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那覇地方裁判所 平成12年(行ウ)3号 判決 2001年12月11日

主文

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は,原告らの負担とする。

事実及び理由

第1請求

1  被告C町長Dが原告Aに対してなした平成10年11月1日付けC町税務課参事へ配転するとの配転処分は取り消す。

2  被告C町長Dが原告Bに対してなした平成10年11月1日付けC町住民課参事へ配転するとの配転処分は取り消す。

3  被告C町は,原告らそれぞれに対し,各220万円を支払え。

第2事案の概要

本件は,被告C町長Dが,原告Aに対してなしたC町税務課参事を命ずるとの処分(以下「本件処分(A)」という。)及び原告Bに対してなしたC町住民課参事を命ずるとの処分(以下「本件処分(B)」という。なお,以下,本件処分(A)と一括する場合には,「本件各処分」という。)は,いずれも違法な「降任」処分に当たるとして,これら処分の取消しを求めるとともに,これら処分によって原告らの人格権(名誉権)が侵害されたとして,国家賠償法1条1項に基づき,被告C町に損害賠償を求めた事案である。

1  前提事実(証拠を掲記しない事実については当事者間に争いがない。)

(1)  当事者

ア 被告町の職員の人事措置に関する処分権者は,被告町長である。

被告町長は,平成6年10月21日に被告町の町長に就任し,平成10年9月13日に実施された町長選挙において再選されたが,町長に就任する前は被告町の税務課長として在職していた(被告町長本人)。

イ 原告らは,被告町に長年勤務して係長,課長と順次昇進し,平成10年10月31日当時,原告Aは、C町農業委員会事務局長として,原告Bは、C町田園都市課長として勤務していた。

(2)  本件各処分

被告町長は,平成10年11月1日付けで,本件各処分をなした。

なお,本件各処分に際し,被告町長から,これら処分が原告らの意に反する降任処分であることを前提とする説明書面は交付されていない。

(3)  「参事」職の待遇

ア C町行政組織規則第6条1項は,「課に課長,参事,課長補佐,主幹,係長及び主査を置く」と規定し,同条5項は,「参事は上司の命を受けて,その分掌事務を処理し,又は特に命じられた事務を担当し処理する」ものとされているが,いかなる事務を特命事項とするかについて明示した規定等は存しない(甲17,甲18の1,2)。

イ 被告町において,町長部局の課長,農業委員会事務局長及び参事は,給与等級のみならず職制上も同等のものとして処遇されており,原告らの給与等級は,本件各処分の前後において変化がない。

2  争点

(1)  本件各処分が「降任」に当たるか否か。

(2)  本件各処分によって,原告らの人格権(名誉権)が侵害されたか否か。

(3)  ((2)が肯定される場合)原告らの損害額

3  争点に関する当事者の主張

(1)  争点(1)について

(原告らの主張)

ア 本件各処分は,給与等級及び職位について不利益を課すものではないが,その実態をみると,「参事」の名目の下,特命事項として従前から下位の職員(係長)が日常業務として担当していた業務をそのまま担当させているにすぎず,その上,職務執行についても課長補佐及び課長の決裁を受けさせるものである。「参事」は職制上,「課長」と同格の職務とされており,上司たる町長の命令を受けてその分掌事務を処理し,又は特に命じられた事務を担当し処理する職務とされているのであるから,「参事」の担当する職務は,このような地位及び職務にふさわしい内容でなければならないが,原告らが従事させられている職務内容の実態は「参事」の職務としての実態を有しない,「降任」であるといわなければならない。

イ 本件では,このような意に反する降任を正当化する事由はなく,また,職員の意に反する降任処分は,その旨を記載した書面を当該職員に交付しなければならない(被告町の「職員の分限に関する手続及び効果に関する条例」3条2項)ところ,本件ではこの手続も履践されていない。

ウ また,本件各処分の実態は,平成10年9月13日に実施された町長選挙において,原告らが被告町長の対立候補を支持したことからなされた報復人事であって,通常の人事異動の時期を早めて実施されたものである。

エ 以上によれば,本件各処分は,被告町長がその人事権を濫用して行った地方公務員法27条2項,28条1項に反する違法な処分であるといわなければならない。

(被告町長の主張)

ア 本件各処分は,原告らの給与,期末手当,昇格基準及び旅費支給区分を変えるものではない。

また,原告らの起案した文書や年次有給休暇の取得について決裁権を有するのは助役及び町長であり,この取扱いも課長職と同等である。

原告らが担当業務に関して作成する文書に対し,主管課長及び課長補佐が押印するのは,関連する事務の調整,把握及び周知のための「供覧」にすぎず,決裁ではない。もっとも,財務事務の一部については一定の金額内について主管課長が決裁しているが,それは財務事務の一元管理や合理化等の理由から事務専決規定によって認めているものである。

イ 被告町長は,第2期目の就任に当たり,次のような業務上の必要から,町の税務課及び住民課に参事を配置してその組織陣容を拡充することとし,課長経験を有する原告らを参事に任命して,その任に当たらせることにした。すなわち,

(ア) 税務課においては,町税が自主財源の根幹をなすもので,財源確保の観点から,町税の徴収強化と賦課業務の正確性及び迅速性を図る必要があり,特に「税の総合調整,公平・公正な賦課徴収等の業務」を遂行する必要があった。

(イ) 住民課においては,同課が役場の顔である上,太平洋戦争の戦火によって滅失した戸籍の未再製分が残っており,海外に移住した町民が多いことや,戦後50数年を経て関係者が高齢化したり死亡する中で,その再製事務が困難性を増していたため,これを早急に処理する必要があった。

なお,原告らの担当業務のほとんどは前任者(係長)の担当業務であったが,原告Aに対する特命事項の1つである「税務の総合調整及び企画に関する事項」は前任者の担当業務ではなかった。そして,被告町長は,この業務の重要性に鑑み,その業務執行体制の強化を図ることとした。

ウ 被告町長は,2期目のスタートに当たり,新しい執行体制の確立を図るため,平成10年11月1日付けで,人事権の裁量の範囲内の人事権を行使し,原告らを含む13名の人事異動を発令しているところ,2期目の町長選挙がC町を2分するような選挙であったことは原告が指摘するとおりである。

しかし,本件各処分が,原告らが主張するような被告町長の対立候補を支持したことを理由とする報復人事であるとするならば,上記選挙で現町長を支持しなかった多くの課長が参事へ配転されたはずであるが,そのような事実はない。

エ 以上によれば,本件各処分は,報復人事による「降任」であるということはできない。

(2)  争点(2)について

(原告らの主張)

上記のような違法な処分の結果,原告らは職場において降任されたとの評価を受け,職場において職制上の地位にふさわしい業務を担当し,正当な評価を受けるという原告らの人格的利益を侵害された。

(被告町の主張)

争う。

(3)  争点(3)について

(原告らの主張)

ア 慰謝料 各200万円

原告らは,上記違法な処分により,その人格的利益を侵害され,精神的な苦痛を受けたから,これを慰謝するための金額は,それぞれ200万円を下らない。

イ 弁護士費用 各20万円

(被告町の主張)

争う。

第3当裁判所の判断

1  本件各処分に至る経緯

前記前提事実に加え,証拠(甲9の1ないし6,10の1及び2,12,13,14の1及び2,15,17,18の1及び2,原告A本人,原告B本人,被告町長本人(ただし後記認定に反する部分は除く。)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められ,この認定に反する証拠はいずれも採用することができない。

(1)  平成8年から翌9年ころ,被告町長は,被告町内のa地区への専門学校誘致事業を推進していた。

原告Bは,被告町の田園都市課長の職にあって,平成8年5月から開発許可に係る業務(主に,事業者から提出された申請について被告町役場の関係部署の意見調整を行った上で,これを沖縄県に申達する業務)を担当しており,町長の意見に従い,沖縄県建築指導課に開発許可申請を行っているが,沖縄県から開発が困難である旨の意見があったため,被告町長に対し,別の場所で建築できるところに建てた方が良いのではないかという意見を具申している。

原告Aは,当時,被告町の農業委員会事務局長の職にあり,上記専門学校誘致事業に係る農地法に基づく転用許可業務を担当していた。その際,農業委員会事務局長名で田園都市課長であった原告B宛てに,開発に係る用地の周辺に優良農地であることなどを理由に転用が困難である旨の文書を提出している。ただし,原告Aは,被告町長から,上記意見の変更を求められてはいない。

なお,この専門学校誘致の件については,沖縄県が文書によって開発上の問題点を指摘したり,申請書を被告町に返戻するといった状況にあったが,専門学校の開校を計画していた事業者が倒産したため,同校の誘致事業は頓挫している。

(2)  被告町は,C町運動公園整備事業を行っていたところ,事業年度である平成10年度の上半期を経過しても事業が十分に執行されない状況にあった。原告Bの在籍した田園都市課においても事業の執行を早期に行おうという機運があったが,被告町長からは,具体的な事業を挙げて,早期に事業を執行するようにという指示等はなかった。なお,その当時,上記整備事業以外にも平成10年度の上半期に事業の執行が遅れていた案件があった。

また,当該事業執行の障害となっていた立木補償交渉(用地内に植栽されていた立木の補償交渉)は,平成10年9月16日,基本合意に達し,同月29日,補償契約が締結されたが,合意に達するまでに時間がかかったのは,立木の所有者が町議会議員に出馬して多忙であったことが大きな原因であった。

(3)  原告Bは,被告町長と同じ地区の出身であり,平成6年に実施されたC町長選挙では被告町長を支持していたが,平成10年9月13日に実施された町長選挙では,対立候補を支持した。

また,原告Aも,上記平成10年の選挙において,被告町長の対立候補を支持した。

原告らがいずれの候補者を支持しているかは,出身地区においてはもとより,被告町役場内でも周知のことであった。もっとも,上記平成10年の選挙当時,被告町の課長職にある者のうち,被告町長を支持する者とその対立候補を支持する者は相半ばする状況にあった。

(4)  被告町において,「参事」職は従前から置かれていたものであるが,平成10年10月20日,行政組織規則を改正して「参事」職を規則上正式に設置し,同規則は同年11月1日施行された。

(5)  被告町長は,平成10年11月1日,本件各処分を含む13名に対する人事異動を発令した。

被告町長は,本件各処分のうち,本件処分(A)については,農業委員会と協議の上でこれを決定しており,本件処分(B)については,被告町長が独自に決定している。

また,被告町長は,本件各処分の発令に際して特命事項を決定しているが,原告らに対し,これに関する指示・説明やその執行のための特別な権限を付与するというようなことはなかった。

なお,上記のとおり,課長職にあって対立候補を支持している者もあったが,そのまま課長職に留まる者もいた。

2  本件各処分後の状況

前記前提事実に加え,証拠(甲1ないし7,乙1,2,5,原告A本人,原告B本人,被告本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められ,この認定に反する証拠はいずれも採用することができない。

(1)  原告らの報酬,職務権限等

ア 被告町において,町長部局の課長,農業委員会事務局長及び参事は,給与等級のみならず職制上も同等のものとして処遇され,給与,期末手当,昇格基準及び旅費支給区分も同等であり,本件各処分によっても,これらの点についての原告らの待遇に変化はない。

もっとも,参事には,管理職手当は支給されず,その代わりに非管理職と同様に残業手当が支給される。また,税務課においては,課長には税務手当(特別勤務手当)は支給されないが,参事である原告Aには,非管理職と同様にこれが支給される。

イ 原告らの休暇取得,欠勤の承認権者及び旅行命令権者並びに文書事務の決裁権者は,助役及び町長である。

もっとも,財務事務の一部については一定の金額内について主管課長が決裁しているが,それは財務事務の一元管理や合理化等の理由から事務専決規定によって認められているものである。

ウ 被告町には,本件各処分以前から管理職クラスの職員を構成員とする会議が存在するが,参事は,同会議の構成員とはされていない。

また,「参事」は部下を持たないいわゆるスタッフ職と位置付けられており,業務上の決裁権を有しない。

エ 被告町において,昭和61年から現在までの間に任命された参事は原告らを含めて合計6名であり,本件各処分以降現在に至るまで,現職の「参事」は原告ら2名のみである。

(2)  職務執行の状況

ア 原告らの職務内容

(ア) 原告A

ⅰ 被告町長は,本件処分(A)に際し,次の事項を特命事項として決定し,原告Aに通知した。

普通徴税事務に関する事項

① 税務の総合調整及び企画に関する事項

② 個人の町県民税及び町民税の調査,賦課徴収に関すること

③ 町県民税収入伝票作成に関する事項

④ 町県民税の払込み等に関する事項

⑤ 町たばこ税,鉱山税,消費譲与税,自動車重量譲与税,地方道路譲与税,利子割交付金,ゴルフ場利用税交付金,自動車取得交付金,徴税費委託金に関する事項

ⅱ 上記業務のうち,①以外の業務は,本件処分(A)以前は,E(係長)が担当しており,原告Aは,Eから,業務の引継を受けた。そして,原告Aの税務課における主たる業務は,普通町民税の賦課徴収の通知,発送であり,徴税事務は担当していない。

なお,被告町の税務課において,「税の総合調整」は課長が担当しており,原告Aは担当しておらず,この点を含め,原告Aが,特命事項に関し,被告町長から報告等を求められたことはない。

(イ) 原告B

ⅰ 被告町長は,本件処分(B)に際し,次の事項を特命事項として決定し,原告Bに通知した。

① 戸籍に関する事項(訂正,申請,記載)

② 記載調査に関する事項

③ 戸籍の再製に関する事項

④ 火葬許可証の交付に関する事項

⑤ 身上照会(電話)に関する事項

⑥ 人口動態に関する事項

⑦ その他戸籍に関する事項

ⅱ 上記業務は,本件処分(B)以前は,F(係長)が担当しており,原告Bは,Fから業務の引継を受けた。原告Bは,この際,合計17件の戸籍再製業務を引き継ぎ,平成10年11月から平成13年4月末までの間に1件を処理したが,この期間中,被告町長から事務の進捗状況等について報告を求められたことはない。

イ 被告町の行政組織規則には,参事の職務内容について規定はなく,沖縄県内の他の町村における参事の職務内容も,主として道路関係の用地交渉等を担当している村もあれば,課長以外の職員と同内容の職務を担当している町村もあり,ある町村において参事の職務内容とされている事項を他の町村では下位の係長が担当するといった例も見受けられ,一定していない。

ウ 原告らの座席配置

原告らは,各々その業務を引き継いだ前任者が使用していた座席を引き続き使用して執務することになったが,原告Aは,喫煙をする職員がいたことから,他の課員と個別に交渉して座席を替わっている。

エ 業務執行に関する文書の流れ

原告らが担当業務に関して作成する文書は,課長補佐及び課長の押印を経て,町長又は助役が決裁しており,一定金額内の収入伝票については,被告町の事務専決規定に基づき,課長が決裁している。

(3)  周囲の反応

本件各処分につき,被告町長の後援会幹部の間では,報復人事であるという噂が広まり,被告町の役場内でも,降格であるという見方をする者もいたようであるが,被告町長は,このような事態について,特段の対応をしたことはない。

3  本件各処分が「降任」に当たるか否かについて(争点(1))

上記認定事実を前提として,本件各処分が「降任」に当たるか否かについて判断するに,本件各処分は,地方公務員法27条2項,28条1項所定の「降任」には該当せず,また,被告町長がその権限を濫用ないし逸脱して行った,「降任」の実質を有する処分であるとは認められない。

その理由は次のとおりである。すなわち,

(1)  まず,本件各処分が地方公務員法27条2項,28条1項所定の「降任」に該当するかについてみる。

一般に,「降任」は,職制上,上下の別が判定される上位の職から下位の職に下がること,給与の職務の級の降りることなどをいうものと解されるところ,前記認定のところからすると,①被告町において,町長部局の課長,農業委員会事務局長及び参事は,給与等級のみならず職制上も同等のものとして処遇されており,給与,期末手当,昇格基準及び旅費支給区分も同等とされている。②原告らの休暇取得,欠勤の承認権者及び旅行命令権者並びに文書事務の決裁権者は助役及び町長であると認められ,原告らが所属する各課の課長ないし課長補佐が原告らに対する指揮・監督権限を有するものではなく,原告らに対する指揮・監督権限に変更はない。この点,原告らは,書類が課長補佐及び課長の順に決裁を受けることになっている旨主張するが,原告らの文書事務についての決裁権を有するのは,町長及び助役のみであることからすると,課長補佐及び課長の押印は,むしろ,関連する事務の調整,把握や周知のための供覧であると認めるのが相当である。③本件各処分後,原告らに対して管理職手当が支給されず,代わりに残業手当が支給されるようになったが,これは課長と参事の職務形態の差異に起因するものと認められ,原告Aには,非管理職たる職員と同様に,税務課長には支給されていない税務手当(特別勤務手当)が支給されているが,これも特別勤務手当の性質上,職位の上下とは直接関係がないと認められるから,このような事情をもって,原告らの職位が降りたと評価する根拠にはならない。

以上の事情からすると,原告らについてされた本件各処分が「降任」に該当するとは認められない。

(2)  原告らは,職務の実態において「降任」である旨主張し,なるほど,①前記認定事実によれば,原告Aが担当する業務のほとんどがE(係長)から引継を受けたものであり,その主たる業務は,普通町民税の賦課徴収の通知,発送であって,徴税事務は担当していないし,「税の総合調整」は同課課長の担当業務となっている上,原告Aに対する特命事項に関し,被告町長から報告等を求められたことはないこと,②原告BがFから業務の引継を受けた戸籍再製業務は17件にすぎず,その業務が困難を増していたという客観的な裏付けも見出せないし,平成10年11月から平成13年4月末までの間に,被告町長から事務の進捗状況等について報告を求められたこともないこと,等の事情からすると,原告らの担当職務が「参事」をもって充てるべき職務であるかには疑問なしとしない。

しかしながら,原告らの特命事項とされている事柄の多くは,それ自体の重要性は否定できず,原告らの経験・知識におよそ相応しくない業務であるとまではいえないところ,被告町長は,地方公共団体である被告町の長として,被告町の職員について任命,休職,免職及び懲戒等を行う権限(いわゆる人事権)を有するものであり,職員の配置転換(異動)についても法律,条例等の範囲内で広汎な裁量権を有すると解すべきところである。したがって,職員の異動についても,その目的,方針,範囲,対象者の選定,異動先の決定等については被告町長に裁量権が存するのであり,その担当職務が従前下位の職務の者が担当していた職務であるというだけで「降任」に該当するとはいえない。また,被告町長は,本件各処分について,税務課において,町税の徴収強化と賦課業務の正確性及び迅速性を図る必要があり,特に「税の総合調整,公平・公正な賦課徴収等の業務」を遂行する必要から,本件処分(A)を行った旨,住民課が役場の顔である上,戸籍の再製事務が困難化しているため,これを早急に処理する必要があったことから,本件処分(B)を行った旨,各主張するところ,その主張については前記認定のところからすると,裏付けに乏しいというほかなく,また原告らがその職務を行うについて懈怠があったと認めるべき証拠もないが,被告町長が広汎な人事権を有することを考慮すれば,その理由が明らかに不法,不当(例えば,不当労働行為に該当する等)であれば格別,根拠が薄弱であるというだけでは,これが「降任」に該当するとも裁量権の範囲を逸脱するともいうことはできない。この点,原告らは,町長選において原告らが対立候補を支持したことによる報復である旨主張するが(なお,地方公務員法36条違反の行動が原告らにあったとする趣旨ではない。),前記のとおり,平成10年の選挙において被告町の課長職にある者で被告町長を支持する者と対立候補を支持する者は相半ばする状況にあったというのであるから,これが理由であるとまでは認められず,原告らの主張は採用できない。

以上のとおり,本件各処分は地方公務員法27条2項,28条1項所定の「降任」には該当せず,また,被告町長がその権限を濫用ないし逸脱して行った,「降任」の実質を有する処分であるとは認められないから,原告らの本件各処分の取消請求は理由がなく棄却を免れない。

4  原告らの人格権(名誉権)侵害の有無(争点(2))

前判示のとおり,本件各処分はいずれも適法であるところ,原則として適法行為について,国家賠償法1条1項の損害賠償請求権が発生することはないと解すべきである。そして,仮に,例外的に,ことさらに苦痛を与える目的で人事権を行使し,なおかつ当該処分の取消しができない状態となった場合等に損害賠償請求権が発生すると解しても,本件について,そのような事情を認めることができないことは前説示のところから明らかである。

したがって,その余の点を判断するまでもなく,原告らの慰藉料請求は理由がなく棄却を免れない。

5  以上によれば,原告らの請求は,いずれも理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担につき,行政事件訴訟法7条及び民事訴訟法61条,65条を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 綿引穣 裁判官 鈴木博 裁判官 高松みどり)

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