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那覇地方裁判所 平成10年(ワ)718号 判決 2000年5月10日

原告

株式会社データ・マックス沖縄

右代表者代表取締役

宇地原忍

右訴訟代理人弁護士

与世田兼稔

阿波連光

被告

株式会社データ・マックス

右代表者代表取締役

兒玉直

右訴訟代理人弁護士

梅野茂夫

主文

一  被告は、原告に対し、金一一三四万円及び内金二八三万五〇〇〇円に対する平成一〇年四月一日から、内金二八三万五〇〇〇円に対する平成一〇年一〇月一日から、内金二八三万五〇〇〇円に対する平成一一年四月一日から、内金二八三万五〇〇〇円に対する平成一一年一〇月一日から、各支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告に対し、平成一二年三月、同年九月、平成一三年三月、同年九月、平成一四年三月、同年九月、平成一五年三月の各末日限り、各金二八三万五〇〇〇円及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は、被告の負担とする。

四  この判決は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

主文第一、二項同旨

第二  事案の概要

一  請求原因

1  原告は、沖縄県内において、県内企業の信用情報を集積し、顧客に対し、企業の信用情報や信用調査報告をすることを業とする会社であり、被告は、福岡県及びその隣接地域を営業活動の拠点として、原告と同一内容の事業を営む会社である。

2  原告と被告は、平成六年八月ころ、業務効率化のためにOA化を行うことに合意し、そのソフト開発を原告が担当することになった。原告は、すぐにソフト開発に着手し、「既調管理データベースシステム」をステージ1からステージ4まで、順次開発・改良してきた。

原告は被告に対し、平成九年八月末日ころ、「DANAM Base Stage4」(以下「本件ソフト」という。)を納品した上で、これまで原告が担当してきた開発・改良業務の報酬を明確化することを目的として、次のとおりのコンピュータソフトウェア使用許諾契約を締結した(以下「本件契約」という。)。契約の名称は使用許諾契約であるが、その実質はソフトウェア開発請負契約である。

(一) ソフトウェア名 DANAM Base ステージ4

(二) ライセンス数 一五ライセンス

(三) 使用許諾料 三二四〇万円(消費税別)

(四) 支払条件 一二回均等分割払い 毎年九月末と三月末にそれぞれ二七〇万円(消費税別)を支払う。

(五) 初回支払日 平成九年九月末日

3  被告は、平成九年九月三〇日、本件契約に基づく初回の分割金二八三万五〇〇〇円(消費税を含む。)を支払ったが、第二回の支払日である平成一〇年三月分以降の支払をしない。被告は、一方的に本件契約を解除した旨主張する対応に終始しており、履行期末到来の使用料についても支払を怠る可能性が極めて高い。

4  よって、原告は、被告に対し、本件契約に基づき、別紙支払金目録の「支払期日」及び「支払金額」欄記載のとおり、代金残額のうち、既に弁済期が到来した金一一三四万円及び平成一二年三月から平成一五年三月まで、毎年三月末と九月末に各二八三万五〇〇〇円(合計三一一八万五〇〇〇円)並びにこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで、それぞれ商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被告の認否及び主張

1  請求原因3のうち、被告が一方的に本件契約を解除した旨主張する対応に終始しているとの事実は否認するが、その余は認める。

2  本件契約が締結された平成九年八月末日当時、原告の代表取締役は兒玉直(以下「兒玉」という。)と宮城普佐芳(以下「宮城」という。)であり、両名の共同代表の定めがあった。他方、被告の代表取締役は兒玉であり、宮城は被告の取締役であった。しかし、本件契約締結について、原告も被告も取締役会の承認を経ていない。したがって、本件契約は商法二六五条に違反して無効である。

3  被告は、原告に対し、平成一〇年三月末ころ到達した書面により、以下のとおり、本件契約を解除した(以下「本件解除」という。)。

(一) 本件契約は、原告と被告の共同事業の展開をめざし、ソフトウェアの開発によって、第一に顧客への迅速な応対と気がかり情報の提供を継続的に可能とすること、第二に業務の省力化(入力時間の短縮)と効率化を進めることを目的とし、その結果、新規顧客を開拓して増収を図ろうとするものであった。そのため、本件契約の目的として、以下の五点を設定することが合意された。

① 調査レポート入力に要する時間を、一件につき一時間以内にする。

② 企業信用調査における企業データの照会が即座に行えるようにスキャナーを使用し、紙情報を電子化し、既調袋・ロッカーを不要とする。

③ データ送受信の高速化を図り、福岡・沖縄間をオンライン化する。

④ 収録したデータをコンピュータに取り込み、管理の一元化を図る。

⑤ 企業信用調査において集積された企業データと「I・B」という情報誌のデータを、それぞれコンピュータに取り込んで、管理を一元化する。

(二) ところが、納入された本件ソフトには、次の瑕疵が存在し、右の目標はいずれも達成できなかった。

① 調査員が記入した調査用紙と入力画面の入力形式が異なるので、入力に時間がかかる。

② 原稿どおり入力されたかどうかをチェックする手だてがなく、チェック校正に時間がかかる。

③ ドキュメンテーションの行間が狭く、見にくいため、行間を拡大する必要がある。

④ 決算書の様式が横並びで非常に入力に手間がかかっているため、縦並びにする必要がある。

(三) 被告は、原告が納入した本件ソフトは、開発目標を達成していないため、業務上使用できる状態ではなく、請負契約の仕事は完成していないとして民法六四一条に基づき、本件解除の意思表示をした。

(四) 仮に本件ソフトの作成が一応完了したとしても、右の瑕疵が存在するため、平成一〇年三月末ころの段階においても、一件の入力時間を六〇分以内にするという目的は達成されず、ソフトウェアの開発による共同システム化の推進も目的達成が不可能となった。したがって、被告は原告に対し、契約の目的を達することができないとして、民法六三五条に基づき、本件解除の意思表示をした。

また、本件契約は、宮城と兒玉の個人的な信頼関係を前提とする原被告の共同事業の一環として締結されたものである。しかし、宮城が、兒玉の意向に反して、金融関係の仕事を行っていたこと、宮城が原被告間の共同事業の協力関係を放棄し、保有する原告の株式のほとんどを譲渡したことから、宮城と兒玉の信頼関係が壊れてしまった。被告は、原告に対し、このような点からも、本件契約の目的達成が不可能となったため、本件解除の意思表示をした。

三  争点

1  商法二六五条違反の主張の当否

2  本件解除事由の有無

第三  当裁判所の判断

一  争点1について

1  証拠(甲六ないし九、乙一の一ないし三、乙二の一・二、乙七、乙一二、証人宮城、同安元、同中尾、被告代表者本人)によれば、以下の事実が認められる。

兒玉は、企業の信用情報提供を行う株式会社東京経済の取締役兼九州副社長の地位にあったが、平成六年七月、同社の沖縄支店長で、パソコンを利用した信用情報の提供について実績を有していた宮城を誘って、東京経済を退社し、平成六年一一月一〇日に被告を、平成七年四月二〇日に原告を設立した。設立当初、兒玉は、被告及び原告の代表取締役に就任し、宮城は原告の代表取締役兼被告の取締役に就任した。原告においては、宮城と兒玉の共同代表の定めがされていたが、宮城は、原告の株式の約八割を保有し、兒玉と相談の上、原告の業務執行を決定していた。一方、被告においては、平成七年六月、経理に明るい中尾勉(以下「中尾」という。)が取締役として入社し、兒玉、宮城及び中尾の三人で業務執行を決定していた。

兒玉らは、設立当初から最先端のOA化を実現することにより、データマックスグループの全国展開を目指し、平成六年八月ころ、兒玉が宮城に対し、両社を統合する「既調管理データベースシステム」の開発を依頼した。宮城は、被告の取締役として、月に一回程度の割合で福岡に出張し、被告の取締役会に出席した。被告の取締役は、登記簿上五名いたが、二名は非常勤であり、取締役会は、通常、兒玉、宮城及び中尾の三名で行われていた。取締役会では、毎回、本件ソフト開発について打合せをしており、平成九年七月には、本件契約の締結についても協議された。原告は、設立時に入社したシステムエンジニアの安元豊(以下「安元」という。)を担当者として、本件契約に至るまでの三年間、ソフトの開発、四回のバージョンアップを無償で行っていた。

原告は、平成一二年一月三一日、取締役会を開催し、本件契約締結の追認決議をした。しかし、被告においては、本件契約締結にあたって、取締役会の決議は行われていない。

2  商法二六五条は、取締役が自己又は第三者のためにその会社と取引をなすには取締役会の承認を要する旨規定しており、これは同一人が二個の会社の代表取締役を兼ねている場合の両会社相互間の取引についても適用される。1で認定したとおり、平成九年八月末日当時、原告の代表取締役は兒玉と宮城の二人で、共同代表の定めがあり、他方、被告の代表取締役は兒玉で、宮城は被告の取締役であった。したがって、形式的には、兒玉については原被告両社の、宮城については被告の、それぞれ取締役会の承認が必要であった。

しかし、商法二六五条の規定の趣旨は、会社と取締役個人との間、又は、同一人が代表取締役を兼ねている双方の会社の間の利害が相反する場合において、一方の利益において、他方に不利益を及ぼす行為が行われることを防止することにある。これを本件についてみると、前述のとおり、原告と被告は、設立の当初から、本件ソフト開発について緊密に連携し、いわば本社とソフト開発担当支社といった関係にあった。そして、原告は、本件契約締結に至る約三年間、本件ソフト開発を無償で行い、この間、被告の取締役会においても、兒玉ら三名の間で、繰り返し、本件ソフトの開発目標、スケジュール及び進捗状況の検討、具体的な改善項目に関する協議が行われた。その結果、本件契約書(甲一)が作成され、被告は、原告に対し、第一回目の分割金を支払った。

以上認定した事実に照らすと、少なくとも、被告の業務執行に当たっていた兒玉、宮城及び中尾の三名の役員が本件契約の締結に同意していたことが認められ、兒玉と宮城が原被告の代表取締役又は取締役を兼任していても、本件契約締結について、取締役の地位を利用して原被告いずれかの利益を害する結果になるおそれはなかったというべきである。したがって、実質的には、被告の取締役会の承認がされていたものと同視することができ、争点1に関する被告の主張は理由がない。

二  争点2について

1  証拠(甲三の一ないし一六、甲四の一ないし六、甲六、甲七、乙三の一・二、乙四、乙五、乙一三ないし一五、乙二〇、証人宮城、同安元、同中尾)によれば、以下の事実が認められる。

宮城は、平成六年八月ころから、兒玉にデータ・マックスグループ全体のシステム設計を依頼され、本件ソフトのもとになったレポート作成機能のみを有するステージ1を開発した。その後、安元が、検索機能を付加したステージ2、重複入力事項を見直し、自動計算機能を付加したステージ3、処理速度を改善したステージ4(本件ソフト)を開発した。

原告は、平成八年八月ころ、被告に対し、ウィンドウズ95を基本ソフトとするステージ3を納入したが、処理速度が遅かったことや調査報告書の様式について、被告から三〇項目以上の改善要望が出された。そこで、原告は、同年一一月ころ、処理速度を速めるため、基本ソフトとして「アクセス2・0」を採用するとともに、被告の改善要望を取り入れ、平成九年二月ころまでに、本件ソフトを開発し、本格稼働を実現する計画を立案した。原告は、平成九年一月ころまでの間に、被告の改善要望を盛り込んだ本件ソフトを作成した。原告は、平成九年三月一四日、被告担当者に対し、本件ソフトの実演を行い、同年四月二日に納品した。原告は、その後判明したプログラムのバグを修正し、同年七月一八日、本件契約書の案を被告に送付し、同年八月末ころ、本件契約書が作成された。

この間、被告から、同年七月ころまでの間に、①調査員が記入した調査用紙と入力画面の入力形式が異なるため、入力に時間がかかる、②原稿の通り正確に入力されたかどうかをチェックする手だてがない、③報告書の行間が狭く、見にくい、④決算書の様式が横並びで、入力に手間がかかる、という改善要望が出された。そこで、原告は、①については、入力画面の形式に合わせた入力用紙を作成する、②については、入力様式通りにプリントアウトする機能を付加するという対応をした。また、本件契約書の作成後にも、同年九月ころまでの間に、実際に本件ソフトを利用して入力事務を行ったオペレーターの意見を踏まえて、被告から、新たに八〇項目を超える改善要望が出され、同年一二月ころまでの間に、右③と④を除く項目については、被告の要望を取り入れた形で本件ソフトが改良された。安元は、③については、基本ソフトである「アクセス2・0」に行間を広げる機能がないため、文字フォントや文字の種類を見やすいものに変えるという提案をした。④については、マイクロソフトアクセスでは項目が横にしか並ばないので、修正は不可能であると説明した。

被告は、平成九年九月三〇日、原告に対し、本件契約に基づき、二八三万五〇〇〇円を支払ったが、平成一〇年三月末ころ、原告に到達した書面で、本件契約を解除する旨の意思表示をした(乙六)。被告は、その後、福岡市内のソフト開発会社に依頼して制作した新たなソフトを実用化し、本件ソフトは業務に一切利用しておらず、本件契約は解除されたとして、支払を拒んでいる(乙二〇ないし二二)。

2  被告は、本件ソフトの開発は完成しておらず、又は契約の目的が達成できない旨主張する。まず、乙七ないし一二、証人中尾、同宮城によれば、平成八年四月ころ、被告において、前記被告の主張3(一)に挙げた五点のシステム化の目標が掲げられていたこと、これらについて平成八年中を実現の目処としていたこと、原告もこれを承知していたことが認められる。しかし、右の目標の中には、スキャナーを使用した紙情報の電子化、福岡沖縄間のオンライン化、データ管理の一元化等、本件ソフトの開発には直接的には含まれていない事項もある上、1で述べたとおり、ステージ1からステージ4まで徐々に改良を進めながらシステム化を進展させ、本件契約が締結されたという経緯、被告は、平成九年一二月ころまでの間、本件ソフトについて、百を超える改善要望を出しているが、入力時間の短縮化に関する項目を除き、その他のシステム化目標については、特に触れられていないこと、乙七及び九号証は、被告の会議におけるレジュメ文書にすぎず、本件契約書には本件ソフトが確保すべき内容について、特段の記載がないこと(以上につき、甲一、甲三の一ないし一六、証人安元)に照らすと、被告主張のシステム化の目標は、あくまでも将来の開発目標であり、前記五点の目標を達成することが、本件契約の内容及び契約の目的となっていたとは認められない。

また、入力時間の短縮についても、入力に要する時間は、調査内容や担当者の資質により変動することに加え、既に述べたとおり、平成九年二月以降、原被告間で、入力画面に即した調査記入用紙の利用等様々な改善策を講じた上、入力に要する時間を実測するなどした結果、本件契約書の締結に至ったものであり、遅くとも本件契約の時点では、一応の目標を達していたものと認めるのが相当である。

3 さらに、被告が本件ソフトの瑕疵であると指摘する四点については、これまで述べたとおり、①及び②については、被告が本件契約を解除する前に修正済みであり、③及び④については、基本ソフトの問題から修正が不可能である。そして、③については、被告が本件契約の締結前から改善要望を出して、原告も様々な対応策を提案していたこと、④については、本件契約締結後に出された改善要望であること、百を超える被告の改善要望のうちの残った二項目に過ぎず、他の要望事項については、その都度原告が改良を加えていること、入力画面の見やすさ等、形式面が被告の要望と異なるという次元の問題であり、例えば計算ミスが起こるといったソフトの機能自体に不具合が生じたものではないことを総合すると、右の二点で被告の要望が受け入れられなかったからといって、直ちに本件ソフトに瑕疵があるとは認められない。

4 以上によれば、原告は、本件ソフトを完成し、本件ソフトに瑕疵は存しないのであるから、本件解除事由を認めることはできず、本件解除の意思表示は効力がない。

5  被告は、本件契約が、宮城と兒玉の個人的な信頼関係を前提として締結されたところ、両者の信頼関係が破壊されたことにより、解除権が発生するとも主張する。

しかし、既に述べたとおり、本件ソフトは一応完成し、瑕疵も認められないのであるから、宮城が兒玉との協力関係を解消したとしても、そのこと自体が本件契約の解除事由に該当するとは認められない。また、本件ソフト開発のきっかけが、宮城と兒玉の共同事業計画に伴うものであり、本件契約が、業務用のソフト開発という継続的なアフターケアーを要求される請負業務を内容としていることから、原被告間で一定の信頼関係が必要とされるとしても、既に認定したとおり、本件契約は、宮城と兒玉の個人間の契約ではなく、原被告間の契約であること、本件ソフトの開発に関する交渉は、担当者の安元や中尾の間で行われてきたことに照らすと、宮城と兒玉の個人的な信頼関係がなくなったからといって、直ちに本件契約の解除事由に当たるとは認められない。したがって、この点に関する被告の主張も理由がない。

以上によれば、原告の請求は全部理由がある。

(裁判長裁判官・齊藤啓昭、裁判官・井上直哉、裁判官・瀬戸さやか)

別紙支払金目録<省略>

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