違反の問題を生ずるものではない。
したがって、この点に被告の過失を認めることはできない。
ウ 以上のとおりであるから、屋良を本件組合に加入させたことについて、被告に忠実義務違反は認められない。
(3) 屋良に漁業補償金を配分したことについての忠実義務違反の有無
ア 出資の払い込みと資格取得時期について
原告らは、出資引受申出額全額を支払って初めて准組合員の資格が認められる旨主張する。
なるほど、本件組合の定款九条二項は、「この組合は、前項の加入申込書を受け、これを承諾しようとするときは、その旨を申込者に通知し、出資の払込みをさせた後、組合員名簿に記載するものとする。」と規定しており、同条項からすると、出資額の全額が払い込まれなければ、組合員名簿に記載されず、したがって、組合員としての資格も認められないようにもみえる。
しかしながら、漁業権等公有水面埋立補償金配分に関する基本方針は、漁業補償金の配分対象者の資格を、当該埋立交渉の初回の日までに本件組合の組合員の資格を取得した者に限定しており、本件組合員の資格を取得する時期は、漁業補償金の配分を受けることができるかに関わり、組合員の利益に重要な影響を及ぼすものであるところ、本件組合の定款は、組合員は一口以上の出資をすることを義務付けているに止まり、屋良が四八一口の出資を引き受けたのは、本件組合の協力要請に応じてしたものであり、資格審査委員中には、屋良から一口の出資の申出があってもそれを拒むことはできないと考えている者もいたこと(証人福地則男、弁論の全趣旨)並びに漁業権等公有水面埋立補償金配分に関する基本方針及び漁業補償金の配分基準は、出資口数によって漁業補償金の配分額に差を設けておらず、屋良としては、四八一口もの出資をする利点がないことを勘案すると、本件組合が四八一口もの多額の出資の協力要請をし、その要請に応じた者がその出資口数の全額の払込みが未了であることをもって、組合員資格を認めないことは不当である。
そして、水協法上も、一口以上の出資をすれば、当然に組合員として認めることを予定しているのであるから、申し出た出資口数を完納しなければ、組合員たる資格を与えないとすることは水協法の趣旨に反する取扱いであるといわなければならない。また、前記定款も、単に組合員名簿への登載に関しての定めであるから、原告らの解釈以外は採り得ないというものでもない。
したがって、本件組合の組合員資格の取得時期は、その出資口数の一部の払込みがあった時点で認めるのが相当である。
イ 本件漁業補償金配分の基準日について
まず、自白の成否について検討するに、本件本訴事件における「本件漁業補償金配分の基準日」の主張事実は、被告が屋良に本件漁業保証金を配分したことが忠実義務に反すること、すなわち、基準日において本件組合の組合員でない者に本件漁業補償金を配分したことの主張の内容をなすものであるから、上記主張事実の主張、立証責任は原告らにあると解される。したがって、この点についての主張、立証責任を負担する原告らに自白が成立することはないから、被告の自白の撤回についての異議は、その前提を欠くというべきである。
そこで、すすんで、本件漁業補償金配分の基準日についてみるに、漁業権等公有水面埋立補償金配分に関する基本方針は、漁業補償金の配分対象者は、当該埋立交渉の初回の日までに本件組合の組合員の資格を取得した者であると規定しているところ、沖縄県中部土木事務所は、平成五年八月三〇日、本件埋立工事による影響を受ける本件組合、那覇地区漁業協同組合及び宜野湾漁業協同組合に対して、本件埋立工事についての説明会を開催し、本件組合では、平成六年一一月二九日に開催された総会において、本件埋立工事の施行による共同漁業権の一部消滅及び漁業の一部制限に対する同意の可否が審議され、これに同意することが承認された。これを受けて沖縄県中部土木事務所は、平成七年四月五日に、本件組合等に対し、補償金額の提示をし、同年一二月二四日に沖縄県中部土木事務所と本件組合、那覇地区漁業協同組合及び宜野湾漁業協働組合との間で、補償金額が妥結したこと、以上の事実は、乙七の7、10、11の各1、2、25、32及び弁論の全趣旨により認められる。原告らは、本件漁業補償金の配分について、上記基本方針の「当該埋立交渉の初回の日」を沖縄県中部土木事務所が関係漁業協同組合に対して、本件埋立工事についての説明会を開催した日であると主張する。
しかしながら、上記基本方針の当該規定の文言からは、「当該埋立交渉の初回の日」を、当該埋立工事についての説明会を最初に開いた日と当該埋立工事による補償金額を最初に提示した日のいずれにも解することができるのみならず、漁業補償は、当然ながら、漁業権の消滅を前提とするのであるから、単なる説明会を「交渉」というにはやや無理があるとも考えられる。そして、本件埋立工事による影響を受け、本件埋立工事についての交渉に参加した那覇地区沿岸漁業協同組合及び宜野湾協同組合並びに本件埋立工事施工者である沖縄県中部土木事務所は、本件漁業補償金についての漁業補償交渉の初日は、補償額が提示された日である平成七年四月五日と理解していること(乙一〇の一、二、一一の二)を併せ考慮すると、本件漁業補償金については、上記基本方針の「当該埋立交渉の初回の日」は、平成七年四月五日と解するのが妥当であると当裁判所も思料する。
したがって、この点に関する原告らの主張は理由がなく、この点に関して、被告に忠実義務違反は認められない。
(4) してみると、本件漁業補償金の配分について被告に忠実義務違反は認められないが、さらに、本件漁業補償金の配分により本件組合が損害を被ったとも認められない。すなわち、本件漁業補償金の配分は、本件埋立工事に伴う損失補償金であることは前記のとおりであるが、これは、漁業権の消滅の対価であることはいうまでもない。そして、屋良に配分された漁業補償金が同人に配分されなければ、他の組合員の配分が増額されるという関係にあるのであって、本件組合が利得するという関係にはない。
したがって、本件漁業補償金の配分の適否により、本件組合が損害を受ける関係にはなく、この点でも原告らの主張は失当である。
2 日当支給についての忠実義務違反の有無(争点(1)アB)について
まず、原告らは、被告及び松竹に対する日当の支給が本件組合の旅費規程によらずにされたものである旨主張するところ、これが、旅費規程による日当の支給でないことは、被告もこれを自認するところである。
被告は、上記日当は、本件組合が、補償委員会の漁業補償交渉委員及び漁業補償配分委員(両者を併せて以下「漁業補償委員」という。)の手当てについての取決めをした。「補償委員会の委員手当の支給要領」に従って支給されたものである旨主張するところ、松竹が補償交渉委員であることは原告らにおいて明らかに争わないから、これを自白したものとみなすべきであり、被告及び松竹が、前記各漁業補償交渉委員会に出席したことは、当事者間に争いがない。
原告らは、組合長は自動的に漁業補償委員となるのであるから、組合長が補償委員会に出席しても、補償委員会の委員手当ての支給要領は適用されない旨主張するが、同支給要領の規定からは、組合長を補償委員会の委員手当の支給対象から除外しなければならないとの解釈をすることはできない。
したがって、原告らの前記主張は理由がなく、本件組合が、被告及び松竹に対して、上記金額の日当を支給したことに被告に忠実義務違反は認められない。
3 本訴事件提起による不法行為の成否(争点(2))について
訴えの提起が不法行為を構成するのは、当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものであるうえ、提訴者が、そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知りえたといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められる場合である。
そこで、この点についてみるに、本訴事件は、前記のところから明らかであるが、本件組合の諸規定についての解釈の相違によって提起されたものであって、原告らの主張もある程度合理性を有するものであること、原告らがことさらに被告に苦痛を与えることのみを目的としていると認めるに足りる事情はないこと(単に、本件組合の運営に関して多数の訴えを提起しているというだけでは、足りない。)からすると、原告らの本訴提起が不法性を帯びるとは認められない。
第4 結論
以上のとおり、本訴事件における原告らの請求及び反訴事件における被告の請求はいずれも理由がないから、棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条、六五条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官・綿引穣、裁判官・松田典浩、裁判官・佐野信)
別紙
1 定款
(1) 八条 組合員の資格
ア 次に掲げる者は、この組合の正組合員となることができる。
この組合の地区内に住所を有し、かつ、一年間に九〇日を超えて漁業を営み又はこれに従事する漁民
イ 次に掲げる者は、この組合の準組合員となることができる。
A この組合の地区内に住所を有する漁民で、正組合員に該当する者以外のもの
B この組合の地区内に住所を有しない漁民で、その営み又は従事する漁業の根拠地がこの組合の地区内にあるもの
(2) 九条
ア 一項
この組合の組合員になろうとする者は、……引き受けようとする出資口数を記載した加入申込書を提出しなければならない。
イ 二項
この組合は、前項の加入申込書を受け、これを承諾しようとするときは、その旨を申込者に通知し、出資の払込みをさせた後、組合員名簿に記載するものとする。
(3) 一八条
組合員は、出資一口以上持たなければならない。
(4) 一九条
出資一口の金額は一五〇〇円とし、全額一時払込みとする。
(5) 二八条
この組合には、役員として理事八人及び監事三人を置く。
(6) 三一条
監事は、理事の職務の執行を監査する。
(7) 三八条
法令又はこの定款で別に定めるもののほか、次の事項は、総会の議決を経なければならない。
規約、資源管理規定及び共済規定の設定、変更及び廃止
(8) 四九条
この組合の組織及び事業の運営につき、定款で別に定めるもののほかは、次に掲げる事項は理事会において決する。
業務を執行するための方針に関する事項
2 規約
三三条
理事会に付議すべき事項は、次のとおりとする。
規定、規則、細則(監査細則を除く)その他業務の執行に関する重要な規程の設定改廃に関する事項
3 組合員資格審査基準
(1) 住所要件
ア 正組合員の場合
組合の地区内に生活の本拠がある者
イ 准組合員の場合
組合の地区内に住所を有しない漁民で、その営み又は従事する漁業の根拠地が本件組合の地区内にある者
(2) 漁業日数要件
ア 正組合員の場合
漁業を営み又はこれに従事する日数が一年間に九〇日を超える漁民
イ 准組合員の場合
本件組合の地区内に住所を有する漁民で、漁業を営み又はこれに従事する日数が一年間に九〇日以下の者
4 組合員資格審査基準取扱要領
(1) 旧審査基準取扱要領
ア Ⅰ(組合員の資格審査の要件)
A (1)
年間漁業日数が九〇日を超えるもので、当組合市場水揚日数が六〇日以上の実績を有し、かつその収入に生計を依存するものは正組合員の資格を有する。
B (2)
正組合員は、現に六〇日以上の市場水揚をなし、又は年間八四万円以上の水揚があり、かつその五パーセントに相当する手数料四万二〇〇〇円以上を納付するものでなければならない。
C (5)
正組合員であるものが、やむを得ずその出荷及び販売を漁協又は系統を通すことができない事由が生じた場合においては、その旨の事由書又は水揚実績等の報告書をもとに調査検討を行い、現に漁業を営むものであるとの判定によるものであること。
D (7)
新規に加入したものにつき、最小限一年を経過しない限り、その実績をもってしても正組合員資格の判断材料とならない。
イ 2(新規加入資格の要件)
A (1)
組合は、新規加入を希望する者の申込書を仮に受け付け、その者の水揚実績(本件組合市場実績)及び組合事業に対する関心度について一二か月を超えない期間で調書で整備してその判断材料とする。
B (2)
組合加入申込者は、あらかじめ提出した漁民調査表のほか、申込後一二か月を超えない期間における漁業実績(市場水揚高)及び組合事業の利用実績を記載した調書を提出するものとする。
C (7)
新規加入者については、その申込時においていずれかの支部に加入していることを原則とする。
(2) 新審査基準取扱要領(平成五年七月一四日改正)
ア Ⅰ(正組合員の資格要件)1
正組合員は下記の各号要件のいずれかを満たす者でなければならない。
A (1)
組合の地区内に住所を有する漁民で、年間漁業日数が九〇日を超え、かつ当組合及び系統を通した市場水揚日数が四五日(六〇歳以上は二〇日)以上の実績があれば正組合員の資格を有する。ただし、長期操業船はその限りではない。
B (2)
正組合員は、年間一二〇万円以上の漁獲水揚があり、かつその五パーセントに相当する手数料年間六万円以上を組合に納める者でなければならない。
C (3)
正組合員であるものが、やむを得ずその出荷及び販売を本件組合又は系統を通すことができない事由が生じた場合は、その旨の事由書と水揚実績等の報告書を提出しなければならない。
イ Ⅱ(准組合員の資格要件)
A 1
年間漁業日数が九〇日を超え、かつ当組合及び系統を通した市場水揚日数が四五日(六〇歳以上は二〇日)以上の実績があっても、本件組合の地区内に住所を有しない者は准組合員とする。
B 2
准組合員は年間九六万円以上の漁獲水揚があり、かつその五パーセントに相当する手数料を組合に納める者でなければならない。
C 3
准組合員である者が、正組合員の資格要件を充たした場合においては、資格審査を経て正組合員として昇格することができる。
ウ Ⅲ(新規加入の資格要件)
A 1
組合に新規加入を希望する者は、加入申込書に必要書類を添えて提出しなければならない。
B 2
組合は、加入申込書を受け付けた後は、原則として最小限一年を経過しなければ、資格審査の判断材料とはならない。
C 3
新規加入者については、その申込時においていずれかの支部に加入していることを原則とする。
5 漁業権等公有水面埋立補償金配分に関する基本方針及び漁業補償金の配分基準
(漁業権等公有水面埋立補償金配分に関する基本方針及び漁業補償金の配分基準は、平成六年一一月五日に開催された漁業補償委員会及び理事会での審議を経て、同月二九日に開催された総会で改正された。)
(1) 漁業権等公有水面埋立補償金配分に関する基本方針
ア 配分対象の資格者は、当該埋立交渉の初回の日において本件組合の正組合員となっている者
イ 配分は、組合員資格審査資料及び「配分基準」によって、次のとおり三等級と特別処置によって配分する。
A A級該当者
正組合員の資格要件を具備し、年額一二〇万円以上の水揚が組合及び系統を通したことの証明ができる者
B B級該当者
A級該当者以外の正組合員である者
C C級該当者
理事会及び配分委員会が認めた准組合員
ウ 准組合員であっても理事会又は配分委員会で認めた組合員にはA級及びB級該当者として配分することができる。
(2) 漁業補償金の配分基準
ア 3漁協による妥結額×130/284=本件組合受取額と認める。
イ 本件組合受領額から当該補償委員会の運営費を差し引く。
ウ 補償委員会費用を差し引いた額の三〇パーセントを組合手数料とする。
エ 組合手数料を差し引いた額÷対象者組合員数で除した額=基準額とする。
オ 基準額により、次のとおり二等級と特別措置に分け、組合員に配分する。
A A級該当者=基準額【一〇〇パーセント】+a
B B級該当者=基準額【一〇〇パーセント】
C C級該当者=基準額【五〇パーセント】
6 本件組合公有水面埋立補償委員会会則及び補償委員会の委員手当ての支給要領
(1) 本件組合公有水面埋立補償委員会会則
ア 三条
この委員会は、A漁協の組合員を以て組織し、委員の数は、漁業補償委員七名、漁業補償配分委員一九名以内とする。
イ 四条
この委員会に委員長及び副委員長を置き、委員長にはA漁協長、副委員長には筆頭理事がその任に当たる。
ウ 一〇条
委員会の経費は、当該補償金の一部を以て充てる。
(2) 補償委員会の委員手当ての支給要領
ア 委員手当ては、補償金の中から差し引いた相当額を以て充てるものとする。
イ 委員手当ての額の算出は、委員会を開催した回数に日当相当額を乗じて得た額とする。
ウ 委員手当ての日当相当額は漁業補償交渉委員は一万円、漁業補償配分委員は五〇〇〇円とする。
7 旅費規程
(1) 七条
役職員が組合の業務により出張したときは出張旅費を支給する。
(2) 八条
出張旅費は、交通費、日直、宿泊料及び食卓料とし、県内出張については、次のとおり支給する。
ア 交通費については、役員、参事及び職員とも実費とする。
イ 日当については、役員及び参事は三五〇〇円、職員は三〇〇〇円とする。
ウ 宿泊料については、役員は四五〇〇円、参事は四三〇〇円、職員は四〇〇〇円とする。
(3) 九条一項
日当は日数に応じ、宿泊料及び食卓料は夜数に応じて支給する。
(4) 一二条
各種委員会の委員が組合業務のため出張するときは、役員に準じて旅費を支給する。
(5) 一四条
ア 一項
八条の規定にかかわらず、在勤事務所から往復二〇キロメートル未満の外勤については二分の一を支給し、往復一〇キロメートル未満の外勤については車賃以外の旅費はこれを支給しない。
イ 二項
非常勤役員及び各種委員会の委員の外勤については、前項の規定を適用しない。
(6) 一五条
実費弁償は次の場合に支給する。
ア 一項
非常勤役員が理事会、監事会への出席及び監査の実施、その他出張以外の組合の業務に従事したとき
イ 二項
各種委員会その他組合の業務に関する会議で実費弁償の定めのあるものの構成委員が会議出席、その他組合の指示する出張扱い以外の業務に従事したとき
(7) 一六条一項
実費弁償は次のとおり支給する(県内の場合)。
ア (1)
日当については、役員及び参事は三五〇〇円、職員は三〇〇〇円とする。
イ (2)
交通費については、実費とする。