大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

那覇地方裁判所 平成14年(ワ)1195号 判決 2003年11月19日

主文

1  原告らと被告との間において、原告らがいずれも被告の正会員の地位を有することを確認する。

2  被告は、原告甲に対し120万円、その余の原告らに対し各306万円及びこれらに対する平成14年12月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、被告の負担とする。

4  この判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

主文同旨。

第2事案の概要

本件は、「杣山」と呼ばれる林野の入会権を有していた部落住民の女子孫である原告らが、当該入会地を公有財産等として管理・処分等を行う被告に対し、被告の正会員の資格を当該部落住民の男子孫に限る被告の会則規定は、専ら性別のみを理由とする不合理な差別を定めたもので、憲法14条1項、民法1条の2に違反し、同法90条により無効であるとして、原告らが被告の正会員たる地位を有することの確認を求めるととともに、被告の正会員たる地位に基づいて、原告甲につき平成13年度及び平成14年度に支払われるべき補償金合計120万円、その余の原告につき平成4年度から平成14年度までの間に支払われるべき補償金合計各306万円並びにこれらに対する本件訴状送達の日の翌日である平成14年12月12日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めたものである。

1  前提事実(証拠掲記のないものは、争いがない。)

(1)  当事者

原告らは、いずれも明治39年にA村(現在のA町及び宜野座村)所在の「杣山」と呼ばれる林野が国から払い下げられた当時の同村A部落(現在のA区域)の住民で「杣山」等の使用収益権(入会権。以下「本件入会権」という。)を有していた者(以下「払下げ当時の住民」という。)の子孫であって、遅くとも平成4年以降現在に至るまでA区域内に住所を有し居住している者である(甲4~29の各1・2、弁論の全趣旨)。

被告は、A町の「旧慣によるA町公有財産の管理等に関する条例」(昭和57年1月6日制定A町条例第1号。以下「本件条例」という。)1条の趣旨に基づき、同2条に規定する部落民及びその男子孫の世帯主又はその家の代表者をもって組織し、同3条、4条に規定する財産(当該部落民に使用権の設定されている公有財産として管理処分等が定められている土地。以下「本件公有土地」という。)及び個人名義で登記されている部落有地(以下「本件部落有地」という。また、本件公有土地と併せて「本件土地」という。)の管理及び処分並びに会員相互の発展に寄与することを目的とする権利能力なき社団である(乙1)。

(2)  本件土地の払下げから被告設立までの経緯等

ア 本件土地の払下げ等

本件土地は、古来「杣山」と呼ばれる入会地であり、明治32年公布の沖縄県土地整理法によりいったん官有地とされ、明治39年に沖縄県杣山特別処分規則により当時のA部落に払い下げられた。

その後、本件土地のうち本件公有土地は、昭和12年ころにA村の公有財産に編入され、昭和57年以降はA町の公有財産に編入されて管理・処分等が行われ、公有財産に編入されなかった土地(本件部落有地)は、部落代表者の個人名で登記され、管理・処分等が行われてきた。

本件土地は、戦後、国が賃借した上で米軍基地として使用され、その賃料(いわゆる軍用地料)は、被告らにより収受、管理され、その一部が被告の会員に対し、毎年度補償金として支給されている。

イ 旧「A部落民会」

A部落(A区域)では、本件土地の払下げ後、同部落の規則及び旧来の慣習(旧慣)に基づき本件土地の管理・処分等を行ってきたが、本件公有土地については、その官有財産化後は、A村との間で締結された協定ないし合意に基づき、管理・処分等がなされていた。さらに、本件条例が制定されると、これに対応して、昭和57年7月12日に被告の前身となる旧「A部落民会」が設立されたうえ、旧「A部落民会会則」(乙5。以下「旧部落民会会則」という。)が制定され、同条例に規制される形で本件公有土地の管理・処分等が行われてきた。

ウ A入会権者会及びA共有権者会

本件部落有地については、本件公有土地が官有財産とされた後も、A部落の従来の規則及び旧慣に基づき管理・処分等がなされていたが、昭和31年9月16日にこれらを参照、整理した「A共有権者会会則」(甲3。以下「共有権者会会則」という。)が制定され、同会則に基づいて、「A共有権者会」の名称で管理・処分等が行われるようになり、さらに、昭和61年3月19日に会の名称が「A入会権者会」に変更され、それに伴い会則の名称も「A入会権者会会則」(乙4。以下「入会権者会会則」という。)に変更された。

エ 被告の設立

旧A部落民会が設立された昭和57年以降、A区域(旧A部落)では、外観上、本件公有土地の管理・処分等を行う同会と、本件部落有地の管理・処分等を行うA入会権者会の2会が併存する状況となったが、両会の実態が同一であったことから、平成12年5月19日、両会が合併して被告が設立され(乙6)、これに伴い改正前の「A部落民会会則」(甲2。以下「前会則」という。)が制定された。その後、平成14年5月17日に前会則を改正したものが現行の「A部落民会会則」(乙1。以下「現行会則」という。)である(以下、現行会則、前会則、旧部落民会会則、入会権者会会則、共有権者会会則を「被告に関する諸会則」と総称することがある。)。

(3)  被告に関する諸会則における会員資格に関する規定

被告に関する諸会則には、会員たる資格について、次のような規定がある。

ア 共有権者会会則第6条

1項 この会の会員とはAの行政区域に住所を有しかつ会員名簿に登載されている者をもって会員とする。

2項 前項の会員の男子が相続し又はその者の男子孫が分家しかつ前項に規定する区域内に住所を有する者はその世帯主である者の届出によって入会することができる。但し入会申込は毎年6月30日までとする。(甲3)

イ 入会権者会会則第6条

1項 この会の会員たる資格は明治以前からAの部落民として入会地を求めた者及びその者の男子孫。

2項 昭和20年3月1日以前からA区民として世帯を構え、かつ毎年区の行政費として木草賃を納付していた者及びその者の男子孫。

3項 前各項に該当する会員はA区の行政区域に居住し、かつ、会員名簿に登載された者とする。(乙4)

ウ 旧部落民会会則第5条

1項 この会の会員は、正会員及び準会員とする。

2項 この会の正会員は、条例(本件条例)第1条、第2条の規定に基づき明治39年杣山払い下げ当時当該部落の住民として、杣山の使用収益権を有していた者の子孫で現にA区の行政区域内に居住し、かつこの会の会員名簿に登載された世帯主をもって正会員とする。(乙5)

エ 前会則及び現行会則各第5条

1項 この会の会員は正会員及び準会員とする。

2項 この会の正会員は条例(本件条例)第1条及び第2条の規定に基づき明治39年杣山払い下げ当時のA部落民で杣山等の使用収益権(入会権・民263)を有していた者の男子孫で現にA区域内に住所を有し居住しているものとする。

3項 この会の準会員は明治40年から昭和20年3月まで杣山等を利用していた(入会権・民294)者又はその男子孫で現にA区域内に住所を有し居住しているものとする。(甲2、乙1)

(4)  被告に関する諸会則における女性の会員資格等に関する規定

被告に関する諸会則には、女性の会員等の資格に関し、下記ア、イのような規定があり、また、女性に対する入会補償の支給に関しては、下記ウ、エのような規定がある。

ア 共有権者会会則及び入会権者会会則各第9条(代行権の資格及び制限)

この会の会員が死亡しその者に男子孫の後継者がない場合その者と生前から同居していた女子孫がその家に引続き残存し後継的状態にある場合は理事会の議によって会員としての代行権を附与することができる。しかし、その権利は会員であった者の死亡した日から起算し、満33年間に限る。ただし、右期間内であってもそれに代わる後継男子がでてきたとき、または代行権を有する者がその家を出たとき、もしくは会員であった者の位牌が別に移動し代行権者の手を離れたときはその日をもって代行権を失うものとする。

イ 前会則

第6条(代行会員)

1項 この会の会員が死亡しその者に男子孫の後継者がない場合その者と生前から同居していた女子孫がその家に引き続き居住し、後継的状態にある場合は本人の申し出により役員会の議を経て会員としての代行権を附与することができる。

2項 前項の代行権の期限は会員であった者の死亡した日から起算し33年とする。但しその期限内であってもそれに代わる後継男子ができた時又は代行権を有する者がその家を出た時、もしくは会員であった者の位牌が別に移動し代行権者の手を離れた時はその日をもって代行権を失うものとする。

第7条(特例会員)

第5条に規定する会員の女子孫で満50歳を超えA区域内で世帯を構え独立生計にある者は本人の申し出により役員会の議を経てその者の一代限り特例会員として会員同等の権利を附与することができる。

ウ 入会権者会会則第6条の2(特例)

第6条に規定する会員の女子孫で50才を超えA区の行政区域内で世帯を構え独立生計にある者は本人の申出により理事会の議を経てその者の一代限り特例として会員同等の入会補償金を支給することができる。

エ 現行会則第48条(女子世帯及び長男世帯)

1項 第5条に規定する会員の女子孫及び長男で満50歳を超えA区域内で世帯を構え独立生計にある者は特別の事情に鑑み特別措置として本人の申し出により役員会の議を経て入会補償を予算の定めるところにより支給することができる。但し女子孫についてはその者の一代限り、長男については現会員からの譲渡及び相続がなされるまでの間とする。

(5)  被告に関する諸会則における会員への補償支払に関する規定

被告に関する諸会則には、会員への補償支払に関し、次のような規定がある。

ア 入会権者会会則第60条(収益金の処分)

1項 財産収益金はこの会の運営に必要な経費を控除し次の各号に処分することができる。

3号 会員への入会権補償

2項 前項によって処分するときはその年度の予算に計上しなければならない。(乙4)

イ 前会則第42条(補償金)

この会の会員に賃貸料の一部を予算の定めるところにより補償金を支給することができる。(甲2)

ウ 現行会則第40条(補償金)

この会の会員に賃貸料の一部を予算の定めるところにより補償金を支給することができる。(乙1)

(6)  平成4年度ないし平成14年度における補償金の支払額

被告及びその前身であるA入会権者会が、平成4年度から平成14年度までの間に、各正会員に対して支払った補償金の額は、別表のとおりである。

2  争点

(1)  被告に関する諸会則のうち被告の正会員たる資格を本件土地払下げ当時の住民の男子孫に限る規定部分は、公序良俗に反し無効か。

(原告らの主張)

被告に関する諸会則には、被告の正会員たる資格を本件土地払下げ当時の住民の男子孫に限定する規定部分が存するが、当該規定部分は、専ら女性であることのみを理由として差別するものであり、そのように被告の正会員たる資格について男女間において異なる取扱いをすることには合理的理由がない。したがって、当該規定部分は、性別のみによる不合理な差別を定めたものとして、両性の平等を規定する憲法14条1項及び民法1条の2に違反し、男女間の平等的取扱いという公序に違反するから、同法90条により無効である。この点に関し、被告が被告の正会員たる資格を本件土地払下げ当時の住民の男子孫に限ることは不合理なものではないとして主張する点は、次のとおり、いずれも正会員たる資格について男女間で異なる取扱いをすることの合理的理由にはならない。

ア 旧慣に基づくとの点について

入会権が部落の旧慣に従って管理処分されるものであるとしても、当該旧慣が、憲法はもちろん、その趣旨を受けた公序に違反するものであれば、その旧慣もまた無効である(法例2条)。

被告は、旧慣では、本件入会権が部落の構成員である家の家長に帰属するとするが、そもそも、入会権が部落に総有的に帰属する場合、その部落民であれば原則として誰でも入会権者として入会地を使用収益する権能を有するのであり、被告の主張するような本件入会権が家に帰属するという旧慣はない。A部落での慣行を確認した本件条例においても、本件土地払下げ当時の住民の子孫という限定以外に特段の限定はない。

仮に被告の主張するような旧慣が存在するとしても、そのような家制度は、男性を家の中心的存在である家長として優遇する封建的制度であり、かかる家制度自体が性別による差別の禁止及び両性の平等に反し公序に違反する。なお、この点は、被告の主張するように沖縄の家制度が、旧民法と無関係の沖縄独自の風習に基づく家制度であったとしても同様というべきである。

したがって、被告主張の旧慣は、公序に違反し無効である。

イ 女性にも一定の措置を講じているとの点について

被告は、女性に対しても、一定条件の下に会員に準ずる資格を認め、補償金を支給しており、女性であることを理由に会員資格を排除していない旨を主張するが、そのような制度があるからといって、正会員たる資格を男性に限ることに合理的理由があるということにはならない。すなわち、被告に関する諸会則においては、従前、女性について代行会員や特別会員として会員たる資格が与えられていたものの、依然として正会員の資格は与えられていなかった。また、代行会員や特例会員の制度は、男性が正会員であることを前提として正会員である男性の妻などにその男性の地位が承継される形で与えられていたのであって、女性につき合理的な理由なく差別的取扱いをしていたものである。そして、現在、被告からその会員またはこれに準じて取り扱われている女性は、従前の代行会員、特例会員と全く同じ条件によってその地位を認められているのであり、結局、被告が男性と女性を差別していることに合理的な理由がないことに変わりはない。

ウ 原告らがA部落民以外の者と婚姻していることについて

なお、被告は、A部落の旧慣に基づき、入会権は家に帰属するものであるとして、A部落民以外の者と婚姻した原告らに被告の会員たる資格はない旨を主張するが、元々本件土地払下げ当時の住民の子孫で、本件土地に入山できるようになれば直ちに本件土地を生活のために利用できる立場にいる者という意味で、A区域内にいる者であれば被告の構成員となり得るのである。その構成員が女性であっても同様であり、他部落出身の者と婚姻したからといって入会権を承継する資格を失うという慣行はない。また、A部落民の男性がA部落民以外の者と婚姻しても正会員たる資格を失うことはないのに対し、女性がA部落民以外の者と婚姻したというだけで正会員たる資格を奪われることに合理的理由はない。原告らは、A部落民以外の者と婚姻したといっても、いずれもA部落内に居住する者であり、会則上、かかる者は正会員の資格を有する。

(被告の主張)

被告に関する諸会則は、次のとおり、入会権に関する旧慣を基本にしながら、自主的に制定、改定されてきたものであり、仮にその内容に若干不適切な点が存するとしても、原告らが主張するように当該規定部分が無効となるほどの不合理性が存するものではない。

ア 一般に入会権は、旧慣に従い長年にわたって管理、処分されてきたものであるから、本件入会権についても、A部落における旧慣に従って管理、処分されることについて合理的理由を有するものである。

すなわち、本件入会権は、本件土地払下げ当時の部落民で、かつ、その使用収益権を有していた者が保有していたものであるところ、当時の使用収益権承継の旧慣においては、入会地使用収益権を有する者の男子孫がこれを承継するものとされていたことから、被告に関する諸会則においても、これに従い、正会員たる資格を男子孫に制限したものである。本件入会権は、A部落に総有的に帰属するものと解されるが、ここでいうA部落とは、本件土地払下げ当時のA部落に居住していた部落民全員を指すものではなく、当時のA部落を構成する社会的単位となっていた家(沖縄の旧慣に従った「家」であり、必ずしも旧民法でいう「家」とは同一でない。)により構成される部落であった。したがって、他部落出身者は、A部落内に居住していても入会権の帰属主体となるA部落の構成員とはされなかったし、A部落民であっても他部落の男性と婚姻した女性は、A部落の構成員とはみなされなかった。部落の構成員は家が単位とされ、かつ、家の家長たる男性が構成員としての権利を有し、家の家族はA部落が定める規則及び部落の慣行に従って使用収益権を行使するものとされ、入会権の帰属者と入会地の使用収益とは異なるものとして取り扱われてきたのである。

被告に関する諸会則は、このような本件入会権の性格、A部落の構成、管理処分等に関する規則を受け継いで制定されたものであり、歴史的、社会的、法的にみて不合理な差別と評されるものではない。

イ 被告に関する諸会則は、正会員たる資格について基本的な変更はみられないが、女性の代行権等については次のような経過が存する。すなわち、共有権者会会則及び入会権者会会則では、女子孫について、男子孫が存しない場合に限って当該家の男子孫が有すべき会員権を代行する制度(会員権代行制度)を設け、また、入会権者会会則では、一代限りの特例として会員同等の入会補償金を支給する規定を設けるなど、会員権の代行や特例の形で入会補償金を一定の条件を具備する女子孫に支給する途を用意していた。前会則では、女子孫について、会員権代行制度に付加する形で、特例会員制度を設け、特別会員となる途も残していた。そして、現行会則においても、一定の要件の下に女子孫に対して入会補償金の支給を認めている。また、被告においては、正会員の資格を有した男子孫が死亡し、それを継承する男子孫がいない場合、または男子孫が幼少である場合には、例えば前会則ないし現行会則1条の「その家の代表者」の解釈として、部落会の承認で正会員であった男子孫の配偶者について会員に準ずる扱いを認めてきており、決して女性であることを理由に会員資格を排除しているものではない。

ウ 前記のとおり、本件入会権は、旧慣によれば、当時のA部落を構成する社会的単位となっていた家に帰属するものであったから、他部落出身者は、A部落内に居住していても入会権の帰属主体となるA部落の構成員とはされなかったし、A部落民であっても他部落の男性と婚姻した女性は、A部落の構成員とはみなされなかった。かかる旧慣に従えば、原告らは、いずれも他部落出身者と婚姻した者であり、被告の正会員たる資格を有しない。

(2)  原告らは、被告の承諾を得たり、あるいは加入申込手続をすることなく、被告の会員たる地位を認められるか。

(被告の主張)

ア 権利能力なき社団の構成員たる地位は、その社団の設立行為への参加若しくはその後の入会契約(入会希望者による入会申込と社団による承諾)により取得されるものであり、社団の設立後にその会員の地位を主張するには、入会契約が前提となる。それゆえ、原告らにおいて、被告が原告らを会員として承認しないことを法的に争うには、私法上の権利として、原告らが被告に対し合理的理由のない限り入会を承諾しなければならないという権利を有していることが前提となり、そのような権利が存しない限り、会員資格を定めた規定の合理性を争う余地はない。しかるに、被告がいかなる者について会員資格を認めるか(入会契約を締結する相手方を誰とするか)については、契約自由の原則より、被告が自由に定めることができるのであるから、会員たる資格を本件土地払下げ当時の住民の男子孫に限っている被告に関する諸会則の規定は有効であり、原告らが当該規定の合理性、無効性を争う余地はない。

イ また、仮に、原告らが被告の会員たる資格を有するものとしても、原告らは、本件訴えの提起前に、現行会則7条に規定する加入申込手続を履践していないのであるから、既に会員たる地位を取得していることを前提として、直接に、被告の会員たる地位の確認を求めたり、補償金の支払を求めることはできない。

(原告らの主張)

通常、社団においてその構成員たる地位を得るには、その社団の設立行為への参加もしくはその後の入会契約締結が必要であるが、私法上の団体には様々なものがあり、それぞれの団体の構成員となる要件ないし入会の要件は、それぞれの団体の実態に即して判断されなければならない。特に、法人と異なる権利能力なき社団においては、その団体の組織、内容等は様々であり、当該社団においていかなる者が構成員となるかについては、必ずしも入会契約を必要とすべきではなく、当該社団の性格、成り立ち、従前の構成員の決定の仕方等その実態に即して判断されなければならない。なかでも、近代法治国家成立以前から存在する団体を承継する形で現在まで存続する団体にあっては、血縁関係にあるか否かなどその団体の性格に合わせた基準・要件で構成員であるか否かが判断され、かかる団体について入会契約は不要というべきである。

ところで、被告は、近代法治国家成立以前から「杣山」と呼ばれる本件土地を生活のために使用するなどして入会権を持っていた者達の子孫で、明治39年に本件土地の払下げがなされた当時の部落民で本件土地の使用収益権を有していた者からその権利を承継した者らにより組織された入会団体であって、その設立時から厳格な設立行為への参加が行われていたか、また、各会員について厳格に入会契約手続が取られていたか定かではなく、むしろ、そのような厳格な手続が取られていたかは疑わしい。仮に、特定の会員についてそのような手続が取られていたとしても、その承認等に法的意味はない。

被告の構成員決定の実態としては、明治39年当時本件土地を使用していた者達の子孫であるという血縁関係と、仮に米軍基地が返還された場合に従前同様本件土地を使用できること、すなわち、A区域内に居住しているという地縁関係があれば、当然に被告の構成員になり得るものであった。ただし、被告においては、これらの要件に加えて性別という資格要件を設け、構成員となる資格を男性に限定したきたのである。現行会則上も、正会員の要件は、性別の要件を除けば、血縁関係及び地縁関係の要件が必要とされている。なお、現行会則7条において、加入手続として「第5条に規定する会員の男子孫が相続し又はその者の男子孫が分家しその世帯主の届出によって役員会の議を経て加入することができる。」と規定されているが、当該規定は、会員の承継の場合の手続要件について定めているのみであり、被告の入会について入会契約を必要とするものではない。

以上のとおり、被告の実態としては、構成員であるためには、本件土地払下げ当時の住民の子孫であるという要件(血縁関係の要件)及びA区域内に現在も居住しているという要件(地縁関係の要件)を満たしていればよく、入会契約は不要である。

したがって、以上の血縁関係及び地縁関係という2つの要件を満たしている原告らは、男子孫に限るという性別要件が無効であれば、当然に被告会員となる。それゆえ、原告らは、現行会則の無効を主張することができ、これが無効であれば被告会員の地位にあるから、その地位の確認も当然に請求できる。

第3当裁判所の判断

1  争点(1)(被告に関する諸会則のうち、被告の正会員たる資格を本件土地払下げ当時の住民の男子孫に限る規定部分は、公序良俗に反し無効か。)について

前記第2の1の(3)及び(4)のとおり、被告に関する諸会則のうち旧部落民会会則以外の会則は、いずれも、その規定上、被告の会員たる資格を本件土地払下げ当時の住民の男子孫に限定し、男女間において異なる取扱いをしている。

一般に、社団の構成員(会員)たる資格をどのように定めるかは、私的自治の原則により、その社団が自由に決定することができるものであるが、かかる自由はおよそ無制限なものではなく、その会員資格に関する定めにおいて、本件で問題とされているような性別のみを理由として異なった取扱いがなされている場合には、当該取扱いについて、これを正当化する合理的な理由が存しない限り、当該取扱いに関する定めは、法の下の平等、性別による差別禁止を規定する憲法14条1項、両性の平等を定める民法1条の2の趣旨に違反し、公序良俗に反するものとして、民法90条により無効となるといわなければならない。

そこで、以下、被告の会員資格に関し、上記のような男女間で異なった取扱いをすることについて、合理的な理由が認められるか否かを被告の主張に沿って検討する。

(1)  旧慣に基づくとの点について

ア 被告は、前記第2の2(1)の(被告の主張)アのとおり、被告に関する諸会則において正会員たる資格が本件土地払下げ当時の住民の男子孫に制限されているのは、A部落の旧慣に基づくものであり、当該規定部分は、かかる旧慣に基づく合理的な差別であって、不合理な差別と評されるものではない旨を主張する。

イ なるほど、入会権は、各地方の旧慣に従って管理、処分されるべきものであるところ(民法263条、294条)、前記のとおり、被告は、明治39年の本件土地払下げ当時の住民等の子孫で現にA区域内に住所を有し居住している者により構成される権利能力なき社団であり、旧慣による使用権(入会権)の設定されている公有財産及び個人名義で登記されている部落有地である本件土地の管理・処分等を活動の目的とするものであるから、被告がA部落の旧慣に基づいてその会則を定め、本件土地の管理・処分等を行うことには相応の合理性が認められるというべきである。

ウ そして、前記第2の1の事実、証拠(乙3、8、証人乙)及び弁論の全趣旨によれば、<1>被告に関する諸会則においては、旧部落民会会則を除き、各会則とも一致して正会員たる資格を本件土地払下げ当時の住民の男子孫に限定する規定が存すること、<2>女子孫に正会員の資格又は正会員に準ずる地位が認められるのは、男子孫の後継者がない場合で女子孫がその後継的状態にある場合又は一定年齢(50歳)を超えて独立世帯である場合としていること、<3>男子孫についても、各会則とも一致して世帯を基準として正会員の資格又は正会員に準ずる地位を認める規定が存すること(共有権者会会則6条2項、7条1項、入会権者会会則6条2項、7条1項、旧部落民会会則5条2項・4項、6条1項、前会則及び現行会則各6条2項、同7条1項、現行会則48条)、<4>共有権者会会則及び入会権者会会則においては、男子会員が死亡、又は別居したときは、その妻又は男子孫のいずれかが後継会員となる旨の規定が存すること(同各会則8条1項)、<5>現行会則においては、他の被告に関する諸会則に規定されているような男子孫の後継者がない場合についての規定は存しないが、被告は、成熟した男子孫の後継者がない場合には、同会則1条の「その家の代表者」として死亡した男子会員の妻に正会員としての地位を認める取扱いをしていることが認められる。

上記認定事実によると、A部落(A区域)においては、本件入会権について、基本的には男性を中心とする「家(世帯)」単位に帰属するものとして取り扱う旧慣が存するものと認められ、かかる旧慣が存するという限度では、一応被告の主張に符合する。そうすると、かかる旧慣に従って、被告の会員資格を本件土地払下げ当時の住民の男子孫に限定する規定が設けられたとの被告の主張もあながち否定できるものではない。

エ しかしながら、被告の会員たる資格を本件土地払下げ当時の住民の男子孫にのみ限定する規定部分が本件で問題とされるのは、男子孫であるという性別以外の要件をすべて満たす者であっても、その者が女子孫、すなわち女性であるが故に会員たる資格から除外される結果となるからにほかならず、当該規定部分は、専ら女性であるという性別のみを理由として、正会員たる資格について女性を排除して男性と異なる取扱いをするものといわざるを得ない。

それゆえ、当該規定部分が被告の主張するような「入会権の帰属する主体を家の家長とする」とのA部落の旧慣に従って定められたものであると解したとしても、そもそも、そのような旧慣自体が「入会権の帰属主体とされる家の家長は、男性である」との旧慣を前提とするものであって、合理的な理由なく女性を男性と差別するものであるから、結局、当該規定部分は、男性が入会権の帰属する主体である家の家長として扱われることを前提とし、男性を家の中心的存在として扱う一方で、女性が入会権の帰属する主体としての家の家長として扱われることを原則として否定するものにほかならず、女性を女性であるが故に合理的な理由なく男性と差別する規定であるといわざるを得ない。

オ したがって、被告が、旧慣が存在することをもって、当該規定部分の合理性を主張することは失当というべきであり、採用することができない。

(2)  女性にも一定の措置を講じているとの点について

ア 被告は、前記第2の2(1)の(被告の主張)イのとおり、女子孫にも一定要件の下で会員たる資格を認めており、また、一定条件を満たした女子孫に対し入会補償を支給する規定も設けられているから、不合理な差別ということはできない旨を主張する。

イ この点、前記第2の1(4)の事実、証拠(乙7、証人乙)及び弁論の全趣旨によれば、<1>共有権者会会則及び入会権者会会則において女性についての会員たる資格の代行権の制度が、前会則において女性についての代行会員及び特例会員の制度がそれぞれ規定され、女性にも一定の要件の下において会員の代行権又は会員と同等の権利が与えられていたこと、<2>被告においては、現行会則上女子孫に会員資格を認める直接の規定は存しないものの、現行会則1条の「その家の代表者」の解釈として、会員である男子孫が死亡した場合には、死亡した男子孫の配偶者に会員たる資格を認める取扱いをしていること、<3>現行会則48条の規定によれば、女子孫は被告の会員としては扱われないものの、一定の要件の下、入会補償の支給を受けることができること、<4>現在、被告において実際に正会員として認められている女性の人数は約80名程度(全正会員数は約450名程度)であり、また、現行会則48条の規定に基づく入会補償の支給を受けている女性は約50名程度であることが認められる。

しかしながら、他方、前掲証拠及び弁論の全趣旨によると、<5>前会則における代行会員や特例会員の制度は、いずれも男子孫に会員たる資格が与えられることを前提として、会員である男子孫の配偶者や当該男子孫の女子孫が、一時的、例外的、かつ限定的に男子孫の会員たる資格を承継するというものにすぎないこと、<6>被告が現行会則1条の「その家の代表者」の解釈として、一部の女子孫及び女性について認めている会員たる資格要件及びその内容は、基本的には、上記の代行会員、特例会員と実際上同様のものにすぎないこと(すなわち、正会員たる資格を有する者の子孫でも女性である場合には、前会則の特例会員のような要件を満たさない限り、被告の正会員たる資格を認められないが、他方において、正会員たる資格を有する者の男子孫の配偶者である女性については、その女性自身が正会員たる資格を有する者の子孫ではなくても、その夫である男子孫が死亡したときには、一定の要件の下で死亡した夫である男子孫の正会員たる資格を承継することができる。)、<7>現行会則48条の規定により行われている入会補償の支給は、準会員と同等の内容のものにすぎないことが認められる。

ウ これらの事実に照らすと、被告においては、合併前の時期も含めて、女子孫にも一定要件の下で会員たる資格を認め、また、一定条件を満たした女子孫に対し入会補償を支給するなどして、本件土地払下げ当時の住民の女子孫に対し一定の措置を講じてはいるものの、当該措置の要件及び内容は、相当程度限定的なものであって、かかる措置が講じられているからといって、直ちに、本件土地払下げ当時の住民の子孫であるが故に当然に正会員たる資格を認められる男子孫との取扱いの差異を補完し得るものではない。

すなわち、被告が講じている前記措置によっても、被告の正会員となっている男性と、地縁関係、血縁関係において同じ条件下にある女性が、補償金の支給を全く受けられず、あるいは受けられるとしても、上記男性と異なった限定的要件が付されている事実は、解消されるに至っていない。

エ したがって、女子孫に前記一定の措置を講じていることをもって、被告の正会員たる資格を本件土地払下げ当時の住民の男子孫に限定し、女子孫を区別して取り扱うことを正当化することはできないというべきであるから、この点に関する被告の主張も、採用することはできない。

(3)  原告らがA部落民以外の者と婚姻していることについて

被告は、旧慣によれば、本件入会権は家を単位としてその家長に帰属するものであり、他部落出身者と婚姻した原告らには、被告の会員たる資格が認められない旨を主張する。

しかしながら、被告の主張する旧慣自体、前記(2)アのとおり、合理的な理由なく、女性を男性と差別するものであり、実際上、本件土地払下げ当時の住民の男子孫が他部落出身者と婚姻しても何ら会員資格を失うことはないのに、女子孫のみ他部落出身者と婚姻したというだけで、会員資格を有しないという取扱いをすることに、およそ合理的な理由は認められず、女性をその性別のみを理由として差別するものというほかない。

したがって、かかる不合理な差別を前提とする被告の主張は失当であり、採用することはできない。

(4)  以上によれば、被告に関する諸会則の規定のうち、被告の正会員たる資格を本件土地払下げ当時の住民の男子孫に限定する部分は、女子孫に対し、合理的な理由なく男子孫と異なる取扱いをするものであり、専ら性別のみによる不合理な差別を規定したものといわざるを得ず、したがって、両性の平等を規定する憲法14条1項及び民法1条の2の趣旨に反し、男女間の平等的取扱いという公序に違反するものであるから、民法90条により無効というべきである。

2  争点(2)(原告らは、被告の承諾を得たり、あるいは加入申込手続をすることなく、被告の会員たる地位を認められるか。)について

(1)  被告は、権利能力なき社団の構成員たる地位については、その社団の設立行為への参加若しくはその後の入会契約の締結により取得されるものであり、被告がいかなる者について会員資格を認めるか(入会契約を締結する相手方を誰とするか)は、契約自由の原則により、被告が自由に定めることができるものであるから、原告らにおいて、会員たる資格を男子孫に限っている被告に関する諸会則の規定の合理性、無効性を争う余地はない。また、仮に原告らが被告の会員たる資格を有するものとしても、原告らは、本件訴えの提起前に、被告に関する諸会則に規定する加入申込手続を履践していないのであるから、既に会員たる地位を取得していることを前提として、直接に、被告の会員たる地位の確認を求めたり、補償金の支払を求めることはできない旨主張する。

(2)ア  そこで検討するに、一般的には、社団の構成員たる地位を取得するためには、設立行為への参加又は当該社団との入会契約が必要であると解されるが、私法上の団体、とりわけ権利能力なき社団においては、その団体の組織、内容等の点で様々なものがあり、いかなる者が当該社団の構成員となるかについては、入会契約の要否の点も含めて、当該社団の性格、成り立ち、従前の構成員の決定の仕方等、その実態に即して判断する必要がある。

イ  被告は、前記第2の1(1)及び(2)のとおり、近代法治国家成立以前から「杣山」として入会使用されてきた本件土地の管理処分等を目的として、明治39年の本件土地払下げ当時のA部落民で本件土地の使用収益権(本件入会権)を有していた者(本件土地払下げ当時の住民)を基準とし、その者からその権利を承継した者らにより組織された入会団体(権利能力なき社団)であって、その成立過程に照らしても、社団の目的や構成員において、極めて血縁的、地縁的要素が強い団体であるといえる。被告の現行会則をみても、前記第2の1(3)のとおり、その規定上は、被告の正会員たる資格要件として、男子孫であるという性別要件を除けば、<1>本件土地払下げ当時のA部落民でその使用収益権を有していた者の子孫であること(血縁的要件)、<2>現にA区域内に住所を有し居住している者であること(地縁的要件)という要件以外には格別の資格要件は定められていない(同会則5条)。また、証拠(乙8、9、証人乙)及び弁論の全趣旨によれば、被告においては、被告の会員たる資格を認めるに当たり、被告に関する諸会則に規定されている加入手続(入会申請書の提出及びこれに対する役員会における審査)が必要とされ、実際にも、申請者からの入会申請書の提出及びこれに対する役員会における資格調査が実施されているものと認められるものの、その内容は、現行会則に規定する会員たる資格要件に該当するかどうかといういわば形式的な要件を審査するものにすぎず、それ以上に実質的な要件(例えば、構成員としての能力、資力等)を審査するものではないこと、証人乙が理事に就任した平成12年5月以降、入会申請を認めなかった事例は、現行会則5条の会員たる資格要件に該当しなかった者が申請した1例のみで、同条の要件を充足するにもかかわらず、会員たる資格を認めなかった事例はないことが認められる。

これらの事実等によれば、結局、被告の会員として本件入会権を有する者であるかどうかは、結局、男性であるという要件を除けば、<1>本件土地払下げ当時のA部落民でその使用収益権を有していた者の子孫であるかどうかという血縁関係と、<2>現にA区域内に住所を有し居住しているかどうかという地縁関係があるかどうかにより決せられることになるということができ、被告の会員となるためには、このような血縁関係及び地縁関係の要件を充足することが必要不可欠であり、かつ、それで十分である。

そうすると、被告における入会の申請及びこれに対する役員会の審査といった入会手続も、前記の血縁関係及び地縁関係という会員たる資格要件に該当するかどうかを形式的に審査するためのものにすぎず、被告の会員(構成員)となるためには、いわゆる意思表示の合致としての申込み及びこれに対する承諾といった契約を必要とするものと解することは相当でない。

すなわち、男性であるという性別要件を除いて考えると、前記血縁的要件及び地縁的要件を充足する者であれば、当然に被告の会員たる地位を取得すると解するべきである。

ウ  したがって、男子孫であるという点を除く前記血縁的要件及び地縁的要件の各要件を充足する原告らは、被告に関する諸会則において、男子孫であるとの性別を被告正会員の要件として規定する部分が無効であるならば、被告の正会員たる資格要件を充足し、当然に被告の正会員たる地位を有する者に該当することになるから、被告の正会員たる資格を男子孫に限定する当該規定部分が無効である旨を主張して、被告の会員たる地位を有することを直接に確認することができ、併せて、被告の正会員たる地位に基づいて、本来支給されるべきであった補償金の支払を被告に対し求めることができるというべきである。

(3)  よって、この点に関する被告の前記主張は採用することができない。

3  なお、乙5号証によると、平成12年に合併する前の旧部落民会会則では、旧A部落民会の正会員たる資格を男子孫のみに限るような規定は見当たらないが、旧A部落民会と同時期に併存しているA入会権者会ないしA共有権者会においては、前記のとおり正会員たる資格を男子孫のみに限る会則が存することや、旧A部落民会において原告らが正会員として補償金の支払を受けていたような形跡が本件証拠上窺えないこと(原告甲も、代行会員として補償金配分を受けていたものである。)に鑑みると、旧A部落民会でも、実際は会員資格を男子孫のみに限る取扱いが行われていたものと推認することができる。

第4結論

以上の次第で、原告らの本訴請求は、いずれも理由があるから、これらを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を、仮執行の宣言につき同法259条1項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西井和徒 裁判官 松本明敏 裁判官 岩崎慎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例