那覇地方裁判所 平成15年(行ウ)6号 判決 2005年1月12日
甲事件原告・乙事件原告(以下、単に「原告」という。) 医療法人A
代表者理事長 甲
訴訟代理人弁護士 羽地栄
補佐人税理士 乙
甲事件被告 沖縄税務署長 牧野秀次郎
乙事件被告 国
代表者法務大臣 南野知惠子
被告ら指定代理人 是木智美
同 寺本史郎
同 福山命
同 白川達士
同 比嘉栄一
同 具志堅光男
同 藤井典明
同 我那覇隆
同 高嶺淳
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求の趣旨
1 (甲事件)
甲事件被告(以下「被告税務署長」という。)が平成13年12月25日付けでなした、原告の平成11年1月1日から同年12月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)について、原告が平成13年12月14日付けで申告した修正申告(以下「本件修正申告」という。)の所得金額8453万2753円、法人税額2840万2000円を超える部分の法人税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい、これと「本件更正処分」を併せて「本件更正処分等」という。)は、いずれもこれを取り消す。
2 (乙事件)
乙事件被告(以下「被告国」という。)は、原告に対し、9466万7800円及びこれに対する平成14年4月3日から支払済みまで年7.3パーセントの割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は、原告が、本件事業年度の法人税について、那覇防衛施設局から交付を受けた補助金(以下「本件補助金」という。)を収益に計上することなく申告をしたところ、被告税務署長が、本件補助金は益金の額に計上すべきであり所得金額等の計算に誤りがあるとして本件更正処分等を行ったため、原告の申告は錯誤により無効であって、本件更正処分等は無効ないし違法であるとして、被告税務署長に対し、その取消しを求める(甲事件)とともに、被告国に対し、本件更正処分等に基づき納付した法人税額8308万4300円と過少申告加算税1158万3500円の合計額9466万7800円の返還及びこれに対する国税通則法所定の年7.3パーセントの割合による還付加算金の支払を求める(乙事件)ものである。
1 前提事実(証拠掲記のないものは、当事者間に争いがない。)
(1) 原告の設立等
ア 原告は、肩書所在地において、B病院(以下「本件病院」という。)を経営する医療法人であり、平成10年9月17日に設立された。
イ 本件病院は、昭和60年11月、原告の理事長である甲(以下「甲」という。)が個人で開院し、医師十数名を擁する総合病院として経営されていたが、原告の設立に伴い、原告にその経営が移譲された。
ウ 本件病院の建物は、もと甲が所有していたが、平成11年1月1日に原告に譲渡され、同年12月27日、甲から原告に所有権移転登記がなされた。
(2) 本件補助金の交付等
ア 甲は、平成9年5月9日、C飛行場を使用する航空機の離着陸等の音響が本件病院における医療活動に障害を与えているとして、防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律に基づき、本件病院施設に対する防音工事(以下「本件防音工事」という。)の実施を求めるため、補助事業等計画書を那覇防衛施設局長に提出した。
イ 那覇防衛施設局長は、平成10年10月28日、甲に対し、本件防音工事の補助金として合計2億4303万1000円の交付が内定した旨を通知し、甲は、これを受けて、同年12月14日、補助金等交付申請書を那覇防衛施設局長に提出した。
ウ 那覇防衛施設局長は、平成10年12月17日、甲に対し、本件防音工事について2億4124万5000円の国庫負担による補助金等の交付が決定した旨通知した(甲9)。
エ 原告は、平成11年1月19日、本件防音工事について、株式会社D(以下「D」という。)との間で建設工事請負契約を、合資会社E(以下「E」という。)との間で現場技術業務委託契約をそれぞれ締結した。
オ 原告は、平成11年1月21日、那覇防衛施設局長に対し、本件病院の経営が甲個人から原告法人に移行したことに基づき、補助事業者名が変更された旨を届け出るとともに、同日付けで、補助事業等着手報告書を提出した。
カ 那覇防衛施設局長は、平成11年1月29日、原告に対し、当初決定していた補助金額2億4124万5000円を、2億4082万4000円(本件補助金)に変更する決定をした旨通知した。
キ 原告は、那覇防衛施設局長(国庫)から、次のとおり、本件補助金の交付を受けた。
平成11年3月26日 4595万1000円
同年10月22日 1億9487万3000円
ク 本件防音工事は、平成11年1月19日から同年8月31日までの間に実施され、原告は、次のとおり、本件防音工事の施工業者に対し、工事代金を支払った。
平成11年3月26日 Dに4595万1000円
同年10月22日 Dに1億9029万9000円
同日 Eに414万7000円
なお、原告が平成11年10月22日に交付を受けた1億9487万3000円とD及びEに支払った金額の差額である42万7000円は、平成11年3月13日から同年12月20日までの間に、合計3回にわたり、原告から事務費として支出された。
ケ 原告は、平成11年9月6日付けで、那覇防衛施設局長に対し、補助事業等実績報告書を提出した。
(3) 本件更正処分等の経緯
ア 原告は、被告税務署長に対し、本件事業年度の法人税につき、法定申告期限内である平成12年2月28日、別表1の「確定申告」欄記載のとおり白色の確定申告書を提出した(以下「本件確定申告」といい、本件確定申告と本件修正申告を併せて「本件申告」という。)。
イ その後、原告は、平成13年12月14日、別表1の「修正申告」欄記載のとおり法人税の修正申告書(以下「本件修正申告書」といい、本件確定申告書と本件修正申告書を併せて「本件申告書」という。)を提出した。その際、原告は、本件補助金を収入に計上せずに申告した。
ウ 被告税務署長は、平成13年12月25日、原告に対し、本件修正申告書の提出により納付すべき法人税額について、重加算税賦課決定処分をするとともに、別表1の「更正処分等」欄記載のとおり、本件更正処分等を行った。
(4) 本件更正処分等の内容
被告税務署長が行った本件更正処分等の計算の理由及び内容は、次のとおりである。
ア 本件更正処分について
(ア) 修正申告所得金額 8453万2753円
原告が本件修正申告書において申告した所得金額は、8453万2753円である。なお、本件修正申告の内容は、別表2の「修正申告」欄記載のとおりである。
(イ) 修正申告所得金額への加算金額 2億4082万4000円
国庫補助金等の収入計上漏れ 2億4082万4000円
法人税法は、法人税の課税標準を各事業年度の所得の金額(法人税法21条)とし、各事業年度の所得の金額は、益金の額から損金の額を控除した金額としている(同法22条1項)。そして、各事業年度の益金の額に算入すべき金額は別段の定めがあるものを除き、①資産の販売、②有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、③無償による資産の譲受け、④その他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額と定めている(同法22条2項)。
法人に対する国庫補助金等の交付は、法人税法22条2項に規定する無償による資産の譲受けに該当し、その収益の額は当該事業年度の益金の額に算入されるべきである。ところが、原告は本件補助金をその交付時に預り金に計上し、工事代金等支払時に預り金を取り崩す経理処理をしているため、原告の法人税の課税標準の計算においては、本件補助金額が益金の額に算入されていない。したがって、本件補助金額2億4082万4000円が修正申告所得金額に加算されることになる。
(ウ) 更正処分による所得金額 3億2535万6753円
原告の所得金額は、前記(ア)の修正申告の所得金額8453万2753円に、前記(イ)の金額を加算した3億2535万6753円となる。
(エ) 法人税の額 1億1148万7820円
本件事業年度当時の法人税法66条に基づき、前記(ウ)の所得金額に対する法人税の額を計算すると、所得金額3億2535万6000円(国税通則法(以下「通則法」という。)118条1項により1000円未満の端数を切り捨てたもの。以下、本計算では同じ。)のうち、800万円以下の金額に対して100分の25の税率を乗じて計算した金額200万円と、所得金額3億2535万6000円から800万円を差し引いた残額3億1735万6000円に100分の34.5の税率を乗じて計算した金額1億0948万7820円との合計額1億1148万7820円となる。
(オ) 所得税額の控除額 1510円
法人税法68条では、法人が各事業年度において所得税法174条により源泉徴収された利子又は配当等に係る所得税の額は、当該事業年度の法人税の額から控除することとなっているところ、原告が本件事業年度において源泉徴収された利子又は配当等に係る所得税の額は1510円であるから、これを前記(エ)の法人税の額から控除する。
(カ) 更正処分により納付すべき法人税額 8308万4300円
上記(エ)の法人税の額1億1148万7820円から上記(オ)の所得税の控除額1510円を差し引いた金額1億1148万6300円(通則法119条1項により、100円未満の端数を切り捨てたもの)から、修正申告における差引所得に対する法人税額2840万2000円(別表1の「修正申告」欄の「差引法人税額」)を差し引いた金額である8308万4300円が、本件更正処分により納付すべき法人税額となる。
イ 本件賦課決定処分について
通則法65条1項では、期限内申告が提出された後に更正があったときは、当該納税者に対し、その更正により納付すべき税額に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する旨規定し、また、同条2項では、その更正により納付すべき税額がその期限内申告税額と50万円のいずれか多い金額を超えるときは、その超える部分に相当する金額に100分の5の割合を乗じて計算した金額を同条1項により計算した金額に加算する旨規定している。
これに基づいて過少申告加算税の額を計算すると、前記ア(カ)の更正処分により納付すべき法人税額8308万4300円(通則法118条3項により、1万円未満の端数を切り捨てたもの。)に100分の10を乗じて計算した金額830万8000円に、前記ア(カ)の本件更正処分により納付すべき税額のうち期限内申告税額1756万1510円(別表1「確定申告」欄の差引法人税額1756万円に同欄の控除所得税額等1510円を加算した金額(通則法65条3項))を超える部分に相当する金額6551万円(8308万円から1756万1510円を控除した額の1万円未満の端数を切捨て)に100分の5の割合を乗じて計算した金額327万5500円を加算した1158万3500円となる。
(5) 本件訴訟に至る経緯
ア 原告は、平成14年2月12日、本件更正処分等を不服として、被告税務署長に対し異議申立てをしたが、被告税務署長は、同年5月10日、原告の異議申立てを棄却する決定をした。
イ 原告は、平成14年6月7日、被告税務署長のした上記決定を不服として、国税不服審判所長に対し審査請求をしたが、国税不服審判所長は、同年12月5日、原告の審査請求を棄却する裁決(以下「本件裁決」という。)をした。
ウ 原告は、平成15年2月28日、本件更正処分等になお不服があるとして、本件訴訟を提起した。
(6) 差引法人税額の納付
原告は、平成14年4月2日までに、本件更正処分等に係る納付すべき法人税額8308万4300円のうち8272万5548円及び過少申告加算税1158万3500円の合計9466万7800円を納付した。なお、本税の差額分35万8752円については、原告に還付されるべき本件事業年度分の消費税及び地方消費税の確定申告による還付金をもって充当された。
(甲22の1・2)
2 争点
本件の争点は、本件更正処分等の適法性、すなわち、本件申告が錯誤により無効であることにより、あるいは瑕疵の内容自体の重大性により、本件更正処分等が違法、無効といえるかである。
(被告らの主張)
(1) 本件更正処分等が適法であること
原告は、本件補助金をその交付時に預り金に計上し、工事代金等支払時に預り金を取り崩す経理処理をしているところから、原告の法人税の課税標準の計算において、本件補助金の金額は益金の額に計上されていなかった。そのため、被告税務署長は、本件補助金の返還を要しないことが確定した本件事業年度の益金の額に算入すべきであるとして、本件更正処分を行ったものであるから、本件更正処分等は適法である。
(2) 本件申告が錯誤によるものであるとの主張について
原告は、本件申告には、那覇防衛施設局職員及び本件防音工事の施工業者の言動等を原因として、本件補助金の圧縮記帳の適用に関して錯誤がある旨主張する。しかし、以下のとおり、本件申告は、錯誤に基づくものではない。
ア 圧縮記帳の適用要件の不備
圧縮記帳とは、特定の場合に評価損を計上するような価値の減少の事実が生じていない資産について、帳簿価額を減額し、その減額した金額を損金の額に算入する制度である。圧縮記帳は、課税の繰延べの制度であり、国庫補助金等によって固定資産を取得した法人は当該制度を適用するか否かについて任意に選択することができるが、これを選択する場合、法人税法42条3項の規定に沿った処理を行うことがその適用要件である。しかるに、原告は、本件補助金の交付時及び支払時に預り金の発生及びその取崩しの経理処理をしている上、本件確定申告書には、国庫補助金等の圧縮記帳に関する明細の記載をしていないから、法人税法が国庫補助金等の圧縮記帳の適用要件として要求する、①損金経理等の一定の経理処理、②確定申告書への圧縮記帳に関する明細の記載のいずれも行っていないことになる。したがって、原告が本件補助金について圧縮記帳の適用を選択しなかったことは明らかである。そもそも、国庫補助金等に関する法人税法上の取扱いについては、明文の規定で定められているのであるから、仮に、原告が圧縮記帳の制度を知らずにこれを適用しなかったというのであればそれは、単なる税法の不知・誤解によるものである。
イ 税理士の関与による自主的判断
原告は、原告に関する税務代理、税務書類の作成及び税務相談を乙税理士(以下「乙税理士」という。)に委任していたところ、税理士は、税務に関する専門家として、当然に本件補助金の税法上の取扱いを確認し、原告に説明や資料等を提供するなどの責務を有している。そして、国税不服審判所の調査によれば、原告の職員は、本件補助金の交付を受けた際に、乙税理士事務所の担当者に本件補助金を預り金処理でよいと回答されたことや、本件事業年度終了後の決算時期に乙税理士に本件補助金の経理処理は預り金の受入れ及びその取崩しでよいと言われたと供述している。そうすると、原告は、乙税理士の回答を受けて、自主的判断に基づいて、本件補助金について圧縮記帳を選択せずに帳簿書類の作成及び法人税確定申告書を提出したものである。
ウ 本件防音工事に係る固定資産の取得時期等について
原告は、圧縮記帳の処理ができなかったのは、本件事業年度内に防音工事を未だ取得していないとの認識であったからである旨主張する。しかしながら、以下のとおり、原告が、客観的に、本件補助金により本件防音工事に係る固定資産を取得した時期は、本件事業年度であることが明らかであり、かつ、本件事業年度内に本件補助金の返還不要が確定し、補助事業が終了していると認められる。
(ア) 固定資産の取得時期
法人税法上、固定資産の取得時期について定めた明文の規定はないが、同法22条4項は、当該事業年度の収益の額及び当該事業年度の損金の額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるべきことを規定している。これは、必ずしも明文化された基準を予定しているものではなく、企業会計において客観性、規範性があり公正妥当な会計処理の基準と認められるものを前提として法人所得の計算が行われる旨を明らかにしたものである。
本件の場合、本件補助金で取得した本件防音工事に係る固定資産は、建設工事の請負契約により引渡しを要する目的物に該当する。請負契約については、民法632条において「請負ハ当事者ノ一方カ或仕事ヲ完成スルコトヲ約シ相手方カ其仕事ノ結果ニ対シテ之ニ報酬ヲ与フルコトヲ約スルニ因リテ其効カヲ生ス」、同法633条において、「報酬ハ仕事ノ目的物ノ引渡ト同時ニ之ヲ与フルコトヲ要ス但物ノ引渡ヲ要セサルトキハ第六百二十四条第一項ノ規定ヲ準用ス」と規定されている。法人税基本通達(以下「法基通」という。)2-1-5は、このような請負契約の規定に合わせて、「請負による収益の額は、物の引渡しを要する請負契約にあってはその目的物の全部を完成して相手方に引き渡した日・・・の属する事業年度の益金の額に算入する。」とし、請負契約の内容が建設工事等であるときは、完成引渡基準によりその収益計上を行うこととしているが、その場合、更に建設工事等の引渡しの日がいつであるかの具体的判断については、法基通2-1-6は、「請負契約の内容が、建設・・・その他これらに類する工事を行うことを目的とするものであるときは、その建設工事等の引渡しの日がいつであるかについては、例えば・・・相手方が検収を完了した日・・・等当該建設工事等の種類及び性質、契約内容等に応じその引渡しの日として合理的であると認められる日のうち法人が継続してその収益計上を行うこととしている日によるものとする。」とし、引渡日の判定についての取扱いを定めている。
上記の取扱いをもとに本件防音工事に係る固定資産についてみると、原告は、Dとの間で締結された建設工事請負契約書第1条の2、第32条の1ないし4及び第33条の1の各規定に基づき、①平成11年8月24日付けでDから書面にて、本件防音工事が完成したので完成検査をお願いしたいとの通知を受け、②同月31日付けで原告代表者自身が工事完了検査をし、引渡しを受け、さらに、③同年9月1日付けで、本件防音工事の現場技術業務を請け負っていたEから原告に対し業務が完了した旨書面で通知されているから、本件防音工事に係る固定資産の引渡しの日は、同年8月31日となる。
(イ) 補助事業の終了時期
補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(以下「適正化法」という。)14条によれば、補助事業者は、各省各庁の長が定めるところにより、補助事業等が完了したときに、補助事業等の成果を記載した補助事業等実績報告書を各省各庁の長に報告しなければならないと定められているところ、本件防音工事は、平成11年8月31日に原告代表者自身により完了検査を終了し、同年9月6日に那覇防衛施設局長に対して補助事業等実績報告書が提出されている。
そして、適正化法14条に基づいて補助事業等実績報告書が提出された場合は、各省各庁の長は同法15条の規定により「適合すると認めたときは、交付すべき補助金等の額を確定し、当該補助事業者等に通知しなければならない。」とされているところ、本件においては、補助事業等実績報告書を受け取った那覇防衛施設局長は、本件防音工事について審査した結果、補助金等の交付の決定内容及びこれに付した条件に適合すると認め、平成11年9月24日付け補助金等金額確定通知書により、交付すべき補助金の額が確定したことを通知している。したがって、本件補助金は、平成11年9月24日付けで確定し、返還不要となったと認められる。
(ウ) 以上のとおり、原告は、平成11年8月31日付けで本件防音工事に係る固定資産を取得し、かつ、同年9月24日付けで本件補助金の返還不要が確定しており、本件補助金に係る補助事業が終了していると認められる。
したがって、原告は、本件事業年度において、本件補助金を収益に計上しなければならず、圧縮記帳を選択適用する場合には、本件事業年度にその会計処理を行われなければならなかったものである。
エ 那覇防衛施設局の行政指導について
原告は、本件防音工事に係る固定資産の取得日について、那覇防衛施設局職員の行政指導により本件事業年度ではないと判断した旨を主張する。しかし、そもそも那覇防衛施設局において本件補助金担当の係員丙(以下「丙」という。)が原告の法人総務担当職員である丁(以下「丁」という。)に対して原告が主張するような説明をしたことはない。丙は、補助金の支払時期、業者への支払時期、補助事業者に対する会計検査に関して行う一般的な説明として、通常「補助金の補助事業者への支払期日は○月○日となります。補助事業者から工事業者への支払は、両者で締結した約款に基づいて工事代金が請求された日から何日以内と決められています。
また、補助事業者から業者への支払が、適切な期日を守らなかったり、その振込みがあった口座で利息が生じる等の不適切な処理があり、事業完了後の会計検査において検査院側から指摘された場合、補助事業者が責任をもって説明しなければならないので、そのような事態にならないように適切に処理して下さい。」と説明しているのである。このように、那覇防衛施設局職員が原告に対して一定の説明、指導を行ったこと自体は否定しないが、その趣旨は、次のとおりであるから、原告が同局職員の行政指導によって本件防音工事に係る固定資産の所有権の取得や本件補助金の交付の確定につき錯誤に陥ることはあり得ない。
(ア) 交付補助金の施行業者への支払時期について
原告に対し、補助金が指定口座に振り込まれた場合、直ちに施工業者に対する支払を行うよう指導したのはそのとおりであるが、それは、原告指定口座において補助金保管が継続した場合、利息が生じることになるが、補助事業者である原告に利益が生じるのは好ましくないからである。補助金は国の予算から支出されるのであるから、当然、公金に該当するものであり、補助金等に係る予算の執行に当たっては、公金たる補助金が公正かつ効率的に使用されるよう努めなければならないとされているのである(適正化法3条)。丙は、原告指定口座において本件補助金が保管されたまま利息等の利益を原告が享受するようなことは慎まなければならない旨注意を促したにすぎない。
(イ) 取得財産の処分等の制限について
適正化法22条は、補助事業等による取得財産及び効用増加財産の処分制限に関して、「補助事業者等は、補助事業等により取得し、又は効用の増加した政令で定める財産を、各省各庁の長の承認を受けないで、補助金等の交付の目的に反して使用し、譲渡し、交換し、貸し付け、又は担保に供してはならない。」と規定しているが、これは、補助事業等により取得又は効用の増加した財産は、補助事業者等の所有に属する財産であることを前提として、当該財産を補助目的外処分することを原則として禁止することにより、補助目的の完全達成を図る趣旨である。かかる趣旨に基づき、那覇防衛施設局から原告に交付された補助金等交付決定通知書にも「補助事業等により取得し、又は効用の増加した適正化法第22条に定める財産については、補助事業等完了後においても善良な管理者の注意をもって管理するとともに、補助金等の交付の目的に従って効率的な運営を図らなければならない。」と記載されているのであって、原告が那覇防衛施設局職員が行ったと主張する行政指導も、適正化法22条の内容について原告に注意喚起をしたにすぎない。それゆえ、丙ら那覇防衛施設局職員が、丁に対し、本件防音工事に係る固定資産が国のものである、あるいは国の財産であるなどと本件防音工事に係る固定資産の所有権が国に存する旨の発言を行った事実はない。
(ウ) 国の会計検査について
那覇防衛施設局職員が、「会計検査があるので証拠書類を整備してその期を待つように。」といった発言をしたことは認めるが、これはあくまでも会計検査が実施される際に原告自身が関係書類等を整備していないと問題になることから注意を促したものにすぎない。この会計検査は、那覇防衛施設局が所管する各種の補助事業の中から任意に行われるものであるから、原告に対し必ず実施されるものではない。
また、会計検査完了により補助事業が終了する旨の発言をしたこともない。補助金等の額の確定とは、補助事業等の成果が補助金等の交付の決定の内容及びそれに付した条件に適合するものであるかどうかを補助事業者等から提出される補助事業等実績報告書、あるいは必要に応じて行う現地調査等により調査し、適合と認めたときは、交付すべき補助金等の額を確定する行為である。したがって、補助金等の額の確定に当たっては、行政行為の場合とは異なって交付行政庁の自由裁量が入る余地はなく、最終的に交付すべき補助金等の額が資料等に基づいて客観的に判断されることになる。そのため、補助金等の額の確定に当たって条件を付することはできず、補助金等の額の確定をもって本件補助事業は終了している。
オ 原告が予定していたとする会計処理について
原告は、那覇防衛施設局の行政指導の結果、圧縮記帳は会計検査が終了し、防音工事(固定資産)を取得した時点で行わざるを得ず、その会計処理については、次のような処理を予定していた旨主張する。
① 補助金が交付されたとき-前事業年度
(借方)
(貸方)
現金預金
240,824,000
仮受金
240,824,000
② 固定資産を取得したとき-当事業年度
(借方)
(貸方)
防音工事
240,824,000
現金預金
240,824,000
③ 圧縮記帳をするとき-当事業年度
(借方)
(貸方)
借受金
240,824,000
国庫補助金受贈益
240,824,000
固定資産圧縮損
240,824,000
固定資産
240,824,000
しかし、実際に原告が本件事業年度において行った本件補助金に関する会計処理は次のとおりである。
① 平成11年3月24日
(借方)
(貸方)
普通預金
45,951,000
預り金
45,951,000
② 平成11年3月26日
(借方)
(貸方)
当座預金
45,951,000
普通預金
45,951,000
預り金
45,951,000
当座預金
45,951,000
③ 平成11年10月18日
(借方)
(貸方)
普通預金
4,147,000
預り金
194,873,000
〃
190,299,000
預り金
4,147,000
普通預金
4,147,000
預り金
190,299,000
普通預金
190,299,000
本来、原告が予定していたと主張する会計処理では、固定資産を取得するまでは預り金(仮受金)勘定を残すこととなるが、実際に原告が行った会計処理では、帳簿上、本件補助金について何らの益金、損金の処理をすることなく預り金を相殺して会計処理を終了しているのであって、国庫補助金等を受け取った場合の税務上の処理方法としては、通常あり得ない方法を選択している。国庫補助金の税務上の取扱いについては、一般に市販されている法人税の確定申告の手引き等にも記載されているが、原告が実際に行った会計処理の方法はおよそ記載されていないものである。また、那覇防衛施設局から原告に対して交付された書類及び原告所有の書類と法人税法等関係法令の規定を照らし合わせれば、本件事業年度に本件補助金を益金に計上し圧縮記帳を選択し得ることは判断できたはずである。
このように、本件事業年度における圧縮記帳の選択は極めて容易に行えたにもかかわらず、課税庁に対する確認等を何ら行うことなく、圧縮記帳の適用が不可能であると結論付けたにすぎない原告の本件処理は、やむを得ないものであったということはできず、本件事業年度において圧縮記帳を行わなかったのは、専ら原告の責めに基づくものである。
(3) 本件更正処分等が違法ないし無効であるとの主張について
ア 本件申告の錯誤無効を理由とする本件更正処分等の取消請求について
原告は、那覇防衛施設局職員の言動等により本件補助金の圧縮記帳の適用に関して錯誤に陥ったことなどを理由に、原告の本件申告の錯誤無効を主張し、あたかも、本件申告が錯誤により無効であれば、当然に本件更正処分等も取り消されるべきであるかのように主張する。
しかしながら、納税者の確定申告とその後にされた更正処分は、あくまで別個の税額確定行為であって、前者の無効が、後者の更正処分の違法性を当然に基礎付けることにはならない。原告は、確定申告の錯誤無効が更正処分の違法性を基礎付ける理由について、何ら具体的かつ合理的な主張をしていない。
したがって、そもそも、本件申告に無効となるべき錯誤が存しないことは前記(2)のとおりであるが、仮に、本件申告が錯誤により無効であっても、そのことを理由に本件更正処分等の取消しを求める旨の原告の主張は、明らかに失当である。
イ 錯誤無効の明白性、重大性について
最高裁判所昭和39年10月22日第一小法廷判決(民集18巻8号1762頁)は、「納税申告書の記載内容の過誤が客観的に明白かつ重大であって、税法の定めた方法以外にその是正を許さないならば、納税義務者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がある場合でなければ法定の方法によらないで記載内容の錯誤を主張することは許されない。」と判示し、錯誤の明白性について、大阪地裁平成6年10月26日判決(税務訴訟資料206号66ページ)は、「納税申告書の錯誤の明白性とは、錯誤が外形上、客観的に明白であって一見して明らかなことをいう。」と判示している。
これを本件についてみると、①本件確定申告書上、原告が本件補助金の交付を受けたことの記載は存しないから明白性はなく、また、②原告が本件補助金を圧縮記帳によって経理処理をすることは任意であり、圧縮記帳は法人税の減免ではなく繰延べにすぎないことからして重大性があるとはいえない。したがって、原告の無効主張は許されるものではない。
ウ 錯誤無効の知情性を理由とする更正処分の無効等の主張について
また、原告は、被告税務署長が本件申告が無効であることを知っていたか少なくとも知るべきであったのに、この事実を看過して、あえて本件更正処分等により課税処分を行ったものであり、かかる処分には重大な瑕疵があるとして、更正処分が当然に無効ないし違法となるかのような主張をする。
しかしながら、本件申告に無効となるべき錯誤が存しないことは、前記(2)のとおりであり、また、そもそも行政処分が無効となるのは、処分の違法性が重大かつ明白な場合に限られるところ、原告の主張するところが無効事由に当たらないことは明らかである。
さらにまた、原告は、本件申告に当たって圧縮記帳をするか否かにつき、行政指導により意思の自由を失っていたものであるから、圧縮記帳を選択しなかった本件申告は当然無効であり、これを看過した本件更正処分等は、国庫補助金を課税の対象にするか否かという課税要件上の根幹に係る内容に過誤があるから当然無効である旨主張する。しかし、意思の自由を奪うような行政指導というものは容易に想定し難く、本件においてもそのような行政指導は行われていない。
(原告の主張)
(1) 本件申告が錯誤によるものであること
ア 本件申告において、本件補助金を益金に算入せず、損金経理、すなわち圧縮記帳を選択しなかったのは、次のとおり、原告に錯誤があったからである。
(ア) 本件病院は、甲の個人所有であった平成8年、平成9年及び平成10年にも「防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律に基づく防衛施設周辺防音事業」を実施するため、補助金交付申請をし、補助金の交付を受けたことがあったが、防音工事の施工業者からは、補助金には税金がかからないなどと説明を受けており、実際にも補助金に税金を課されることはなかった。
本件補助金の申請は、本件病院の建物(補助事業対象建物)の所有者が甲個人であったときにされたものであり、これに対する所管の那覇防衛施設局長の「補助金等交付内定通知書」、「補助金等交付決定通知書」なども上記建物が原告に譲渡される以前に交付されており、本件補助金については、交付を受けた即日、施工業者に支払っている。
原告は、本件防音工事を勧誘し、一切の手続を代行した施工業者から、補助金に課税されることはない旨の説明を受けていたが、事実、本件補助金と同種の補助金については、かつて課税されたことがなかったこと、本件防音工事の補助金交付決定が本件病院の建物を甲が個人で所有していた時にされたものであることなどから、本件補助金についても、よもや課税の対象になるとは思いもよらなかったのである。
(イ) また、原告の法人総務担当職員である丁は、那覇防衛施設局職員である丙から、平成11年3月16日ころ及び同年9月30日ころに、「第1回目の補助金がもうすぐ支払われることになっており、銀行口座に振り込まれますが、補助金は公金扱いとされ、病院のものではなく、あくまでも病院名義の銀行口座を経由するにすぎないから、振込みがあれば、すぐに施工業者に支払ってください。利息を発生させてはなりません。」と注意を受けた。さらに、本件防音工事完成検査終了後に、那覇防衛施設局から呼出しがあり、丁が訪ねたところ、丙から「防音工事は検査も終わりましたが、その設備は国のものであって、病院のものではないから、今後70年間病院が勝手に壊したり、撤去したり、売却したり、担保に提供したりすることはできません。防音工事による設備は国の財産で、1年以内に国の会計検査がありますので、証憑書類を完備しておいてください。」と注意を受けた。そのほか、那覇防衛施設局からの本件補助金交付決定通知書によれば、補助事業により取得した資産は、善良な管理者の注意をもって管理し、承認なしで交付の目的に反する使用、譲渡、貸付け等をしてはならない旨の記載があること、那覇防衛施設局職員から、防音工事等についての会計検査が行われて初めて工事は完了することになるので、証憑書類等は大事に保管しておくように注意を受けたことなどから、原告としては、会計検査終了までは、補助事業により取得した資産が事業者に帰属することはないものと誤解し、本件防音工事に係る固定資産を原告の資産に計上することなく、圧縮記帳もしなかった。
(ウ) ちなみに、原告は、補助金交付後の事業年度に固定資産を取得した場合には、その取得した事業年度に圧縮記帳を行うこととしていたが、その場合の圧縮記帳は、次のようになる。
① 補助金が交付されたとき-前事業年度
(借方)
(貸方)
現金預金
240,824,000
仮受金
240,824,000
② 固定資産を取得したとき-当事業年度
(借方)
(貸方)
防音工事
240,824,000
現金預金
240,824,000
③ 圧縮記帳をするとき-当事業年度
(借方)
(貸方)
借受金
240,824,000
国庫補助金受贈益
240,824,000
固定資産圧縮損
240,824,000
固定資産
240,824,000
以上のような理由から、原告は、交付された本件補助金は、公金扱いであるから、「預り金」で処理し、業者に支払うときはこれを取り崩して支払うほかないと誤解し、また、本件防音工事に係る固定資産は、会計検査の終了を待たなければ資産計上ができないものと誤解し、かつ、従前、補助金に課税されたことがなかったことから、本件補助金を益金に算入せず、本件防音工事に係る固定資産についても圧縮記帳をしないで、上記のとおり、本件補助金を「預り金」で処理するという方法を選択し、これに基づき、本件確定申告及び本件修正申告をすることになったのである。
イ 被告らの主張に対する反論
(ア) 圧縮記帳適用要件の不備の主張について
原告は、本件補助金交付決定等に関する主務官庁である那覇防衛施設局の職員から、本件防音工事に係る固定資産は那覇防衛施設局の所有であること、会計検査が完了しないと補助事業は終了しないことなどに関して強い行政指導があったことにより、これは命令であって、絶対的に服従しなければならない性質のものであると確信していた。したがって、経理処理に当たっても、本件防音工事に係る固定資産を原告所有の固定資産として取り扱うことは許されないことであり、原告に選択の余地は全くなく、本件申告においても当然のことながら圧縮記帳を選択する余地はないと考えたのである。原告が圧縮記帳を行わなかったのは、那覇防衛施設局の行政指導を忠実に遵守したからであって、「単なる税法の不知、誤解によるもの」ではない。
(イ) 原告の自主的判断に基づく申告であるとの主張について
原告は、本件補助金の会計処理について、顧問税理士である乙税理士に対して、那覇防衛施設局からの前記の行政指導の内容を説明した上で、その助言を求めた。
これに対し、乙税理士から、本件事業年度終了後の決算期に、本件防音工事に係る固定資産は資産計上できないが、本件補助金は預り金で処理してよいとの回答があった。原告は、その後、本件補助金については、預り金の受入れとその取崩しで経理処理を行い、本件防音工事に係る固定資産については、資産に計上せず、したがって圧縮記帳を行わずに申告した。
ところで、税理士は、確定した事実に基づいて、税法の規定を適用し、税法上の取扱いを判断するのであって、税法に適用すべき事実を自ら確定することはないし、自ら確定すべき義務もない。これを本件についていえば、乙税理士は、本件防音工事に係る固定資産の所有権の帰属につき自ら判断することは事実上もできないし、また自ら判断すべき性質のものでもない。特に本件においては、主管の那覇防衛施設局から、本件防音工事に係る固定資産の所有権は、会計検査の完了までは那覇防衛施設局にある旨の行政指導を受けていたという事情もあったのであり、乙税理士としても、本件防音工事に係る固定資産の取得は未だないものとして税法上の取扱いを検討せざるを得ず、上記行政指導の内容に反するような判断をしてはならないのである。その意味においても、乙税理士が本件防音工事に係る固定資産を資産に計上せず、圧縮記帳の選択をしなかったのは、上記事実と税理士の職責に照らせば、やむを得ない処理だったといわざるを得ない。
乙税理士は、圧縮記帳を行う余地すらなかったのであって、圧縮記帳の適用を選択しなかったことを理由に、被告らから非難されるいわれはない。
ウ 以上のとおり、本件申告に当たり、原告に上記のような錯誤がなければ、原告が当然に圧縮記帳に基づく申告をしていたことは明らかであるから、本件申告は、原告の錯誤に基づくものであり、無効である。
(2) 錯誤による無効主張が許されるべきこと
原告の錯誤は、次のとおり、客観的にも明白かつ重大であって、前記(1)の諸事情に照らしても、通則法23条1項に定める更正の請求以外に申告書の記載内容についての是正を許さなければ、納税者(原告)の利益を著しく害すると認められる特段の事情があるといえるから、原告は、更正の請求を経ることなく、本件申告が錯誤により無効であることを主張して、本件更正処分等の取消しを求めることができる。
ア 錯誤の重大性について
圧縮記帳は課税の減免措置ではなく繰延べを図る制度ではあるが、本件に関して損金経理による圧縮記帳の適用が認められるか否かは、原告の存続にも関わる重大な問題である。
本件補助金額は、2億4082万4000円であるが、本件更正処分等により納付する税額は、法人税8308万4300円及び加算税1158万3500円の合計9466万7800円であり、住民税を加えると1億2306万9800円にもなり、実に本件補助金額の50パーセントを超える。本件防音工事は、軍事基地の被害を防止するという触れ込みで施工業者及び国(那覇防衛施設局)の主導により行われたものであったにもかかわらず、主管である那覇防衛施設局の行政指導を遵守したがゆえに、本件補助金額の5割を超える税金を納付することになるとは原告の予想だにしなかったことであり、極めて遺憾というほかなく、国民の一般感情からも納得できるものではない。また、かかる多額の税額を負担することは原告の経営を大きく圧迫するだけでなく、存続上も極めて危険な状況とならざるを得ない。
圧縮記帳の適用があるか否か、錯誤が認められるか否かによって、本来の所得金額の2.8倍以上の所得金額を加算され、本来の法人税額の2.9倍以上の税額を加算されるのであり、その金額的違いたるや、あまりにも莫大であって、本件申告の錯誤の重大性はあまりにも明白である。
イ 錯誤の明白性について
(ア) 原告は、前記のとおり、那覇防衛施設局の行政指導を受けたことにより、本件防音工事に係る固定資産の取得時期を会計検査終了時と誤解し、本件申告において、本件補助金の交付を受けたことについて記載することができなかった。なぜなら、補助金の交付があったとしても、交付目的に適合した固定資産の取得が次の事業年度に行われるとすれば、圧縮記帳の適用を受けるためには、補助金交付年度において補助金の交付を受けた旨の記載をすることはないからである。そうすると、本件申告が錯誤に基づくものであることは、本件申告書に圧縮記帳に係る記載がなされていないこと及び本件申告書添付の固定資産台帳に本件防音工事に係る固定資産が記載されていないことから、外形上、客観的に明白であると解することも可能である。
(イ) また、原告が本件補助金を預り金で処理したこと、本件防音工事に係る固定資産を確定申告書添付の固定資産台帳に記載しなかったこと、しかもその金額が2億4082万4000円という莫大な額であることなどの各事実から、被告税務署長は、原告の錯誤について、容易に知り得たと思われる。のみならず、被告税務署長は、本件更正処分の前に、原告の本件事業年度の所得調査を行い、その際に会計帳簿や証憑書類等の検査も実施しているので、当然に、本件申告の錯誤について客観的に看取することができたはずであるから、その明白性を否定することは許されない。
この点、被告らは、錯誤の明白性に関し、「錯誤が外形上、客観的に明白であって一見して明らかなことをいう」として、いわゆる「外観上一見明白説」に依拠していると思われるが、そのような基準で判断すると、納税者の司法審査の途を閉ざすことになりかねない。それゆえ、明白性の判断は、客観的に明白であるか否か(客観的明白説)、具体的には、税務職員がその職務の遂行上通例要求される程度の調査を尽くした場合の、専門家レベルにおける判断に基づくものでなければならない。本件においては、被告らは、本件更正処分前の調査により、本件申告内容の錯誤を知悉していたのであるから、明白性の要件を十分に満たしていたというべきである。
なお、本件裁決は、原告の主張する錯誤が申告書記載の内容から外観上一見して看て取れるものではないことを理由に、原告の言い分を退けているが、錯誤が明白であるかどうかは、申告書の記載はもちろんのこと、原告の会計帳簿及び証憑書類、錯誤に至った経緯等一切の事情を考慮して過誤の事実が客観的に明らかであるか否かによって決すべきであり、単に、申告書の記載のみから判断すべきものではない。
(3) 本件更正処分等が当然に無効であること
原告が圧縮記帳の選択をしなかった本件申告は、前記(1)のとおり、無効であって、本件更正処分等は、違法ないし無効である。
ア すなわち、原告は、被告税務署長が税務調査(期間は平成13年9月13日から2週間)を実施した際に、①本件補助金につき益金処理をしなかった理由、②本件防音工事に係る固定資産につき、確定申告書及び決算書類に固定資産として計上しなかった理由、③圧縮記帳を選択できなかった理由等について説明し、本件申告が無効であることを主張して、その是正を強く求めた。
しかるに、被告税務署長は、本件申告が当然無効であることを知っていたか少なくとも知るべきであったのに、この事実を看過して、あえて本件更正処分等により課税処分を行ったものであり、かかる処分には重大な瑕疵があるというべきであるから、当然に無効である。というのは、被告税務署長は、本件更正処分等において、原告には本件申告につき圧縮記帳を選択する余地がなく、従って本件申告は無効であるにもかかわらず、原告が圧縮記帳の選択をしなかったことが、あたかも原告の自由意思による選択の結果であるかのように判断し、これを前提に本件補助金を益金に算入した上で課税するという過誤を犯しているからである。
ちなみに、本件更正処分等の重大な瑕疵とは、2億4082万4000円の国庫補助金を課税の対象にするか否かという、課税要件の根幹に関わる内容に過誤があるということである。
イ ところで、一般的には、課税処分が当然無効であるというためには、当該処分に重大かつ明白な瑕疵が存する必要があるといわれている。しかしながら、瑕疵の明白性については、その瑕疵が課税要件の根幹に関する瑕疵であり、かつ、その過誤につき納税者に帰責事由がない場合には、明白性を問題にすることなく課税処分の有効・無効を判断すべき場合もあるといわれている。これを本件についていえば、原告が圧縮記帳を選択しなかったことにつき、原告にはいささかの帰責事由も存在しなかったというべきであるから、明白性の有無を問題にするまでもなく、上記瑕疵の重大性だけで本件更正処分は当然に無効であるといわざるを得ない。
第3当裁判所の判断
1 本件補助金に関する税務上の扱い(事実の認定根拠は各項に掲記する。)
(1) 法人税における国庫補助金等の取扱い(乙17の1~4)
ア 国庫補助金等の益金への算入
法人税法は、法人税の課税標準を各事業年度の所得の金額(同法21条)とし、各事業年度の所得の金額は、益金の額から損金の額を控除した金額としており(同法22条1項)、さらに、各事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額と定めている(同法22条2項)。しかるに、法人にとって、国庫補助金等の交付を受けることは、無償による資産の譲受けそのものであるから、当該法人の法人税の課税標準の計算においては、交付を受けた国庫補助金等の額は益金の額に算入されることになる。
イ 圧縮記帳の制度
(ア) 法人税法は、「内国法人が、各事業年度において固定資産の取得又は改良に充てるため国庫補助金等の交付を受け、その国庫補助金等をもってその交付の目的に適合した固定資産の取得又は改良をした場合(その国庫補助金等の返還を要しないことが当該事業年度終了の時までに確定した場合に限る。)において、その固定資産につき、国庫補助金等の額に相当する金額の範囲内でその帳簿価額を損金経理により減額等をしたときは、その減額等の金額に相当する金額は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。」と規定して(同法42条1項)、国庫補助金等で取得した固定資産等の圧縮額の損金算入を認める圧縮記帳の制度を設けている。これは、国庫補助金等が法人税の課税標準の計算において益金の額に算入されることから、その国庫補助金等によって取得等を予定される資産の取得資金が税の額だけ不足することになり、それだけ国庫補助金等の交付の目的が達成できないことになるため、その調整のために課税の特例として設けられたものである。
(イ) 圧縮記帳とは、特定の場合に評価損を計上するような価値の減少の事実が生じていない資産について、帳簿価額を減額し、その減額した金額を損金の額に算入する制度であり、具体的には、例えば国庫補助金100万円の交付を受けて、100万円の固定資産を取得した場合、その固定資産についての圧縮記帳を行うと、次のような経理処理を行うことになる。
① 国庫補助金の交付を受けたとき
(借方)現金
1,000,000
(貸方)受贈益
1,000,000
② 固定資産を取得したとき
(借方)固定資産
1,000,000
(貸方)現金
1,000,000
③ 圧縮記帳をするとき
(借方)圧縮損
999,999
(貸方)固定資産
999,999
圧縮記帳の結果、受贈益と圧縮損とが実質的に相殺されることになり、国庫補助金の交付を受けたことによる益金についてはその段階での課税関係が生じないことになるとともに、固定資産の帳簿価額は実際の取得価額でなく、圧縮損の99万9999円を控除した1円となる(施行令54条3項)。このように圧縮記帳の適用を受けた固定資産の税法上の取得価額は、圧縮記帳後の金額とされることから、その後の減価償却費や譲渡損益の計算を通じて、当初に圧縮損と相殺されて課税されなかった受贈益は取り戻されて課税されることになる。それゆえ、圧縮記帳は、受贈益に対する免税措置ではなく、課税の繰延べを図る制度であるといえる。
(ウ) 国庫補助金の交付を受けた法人が、圧縮記帳の適用をするか否か、また、圧縮額をどの程度にするかは、法人の任意な選択に委ねられている。そこで、法人税法は、国庫補助金等の圧縮記帳についての適用要件として、①損金経理(確定した決算において費用又は損失として経理すること。同法2条25号)等一定の経理処理と、②確定申告書に損金算入に関する明細の記載をすることを定めている(同法42条3項)。
したがって、圧縮記帳を適用選択した法人は、当該事業年度の法人税の課税標準の計算において、交付を受けた国庫補助金等の額を益金の額に算入し、圧縮記帳による圧縮額を損金の額に算入することになる。
(2) 本件補助金の取扱い
ア 固定資産の取得時期
法基通2-1-5は、請負による収益の額は、物の引渡しを要する請負契約にあってはその目的物の全部を完成して相手方に引き渡した日の属する事業年度の益金の額に算入する旨定めている(乙5)。しかるに、本件では、原告は、Dとの間で締結された建設工事請負契約の規定(第1条の2、第32条の1ないし4及び第33条の1)に基づき、平成11年8月24日付けでDから書面にて、本件防音工事の工事完成通知及び工事完成検査願書を受け(乙6)、同月31日付けで原告代表者自身が工事完了検査を行っている(乙7)ことから、本件防音工事に係る固定資産の引渡し日は、同年8月31日であると認められる。
イ 本件補助金に係る補助事業の終了時期
適正化法によれば、補助事業者は、各省各庁の長が定めるところにより、補助事業等が完了したときに、補助事業等の成果を記載した補助事業等実績報告書を各省各庁の長に報告しなければならず(同法14条)、当該補助事業等実績報告書が提出された場合、各省各庁の長は、これを審査し、補助金等の交付の決定の内容及びこれに付した条件に適合すると認めたときは、交付すべき補助金等の額を確定し、当該補助事業者等に通知しなければならない(同法15条)とされている。そして、本件においては、原告は、前記アの工事完了検査を踏まえ、前記第2の1(2)ケのとおり、本件防音工事について、平成11年9月6日付けで那覇防衛施設局長に対し補助事業等実績報告書を提出し、これを受け取った那覇防衛施設局長は、本件防音工事について審査の結果、補助金等の交付の決定の内容及びこれに付した条件に適合すると認められたため、平成11年9月24日付けで「補助金等金額確定通知書」(乙13)により、交付すべき補助金の額が確定したことを通知した。したがって、これにより、本件補助金に係る補助事業が終了したといえる。
ウ 本件補助金に関する会計処理
(ア) 前記ア、イのとおり、原告は、平成11年8月31日付けで本件防音工事に係る固定資産の引渡しを受けてこれを取得し、かつ、同年9月24日付けで本件補助金の額が確定し、本件補助金に係る補助事業が終了しているから、原告は、本件事業年度において、本件補助金を収益に計上しなければならず、圧縮記帳を選択適用する場合には、本件事業年度にその会計処理を行われなければならなかった。
(イ) しかし、実際に原告が本件事業年度において行った本件補助金に関する会計処理は次のとおりであり、原告は、本件補助金を収益に計上せず、圧縮記帳の適用を前提とした会計処理を行わなかった。(乙16)
① 平成11年3月24日
(借方)
(貸方)
普通預金
45,951,000
預り金
45,951,000
② 平成11年3月26日
(借方)
(貸方)
当座預金
45,951,000
普通預金
45,951,000
預り金
45,951,000
当座預金
45,951,000
③ 平成11年10月18日
(借方)
(貸方)
普通預金
4,147,000
預り金
194,873,000
〃
190,299,000
預り金
4,147,000
普通預金
4,147,000
預り金
190,299,000
普通預金
190,299,000
なお、原告は、本件補助金及び本件防音工事により取得した固定資産を当該事業年度において資産計上していない。
エ 本件申告における本件補助金の取扱い
前記第2の1(4)ア(イ)のとおり、原告は、本件申告において本件補助金の額は益金の額に計上していなかった。
しかしながら、前記(1)アのとおり、原告が本件補助金の交付を受けたことは、無償による資産の譲受けそのものに該当するものであるから、原告としては、本来、その交付を受けた本件事業年度における会計処理において、本件補助金の額を収益として計上した上、本件申告において、益金の額に計上すべきであった。
2 争点(本件更正処分等の適法性)についての判断
(1) 本件申告が原告の錯誤により無効であるとの点について
ア 申告納税制度は、本来、納税者自身の自主的判断と責任において課税標準等及び税額を計算し、法定申告期限までに申告書を提出し税金を納付する制度であること、かつ、通則法が、申告内容の過誤の是正につき特別の規定を設けていることに鑑みると、納税確定申告書の記載内容についての錯誤の主張は、その錯誤が客観的に明白かつ重大であって、法の定めた過誤是正以外の方法による是正を許さないとすれば納税義務者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がある場合でなければ、法定の方法によらないでこれを主張することは許されないと解される(最高裁判所昭和39年10月22日第一小法廷判決・民集18巻8号1762頁等参照)。
この点、原告は、前記第2の2(原告の主張)のとおり、①本件病院は、原告の理事長である甲の個人所有であった当時にも補助金の交付申請をして、補助金の交付を受けたことがあったが、防音事業の施工業者からは補助金に課税されることはないとの説明を受け、実際にも補助金に課税されたことはなかった、②本件補助金の申請は、本件病院が甲個人の所有であったときにされ、那覇防衛施設局長からの補助金等決定通知書なども本件病院の建物が原告に譲渡される前に交付されており、交付された補助金は、即日施工業者に支払っていることから、上記①の事情も含めて、原告としては本件補助金についても課税の対象になると思っていなかった、③原告は、丁を通じて、那覇防衛施設局職員から、本件補助金は公金であって、本件防音工事に係る固定資産は国の財産であって、原告が勝手に処分してはならない旨注意を受けるとともに、会計検査が終了しなければ本件補助金に係る補助事業である本件防音工事も終了しない旨指導を受けた、などの事情から、原告は、本件事業年度において、本件補助金を益金に算入せず、損金経理、すなわち圧縮記帳を選択しなかったのであり、本件申告は原告の客観的に明白かつ重大な錯誤に基づくものであり、その無効主張が許される特段の事情もある旨をるる主張する。
そこで、本件申告に客観的に明白かつ重大な錯誤が存するか否かについて、以下検討する。
イ 那覇防衛施設局職員の指導・助言等について
(ア) 前記第2の1の前提事実、証拠(甲4の2、甲16~19、証人丁、同丙)及び弁論の全趣旨によれば、本件申告に関する那覇防衛施設局職員の関与等として、次のような事実が認められる。
a 平成10年12月17日付けで、那覇防衛施設局長から甲に対し、本件防音工事について2億4124万5000円の国庫負担による補助金等の交付が決定した旨の補助金等交付決定通知書(甲9)が送付されたが、本件病院の経営が甲から原告に移行したことに伴い補助事業の主体も原告に変更することになり、原告は、平成11年1月21日、那覇防衛施設局長に対し、補助事業者名が甲から原告に変更された旨を届け出た。上記補助金等交付決定通知書には、「補助事業等により取得し、又は効用の増加した適正化法第22条に定める財産については、補助事業等完了後においても善良な管理者の注意をもって管理するとともに、補助金等の交付の目的に従って効率的な運営を図らなければならない。」との記載がされていた。
b 那覇防衛施設局職員である丙は、本件補助金の交付をするに際し、丁に対し、補助金の適正使用の観点から、補助金が指定口座に振り込まれた場合、利息が生じないように、直ちに施工業者に対する支払を行うように指導した。
c また、丙は、本件防音工事が完了した際などに、丁に対し、補助事業等による取得財産及び効用増加財産について、「補助事業者等は、補助事業等により取得し、又は効用の増加した政令で定める財産を、各省各庁の長の承認を受けないで、補助金等の交付の目的に反して使用し、譲渡し、交換し、貸し付け、又は担保に供してはならない。」と定めて当該財産を補助目的外処分することを原則として禁止する適正化法22条の内容について注意喚起をした。また、那覇防衛施設局職員らは、丁に対し、「会計検査があるので証拠書類を整備しておくように。」といった注意もした。
(イ) ところで、原告は、丁が丙から、平成11年3月16日ころ及び同年9月30日ころに、「第1回目の補助金がもうすぐ支払われることになっており、銀行口座に振り込まれますが、補助金は公金扱いとされ、病院のものではなく、あくまでも病院名義の銀行口座を経由するにすぎないから、振込みがあれば、すぐに施工業者に支払ってください。利息を発生させてはなりません。」と注意を受け、また、本件防音工事完成検査終了後に那覇防衛施設局から呼出しを受けた際、丙から「防音工事は検査も終わりましたが、その設備は国のものであって、病院のものではないから、今後70年間病院が勝手に壊したり、撤去したり、売却したり、担保に提供したりすることはできません。防音工事による設備は国の財産で、1年以内に国の会計検査がありますので、証憑書類を完備しておいてください。」と注意を受けた旨主張し、丁も、その証人尋問において、那覇防衛施設局の職員から、本件防音工事に係る固定資産は国の財産である、会計検査院の検査が終了しなければ補助事業は終了しないといった誤った指導、助言を受けたなどと上記原告の主張に沿う内容の証言をし、丁の陳述書(甲17)にも同旨の記載がある。
(ウ) しかしながら、前記認定のとおり、本件補助金は、無償の資産譲渡として原告に交付されるものであり、当該補助金を使用して取得された固定資産もその引渡しにより当然に原告に帰属するものであるから、そのような基本的事項について、那覇防衛施設職員が「原告のものではない。」「国の財産である。」などという誤った内容で補助事業者の職員に説明、指導を行うとはおよそ考えられない。
また、証人丁の上記証言は、丙ら那覇防衛施設局職員が発言したとされる指導、助言の具体的内容について、その記憶自体がかなり曖昧で、証言内容も一貫していないのみならず、同証人が作成した陳述書(甲17)の記載内容と同証人の法廷における証言内容にも発言者や発言内容に関し相当の食い違いがみられる。また、証人丁の証言を検討すると、丁が指導、助言を受けたとされる丙の発言内容と本件防音工事の施工業者から聞いたとされる発言内容とを混同して記憶している可能性があることも窺われる。さらに、証人丁の証言及び同証人作成の陳述書(甲17)によれば、本件補助金の申請手続は、那覇防衛施設局職員と本件防音工事の施工業者にそのほとんどを任せており、丁は、経理、税務の関係も含めて本件補助金及び本件防音工事に関する具体的な事務手続にはほとんど関与しておらず、専ら作成された書類を那覇防衛施設局に届けていたものであり、ただ、その際、那覇防衛施設局職員、施工業者、あるいは設計事務所の担当者などから受けた指示や説明の内容を、原告の理事長である甲や乙税理士などに伝達していたにすぎないことが認められ、はたして丁が丙の発言をどの程度正確に理解・記憶していたかについては疑問といわざるを得ない。
他方、証人丙は、そのような発言をした事実はない旨明確に否定しており、その証言内容に特段不自然ないし不合理な点は見当たらない。
(エ) したがって、これらの事情に照らせば、那覇防衛施設局職員が、本件防音工事に係る固定資産は、国の財産である(国のものである)、会計検査院の検査が終了しなければ本件補助金に係る本件防音工事も終了しないなど、法令の規定に反する誤った指導、助言を行った旨の証人丁の上記証言及び同人の陳述書の記載内容は、信用することができず、丙ら那覇防衛施設局職員が丁ら原告職員に対して行った説明や指導の内容は、前記認定のとおり、補助金の適正使用の観点から、あるいは補助事業の趣旨、目的を踏まえて、これを適正に遂行するため、それらに必要な限度でなされたにすぎないと認められる。
ウ 原告による本件申告の経緯について
前記イ(ア)掲記の証拠及び弁論の全趣旨によると、①原告の経理担当者は、本件補助金の会計処理において、益金及び損金の処理することなく、預り金への計上及びその取崩しという取扱いをするについて、那覇防衛施設局から本件補助金の交付を受ける際に、原告の顧問税理士である乙税理士の事務所担当者に確認した上で、その経理処理を行っていること、②原告の経理担当者は、本件事業年度終了後の決算時期においても、乙税理士に原告に関する税務代理、税務書類の作成を委任し、乙税理士から、当該本件補助金の経理処理に関して尋ねられたので、本件補助金の交付時に預り金として受入れ、本件防音工事の施工業者への代金支払時に預り金の取崩しにより処理した旨回答したところ、乙税理士から、それでよいとの返事を得たこと、③乙税理士は、本件補助金の経理処理について、原告の経理担当者から、補助金による設備は国の財産である又は交付された補助金は公金だから利息が付かないよう即刻業者に支払えと那覇防衛施設局の職員から指示があったなどの説明を受けたことから、本件補助金が原告の資産又は損益と無関係であると判断して、本件補助金及び本件防音工事に係る固定資産について、資産及び損益勘定の会計処理を行わなかったことなどが認められる。
そうすると、本件補助金及び本件防音工事に係る固定資産に関し、原告が行った会計処理及び本件申告は、原告が、原告の顧問税理士による指導、助言に基づき自主的に判断したところ、単に法人税に関する法令解釈を誤ったにすぎないというべきである。
エ 以上に加えて、本件においては、
(ア) 原告は、自身が注文者となり、本件防音工事の施工業者らと請負契約等を締結し、その代金の支払をするとともに、完成工事の引渡しを受けており、代金の原資となった本件補助金の自己への帰属や、工事完成による固定資産の自己への帰属といった基本的な事実関係について、当然に認識すべきであったといえる。
(イ) 圧縮記帳の制度は、そもそも、受贈益に対する免税措置ではなく、課税の繰延べを図る制度であることから、国庫補助金の交付を受けた法人が、その適用を選択するか否か、あるいは圧縮額をどの程度にするかは、法人の任意な選択に委ねられている。
(ウ) 甲個人が平成8年及び平成9年に補助金の交付申請を行い、平成10年に補助金を受けたが、甲が交付された補助金を総収入金額に含めないで確定申告をしたにもかかわらず、更正処分等を受けなかったことは、原告の主張するとおりである(争いがない。)が、そもそも、法人と個人では、その課税関係につき根拠法条自体異なるのであり、通常、これを当然に同じであるとまでは考え難い。
(エ) 原告は、圧縮記帳は会計検査が終了し本件防音工事に係る固定資産を取得した事業年度において行うことを考えていた旨主張するが、原告が予定していたとする会計処理では、固定資産を取得するまで預り金勘定を残しておくべきであるのに、前記1(2)ウ(イ)のとおり、原告は、本件補助金について、何らの益金、損金の処理をすることなく、単に預り金勘定を相殺処理することにより会計処理を終了しており、圧縮記帳の適用を前提とした会計処理をしていない。このことは、原告において圧縮記帳処理を全く念頭に置いていなかった証左である。
といった諸事情も証拠上見受けられるところであり、これらの点に鑑みても、本件申告が原告の錯誤により無効であるとの原告の主張は、採用し難いというべきである。
(2) 本件更正処分等が無効ないし違法であるとの主張について
前記(1)のとおり、本件申告が錯誤によるものであると認めることはできないから、本件申告が錯誤により無効であることを前提とする本件更正処分等の違法ないし無効をいう原告の主張は、その前提を欠き、その余の点について判断するまでもなく、理由がないことになる。
また、課税処分が当然に無効であるというためには、当該処分に重大かつ明白な瑕疵がなければならず、重大かつ明白な瑕疵とは、当該処分の要件の存在を肯定する処分庁の認定に重大・明白な瑕疵がある場合を指すものと解される。そして、瑕疵が明白であるというのは、処分成立当初から誤認であることが外形上、客観的に明白である場合を指すものと解すべきである。もっとも、課税処分に課税要件の根幹に関する内容上の過誤が存し、徴税行政の安定とその円滑な運営の要請を斟酌してもなお、被課税者に当該処分による不利益を甘受させることが著しく不当と認められうるような例外的事情のある場合には、当該処分は当然無効と解するのが相当である。(最高裁判所昭和34年9月22日第三小法廷判決・民集13巻11号1426頁、最高裁判所昭和36年3月7日第三小法廷判決・民集15巻3号381頁、最高裁判所昭和48年4月26日第一小法廷判決・民集27巻3号629頁等参照)
そこで本件について検討するに、本件申告に関して認められる前記認定事実のほか、前記のとおり原告の自由意思に基づく判断を困難とするような指導が那覇防衛施設局担当者によって行われた事実は認め難いことや、そもそも、圧縮記帳の制度は受贈益に対する免税措置ではなく課税の繰延べを図る制度であって、圧縮記帳の適用を選択するか否か、あるいは圧縮額をどの程度にするかは、国庫補助金の交付を受けた法人の任意な選択に委ねられるものであることも併せて考慮すれば、原告において圧縮記帳を選択しなかったにもかかわらず本件補助金を益金算入しなかったことに基づく本件更正処分等に、これを当然無効としなければならないような著しい瑕疵があると認めることはできない。
したがって、この点に関する原告の主張も、採用することができない。
第4結論
以上の次第で、その余の点について判断するまでもなく、被告税務署長の行った本件更正処分等はいずれも適法であり、原告の被告らに対する請求は、いずれも理由がないこととなる。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 西井和徒 裁判官 松本明敏 裁判官 岩崎慎)
別表1 本件課税処分等の経緯
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別表2 加算項目及び減算項目の内訳
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