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那覇地方裁判所 平成10年(ワ)993号 判決 2002年8月27日

主文

1  原告が,被告の組合員たる地位にあることを確認する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

主文と同旨

第2事案の概要

1  本件は,被告の組合員である原告が,被告に対し,被告から受けた除名処分は除名事由がないのになされた無効なものであるとして,被告の組合員としての地位の確認を求めた事案である。

2  争いのない事実及び証拠により明らかに認められる事実

(1)  当事者

被告は,漁民等を組合員とし,組合員のために事業を行い,もって組合員の経済的社会的地位の向上を図ることを目的として,水産業協同組合法(以下「水協法」という。)に基づいて設立された漁業協同組合である(乙1)。原告は,昭和58年3月2日に被告の准組合員,昭和62年6月に正組合員となり,昭和61年5月から平成8年5月までは被告の監事の地位にあり,昭和63年5月以降は代表監事の地位にあった。

(2)  除名処分に至る経緯等(原告の行動等)

原告は,平成8年5月30日に開催された被告の通常総会において,監事として,「理事の職務執行については,法令又は定款に違反する重大な事実はなく,事業報告書の内容は,真実であると認めます。賃借対照表及び損益計算書は,法令及び定款並びに公正妥当と認められる会計の原則に従って組合の財産及び損益の状況を正しく示していると認めます。損失処理案については,法令,定款及び組合の財産の状況その他の事情に照らして検討しましたが相当と認めます。」との意見(以下「通常総会における適正意見」という。)を述べた(甲7,甲8,乙6)。

原告は,平成8年6月20日,被告組合員15名と共に,理事の職務等に法令,定款,規約及び総会決議違反があるとして,沖縄県知事に対して,平成8年度通常総会でなされた一部決議の取消と漁業補償金の配分方法,組合員資格審査方法及び販売事業全般の会計状況についての検査を求めた(以下「県に対する検査請求」という。甲2の1,2)。

原告は,平成10年8月8日,被告組合員1名と共に,被告代表理事で組合長であるAに対し,漁業補償金の配分,旅費の実費弁償の支給が被告規定に反して違法で,忠実義務違反(善管注意義務違反)があるとして,損害賠償責任を追及する組合員代表訴訟を提起した(甲5)。

(3)  除名処分

被告は,平成10年8月25日に被告組合員から,原告の除名を議題とする臨時総会招集請求がなされた(乙2)ことから,同年9月8日,臨時総会を開催し(以下「本件総会」という。),同総会において,原告を除名する旨の決議をした(以下「本件除名処分」という。乙3)。

被告は,同月17日,原告に対し,除名決定通知書(以下「本件通知書」という。)を原告に送付した。本件通知書の内容は,原告を除名相当と認めた理由として,原告が平成8年度の通常総会において理事から提出された業務報告書に対し,法令又は定款等に違反する重大な事項はなかったとの監事意見書を提出し報告しているにもかかわらず,その21日後である平成8年6月20日には,代表署名人となって行政庁に対し,理事の法令等違反があるとして検査請求するなどしており,その一連の行為は監事としての善管義務違反,忠実義務違反に該当し,組合内部の秩序を乱し,組合員を混乱に招き入れ,心理的損害を与えたとして,定款第15条1項4号の「組合の信用を著しく失わせるような行為をしたとき」に該当するというものである(乙4の1,2)。

(4)  除名に関する規定

被告の定款では,組合員の除名に関し次のように定められている(乙1)。

第15条

「組合員が次の各号の1に該当するときは,総会の議決によって除名することができる。この場合には,総会の日から1週間前までにその組合員に対してその旨を通知し,かつ,総会において弁明する機会を与えなければならない。

(1)  この組合の施設を1年間全く利用しないとき。

(2)  第18条及び第19条の規定による出資(以下「出資」という。)の払込み,賦課金の納入その他この組合に対する義務の履行を怠ったとき。

(3)  この組合の事業を妨げる行為をしたとき。

(4)  法令,法令に基づいてする行政庁の処分又はこの組合の定款,行使規則(漁業権行使規則及び入漁権行使規則をいう。以下同じ。)若しくは規約に違反し,その他組合の信用を著しく失わせるような行為をしたとき。

2  除名を議決したときは,その理由を明らかにした書面をもって,これをその組合員に通知しなければならない。」

2  争点及び当事者の主張

本件の争点は,被告のした原告に対する除名処分の効力であり,原告に除名事由が認められるかであるが,以下の各観点から,その可否が争われている。

(1)  組合内部の紛争に対する司法審査の在り方について

(被告の主張)

被告のように,人的信用を基礎とする組合における除名制度の意義は,組合の信用や内部秩序を守るため,組合の組織決定によって,組合の信用を害し,内部秩序を遵守しない者を排除することを可能とするものである。組合内部の紛争は原則として内部で決着が図られるべきであり,その濫用防止のためには,被除名者に弁明の機会を保障したり可決要件を加重した特別決議事項とするなどの手続が定められているのであるから,司法機関は,その手続に重大な瑕疵がある場合や明白に除名事由が存在しないのに除名をされたというような,社会的公正,公平の観点からみて,司法手続上の救済を与えなければならないような極めて重大なミス,手続違背がある場合以外は,組合内部の意思決定を尊重すべきである。

本件除名処分は,水協法27条1項3号,2項本文3号,被告定款15条等の厳格な手続規定を遵守し,原告の弁明を聞いた上で,出席総員121名の組合員のうち86名の賛成という特別決議をもってされたものであって,被告の自律的判断が尊重されるべきであり,司法機関がそれを覆すような判断をすべきではない。

(原告の反論)

被告は,法律上の規制のない単なる任意団体ではなく,水協法により設立された漁業協同組合で,資本主義社会において経済的基盤の脆弱な個々の漁業者の助成を目指す団体であり,極めて公益的性格を有している。そのため,水協法では,組合への加入制限の禁止(水協法25条)や除名手続の法定(同27条)等,漁業者が等しく水協法による助成の利益を受けられるよう定められているのであって,除名事由の審査にあたっては当該組合の性質を踏まえて厳格な審査が行われるべきである。

(2)  本件除名処分の除名事由について

(被告の主張)

被告の構成員及びその中から選任された理事は漁師であり,組合の法制度や定款条項の解釈,運用を熟知しているわけではないため,本件通知書に記載された除名事由は,必ずしも除名請求をした組合員やそれに賛同した組合員の意図を的確に反映しているとはいえない。よって,本件除名処分の除名事由については,本件通知書記載の内容,条項に限定したのでは除名決議に賛成した組合員の意思を十分に酌むことができないので,除名決議をした総会において審議,弁明の対象となった事項も含めるべきである。

本件総会において審議,弁明の対象となった事項には,本件通知書記載の事実の他,後記(3)のとおり,①原告が,Aを相手として代表訴訟を提起した行為,②原告が,代表訴訟に関し,あたかも正当な主張であるかのように新聞記者に説明し,被告の運営に問題があるかのような記事を掲載させた行為,③原告が,被告組合員Bについて,資格剥奪,補償金の返還を請求するよう執拗に求めた行為がある。

これらの行為が除名事由として定款のどの条項に該当するかについては,通知書に記載された定款第15条1項4号事由としてだけでなく,「この組合の事業を妨げる行為をしたとき」という同項3号事由にも該当するものとして,除名事由の存否を判断すべきである。

(原告の反論)

本件除名処分の除名事由については,明らかに本件通知書記載の具体的事実及び定款の所定条項号に限定されていたのであって,事後的に除名事由を拡張する被告の主張は,除名手続における被除名者の防御の適正な行使を不可能とさせ,水協法が除名手続を法定し,対象となる者に弁明の機会を与え,除名通知を求めることによって適正手続を確保しようとした趣旨に反するものである。

(3)  原告に除名事由が認められるかについて

(被告の主張)

原告については,以下のとおり,被告定款第15条1項3号及び4号に該当する除名事由がある。

ア 原告は,平成8年5月30日開催の通常総会当時,被告の代表監事の地位にあり,監査結果を報告する職責を有していたが,当初,理事ら執行部に対する個人的な不満から,被告の執行体制を混乱に陥れるという不当な意図のもと,内容の誤った意見書を提出し,その後沖縄県農林水産部漁政課(以下「漁政課」という。)からの助言を受けて意見書を差し替えるなどし,その結果,総会においては,法令定款等の違反はない旨の適正意見を表明しながら,監事としての地位を保持したままで,その僅か21日後に県に対する検査請求をしており,検査請求に根拠がないことを分かっていながら虚偽の申立てをし,沖縄県から被告の業務運営に不正があるという事実無根の内容で検査が入ることとなるという被告の社会的信用を害する行為をした。

イ 原告は,沖縄県による検査の結果,水協法,定款及び被告諸規定に直接的に違反する事項は確認されなかったとされたにもかかわらず,同じ事項について不当な検査請求を繰り返し,Aを個人攻撃する不当な意図で,忠実義務違反があるとして代表訴訟を提起しており,被告の内部秩序,信用を害する行為をした。

ウ 原告は,上記代表訴訟が不当な裁判提起であるにもかかわらず,あたかも正当な主張であるかのように新聞記者に説明し,被告の運営に問題があるかのような記事を掲載させ,その結果,多数の沖縄県民に被告の業務運営につき不正があったかのように誤解させ,被告の信用を失墜させ,組合員を動揺させて被告内部に混乱を生じさせるなど被告の事業を妨げ,信用を害する行為をした。

エ 原告は,被告の協同事業目的に賛同して加入した仲間ともいうべき組合員のBに関して,その資格剥奪や補償金の返還を求めることを執拗に繰り返すなど,個人に対する誹謗中傷行為をし,組合の内部秩序,信用秩序を破壊する行為をした。

(原告の反論)

アについて,原告には被告の主張するような不当な動機はなく,通常総会における適正意見については,理事からの圧力により意見書を差し替えざるを得なくなったためであり,原告は,組合の内部で問題を解決することは望めないと判断して,監事の職を辞した上で,水協法上組合員に正当に認められた手段である県に対する検査請求に至ったものであり,その結果,被告の対外的信用が害されたということもないのであって,これら原告の行為が「組合の信用を著しく失わせるような行為」に該当しないことは明らかである。

被告が主張するイないしエの代表訴訟提起,それに関する新聞記事の掲載,Bに関する件については,上記のとおり,本件除名処分において除名事由とはされていない。

第3当裁判所の判断

1  組合内部の紛争に対する司法審査の在り方について

漁業協同組合の目的は,漁民の協同組織の発達を促進し,もってその経済的社会的地位の向上と水産業の生産力の増進を図ることにあり(水協法1条),被告の定款(乙1)においても,「この組合は,組合員が協同して経済活動を行い,漁業の生産能率を上げ,もって組合員の経済的,社会的地位を高めることを目的とする。」(1条)と定めており,組合員は,相互の経済活動の利便のために任意に団体に加入するものである。このような経済目的によって結ばれる団体の内部規律に関しては,宗教法人,学校法人などの内部規律とは異なり,当該団体の裁量的判断にゆだねられる余地は少ない。とりわけ除名処分といった法律関係を終了させる処分は,当該組合員の存在が組合員の相互扶助という組合の目的に反し,又はこの目的を阻害するといった明確な事実があるときに許容されるものであり,法が組合員の除名事由を法自ら定め,又は定款で定めることとし,除名のための手続として総会の会日の7日前までに除名対象者にその旨を通知し、総会における弁明の機会を保障するとともに(水協法27条2項)、除名決議は特別決議によるものとしている(水協法50条3号)のも,このような除名の趣旨を超えて漁業協同組合の経済目的と無関係な除名がされることがないようにするためである(中小企業等協同組合法に基づく事業協同組合に関してではあるが,最高裁判所平成13年4月26日第一小法廷判決・裁判集民事202号205頁参照)。

これらの点からすると,組合員の除名処分が,組合の内部事項についての判断であるとしても,当該除名処分が相応の事実的基礎を持ち,前記観点から是認され得るものか否かについては,司法審査が及ぶものと解するのが相当であり,これに反する被告の主張は採用することができない。

2  本件除名処分の除名事由について

前記のような除名事由及び除名手続を規律する法及び定款の趣旨からすると,漁業協同組合における組合員の除名処分においては,遅くとも除名決議に係る総会までに,除名の対象者及びその議決権者に対して,除名事由とされる事実を特定して明らかにすることが必要であると解すべきであるが(前記最高裁判決参照),そればかりでなく,組合員を除名する総会決議の効力が訴訟の場で争われた場合には,このようにして事前に特定され、総会での審議の対象とされた除名事由のみを対象として除名決議の有効性を判断すべきであり,その後に新たな除名事由を追加して判断することは許されないと解すべきである。これを反対に解すると,訴訟の場で追加された除名理由については,総会における除名対象者の弁明の機会も,議決権者たる組合員による議論の機会も明確に与えられないこととなり,前記の法の趣旨を損なうことになるからである。

本件において,被告が,原告及び組合員に対して,本件総会までに,除名事由とされる事実をどのように特定して明らかにしたかについては,必ずしも明確でない面もある。しかし,本件総会が,組合員からの招集請求によって,原告の除名を唯一の議題として開催された臨時総会であることからすると,その招集請求書面(乙2)記載の除名事由は原告及び組合員に対して事前に告知されたものと推認され,このことは次に述べる本件総会での審議状況や,本件総会後に除名決議に基づいて被告が発した本件通知書記載の除名事由が,前記招集通知書面記載のものと同一であることからも裏付けられるところである。

本件総会の審議状況を議事録(乙3)により見ると,まず本件通知書記載の除名の理由と同内容のものが除名請求の理由として読み上げられ,その直後になされた原告の弁明の内容は,通常総会における適正意見とその後の県に対する検査請求のいきさつを説明したもので,その後相当期間経過し監事も辞めた後になって,平成8年当時の行為について除名の対象とされることにつき異議を唱えている。そして,その後の質疑応答において,組合員の1人が個人的な意見である旨の前置きをした上で,Aを相手に裁判を起こしていることについて触れたり,新聞記者との関わりについて質問しているが,それに対する原告の態度は,除名事由に関する質問として受け止めているとは認められない。また,理事の1人が,被告の組合員による原告についての除名運動の契機として,Aに対する提訴の話やそれが新聞記事として掲載されたことが関係する旨述べてもいるが,除名の理由として問題となっているのは,通常総会における適正意見と内容を異にして県に対する検査請求をしたことである旨指摘しており,Aも,代表監事の地位にありながら県に対する検査請求をしたことが問題である旨指摘している。このように,本件除名処分に関し,本件総会において除名事由として審議された対象は,平成8年当時の原告の通常総会における適正意見等の言動とその後の県に対する検査請求に関する事情であるといえ,被告が追加的に主張するその余の事実については,それ自体を除名事由として審議されたものとは認められない。

そうすると,本件において,本件除名処分の効力を判断するに当たって対象とすべき除名事由は,本件通知書に記載された事実が被告定款第15条1項4号に該当するか否かに限られ,被告が主張するその余の除名事由は,判断の対象とすることができないものというべきである。

3  原告に除名事由が認められるかについて

(1)  証拠(甲1ないし4(枝番を含む。以下同じ。),甲8,乙3,乙5,乙6,乙29ないし乙31,証人C,同B,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

ア 被告においては,平成8年当時,年々悪化している経営状況の改善が課題となっており,それとも関連して被告の運営事業の在り方,漁業補償金の配分方法等について,被告内部で意見が対立していた。

イ 原告は,平成8年5月16日ころ,被告事務所において,平成7年度の期末監査を行い,平成8年度被告通常総会に提出するため,5月22日付監事の意見書を作成し,同意見書を被告参事のDに渡した。当該意見書は,被告の財産状況について,賃借対照表に不真実の記帳があること,事業管理費が前年より1200万円余増大すること,提出予定の欠損金処理案が認められると総組合員平均79万8126円の損失となることが指摘され,理事の業務執行状況については,理事の責任に係る不整事項等の改善処理が遅延していることが法令等に違反すること,被告総会で承認された金額以上を投資して開設した軽食店で多額の欠損を生じたことについての理事の責任,理事会運営状況が粗悪であるなどと指摘されたものであった。

ウ 原告は,Dから,Aが意見書の内容を書き直してほしいと言っている旨伝えられたため,理事会の運営状況が粗悪である等指摘した部分を,漁業補償金から7190万円以上の組合手数料収入を得ながら欠損金が僅か337万円余りしか減少していないことに関する理事の責任を指摘する内容に変更して,同月24日,同日付の監事の意見書をDに渡した。その後再び,原告は,Dから,Aが納得しないので意見書を書き直すように言われたが,変更すべき具体的指摘が特になかったことから,変更には応じないこととして,同意見書が,組合員への配付用の印刷の原稿とされた。

エ Aは,その後,原告の意見書をそのまま総会に提出すると総会が混乱するのではないかと心配したことから,被告理事であったEと共に漁政課を訪ねてF課長補佐とG主査に相談した。

原告は,漁政課から連絡を受けて,同月28日ころ,同課を訪ねたところ,G主査から,監事の立場が不利にならないようにAと意見調整をした方がいい旨助言された。

原告は,同月29日,被告事務所に赴いたところ,Aから「このような意見を言ったら監事と理事が対決する。損失処理案が認められなかったら理事が総辞職になる。」などと言われたため,総会を平穏に終わらせるためには意見書の内容を変更すべきであると考えた。そこで,Aから示された定型の監事意見書の写しを参考にして,「理事の職務執行については,法令又は定款に違反する重大な事実はなく,事業報告書の内容は,真実であると認めます,賃借対照表及び損益計算書は,法令及び定款並びに公正妥当と認められる会計の原則に従って組合の財産及び損益の状況を正しく示していると認めます,損失処理案については,法令,定款及び組合の財産の状況その他の事情に照らして検討しましたが相当と認めます」と記載した5月29日付意見書を作成して差替えを申し出,翌30日被告通常総会において,同意見書に基づいて監査報告をした。

原告は,同月30日,被告に対し,監事の辞任届を提出した。

オ 原告は,平成8年6月20日,被告組合員15名と共に,沖縄県知事に対して,平成8年度通常総会でなされた一部決議の取消と漁業補償金の配分方法,組合員資格審査方法及び販売事業全般の会計状況についての検査を求め,漁政課は,同年8月15,16,23日の3日間,被告に対し,検査を行った。

同年10月31日,沖縄県知事から原告に対し,請求検査の結果として,漁政課作成の検査書が送付された。同検査書においては,総評として,原告ら請求の検査項目につき,水協法,被告定款,被告規定等に直接的に違反する事項は確認されなかったと結論されたが,被告における事業運営や経営状態に関して,多くの留意事項や改善事項が指摘された。その中では,被告の経営状況が年々事業取扱高が減少する一方で事業管理費が増加し,漁業補償金等事業外収益に依存していることから経営の合理化及び健全化を図る必要性についてや,正組合員の中に以前は組合運営に貢献していたが現在では漁業実績が極端に少ない高齢の者が多数含まれているなどの組合員資格審査の問題,漁業補償金の配分を単純な頭割りにしていることなどの問題が指摘され,理事会での検討及び改善が要求されている。

また,組合員の資格について,正組合員の資格に疑問がある者60名余について調査票を整理して報告するよう求められたことなどから,その対象とされた組合員から,県に対する検査請求をした原告らに対し,非難の声があがった。

原告は,平成9年1月23日,漁政課に対し,検査書の内容に対する疑問等を申し入れ,2月12日,同課団体金融係から,原告宛に,「那覇市沿岸漁協の請求検査に関する申し入れ事項に対する回答について」と題する文書が送付された。

(2)  上記の認定事実及び前記争いのない事実等に基づき,原告に被告定款第15条1項4号の除名事由が認められるか否かにつき検討する。

まず,原告が,被告の経営状況,それに対する理事らの取組みに疑問をもって,その問題を指摘した監事の意見書を提出したこと自体は,その表現方法等適切さに欠ける面があったとしても,監事としても被告組合員としても非難されるべき行動ではなく,「組合の信用を著しく失わせるような行為」という除名事由に該当しないことは明らかである。

そして,原告が,被告運営や理事の業務執行等について問題があると考えていながら,平成8年度通常総会において,結果的にそれらの問題点を指摘することなく法令定款等の違反はない旨の適正意見を表明したことについては,監事の職責の観点からすると不適切な行動といわざるを得ないが,総会が混乱することを恐れたAら理事側の強い意向を受けて,総会が混乱することは避けるべきであるとの配慮から,その意向に沿ったものであったことも考慮すると,それが直ちに組合員の資格喪失事由に相当する行為とまではいえないし,「組合の信用を著しく失わせるような行為」という除名事由に該当するともいえない。

その後,1か月も経たないうちに,原告が,県に対する検査請求をしたことについては,確かに,原告が監事という立場にあったことからすると,被告の運営等に関する問題点について,監事として理事会に対して意見を述べるなどして内部で議論を喚起し,自主的に解決すべく努力をする職責があったといえ,その努力を十分に尽くすことなく県に対する検査請求という方法をとったことは,やや性急にすぎたといわざるを得ない。しかし,それまでの経緯からすると,当初,被告の運営に問題があるとの意見書を提出した原告に対し,理事側の対応も,議論の場を設けて意見交換を図るなど内部で意見調整を行う努力をすることなく県に相談し,その結果,県から原告に理事側と意見調整をするべく指導があり,それを受けて,原告は理事側の意向に添った適正意見に変更する一方で,監事の辞任届を提出しているのであって,原告は,監事として組合内部で自主的に問題解決を図ることに限界を感じて県に対する検査請求に至ったものと推認され,原告が,被告内部における自主的問題解決能力に疑問を感じるようになったのもやむを得ない側面があるといえる。また,原告は,監事の辞任届を提出した上で県に対する検査請求をしており,被告定款上,後任者が選任されるまでは監事の地位にあるとされる(33条4項)としても,通常総会における意見表明において監事として職責を果たすことができなかったことについて原告なりのけじめをつけた上で,組合員としてとり得べき手段として検査請求をしたものであり,形式的に監事の地位にありながら県に対する検査請求をしたことが,被告や組合員との関係で,組合員資格を喪失させられるほど背信的な行為とは考えられない。さらに,被告は,水協法に基づき設立された漁業協同組合として健全な経営と業務運営の確保が要請されており,そのために必要があれば監督官庁は業務及び財産の状況を検査することができるのであって,組合員が被告の監督官庁に対し当該検査を求めることは,ことさら虚偽の事実を申し立て,対外的信用を害す目的でなされた場合等濫用にあたらない限りは組合員の権利といえる。そして,原告が行った県に対する検査請求は,他により穏当な手段がなかったわけではないとしても,被告の将来の経営状況等を案じ,組合員の利益を守る必要があるとの立場からなされたものといえ,検査書において指摘されている改善事項等の内容からしても,合理的理由に基づくものであって,不当な目的でことさら虚偽の申立てをなしたとはいえず,濫用であるとは認められない。

以上検討したところによれば,原告のとった一連の行為は,表現方法等の態様や手段の選択に穏当さを欠く面がなかったわけではないものの,一貫して組合員の利益を守ろうとする立場からなされたものといえ,原告の行為によって,とりたてて被告の信用が失われるような状況となったとも認められないから,「組合の信用を著しく失わせるような行為」という除名事由に該当するとはいえない。

以上のとおり,被告が原告について,原告が組合の信用を著しく失わせるような行為をしたとしてなした本件除名処分は,除名事由がないのにあるとしてなされたものであるから,無効である。

4  結論

よって,原告の請求は理由があるのでこれを認容することとし,訴訟費用の負担について民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 清水節 裁判官 高松宏之 裁判官 池田弥生)

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