大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

那覇地方裁判所 平成14年(ワ)191号 判決 2003年1月21日

原告

糸満市

同代表者市長

山里朝盛

同訴訟代理人弁護士

上原義信

大城浩

同指定代理人

山川國正

上原裕常

城間正彦

宮城行雄

玉城寿男

被告

豊見城市

同代表者市長

金城豊明

同訴訟代理人弁護士

比嘉一清

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

1  当事者間に争いがない事実、〔証拠略〕によれば、次の事実が認められる。

(1)  原・被告(当時は豊見城村)は、従前から共同してごみ処理業務を実施してきたが、ごみの増量に加え、既存のごみ処理施設が老朽化したため、新施設を原告の行政区画内(糸満市内)に建設することとなり、原・被告の事務レベルでの調整及び建設委員会等での協議を経た後、平成7年7月21日、原告の市長であった上原宜成と被告の村長(当時―以下同じ。)であった嘉数成勇は、本件覚書を取り交わした。

本件覚書には、「糸満市長上原宜成と豊見城村長嘉数成勇の両者間において、糸満市にごみ処理施設を建設する条件として、下記の事項に合意したので覚書に連署の上、各々壱通を保有する。」との前書の後、原告が主張するとおり、被告が原告に対し、平成8年から平成12年に毎年4000万円(総額2億円)を支払うものとするとの記載がある。

(2)  被告の村長は、本件覚書の締結を受けて、被告の議会に予算案を提案したが、被告の議会はこれを否決した。

(3)  被告の議会は、平成9年5月29日、本件におけるごみ処理施設建設に関し、被告が原告に対して1億6000万円を支払う旨の補正予算案を可決した。そして、被告は、原告に対し、平成9年から平成12年までの間に、合計1億6000万円を支払った。

2(1)  以上の認定事実を前提に請求原因(1)アについて判断するに、なるほど原告の市長と被告の村長との間で、原告が主張するとおりの内容の本件覚書が交わされてはいるが、本件覚書と同一内容の契約を締結することは、地方自治法232条の3の「普通地方公共団体の支出の原因となるべき契約(支出負担行為)」として、「予算の定めるところに従い」なすことを要するものである(なお、同法214条は、「歳出予算の金額、継続費の総額又は繰越明許費の金額の範囲内におけるものを除くほか、普通地方公共団体が債務を負担する行為をするには、予算で債務負担行為として定めておかなければならない。」と規定している。)から、原告の市長及び被告の村長には上記契約を締結する権限が当然にはなく、これを締結するためには、双方の議会の決議を経る必要があることは明らかである。そして、本件覚書と同一内容の契約締結が、被告の村長の専決処分権限の範囲外の行為であることは弁論の全趣旨により認められる。

そして、上記認定の事務レベル協議から本件覚書の締結に至る経緯からしても、このことは、原告の市長及び被告の村長のみならず、これに関与した者の間において当然に知悉していた事柄であると認められるから(本件覚書自体にも「原告の市長と被告の村長との間で合意した」旨記載されているに留まる。)、本件覚書の締結をもって、原・被告間において本件契約が締結されたと評価することはできず、いまだ契約締結に向けての準備段階にすぎなかったというほかはない。

なお、〔証拠略〕によれば、糸満市と豊見城村との間では昭和55年に「し尿処理施設にかかる条件等に関する覚書」と題する書面が糸満市長と豊見城村長との間に取り交わされ、この覚書に基づいて契約書の作成もないまま豊見城村から糸満市に金銭の支払がされてきた経過があったことが窺われるが、昭和55年当時にそのような取り扱いがされていたとしても、既に、担当者、自治体の長とも交替しているはずであって、当然に本件当時も地方自治法に反する取り扱いを原告や被告の関係当事者が是認していたということにはならない。

したがって、本件契約の締結を前提とする原告の主張は理由がないことに帰する。

(2)  そうすると、その余の点を判断するまでもなく、原告の請求は理由がないが、なお、念のため、被告の議会の議決の効力について判断するに、被告の議会が本件覚書にかかる支払いを1億6000万円に減額する議決をしたことは原告の自認するところであるが、以下のとおり、これを根拠として、被告に金銭の支払い義務が生じるとみることはできない。すなわち、

ア  原告は、被告の議会は、執行機関たる長の契約締結行為については、単に同意するか否かの権限しか有しないと主張する。

しかし、地方自治法上、原告の主張を根拠づける条項は見あたらない。支出を原因行為の過程、段階で統制し、予算の計画的かつ適正な執行を図るという地方自治法232条の3及び同法214条の制度趣旨からすれば、被告の村長が原告の市長との間で本件覚書を取り交わしたからといって、被告の議会に本件覚書と同一内容の契約を締結するための予算案を可決すべき義務が生じるとは到底考えられないし、もとより、減額して可決したからといって全部について可決した時と同様に評価して、被告の村長に本件覚書と同一内容の契約を原告と締結する権限を与えたものということもできない。

イ  また、原告は、信義則上、議会には地方公共団体の意向を無視した形で契約内容を変更する権限はない旨主張するが、そのような信義則の存在は、認められない。しかも、本件契約の締結には被告の議会による議決が必要であり、被告の議会が独自の立場で本件契約の締結について議決することができることは、原告も了解すべき事柄であることはいうまでもないから、いずれにしても、信義則を根拠として被告の議会が本件覚書にかかる支払いを追認する議決をしたとみることはできない。

ウ  さらに、本件覚書に基づいて堤案された予算案の一部についてのみ被告の議会は可決し、その範囲で被告が原告に金銭の支払いをした点についてであるが、被告の村長は、本来、かかる議決を受けて、原告と、交渉をするなどして原告と調整を図る必要があったものである。したがって、それをしないままに可決された予算の範囲内で支出し続けたからといって、被告の議会が被告の村長に本件覚書と同一内容の契約を原告と締結する権限を与えたとみることができないことは明らかであるから、被告の議会が本件覚書にかかる支払いを追認したということもできない。

3  よって、本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 綿引穣 裁判官 鈴木博 髙松みどり)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例