那覇地方裁判所 平成13年(行ウ)2号 判決 2002年1月30日
主文
1 原告の被告Aに対する訴えを却下する。
2 原告の被告Bに対する訴えのうち、C村が平成10年度及び平成11年度に支出した金100万円並びに内金50万円に対する平成11年1月19日から、内金50万円に対する平成12年1月26日から各支払済みまでそれぞれ年5分の割合による金員をC村に支払うように求める部分を却下する。
3 原告の被告Bに対するその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告らは、C村に対し、金150万円及び内金50万円に対する平成11年1月19日から、内金50万円に対する平成12年1月26日から、内金50万円に対する平成13年1月11日から各支払済みまでそれぞれ年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1 争いのない事実等
(1) 原告は、昭和27年から現在までC村の住民である。
被告Bは、C村において昭和49年7月ころから平成8年までC村の助役の地位にあり、平成10年7月ころから平成13年までC村村長の地位にある。
被告Aは、C飛行場用地の所有権の回復を目的として結成されているC飛行場用地所有権回復地主会(以下「地主会」という。)の会長の地位にある。
(2) 被告Bは、平成10年度C村一般会計から平成11年1月18日に50万円、平成11年度C村一般会計から平成12年1月25日に50万円、平成12年度C村一般会計から平成13年1月10日に50万円の合計150万円を、地主会に対して補助金として支出した。
2 原告の主張
(1) 地主会が所有権の回復を目的としているC飛行場用地は、現実的に飛行場機能を有しないばかりか、同用地自体が不存在である。
(2) 地主会は、C飛行場用地の所有権を現有しておらず、その目的効果を見込むことができない団体である。
(3) 以上のとおり、現存しない飛行場用地の所有権を現有するものと騙る団体に対する補助金の支出行為は違法であるから、原告は、被告らに対し、地方自治法242条の2第1項4号に基づき、C村に代位して行う損害賠償請求として、地主会に対して支出済みの補助金合計150万円及び各年度に支出した内金50万円に対するそれぞれ支出した日の翌日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
3 被告らの主張
(1) 本案前の主張
原告は、平成10年度及び11年度のC村による補助金の支出について、それぞれ住民監査請求をしているものの、監査請求に関する原告への通知は、平成10年9月22日ころ及び平成12年12月14日にされているから、平成10年度及び11年度の補助金の支出に関する本件訴えは、出訴期間経過後にされたものである。
したがって、平成10年度及び11年度の補助金の支出に関する訴えは、地方自治法242条の2第2項に照らし、不適法であって却下されるべきである。
(2) 本案に対する主張
① C飛行場とは、昭和18年から19年にかけて、旧日本陸軍によってC村に設置された北飛行場が、米軍の沖縄占領後、拡張整備され、C補助飛行場との名称で使用されているものであって現存する。
② C飛行場用地は、登記簿上、国有地になっているが、これは戦前の混乱期に日本軍による不適正な手続で行われた土地の強制接収が原因であり、旧地主に返還されるべき土地である。C飛行場用地の旧地主らがその所有権の回復を目的として設立した地主会は、目的達成に向けて、地籍を明確化し、米軍の演習の反対闘争と米軍用地からの解放運動の中心として要請活動を展開するなどしており、これらの活動は、C村の軍用地からの解放という公的役割をも担ったものといえる。したがって、地主会に対する補助金の交付は、適正なものである。
第3当裁判所の判断
1 被告Aに対する請求について
地方自治法242条の2第1項4号は、普通地方公共団体の長若しくは委員会若しくは委員又は当該普通地方公共団体の職員について、違法又は不当な公金の支出等があると認められるときに、普通地方公共団体の住民に普通地方公共団体に代位して行う当該職員に対する損害賠償請求権を認めたものである。
被告Aは、地主会の会長の地位にあるものの、違法又は不当な補助金の支出をしたとされるC村の長若しくは委員会若しくは委員又はC村の職員のいずれにも該当せず、地方自治法242条の2に規定する住民訴訟の被告適格を有する者には当たらない。
したがって、原告の被告Aに対する訴えは、被告適格を有しない者に対する訴えであって不適法であるから、却下すべきものである。
2 被告Bに対する平成10年度及び平成11年度支出分の請求について
地方自治法242条の住民監査請求に対する監査委員の監査の結果又は勧告に不服のある住民が、同法242条の2の規定に基づいて行う住民訴訟については、同条2項により、当該監査の結果の通知があった日から30日以内にこれを提起しなければならないものとされている。そして、本件のように各年度ごとに行われた普通地方公共団体による補助金の支出は、それぞれが別個の財務会計行為であるから、当該支出ごとに同項の出訴期間の規定が遵守されているか否かを検討すべきものと解される。
この点に関し、原告は、平成10年度の補助金の支出について、平成10年8月17日、住民監査請求を行い(甲21)、同年9月22日付けで、違法が認められない旨の監査結果の通知を受け(甲22)、また、平成11年度の補助金の支出について、平成12年10月23日、住民監査請求を行い(乙2)、同年12月13日付けで、監査対象外である旨の監査結果の通知を受け、同月14日、原告に同通知が到達した(乙1の1及び2)ものと認められる。他方、原告が、本件訴訟を提起したのは、平成13年4月12日である(記録上明白)から、平成10年度及び11年度の補助金の支出に関する本件訴えは、監査結果の通知から30日以内という出訴期間の経過後になされたものであることが明らかである。
したがって、平成10年度及び平成11年度の補助金の支出に関する訴えは、地方自治法242条の2第2項に規定された出訴期間を徒過した不適法なものであるから、却下するのが相当である。
3 被告Bに対する平成12年度支出分の請求について
(1) 甲第2、3、4、6、7、11ないし18、20、23、25、27、28号証、乙第3ないし5号証及び弁論の全趣旨によれば、次のとおり認められる。
① 昭和18年から19年にかけて、旧日本陸軍によってC村に飛行場が設置され、「北飛行場」と呼ばれていたが、米軍による沖縄占領後、同飛行場は拡張整備され、「C補助飛行場」との名称で米軍が使用していた。その後、昭和47年の本土復帰に際し、C補助飛行場と中野サイトが統合され、米軍利用施設として日本国から米軍に提供された。この米軍施設が現在のC補助飛行場であり、その後、C補助飛行場は一部が地主に返還され、現在に至っている。
このように、北飛行場とC補助飛行場は、それぞれ、旧日本陸軍施設の呼称及び米軍施設の呼称であって、同一の飛行場を示しており、現在では、米軍によるパラシュート降下訓練地に利用され、滑走路以外はほとんどが黙認耕作地となっているものの、現実に存在する施設である。また、同飛行場は、戦後に作成された各種資料において「C飛行場」とも呼ばれている。
② C飛行場用地は、前記のとおり、戦時中であった昭和18年当時、日本軍によって接収されたものであり、その方法は、日本軍が収用条件及び対価の支払方法等を一方的に定め、地主の意向を無視した半ば強制的なものであった。また、国家総動員法に基づいて、収用された土地は、戦争が終了した時点でその目的を達成したとして地主に返還されるといわれていたにもかかわらず、北飛行場用地は、戦争終了後直ちに米軍によって占領され、本土復帰に際しても米軍施設として提供された状態が継続し、戦前における各筆の土地の表示や道路等は、公図・公簿に記載されず、かえって公図・公簿上は24筆の土地が国有地とされていた。
③ このような事情のもとで、昭和51年2月14日、旧地主のC飛行場用地の所有権の回復を目的とし、当該土地関係者からなる会員663名で地主会が設立され、目的達成に向けて、政府関係省庁、各政党及び国会等への要請行動が開始された。
また、地主会は、昭和52年7月から開始した地籍明確化作業により配列図を作成し、昭和53年10月9日、公図・公簿上国有地とされている土地は不存在であるとして、公図・公簿もれ土地申請書を那覇防衛施設局へ提出した。これに対し、那覇防衛施設局は、C飛行場用地は国有地の中にあり、所有権の帰属明確化作業は地籍明確化作業になじまないとしつつ、地主会が提出した配列図を参考にして旧C飛行場用地の調査を行い、公図、公簿が修正され、戦前あった各筆の土地の位置、区画、形状及び面積の把握がなされた。その結果、昭和54年には、沖縄開発庁長官がC飛行場用地の所有権回復問題の存在を認識し、問題解決を図る姿勢を示した。
④ これらの地主会の活動を受けたC村及び那覇防衛施設局は、地主会を含めて、昭和56年6月6日にC飛行場用地の地積明確化作業及び地積図成果について覚書を作成し、昭和57年4月1日には、C飛行場用地に関する戦後処理の協議の窓口は那覇防衛施設局とする等の確認書を作成している。また、昭和57年から、C村は、C飛行場用地返還後の跡地利用計画の策定に着手し、地主会執行部を構成員とするC飛行場転用計画策定会議を組織し、提出された報告書を受けて、地主会代表3名を含むC飛行場転用計画審議会を設置し、昭和60年11月、その答申を受けてC飛行場転用計画を策定した。さらに、これを基に昭和62年にC飛行場転用基本計画が策定されたが、その前提において、地主会は本来旧地主に返るべき土地の3割を公共用地として提供することを決議している。
⑤ 以上のような地主会等による活動を経て、平成7年1月、日米首脳会議でC補助飛行場の返還が提案され、同年5月11日、日米合同委員会で県内移設の条件付ながら、C補助飛行場の全面返還が合意された。平成8年12月、「沖縄における施設区域に関する特別行動委員会(SACO)」は、C補助飛行場について、パラシュート降下訓練がD補助飛行場に移転され、また、E通信所が移設された後に、平成12年度末までをめどにC補助飛行場を返還するとして、日米が期限を定めた全面返還に合意した。
(2) 原告は、C飛行場用地は存在しないと主張するが、前記3(1)①認定のとおり、C飛行場用地は現存すると認められ、また、C村と地主会及び那覇防衛施設局が、緊密に協議を行い、覚書や確認書を作成したり、日米間でC補助飛行場を返還する合意がなされたことなどからすれば、国及び地域住民もC飛行場用地の存在を認めているものといえる。したがって、この点に関する原告の主張は採用できない。
(3) 原告は、地主会がC飛行場用地の所有権を現有しておらず、その目的効果を見込むことができない団体であると主張する。
確かに、国は、C飛行場用地について、国有地であると主張し、公図・公簿上もそのように記載されている。しかし、前記3(1)②認定のとおり、日本軍による接収が適正に行われたかどうかについては疑義がないわけではなく、地主会の主張が直ちに根拠のないものであるとは断定し難いところといえる。また、前記3(1)③④⑤認定のとおり、地主会による所有権回復運動は、C村において重要な公益性を有する米軍基地返還問題の中枢をなしており、地主会の活動及び実績に照らせば、地主会は、C村のC飛行場用地返還問題について、村当局とも連携しつつ、早期かつ円滑な解決を実現してきたものと認められる。
これらの事情にかんがみれば、地主会が目的効果を見込むことができない団体であるとする原告の主張は認められず、地主会に対する補助金の交付に違法性は認められない。
4 よって、原告の被告Aに対する訴え並びに被告Bに対する訴えのうち、平成10年度及び平成11年度に支出された金員をC村に支払うように求める部分は、いずれも不適法であるから、これを却下することとし、原告の被告Bに対するその余の請求は、理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 清水節 裁判官 高松宏之 裁判官 瀬戸さやか)