那覇地方裁判所 平成13年(行ウ)5号 判決 2003年2月25日
原告
甲
同訴訟代理人弁護士
中野清光
同
奥津晋
被告
北那覇税務署長 牧野秀次郎
同指定代理人
菅野俊明
同
金子健太郎
同
上野英二
同
米澤和則
同
大城進
同
丸田賢一
同
年本年三
同
我那覇隆
同
高嶺淳
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1原告の請求
被告が、原告の平成7年5月10日相続開始に係る相続税について、平成11年1月28日付けで行った更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分(いずれも平成11年7月9日付け異議決定により一部取り消された後のもの)をいずれも取り消す。
第2事案の概要
本件は、原告が、その相続した36億円余の連帯保証債務が債務控除の対象になるとして相続税の申告をしたところ、被告がこれを認めず、更正処分及び過少申告加算税賦課決定を行ったことから、その処分等の取消しを求めた事案である。
1 争いのない事実等
(1) 処分の経過等
ア 亡乙(以下「亡乙」という。)は、平成7年5月10日に死亡したところ、同人には、既に死亡していた夫亡丁との間に、原告を含めて5名の子がおり、原告を除く4名の子が亡乙の相続を放棄したため、原告のみが亡乙の相続人となった。
イ 平成8年2月13日、原告は、被告に対し、上記相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税(以下「本件相続税」という。)について、別表1「申告」欄記載のとおり申告を行った。
なお、同申告において債務控除の対象とされたもののうち、本件訴訟で問題とされているのは、株式会社A(以下「A」という。)の金融機関からの借入金について、亡乙が連帯保証人となったことによる連帯保証債務36億5883万円(以下「本件連帯保証債務」という。)であり、その内訳は、平成7年4月30日現在における株式会社B銀行(以下「B銀行」という。)からの短期借入金残高100億5000万円及び長期借入金残高7億5920万円並びに株式会社Cからの長期借入金残高1億6729万円(合計109億7649万円)の3分の1である。
ウ 被告は、本件相続税について調査を行い、上記申告に係る相続税の課税価額の計算において、本件連帯保証債務の額36億5883万円及び借入金1億2000万円が債務の額とは認められないとして、平成11年1月28日付けで、別表1「更正処分等」欄記載のとおり、更正処分「以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい、本件更正処分と併せて「本件各処分」という。)を行った。
エ 原告は、本件各処分を不服として、平成11年3月26日付けで、被告に対して異議申立てを行い(ただし、平成11年5月27日受付の補正書[甲8]により、上記1億2000万円の借入金について異議申立ての対象から除外された。)、被告は、相次相続控除がされていなかったとして、平成11年7月9日付けで、別表1「異議決定」欄記載のとおり、本件各処分の一部を取り消す異議決定をした。
オ 原告は、上記異議決定を不服として、平成11年8月16日付けで、国税不服審判所長に対し審査請求をしたが、国税不服審判所長は、平成13年4月17日付けで、これを棄却する裁決を行った。
カ 原告は、上記裁決を不服として、平成13年7月16日、本件訴訟を提起した。
(2) Aの経営状況等
ア 昭和60年5月、A(平成元年8月1日まではD株式会社)は、ゴルフ場開発計画に着手した。
イ Aの会長であつた亡丁は、平成2年2月2日に死亡し、以後、Aは、原告及びその母である亡乙によって運営されてきた。
ウ 平成3年11月、Aが所有経営するE(以下「E」という。)がオープンした。
エ 平成4年12月、Aは、B銀行から専務取締役を受け入れている。
オ 平成5年3月、B銀行は、Aに対し、「株式会社Aに対する経営改善提言書」(甲10)を示した。
同提言書には、Eの総投資額や資金調達、営業概要、借入金と返済財源等の現状とその問題点が指摘され、改善策として、140億円にのぼる借入金の圧縮を図ることや、B銀行の支援策が具体的に記載され、その他に、甲家による所有不動産の早期売却による借入金の圧縮やEの運営の見合わせなどが提言されている。
カ Aは、平成5年4月19日付けで、金利の減免や運転資金融資を申し込む書面(甲12)をB銀行宛提出した。
同書面には、不動産の売却による借入金の圧縮計画や平成5年4月から平成6年3月までの資金繰表が添付されている。
そして、平成5年4月から、Aは、B銀行から金利の引き下げを受けている。
キ Aは、B銀行に対し、平成5年11月1日付けで、財務建て直しを図るための企画書(甲13)を提出した。
同書面には、<1>リストラによる営業収入の拡大、<2>資産リストラによる借入金の返済、<3>会員権の新商品販売における借入金返済の項目の下に、財務建て直しを図るための諸企画が説明されている。
ク 平成6年5月30日、A、亡乙及び原告は、B銀行との間で、Aの健全な経営計画の樹立と債務の円滑かつ確実な返済を目的とする「覚書」(甲14)を締結した。
ケ 平成7年5月10日、亡乙が死亡し、原告以外の相続人が相続を放棄したため、原告が唯一の相続人となった。
コ 平成7年12月28日、Aは、B銀行との間で上記と同様の趣旨で「覚書」(甲16)を締結した。
サ 平成8年3月27日、Aは、B銀行に対し、「中期経営計画書(平成7年4月~平成10年3月)」(甲15)を提出した。
同書面には、借入金等の圧縮、予算制度の導入、金融機関への支援要請、経営改善委員会の設置という基本方針が説明され、返済計画、資金繰り、リストラ計画等の計画が記載されている。
シ Aの平成3年3月期から平成10年3月期における財産状況及び損益の状況は別表2のとおりであり、また、平成6年3月期から平成10年3月期における借入金残高の推移は別表3のとおりであり、これによれば、Aは、継続して純資産額がマイナスであり、本件相続開始日において債務超過の状態にあった。
ス Aは、本件相続開始日を含む事業年度である平成8年3月期の事業年度において、14億円程度の売上高があり、本件相続開始日前後の各事業年度においても売上規模に大きな変化は見られない。
2 争点
本件の争点は、課税価格の計算において、本件連帯保証債務が債務控除の対象となるか否か、すなわち、本件連帯保証債務が相続税法14条1項にいう「確実と認められる」債務に該当するか否かである。
(被告の主張)
(1) 相続税法14条1項にいう「確実と認められる」債務とは、債務が存在するとともに、債権者による請求その他により、債務者につきその債務の履行が義務付けられている債務であり、存在及び履行の確実な債務であると解すべきである。
しかるに、保証債務は、債権者と保証人との間に生じ、主たる債務者がその債務を履行しない場合に、主たる債務者に代わって、その債務を履行するという従たる債務であるから、被相続人の保証債務が相続された場合でも、将来現実にその債務が履行されるか否かは不確実であって、仮に将来その保証債務が履行された場合でも、その履行による損失は、法律上、主たる債務者に対する求償権の行使によって補てんされ得るから、保証債務は、原則として、「確実と認められる」債務には当たらない。
例外的に、相続開始の状況において、主たる債務者が資力を喪失するなど、その債務を弁済することができない状態にあるため、保証人がその債務を履行しなければならない場合で、かつ、主たる債務者に求償しても返還を受ける見込みがない場合には、「確実と認められる」債務であるとして、債務控除の対象となり得るが、主たる債務者が債務を弁済することができない状態にあるか否かについては、一般に、債務者が破産・和議・会社更生あるいは強制執行等の手続きの開始を受け、または、事業閉鎖・行方不明・刑の執行等により債務超過の状態が相当期間継続しながら、他からの融資を受ける見込みもなく、再起の目途が立たないなどの事情により、事実上債権の回収ができない情況にあることが客観的に認められるか否かで決せられるべきである。このことは、連帯保証債務の場合も同様であると解すべきである。
(2) しかるに、次のアないしウのような事情からすれば、主たる債務者であるAについて、債権の回収ができない情況にあると客観的に認めることはできず、本件連帯保証債務は、「確実と認められる」債務に該当しない。
ア 本件相続開始日において、主たる債務者であるAには、破産・和議・会社更生あるいは強制執行等の手続きの開始を受けたり、事業閉鎖・行方不明・刑の執行等の事情はない。
イ Aが被告に提出した法人税確定申告書の添付資料である貸借対照表及び損益計算書によれば、平成3年3月期から平成10年3月期における財産状況及び損益の状況は別表2のとおりであり、また、勘定科目内訳書によると、平成6年3月期から平成10年3月期における借入金残高の推移は別表3のとおりであり、これによれば、Aは、継続して純資産額がマイナスであり、本件相続開始日において債務超過の状態にあったことは事実である。
しかし、本件相続開始日を含む事業年度である平成8年3月期の事業年度において、14億円程度の売上高があり、本件相続開始日前後の各事業年度においても売上規模に大きな変化が見られず、また、B銀行等からの融資も縮小されることなく継続的に行われている。したがって、他から融資を受ける見込みがないという状況にはない。
ウ 主たる債権者であるB銀行は、Aに対して、経営管理や財務管理の強化を図るため、平成4年12月に専務取締役を派遣し、経営に参加するとともに、随時貸付金の金利を引き下げる支援を行い、平成8年3月には経営計画書の提出を受けている。この経営計画書には、Aの借入金等の圧縮及び経費削減による合理化計画が具体的に記載されており、まさに、Aは、経営改善の取り組みの最中であり、同社は、これらの合理化計画を条件に、B銀行との間で融資継続への合意を取り付けていたことが認められるのであり、本件相続時において、再起の目途が立たない状態にあったということはできない。
(原告の主張)
(1) 連帯保証人は、単なる保証人と異なり、催告や検索の抗弁権がなく、主債務者と同程度の責任を負っている。また、現実的には、保証がされることを前提として様々な融資が行われており、保証債務を必ずしも従たる債務であるということはできず、保証が様々な態様で行われていることにかんがみれば、「確実と認められる」債務か否かは、個別具体的な事情、すなわち、主債務者、保証人及び債権者の関係、保証債務を負うに至った経緯、担保設定状況をはじめとする財産状況等を総合的に考慮して決するべきであり、保証債務であるからといって、原則的に「確実と認められる」債務であることを否定すべきではない。
また、被告が挙げる「債務者が破産・和議・会社更生あるいは強制執行等の手続きの開始を受け、または、事業閉鎖・行方不明・刑の執行等により債務超過の状態が相当期間継続しながら、他からの融資を受ける見込みもなく、再起の目途が立たないなどの事情」も例示的なものに止まるのであり、破産手続きがとられていなくても、破産原因である「支払不能」の状態にあれば「確実と認められる」債務という評価をすべきである。
被告の解釈は、いずれにおいても硬直に過ぎ、正当なものではない。
(2) そして、次のアないしウの事情によれば、本件連帯保証債務は、「確実と認められる」債務に該当する。
ア A(平成元年8月1日まではD株式会社)は、昭和60年5月にゴルフ場開発計画に着手し、当時の代表取締役会長であった亡丁(平成2年2月2日死亡)や亡乙の個人財産の信用力、同人ら及び原告の個人保証によって、B銀行から資金調達を行っていった。そして、ゴルフ場建設が進むに従い、借入額も増大し、平成3年には100億円に達し、さらに資金調達が必要となって、ゴルフ場用地を担保にF銀行からも20億円に上る借入れを行った。
平成3年11月にEをオープンしたものの、会員権の販売不振のため、予定どおりの資金調達ができず、平成4年3月には倒産の危機に瀕することとなり、多額の融資を行っているB銀行は、債権の焦げ付きを防ぐために、金利の放棄や引下げなどの措置を採り、Aに役員を派遣するなどして、倒産を回避するとともに、貸付金の回収に乗り出した。このころから、同行の方針は、「会社、個人を問わず、ゴルフ場以外の財産は全て担保設定のうえ売却して貸付金に充当する。」というものとなり、平成5年ころには、ほとんど全ての個人財産(亡丁の遺産や亡乙所有の不動産等)について担保権が設定され(原告が亡乙から相続した財産に対する担保設定状況は別紙のとおりである。)、E経営に関係ない財産は早期に処分して回収を図ることとされたのである。
なお、Eからの売上げによって返済することも困難であり、追加融資を要する状況に陥ることもあるから、Eの営業が軌道に乗ったとしても年間に返済できる元本は1億円程度に止まる。
イ 上記の方針は、平成8年3月27日にAからB銀行に提出された「中期経営計画書」(甲15)において明確化され、亡乙からの相続財産をほとんどすべて売却処分することとなったのである。これは、本件相続開始時において、すでにその売却代金をB銀行への返済に充てることが確定していた証であり、まさに本件連帯保証債務の履行をしなければならない場合と評価できる。
ウ このような経営状況にあって、上記「中期経営計画書」によれば、亡乙及び原告が所有する不動産をすべて売却しても約80億円の借入金残高があり、これをゴルフ場の売上げから返済するにしても50~60年かかり、場合によっては100年かけても返済することはできない。そして、Aの代表者である原告が求償権を行使することができるのは、実際上は上記借入金を返済した後であるから、およそ、Aに求償することは不可能であり、このことは本件相続当時においても明らかであった。
(被告の反論)
(1) 求償が不可能か否かは、単なる主債務者の資産と負債の比較ではなく、その支払能力の有無によって決するべきである。この点、Aには破産・和議・会社更生あるいは強制執行等の手続きの開始を受け、または、事業閉鎖・行方不明・刑の執行等の事実はなく、B銀行が金利負担の低減や支払猶予といった金融支援等を行っており、上記「中期経営計画書」において事業再建の目途を立てているとともに、Eへの投資によって取得した不動産等が整理の対象とされていないなど、本件相続開始時に債務超過にあるとはいえ、他から融資を受ける見込みや再起の目途がないとはいえない。
(2) また、原告が求償権の行使が不可能であるとして挙げる事情は、本件相続開始時において、不確定な事由や推測に止まり、そのような偶発的事情を持ち込むことは、画一的・安定的かつ明瞭に決せられるべき相続税の課税財産の評価にとって適当ではない。Aが未だ事業を継続している以上、同社の支払能力は、債務弁済の可能性を有しつつも、その経営如何によっては影響を受けうる不確実かつ偶発的な事象であり、これをもって、債務控除を認めることは、税負担の公平の観点から見て相当ではない。
(3) なお、連帯保証債務は、単なる保証債務と異なって補充性はないが、主たる債務者に求償して自らの履行による損失を填補できることに代わりはなく、単なる保証債務と同様の情況がなければ、「確実と認められる」債務には当たらないと解すべきである。
第3争点に対する判断
1 相続税法14条1項所定の「確実と認められる」債務の解釈について
(1) 一般に、保証債務は、主債務者が主たる債務を履行すると、保証人はその債務を免れる性質のものであり、将来、保証人がその債務を履行することになるかどうかは確実ではなく、仮に、保証人がその債務を履行することになっても、その履行による損失は、主債務者に対する求償権の行使により填補されることが予定されているから、原則として、上記「確実と認められる」債務には該当しないと解される。そして、連帯保証債務も保証債務であることに変わりなく、これについても同様に解すべきである。
しかし、相続開始時において、主債務者が弁済不能の状態にあるなど、保証人がその債務の履行をしなければならないことが確実であり、しかも、履行後に求償権を行使しても損失の填補を受けることが不可能である場合には、例外的に、保証債務も「確実と認められる」債務に該当すると解され、ここに弁済不能か否かは、当該債務者について、破産・和議・会社更生または強制執行等の手続きの開始を受け、もしくは、事業閉鎖・行方不明・刑の執行等により債務超過の状態が相当期間継続しながら、他からの融資を受ける見込みもなく、再起の目途が立たないなど、主債務者に対して求償権を行使しても、事実上回収不可能な状況にあることが客観的に認められるか否か(以下「本件基準」という。)によって判断するのが相当である。
(2) この点、原告は、上記のような解釈は、保証債務の多様性を反映せず、硬直化しており、むしろ、個別具体的な事情を斟酌して決するのが相当であり、「確実と認められる」債務から原則的に保証債務を除外することは正当ではないし、破産その他の手続きの有無にとらわれるべきではないなどと主張する。しかし、「確実と認められる」債務か否かの判断基準は、できる限り明確である必要があり、原告の主張するような、案件毎に個別具体的な事情を斟酌するという基準では、かえって恣意的な運用が行われるおそれがあり、適正な税務行政の遂行はできないといわなければならない。したがって、原告の上記主張を採用することはできない。
なお、本件基準が連帯保証債務にも当てはまることはいうまでもなく、これを排斥すべき理由は見出せない。
2 本件連帯保証債務が「確実と認められる」債務に該当するか否かについて
前判示のとおり、原則として、保証債務は、「確実と認められる」債務には当たらないから、例外的に本件連帯保証債務が「確実と認められる」債務に該当するには、相続開始時において、主債務者が弁済不能の状態にあるなど、保証人がその債務の履行をしなければならないことが確実であり、しかも、履行後に求償権を行使しても損失の填補を受けることが不可能であるなどの情況が認められる必要がある。
そこで、これを本件について検討する。
(1) 原告の主張やこれを裏付ける証拠等(上記争いののない事実等、甲10、12ないし16、18ないし41、原告本人)によれば、確かに、Aは、Eの開場からほどなくして倒産の危機に瀕し、以来、多額の債務超過の状態が継続し、メインバンクであるB銀行によって金利の放棄や引下げなどの支援措置がとられ、Aに同行から役員が派遣され、さらには、原告や亡乙が所有する多くの財産について担保権が設定されたり、処分のうえで借入金の返済に充てるなどの方針が打ち出されるなど、本件相続開始時において、Aの経営はかなりの窮状にあって、支払能力も相当に低く、その負債を解消するにはかなりの長期間を要するものであったと認められる。
(2) しかしながら、本件基準は、破産・和議・会社更生または強制執行等の手続きの開始を受け、もしくは、事業閉鎖・行方不明・刑の執行等により債務超過の状態が相当期間継続しながら、他からの融資を受ける見込みもなく、再起の目途が立たないといった、いわば、主債務者がすでに再起の見込みのないような倒産状態にあることを想定しているのである。
この点、本件相続開始当時において、Aには、破産・和議・会社更生あるいは強制執行等の手続きの開始を受けたり、事業閉鎖・行方不明・刑の執行等の事情はなく、本件相続開始後7年以上経過している現在もその経営を維持しており、同社の代表者である原告もその本人尋問において、今後も同社について倒産関係諸法令に基づく手続き(会社更生や民事再生等)をとる可能性は低い旨を述べているなど、Aは、多額の債務を抱えながらもEの経営を継続し、今後も継続することが見込まれ、本件相続開始日を含む事業年度である平成8年3月期の事業年度において、14億円程度の売上げがあり、本件相続開始日前後の各事業年度においても売上規模に大きな変化が見られないこと、本件相続開始前後にわたり、「中期経営計画書(平成7年4月~平成10年3月)」(甲15)に代表されるような方針の下で、B銀行は、Aに対して、金利の引下げ等の金融支援を行い、債権回収とともに経営管理や財務管理の強化を目的として、専務取締役の派遣をするなど、B銀行の管理や支援の下で、経営再建を行っていることなどの諸事情があり、原告本人尋問の結果によれば、Eも利益を上げ、僅かではあっても元金の一部を返済してもいることが認められる。これらの事情をも考慮するならば、なお、本件相続開始時において、Aが、客観的に、融資を受ける見込みがないとか、再起の目途が立たないなどといった状況にあるとまで認めることは困難である。
なお、付言するに、本件連帯保証債務の債務控除を認めず、原告に対して多額の本件相続税を負担させることは、原告主張のとおり、担税力のないものに税負担をさせる憾みがないとはいえず、酷であるという感を禁じ得ないところではあるが、他面、保証債務については原則的に債務控除の対象とされず、かなり限定された場合にのみ債務控除が認められていることは、税務の専門家による助言を得ながら本件相続税の申告を行っていることからすれば、比較的容易に判明することではないかと考えられるのであり、多額の本件相続税の負担を回避するためには、原告本人自身も述べるとおり、相続放棄という手段をとることもできたのであって、税負担の公平性等の要請にかんがみるならば、債務控除を認めないという判断はやむを得ない。
したがって、本件連帯保証債務は相続税法にいう「確実と認められる」債務に該当しない。
3 よって、本件連帯保証債務の債務控除を認めなかった本件更正処分は適法である。また、本件更正処分により納付すべき税額の基礎となった事実が、更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法65条4項の規定による正当な理由があるとは認められないから、同条1項の規定に基づいてなされた本件賦課決定処分も適法である。
4 以上によれば、本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について国税通則法114条、行政訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 綿引穣 裁判官 鈴木博 裁判官 高松みどり)
別紙
別表1 本件課税処分の経緯
<省略>
別表2 (株)Aの財産及び損益の状況
<省略>
別紙
別表3 (株)Aの借入金残額の推移
<省略>
<省略>
別紙
担保設定状況
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>