那覇地方裁判所 平成14年(わ)469号 判決 2003年7月03日
主文
被告人を懲役15年に処する。
未決勾留日数中160日をその刑に算入する。
押収してあるプラスドライバー1本(平成15年押第3号の1)を没収する。
理由
(犯行に至る経緯)
被告人は,妻が妊娠中であった平成10年ころに妻と性交できない不満などから女性の下着を盗んだり,のぞき見をしたりし,他人の住居に侵入し水着等を盗んだことで同年5月には住居侵入・窃盗罪で懲役1年執行猶予3年の判決を受けた。しかし,被告人はその後再びのぞき見,下着盗を繰り返すようになり,次第に性的欲求をエスカレートさせ,平成13年2月ころからは歩行中の女性の胸を触るなど痴漢行為をするようになり,同年7月ころには胸を触られた女子高生が驚愕して抵抗しなかったことから,強姦することへの抵抗感を薄めていくと同時に,同年12月ころからは家庭では妻と不仲となり妻との性交回数が減少したことから性的不満を募らせていた。
(罪となるべき事実)
(括弧内は起訴状の年月日及び公訴事実の番号である。本文中の「前記」,「同」の記載とは無関係とする。)
被告人は
第1平成14年2月12日午後11時40分ころ,帰宅途中のA(当時16歳)を認め,同女を姦淫しようと企て,沖縄県b郡c町e所在のコインランドリーから約63メートル東方の路上において,同女に対し,その肩を組んで「タバコをもらおう。」などと話しかけて気を引き,約75メートル並んで歩いた後,同町所在の株式会社K北西約50メートル地点の駐車場出入口にさしかかるや,突如同女の肩を掴んで抱き寄せ,さらにその首に背後から腕を回して締めつけるなどの暴行を加え,「おまえ殺そうな,刺そうな。」などと言って脅迫し,首を締めつけたまま同女を駐車場奧へと連れ込み,これらの暴行脅迫により同女の反抗を抑圧した上,同女を姦淫しようとしたが,同女が足を閉じて抵抗したため,その目的を遂げなかった(平成14年12月10日付起訴状第1)
第2同月18日午後7時40分ころ,帰宅途中のB(当時15歳)を認め,同女を姦淫しようと企て,沖縄県d市fL株式会社先路上において,同女の肩を背後から掴んで抱きかかえ,「殺されたくなかったら付き合え。」などと言った上,同女の着用していたネクタイを引っ張り「叫んだな。刺すよ。黙れ。」などと脅迫しながら,同女を同所から約115メートル先の砂利道へと連れ込み,同所において,同女に目隠しをして仰向けに押し倒すなどの暴行を加え,これらの暴行脅迫により同女の反抗を抑圧した上,強いて同女を姦淫し,その際,同女に対し,処女膜裂傷及び加療約1週間を要する左大腿後面,右大腿後面及び右下腿後面擦過傷の傷害を負わせた(平成14年12月10日付起訴状第2)
第3一人暮らしの女性の居室に侵入して在室の女性を強姦しようと企て,同年3月12日午前3時10分ころ,a市gC(当時34歳)方にベランダ掃き出し窓から侵入し,同女に対し,室内にあった台所用ハサミを突き付け,「声を出すなよ,騒いだら刺すからな。」などと言った上,同女に目隠しをし,その顔面を平手で殴打し,背中を足蹴にするなどの暴行脅迫を加え,その反抗を抑圧して強いて同女を姦淫し,その際,前記暴行により,同女に対し,全治約19日間を要する恥骨上部左側切創の傷害を負わせた(平成15年1月31日付起訴状第1)
第4一人暮らしの女性の居室に侵入して在室の女性を強姦しようと企て,同月30日午前2時30分ころ,a市hD(当時19歳)方に,ベランダ掃き出し窓の施錠を外して侵入し,同所において,同女をベット上にうつぶせに押さえつけ,その背後から羽交い締めにした上,所携のプラスドライバー(平成15年押第3号の1)をその胸元に突き付け,「静かにしろ,殺すぞ。」などと言い,その顔面等を手拳等で多数回殴打し,さらに同女に目隠しするなどの暴行脅迫を加え,その反抗を抑圧し,強いて同女を姦淫しようとしたが,同女の友人であるEが同室を訪れて呼び鈴を鳴らしたことから,犯行の発覚を恐れて同所における姦淫を断念してその目的を遂げず,その際,前記暴行により,同女に加療約7日間を要する右顔面打撲傷,右目結膜出血の傷害を負わせた(平成14年12月27日付起訴状第1)
第5さらに,同女を姦淫する目的で同女を略取しようと企て,同日午前3時20分ころ,前記室内において,前記暴行脅迫により畏怖している同女に対し,その肩を抱きかかえ,「静かにしていないと殺す。」などと言って,同女が騒ぐなどした際にはその生命,身体に危害を加えかねない気勢を示して脅迫し,同女を屋外に連れ出した上,前記h先路上に停めておいた第2種原動機付自転車前部座席に乗せて同車を運転疾走させたが,同所から約80メートル先の同市i先路上において,前記Eの運転する軽四輪乗用自動車に行く手を阻まれ,同女が前記原動機付自転車から降車したため,逮捕を恐れてそのまま逃走し,その目的を遂げなかった(平成14年12月27日付起訴状第2)
第6一人暮らしの女性の居室に侵入して在室の女性を強姦しようと企て,同年5月20日午後10時20分ころ,a市jF(当時25歳)方にベランダ掃き出し窓から侵入し,同女に対し,所携のドライバーを突き付け,「殺されたいか。」などと言った上,その顔面を平手で多数回殴打し,同女に目隠しをするなどの暴行脅迫を加え,その反抗を抑圧して強いて同女を姦淫しようとしたが,自己の陰茎が勃起しなかったため,その目的を遂げなかった(平成15年1月31日付起訴状第2)
第7一人暮らしの女性の居室に侵入して在室の女性を強姦しようと企て,同年同月26日午前3時ころ,a市kG(当時19歳)方にベランダ掃き出し窓から侵入し,同女に対し,所携のドライバーを突き付け,「騒ぐな,騒ぐと殺すぞ,刺すぞ。」などと言った上,同女に目隠しするなどの暴行脅迫を加え,その反抗を抑圧し,強いて同女を姦淫した(平成15年1月31日付起訴状第3)
第8一人暮らしの女性を強姦する目的で同年7月9日午後10時24分ころ,前記第7記載のG方ベランダに建物の壁をよじ登って侵入した(平成15年1月31日付起訴状第4)
第9同月10日午後8時ころ,金品窃取などの目的で,沖縄県b郡c町lH方に侵入し,I所有にかかるカーコンポ1台外5点(時価合計額約10万8000円相当)を窃取した(平成14年12月10日付起訴状第3)
第10一人暮らしの女性の居室に侵入して在室の女性を強姦し,かつ金員を強取しようと企て,同年9月19日午後11時20分ころ,沖縄県b郡c町mJ(当時19歳)方にベランダ掃き出し窓から侵入し,同女に対し,いきなりその腹部を手拳で殴打し,さらに同女に目隠しをして,ベッド上に押し倒し,「黙れ。声を出すな。
ちゃんと寝ろ。おまえは殺そうな。殺す。金はあるのか。」などと言いながら,その頭部,顔面等を掌,手拳等で多数回殴打するなどの暴行脅迫を加え,同女の反抗を抑圧して強いて同女を姦淫し,かつ金員を強取しようとしたが,同女に激しく抵抗されるなどしたためいずれもその目的を遂げず,その際,前記暴行により,同女に加療約2週間を要する頭部・顔面打撲,同擦創,頚椎捻挫等の傷害を負わせた(平成14年10月25日付起訴状)ものである。
(法令の適用)
被告人の判示第1の所為は刑法179条,177条前段に,判示第2の所為は同法181条(177条前段)に,判示第3の所為のうち,住居侵入の点は同法130条前段に,強姦致傷の点は同法181条(177条前段)に,第4の所為のうち,住居侵入の点は同法130条前段に,強姦致傷の点は同法181条(179条,177条前段)に,判示第5の所為は同法228条,225条に,判示第6の所為のうち,住居侵入の点は同法130条前段に,強姦未遂の点は同法179条,177条前段に,判示第7の所為のうち,住居侵入の点は同法130条前段に,強姦の点は同法177条前段に,判示第8の所為は同法130条前段に,判示第9の所為のうち,住居侵入の点は同法130条前段に,窃盗の点は235条に,判示第10の所為のうち,住居侵入の点は同法130条前段に,強盗強姦未遂の点は同法243条,241条前段にそれぞれ該当するが,判示第3及び第4の各住居侵入と各強姦致傷との間,判示第6の住居侵入と強姦未遂との間,判示第7の住居侵入と強姦との間,判示第9の住居侵入と窃盗との間及び判示第10の住居侵入と強盗強姦未遂との間にはそれぞれ手段結果の関係があるので,同法54条1項後段,10条により重い判示第3,第4については強姦致傷罪の刑,判示第6については強姦未遂罪の刑,判示第7については強姦罪の刑,判示第9については窃盗罪の刑及び判示第10については強盗強姦未遂罪の刑でそれぞれ処断することとし,判示第2ないし第4及び判示第10の罪については所定刑中有期懲役刑を,判示第8の罪については所定刑中懲役刑を選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により最も重い判示第10の罪の刑に同法14条の制限内で法定の加重をし,その刑期の範囲内で被告人を懲役15年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中160日をその刑に算入し,押収してあるプラスドライバー1本(平成15年押第3号の1)は,判示第4の強姦致傷の用に供した物で被告人以外の者に属しないから,同法19条1項2号,2項本文を適用してこれを没収することとする。
(量刑の理由)
本件は,被告人が,平成14年2月から同年9月の間に住居侵入強盗強姦未遂1件,住居侵入強姦致傷2件,住居侵入強姦1件,住居侵入強姦未遂1件,強姦致傷1件,強姦未遂1件,住居侵入窃盗1件,住居侵入1件,わいせつ目的略取未遂1件を敢行したという事案である。
被告人は,主として自己の性的欲求に対する不満を解消するために本件各犯行を繰り返していったもので,いずれも自己中心的で卑劣な犯行であり,動機に酌量の余地はない。また,金欲しさから金品強取にも及ぶなどそれ自体身勝手な犯行というほかない。被告人は,最初は路上を通行中の被害者を襲っていたが,やがて一人暮らしの女性を狙ってその住居に侵入してその室内で犯行を重ねるようになり,窓の鍵を開けることや脅迫に用いるためのドライバーを用意して携帯し,両手に靴下をはめて指紋が残らないようにし,タオルなどを頭に巻き,被害者には目隠しするなど手口を計画的かつ巧妙なものへとエスカレートさせた。犯行態様についても被害者の性器に異物を挿入したり,陰毛を剃ったり,ロープで胸部を縛るなど被害者の人格を無視した凌辱の限りを尽くし,抵抗する被害者には手拳で殴打するなど執拗な暴行を加え,最後には金品も要求するまでになっており,悪質極まりない。本件強姦関係の被害者7名のうち3名は姦淫自体について既遂の被害を受け,うち2名を含む4名は傷害の被害を受けており,その余の被害者についてもたまたま難を逃れたというべきものであって,その結果自体真に重大である。もとより被害者らには何らの落ち度もなく,突然襲われた衝撃は大きく,とりわけ自宅で被害を受けた被害者らは転居を余儀なくされ,未だ被害にあったショックから立ち直れない者もいるように,被害者らの受けた身体的,精神的被害も極めて重大であって,被害者らが被告人の厳重処罰を望み,被告人には2度と社会に戻ってきて欲しくないなどと述べていることも心情として十分に理解できるところである。それにもかわらず,被告人自身は被害者らに対し慰謝の措置も講じていない。さらに,被告人は,前刑の住居侵入・窃盗罪の執行猶予期間満了後1年足らずで本件犯行に至り,本件犯行を繰り返すうち,女性を強いて姦淫すること自体に性的興奮を覚え,機会があればいつでも強姦をしようという気持ちを持つようになり,さらには被害女性の畏怖に乗じて金品を奪取しようと企むなど被告人の犯罪傾向の深化は顕著である。加えて,本件は,a市n地区とc町周辺での連続強姦事件として報道されたことから,周辺地域の女性を恐怖に陥れ,社会に与えた影響も無視できないものといえる。
以上の諸事情に照らすと,被告人の刑事責任は極めて重大である。
しかし他方,被告人は当公判廷で被告人なりに一応の反省の態度を示していること,被告人の姉が一部の被害者らに謝罪するなどしている上,今後の被告人に対する助力を申し出ていること,妻子があることなど被告人にとって酌むべき事情も認められる。
以上の事情を総合考慮し,主文のとおり刑を定めた。
よって,主文のとおり判決する。
(検察官苅谷昌子,私選弁護人宮城嗣宏各出席)
(求刑 懲役17年,主文同旨の没収)
(裁判長裁判官 横田信之 裁判官 栗原正史 裁判官 升川智道)