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那覇地方裁判所 平成11年(ワ)446号 判決 2000年4月25日

原告 株式会社ホカマ

右代表者代表取締役 A

右訴訟代理人弁護士 新垣勉

被告 沖縄トヨタ自動車株式会社

右代表者代表取締役 B

右訴訟代理人弁護士 与世田兼稔

同 阿波連光

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金三九一万四三二九円及び内金三七六万九一〇〇円に対する平成一一年五月一日から支払済みまで年一四・六パーセントの割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が、被告に売却した建物の消費税分及びこの消費税の延滞料分の支払い並びに被告に契約書を変造されたとして不法行為に基づく損害賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実等

1  原告は、被告との間で、別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)につき、次のとおり売買契約を締結した(以下「本件契約」という。)。

契約日 平成一〇年三月三一日

契約内容 原告は、その所有する本件建物を被告に売り渡す。

代金 金八〇〇〇万円

2  本件契約締結に際して、原告と被告との間では、本件建物自体の価格について話し合われたが、消費税についての話は全くされなかった。

3  本件契約については、契約書(以下「本件契約書」という。)を一通作成し、原本を被告において所持し、写しを原告が所持することになったが、被告は、本件契約後、本件契約書第二条に「(売買代金は消費税込みの金額とする。)」との文言を追加記載した。

4  原告は、本件契約に基づき、建物譲渡価格を八〇〇〇万円とし、それに対する消費税金を四〇〇万円であると申告したところ、麹町税務署より納付期限を平成一一年三月一日とする三七六万九一〇〇円の消費税納付通知を受けた(甲三の一及び二)。

5  原告は、右税務署に納付の延期を願い出たが、平成一一年三月二日から同年四月三〇日まで年七・三パーセント(四万五二二九円)、同年五月一日からは年一四・六パーセントの延滞金を負担している(弁論の全趣旨)。

二  争点

1  本件契約に基づく消費税は、原告、被告どちらが負担すべきか。

(原告の主張)

消費税の負担につき、当事者に明白な合意が存しないときには、消費税法に基づき買主に消費税が課税されるものである。

特に本件の場合、本件契約を仲介した訴外株式会社琉球銀行(以下「琉球銀行」という。)と原告間において一貫して消費税を含まない建物自体の価格について交渉が行われ、最終的にその価格を八〇〇〇万円とし、同額にて売却することが合意されたこと、その際、原告の取り分がいくらとなるかが重要な争点として交渉が行われたこと、消費税が高額であり、その高額な消費税については、特段の合意が存しない限り消費者の負担となることが商取引の一般常識であること、本件契約書は、登記のために司法書士が作成したものであること等の事情からすると、本件の消費税については被告が負担すると解するのが相当である。

(被告の主張)

被告は、本件契約締結に際して、売買代金八〇〇〇万円の中には、当然に消費税も含まれていると理解していた。また、本件契約締結に際して同席していた原告代表者及び原告訴訟代理人らより、本件建物の売買に関する消費税は外税であるから、同席上において支払うべきであるとか、後日別途請求するという趣旨の説明等は全くなかったのであり、本件建物の売買代金八〇〇〇万円は、消費税込の契約であったと解すべきである。

消費税法二八条一項は、「課税資産の譲渡等に係る消費税の課税標準は、課税資産の譲渡等の対価の額(対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額とし、課税資産の譲渡等につき課せられるべき消費税に相当する額を含まないものとする。以下この項及び次項において同じ。)とする。

ただし、法人が資産を第四条第四項第二号に規定する役員に譲渡した場合において、その対価の額が当該譲渡の時における当該資産の価額に比し著しく低いときは、その価額に相当する金額をその対価の額とみなす。」と定めている。売買契約等に本体価格(税抜き価格)、消費税額とを区分して記載していない場合は、消費税を含んでいるものと解すべきというのであるから、本件契約書中に、本体価格と消費税額とを明確に区分した記載がない以上、本件売買は消費税込であったと認定すべきである。

2  被告が本件契約書を変造したかどうか。

(原告の主張)

被告は、本件契約後、原告に無断で本件契約書第二条に「(売買代金は消費税込みの金額とする。)」との文言を追加記載して、あたかも原告と被告間において消費税込みで前期代金額が合意されたかのように本件契約書を変造した。

(被告の主張)

被告が追加記載したのは、琉球銀行の担当者から、原告の税理士が右文言の追加記載を依頼しているとの連絡を受け、その後、本件契約書を作成した司法書士から追加記載を依頼されたことから記載したのであって、変造ではない。

3  損害額

(原告の主張)

争いのない事実等5項及び6項のとおり、原告は、消費税(三七六万九一〇〇円)並びに延滞金(平成一一年三月二日から同年四月三〇日まで四万五二二九円及び同年五月一日から年一四・六パーセント)を負担し、また、被告が本件契約書を変造したことにより一〇万円の損害を被っている。

第三争点に対する判断

一  争点1について

1  前記争いのない事実等並びに<証拠省略>によれば、次の事実が認められる。

(一) 本件建物及びその敷地である中頭郡<以下省略>宅地三九一三・八四平方メートルの土地(以下「本件土地」という。)は、訴外株式会社外間ビル(以下「外間ビル」という。)の所有であったが、そのうち本件建物については、平成七年七月一四日付で原告(当時の商号は株式会社外間不動産)に所有権移転登記がされた。

(二) 外間ビルの債権者である琉球銀行は、本件土地に抵当権を設定していたが、本件建物について、原告に所有権移転がされたことに対して詐害行為を理由として処分禁止の仮処分の申立てを行い、その後、本案訴訟を提起した。その訴訟の中で、本件土地及び建物を一括売却するという話が出され、琉球銀行が主動的に本件土地及び建物の売却の仲介を行うこととなった。

(三) 被告は、平成八年ころ、琉球銀行から本件土地及び建物を合わせて八億五〇〇〇万円で購入しないかとの打診を受けたが、金額の点で折り合わず、その時点では売買が見送られた。しかし、その後、再び琉球銀行から打診を受け、最終的に代金六億五〇〇〇万円で合意することとなった(本件土地の代金が五億七〇〇〇万円、本件建物の代金が八〇〇〇万円)。その間、被告は、もっぱら琉球銀行と交渉し、原告とは話をしたこともなかった。

(四) 平成一〇年三月三一日、琉球銀行本店において、原告代表者、原告代理人弁護士、外間ビル代表者、外間ビル代理人弁護士、琉球銀行代理人弁護士、被告代表者、被告経理部長等が集まり、その席で本件契約を締結し、琉球銀行が依頼したC司法書士の作成した本件契約書にそれぞれ押印した。本件建物の売買代金は、この席上で、被告から原告に交付された。また、同日付で本件土地及び建物について、被告に所有権移転登記がされた。

(五) 被告は、本件契約を締結する前、琉球銀行に対して本件契約の売買代金が消費税込の金額であることを確認したが、原告に対しては特に確認しなかった。本件契約の締結に際しても、消費税についての話は全くされず、本件契約書にも消費税に関する記載はされなかった。

(六) 本件契約書は一通作成され、その原本を被告が所持し、写しを原告が所持することとなったが、その後、被告は、本件契約書の二条に「(売買代金は消費税込の金額とする。)」との文言を追加記載し、それを原告宛に送付した。

2  以上の認定事実を前提に、争点1について判断する。

消費税法二八条一項には、「課税資産の譲渡等に係る消費税の課税標準は、課税資産の譲渡等の対価の額(対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額とし、課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額に相当する額を含まないものとする。)」と規定されており、売買契約等において本体価格(税抜き価格)と消費税額とを明らかにしていない場合には、その課税資産の譲渡等の対価は、消費税を含んでいるものと解すべきであるところ、本件では、前記認定のとおり、本件契約に際して消費税についての話が何らされていないこと、本件契約書に消費税についての記載がされておらず、総額として代金が八〇〇〇万円である旨の記載があるにすぎないこと、本件契約締結日に被告から原告へ代金の交付がされ、同日付で被告に対する所有権移転登記がされていること、本件契約締結前に被告は琉球銀行に対して本件契約の売買代金は消費税込の価格であることを確認していたことからすると、本件契約は、その売買代金八〇〇〇万円に消費税が含まれていると解するのが相当であり、被告が本件契約の代金八〇〇〇万円とは別に消費税分を支払うという約束がされていたと認めることはできない。

したがって、原告は、被告に対して、消費税分についての支払いを請求することはできず、この点に関する原告の主張は採用することができない。

二  争点2について

前記認定事実によれば、本件契約締結後、被告が本件契約書の二条に「(売買代金は消費税込みの金額とする。)」との文言を追加記載し、それを原告宛に送付したこと、被告が右文言を追加記載する際に原告の同意を得ていないことが認められる。証拠上、被告がどのような経緯で右文言を追加記載するに至ったか明らかとはいえないが、前記認定のとおり、本件契約の売買代金八〇〇〇万円には消費税が含まれているものと解されるから、本件の追加記載は、それにより契約の内容が影響を受けるものではなく、右趣旨を明確にする以上の効力はないといえるから、被告が原告の同意を得ずに右追加記載をしたとしても、それが変造であると認めることはできない。

したがって、この点に関する原告の主張は採用することができない。

三  結論

以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 井上直哉)

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