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那覇地方裁判所 平成16年(ワ)620号 判決 2008年6月25日

原告

沖縄県漁業協同組合連合会

同代表者代表理事

同訴訟代理人弁護士

宮里猛

天方徹

被告

Y1<他2名>

被告ら訴訟代理人弁護士

与世田兼稔

與那嶺敏

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求の趣旨

被告らは、原告に対し、連帯して一億三〇七五万五四一七円及びこれに対する被告Y1は平成一六年六月二九日から、被告Y2及び同Y3は同月二七日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、水産業協同組合法上の漁業協同組合連合会である原告が、原告の代表理事、専務理事、参事であった被告らに対し、平成一一年度(原告の事業年度は、当年四月一日から翌年三月三一日までの一年間をいう。)仕入分のモズク及び平成一二年度以降仕入分のソデイカの保管、在庫管理、販売に関して、被告らには、在庫を適切に保管、管理し、適正な時期に適切な価格で販売すべき善管注意義務、あるいは現場責任者をして適切に事業執行させるという監督、指導すべき善管注意義務があるのに、これを怠って原告に損害を与えたとして、債務不履行に基づく損害賠償を求める事案である。なお、原告は、当初、損害として、後記一(4)の本件検品作業の結果を元にした棚卸評価損と実際の売却価格の差額を主張していたが、後に、後記二(6)(原告の主張)記載のとおり、平成一三年度に平成一一年度産のモズク在庫を売却処分したと仮定した金額と実際の売却価格の差額に変更した。

一  前提事実(各掲記の証拠(すべての枝番を含む場合は枝番の記載を省略する。)等によるほかは、当事者間に争いがない。)

(1)  当事者

ア 原告は、水産業協同組合法により設立された沖縄県内の漁業協同組合連合会であって、所属員である漁業協同組合の漁獲物その他生産物の運搬、加工、保管又は販売等を事業目的とする法人である。

イ 被告Y1は、平成二年八月から平成一四年六月まで原告の代表理事会長の地位にあり、原告の対外的対内的業務執行権を有していた者である。

被告Y2は、平成一一年六月から平成一四年六月まで原告の専務理事の地位にあり、原告の常勤理事として被告Y1と同様に原告の日常的業務の執行権を有していた者である。

被告Y3は、平成一一年九月から平成一五年八月まで原告の参事の地位にあった者(平成一三年二月一日から平成一四年一〇月一日まで原告の総務部長を兼務)である。

(2)  原告の組織及び役職員の職務権限等に関する規定

ア 沖縄県漁業協同組合連合会定款(平成一二年七月二八日一部変更認可後のもの。以下「原告定款」という。)

(ア) 目的(一条)

原告は、会員が協同して経済活動を行い、所属員の漁業の生産能率の向上等その事業の振興を図り、もって所属員の経済的、社会的地位を高めることを目的とする。

(イ) 事業(二条)

原告は、次の事業を行う。

a 所属員の漁獲物その他の生産物の運搬、加工、保管又は販売(三号)

b 前各号の事業に附帯する事業(一一号)

(ウ) 会員の資格(八条)

原告の地区の全部若しくは一部を地区とする漁業協同組合若しくは漁業協同組合連合会又は原告の地区内に住所を有する漁業生産組合は、原告の正会員となることができる。(一項)

(エ) 役員の定款(二六条)

原告に役員として理事九人及び監事三人を置く。

(オ) 役員の選任(二七条)

役員は、正会員が総会においてこれを選任する。(一項)

(カ) 役員の改選請求(二七条の二)

a 正会員は、正会員の五分の一以上の連署をもって、その代表者から役員の改選を請求することができる。(一項)

b 前項(a)の規定による請求は、理事の全員又は監事の全員について同時にしなければならない。(二項本文)

c 第一項(a)の規定による請求は、改選の理由を記載した書面を理事に提出してこれをしなければならない。(三項)

d 第一項(a)の規定による請求があったときは、理事は、これを総会の議に付さなければならない。(四項)

e 第三項(c)の規定による書面の提出があったときは、理事は、総会の日から七日前までに、その請求に係る役員にその書面又はその写しを送付し、かつ、総会において弁明する機会を与えなければならない。(五項)

f 第一項(a)の規定による請求につき第四項(d)の総会において出席者の過半数の同意があったときは、その請求に係る役員は、その時にその職を失う。(六項)

(キ) 会長等(二八条)

a 理事のうち一人を会長とし、理事会の議決により選任する。(一項)

b 会長は、原告を代表し、原告の業務を統括する。(二項)

c 理事のうち一人を専務理事とし、理事会の議決により選任する。(三項)

d 専務理事は、会長を補佐して原告の業務を処理し、会長に事故あるときはその職務を代理する。(四項)

(ク) 役員の責任(三〇条)

a 役員は、法令、法令に基づいてする行政庁の処分、定款、規約及び総会の議決を遵守し、原告のため忠実にその職務を遂行しなければならない。(一項)

b 理事又は監事がその任務を怠ったときは、その理事又は監事は、それぞれ原告に対し、連帯して損害賠償の責めに任ずる。(二項)

c 理事又は監事がその職務を行うにつき悪意又は重大な過失があったときは、その理事又は監事は、それぞれ第三者に対し、連帯して損害賠償の責めに任ずる。(三項)

(ケ) 参事及び会計主任(三三条)

a 原告は、参事一人及び会計主任一人を置くことができる。(一項)

b 参事は、理事会の決定により、原告の事業に関する一切の業務を理事に代わって行う権限を有する。(二項)

(コ) 総会の招集(三六条)

a 会長は、理事会の議決を経て、毎事業年度一回六月に通常総会を招集する。(一項)

b 会長は、次の場合に理事会の議決を経て、臨時総会を招集する。(二項)

(a) 理事会が必要と認めたとき。(一号)

(b) 正会員がその五分の一以上の同意を得て、会議の目的とする事項及び招集の理由を記載した書面を理事に提出して招集を請求したとき。(二号)

(サ) 理事会の招集者(四六条)

a 理事会は、会長が招集する。(一項)

b 会長が事故又は欠員のときは、あらかじめ理事会において定めた順位に従い、他の理事が招集する。(二項)

c 理事は、必要があると認めるときはいつでも、会長に対し、会議の目的たる事項を記載した書面を提出して、理事会を招集すべきことを請求することができる。(三項)

d 前項(c)の請求をした理事は、同項の請求をした日から五日以内に、その請求の日より二週間以内の日を理事会の日とする理事会の招集通知が発せられないときは、自ら理事会を招集することができる。(四項)

(シ) 理事会の議決事項(四七条の二)

原告の組織及び事業の運営につき、この定款で別に定めるもののほか、次に掲げる事項は、理事会においてこれを決する。(一項)

a 業務を執行するための方針に関する事項(一号)

(ス) 理事会の報告事項(四七条の三)

会長は、次に掲げる事項を定期的に理事会に報告しなければならない。

a 会員の加入及び脱退の状況(一号)

b 取扱高その他原告の事業の実施状況(二号)

c 理事会の決定に係る事項の処理状況(三号)

d 内部検査の結果(四号)

e 前各号に掲げる事項のほか理事会において必要と認めた事項(五号)

イ 組織規程(平成一五年三月二四日一部改正後のもの)

(ア) 業務分掌(一七条、別表(1))

a 総務部

(a) 総務管理課

総会に関する業務、理事会に関する業務等

(b) 漁政課

水産業の振興計画、調査、調整に関する業務等

(c) 企画課

事業の中長期計画に関する業務等

(d) 指導課

漁協の事務指導等に関する業務等

(e) 会計課

金銭出納に関する業務等

b 事業部

(a) 購買課

石油製品の取扱業務、水産物の保管業務、製氷冷凍施設の管理業務等

(b) 販売課

水産物の販売業務、モズクの調整保管事業に関する業務等

(c) 加工課

水産物加工に関する業務等

c 市場部

(a) 市場課

市場出荷用鮮魚の荷受け業務等

(b) 業務課

セリ業務の精算事務等

d 組織強化推進室

漁協合併及び事務統合の指導等

(イ) 職務権限(一八条)

各職位(参事、部長、次長、課長、課長代理、主任、技師及び係に区分される。一四条一項)の職務権限は、この規程で定めるもののほか、会長が別に定める。

(ウ) 会長の職務権限(一九条)

会長は、総会及び理事会で決定された方針に基づき、業務全般を総括し、その執行に当たる。

(エ) 専務理事の職務権限(二〇条)

専務理事は、会長を補佐し、会長から委任された業務執行の総括管理を行い会長不在中は、その職務権限を代行する。

(オ) 参事の職務権限(二一条)

参事は、専務理事を補佐し、業務の執行を総括する。

(カ) 部長の職務権限(二二条)

部長は、所属の次長、課長を指揮監督して、所管業務を執行する。

(キ) 次長の職務権限(二三条)

次長は、部長を補佐し、部長の指揮監督を受けて職務を執行する。

(ク) 課長の職務権限(二四条)

課長は、部長の指揮監督を受けて職務を執行する。

(ケ) 課長代理の職務権限(二五条)

課長代理は、課長を補佐し、課長の指揮監督を受けて職務を執行する。

(コ) 主任等の職務権限(二六条)

主任又は技師は、直接上位職の命を受けた職務を執行する。

ウ 職務権限内規(平成一二年三月二一日制定のもの)

(ア) 趣旨(一条)

この内規は、組織規程一八条の規定に基づき各職位の職務権限を定めるものとする。

(イ) 定義(二条)

a 決裁とは、会長又は会長から専決権を授与された職位が、その権限に属する事務の処理について、最終的に意思の決定を行うことをいう。(一号)

b 専決とは、会長の権限に属する事務を、会長に代わって決裁を行うことをいう。(二号)

(ウ) 専決の制限(五条)

この内規において、専決事項と定められている事項であっても、次の各号の一つに該当する場合は、会長又は上位職の決裁を受けて処理しなければならない。

a 事案の内容が、特に重要であると認められるとき。(一号)

(エ) 職務権限(七条、別表)

会長の権限に属する決裁及び専決については、おおむね以下に定めるところによる。

a 会長決裁事項

(a) 会運営の基本方針に関すること(一号)

(b) 事業計画及び資金計画の策定並びに実施方針に関すること(二号)

(c) 前各号に掲げるもののほか、会運営上特に重要な事項に関すること(一三号)

b 専務専決事項

(a) 会運営の実施方針に関すること(一号)

(b) 重要な業務執行に関すること(一〇号)

(c) 参事専決事項で、特に重要な事項に関すること(一二号)

c 参事専決事項

(a) 業務の執行に関すること(一号)

(b) 部長専決事項で、特に重要な事項に関すること(一一号)

d 部長専決事項

(a) 所掌業務の執行に関すること(一号)

(b) 課長専決事項で、特に重要な事項に関すること(八号)

e 課長専決事項

(a) 所掌業務の執行に関すること(一号)

エ 規約(平成一五年六月一八日一部変更後のもの)

(ア) 理事会(第五章第一節)

a 理事会は、毎四半期に一回招集するほか、会長が必要と認めた場合又は定款二九条八項(監事による招集請求)及び定款四六条三項(理事による招集請求)による請求があった場合に招集する。(三四条)

b 理事会は、会長が招集する。(三五条一項本文)

c 次の事項は、理事会で決するものとする。(三六条)

(a) 法令、法令に基づく処分、定款、規約又は総会の議決により理事会の議を経べきこととされた事項(一号)

(b) 規程、規則、細則その他業務の執行に関する重要な規定の設定改廃に関する事項(二号)

(c) 業務を執行するための方針及び実施内容に関する事項(三号)

d 監事及び参事は、理事会で意見を述べることができる。(三九条一項)

(3)  原告におけるモズクの仕入れ及び在庫状況

原告は、平成一一年度において、モズクを合計二八万二五八七缶(一缶当たりおおむね一六キログラムないし一八キログラム)買い取り(仕入れ)、平成一二年度に、うち五万三六八二缶を在庫として持ち越すことになった(以下、在庫の平成一一年度産モズクを「本件在庫モズク」という。)。

原告が保有することになった買取モズク(本モズク)の平成一一年四月から平成一五年四月までの在庫及びその棚卸評価額は以下のとおりであり、平成一五年四月の在庫のうち、平成一一年度産のものは約三万一〇〇〇缶であった。

繰越在庫 (棚卸評価額)

ア 平成一一年四月

一万三三三一缶(七五五三万五〇〇〇円)

イ 平成一二年四月

五万三六八二缶(三億〇一一六万八〇〇〇円)

ウ 平成一三年四月

四万七八九四缶(二億六二六四万五〇〇〇円)

エ 平成一四年四月

四万六一〇三缶(二億三四八九万五〇〇〇円)

オ 平成一五年四月

三万二一三七缶(一億七二一四万五〇〇〇円)

(4)  モズク及びソデイカの検品作業

原告は、平成一五年四月一四日、モズク及びソデイカについて検品作業(以下「本件検品作業」という。)を行い、その結果に基づき、平成一四年度決算において、年度末である平成一五年三月三一日現在の棚卸評価を行った。

ア モズク(買取モズク、モズク製品及び原材料)の評価内訳

原告は、在庫の買取モズクのうち、一万四四六六缶を○評価、五〇六一缶を△評価、一万二四六六缶を×評価であるとし、モズク原材料(加工用モズク原料)については、八一七缶を×評価であるとした。△評価、×評価のものについては、単価を一缶一円で評価し、○評価のものについては、単価を一缶八〇〇円で計算した。

イ ソデイカの評価内訳

原告は、ソデイカについては以下のとおり評価した。

(ア) 原体(製品のもとになる原料であり、イカから内臓とゲソを取った本体部分で加工前のもの)

a 04(ゼロヨン・平成一二年一一月から平成一三年春までの漁期にとれたもの)の原体のうち約四割を二級品として零円で評価し、残り六割を単価で二五〇円で評価し、平均単価を一五〇円として評価した。

b 05(ゼロゴ・平成一三年一一月から平成一四年春までの漁期にとれたもの)の原体については、おおむね二割を二級品として単価一円で評価し、残り八割を単価三〇〇円で評価した。

(イ) ゲソ

平成一二年から平成一四年のゲソについては単価一円で評価し、平成一五年のゲソについては買付価格である五〇円で評価した。

(ウ) 短冊(原体を二五センチメートル長程度の冊に切り分けた製品)

おおむね九割を単価二四円で評価し、残りについては単価を九〇〇円で評価した。

(エ) 長冊(短冊より大きい冊)

一割を二級品扱いとして単価一円で評価し、残り九割を四五〇円で評価した。

(オ) ロール(イカの体を開いて丸めた製品で、短冊や長冊の前段階)

a 小サイズについては、五〇〇キログラムを二級品扱いとして単価一円で評価し、残り二六〇一・五キログラムについては、五〇〇円で評価した。

b 中サイズについては、二級品扱いとして単価一円で評価した。

c 大サイズについては、平成一五年四月になって売却済みとなったため、単価六五〇円で評価した。

d 二級品については、単価一円で評価した。

(カ) ベタ(イカの本体を板状にした製品)

一級品、二級品とも二級品扱いとし、単価一円で評価した。

(キ) その他

簿価及び実勢価格で評価した。

ウ 原告は、上記の評価により、平成一四年度の決算において、モズク(買取モズク、モズク製品及び原材料)及びソデイカについての平成一五年三月三一日現在での棚卸評価として、モズクに関しては、棚卸評価損(品質評価)を合計九二八九万〇二六七円、ソデイカについては棚卸評価損(品質評価)を九一二七万三八四八円とそれぞれ計上した。

二  争点及び当事者の主張

(1)  本件検品作業及び査定・評価手続は適正に行われたか。

(原告の主張)

ア 原告は次のとおり本件検品作業を実施した。

(ア) 日時、場所等

日時 平成一五年四月一四日(月)午前一〇時から午後三時まで

場所 糸満冷蔵庫前

検品者 Bほか理事七名、Cほか監事二名、被告Y3ほか職員一一名

検品対象 冷凍保管していた平成一一年度産の本モズク八一缶及びソデイカ短冊一パレット(五キログラム×八〇ケース)

(イ) 検品方法と結果

a モズク

(a) 検品方法

缶を空け、においをかぎ、カビや異物の有無、色を確認した上で、水切りかごに移す、水に入れてかき回すなどして溶け具合をみた。

(b) 検品結果

三万二一三七缶のモズクのうち、約三万一〇〇〇缶が平成一一年度に買い入れたモズクであり、明らかに品質が劣化し商品価値がないと判断されたモズクは、うち一万八三四四缶にのぼった。

b ソデイカ

(a) 検品方法

黄ばみ、白点のあるものを抽出し、あらかじめ解凍しておいたものを刺身で試食した。

(b) 検品結果

黄ばみのあるものは、アンモニア臭がして食べられない状態であり、白点(解凍すれば消失する)があるものは、味は問題ないが、冷凍状態で販売されることから、外見上販売できる状態ではなかった。

イ 本件検品作業には、被告Y3が立ち会っている。被告Y3は検品の結果をだれよりも分かっていたはずである。被告Y3は、その後開催された理事会において、「四月一四日に行った理事・監事立会いによるモズクとソデイカの品質検査ではすべてを調査することはできませんでしたが、無作為抽出により検品した結果に基づき今回の資料を作成しております。評価額を一円としたことについては、先ほど専務から説明があったとおりであります。」などと発言している。

また、検品の後、帳簿で品質評価損を計上した際には、原告内部で「起案書」を回しており、前記第二の一(4)のような会計処理をしたことは、被告Y3を含め、担当職員が皆納得した上でのことであった。

ウ なお、品質評価損としたモズクについては、一部を安く食用として、又はフコイダン抽出用などとして販売し、同じくソデイカについては、一部を販売し、一部を家畜の飼料製造業者に無償譲渡するなどして処分した。

エ 被告らは前記検品作業について、利害関係のない調査担当者がおらず、客観的かつ公正ではないとか、検品対象の量が少なく不適正であるといって、「本件検品作業の目的は、後日、被告らに対し損害賠償請求をするための資料作りとしてされた可能性が大である。」などと開き直るが、前記のとおり、本件検品作業には被告Y3が立ち会っており、検品の方法や結果については、すべて被告Y3の承認があり、検品を基にした時価評価の内容についても同被告はこれを了解していたのであるから、被告らの指摘は当たらない。また、本件検品作業は、現執行部ではなく、前執行部が実施し、三億円の損失金を計上したものである。そして、その結果、原告は再建計画の策定を余儀なくされ、前執行部は責任を取って総辞職に至ったのであり、執行部不在という異常事態の中選出された現執行部は、検品と時価評価の結果を受け、どん底から再建を図っているにすぎない。したがって、現執行部が被告らを訴えるために不当な検品をした旨の主張は、そもそも的はずれである。

(被告らの主張)

ア 原告の本件請求は、平成一五年四月一四日時点において本件検品作業を行ったところ、在庫商品がほとんど無価値の状態となっていたことを大前提として構成されている。しかし、原告主張の本件検品作業なるものは、担当職員にも十分な説明もされず急きょ実施されていたこと、本件検品作業は利害関係のない調査担当者又は専門家の立会いなくされたもので、客観的かつ公正なものではないこと、作業内容自体も、午前一〇時から午後三時までのわずか四時間の作業であったこと、検品対象もモズク在庫三万二一三七缶に対し八一缶という全量に対しわずか〇・二五パーセント程度の数量を調査しただけであり、これにより全商品の品質査定が可能であったとする極めてずさんなものであること、本件検品作業の目的は、後日、被告らに対し損害賠償請求するための資料作りとしてされた可能性が大であったといえることからすれば、到底信用できない。原告は、この作業での査定・評価が適正かつ合理的なものであることを大前提として、当初は、モズク等在庫商品の簿価額と検品作業による査定・評価額との差額が損害であると主張し、その後は、このような評価ゆえに異常な安値でしか売却処分できなかったとして、簿価額と実売価額の差額金一億三〇七五万円余という損害賠償請求を行っているが、このようなずさんな査定手続を根拠として、被告らに対する損害賠償金算定の根拠とするということは、余りに不公正・不合理である。

また、原告は、本件在庫モズクを検品後に売却処分したとするが、この売却は、本件検品に基づく査定評価額が適正かつ公正であることを大前提として価格設定していたため、必然的に正常取引価格に比して異常な安値販売、いわば投売りの状態での売却となったのである。すなわち、本件検品作業による評価が、そもそも不合理・不公正なものであったということになると、むしろ原告主張の損害は、異常な低額査定による売却自体が原因であったというべきである。

イ 原告は、本件検品作業に、被告Y3が立ち会っていたと主張するが、被告Y3は、本件検品作業が行われることを当日知らされ、検品会場にも、D会長(当時の原告代表理事)とともに、あいさつのため顔を見せただけであり、本件検品作業には従事していない。

また、検品、評価、損失の計上の一連の作業は、財務改善計画策定手続の一環として取り組んだものであり、損害賠償額査定のための、厳格かつ合理的で公正な査定作業とはなっていなかった。すなわち、当日、E部長が「もずく品質判断基準」を記載した紙を立ち会っていた理事・監事に配布した上で、E部長とF総務部次長が、G理事、H理事、I監事が主導する検品評価の内容を記載し、当日の午後、糸満事業部において、B専務とE部長、F次長らが評価額の素案を作成するという、実にずさんな査定手続であった。

ウ 原告の下記(3)の主張によれば、塩蔵モズクは、マイナス一五度以下の状態で保管すれば、保管開始後二年間は品質をぎりぎり保持することができるとのことであるが、本件検品作業時点において満二年を経過していないことが明らかなものについても品質が△又は×と評価されており、この点からしても本件検品結果の信用性は乏しいと解すべきである。

(2)  被告らは、モズクの在庫及びソデイカの仕入れと在庫の管理に直接関与していたといえるか。

(原告の主張)

ア 被告Y3は、平成一一年九月一日に参事として原告に迎え入れられて以降、販売課を総務部水産会館内に移転させ自己の直轄管理下に置くとともに、部下に上司を批判・評価させて、これを自ら取りまとめて勤務評定を行うという極めて劇的な組織改革を断行した。その結果、被告Y3は、部課長の影響力を極力排除し、事業部長や課長の頭越えで販売課のモズク担当課長代理、ソデイカ担当課長代理に指示を出し、業務報告を求めるなど、自ら直接の権力行使を行った。

したがって、被告Y3は、課長以下の職員に直接指示、命令を出し、報告を受けることで、在庫品の管理等の課長専決事項に直接関与していたことになるから、本件で原告が問題としているモズクの在庫及びソデイカの仕入れと在庫の問題は、被告Y3が事実として細部にわたり掌握し、管理責任を負っていた業務に起因するものにほかならない。

さらに、被告Y1及び被告Y2については、被告Y3の前記専横を認め、同被告に全く好きにやらせていた点において、同被告に対する管理義務を懈怠しており、その意味で、善管注意義務違反があるというべきである。

イ(ア) 原告の役員は、法令、定款や総会決議を遵守し、連合会のために忠実にその職務を執行しなければならない義務を負っていることから、個別の業務執行について担当の中間管理職が専決権を有するとしても、同管理職の業務執行状況を適切に監督することは役員の義務であり、その意味において、専決権を有する管理職における善管注意義務違反行為が役員の善管注意義務違反を基礎付ける場合が存在する。本件についてみれば、被告らの責任として、現場責任者をして適切に事業実行させなかった監督・指導義務違反をも当然に含むものである。

(イ) また、本件在庫モズクの保管管理及び販売方法に関しては、理事会や通常総会で毎回のように理事や会員から問題提起され、その都度被告らはこれを検討し、適切に処理する旨意思決定し、答弁している。本件在庫モズクについては、遅くとも平成一二年度通常総会が開催され、そこで被告Y1が在庫の保管方法及び流通方法について答弁した時点において、役員案件となっていたのであるから、被告らの専決権の対象となっていたというべきである。

(被告らの主張)

ア(ア) 原告は、平成一三年一月二三日に開催した理事会において、事業部を従前の二課体制から三課体制へ組織変更した。この組織変更により、事業部長が、加工販売課と購買課の業務を掌理するのに便の良い那覇市前島在の水産会館内に移動させたのであり、原告が主張するような、被告Y3が部課長の影響力を極力排除し、自ら直接権力行使を行ったとの事実はない。

勤務評定についても、「人材育成が十分に行われていない。管理職の資質に起因している。」との現状認識から、管理職の資質、能力及び実績を評価し、業務推進意欲の奮起を促すために、主任クラスによる評価制を導入してみたのであり、適正な人事管理を目標にされており、あたかも被告Y3の支配体制構築のためであったかのごとき原告の主張は不当である。

(イ) 原告は、被告Y3が課長専決事項に直接関与していたから、被告らに善管注意義務違反が認められると主張するが、かかる主張は根拠がないものであり不当である。被告Y3は、若手職員の資質の向上を図るため、時間の許す限り意見交換等の交流をしていたところ、そのような席上で、業務に関する相談に対して被告Y3の意見を述べたり、被告Y3が認識していた上記若手職員らが取り組むべき課題についての指示を与えたことはある。しかし、原告の職務分掌規定に反し、被告Y3が事業部長や課長の頭越しで業務決定権を行使していたとか、担当部課長の職務のすべてに関与していたとの事実は全くない。

したがって、原告の主張は失当であり、ましてや、被告Y1及び被告Y2が、被告Y3の専横を認め、被告Y3に対する管理義務を懈怠していたとの原告主張の不合理性は明白である。

イ(ア) 原告は、被告らにおいて、モズク冷蔵保管方法について具体的に管理すべき注意義務があることを前提としているが、原告のような沖縄県でも比較的大規模といえるような事業体においては、代表者ら役員がすべての部門を掌握し、その全部門について善管注意義務があると解することはできない。原告の組織規定である職務分掌と職務権限内規で定められた権限者が第一次的には全責任を負うと解するのでなければ、原告組織は機能不全を来すことになる。そして、原告においては、職務分掌と職務権限内規により、各担当者に具体的業務の専決権が与えられているが、本件在庫モズクの冷蔵保管業務の専決権者は、事業部の販売課長又は購買課長であり、最終専決権は事業部長であるから、冷蔵庫の冷蔵温度が三度という不適切な温度であったことを理由とする被告らに対する善管注意義務違反の主張は理由がない。

(イ) また、本件在庫モズクの販売業務についての専決権者は、第一次的には事業部の販売課長、最終的には事業部長にある。特に、原告が主張する本件在庫モズクの品質保持期限がいつであるのかについての知識と経験は、当該業務担当者にしか詳しくは分からない事項であるから、当該担当責任者において適切な保管及び処分時期についての処理方針を樹立すべきであったものである。

(3)  被告らに、在庫モズクの品質を劣化させないよう適正な管理をすべき注意義務及び適正な時期に全量を売却処分すべき注意義務があったか。

(原告の主張)

ア 平成一一年に仕入れた二八万缶超のモズクのうち約二万缶については、仕入直後よりプラス三度の冷蔵で保管されていたため、これらは直ちに品質が劣化し、商品価値を失っていた(以下、これらのモズクを「本件冷蔵保管に係るモズク」という。)。モズクは、冷蔵庫ないし冷凍庫でマイナス一五度以下の状態で保管する必要があることからすれば、被告らは、本件冷蔵保管に係るモズクについては保管方法を誤ったものである。

イ(ア) 塩蔵モズクは、マイナス一五度以下の状態で保管すれば、保管開始後二年間は品質をぎりぎり保持することができ、それが長期保存の限界である。このことは、漁業関係者の間では常識であった。したがって、本件在庫モズクに関しては、平成一三年六月末日までが品質保持期限であったから、この時点では本件在庫モズクの品質は劣化していたというべきである。

(イ) 被告らは、生モズクをマイナス三〇度以下で六年間冷凍保存した場合でも、その品質に食品衛生上の問題はないと主張するが、本件で問題となっているのは、飽くまで塩蔵モズクである。塩蔵モズクは、常温での保管と輸送を可能にするため塩漬け加工されたモズクであるが、塩焼け(塩に負けて品質が劣化する状態)が引き起こされる点で、生モズクと比較すれば冷凍保存には適していない。したがって、冷凍で長期保存した場合、生よりも塩蔵の方が早く品質が劣化するのは当然である。

(ウ) 以上のとおり、本件在庫モズクについては、平成一三年六月末日の時点では品質が劣化していたとみるべきであるから、仕入れから二年後である平成一三年六月末日までにすべてを売却する注意義務が被告らにはあった。しかるに、被告らは、当該時点以降も在庫を抱え、売却可能性を逸脱した点において、善管注意義務違反がある。本件在庫モズクに関しては、平成一三年六月末日までに売り出せばすべて処分できた高度の蓋然性があるので、本件で原告が請求しているモズクに関する損害分すべての発生を未然に防止することができたはずである。

(被告らの主張)

ア 原告主張の、保管方法を誤った本件冷蔵保管に係るモズクについては、前記(2)(被告らの主張)イ(ア)のとおり、被告らに責任はない。

イ 原告は、塩蔵モズクをマイナス一五度以下の状態で保管しても、保管開始後二年を経過すると、品質が劣化すると主張するが、被告らは、当時の冷凍倉庫保管業務の担当責任者から、マイナス一五度以下で冷凍保管すれば、相当長期(二年以上)品質は劣化することはないとの報告を受けていた。

冷凍生モズク(これは原告の糸満冷凍冷蔵庫保存のモズクである。)をマイナス三〇度の凍結状態で六年間保存したところ、見た目や感触ではほとんど問題がなく、一般生菌数が三〇〇以下で大腸菌群も陰性であり、モズクの品質は食品衛生上の問題はなかった。

この結果を踏まえれば、原告が主張する、二年間で品質が確実に劣化するので二年間経過前にすべて処分すべきとの前提が崩壊したことになる。

したがって、本件在庫モズクが平成一三年六月末日の時点で、品質が劣化していたということはできないのであるから、被告らに原告が主張するような注意義務違反はなかった。

(4)  被告らが平成一三年六月末日の時点でモズクを全量売却処分しなかったのは、合理的な判断といえるか。

(原告の主張)

ア 被告らは、本件在庫モズクを平成一三年六月末日までに処分しなかった理由について、平成一二年度及び平成一三年度は、いずれもモズクが豊作で、モズクの市場価格が暴落したことから、原告が在庫を市場価格で売却すれば、更なる値崩れを起こし、漁民の生活を直撃し、その結果、経営破綻という最悪の事態を招来しかねないとの大所高所の視点から、原告会員たる単位漁業協同組合の組合員(漁民)の生活向上、経済的・社会的地位の向上を図るという原告の設立目的、存在根拠に照らし、正当かつ合理的な判断で処分を控えたものと主張する。

しかし、そもそも、モズクの価格推移についていえば、平成一一年度だけがキログラム当たり約三〇〇円という異常な高値で取引されており、その前後は一〇〇円から一五〇円の間で推移しているのであるから、平成一二年度及び平成一三年度に暴落したのではなく、平成一一年度が暴騰したのであり、翌年以降は平年並みに戻ったとみるべきであるから、平成一二年度及び平成一三年度にモズク原藻価格が暴落したという表現は適切ではない。また、本件で問題となっている本モズクの平成一二年度及び平成一三年度の県内収穫量はそれぞれ一万三一八〇トンと一万五四二〇トンであるところ、平成一一年度末に原告が抱えた同年度産本モズクの在庫は五万三八六二缶、重量にして九六九・五一六トンなのであるから、これを二年間の間に少しずつ販売すれば、市場価格へ悪影響を与えるという事態はまず生じなかったはずである。

イ 被告らは、在庫モズクの簿価を引き下げるために安価で余剰モズクを買い取っていたが、これは在庫を増やしただけで、在庫処分とは本来は相反する行為である。被告らは、本件在庫モズクの簿価を引き下げることで在庫処理を進めようとしたというのであるが、これは、逆ざやは許されない、との誤った考えを前提としたものである。すなわち、原告が抱えたのは生鮮食品の在庫なのであるから、保持すればするほど陳腐化の程度は増し、いずれ商品価値がなくなるのは自明であったため、仕入価格で販売できる環境がなければ、逆ざやでもどんどん処分する必要があり、それは経営判断として全く責められる行為ではなかった。しかるに、被告らは、簿価以下での処分をためらい、逆に在庫を増やして簿価を引き下げるなどという本末転倒な行為に打って出て、結果大量の在庫を商品価値がなくなるまで抱えて、巨額の赤字を招来するに至っているのである。

なお、被告らが抱き合わせ販売を実施したのは、在庫を市場に大量に放出することによって生じるモズク価格の大暴落を未然に防止するためであったなどというが、平成一二年度及び平成一三年度は共にモズクが豊富で、市場価格はキログラム当たり九〇円から一五〇円程度と安価で推移していたのであるから、原告がヒネもの(越年在庫)を処分したところで価格が更に大きく下がることは考えられなかった。むしろ、いつまでも原告が大量の在庫を抱え続けたことで、市場の不安を引き起こして、平成一二年度及び平成一三年度産新物の価格が抑えられたと評することさえできるのである。

ウ 被告らは、被告らの施策が総会で承認されたと主張するが、そのような事実はない。確かに、平成一二年度総会では、できるだけ赤字を出さないように、一度に全量を安価で処分することは避けるという方針が承認されているが、これは平成一五年まで四年間以上も平成一一年度産モズクを抱え続けることの承認ではなく、逆ざやでの処分をしないという方針の承認でもない。まずは徐々に販売して、極力逆ざやを避けようという方針に所属員が同意したまでであって、それでも売れ残った在庫の処分については、議論さえしていなかった。また、緊急組合長会議において、被告らから「二、三年掛けて徐々に販売する。」という当初の方針が表明されてはいるが、総会や組合長会議でこれを決議したり承認手続をとったという事実はない。極めて重要な事実として、そもそも被告らは二、三年で処分すると言いながら、四年後まで大量の在庫を抱えていたのであり、被告らが合理的な判断を行っていたということはできないはずである。

エ 被告らが本件在庫モズクの在庫を売り控え、結局は商品価値を失うまで放置した理由の一つとして、被告らは、一缶当たり五七〇〇円近くで購入した物を平成一二年、一三年の市場価格である一缶当たり三〇〇〇円程度で売却すれば、在庫モズクだけで一億円以上の損を出すことになるので、責任問題を回避するために、市場価格の数倍である仕入価格で本件在庫モズクを資産計上し続け、欠損を表面化させないようにしたということがあげられる。

(被告らの主張)

ア 平成一二年度、一三年度産のモズクが予想以上に豊作となったことから、市場での売渡価格が暴落していた。このような情勢下において、仮に原告が保有する大量のモズクを市場に放出すれば、モズクの生産者価格が暴落し、モズク生産漁民の生活を直撃し、経営破綻という最悪の事態を招来しかねないとの大所高所の判断から、原告の当時の事業部長らは、前記モズクの販売を控えたものであり、被告らもこの方針を是認してきた。この販売方針は、原告の設立目的、存在根拠からして当然に正当かつ合理的なものと評価されるべきである。

イ 被告ら当時の理事執行部及び理事会は、単純に大量の在庫を市場原理に従い処分すればモズクの価格は大暴落すると予測されたことから、本件在庫モズクをどう処分すべきか検討し、新規県外加工メーカー等の開拓、県内企業への販路開拓、新商品開発と新たな使用方法の提案、各種イベントでのPR、漁連役職員各自の取組等の販売努力を実施してきた。さらに、平成一二年度からは、買取販売から受託販売方式に改め、受託品と在庫品との抱き合わせ販売方式で在庫品の処分に努力し、さらに、平成一三年度には、生産業者である久米島漁業協同組合や本部漁業協同組合の協力を得て、在庫品の単価を引き下げることを目的として、加工処理費のみという安価でモズクを仕入れ、在庫品と加工原料の単価引下げに努めてきた。

これらの政策は、当時の理事らのとりうる施策とすれば、最善ではないとしても、適切、妥当かつ合理的な施策であった。

ウ 仮に原告が主張するとおりに本件在庫モズクを一挙に全量市場に放出すれば、かつて経験したことがないようなモズク価格の大暴落となった可能性が極めて高い。なぜなら、沖縄県もずく養殖業振興協議会では、毎年の需要を予測し、目標生産量を設定しているが、平成一一年から平成一四年までの長期間にわたり、目標を上回る生産実績で推移しており、原告の在庫以外にも余剰生産量が市場にあふれていたことから、新たな需要を掘り起こす以外に、原告在庫を解消できる環境はなかったからである。

そこで、原告が平成一三年度価格にて全量処分した場合と、仮定的に平成一三年度価格の七割程度でしか処分できなかった場合を想定して原告の処分損害額を試算してみると、原告が被告らに対して請求している損害額よりも実に七三九六万六七三三円も超過した莫大な損害を被っていたのである。そうであれば、被告らの施策は、合理的な判断であったというべきである。

エ 本件のモズク大量在庫問題は、在庫が発生した平成一二年度から原告組織内で議論され、被告らの、「直ちに在庫品を放出すると市場が混乱するので、二年~三年を掛けて徐々に流通させていく。平成一二年度は、受託販売でいき、できるだけ買取販売はしない」旨の方針が、総会及び組合長会において承認されてきた。このような原告組織内における適正な手続で本件在庫モズクの処分方法が承認されているのであり、この点からも被告らの施策は合理的な判断であったというべきである。

オ なお、平成一三年時の四万七八九四缶の差額損害金は、後記(6)(被告らの主張)イ(ア)③のとおり一億六六八五万七〇〇〇円であり、平成一五年以降の実販売によって確定した原告損害は、後記(6)(被告らの主張)イ(イ)b④のとおり一億二一〇四万一三六五円であるから、被告らが販売差損の金額を減少させるべく経営努力をしたことが裏付けられた結果となっている。

カ 会社の取締役は、経営判断に当たり、善管注意義務を負うものであるが、経済的・専門的事情等を考慮する必要があることから、広範な裁量が認められる。したがって、同義務違反を検討するに際しても、そのような裁量を逸脱したか否かの点から判断すべきであり、いわゆる経営判断の原則を採用するべきである。そして、被告らについても、取締役の場合と同様、その任務違反の判断には経営判断の原則を用いるべきであって、経営判断の原則に照らして検討すれば、被告らの上記のような判断には、任務違反は認められない。むしろ、後記(6)(被告らの主張)イのとおり、被告らの判断は経営上極めて正当な事務処理であった。

(5)  被告らは、平成一五年四月一四日時点で在庫として抱えていたソデイカを適切な時期までに販売すべきであったか、あるいは販売するよう現場サイドに指示すべきであったか。

(原告の主張)

ア 被告らには、平成一五年四月一四日時点で在庫として抱えていたソデイカのうち、本件検品作業で「棚卸評価損(品質評価)」に分類された以下のものを、次の時期(商品価値を保持できる期限)までに販売する、あるいは販売するよう現場責任者に指導する注意義務があった。

(ア) 原体

a(a) 04(五万二〇六六キログラム)

加工前の原体は、冷凍保存しても水揚げから一年半から長くて二年で商品価値がなくなるという常識に照らし、全量平成一四年末までに処分すべきであった。したがって、被告らには、そのように現場責任者に指示すべき注意義務があった。

(b) 05(一万二四八三・四キログラム)

この年のこの分量は、仕入段階から鮮度が極めて悪い商品であったため、平成一四年一〇月までに全量処分すべきであった。したがって、被告らには、そのように現場責任者に指示すべき注意義務があった。

b 原体は、製品を作るもとであるから、製品の売行きが悪かった以上、余りに多くの在庫を抱えたこと自体が問題であった。在庫過多を認識した時点で、原体のまま売却するなどの方法を模索し、商品価値のあるうちに全量を処分する、あるいは処分の指示を担当者にする義務が被告らにはあったはずである。この点、平成一四年四月か五月ころ、原体をキログラム当たり五五〇円で大量に買いたいという業者がいたが、被告Y3から販売担当者にあてて、「五七〇円でなければ売るな。利幅を確保しろ。」との指示があり、結局販売できなかったという経緯がある。

ソデイカ原体の在庫量は、平成一三年四月の二二トン余りを皮切りに、毎月コンスタントに数トンずつ増え、平成一四年一月に六〇トンを超えてからは、多少の変動はあるものの六〇トン台を維持している。六〇トンといえば、月々二トンから三トン程度しか消費しなかった平成一四年度においては、二〇か月から三〇か月分の在庫であり、毎年漁期がやってくるソデイカの在庫としては、異常な大量在庫であった。

原告におけるソデイカ保管用冷蔵庫の担当者は、平成一四年一月ころから、いわゆる「後入れ先出し」方式により、新しい商品を販売し、古い在庫をそのまま寝かせるという方法で在庫管理を行ってきた。同時期から六〇トン台のコンスタントな在庫を維持したのはその証左である。

(イ) 製品

a(a) 短冊(五万三七二三キログラム)

ソデイカを短冊などの製品にすると乾燥が進み、冷凍保存しても製品化してから一年程度でその商品価値はなくなるため、被告らには短冊を加工から一年以内にすべて売りさばく、あるいは売りさばくよう担当者に指示する注意義務があった。平成一五年四月に検品した際の在庫についていえば、その時点から一年三か月前の平成一四年一月ころから後入れ先出しを行った点に照らし、在庫の品質劣化が判明していた平成一四年五月ころまでに全量を売却処分すべきであった。

(b) 長冊(二六七・八キログラム)及びロール(二〇一八・五キログラム)

長冊とロールについては、販売が好調であったためか、大量在庫の問題はなかった。しかし、平成一五年四月の時点で一部に黄ばみと白点が見られたため、在庫管理に問題があったことは否定できず、被告らは、上記在庫を平成一四年末ころまでに全量売却処分すべきであった。したがって、被告らには、そのように現場責任者に指示すべき注意義務があった。

(c) ロール二級(五三四七・五キログラム)

これは、製造当時から異常があったもので、通常の商品としては販売できない二級品であったから、加工直後に安値で処分する必要があった。在庫としてストックしたこと自体が問題で、被告らには、加工直後にこれらを安値ででも販売するよう指示するべき注意義務があった。

(d) ベタ(三九・五キログラム)

平成一五年四月当時に抱えていた在庫はすべて一年以上前のものであったので、少なくとも平成一四年末までには全量処分すべきであった。

b 短冊については、その在庫には月日の記載しかなく、肝心な製造年度がラベリングされていなかったため、検品時において、残っている在庫がいつの製造であるかが全く分からない状態であった。

イ このように、被告らについて、平成一一年度以降に仕入れ、又は製造した商品を、適切な時期までに販売しなかった、あるいは販売するよう現場サイドに指示しなかった点で注意義務違反があることは明らかである。

(被告らの主張)

ア 原体について

(ア) 04

原告は、04について、冷凍保存しても一年半から二年で商品価値がなくなると主張し、被告らが全量を平成一四年までに処分せず、また、そのように現場責任者に指示しなかった注意義務違反があると主張するが、被告ら及び大多数のソデイカ漁業関係者は、マイナス一三度以下の冷凍冷蔵庫で保管すれば、それほどの品質劣化はないと認識理解している。原告の前記主張は科学的根拠を欠くものであり理由がない。

(イ) 05

原告は、05は、仕入段階から鮮度が極めて悪く、平成一四年一〇月までに全量処分すべきであった旨主張する。原告の主張が成り立つためには、被告らが仕入段階から鮮度が悪い商品であったことを認識していたことが必要であるが、原告の職務分掌規定及び職務権限内規上、ソデイカの仕入段階から被告らが立ち会い、かつ、鮮度について確認をするということは全く予定されておらず、実際に被告らが本件ソデイカの仕入現場に立ち会い、商品の品質をチェックしたこともない。したがって、原告の前記主張は理由がないことが明白である。

(ウ) なお、原告は、被告Y3が、販売担当者に「五七〇円でなければ売るな。」などと指示したとするが、平成一三年度当時、ソデイカ原体の買取価格はキログラム当たり四〇〇円台、棚卸品単価が五五〇円であったことや、平成一四年四月ころがソデイカの盛漁期であり、市場においてキログラム当たり四〇〇円台で購入できたことからすると、業者がキログラム当たり五五〇円での購入を希望するはずがないし、仮にあったとすれば、被告Y3において上記のような発言をするはずがない。

イ 製品について

(ア) 短冊

原告は、① 保管用冷蔵庫の担当者は、平成一四年ころから後入れ先出し方式による在庫管理を行っていたこと、② 短冊は一年程度で商品価値がなくなるため、被告らは加工から一年以内にすべて売りさばく、あるいは売りさばくよう担当者に指示すべき注意義務があったと主張する

そもそも、水産物、食肉類あるいは生鮮食品類の冷凍保管による在庫管理は、先入れ先出しでされるべきことは、業界の常識的知識に属しているところ、原告主張の損害が発生したとするならば、それは、冷凍倉庫の保管管理の大原則である先入れ先出しをなさずに後入れ先出しという異例の出庫管理がされたことが原因と解すべきである。

そして、原告主張の後入れ先出しの管理が行われていたとしても、被告らの職務権限上、冷凍保管倉庫の入庫出庫の管理についてまで注意義務はなかったのである。ちなみに、被告らは、本訴提起まで、原告の現場担当責任者が「後入れ先出し」という不適切な在庫管理をしているという事実自体全く知らなかったから、このような在庫管理方法を改めるべきとの指導・助言をなす前提を欠いている。

また、商品の品質が劣化するとの理由で売却処分の必要性を認めたならば、担当責任者が被告らに上申すべきであり、このような上申がないのに被告らにおいて、当該商品の品質劣化を原因とする売却指示ができたはずがない。

(イ) 長冊・ロール・ロール二級・ベタ

原告は、これらの製品については、製造当時から異常があったから、加工直後に処分する必要があったとか、抽象的に平成一四年末までに全量処分すべきであった旨主張する。

しかし、前記のとおり、被告らは本件製品の加工現場に立ち会っておらず、また、ロール二級が製造当時から異常があったことについての何らの情報も持ち合わせていなかったから、原告主張の時期に処分しなければならないという注意義務を観念することはできないというべきである。

(6)  原告の損害

(原告の主張)

ア モズクについて

(ア) 被告らは、平成一三年度に平成一一年度産のモズク在庫を売却処分すべきであったのにこれを怠って原告に損害を生じさせたものであるので、平成一三年度に販売したと仮定した金額(下記①)と、平成一五年度の販売実績(下記②)との差額(下記③)が原告に生じた損害となる。

① 平成一三年度に処分したと仮定した場合の販売額

販売平均単価二七五一円×平成一四年度末における平成一一年度産在庫モズクの数量三万〇一九二缶=八三〇五万八一九二円

② 平成一五年度の販売実績額

三一九七万一六九一円(販売平均単価一〇五九円〔小数点以下四捨五入〕×平成一四年度末における平成一一年度産在庫モズクの数量三万〇一九二缶)

③ 原告に生じた損害

①-②=五一〇八万六五〇一円

(イ) 被告らは、平成一三年度に平成一一年度産在庫モズクを全量処分すれば、大幅な価格下落が起こるであろうとして、一缶二〇〇〇円で損害額を計算するが、前記(4)(原告の主張)アのとおり、仮に原告が平成一一年度末に抱えていた本件在庫モズクを平成一二年度及び平成一三年度ですべて放出したとしても、市場価格への影響はほぼゼロに等しいか、あっても数パーセントの減であったといえるので、単価は当時の市場価格である一缶二七五一円とすべきである。

また、被告らは、平成一五年四月以降の処分によって原告が被った実損害額(後記(被告らの主張)イ(ア)④)が、許容せざるを得ない損害額である平成一三年時点での売却処分によって生じたであろう推定損害額(後記(被告らの主張)イ(ア)③)よりも少ないので被告らの責めに帰すべき損害がないとするが、被告らは、平成一三年から平成一五年までに売却処分した一万七七〇二缶分の価格下落損を考慮に入れていない点で失当である。

イ モズク保管料について

原告は、平成一一年度産の過剰モズクを、本来処分すべき時期(平成一三年度中)を超えて平成一四年度以降も自己及び委託先の冷凍庫で保管し続けていたため、余計な保管料が発生している。そこで、平成一四年度の在庫モズク保管料一七一三万六二四七円及び平成一五年度の在庫モズク保管料三一六万七七三一円の合計二〇三〇万三九七八円も原告に生じた損害となる。

ウ モズク再洗浄に伴う目減りと再洗浄に掛かった費用

原告は、平成一四年六月二五日から同年七月二三日までの間、本部漁協モズク加工工場において、平成一一年度産の一部在庫モズクを再洗浄し、再塩蔵加工して売却可能な状態に再加工したことがあるが、その際に目減りしたモズクの対価(五六九万八四八六円)や、再洗浄加工に掛かった費用(加工費用一二一万五二三五円及び洗浄経費一九五万一九〇四円)も、平成一三年度中に販売していれば発生しなかったものであるから、その合計額八八六万五六二五円も原告に生じた損害となる。

エ ソデイカについて

平成一四年度中に全量処分したと仮定した場合の販売額一億八八〇三万八二四六円から平成一五年度に処分した実績額一億〇三五二万八一八〇円を差し引くと、原告に生じた損害は八四五一万〇〇六六円となる。

オ なお、本件検品作業及び査定・評価手続が適正に行われたことは、前記(1)(原告の主張)のとおりである。

(被告らの主張)

ア 原告の損害額算定の根拠は、本件検品作業及び査定・評価手続が適正に行われたことが前提であるところ、本件検品作業及び査定・評価手続が適正に行われていなかったことは、前記(1)(被告らの主張)のとおりである。

イ モズクについての個別的反論

(ア) 原告の主張論理によっても、平成一五年四月以降の処分によって原告が被った実損害額(下記④)は、許容せざるを得ない損害額である平成一三年時点での売却処分によって生じたであろう推定損害額(下記③)よりも少ないことから、仮に原告主張の任務違反が存したとしても、原告主張の損害との間には因果関係がないことになる。

① 平成一三年四月一日現在の繰越在庫価格

二億六二六四万五〇〇〇円(在庫数量は四万七八九四缶であり、単価は五四八四円となる〔小数点以下四捨五入〕。)

② 平成一三年六月末までに販売した場合の売却額

単価二〇〇〇円×在庫数量四万七八九四缶=九五七八万八〇〇〇円

単価については、平成一三年六月当時はモズク需要が急減しており、当時の需要を大幅に超過した在庫を一気に供給した場合には、取引価格は更に暴落したであろうことは当然に予測されることから、想定処分価格としては、当時の市場価格である一缶二七五〇円の約七〇パーセント相当額である一缶二〇〇〇円とするのが妥当である。

③ 原告主張論理によれば許容せざるを得ない損害額

①-②=一億六六八五万七〇〇〇円

④ 平成一五年四月以降の販売による原告の実損害額

在庫簿価価額一億六二八七万七七五五円-実販売価額三四三五万六八二一円=一億二八五二万〇九三四円

(イ)a そもそも、原告主張論理では、在庫モズク缶の数量につき、平成一三年六月当時原告が有していた四万七八九四缶を基準としておらず、注意義務基準時点から相当年数経過して処分された一万五七五七缶を控除し、さらに、被告らがモズクの在庫簿価額を減少するために努力して仕入れたものまでも平成一一年度産でないとして控除しており、極めて不合理である。

なお、原告の主張する冷凍庫の温度管理を誤って保管した二万缶の不良品(本件冷蔵保管に係るモズク)については、前記(2)(被告らの主張)イ(ア)のとおり、被告らには全く責任がないから、当該損害分は請求金額構成から除外されるべきである。

b また、原告主張論理では、平成一三年度の簿価額と原告主張販売価額との差額損害が幾らかであるかについての観点が完全に欠落している点においても失当である。仮に、この観点から原告主張論理に基づいて原告主張損害額を計算すると、下記⑤のとおりとなる。

① 平成一三年当時の原告主張の簿価額

単価五四八四円×数量三万〇一九二缶=一億六五五七万二九二八円

② 原告主張単価の七〇パーセント相当額を推定販売価額とした場合の販売手取り金額

単価二七五一円×〇・七×数量三万〇一九二缶=五八一四万〇七三四円(小数点以下四捨五入)

③ 平成一三年度の販売差損額

①-②=一億〇七四三万二一九四円

④ 平成一五年度の販売差損額

平成一五年度の簿価額一億五三〇一万三〇五六円-原告主張実販売額三一九七万一六九一円=一億二一〇四万一三六五円

⑤ 原告計算手法に依拠した場合の原告損害額

④-③=一三六〇万九一七一円

(ウ)a 一般的な企業の営業活動による利益については、仕入れ・販売という体系によるものであり、ある一時期の仕入単価が高コストであった場合の対処方法としては、将来にわたり仕入原価を調整することにより、損害額を最少にすることが行われる。したがって、企業の損益は、一年間の単位ごとに仕入れた商品の金額と販売した商品の金額の差額をもって把握される当期の損益の累計として反映される。

総平均法とは、棚卸資産を種類ごとに区分して、種類等の同じものについて、その事業年度開始の日において有している棚卸資産の取得価額の合計とその事業年度において取得した棚卸資産の取得価額の合計との総和を、その総数量で除して得た価額をもって、一単位当たりの消費価額又は取得価額とする方法である。これによれば、平成一五年度までの各期間における欠損累計は以下のとおりとなり、同年度には原告に生じた損害は完全に解消されていることになる。

① 平成一一年度

販売高 一五億五八二四万四〇〇〇円

原価 一四億一二八九万四〇〇〇円

粗利 一億四五三五万〇〇〇〇円

② 平成一二年度

販売高 三二〇〇万五〇〇〇円

原価 四四三二万六〇〇〇円

粗利 -一二三二万一〇〇〇円

③ 平成一三年度

販売高 一九〇〇万円

原価 二九九二万三〇〇〇円

粗利 -一〇九二万三〇〇〇円

④ 平成一四年度

販売高 二九〇八万一〇〇〇円

原価 五七三九万九〇〇〇円

粗利 -二八三一万八〇〇〇円

⑤ 平成一五年四月一四日の検品による評価損 -九二八九万一〇〇〇円

⑥ 平成一五年度

販売高 九九一〇万円

原価 五二八五万円

粗利 四六二五万円

⑦ 合計

販売高 一七億三七四三万円

原価 一五億九七三九万二〇〇〇円

粗利 四七一四万七〇〇〇円

b さらに、平成一三年度の原告の損害額を利益ペースで換算すると下記③のとおりとなる。

① 平成一三年度販売額

平成一三年度の市場価格二七五一円×数量三万〇一九二缶=八三〇五万八一九二円

② 平成一三年度販売原価

平成一三年度の仕入原価四五七八円×数量三万〇一九二缶=一億三八二一万八九七六円

③ 売上総利益

①-②=-五五一六万〇七八四円

c したがって、平成一三年度に無理な販売をすれば五五一六万〇七八四円の損害が出るが、被告らは、その後の販売努力や仕入単価の調整により、総平均法による原価計算を基に損害額を少額にとどめていることが分かる。

ウ モズク保管料及び再洗浄費用についての個別的反論

原告のモズク関連の請求は、本件在庫モズクを平成一三年六月時点で全量販売すべきであるのにそれを怠ったとして構成されており、この基準時点での損害賠償請求である以上、販売差損の拡大の有無のみが争点というべきであり、平成一三年六月以降も在庫保管していたこと自体が被告らの注意義務違反になるとの構成は困難と解すべきである。

また、原告が自己の商品の販売のために実施する再洗浄等の損害防止のための当然の行為が、なぜ被告らの賠償義務の範囲に含まれるのかについても、被告ら過失との関連を明確にした上での主張がされるべきである。

エ ソデイカについての個別的反論

(ア) そもそも、本件ソデイカについての最大の争点は、在庫管理問題について被告らに注意義務違反があるか否かであり、前記(5)(被告らの主張)記載のとおり、被告らには注意義務違反がない以上、原告が本件ソデイカにつき品質劣化による損害を被ったとしても、被告らには賠償義務はない。

(イ) 原告は、損害構成として、ソデイカの損害額の算定には、平成一四年度の業務報告書に記載された当時の販売実績から割り出した平均単価を基に計算したとしているが、品質維持ぎりぎりの販売期限を示しているにもかかわらず、売価は平均単価で積算しており、問題がある。

当時の流通価格を参考にすると、越年ものは新ものに比べ安い価格で流通することは関係業者の間では周知の事実であり、原告が示す販売額の単価については、当時の流通価格を参考に見直す必要がある。

平成一四年度末実施棚卸時の簿価からすれば、ゲソやロール二級等が平均単価八七一円で売却できたというのは、到底考えられない。

また、原体04の全量については、検品評価がされる前の平成一四年四月二日に販売済みであることから、被告らの責めによる損害とは認められず、ソデイカの損害額から除外されるべきである。

原体05の全量についても、平成一五年度第一回理事会議事録三頁で、販売担当責任者であったEが、「ソデイカが蔵前に到着し、洗浄した後ビニール袋を替えて保冷する作業工程において時間が掛かったり、入荷作業が重なり作業が追いつかなくなり、翌日に作業を繰り越したことなどから、品質劣化したと思われるものがあり、一円評価してあります。」と答弁していることからして、ソデイカの損害額から除外されるべきである。

(ウ) したがって、原体04、05全量について被告らに責任があるとする損害構成の誤りは明白である。

第三当裁判所の判断

一  前提事実に加え、《証拠省略》によれば、以下の事実が認められる。

(1)  原告における業務執行状況等

ア 被告Y1は、平成二年八月から平成一四年六月まで原告の代表理事会長の地位にあり、被告Y2は、平成一一年六月から平成一四年六月まで原告の専務理事の地位にあり、被告Y3は、平成一一年九月から平成一五年八月まで原告の参事の地位にあった者である。

Eは、昭和五三年に原告に就職し、平成一〇年八月から市場部部長に就任し、平成一四年一〇月から糸満事業部長に就任した者である。

Jは、昭和五〇年に原告に就職し、平成一二年二月から原告の事業部長に就任し(平成一三年二月からは原告の購買課長も兼務)、平成一四年一〇月から泊事業部長に就任し、平成一五年九月に原告を退職した者である。

Kは、平成三年に原告に就職し、平成一一年からモズクの販売業務に従事しており、平成一五年九月に原告を退職した者である。

イ 原告が取り扱うモズクの種類には、本モズク(塩蔵、生)及び糸モズク(生)があり、原告は、これらを受託販売及び買取販売の方法により取り扱っていた。また、原告は、乾燥モズク用原料について、生モズクで必要量の仕入れも行っていた。

ウ 原告は、ソデイカについては、原体を仕入れた後、ロール、短冊などに処理加工し、県外市場向けに販売していた。

(2)  平成一一年度産モズクの在庫問題の発生と原告における対応状況

ア 沖縄県におけるモズクの生産状況等

沖縄県におけるモズクの生産量及び一キログラム当たりの単価(生産者価格)の推移は、以下のとおりである(数値は、沖縄県総合事務局農林水産部「沖縄県漁業の動き」及び沖縄県もずく養殖業振興協議会作成資料を基にした、沖縄県におけるモズク生産状況等推移表による。)。

[生産量] [単価]

平成七年 七三五二トン 一一六円

平成八年 七四三〇トン 一一九円

平成九年 一万〇一八〇トン 一三九円

平成一〇年 五九三二トン 一九七円

平成一一年 二万〇四八五トン 三〇七円

平成一二年 一万六一六五トン 一二〇円

平成一三年 一万七〇八〇トン 九〇円

イ 原告におけるモズクの取扱実績

原告の各年度の業務報告書及び事業計画書によれば、原告におけるモズクの取扱実績は、以下のとおりである(なお、平成一四年度以降の販売品在庫の評価額は、原告が行った時価評価の結果によるものである。)。

(ア) 平成七年度

a 買取モズクの販売実績

一一万八四八八缶(販売高三億六〇一九万九〇〇〇円)

b 受託モズクの販売実績

九万三八八四缶(取扱高三億一八三七万二〇〇〇円)

(イ) 平成八年度

a 買取モズクの販売実績

九万一七九六缶(販売高三億五八三三万八〇〇〇円)

b 受託モズクの販売実績

一〇万七九五五缶(取扱高四億〇五五四万九〇〇〇円)

(ウ) 平成九年度

a 買取モズクの販売実績

一七万一七五四缶(販売高六億七一五九万四〇〇〇円)

b 受託モズクの販売実績

八万九三八〇缶(取扱高三億五〇三九万二〇〇〇円)

(エ) 平成一〇年度

a 買取モズク

(a) 販売実績

一七万四八二六缶(販売高一〇億一九二〇万一〇〇〇円)

(b) 平成一一年度への繰越在庫

一万三三三一缶(評価額七五五三万五〇〇〇円)

b 受託モズクの販売実績

一万一五九五缶(取扱高六五六四万三〇〇〇円)

(オ) 平成一一年度

a 買取モズク

(a) 仕入実績

二八万二五八七缶(仕入高一六億三八五二万七〇〇〇円)

(b) 販売実績

二四万二二三六缶(販売高一五億五八二四万四〇〇〇円)

(c) 平成一二年度への繰越在庫

五万三六八二缶(評価額三億〇一一六万八〇〇〇円)(ただし、棚卸差損を含む。)

b 受託モズクの販売実績

一万四二一八缶(取扱高六六四四万五〇〇〇円)

(カ) 平成一二年度

a 原告の平成一二年度事業計画書においては、販売関係業務について、「加工販売課におけるモズク取扱は、産地漁協及び県外加工業者との継続的取引契約による受託販売を基本として価格の安定化と円滑な流通に努めます。」とされ、平成一二年度計画として、受託モズクの販売数量は二一万五〇〇〇缶とされ、買取モズクの販売数量は一万五〇〇〇缶とされた。

b 買取モズク

(a) 仕入実績

二八六一缶(仕入高七九二万九〇〇〇円)

(b) 販売実績

八二八三缶(販売高三二〇〇万五〇〇〇円)

(c) 平成一三年度への繰越在庫

四万七八九四缶(評価額二億六二六四万五〇〇〇円)

c 受託モズクの販売実績

二三万四七六〇缶(取扱高八億五九九四万六〇〇〇円)

(キ) 平成一三年度

a 原告の平成一三年度事業計画書においては、販売課における業務について、「ア.モズク及びソデイカ等の受託販売を行います。また、在庫品となっている買取モズクの軽減策を講じ、新規取引業者の開拓も図りつつ価格の安定化と円滑な流通に努めます。イ.モズクの価格下落が著しい場合には、特定水産物調整保管事業の円滑な発動に取り組み価格の安定化に努めます。」とされ、平成一三年度計画として、受託モズクの販売数量は一五万七五五三缶とされ、買取モズクの販売数量は一万八六七五缶とされた。

b 買取モズク

(a) 仕入実績

四七四五缶(仕入高二一七万三〇〇〇円)

(b) 販売実績

六五三六缶(販売高一九〇〇万円)

(c) 平成一四年度への繰越在庫

四万六一〇三缶(評価額二億三四八九万五〇〇〇円)

c 受託モズクの販売実績

一四万一〇〇六缶(取扱高三億八六六三万一〇〇〇円)

(ク) 平成一四年度(なお、販売品在庫の評価額は、原告が行った時価評価の結果によるものである。)

a 買取モズク

(a) 仕入実績

-六六〇缶(仕入高-五三五万二〇〇〇円)

九三〇一缶を仕入れたが、九九六一缶を加工用に投入したことから、六六〇缶の仕入戻し処理となった。

(b) 販売実績

一万二一五〇缶(販売高二九〇八万一〇〇〇円)

(c) 平成一五年度への繰越在庫(本件検品作業に基づく)

三万二一三七缶(原告による評価額一億七二一四万五〇〇〇円)(ただし、棚卸差損九二六万七〇〇〇円及び棚卸評価損一億五〇九一万三〇〇〇円を含む。)

b 受託モズクの販売実績

七万九七一七缶(取扱高二億〇八二五万五〇〇〇円)

(ケ) 平成一五年度(なお、販売品在庫の評価額は、原告が行った時価評価の結果によるものである。)

a 買取モズク

(a) 仕入実績

一万七八六一缶(仕入高四〇八八万五〇〇〇円)

(b) 販売実績

四万九九九八缶(販売高九九一〇万円)

(c) 平成一六年度への繰越在庫

零缶(評価額零円)

b 受託モズクの販売実績

一〇万一四八八缶(取扱高三億〇三八四万六〇〇〇円)

ウ 平成一一年度に生じた買取モズクの在庫の処理に関するやりとり

(ア) 平成一二年六月一九日、平成一一年度事業報告書などの承認に関する件などを議案とする原告の平成一二年度通常総会が開催された。

その際、出席者から、平成一一年度末時点における買取モズクの在庫に対する原告の対応方針について質疑がされた。これに対して、当時の原告会長であった被告Y1から、越年すると在庫品の品質は悪くなるということはそのとおりだが、原告の冷蔵庫は非常に順調に保冷されており、古くなれば劣化するということを極力避けるように管理を行っている、モズクの値段そのものは平成一一年と平成一二年とで大幅な違いはあるが、今放出することよりも、平成一二年度のモズクと抱き合わせで出荷し、できるだけマイナスを多く出さない方法をとっている、平成一二年のモズクの価格が低くなっているのは、平成一一年における高値により消費が鈍っているためで、値段が下がったことによって消費は今後伸びていくであろうと考えている旨の説明があり、原告事業部長Jからも、約五万三〇〇〇缶の在庫の販売については、一気にはき出すことは行わずに、市場の混乱を避けるため、徐々に出荷していく旨の説明がされた。

(イ) 平成一二年八月九日、原告の会員である八つの漁業協同組合の各組合長の連名により、高額で買取りしたモズクの在庫を抱えたことにより、平成一二年度産モズクの価格に影響を与えたこと、原告の平成一二年度のモズク販売に対する具体的な計画説明もなく、会員及びモズク生産者に不安を与えていること、同時点における市場流通価格によっては多大な損失を被ることになり、今後の組織運営に支障となることなどを理由とする、原告の理事全員に対する改選請求がされた。

これに対し、平成一二年八月一〇日に理事会が開催され、上記の改選請求の理由に対し、平成一二年度産モズクの価格が安値で推移したことと最終的な生産量が把握されていない状況下での放出は市場価格に影響を与えるものと判断して、在庫品の販売を自粛し、平成一二年度産の受託販売に努めた、したがって、在庫品が平成一二年度産モズクの価格に影響を与えたことはない、平成一二年度産モズクの取扱方針については、受託販売に徹することを明確にしてあり、二二万缶を受託販売し、買取販売は二〇〇〇缶程度である、県外市場で平成一一年度の在庫品を多く抱えている状況下で、原告の在庫品を販売した場合は、懸念されている結果になることは承知しており、市場動向をみながら、二年から三年を掛けて販売しなければならないと考えているなどとする理事会の見解案が作成された。

さらに、平成一二年八月一一日、沖縄県漁業協同組合長会の緊急組合長会議が開催され、上記原告理事に対する改選請求の理由やこれに対する原告理事会の見解案が示され、議論がされた。その後、上記改選請求は、取り下げられた。

(ウ) 平成一三年度に入り、モズク生産は良好であったが、市場価格は前年よりも更に低下していた。原告の販売課担当者であったKは、各漁協との間で、販売可能量のみ水揚げするとの調整を行ってきたところ、その協議の中で、余剰モズクを原告に提供してもよいとの話が出たことから、被告Y1、被告Y2及び被告Y3の間で検討したところ、同時点の市場価格と原告の繰越在庫品の単価に大きな開きがあり、原料での販売及び原告加工場での原料としてもリスクが大きいことから、余剰モズクを引き取り在庫品の単価を引き下げる必要があるとの結論に至った。Kは、かかる方針に基づいて、被告Y3とともに、平成一三年五月二三日から同月二五日に掛けて、久米島漁協及び本部漁協に出張して協議を行った。

(エ) 平成一四年五月一五日付けで、原告監事による平成一三年度期末の定期監査の結果が作成されたが、その中で、「大量の在庫を抱えた結果、(中略)計八、八二九千円の支払保管料を負担している。費用軽減のためには、委託先から優先して出荷されたい。ついては、役職員は買取モズクの処理方法(販売、加工)について今後の経営に大きな影響を及ぼすことが必至であるため、総力を上げて取り組んでもらいたい。」旨の報告がされた。

(オ) 平成一四年六月二八日ころ、Kは、「一一年産モズク再加工処理について(伺)」を起案し(書面上の起案日は平成一三年六月二八日と記載されているが、別添資料の作成日や同起案書の決裁日からすると、起案日としての平成一三年の記載は平成一四年の誤記であると認められる。)、平成一一年度産モズク(塩蔵)を、原告モズク加工場の原料として加工投入を行い、製品製造をしているが、平成一一年は高値豊作の年であり、当時加工施設の整備されていない漁協のものが多かったことから、一次加工処理が煩雑で異物の混入が多かった、塩分濃度にもばらつきがあり、品質への影響も懸念されている、そのため再加工処理を施す必要があるが、原告モズク加工場で処理するよりも、本部漁協の協力を得て、産地一次加工場において再加工処理をした方が、在庫の品質維持及び処理費の軽減につながる、したがって、本部漁協の協力を得て一万一六四〇缶の再加工処理を行ってよいかとの決裁伺を行い、平成一四年七月二日に決裁がされた。

(カ) 平成一四年一一月一一日付けで、原告の監事から、平成一四年度中間監査の結果が報告されたが、その中で、「モズクについては、在庫の早期解消と販路拡大、新商品の開発になお一層努力されたい。」、「平成一一年度産モズクの在庫については、市況等を踏まえ、時価による評価等の対処策を含めどのように処理するか検討されたい。」旨の指摘がされた。

また、同日、原告の平成一四年度第六回理事会が開催され、原告のH理事から、在庫については、保管するほど劣化することから、早く処分してもらいたいとの意見が出されたのに対し、Eは、平成一一年度産モズクの品質について一一缶程度のランダムサンプリング調査を行ったところ、劣化は見られなかった、同モズクは乾燥モズクの原料として利用したい考えである旨報告した。さらに、上記中間審査講評及びその対処策に関する件に係る議案の審議の中で、H理事からの、平成一一年度産モズクについては何年で在庫を処理できるかとの質問に対し、被告Y3は、在庫モズクについては伊藤園産業がすべて乾燥モズクで引取販売することになっている、二、三年は掛かるものとみている、当時の単価で換算した場合は話にならないので、他の事業で稼ぎながら損失を補填していくことを考えなければならない旨答えている。そして、同理事会の議長である原告代表理事会長Dから、在庫モズクについては、理事会や総会で常に話があるが、現在乾燥モズクを手がけており、伊藤園産業に販売することになっているので、施設整備をした後二、三年で解消されると思うのでよろしくお願い申し上げますとの話がされた。

(キ) 平成一四年一一月一九日、原告の加工販売課職員Lは、「塩蔵モズク再洗浄加工経費」と題する報告書を作成し、同年六月二五日から七月二三日の間に、本部漁協モズク加工場において行われた、買取モズクの洗浄加工に要した経費についての報告を行い、同年一二月三日に決裁がされた。

(3)  ソデイカの在庫状況

ア 原告におけるソデイカの取扱実績

原告の各年度の業務報告書及び事業計画書によれば、原告におけるソデイカの取扱実績は、以下のとおりである(なお、平成一四年度以降の販売品在庫の評価額は、原告が行った時価評価の結果によるものである。)。

(ア) 平成一一年度

a 仕入実績

八〇六トン(仕入高六億一〇六六万八〇〇〇円)

b 販売実績

四九一トン(販売高四億六七六九万七〇〇〇円)

c 平成一二年度への繰越在庫

八五二トン(評価額五億七八五六万九〇〇〇円)

(イ) 平成一二年度

a 仕入実績

六〇三トン(仕入高四億八七九四万九〇〇〇円)

b 販売実績

七七四トン(販売高七億一六一七万六〇〇〇円)

c 平成一三年度への繰越在庫

六八一トン(評価額四億〇一八六万八〇〇〇円)

(ウ) 平成一三年度

a 仕入実績

一七〇トン(仕入高一億三七九五万八〇〇〇円)

b 販売実績

三七三トン(販売高二億九八二二万八〇〇〇円)

c 平成一四年度への繰越在庫

四七八トン(評価額三億一〇四〇万一〇〇〇円)

(エ) 平成一四年度(なお、販売品在庫の評価額は、原告が行った時価評価の結果によるものである。)

a 製造原価

三九七三万三〇〇〇円

ただし、一億九〇〇七万七〇〇〇円から買取販売による原体販売分一億五〇三四万四〇〇〇円分を仕入戻し処理した後のもの。

b 販売実績

一九六トン(販売高一億七〇七七万八〇〇〇円)

c 平成一五年度への繰越在庫(本件検品作業に基づく)

二七四トン(原告の評価額一億七六一八万九〇〇〇円)

(オ) 平成一五年度(なお、販売品在庫の評価額は、原告が行った時価評価の結果によるものである。)

a 製造原価

一億二五四二万五〇〇〇円

b 販売実績

三一三トン(販売高二億〇〇六五万一〇〇〇円)

c 平成一六年度への繰越在庫

二五トン(原告の評価額一五一五万六〇〇〇円)

(4)  本件検品作業及び在庫商品の処分

ア(ア) 平成一五年四月一四日に、原告の理事らや監事ら、それに被告Y3やEらが立ち会って、原告の糸満冷蔵庫において、在庫のモズク(本件在庫モズクを含む。)及びソデイカの品質検査が行われた(本件検品作業)。

(イ) このうち、モズクについては、以下のような判断基準により、品質検査が行われた。

a 溶け具合

① 全く溶けてなく、熟度もしっかりしていて、使える。

② 表面、横が少し溶けているが、中はまだしっかりしており、まだ使える。

③ 内部まで少し溶けた感じで使えるか疑問がある。

④ 内部まで溶けた状態になっていて、使えない。

⑤ モズクは溶けていないがパサパサ、短いなど問題があり、使えるか疑問がある。

b カビ

① 表面にカビは見あたらず、使える。

② 表面にカビの様なものが見え、使えない。

c 臭い

① モズク加工品本来の臭いであり、特に問題なく使える。

② 何か異臭があり、使えるか疑問がある。

③ 異臭が感じられ、使えない。

d 異物

① 異物は肉眼ではほとんど見られず、問題ないと思われ、使える。

② 肉眼でも多少異物が見られ使えるか疑問がある。

③ 異物が多めで問題があり、使えない。

e 色

① モズク本来の色(黒褐色、褐色)を維持しており特に問題ない、使える。

② 色がどす黒くなるなど、変色しており使えない。

f 上記いずれかに一項目でも使えない、又は使えるか疑問がある場合は使えないと判断する。

使えると判断されたものについて評価額を決定し、売却の努力をすることになるが、売れ残ったものについてどうするのか決める必要がある。

使えないと判断されたものをどうするか決める必要がある。

(ウ) モズクの品質検査は、冷蔵庫に保管しているモズク中八一缶(検品可能な状態にするため、二日前から解凍)を対象として、缶を開け、におい、カビ、色、異物の状況を確認し、水切りかごに移して水切りの状況及び表面の溶け具合を確認し、さらに、かごから一部手づかみでつかみ取り、水の入った容器に移し、それをかき混ぜ、水の汚れ具合からモズクが溶けていないかを判断し、(イ)記載の五項目について、それぞれどれに当てはまるかランク分けした上で、判断として、○評価、△評価ないし×評価をする方法により検品された。評価の内訳は、○評価及び△評価が各二七缶、×評価が二六缶であった(一缶は評価不明)。

(エ) ソデイカについては、製品在庫(短冊)を無作為に一パレット(五キログラム×八〇ケース)を抜き出し検品したところ、黄ばみ又は白点が多く見られた。あらかじめ、刺身を用意し、理事、監事全員が試食したところ、白点については食味上問題はないが、黄ばみについては鼻につんとくる感じがして食べられる状況ではなかった。

イ(ア) 本件検品作業の結果に基づき、在庫のモズク及びソデイカの棚卸評価が行われた。

棚卸評価を行うに当たっては、① 棚卸差損については、実地棚卸しと帳簿在庫との差を差損とする、② 棚卸評価損(品質評価)については、品質が劣化しているもの及びそのおそれがあるものは、次年度に更に逆ざやを出さないよう思い切った評価を行う、③ 棚卸評価損(価格評価)については、帳簿価格が実勢価格とかけ離れている場合は、実勢価格に合わせた評価を行うとの方針が採られた。

(イ) 在庫の買取モズク(本件在庫モズク)については、本件検品結果に基づき、検品の対象とされたものと同一産地・種類のものは、当該同一産地・種類のモズクの検品結果と同様の評価を行い、一万四四六六缶を○評価、五〇六一缶を△評価、一万二六一〇缶を×評価とした。そして、△評価及び×評価のモズクについては、最悪の場合には廃棄も想定されるとして、一缶当たり単価一円で評価し、○評価については、ヒネものとしての実勢価格を想定して、一缶当たり単価八〇〇円で評価した(なお、同一産地・種類のモズクを複数検品し、一円評価のもの(△評価ないし×評価のもの)と八〇〇円評価のもの(○評価のもの)が混在する場合には、平均単価で評価した。)。

その結果、本件在庫モズクの評価については、棚卸差損が一一五六缶で九二六万七三四六円、品質評価損(△評価ないし×評価のもの)が一万七五二七缶で九一二六万四四三七円、価格評価損(○評価のもの)が一万四四六六缶で五九六四万八七一三円とされ、その合計の評価損は、一億六〇一八万〇四九六円とされた。

(ウ) ソデイカは、以下のとおり評価した。

a 原体

原体については、① 04(平成一二年一一月から平成一三年春までの漁期にとれたもの)は、二年以上前の原体で劣化の程度が進行していると思われるため、実地棚卸しの約四割を二級品とし、残り六割を単価二五〇円で評価して平均単価一五〇円で評価をし、② 05(平成一三年一一月から平成一四年春までの漁期にとれたもの)は、一年前のものであるが、これまでの販売実績の中で一割以上のクレーム、値引き処理が発生していることから、おおむね実地棚卸しの二割を二級品とし、廃棄も想定されることから単価一円で評価し、残り八割を単価三〇〇円で評価した。

b ゲソ

ゲソについては、① 平成一二年から平成一四年のゲソ六九二・三キログラムは、劣化が進行していると思われるため、廃棄も想定して単価一円で評価し、② 平成一五年のゲソ八〇九・五キログラムは、買付価格が五〇円であることから五〇円で評価した。

c 短冊

短冊(原体を二五センチメートル長程度の冊に切り分けた製品)五万九四〇九・八キログラムについては、① おおむね九割(五万三七二三・六キログラム)が一年以上も前のものと思われ(年月管理されていないため詳細不明)、長期保存、劣化による変色・白点が多く見られるため、廃棄も想定して単価二四円で評価し、② 残り五六八六・二キログラムは、比較的最近の製造であることから、実勢価格(キログラム当たり一〇五〇円)を想定して、単価九〇〇円で評価した。

d 長冊

長冊二六七七・五キログラムについては、比較的最近の製造であるが、一部変色が見られることから、① 一割(二六七・八キログラム)を二級品扱いとして単価一円で評価し、② 残り九割(二四〇九・七キログラム)は白点が多少見られることから、実勢価格の半値を想定して四五〇円で評価した。

e ロール

ロール(イカの体を開いて丸めた製品で、短冊や長冊の前段階)については、① 小サイズ(三一〇一・五キログラム)は、比較的最近の製造が多いが、変色も一部見られたことから、五〇〇キログラムを二級品扱いとして単価一円で評価し、残り二六〇一・五キログラムは実勢価格(六〇〇円)を想定して、五〇〇円で評価し、② 中サイズ(一五一八・五キログラム)は、変色が多く見られたため、二級品扱いとして、廃棄も想定して単価一円で評価し、③ 大サイズ(二六七七・五キログラム)は平成一五年四月に売却済みとなったため、実勢価格(八五〇円)を想定して単価六五〇円で評価し、④ 二級品(五三四七・五キログラム)は、品質が悪いため、廃棄も想定して単価一円で評価した。

f ベタ

ベタ(イカの本体を板状にした製品)については、一級品、二級品とも一年半以上も前のものであることから、二級品扱いとし、廃棄も想定して単価一円で評価した。

g その他

その他については、簿価及び実勢価格で評価した。

(エ) 本件検品作業に基づく上記モズク及びソデイカの評価については、平成一五年四月二四日に行われた原告の平成一五年度第一回理事会の議案とされ、Eにより説明がされた後、同理事会での議論を経て、全理事により異議なく了承された。

そして、上記評価に基づいて平成一四年度期末棚卸しにおける次年度繰越在庫数量及び評価とすることについて、原告内部で決裁がされ、また、同評価に基づいて、原告の平成一四年度業務報告書が作成された。

ウ 本件検品作業後(一部は、本件検品作業前)、在庫として残っていたモズク及びソデイカは、売却等によりすべて処分され、平成一五年度末における繰越在庫は零となった。

このうち、平成一五年三月末日時点で在庫として残っていた平成一一年度産本モズクで、平成一五年に処分されたものは、合計三万〇一九二缶(なお、このうち約一万五〇〇〇缶は、平成一四年中に再洗浄加工が施された後に平成一五年に販売された再洗浄モズクである。)であり、販売金額合計は三一九七万一六九一円、平均売価は一〇五九円であった。

また、ソデイカについては、合計一億〇三五二万八一八〇円で売却された。

二  以上を踏まえて検討する。

(1)  モズクについて

ア 在庫モズクを適正に管理すべき義務違反について

(ア) まず、原告は、平成一一年に仕入れたモズク中、本来マイナス一五度以下の状態で保管されるべきであるにもかかわらず、仕入直後よりプラス三度の冷蔵で保管された約二万缶のモズク(本件冷蔵保管に係るモズク)について、上記のように冷蔵保管されたため、直ちに品質が劣化し、商品価値を失ったものである旨主張するところ、被告らも上記のように冷蔵保管されていたとの事実関係については、特に争っていない。

原告は、この本件冷蔵保管に係るモズクに関し、被告らには在庫モズクを適正に管理すべき、又はそのように現場責任者を監督・指導すべき善管注意義務違反がある旨主張する。

(イ) そこで検討するに、平成一一年度産モズクは、同年六月までに仕入れられているものと認められるところ(被告Y3本人、弁論の全趣旨。なお、原告自身、平成一一年度産モズクは同年六月末までに仕入れがされたものであることを前提とし、その品質保持期限は二年であるとして、平成一三年六月末日までに売却処分すべき義務が存した旨主張している。)、前提事実(1)イ及び《証拠省略》によれば、被告Y2は、平成一一年六月二一日に開催された原告の通常総会において理事に選任され、同日開催された原告の第三回理事会において互選の結果専務理事に就任したこと、また、被告Y3が原告の参事に就任したのは、同年九月であることがそれぞれ認められる。

そうすると、原告主張のように、仕入直後からプラス三度の冷蔵保管されたことによって、直ちに品質が劣化し、商品価値を失ったというのであれば、被告Y3については、このような冷蔵保管がされた数か月後に原告の参事に就任したものであるし、被告Y2についても、同被告が原告の専務理事に就任した同年六月二一日の時点では、本件冷蔵保管に係るモズクの大部分は既に冷蔵保管がされていたのではないかと推認されるところであるから(被告Y2が原告の専務理事に就任後に本件冷蔵保管に係るモズクについて、仕入れがされ、冷蔵保管されたものと認めるに足る的確な証拠はない。)、そもそも、原告主張のように本件冷蔵保管に係るモズクが冷蔵保管されたことについて、被告Y2や被告Y3に責任が存するものと認めることはできない。

(ウ) また、(イ)説示の点をおいても、前提事実(1)及び(2)並びに前記一(1)記載のとおり、平成一一年当時、被告Y1は、原告の代表理事会長として、本来的に原告の業務全般を総括し、その執行に当たる権限を有していた(原告定款二八条、組織規程一九条)もの、被告Y2(同年六月二一日就任)は、原告の専務理事として、会長を補佐し、会長から委任された業務執行の総括管理を行う権限を有し(原告定款二八条、組織規程二〇条)、また、重要な業務執行について専決権を付与されていた(職務権限内規七条、別表)もの、被告Y3は、原告の参事(同年九月就任)として、専務理事を補佐し、業務の執行を総括する権限を有し(原告定款三三条、職務規程二一条)、業務執行について専決権を付与されていた(職務権限内規七条、別表)ものであるが、原告の業務分掌の規程上、原告における販売モズクの保管業務は、水産物の販売業務、モズクの調整保管事業に関する業務等を行う事業部販売課の所掌とされ、同所掌業務の執行は、特に重要な事項であるとして上位者の専決事項とされない限り、同課課長の専決事項に属するものと認められる(前提事実(2)、被告Y3本人)。そして、本件冷蔵保管に係るモズクについて、その保管業務が特に重要な事項であるとして、上位者(部長、参事、専務理事)の専決事項とされていたものと認めるに足る証拠もないから、本件冷蔵保管に係るモズクの保管業務の執行は原告の事業部販売課長の専決事項に属していたものと認められる。

したがって、被告ら自身が自ら本件冷蔵保管に係るモズクの保管管理を行うべき義務を有していたものと認めることはできず、被告らは、事業部販売課長による本件冷蔵保管に係るモズクの保管業務について、その適正な執行を監督すべき義務を負うものと解するのが相当である。この点、原告は、被告Y3が在庫品の管理等に直接関与していた旨主張し、Eは、被告Y3がモズクの管理についてKに具体的指示を出していた旨の陳述もするが、被告Y3は、本件冷蔵保管に係るモズクの保管に関し、販売先のモズク加工業者からのクレームが入った後に初めて担当職員らから当該モズクがプラス三度の冷蔵庫に預けられていたとの説明を聞いた旨供述するところであって、被告Y3が、事業部販売課長らに対する指揮監督を超えて、直接、本件冷蔵保管に係るモズクの保管業務を行っていたものと認めることはできない。

(エ) そうであるところ、上記のような被告らの権限内容に照らせば、被告らは、原告に対して負う善管注意義務(民法六四四条)の一環として、本件冷蔵保管に係るモズクの保管業務を行う事業部販売課の職員らに対する監督義務を負うものといえるから、以下、被告らにかかる監督義務違反が存するか否か検討する。

この点、《証拠省略》によれば、本件冷蔵保管に係るモズクは、他社の保管施設に保管されたものであるところ、同所で、本来行われるべき冷凍ではなくプラス三度の冷蔵で保管されたために、早期に品質が劣化したものであること、その後、同モズクを購入した加工業者から、同モズクにカビが生えていた等のクレームが入り、同モズクが返品されたこと、被告Y3は、同クレームを受けたことから担当職員らに事情聴取して初めて、同モズクを他社の倉庫にマイナス五度の冷凍保管として預けていたはずが、プラス三度の冷蔵保管されていたとの説明を受け、この冷蔵保管の事実を知るに至ったことが認められる。そして、従前原告において在庫モズクの保管温度を誤ったために商品価値を失わせたことがあったとか、本件冷蔵保管に係るモズクを保管するに当たって事前に冷蔵保管が行われることが分かるような報告資料等が被告らに提出されていたなどといった事情を認めるに足る的確な証拠もない。

そうであるとすれば、事業部販売課の日常の業務に属すると考えられるモズクの保管業務の一環としての本件冷蔵保管に係るモズクの保管について、被告らが、その保管の当初、同モズクが冷蔵保管ではなく冷凍保管されることについて、事業部販売課の職員らに特段の指示や確認をせず、あるいは、その後、同モズクの保管状況を確認しなかったとしても、これをもって、被告らに監督義務の懈怠が存したものということはできず、この点に関し、被告らに善管注意義務違反が存するものとは認められない。

イ 在庫モズクを適正な時期に全量売却処分すべき義務違反について

(ア) 次に、原告は、塩蔵モズクの品質保持期限は二年間であるから、被告らは、平成一一年六月末日までに仕入れた本件在庫モズクについて、平成一三年六月末日までに全量を売却処分すべき注意義務を負っていたものであり、また、同時期までに全量を売却処分しなかった被告らの判断が合理的な判断であったとはいえないから、被告らには、在庫モズクを適正な時期に全量を売却処分すべき、又はそのように現場責任者を監督・指導すべき善管注意義務違反が存する旨主張する。

(イ) そこで、まず、モズクの品質保持期限について検討する。

a 本件在庫モズクには、生モズクと塩蔵モズクが含まれているところ、原告は、特に本件在庫モズクの大半を占めていた塩蔵モズクについて、品質を保持することができる限界は二年間であった旨主張する。

この点、《証拠省略》によれば、モズクを含む水産物については、越年することで、「古いもの」を意味する「ヒネもの」と呼ばれるようになり、商品価値が下落することが認められ、また、被告Y1自身、原告の平成一二年度通常総会において、一般に在庫品は越年すると品質が悪くなること自体は認めている(前記一(2)ウ(ア))。

そして、《証拠省略》によれば、モズク取扱業者三社の塩蔵モズクを仕入れた後の消化期間は、一年半ないし二年以内であることが認められ、また、有限会社肥塚水産加工(以下「肥塚水産加工」という。)及び有限会社行洋商店(以下「行洋商店」という。)に対する調査嘱託の結果によれば、両社は、購入したモズクの在庫管理年限を一年ないし二年としていることがそれぞれ認められる。さらに、《証拠省略》によれば、平成一五年六月二六日に原告役員らが水産庁で平成一四年度決算報告などを行った際に、塩蔵モズクの品質保持期間に関する質問に対し、同行したJが、塩蔵モズクは一年半から二年は大丈夫である旨答えていることが認められる。これらからすれば、仕入れた塩蔵モズクについて、長くても二年以内に消化するのがモズク取扱業者の一般の扱いであったものといえる。

もっとも、これは、モズク取扱業者の在庫管理の基準であるとはいえるものの、このことから直ちに二年を経過したモズクが品質の劣化により商品価値を失うものであるものとまでいうことはできない。このことは、上記調査嘱託を行った嘱託先である肥塚水産加工や行洋商店は、本件在庫モズクのうち、平成一五年四月に行われた本件検品作業の結果○評価されたもののみならず、△評価や×評価がされ、評価額が一缶当たり一円とされた塩蔵モズクをも含めて、その後、一缶当たり九〇〇円(行洋商店)ないし一一五〇円(肥塚水産加工)で購入し、これを製品として使用していることからも明らかである。

b 本件において、冷凍保存されたモズクがどの程度の期間その品質が保持されるかを的確に示す客観的な文献等は、提出されていない。この点、日本水産株式会社(ニッスイ)のホームページにおいて、水産物の品質保証期間として、① 多脂肪魚は、マイナス一八度の保存の場合は四か月、マイナス二五度の保存の場合は八か月、マイナス三〇度の保存の場合は一二か月、② 少脂肪魚は、マイナス一八度の保存の場合は八か月、マイナス二五度の保存の場合は一八か月、マイナス三〇度の保存の場合は二四か月、③ ヒラメ・カレイ類は、マイナス一八度の保存の場合は一〇か月、マイナス二五度及びマイナス三〇度の保存の場合は各二四か月とする表が掲載されていることが認められるが、海藻の一種であるモズクの保存期間について、これら水産物(魚類)と同視することはできない。

c 平成一五年四月一四日に行われた本件検品作業の結果は、前記一(4)記載のとおりであり、溶け具合、カビ、臭い、異物及び色の各項目について、どれか一項目でも使えない、又は使えるか疑問がある場合は使えないと判断するとの方針で品質検査が行われ、その結果、検品された八一缶中、二七缶が○評価、二七缶が△評価、二六缶が×評価され(なお、一缶の評価は不明)、これに基づいて、在庫モズク全三万二一三七缶について、一万四四六六缶が○評価、五〇六一缶が△評価、一万二六一〇缶が×評価とされている。これによれば、本件在庫モズク中、仕入れ時から約四年が経過した平成一五年四月時点で在庫として保管されていたモズクについては、検品がされた八一缶についてはその三分の二に何らかの問題があるとされて△評価ないし×評価され、その全体についても過半数が△評価ないし×評価されているものである。そして、前記一(4)イ記載のとおり、品質が劣化しているもの及びそのおそれがあるものは、次年度に更に逆ざやを出さないよう思い切った評価を行うとの方針から、△評価ないし×評価されたモズクは、いずれも一缶当たり単価一円として評価されている(なお、○評価されたモズクは、一缶当たり単価八〇〇円として評価されている。)。

しかしながら、前記一(4)ウ記載のとおり、平成一五年三月末日時点で在庫として残っていた平成一一年度産本モズクのほぼ全量に当たる合計三万〇一九二缶(なお、このうち約一万五〇〇〇缶は、平成一四年中に再洗浄加工が施された後に平成一五年に販売された再洗浄モズクである。)が平成一五年中に処分されており、その販売金額合計は三一九七万一六九一円、平均売価は一〇五九円であったところ、《証拠省略》によれば、上記処分は、本件検品作業に基づいて△評価ないし×評価とされ、単価一円と評価されたモズクも含めて売却されているものであって、その中には、このように単価一円と評価されたモズクが単価二五〇〇円(サンフーズ。三五〇缶)や、単価四五〇〇円(個人N。合計二缶)あるいは五九一九円(越元機工。一缶)で売却されているものもあることが認められる。また、a記載のとおり、肥塚水産加工や行洋商店は、本件検品作業の結果○評価されたもののみならず、△評価や×評価がされ、評価額が一缶当たり一円とされた塩蔵モズクをも含めて、一缶当たり九〇〇円(行洋商店)ないし一一五〇円(肥塚水産加工)で購入し、これを製品として使用している。そして、両社は、これらモズクについて、通常の品物より品質は落ちていたが、製品にならないほどの悪さではなかった(肥塚水産加工に対する調査嘱託の結果)、あるいは、缶の内側部分のモズクがノリの状態で商品化できなかった、加えて、収穫時期が古いモズクのため、それだけで単独に製品として販売できなかったため、他のモズクと混合して使った部分もある(行洋商店に対する調査嘱託の結果)としている。

このほか、《証拠省略》によれば、Eは、本件検品作業に先立つ平成一四年一一月にも本件在庫モズク中一一缶の検査を行っているが、これらモズクは、全然溶けておらず、非常に新鮮な状態を保っており、品質的に全く問題がなかったことが認められる(前記一(2)ウ(キ)のとおり、Eはこの検査結果を原告の理事会で報告している。)。この点、上記一一缶は、K(当時、原告の糸満事業部加工販売課課長代理(モズク担当))がEから命じられて準備したものであるところ、Eは、上記一一缶が本件在庫モズクであったのかについて疑問を呈している。しかしながら、Eは、その後平成一五年四月に行われた本件検品作業の際、前年秋に行った一一缶の検査との品質の差等について、本件検品作業にも担当者として立ち会っていたKに対し、特に確認や議論もしていないというのであり、他に上記一一缶が平成一一年度産以外のモズクであったものと認めるに足る的確な証拠はない。

d さらに、沖縄県水産試験場普及センター本部駐在技師のMらが六年間冷凍保存した生モズクについて調査した結果によれば、水揚げ時に漁協加工場において洗浄、異物除去した平成一〇年漁期の本部産生モズク二缶(各一八キログラム)を原告の糸満冷凍施設で保管(マイナス三〇度)していたものを、六年後の平成一六年一〇月に取り出して解凍し、缶の上部、中部、底部ごとに色、におい、感触等の官能評価や、生菌数、大腸菌数、粘度の検査を行ったところ、① 色合いなど見た目の評価はほとんど問題なく、感触もぬめりが少なく藻体のかたさも冷凍前のものと変わらない状態であり、においについても上部のモズクがわずかに腐敗臭が感じられたものの、さほど気になるものではないと評価され、② 同生モズクを乾燥モズクに加工したものを水に戻して行った官能評価は、平成一六年度産の原料を使用した場合と大差がなく、むしろ藻体がしっかりとしているとして高い評価がされ、③ 生菌数は、いずれも一グラム当たり三〇〇個以下であり、大腸菌群も陰性であり、食品衛生上問題はないとの結果が得られている。

そして、Mは、上記調査結果に基づき、上記のように原告の糸満冷凍施設において六年保管されていた生モズクについて、少なくとも乾燥モズクとしては十分商品として使用できるものと考えられ、また、衛生上問題がないことから、一般的な洗いモズクとしての利用も可能と思われる、上記調査結果から、冷凍生モズクについては衛生的には六年以上の保存が可能と思われ(ただし、加工種類により妥当な保存期間が違ってくる可能性もある。)、また、乾燥モズクについては、長期保存したモズクであっても、新鮮な原料で作ったものと比較して食感や味などに差が見られなかったことから、商品価値はそれほど下がるものではないと思われる、塩蔵モズクの長期保存試験を実施したことはなく、生モズクの場合と保存期間に差異があるかどうか分からないが、塩蔵モズクについては冷蔵及び冷凍でかなりの期間保存が可能と思われる旨証言している。

e 原告は、塩蔵モズクの場合は、生モズクと異なり、塩分による品質の劣化(塩焼け)が起こるため、生モズクよりも早く品質が劣化する旨主張し、Eは、これに沿う陳述及び証言をするが、冷凍保存されている塩蔵モズクの劣化の程度が生モズクよりも早いものと認めるに足る的確な証拠はないし、また、d記載のように冷凍保管された生モズクについて六年間の長期保存も可能であることからすれば、仮に塩蔵モズクの方が劣化の程度が早かったとしても、塩蔵モズクの品質保持期限が、上記調査結果から認められる六年間の三分の一にすぎない二年間を限度とするものと認めることはできない。

f 以上の検討結果に照らせば、冷凍保存されている塩蔵モズクについて、時間の経過に伴う一定程度の劣化が存すること自体は否定できないものの、その品質保持期限が二年間であると認めることはできない。

したがって、被告らが本件在庫モズクについて、仕入れから二年を経過した平成一三年六月末までにその全量を売却処分しなかったことが、塩蔵モズクの品質保持期限内に処分しなかったものとして、直ちに被告らに善管注意義務違反が存するものということはできない。

(ウ)a (イ)記載のとおり、冷凍保存された塩蔵モズクの品質保持期限が二年間であると認めることはできないものの、長期間の保存に伴う一定程度の劣化や、越年(ヒネもの)による商品価値の低下に照らせば、できるだけ早期に売却処分することが望ましいものといえる。

そこで、被告らが、本件在庫モズクの全量を平成一三年六月末までに売却処分しなかったことについて、被告らの善管注意義務違反が存するものといえるか否か、以下検討する。

b 前記一(2)ア記載のとおり、沖縄県におけるモズクの生産量は、平成七年から平成一〇年までは、一万トンないしこれを下回るものであって、特に平成一〇年は、前年の半分に近い五九三二トンであった。そのため、一キログラム当たり単価も平成一〇年には一九七円と前年より約四割上昇していた。それが、平成一一年は、生産量が二万〇四八五トンと、前年の約三倍半の大豊作となったが、それにもかかわらず、単価も三〇七円と、前年の約五割増となっていた。そして、モズクの生産量は、平成一二年(一万六一六五トン)、平成一三年(一万七〇八〇トン)と、平成一一年よりは下回ったものの、豊作の年が続いた。これに伴い、単価は、平成一二年が一二〇円、平成一三年が九〇円と、急激に下落している。

そのような中、前記一(2)イ記載のとおり、原告は、平成一一年度には、二八万二五八七缶(仕入高一六億三八五二万七〇〇〇円)もの大量の買取モズクの仕入れを行うこととなり、同年度に二四万二二三六缶を販売したものの、平成一二年度への繰越在庫は、五万三六八二缶(評価額三億〇一一六万八〇〇〇円)と、一缶当たり単価五五〇〇円を超える高額の在庫を大量に抱えるに至った(ちなみに、平成一〇年度末の翌年度への繰越在庫は、一万三三三一缶である。)。

このように、高額の在庫を大量に抱えるに至った原告は、翌平成一二年度からは、モズクの買取を極力少なくして、産地漁協及び県外加工業者との継続的取引契約による受託販売を基本として価格の安定化と円滑な流通に努めることとした(平成一二年度の買取モズクの仕入実績は二八六一缶、販売実績は八二八三缶であるのに対し、受託モズクの販売実績は二三万四七六〇缶である。)(前記一(2)イ)。

この平成一一年度に生じた大量の買取モズクの在庫の処理に関しては、平成一二年度の通常総会(同年六月一九日実施)でも議論されたが、その際、原告の代表理事会長であった被告Y1からは、同モズクを平成一二年度産のモズクと抱き合わせで出荷し、できるだけマイナスを多く出さない方法をとっている旨の説明がされ、また、Jからも、平成一一年度産の在庫モズク(本件在庫モズク)を一気にはき出すことはせず、市場の混乱を避けるため、徐々に出荷していく旨の説明がされている(前記一(2)ウ)。

上記のような方針のもと、原告は、在庫の買取モズクを受託モズクの販売と抱き合わせで徐々に売却していたが、モズクの取引価格は、平成一二年も下落したままであり、平成一二年度末の時点における買取モズクの在庫は、四万七八九四缶であった(平成一一年度末の在庫のうち売却処分されたのは、少なくとも五四二二缶ということになる。)(前記一(2)イ)。

原告は、平成一三年度の事業計画においては、在庫品となっている買取モズクの軽減策を講じ、新規取引業者の開拓も図りつつ価格の安定化と円滑な流通に努めるとし、また、モズクの価格下落が著しい場合には、特定水産物調整保管事業の円滑な発動に取り組み価格の安定化に努めるとの方針を立てたが、モズクの取引価格は、平成一三年にも更に下落し、平成一三年度末の時点における原告の買取モズクの在庫は、四万六一〇三缶であった(平成一二年度末の在庫のうち売却処分されたのは、少なくとも一七九一缶ということになる。)(前記一(2)イ)。

c 以上検討した結果によれば、モズクが大豊作となった平成一一年度において、原告は、同年度産モズクを高値で大量に仕入れ、そのために同年度末において高額の在庫を大量に抱えるに至ったものであって、原告の役員であった被告Y1らは、この高額の大量在庫について、これを一気に放出することによる取引価格の更なる下落やこれに伴う市場の混乱等を回避しつつ、後年度産モズクと抱き合わせで徐々に売却するなどして、市場の状況をみながら販売をしていくことによって、損失もできるだけ抑えようとしていたものであり、しかも、そのような方針は、原告の総会や理事会等で被告Y1らから説明がされ、議論を経て、了承されていたものといえる。

そして、モズクは、数年ごとに豊作と不作を繰り返すものであるところ、モズクの品質についての統一的な評価基準は存在しないことや、モズクの取引については、卸売市場での競りがなく、相対取引によっていたことなどのため、価格が乱高下し、各取引ごとにもばらつきが出ることも多くあり、また、モズクは、越年保存が利き、相場も不安定なため、零細な流通業者の投機的な商品としても利用されることなどもあり、そのことも価格が不安定になる原因となっていた。

このように、モズクの取引価格が不安定であることからすれば、原告が抱えていた大量の在庫買取モズクを一挙に放出することが、平成一二年及び平成一三年におけるモズクの取引価格の更なる下落を招いた可能性を否定することはできず、会員が共同して経済活動を行い、所属員(漁業協同組合連合会を直接又は間接に構成する者(水産業協同組合法八七条一項三号参照))の事業の振興を図り、もって所属員の経済的、社会的地位を高めることを目的として設立された法人である原告が、上記のようにモズク取引価格の更なる下落を防止するために、在庫のモズクを一挙に放出することを控え、後年度産モズクと抱き合わせで販売することなどにより、損失をできるだけ少なくする方策を探りつつ、また、モズク相場の上昇にも期待しながら、徐々に本件在庫モズクの処分を図った被告Y1ら当時の原告の役員の判断が合理性を欠くものであるとまで認めることはできず、本件在庫モズクを平成一三年六月末までに全量売却しなかったことについて、被告らに善管注意義務違反が存するものということはできない。

(2)  ソデイカについて

原告は、被告らには、本件検品作業で「棚卸評価損(品質評価)」に分類された以下の在庫を、それぞれ商品価値を保持できる期限までに販売し、又は販売するよう現場責任者に指導する注意義務があった旨主張するので、以下それぞれについて検討する。

ア(ア) 原体04(平成一二年一一月から平成一三年春までの漁期にとれたもの)(五万二〇六六キログラム)について

原告は、原体は、冷凍保存しても水揚げから一年半から長くて二年で商品価値がなくなるのが常識であったとして、原体04全量を平成一四年末までに処分すべきであった旨主張する。

この点、日本水産株式会社(ニッスイ)のホームページにおいて、水産物の品質保証期間として、少脂肪魚は、マイナス一八度の保存の場合は八か月、マイナス二五度の保存の場合は一八か月、マイナス三〇度の保存の場合は二四か月とする表が掲載されていることが認められ、また、平成一五年六月二六日に原告役員らが水産庁で平成一四年度決算報告などを行った際に、ソデイカの品質保持期間に関する質問に対し、同行したJが、ソデイカ原体は一年半から二年は大丈夫である旨答えていることが認められる。さらに、有限会社水実(以下「水実」という。)に対する調査嘱託の結果によれば、水実は、購入したソデイカについては、基本的には二年以内に処分するよう努めていることが認められる。

これらからすれば、仕入れたソデイカ原体について、長くても二年以内に売却処分等するのがソデイカ取扱業者の一般の扱いであったものと推測される。

しかしながら、他方、上記在庫の原体04は、その全量が、平成一五年四月二日に一キログラム当たり一六〇円で水実に売却されているところ、水実は、上記調査嘱託に対し、購入したソデイカ(なお、水実は、原体04のほか、短冊、ロール及び長冊も購入しているが、調査嘱託に対する回答においては、特にいずれについてのものか区別していない。)の品質状態は良好であったとし、また、平成一六年一月に一キログラム当たり八〇〇円から一一〇〇円で売却した旨回答している(上記調査嘱託の結果)。

このことからすれば、ソデイカ原体について、水揚げから長くて二年で商品価値がなくなるものとまで認めることはできず、これを前提としてソデイカ原体04についてその全量を平成一四年末までに売却処分すべきであったとする原告の主張は、理由がない。

(イ) 原体05(平成一三年一一月から平成一四年春までの漁期にとれたもの)(一万二四八三・四キログラム)について

原告は、上記在庫の原体05は、仕入段階から鮮度が極めて悪かったとして、平成一四年一〇月までに全量処分すべきであった旨主張する。

この点、《証拠省略》によれば、原告は、原体05については、四千数百キログラムを廃棄処理し、一万二千数百キログラムを平成一五年中に一キログラム当たりの単価を最低三五〇円として売却処分していることが認められる。

そうであるところ、上記原告が主張するように仕入段階から鮮度が極めて悪かったとすれば、廃棄処分をも含めた処理を検討せざるを得ないものとはいえても、そのことから直ちに、そのような原体05について仕入れから半年ないし一年以内に全量処分すべきであったものとまでいうことはできず(そもそも原告主張のような鮮度の極めて悪い原体について、早期に大量に処分できるかどうかも不明である。)、また、上記原告による処分が、仕入段階から鮮度が極めて悪かった原体の処分として、半年ないし一年以内に処分した場合に比して低額な処分となったことを認めるに足る的確な証拠もないから、原告の上記主張は理由がない。

(ウ) なお、原告は、ソデイカ原体について後入れ先出しの方法による不適切な入出庫管理が行われていた旨主張するが、そうであれば、被告らがそのような入出庫担当者による不適切な管理についての責任を負わないことについては、後記イに記載のとおりである。

また、原告は、被告Y3がソデイカ原体について最低販売価格を決め、販売担当者に同価格以下で売らないように指示していた旨主張し、Eもこれに沿う陳述及び証言をする。しかしながら、被告Y3は、上記のような指示をしたことはない旨供述するところ、上記Eの陳述や証言以外に原告主張のような指示を被告Y3がしたことを示す的確な証拠はなく、被告Y3の供述内容に照らして、上記Eの陳述や証言から原告主張の事実を認めることはできない。

イ 短冊(五万三七二三キログラム)について

原告は、ソデイカを製品に加工すると、一年程度でその商品価値はなくなるとして、被告らには短冊を加工から一年以内にすべて売りさばく、あるいは売りさばくよう担当者に指示すべき注意義務があったとし、平成一四年一月ころから、短冊について後入れ先出しが行われていたことからすれば、在庫の品質劣化が判明していた同年五月ころまでに全量を売却処分すべきであった旨主張する。

この点、上記のように短冊について後入れ先出しの方法による入出庫管理が行われていたことは、被告らも特に争わないところ、食品の入出庫管理は先入れ先出し(先に入庫したものから出庫する)が大原則であるにもかかわらず、ソデイカの短冊を保管する冷蔵庫の入出庫担当者が後入れ先出しの方法をとっていたというのである。そして、このような不適切な入出庫管理が過去に問題とされたことがあったとか、現にこのような入出庫管理がされていることを被告らが認識していたものと認めるに足る的確な証拠はないから、上記のように入出庫担当者が後入れ先出しという不適切な入出庫管理を行ったために、長期在庫となり、仮にそのことによって、短冊の商品価値が下落したとしても、これをもって、被告らに入出庫担当者に対する適切な監督を怠ったとして、善管注意義務違反が存したものということはできない(なお、被告ら自身がこのようなソデイカの入出庫管理を直接行うべき義務を負っていたものではないことは、前記モズクについてと同様である。)。

ウ 長冊(二六七・八キログラム)及びロール(二〇一八・五キログラム)について

原告は、上記在庫の長冊及びロールの一部に平成一五年四月の時点で黄ばみと白点が見られ、在庫管理に問題があったことは否定できないとして、上記在庫の長冊及びロールは平成一四年末ころまでに全量売却処分すべきであり、被告らは現場責任者にその旨指示すべき注意義務があった旨主張する。

しかしながら、上記在庫の一部に見られたとする黄ばみと白点が、いつ、どのような原因で生じたものかは明らかでなく、したがって、上記黄ばみや白点が平成一四年末ころ以降に生じたものであって、そのころまでに売却処分すれば高額で売却することができたものとまで認めることはできないから、原告の上記主張は理由がない。

エ ロール二級(五三四七・五キログラム)について

原告は、上記在庫のロール二級については、製造当時から異常があり、加工直後に安値で処分するよう指示すべき注意義務があった旨主張する。

しかし、製造当時から異常があったものについて、そもそもそれを直ちに安値で処分することが可能であったのか、仮に可能であったとしても、その額が平成一四年度の場合と平成一五年度の場合とでどのように異なることになるのかは何ら明らかではなく、原告の上記主張は理由がない。

オ ベタ(三九・五キログラム)について

原告は、上記在庫のベタはすべて一年以上前のものであったので、少なくとも平成一四年末までには全量処分すべきであった旨主張する。

しかしながら、上記ベタがすべて一年以上前のものであったことや、そうであったとしても、ベタについて一年以内に処分すべきものであったものと認めるに足る的確な証拠はなく、また、そうしなかったことについて被告らの注意義務違反を基礎付けるような事実関係も何ら明らかではないから、原告の上記主張は理由がない。

三  以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中健治 裁判官 加藤靖 渡邉康年)

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