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那覇地方裁判所 平成14年(ワ)198号 判決 2003年7月08日

主文

1  被告は,原告に対し,69万3000円及びこれに対する平成13年3月13日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用はこれを20分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。

4  この判決は,第1項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第1  請求

被告は原告に対し,1658万6325円及びこれに対する平成13年3月13日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。

第2  事案の概要

本件は,不動産の売主である被告との間で専任媒介契約を締結し,不動産売買の仲介をした原告が,被告に対し,不動産売買契約を成立させたにもかかわらず,約定の報酬を支払わないとして,専任媒介契約に基づき,1658万6325円及びこれに対する約定代金精算日の翌日である平成13年3月13日から支払済みまで商事法定利率年6%の割合による遅延損害金の支払を求めるものである。

1  前提となる事実(証拠掲記のない事実は争いがない。)

(1)  原告と被告は,平成12年11月9日,被告を依頼者,宅地建物取引業者(以下「宅建業者」という。)である原告を受任者として,別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)の売買について,以下の内容の専任媒介契約(以下「本件媒介契約」という。)を締結した。

ア 本件媒介契約の有効期間は,平成13年2月10日までとする。

イ 約定報酬額は,本件土地売買代金の3%に6万円を加えた額と消費税5%を合計した額とする。

ウ 約定報酬額の支払期日は,残代金精算時,すなわち平成13年3月12日とし,同日に一括して支払う。

(2)  被告と有限会社ヘルスサポート(以下「ヘルスサポート」という。)は,平成13年2月8日,本件土地につき,次の内容で売買契約を締結した(以下「本件売買契約」という。)。

ア 本件土地代金総額は5億2455万円とする。

イ 代金精算日は,同年3月12日とする。

(3)  本件売買契約における手付金は2000万円であり,被告は,同年2月8日,ヘルスサポートから上記手付金を受領した(乙2)。

(4)  被告とヘルスサポートとの間で締結された本件売買契約は,平成13年3月11日,ヘルスサポートの手付金放棄により解除された(解除の日付につき乙4)。

2  争点及び争点に対する当事者の主張

本件の争点は,不動産売買契約が手付金放棄により解約された場合の,仲介者の報酬請求権の存否及び報酬相当額である。

(原告の主張)

原告の媒介により,被告と第三者間に不動産売買契約が締結されれば,被告は委任者として,原告に対し,報酬支払義務がある。同売買契約が履行され,被告が実質的な利益を得たか否かで,原告の被告に対する報酬請求権の発生について,消長を来すものではない。したがって,受任事務処理後,原告の責めに帰することのできない事由によって,売買契約が不履行になったからといって,委任事務処理による報酬請求権が消滅することはない。

原告は被告に対して,被告とヘルスサポートの不動産売買契約の締結により,次のとおり,1658万6325円の媒介報酬請求権を取得した。

売買代金総額5億2455万円×3%+6万円

+消費税78万9825円

なお,被告は,解除条件付売買と本件との類似性を主張するが,手付放棄による解除と解除条件付売買を同一視することはできない。

(被告の主張)

(1) ヘルスサポートは,本件売買契約締結後,残代金を支払うことが不可能となり,代金精算日の前日に,原告にその旨伝えた。その後,ヘルスサポートは,原告を通じて,被告に対し,売買代金額から6000万円減額するよう要求してきた。その際,原告は被告に対し,売買代金を減額したらどうかと提案したが,被告としては,6000万円の減額要求に応じる義務はないので,原告に対し,減額要求に応じられないと回答した。このように,原告は,ヘルスサポートの要求に応じるよう被告を説得しており,原告自身,本件売買契約が最終的な締結に至っていないことを認識していたことは明らかである。

(2) 本件媒介契約には,不動産売買契約が手付金の放棄によって解除された場合の報酬に関する定めが全くなされていない。通常不動産売買契約において,買主から売主に対し,手付金が交付されることは原告自身熟知しているところである。そうすると,買主側から手付放棄による契約解除が行われる可能性についても予想し得たはずであり,当然,それに備えて特約条項を入れておくべきであった。原告は,宅建業者として不動産売買に精通しており,報酬に関する特約不存在の不利益は原告に帰すべきである。(最高裁昭和45年2月26日判決・判例時報587号28頁参照)

(3) また,本件媒介契約9条2項では,「目的物件の売買又は交換の契約が,代金又は交換差金についての融資の不成立を解除条件として締結された後,融資の不成立が確定した場合,または融資が不成立のときは甲が契約を解除できるものとして締結された後,融資の不成立が確定し,これを理由として甲が契約を解除した場合は,乙は,甲に,受領した約定報酬の全額を遅滞なく返還しなければなりません。」と規定されている。これは解除条件が成就した場合,契約は無効となり,報酬請求権は発生しないことを規定したものである。そして,条件が将来成就するかどうかは不確定であるから,条件成就によって不利益を受ける者は,条件が成就した場合の不利益を考慮に入れつつ,契約締結に至るはずである。

とするならば,手付の授受に伴う不動産売買契約の媒介契約においても,将来,買主が手付金を放棄することで契約を解除するかどうかは不確定であり,解除条件付売買の場合と何ら差異はない。不動産の売主と専任媒介契約を締結しようとする者は,将来,買主が手付金を放棄する可能性を十分考慮に入れているはずであり,買主の手付金放棄による不利益についても,解除条件付売買同様,受忍しなければならないはずである。

第3  当裁判所の判断

1  宅建業者の受け取るべき報酬額については,特約がない場合,取引額,媒介の難易,期間,労力その他諸般の事情を斟酌して定められる(最高裁判所昭和43年8月20日第三小法廷判決・民集22巻8号1677頁)が,一般に仲介による報酬金は,売買契約が成立し,その履行がなされ,取引の目的が達成された場合について定められているものと解するのが相当である(最高裁判所昭和49年11月14日第一小法廷判決・裁判集民事113号211頁参照)。

これに対し,本件のように不動産売買契約がいったん成立した後,買主側から手付金の放棄により解除された場合には,不動産の売主の側からみて,売買取引の履行により取引の目的が完全に達成されたといえないことは明らかである。

しかしながら,他方,不動産の売主は,買主が手付金放棄をしたことにより,既に受領済みの手付金相当の利益は取得しているのであり,その限度では,代金の取得という売買契約の目的を一部達成したとみる余地がある。この場合までも,売主側の仲介業者に,何らの報酬請求権も生じる余地がないとするのは,売買契約締結に向けて尽力した仲介業者と,売買契約により一定限度とはいえ利益を得た売主との衡平を失するものであり,妥当とはいい難い。

したがって,買主からの手付金放棄により不動産売買契約が解除された場合,仲介報酬に関する特約がないときは,売主側の仲介業者において,売主が受領した手付金の金額を基準に,売主に対し報酬を請求できると解するのが相当である。

2  本件媒介契約においては,前記第2の1(1)イのとおり,約定報酬額は,本件土地売買代金の3%に6万円を加えた額と消費税5%を合計した額とする旨の約定がある。しかも,同ウのとおり,約定報酬額の支払期日は,残代金精算時とされており,売主が現実の利益(代金)を受領した後,仲介業者に報酬を支払うこととなっている。このことは,原告と被告が締結した本件媒介契約において,前記1の考え方を採用する裏付けとなり得るものである。

そこで,本件で被告が手付金として現実に取得した2000万円を,上記約定報酬額の定めの土地売買代金に該当するものとして計算すると,原告が仲介報酬として請求し得るのは,69万3000円となる。

(2000万円×3%+6万円)×(1+0.05)

=69万3000円

3  なお,前記1,2の点について,原告代表者は,その陳述書(甲4)において,手付金の金額自体が被告の要請によって低額に設定されたこと,本件売買契約が解除されるに至った原因は,ヘルスサポートからの代金減額の申し出に対し,被告がこれを拒否したことにあること,被告は,本件売買契約解除後,本件土地を第三者に売却したことなどをるる指摘し,原告代表者尋問においても同旨の供述をするが,これらの事情は,いずれも,原告の報酬相当額に関する前記判断を左右するものではない。

第4  結論

以上の次第で,原告の被告に対する本件請求は,69万3000円及びこれに対する平成13年3月13日から支払済みまで商事法定利率である年6%の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がないこととなる。

よって,主文のとおり判決する。

別紙物件目録<省略>

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