那覇地方裁判所 平成14年(行ウ)10号 判決 2003年12月24日
原告
有限会社A
代表者代表取締役
甲
訴訟代理人弁護士
新垣勉
訴訟復代理人弁護士
阿波根昌秀
同
村上尚子
被告
沖縄税務署長 具志堅淳二
指定代理人
菅野俊明
同
上野英二
同
福山命
同
白川達士
同
仲村朝安
同
照喜名志乃
同
藤井典明
同
我那覇隆
同
高嶺淳
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求の趣旨
被告が平成11年12月24日付けでなした、原告の平成8年8月1日から平成9年7月31日までの事業年度について、原告が平成10年4月23日付けで申告した修正申告額の所得金額1097万2511円、法人税額335万3200円を超える部分の法人税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び重加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい、これと「本件更正処分」を併せて「本件更正処分等」という。)は、いずれもこれを取り消す。
第2事案の概要
本件は、原告の平成8年8月1日から平成9年7月31日までの事業年度(以下(本件事業年度」という。)の法人税について、原告が有限会社B(以下「B」という。)に支払った2904万6000円を損金である外注費として申告したところ、被告が、当該支出のうち消費税額を差し引いた2820万円(以下「本件金員」という。)は交際費等と認定すべきであり所得金額等の計算に誤りがあるとして、本件更正処分等を行ったため、原告が被告に対し、本件更正処分等の取消しを求めたものである。
1 前提事実(証拠掲記のないものは争いがない。)
(1) K小学校改造防音工事(以下「本件防音工事」という。)の経緯
ア K町教育委員会は、平成8年7月31日、K町工事請負業者指名委員会に対し、本件防音工事に係る請負業者指名審査の依頼を行った。
イ 同指名委員会は、平成8年8月6日の審査結果に基づき、K町に指名業者審査の報告を行った。その際、本件防音工事の指名業者としてAグループ10社、Bグループ10社が報告され、原告及びBはともにAグループに、有限会社C(以下「C」という。)はBグループにそれぞれランク付けされていた。
ウ K町は、平成8年9月5日、上記イにより報告された全指名業者に対し、指名競争入札参加に関する通知書を送付した。当該通知を受け取った指名業者は、K町に出向いて指名通知書に署名、押印を行い、現場説明資料等の配付を受けた。なお、指名業者が入札に参加するためには、Aグループ業者1社とBグループ業者1社の2社を1組とする組み合わせによる建設共同企業体(以下「JV」という。)を構成し、共同企業体協定書を作成することが条件とされていたところ、各指名業者は、指名通知書に署名等を行う時点において、今回指名を受けた他の指名業者及びその所属グループを確認することができた。
エ K町教育委員会は、平成8年9月13日、前記各指名業者に対し、仕様書図面説明及び現場説明を実施し、その際、K町役場が作成した指名競争参加資格申請書及び共同企業体協定書を配付した。なお、当該共同企業体協定書には、Aグループ法人の利益金の配当割合は60%、Bグループ法人の利益金の配当割合は40%と明記されていた。
オ その後、平成8年9月20日ころまでに、指名業者から、指名競争参加資格申請書及び共同企業体協定書が提出され、そのころ、指名競争参加資格申請書の審査が行われた。
カ 平成8年9月24日、本件防音工事の入札が実施され、原告とCとの2社で構成するJV(以下「原告らJV」という。)が、予定価格以下で落札した。なお、原告らJV以外の他の9つのJVの入札価格は、すべて予定価格を超過していた。
キ K町と原告らJVは、平成8年9月25日、本件防音工事の請負契約(以下「本件請負契約」という。)を締結した。本件請負契約に係る建設工事請負契約書(以下「本件請負契約書」という。)に記載された契約の主たる内容は、次のとおりである(契約内容につき甲6)。
(ア) 工事名 K小学校改造防音工事
(イ) 工期 平成8年9月25日から平成9年6月30日
(ウ) 請負代金額 3億2033万円(うち消費税額933万円)
(エ) 契約保証金 961万円
ク 平成8年9月27日、K町議会において本件請負契約締結の承認が得られた後、同年10月1日付けで原告らJVに対し原案可決通知書が通知され、また、同日、原告らJVは、K町に対し着手届を提出した。
ケ 原告らJVは、平成9年6月30日、K町に対し竣工届を提出し、同年7月8日、K町から工事検査合格通知書を受領した。
コ 原告は、原告らJV決算書による利益金から原告への配当金として分配された5809万2000円のうち、2904万6000円をBに支払った。
(2) 本件更正処分等の経緯
ア 原告は、被告に対し、本件事業年度の法人税につき、法定申告期限内である平成9年9月30日、別表1の「確定申告」欄記載のとおり青色の確定申告書を提出した。その後、原告は、被告の指摘を受けて、平成10年4月23日、別表1の「修正申告」欄記載のとおり法人税の修正申告書を提出した。その際、原告は、原告らJVから分配された利益配当金のうち、Bに支払った2904万6000円を外注費として損金計上して申告した。
イ 被告は、原告に対し、平成11年12月24日、別表1の「更正処分等」欄記載のとおり本件更正処分等を行った。
(3) 本件更正処分等の内容
ア 本件更正処分等の計算
被告が行った本件更正処分等の計算の理由及び内容は次のとおりである。
(ア) 本件更正処分について
a 修正申告所得金額 1097万2511円
原告が修正申告書において申告した所得金額は、1097万2511円である。なお、修正申告の内容は、別表2の「修正申告」欄記載のとおりである。
b 修正申告所得金額への加算金額 2757万1986円
(a) 原告は資本金額が2400万円の法人であるところ、本件事業年度当時の租税特別措置法(以下「措置法」という。)61条の4第1項2号では、交際費等の損金不算入について、法人が昭和57年4月1日から平成11年3月31日までの間に開始する各事業年度において支出する交際費等の額のうち、法人の当該事業年度終了の日における資本又は出資の金額が1000万円を超え、かつ、5000万円以下である場合には、<1>当該交際費等の額のうち300万円に当該事業年度の月数を乗じてこれを12で除して計算した金額(300万円定額控除限度額)に達するまでの金額の100分の10に相当する金額及び<2>当該交際費等の額が300万円定額控除限度額を超える場合におけるその超える部分の金額の合計額を、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない旨規定されていた。そのため、原告が支出する交際費等の額につき、上記<1>、<2>の合計額は、損金に算入できないものであった。
(b) 原告は、本件事業年度において230万2207円の交際費等を支出したとして確定申告をし、前記(a)の規定に基づき23万0221円を損金不算入として所得金額に加算している(修正申告においても変更はない。)。
(c) しかし、原告が本件事業年度においてBに対する外注費として損金に計上した2904万6000円のうち、消費税額を差し引いた2820万円(本件金員)は交際費等に該当する。
(d) 原告が申告した交際費等の額230万2207円に本件金員を含めて、前記(a)<1><2>による損金不算入に関する計算を行うと、本件事業年度における交際費等の損金不算入額は、次のとおり2780万2207円となる。
300万円×10÷100=30万円
(230万2207円+2820万円)-300万円=2750万2207円
30万円+2750万2207円=2780万2207円
(e) 上記計算に基づく2780万2207円と、原告の確定申告における交際費等の損金不算入額である23万0221円との差額である2757万1986円が交際費等の損金不算入額として修正申告所得金額に加算されることになる。
c 更正処分による所得金額 3854万4497円
原告の所得金額は、前記aの修正申告の所得金額1097万2511円に、前記b(e)の交際費等の損金不算入額2757万1986円を加算した3854万4497円となる。
d 法人税の額 1369万4000円
本件事業年度当時の法人税法66条に基づき、前記cの所得金額に対する法人税の額を計算すると、所得金額3854万4000円(国税通則法(以下「通則法」という。)118条1項により1000円未満の端数を切り捨てたもの。以下、本計算では同じ。)のうち、800万円以下の金額に対して100分の28の税率を乗じて計算した金額224万円と、所得金額3854万4000円から800万円を差し引いた残額3054万4000円に100分の37.5の税率を乗じて計算した金額1145万4000円との合計額1369万4000円となる。
e 所得税額の控除額 1211円
法人税法68条では、法人が各事業年度において所得税法174条により源泉徴収された利子又は配当等に係る所得税の額は、当該事業年度の法人税の額から控除することとなっているところ、原告が本件事業年度において源泉徴収された利子又は配当等に係る所得税の額は1211円であるから、これを上記dの法人税の額から控除する。
f 更正処分により納付すべき法人税額 1033万9500円
上記dの法人税の額1369万4000円から上記eの所得税の控除額1211円を差し引いた金額1369万2700円(通則法119条1項により、100円未満の端数を切り捨てたもの。)から、修正申告における差引所得に対する法人税額335万3200円(別表1の「修正申告」欄の「差引法人税額」)を差し引いた金額である1033万9500円が、更正処分により納付すべき法人税額となる。
(イ) 本件賦課決定処分について
通則法68条1項では、期限内申告が提出された後に更正があったときは、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の基礎となるべき税額に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定されているところ、原告には、同条項に規定する「隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当する行為が認められる。そして、同条項に基づき重加算税の額を計算すると、前記(ア)fの更正処分により納付すべき法人税額1033万円(通則法118条3項により、1万円未満の端数を切り捨てたもの。)に、100分の35の割合を乗じて計算した金額である361万5500円となる。
イ 更正通知書の附記理由
被告は、本件更正処分に係る更正通知書(以下「本件更正通知書」という。)において、次の5点を挙げて、Bが本件防音工事のうちの機械室工事(以下「本件機械室工事」という。)を外注工事として施工した事実はなく、原告が同社に支払った2904万6000円(税込金額)は本件防音工事の受注に際して便宜を図ってもらった謝礼として支払ったものと認められるので、同金額から消費税額を差し引いた2820万円を交際費等に算入した旨更正処分の理由を附記している(甲8)。
(ア) 原告らJVの決算書中、外注費に計上されているのは、株式会社D(以下「D」という。)とCに係る外注費用のみであり、本件機械室工事に係る金額は含まれていない。
(イ) 原告がBに支払った2904万6000円は、原告らJVの決算書による利益9682万円のうち、原告の分配金5809万2000円を単純に折半して算出したものである。
(ウ) Bの帳簿には、本件機械室工事の工事代金2904万6000万円が完成工事高に計上されているものの、本件機械室工事に係る同社の工事原価が計上されていない。
(エ) Bの代表者が、本件機械室工事を一切行っていない旨述べている。
(オ) 原告らJVがK町に提出した本件防音工事の工事日誌に、Bが本件防音工事に従事したことを示す記載が一切ない。
(4) 本件訴訟に至る経緯
ア 原告は、平成12年2月25日、本件更正処分等を不服として、被告に対し異議申立てをしたが、被告は、同年5月23日、原告の異議申立てを棄却する決定をした。
イ 原告は、平成12年6月23日、被告のした前記異議決定を不服として、国税不服審判所長に対し審査請求をしたが、国税不服審判所長は、平成14年4月17日、原告の上記審査請求を棄却する裁決をした。
ウ 原告は、平成14年6月21日、上記裁決を経た後の本件更正処分等になお不服があるとして、本件訴訟を提起した。
2 争点
(1) 本件更正通知書に理由附記の不備の違法があるか。
(被告の主張)
ア 青色申告者に対する更正処分について、更正通知書に更正の理由を附記すべきことが要求されているのは、青色申告に係る所得の計算が法定の帳簿組織による正当な記載に基づくものである以上、その帳簿の記載を無視して更正されることがないことを納税者に保障したものであり、更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせることで不服申立ての便宜を与える趣旨に出たものというべきである。したがって、帳簿書類の記載自体を否認して更正をする場合において更正通知書に附記すべき理由としては、単に更正に係る勘定科目とその金額を示すだけではなく、そのような更正をした根拠を帳簿記載以上に信憑力のある資料を摘示することによつて具体的に明示することを要するが、帳簿書類の記載自体を否認することなしに更正をする場合においては、当該更正は納税者による帳簿の記載を覆すものではないから、更正通知書記載の更正の理由が、そのような更正をした根拠について帳簿記載以上に信憑力のある資料を摘示するものでないとしても、更正の根拠を前記の更正処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という理由附記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示するものである限り、法の要求する更正理由の附記として欠けるところはない(最高裁判所昭和60年4月23日第三小法廷判決・民集39巻3号850頁)。
イ 上記アを本件に当てはめると以下のとおりとなる。
(ア) まず、被告は、原告が当期の損金(外注費)に計上した2904万6000円について、帳簿書類の記載自体を否認して更正するに当たり、本件更正通知書において、<1>原告らJVの決算書中に、本件機械室工事に係る外注費の記載がないこと、<2>原告が外注先であるBに支払った外注工事費は、原告らJVの決算書による原告の利益を単純に折半したにすぎないこと、<3>外注先であるBの帳簿には、上記外注工事に関する工事原価が計上されていないこと、<4>Bの代表取締役が上記外注工事を行っていないと述べていること、<5>原告らJVの工事日誌にBが工事に従事したことを示す記載がないことを摘示しており、これらはいずれも証拠に基づく認定を明示したものであるから、更正をした根拠を帳簿記載以上の信憑力のある資料を摘示することによって具体的に明示している。これによって、帳簿書類における外注費である旨の記載は否認されたといえる。
(イ) 次に、被告は、本件更正通知書において、外注費であることを否認した2904万6000円から消費税額を差し引いた金額について、「本件防音工事の受注に便宜を図ってもらった謝礼として交際費に算入した」旨理由を附記している。
このように外注費であることを否認した場合、他の費用として当てはまるものは交際費(措置法61条の4)及び寄付金(法人税法37条7項)のみであり、いずれと認定するかは対価性の有無に関する問題にすぎない。そして、Bが、原告らとは別のJVを組んで同じ入札に参加し、同入札で原告らJVに敗れた事情からみて、そのように認定したものである。
そして、当該判断が交際費か寄付金かの評価にすぎないこと、Bが原告らとは別のJVを組んで同じ入札に参加し原告らに敗れた事実が、原告に顕著であることからすると、上記認定の過程を詳細に明らかにする実益はない。
したがって、前記のとおり、「本件防音工事の受注に便宜を図ってもらった謝礼として交際費に算入した」旨の認定を記載すれば、更正処分庁の恣意抑制の目的及び不服申立ての便宜の目的を充足する程度に更正の理由を具体的に明示したものと認められる。
ウ もっとも、原告は、本件更正処分が、原告が帳簿記載した原告らJVからの収入自体を否認することなく、それを前提に外注費であることを否認し、「仮受金の支払」か否か判断することなく更正をしている点で、理由附記に不備があると主張するが、当該主張は、次に述べるとおり失当である。
すなわち、まず、原告らJVからの収入自体を否認することなく、原告が原告らJVからの収入として記載した金額を前提に収入判断した点については、原告自身において原告らJVからの配当金5809万2000円を原告の収入金額として帳簿書類に記載しており、被告はこの記載を否定して更正処分を行ったものではないから、更正の理由附記を必要としないことは当然である。また、外注費の否認に関しては、上記イ(イ)のとおり、更正の根拠を帳簿記載以上に信憑力のある資料を摘示することによって具体的に明示している。その上で、これを交際費と認定するか仮受金の支払と認定するかは、帳簿書類の記載自体を否認することなしに更正する場合に当たり、当該判断は評価の問題にすぎないこと、原告らJVからの配当金を認め仮受金として認定していない以上、仮受金の支払を認める余地がないこと、出金先であるBは、原告らとは別のJVを組んで同じ入札に参加し、原告らJVに敗れた事実は原告に顕著であることなどからすると、交際費として認定した過程を詳細に明らかにする実益はない。したがって、前記のとおり、「本件防音工事の受注に便宜を図ってもらった謝礼として交際費に算入した」旨の認定を記載すれば、更正処分庁の恣意抑制の目的及び不服申立ての便宜の目的を充足する程度に更正の理由を具体的に明示したものといえ、仮受金の支払であることを判断することなく更正をした点についても違法はない。
(原告の主張)
ア 本件更正通知書には、前記第2の1(3)イのとおり、一応5点の記載が存するものの、それらはいずれも、本件金員の支払が本件防音工事の受注に際して便宜を図ってもらった謝礼であると認定する理由になるものではない。被告は、本件通知書において、本件金員を「謝礼金」と認定して、本件更正処分をしているにもかかわらず、本件金員が「謝礼金」であることを示すその他の資料を何ら摘示していない。これは、法人税法130条2項が「更正通知書には理由を付記しなければならない。」と規定する趣旨に反するものである。本件更正処分の附記理由には、原告のBに対する支払金を謝礼金と認定しながら、具体的にその根拠を摘示していない不備があり、これは本件更正処分等の違法をもたらすものであるから、本件更正処分は取り消されるべきである。
イ 被告は、原告が帳簿に外注費として記載した2904万6000円を否認した上、当該金額について税法上他の費用として当てはまるものは交際費及び寄付金のみであり、いずれと認定するかは対価性の有無に関する問題にすぎないと主張する。
しかし、原告は、上記金員を費用と主張しているものではなく、仮受金(又は預り金)の支払(利益配当金の配分)であったと主張しているのである。ところが、本件更正処分は、原告が帳簿に記載した正規のJV(原告らJV)からの収入自体を否認することなく、それを前提に外注費であることを否認し、「仮受金の支払」と判断することなく更正をしている。この点、被告の引用する判例に基づいていえば、「外注費」を否認し「交際費」と認定した点については、「単に更正に係る勘定科目とその金額を示すだけでなく、そのような更正をした根拠を帳簿記載以上に信憑力のある資料を摘示することによって、具体的に明示することを要する」ものであり、また、原告が原告らJVからの収入として記載した金額を前提に収入判断をした点については、「更正の根拠を更正処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という理由附記制度の趣旨を充足する程度に具体的に明示する」ことが求められている。しかるに、前記のとおり、本件更正処分には、上記のような具体的な理由の摘示がないから、理由附記の不備が存する。
(2) 本件金員は交際費等に該当するか。
(被告の主張)
ア 措置法61条の4第3項では、交際費等とは、交際費、接待費、機密費その他の費用で、法人が、その得意先、仕入先その他の事業に関係のある者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出するものと規定している。そして、その要件は、第1に支出の相手方が事業に関係のある者であること、第2に支出の目的がかかる相手方に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のためであることというべきである。
本件において、本件金員の支出の相手方であるBは、原告と同様建設土木業を営む法人であり、かつ、本件防音工事における指名業者であることから、事業に関係のある者である。
また、本件防音工事は、当初から、原告らJVの共同事業として行ったものであり、Bについては、形式上本件防音工事のJVの構成員となっていないというだけではなく、実質的にも、本件防音工事に係る共同事業に参加していないものと認められる。したがって、原告らJVの競争相手として他のJVを結成して本件防音工事の入札に参加した業者であるBに対し支払った本件金員は、本件防音工事を施工した事実のない、事業に関係のある者に対する金員の支払であり、事業関係者間の親睦を密にして取引関係の円滑な進行を図る目的、すなわち交際目的で支出したものと認められ、措置法61条の4第3項に規定する事業に関係のある者に対する贈答に当たり、交際費等に該当する。
イ 原告は、本件防音工事に関し、いわゆる裏JVとして原告、C及びBの3社によるJV契約(以下、当該JVを「本件裏JV」といい、当該JV契約を「本件裏JV契約」という。)が有効に成立していたのであるから、たとえBが本件防音工事に実際に関与しなくても、本件裏JV契約に基づく利益配分を行うことは当然であり、本件金員の支払は「仮受金」の支払と認定されるべきである旨主張する。
しかし、仮に契約上Bも含めた3社の間で本件裏JV契約が有効に成立していたとしても、それはいわゆる「裏ペーパーJV」にすぎないのであるから、そのような裏ペーパーJVの当事者にすぎないBに対する本件金員の支払を、税法上の利益配分と認定することはできない。
すなわち、租税法は実質主義、実質所得者課税を基本的原則として採用しており、形式的、外形的事象のみに基づいて課税されることはない。裏JV契約であっても工事に関与した実体を件うものであれば、その実体に従った課税処分がなされるべきであるが、工事に関与しない裏JV契約、いわゆる裏ペーパーJV契約において工事に関与した会社と同様の取扱いがされることになれば、著しく公平を損なうこととなり相当でない。つまり、裏ペーパーJV契約においては、実際に原告らJVとして入札に参加していない会社(B)は、実体として工事に参加しておらず何らの負担を負わない上、契約の相手方(K町)に対し工事の責任を一切負担しないのであるから、そのような責任を負担する原告らJVを構成する会社と同列に扱うことは著しく公平を欠くこととなる。したがって、外形上、原告とBらの裏JV協定書に基づく利益配分が認められるとしても、実質主義の下においては、何らの責任を負担しない会社(B)に対する利益分配と認める理由は全くない。
そして、一般に、工事に係る支出が、税法上、交際費等に含まれるか否かについては、表面上の勘定科目のみにとらわれることなく、その支出の意図、目的等から総合的に判断されるべきところ、本件では、Bは、別の会社とJVを結成して原告らJVと同様に本件防音工事の入札に参加したにもかかわらず、その入札以前から原告との間で裏JVを結成するとの話し合いを進めていたこと、入札において、原告らJVに敗れて本件防音工事を受注できなかったこと、その後、Bが原告及びCとの間で本件裏JV契約を締結していたとしても、本件防音工事には関与せず、何らの責任を負担していないことなどからすれば、原告からBに支払われた外注費名目による本件金員の実体は談合金であり、いわゆる降り賃と認定するほかない。
ウ もっとも、原告は、Bが乙(以下「乙」という。)を技術員として派遣していたことなどから、本件裏JVは単なる裏ペーパーJVではなく、裏JVとしての実体もあったとも主張するようであるが、本件裏JVが、当初からBを工事に参加させないことが明示的に合意された裏ペーパーJVであったことは、Cの申入れにより、JV工事において最も重要な意思決定機関である運営委員会や作業所委員会の各構成員からBを排除したことからも明らかである。
また、原告の主張でも、乙は、およそ9か月間の工期のうち工事着手日前後の多くても10日程度しか工事に関与しておらず、内容的には、工程表作成、プレハブ工事見積り打合せ、書類作成打合せ程度の関与にとどまること、乙の活動は他の現場の比重が大きく、本件裏JVへの関与は片手間に行われていた印象が強いことなどからすると、Bが現場において有益な活動をしていたとは到底認められない。
なお、原告は、本件裏JVにおいては、下請会社であるDが実際の施工を担当し、元請けであるJVには役割がなく、工事に関与するか否かによって税務上区別する実益はないとも主張するが、当該主張は、建設工事における元請会社の役割を余りにも過小評価するものである。例えば、工程管理や安全管理を取り上げただけでも、工事のすべての期間にわたって元請会社の指導監督が求められるのであり、こうした役割を当初から放棄している裏ペーパーJVについて、税務上、他の構成員と同じような利益配分を認定できないとすることには、十分な合理性がある。
エ 以上のとおり、Bに支払われた本件金員は、客観的に合理性のない多額の支払であり、かつ、極めて不自然な取引対価であって、本件防音工事の入札参加同業者間における一種の談合に起因した支払であって、事業関係者間の親睦を密にして取引関係の円滑な進行を図る目的、すなわち交際目的で支出したものというべきである。したがって、原告がBに支払った本件金員について外注費ではなく交際費等に該当するとした本件更正処分は、適法である。
(原告の主張)
ア 本件防音工事におけるJVの実態は、原告及びCにBを加えた3社によるJVであり、原告らJVは契約実体を有しないものであった。
本件防音工事の入札においては、2社1組でJVを構成するという入札条件があったことなどから、原告はCとJVを結成してK町との間で本件請負契約を締結したが、実際には、原告らJVではなく、本件裏JVを結成し、本件裏JVにより本件防音工事を施工した。その結果、本件裏JVは、工事純利益として9682万円を得て、これを、3社間の利益配分合意に基づき、原告30%、C40%、B30%の割合で利益配分したのである。
したがって、原告の帳簿上計上されているBへの外注費としての支払金2904万6000円の実体は、本件裏JV契約に基づく利益の配分金であり、真実は「仮受金」として記載すべきものであって、被告が主張するような交際費ではない。
イ 被告は、Bが発注者たるK町に対して契約上の当事者となっておらず義務を負担していないこと、Bが本件裏JV契約に定める業務に従事していないことを理由に、本件裏JVはペーパーJVであり、税務上の実質課税の原則から、裏JV契約に基づく利益配分を認めることはできない旨主張するが、当該主張は以下のとおり理由がない。
すなわち、まず、被告主張のように、発注者に対して契約上の義務を負担することが税務上のJVたる要件とすると、裏JVはすべてペーパーJVとして否定されることになってしまう。税務上は、原告らJVに帰属した利益又は損金をJV内部でどのように配分・負担するかこそが問題であり、税務上問題になる法的契約は、JVに帰属した損益の帰属に関する契約である。正規のJV契約のみならず裏JV契約が締結されているときには、損益帰属に関する契約が2つ存在することになり、実際にどちらが当事者を拘束し、損益帰属の根拠となるかの問題を引き起こすが、裏JVが課税回避を目的とするものであれば、税務上否認されることになり、それがJVとしての実質を有していれば、裏JV契約に基づいて課税されるべきものであって、発注者に対して契約上の義務を負担していないことを理由に裏JVをペーパーJVとして否認することは正当でない。
そうすると、結局、被告の主張は、Bが契約上の業務に従事していないとの主張に尽きることになる。この点、確かにBは、工事開始当初、短期間だけしか工事担当者を現場に派遣していない。しかしながら、裏JV契約締結の経緯や実態は、裏JV契約の有効性を判断する一つの指標として判断の基礎とはなり得ても、それはその限度で意味を有するにすぎず、その限度を超えて、独立して課税判断基準とはなり得ない。基本的には、裏JV契約の有効性、すなわち通謀虚偽表示による脱税のための協定であるか否かが問題であり、裏JVの構成員が従業員を派遣していたか否かは、この通謀虚偽表示であるか否かを判断する上で重要な意味を有するにとどまり、それ以上のものではない。なぜなら、JVの実態は、JVを組ませることにより(本件ではAランクとBランクの企業を組ませることにより)複数の企業に工事を受注させること(多くの中小業者の工事受注機会を与える目的)や、受注業者の工事実施能力の拡大を目的とするものであり、JV構成員が必ず工事を担当実施することを要するものではないからである。例えば、JVが受注した工事を下請けに出し、JV自体としては、直接工事を実施せず、工事現場監理だけを行い、施工は下請業者に任せることが多く行われているが、そのような場合、工事の監理はJVの代表者たる構成員が行い、代表者でない構成員は全く工事に関与しない形態も多くみられるのである。構成員がどのように工事に関わるかは、構成員間で決めるものであり、それは構成員間の協議に委ねられている。本件では、Cが責任施工すると定められて、工事を下請会社に丸投げすることになったため、JVの仕事としては、JV名義での発注者への報告以外には、現場監理人の派遣だけであり、同業務はJVの代表者が行い、代表者でないJV構成員の業務はほとんどなかった。これはJV契約の実態であり、また本件裏JVの実態でもある。Cが現場技術者を派遣していたのは、同社が下請けをしていたからであり、JVの構成員として派遣していたものではない。
被告は、Bが運営委員会及び作業所委員会のメンバーになっていないことを指摘して、本件裏JVがペーパーJVであるとも主張するが、前述のとおり、JVの構成員がどのような義務を負うかは構成員内部で協議して定められるものであり、上記各委員会のメンバーに入らなくてもそれだけでペーパーJVとなるものではない。あくまでも、裏JV契約が有効に締結されたものであるかどうかこそが問題であり、裏JV契約が有効に成立していれば、裏JVの構成員はそれに拘束され、同契約に基づく義務を負うことになる。裏JV契約に基づく利益配分は、この裏JV契約上の義務を負う対価として取得するものであり、JVが受注した工事に構成員が現実にどのように従事したかによる対価ではないと考えるべきである。本件では、本件裏JVの構成員間で、下請会社たるCがすべて責任をもって工事を施工することが合意されたことにより、Bは、工事が遅れた場合に原告とともに応援する義務、保証金支払義務、赤字の場合には損金を負担する義務等を負っているのである。加えて、Bが現実に保証金を支払い、かつ短期間であれ乙を派遣している事実は、本件裏JV契約が通謀虚偽表示による税務回避のためのものではなく、真正に成立したものであることを示すものである。
したがって、Bは、本件裏JV契約により、実態として法的義務・負担を負っているのであり、本件裏JVは、ペーパーJVではないと認められる。
ウ また、被告は、本件金員が本件請負契約を獲得するための入札からのいわゆる降り賃であり、談合金であると主張するが、本件においては、Bが入札競争から降り、これに原告が降り賃を支払う旨の合意が存するとの事実までは認めるに足りず、入札が終わり工事受注者が原告らJVと決まった後になって、原告、CとBの3社間において本件裏JVが成立しているのである。すなわち、本件裏JV契約は、誰が工事を受注するか不明であったことから、原告らが受注することができた場合にはBと裏JV契約を締結し、逆にBが受注することに成功した場合には原告が裏JVに参加することを考えて話し合いを行っていたものである。これは、原告かBのいずれかが本件防音工事を受注した場合に、他方が裏JVとして参加することにより損益の分配に加わることを目的として行われたものであり、合理的な理由を有するものである。このような裏JVの合意は、工事業者が経済不況の中で工事受注の可否により業務が大きく左右される危険性を軽減し、損益の機会を平均化して安定した工事を行うための工事受注形態として適法なものであり、談合として違法規されるものではない。談合は、単なる入札競争からの降り賃の取得であり、何らの義務を負担するものではないのに対して、本件裏JV契約は、工事落札後に構成員となることにより契約上の義務を負い、その対価として損益の配分を行うものであって、談合とは法的にも全く異なるものである。
エ 以上のとおり、本件争点は、「実質課税」をどのように理解するかにあり、被告が主張するように工事を行っているか否かではなく、裏JV契約が真正に成立しているか否か、更にいうと、契約中に損益配分を正当化する法的義務が約されているか否かこそが実質課税を判断する分岐点と解される。被告の主張では、正規のJVの構成員であっても、JV代表業者が工事現場監督をなし、他方の構成員が全く工事現場に関与していない場合には、当該構成員への利益配当金は、正当な収入とは認められず、JV代表業者からの交際費として税務上取り扱われることになってしまうが、前記のとおり、JVの構成員が契約上の責任を法的に負っていれば、現実に工事に関与することは不要であり、JV契約に基づく利益配分金は、当該構成員の収入として税務上取り扱うべきことになる。課税上、裏JVを認めても、現実に収益が入る裏JV構成員に課税すれば足りるものであり、これを租税回避行為として批判すべき理由は存しない。本件裏JV契約に基づく配分金を「交際費」と認定することは、実態に反し到底認められないのであって、本件更正処分には、本件金員を原告の収入、所得と判断した点において誤りがある。
(3) 本件金員が交際費等に該当する場合、原告に通則法68条1項に規定する「隠ぺい」、「仮装」等に該当する行為が認められるか。
(被告の主張)
ア 本件金員が適正な利益配分金ではなく、交際費等に該当することは、前記(2)(被告の主張)のとおりである。
イ ところが、原告は、実際には、Bに外注工事として本件機械室工事を発注して、本件機械室工事を請け負わせた事実がないにもかかわらず、Bに対する本件金員の支払について、下記<1>の注文書を自ら作成した上、下記<2>ないし<4>の証票類をBから受領している。
<1> 注文書:K町小学校改造防音工事機械室工事一式
<2> 注文請書:K町小学校改造防音工事機械室工事一式
<3> 請求書:K町小学校改造防音工事機械室工事代金として
<4> 領収書:K町小学校改造防音工事機械室工事代金として
ウ 上記のとおり、原告は、取引事実に基づいて作成されたものでない架空の証票類を基に、外注費として虚偽の内容を帳簿に記載し、その記載したところに基づいて法人税の確定申告書を提出したものであるから、かかる原告の行為は、通則法68条1項に規定する「隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当する。したがって、原告に対する本件賦課決定処分は適法である。
(原告の主張)
ア 原告には、課税の基礎となるべき事実を隠ぺいし又は仮装した事実はなく、被告が本件賦課決定処分を行ったことは法令の適用を誤ったものである。
イ 原告は、Bへの利益金の配分について、次のとおり、事実と異なる記載をしたが、それには合理的な理由があった。すなわち、原告は、前記(2)(原告の主張)のとおりC及びBと本件裏JVを結成し、本件防音工事を施工し、工事純利益として9683万9747円を得たが、K町との間で、原告らJVの名前で入札を行い、本件請負契約を締結していたことから、本件裏JVの存在を会計処理上、表に出すことができないと考えて、会計帳簿上、原告らJVから原告に対し5809万2000円の利益配当金が存したかのように虚偽の記載をなし、Bへの利益配当金の交付を「外注費」の名目で記載し、外注工事により支出した形を仮装したものである。
税務上、K町から原告らJVへの収入を記載し、その後の原告らJVの利益金の配分に当たって、本件裏JV契約に基づく利益金の配分を記載して何ら問題がなかったのであれば、そのような記載をすべきであったが、原告の理解によれば、対外的に契約を締結したJV(原告らJV)と、利益の配当を行うJV(裏JV)とが異なる場合には、発注者との間で今後問題が起こることから、これを回避するためには本件裏JVを隠すことが必要だと考えて、本件金員について「外注費」として計上して会計処理を行ったのである。したがって、原告の会計処理の適否はともかく、事実と異なる会計処理をしたことには、それなりの理由が存したものである。
第3当裁判所の判断
1 争点(1)(本件更正処分に理由附記の不備があるか。)について
(1) 更正処分において必要とされる理由附記の程度について
青色申告に対する更正処分について更正理由の附記が必要とされている(法人税法130条2項)のは、処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与えるためである。したがって、帳簿書類の記載自体を否認して更正をする場合において更正通知書に附記すべき理由としては、単に更正に係る勘定科目とその金額を示すだけではなく、そのような更正をした根拠を帳簿記載以上に信憑力のある資料を摘示することによつて具体的に明示することを要するが、これに対し、帳簿書類の記載自体を否認することなしに更正をする場合においては、当該更正は納税者による帳簿の記載を覆すものではないから、更正通知書記載の更正の理由が、そのような更正をした根拠について帳簿記載以上に信憑力のある資料を摘示するものでないとしても、更正の根拠を上記のように処分庁の恣意抑制及び相手方の不服申立ての便宜という理由附記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示するものである限り、法の要求する更正理由の附記として欠けるところはないと解するのが相当である(最高裁判所昭和60年4月23日第三小法廷判決・民集39巻3号850頁等参照)。
以上を前提に、本件更正通知書に理由附記の不備の違法があるかどうかについて検討する。
(2) 本件更正処分における附記理由について
前記第2の1(3)イ記載のとおり、被告は、本件更正通知書において、原告が本件事業年度の損金(外注費)に計上した2904万6000円(本件金員)について、帳簿書類の記載されている外注費であることを否認して更正するに当たり、<1>本件防音工事は、原告らJVによる工事であるにもかかわらず、原告らJVの決算書中に外注費として計上されているのは、DとCに係る外注費用のみであり、本件機械室工事に係る金額が含まれていないこと、<2>原告がBに支払った本件金員は、原告らJVの決算書による利益9682万円のうち原告の分配金である5809万2000円を単純に折半して算出されたものであること、<3>Bの帳簿には、本件機械室工事に関する工事原価が計上されていないこと、<4>Bの代表取締役が本件機械室工事を行っていないと述べていること、<5>原告らJVの工事日誌にBが本件防音工事に従事したことを示す記載が一切ないことという事実を摘示した上で、Bが本件機械室工事を施工した事実がなく、原告がBに支払った2904万6000円(本件金員)は、本件防音工事の受注に際して便宜を図ってもらった謝礼として支払ったものと認められるので、2904万6000円から消費税額を控除した2820万円を交際費等に算入したとの理由を示している。
このように、被告は、本件金員が外注費である旨の記載を否認するに当たり、単に更正に係る勘定科目とその金額を示すだけではなく、前記<1>ないし<5>のとおり、原告らJVの決算書、Bの帳簿、Bの代表取締役の供述、原告らJVの工事日誌などの資料とそれらの資料に基づく被告の認定事実を具体的に摘示している上、後記2、3認定の客観的な事実関係を踏まえて総合的に考慮すると、上記各資料は、更正処分当時においても、原告の帳簿記載以上に信憑力を有するものであったと認められる。また、本件金員を交際費に算入した理由についても、Bが本件機械室工事を施工した事実がなく、原告がBに支払った2904万6000円(本件金員)は本件防音工事の受注に際して便宜を図ってもらった謝礼として支払ったものと認められるので、2904万6000円から消費税額を控除した2820万円を交際費等に算入した旨を更正の根拠として具体的に明示している。そして、上記のような資料に基づく被告の認定事実を具体的に摘示し、更正をした根拠を明示する記載があれば、処分庁としては、本件更正処分における自己の判断過程を逐一検証することができるから、その判断の慎重、合理性を確保するという点で欠けるところはなく、他方、処分の相手方が不服申立てをするに当たっても、必要な材料を提供しているといえる。
したがって、本件更正処分においては、処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という、上記の理由附記の趣旨・目的を充足するに足る更正の理由が、具体的に明示されているものといえる。
(3) 仮受金の支払につき判断していないとの主張について
原告は、前記第2の2(1)(原告の主張)のとおり、原告らJVからの原告の収入自体を否認することなく、原告が原告らJVからの収入として記載した金額を前提に収入判断したこと、外注費であることを否認した上で、仮受金の支払について判断することなく交際費等と認定して更正したことについて、本件通知書には理由附記の不備がある旨主張する。
しかしながら、原告らJVから原告が受領した利益配分金5809万2000円については、原告自身が原告の収入金額として帳簿書類に記載しており、被告は、この記載を否定して本件更正処分を行ったものでないから、原告らJVからの収入として記載された上記金額を前提に収入判断をしたことについて、更正の理由附記を必要としないことは当然である。また、仮受金の支払につき判断していないとの点については、そもそも原告自身が、確定申告及び修正申告において、仮受金(利益配分金)ではなく、外注費として申告している以上、仮受金か否かを判断する必要はないというべきであるし、実際上、被告が利益配分金について仮受金か否かが問題であると考えていたとしても、前記(2)のとおり、被告としては、本件金員が謝礼として支払われた旨認定した上で、交際費等に算入する旨更正の根拠を具体的に明示しているのであって、被告の本件更正処分における結論に至る判断過程は十分に検証可能であるから、原告の不服申立てに何ら支障が生じるものではない。
したがって、この点に関する原告の主張は、採用することができない。
(4) 以上によれば、本件更正処分に係る本件更正通知書に記載された附記理由に不備はなく、本件更正処分にこの点における手続的違法はないというべきである。
2 争点(2)(本件金員が交際費等に該当するか。)について
(1) 判断基準
措置法61条の4第3項は、交際費等とは、交際費、接待費、機密費その他の費用で、法人が、その得意先、仕入先その他の事業に関係のある者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出するものと規定しており、また、同条項を受けた措置法関係通達61の4(1)-15の(10)においては、「建設業者等が工事の入札等に際して支出するいわゆる談合金その他これに類する費用」について、「原則として交際費等の金額に含まれるものとする。」とされている。
また、租税法は、実質課税の原則を採用しており(法人税法11条等)、所得課税に当たり、取引等に用いられた名義又は形式にとらわれることなく、経済的実質に即して所得の帰属ないし決定を行い、課税すべきことを要請している。
したがって、原告からBに支払われた本件金員が措置法61条の4第3項の「交際費等」に該当するかどうかは、本件金員の支払について認められる形式的、外形的な事象のみではなく、その経済的実質に従って判断すべきであり、本件においては、原告、C及びBの3社の間で締結されたとする本件裏JV契約、あるいは裏JV協定書の実体がどのようなものであり、BがJVの実質的な構成員として負担した義務や果たした役割の具体的な内容、程度など諸般の事情を総合的に考慮し、本件金員の経済的実質に着目して判断すべきである。
(2) 本件金員の支払に関する経過について
ア 前記第2の1の事実、証拠(各項末尾掲記のほか、甲4、5、13、乙7、8、10、証人E、原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、本件裏JV契約の締結、本件防音工事の施工等に関し、次の各事実が認められる。
(ア) 原告代表者は、本件防音工事に関する共同起業体協定書の提出期限が間近に迫った平成8年9月20日ころ、B社長の丙との間で、沖縄市内の漫画喫茶店において、本件防音工事を原告かBが落札した場合、Bグループ業者に迷惑をかけないようにAグループ業者(原告とBのうちの落札者)の利益配当金を落札しなかった方の他者に半分配分する形で仕事をする趣旨の話し合いをし、本件防音工事に関する協力関係を約束し合った。その際、原告とBで話し合いがなされていることを聞きつけたC常務取締役のEも、遅れてその話し合いの席に参加したが、この席では、原告、C、Bの3社によるJVを構成する旨を合意するには至らなかった。
(イ) 本件防音工事を原告らJVが落札し、本件請負契約が締結された後、原告からCへの申入れにより、原告及びCにBも交えて、原告らJVにBを参加させる旨の話し合いが何度か持たれた。Cは、当初Bを参加させることに難色を示したが、結局、C自身の利益配当金割合40%が確保されることを条件として、原告、C及びBの3社間での本件防音工事に関する建設工事共同企業体協定書(甲4。以下同協定書を「裏JV協定書」という。)の作成に応じ、さらに、原告、C及びBの3社間で、平成8年10月18日付で別途合意書面(甲5。以下「裏JV合意書面」という。)を作成して、本件裏JV契約を締結した。
(ウ) 原告らJVがK町に提出した共同企業体協定書(以下「原告らJV協定書」という。)においては、第9条で「当企業体は、構成員全員をもって運営委員会を設け、建設工事の完成に当たるものとする。」と規定されているところ、裏JV協定書においては、同規定を受けて、共同企業体協定書細則(以下「裏JV協定書細則」という。)第1条(1)に「運営委員会は、構成員各社を代表する運営委員会をもって組織する。」との規定が、また、同条(6)に「運営委員会は、協定書に定めるもののほか、次の事項を協議決定するものとし、協議決定は原則として全委員一致によるものとする。<1>施工の基本方針に関する事項<2>追加、変更工事、契約に関する事項<3>工事の実行予算、損益予想、決算に関する事項<4>作業所の組織構成及び運営管理の基本方針に関する事項<5>主要取引業者の選定及び契約に関する事項<6>その他、運営委員会の目的達成のために必要な事項」との規定がそれぞれ設けられている。そして、裏JV協定書細則第1条(3)には、「運営委員会の構成は、別表1の通りとする。」と規定され、同協定書別表1の運営委員会名簿には、原告の丁(以下「丁」という。)が委員長として、Cの戊が委員として記載されているが、B関係者の記載はない。
また、裏JV協定書においては、裏JV協定書細則2条に「当企業体は、建設工事施工のため共同企業体作業所(以下「作業所」という。)を設け、工事の施工に当たらせる。」旨の規定が、また、3条(1)「当企業体は、工事運営のため作業所に作業所委員会を置く。」との規定が、さらに、同条(5)に「作業所における次の事項の決定は、作業所委員会に付議しなければならない。<1>工事の施工計画及び実施に関する事項<2>仮設材、機械工具の評価及び損料に関する事項<3>工事実行予算の編成及び管理に関する事項<4>1件300万円以下の取引業者の決定に関する事項<5>経理事務の処理に関する事項<6>労務管理及び安全衛生に関する主要事項<7>その他、運営委員会に付議又は、答申する事項及び協議を必要とする事項」との規定がそれぞれ設けられている。
そして、裏JV協定書細則3条(3)には、「作業所委員会の構成は、別表2のとおりとする」旨規定され、同協定書別表2の作業所委員会名簿には、原告の丁が委員長として、Cの戊が委員として記載されているが、B関係者の記載はない。
(エ) 原告らJV協定書(甲7添付のもの)においては、11条で「当企業体の取引金融機関は、F銀行屋慶名支店とし、代表者の名義により設けられた別口預金口座によって取引するものとする。」と規定され、また、8条1項に、各構成員の出資の割合を原告60%、C40%とする旨の規定が存するのに対し、裏JV協定書の経理取扱細則においては、3条に「請負代金はA、C、B建設工事共同企業体の普通預金口座に保管し、建設工事の支払の不足分については協定書第8条1項に定める割合により構成員が負担する。」との規定が、また、4条に「構成員は、協定書第8条1項に定める出資の割合に応じて、出資金依頼書に示された額を毎月所定日に出資するものとする。但し、前払金で支払い出来る範囲はこの限りでない。」との規定がそれぞれ設けられている。なお、裏JV協定書の経理取扱細則5条では、共通原価の支払手続について、材料費、労務費、外注費、経費いずれもその支払は代表者が代表者名義で行い、各社立替金のみ、A、B、Cが3対3対4の割合で支払う旨が規定されている(甲4、7)。
(オ) 裏JV合意書面(甲5)においては、<1>本件防音工事についてすべての経費及び工事を代金2億2351万円(税込)でCが負担して責任施工する、<2>工期の遅れを発注者より指摘された場合、原告、Bが応援し、その経費はCの負担とする、<3>本件請負契約の請負代金額残金については、工事完成後、原告及びBが各2904万6000円、Cが3872万8000円(いずれも税込)の配分をするといった内容の合意条項が記載されており、さらに、その合意内容が裏JV協定書より優先する旨記載されている。
(カ) 本件防音工事に関する金員の管理については、裏JV協定書で規定された本件裏JV名義による普通預金口座ではなく、原告らJV協定書に定められた原告らJV代表者名義の預金口座で行われていた。
(キ) 原告、C及びBは、本件裏JVによる利益分配の報告書面として、裏JV合意書面で定めたとおり、原告及びBが各2904万6000円、Cが3872万8000円(いずれも税込)とする内容の確認書を作成している(甲2)。
(ク) 本件請負契約書においては、本件防音工事の施工等について次のような規定が設けられている。
4条(工事工程表)
1項 請負者は、この契約締結後15日以内に設計図書に基づいて、工事工程表を作成し、発注者に提出しなければならない。
5条(契約保証人)
1項 請負者は、工事を完成することができない場合に、自己に代わって自ら工事を完成することを保証する他の建設業者を工事完成保証人として立てなければならない(なお、本件請負契約書においては、工事完成保証人として、有限会社G及び有限会社Hが記載されている。)。
11条(現場代理人及び主任技術者等)
1項 請負者は、現場代理人並びに工事現場における工事の施工の技術上の管理をつかさどる主任技術者(管理技術者)及び専門技術者(建設業法昭和24年法律第100号第26条の2に規定する技術者をいう。)を定め、書面をもってその氏名を発注者に通知しなければならない。(以下省略)
2項 現場代理人は、この契約の履行に関し、工事現場に常駐し、その運営、取締りを行うほか、この約款に基づく請負者の一切の権限(請負代金額の変更、請負代金の請求及び受領並びにこの契約の解除に係るものを除く。)を行使することができる。(甲6)
(ケ) 本件防音工事の施工については、本件請負契約締結後、CとBでそれぞれ見積もりを何度か出し合った後、結局、Cが、下請けして施工することとなり、原告、C及びBは裏JV合意書面においてその旨約定した(甲3)。
(コ) Cは、上記(ケ)の下請工事を、Dに代金2億0093万4460円で孫請け発注した。その後、Dは、本件防音工事を工期内に完成させた。(乙9)
(サ) 本件防音工事の施工に際しては、原告から丁が現場代理人として、また、Cから戊が主任技術者としてそれぞれ工事現場に派遣され、両名は、施工当初から竣工まで、本件防音工事の施工の運営、管理等の業務に従事した。
なお、裏JV協定書別表3には、現場代理人及び主任技術者の給与は、いずれも月額50万円と記載されている。
(シ) Bは、本件裏JV契約に基づき、本件請負契約の契約保証金961万円のうち、288万3000円を支払った(甲1、9、10)。
(ス) Bの乙は、本件防音工事に際し、平成8年10月2日から同月19日まで、本件防音工事の設計、見積もり等の打合せ、工程表の作成等に関与したが、Bは、上記乙の関与以外には本件防音工事の施工に関与していない(甲11、12。なお、被告は、E及びDのJらが本件防音工事現場において、乙やその他のBの従業員を見たことはない旨供述していること(乙7、8、10、証人E)などから、当該事実は認められない旨主張するが、Eらの供述は、当時から時間が相当程度経過しているため、工事開始当初の極めて短期間のみであり、かつ、当初の打合せ等が中心で実際に工事が開始された後の現場の運営、管理には関与していなかった乙の関与が、Eらの記憶から欠落している可能性もあり、直ちには信用できない。むしろ、当時の経過を記載した乙の手帳の記載内容(甲12)などに照らして前記のとおり認定することができる。)。
イ 本件裏JV及び本件裏JV契約の実態
(ア) 前記第2の1(1)、(2)の事実及び前記アの認定事実、すなわち、<1>原告とB及びCとの間の本件防音工事に関する本件裏JV結成に至る経緯に鑑みると、本件裏JVは、本件防音工事に関し原告が取得する利益金の半分をBに配分することに主眼があったものと推認できること、<2>裏JV協定書の記載内容自体も、BはJVの運営や工事の施工等の中核をなす運営委員会の委員や、工事の施工計画、実施及び管理の中核をなす作業所委員会の委員に加えられておらず、毎月所定日に出資する各構成員の出資金についても、Bが出資する旨の規定がないなど、本件防音工事へのBの関与を想定したものとなっていないこと、<3>本件防音工事の施工実態についても、本件裏JV間においてCが一切の経費を負担して責任施工する旨合意され、その後、Cから孫請けしたDが本件防音工事を施工したものであること、<4>本件防音工事の施工に際しては、原告の方から、工事現場に常駐して工事の運営、取締りを行うなどの重要な役割を担う現場代理人を、また、Cの方から、工事施工の技術上の管理を司る主任技術者を派遣して、本件防音工事の運営、管理等の業務に従事させたのに対し、Bは、工事の準備段階におけるごく短期間において、工程表作成、打合せ等の業務に担当者を派遣するなどして関与したにとどまり、Dによる工事が開始された後は、本件防音工事に一切関与していないことなどを総合すると、本件裏JVは、原告とBの間で本件防音工事の入札前になされた約束を実行すべく結成されたものであり、本件裏JV契約の重点も、工事の施工を始めとするJVの運営に関する協力関係の構築やJVにおける責任及び義務負担の軽減等にあったのではなく、原告とB間の当初の前記約束を実現するため利益配分の実施を確実に行うことにあったといわざるを得ない。
(イ) もっとも、この点について原告は、本件裏JV契約に基づくBに対する利益配分は、同契約に基づいてBの負担する義務の対価として取得するものであり、本件裏JVの構成員であるBが原告らJVの受注した工事に現実に関与した程度に応じて取得する対価ではないから、本件裏JV契約が有効に成立し、Bが同契約に基づく法的責任を負担していれば、BがJVの構成員として実際に工事にどの程度どのような関与をしたかは問題ではない旨主張する。
なるほど、原告が主張するように、本件金員の支払の経済的実質が本件裏JV契約に基づく利益分配金の支払といえるかどうかの判断をする前提として裏JVの実体について検討する場合、裏JVの構成員が現場監督者の派遣など工事施工にどのように関与し、現場において具体的にどのような活動をしたかという点は、裏JVの実態を検討、判断するに当たって考慮すべき一つの判断要素にすぎず、この点に関する事情のみによって、本件金員の支払が裏JV協定に基づく利益配分金の支払といえるかについて直ちに判断できるものではない。
しかしながら、前記(1)のとおり、経済的実質として実体を件った裏JV契約が存在し、その裏JV契約に基づく利益配分があったといえるためには、単に外形的、形式的に裏JV契約の合意が有効に成立したと認められる事情が存在すればそれで足りるというものではなく、経済的実質として、実体を伴った裏JV契約が存在し、Bが裏JV契約の実質上の構成員として共同事業に実質的に関与し、参加したと評価することができるかどうかにより判断すべきものである。
そして、前記アで認定した事実関係、殊に<1>本件防音工事の現場での工事のすべての期間にわたって必要とされる工程管理や安全管理など、JVの構成員としての指導・監督という義務、責任は、JVの協定において構成員が負担すべき義務、責任として軽視することのできない重要なものであること、<2>それにもかかわらず、Bの従業員が本件防音工事に関与したのは、およそ9か月間にわたる本件防音工事の施工期間のうち、工事の準備段階におけるごく短期間にすぎず、その他には、Bは、本件防音工事の工程管理や安全管理について一切関与していないこと、<3>Bが支払ったK町に対する契約保証金も、本件請負契約上、工事竣工検査合格後には返還されるべきものであったこと(甲6の49条参照)、<4>原告が強調するBが負担する債務、責任は、発注者であるK町はもちろん、対外的な第三者との間で負担するものではなく、あくまでも本件裏JVの当事者とされる原告、あるいはCとの間で負担する性格のものにすぎず、本件裏JVの実体を判断するに当たり、この点のみを重視するのはかえって相当ではないこと、<5>Bの本件防音工事への関与の程度に比してBに対する利益分配金が極めて高額なものであったにもかかわらず、原告だけでなくCからも、利益分配金の割合について、一切の異論や不平が出されていないこと(仮に、原告が主張するように、本件裏JV契約が原告らJVの利益分配金をJVの実体(Bが本件防音工事に当たり実質的に負担した義務、責任等)に従って分配する旨の合意であるならば、本件裏JV契約における利益配分は、原告らJVの利益配分(原告が60%、Cが40%)に何ら拘束されるものではないのであるから、Cも含めて、改めて本件裏JVの構成員として実際に果たした役割、関与した程度に応じて、原告らJVの利益分配金を改めて配分することに何ら支障はなかったはずである。)、<6>本件金員の金額は、原告が取得した利益の半分に当たり、前記のようなBの本件防音工事への関与実態と全く相応せず、客観的合理性を認め難いほど多額であることなどの諸点に照らすと、Bに支払われた本件金員が本件裏JVの構成員としてBが負担した義務、責任の適正な対価であったと認めることは到底できない。
(3) 本件金員の性質について
前記(2)で認定・判断したところによれば、Bが本件裏JV契約に基づいて一定の義務、責任を負担することを示す書面等が作成され、かつ、本件金員の支払が、外形的、形式的に見れば、同協定書に基づく利益配分金の支払であることを窺わせる事情が散見されるとしても、BがJV契約の実質上の構成員として、共同事業である本件防音工事に実質的に関与したものと認めることはできないというべきであり、本件金員の支払の経済的実質は、裏JV協定書作成に先立って原告とBとの間で取り決められた、本件防音工事の入札の競争相手であり当該入札において原告らに敗れたBに対し、原告らJVから原告が受領すべき利益配分金を単純に折半して支払う旨の合意を履行するために、支払われたものにすぎない。
そして、前記(2)イのとおり、本件裏JV契約は、本件金員を支払う旨の合意として外形上有効に成立したということ以上に実体を伴ったJVに関する合意として意味を有するものではないことからしても、同契約に基づいて支払われた本件金員の経済的実質を、本件防音工事という共同事業に実質的に参加したJVの構成員であるBに対する構成員としての労務提供、義務、責任の負担の対価としての利益配分金の支払であると認めることはできない。
ちなみに、後記3のとおり、本件金員の支払について、原告は、帳簿上、本件裏JV契約に基づく利益配分金の支払としての記載をすることなく、実際には全く行っておらず、客観的な取引事実として架空の本件機械室工事の発注及び受注という事実を帳簿に記載しているが、このこと自体、原告において、原告の主張する原告、C及びBの3社による本件裏JVが、その経済的実質としてJVとしての実体を伴ったものでなく、本件金員が原告らJVから原告が受領する利益配分金を単純に折半して交付するという合意の履行にすぎないことを十分に認識していた証左というほかない。
そして、前記認定・判断を総合すれば、本件金員の支払は、本件防音工事の入札参加者の間における一種の談合にも類する事実関係に起因した金員の支払と評価することができるものであり、同種事業者の今後における仕事上又は仕事外の協力・友誼を深める趣旨で支払われたものといって過言でない。したがって、本件金員は、事業に関係のある者に対する贈答に類する行為のために支出された費用として、交際費等に該当すると認めることができる。
(4) 以上によれば、本件金員が交際費等に該当するとした本件更正処分の認定に誤りはなく、その他本件更正処分においてなされた前記第2の1(3)ア(ア)の計算内容にも特に誤りは見受けられないから、被告が行った本件更正処分は適法なものであると評価できる。
3 争点(3)(原告に通則法68条1項に規定する「隠ぺい」、「仮装」等の行為が認められるか。)について
(1) 本件金員が、措置法61条の4第3項に規定する交際費等と認められることは、前記2のとおりである。
(2) また、証拠(各項末尾掲記のほか、乙6、原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、次の各事実が認められる。
ア 原告らJVの決算書には、外注費としてD及びCに係る外注費用は計上されているものの、原告らJVがBに対し発注したとされる本件機械室工事に係る外注費用は計上されていない。
イ Bの帳簿には、本件機械室工事の工事代金2904万6000円が完成工事高に計上されているものの、本件機械室工事に係るBの工事原価が計上されていない。
ウ 原告は注文書(乙2)を、他方、Bは、注文請書(乙3)、請求書(乙4)及び領収書(乙5)をそれぞれ作成しているが、Bは、かかる証票類に記載されている「本件機械室工事」に相当する工事を一切行っていない(乙2~5)。
エ 原告自身も、Bへの本件金員の支払について、帳簿の記載上「外注費」として計上しているが、これも客観的な取引事実に合致しないものである。
これらの事実によれば、本件防音工事のうち本件機械室工事をBが請け負い、施工したという事実はなく、Bに対する本件金員の支払が外注費の支払でないことは明らかであり、また、本件金員が外注費である旨の原告の帳簿の記載が、客観的な取引事実に符合しない虚偽の記載であることも明らかといえる。
(3) そうすると、原告は、実際には、Bに対し外注工事として、本件機械室工事を発注してこれを請け負わせた事実がなく、かつ、本件金員が外注費である旨の帳簿の記載が客観的事実に合致しない虚偽の記載であることを十分に認識しながら、Bに対し本件防音工事のうち本件機械室工事なるものを発注し、Bが本件機械室工事を請け負って、あたかも本件機械室工事の外注費用として本件金員を支払ったかのような、客観的取引事実に合致しない架空の外注費を帳簿に記載するとともに、このような客観的取引事実が存在したかのような証票類を作成し、あるいはBが作成した証票類を受領したことになる。換言すれば、原告は、客観的、実質的な取引事実に基づいて作成されたものではない、すなわち架空の上記証票類を基に、本件金員について外注費として虚偽の内容を帳簿に記載し、その記載に基づき、法人税の確定申告書を提出したものといえる。
したがって、原告によるこれら一連の行為は、交際費等の課税要件に該当する事実を隠し、あるいは存在しない外注費の課税要件事実が存在するように見せかける行為に該当するというべきである。
なお、この点について、原告は、帳簿に事実と異なる虚偽の記載をしたことを前提として、それについて合理的理由があった旨るる主張するが、これまで認定説示してきたところに照らすと、原告が指摘する事情をもって帳簿上虚偽の記載をしたことを合理化できるものでなく、また、そもそも、会計処理上、帳簿に虚偽の記載をしたり、仮装経理をすることが許されないことは明らかであって(なお、第2の1(2)アのとおり、原告は、公正妥当な会計方法に基づく帳簿の備付け・記録・保存が義務付けられる青色申告者でもある。)、この点に関する原告の主張は、採用することができない。
(4) 以上によれば、原告による前記行為が、国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺい・仮装し、その隠ぺい・仮装したところに基づいて納税申告書を提出したものと認めることができるとの本件賦課決定処分の認定に、何ら誤りはなく、その他本件賦課決定処分においてなされた前記第2の1(3)ア(イ)の計算内容にも、特に誤りは見受けられないから、被告のなした本件賦課決定処分は適法であると評価できる。
第4結論
以上の次第で、被告の行った本件更正処分等はいずれも適法であって、原告の本件請求はいずれも理由がない。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 西井和徒 裁判官 松本明敏 裁判官 岩﨑慎)
別表1
本件課税処分の経緯
<省略>
別表2
加算項目及び減算項目の内訳
<省略>