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那覇地方裁判所 平成16年(行ウ)4号 判決 2004年7月14日

主文

1  被告が,平成16年4月13日,沖縄県宮古郡多良間村議会議員解職請求署名簿の署名の効力に関する原告らの異議申出を棄却すると決定した処分(多良間村選挙管理委員会告示第2号に係る処分)は,これを取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

主文同旨

第2事案の概要

本件は,沖縄県宮古郡多良間村(以下「多良間村」という。)議会議員である原告らについて行われた解職請求に関し,それが法令の定める成規の手続によらずに収集された無効な署名に基づくものであるにもかかわらず,被告において,当該署名の効力について原告らが行った異議の申出を棄却する決定をしたのは違法であるとして,その取消しを求めたものである。

1  争いのない事実

(1)  原告らは,いずれも多良間村議会議員である。すなわち,原告甲は,平成13年6月に初当選し,現在1期在職中であり,原告乙は,平成5年6月に初当選し,現在通算3期在職中である。

(2)  多良間村においては,平成16年2月15日,A,B及びC(以下,これら3名を「Aら3名」という。)外11名を代表者(以下「本件代表者ら」という。)として,被告に対し,原告らの解職請求(以下「本件解職請求」という。)がなされた。

(3)  被告は,本件代表者らから提出された本件解職請求に係る署名簿(以下「本件署名簿」という。)の署名を有効と証明した上,平成16年3月30日から同年4月5日までの間,本件署名簿を関係人の縦覧に供した。

(4)  原告らは,平成16年4月5日,被告に対し,本件署名簿の署名は,多良間村の臨時職員(Aら3名外)が臨時職員の服務規程に違反し,多良間村臨時職員に関する規則16条,地方公務員法36条2項2号の規定に違反して収集したものであり,被告がこのような違反の事実を知りながら署名代表者及び委任を認めたことは,本件署名簿に係る署名活動に大きな影響を及ぼしているから,本件署名簿の署名自体が無効であるとして,本件署名簿の署名に関して異議申出(以下「本件異議申出」という。)をした。

(5)  被告は,平成16年4月13日,Aら3名を始めとする前記署名収集に携わった者は,いずれも多良間村の臨時職員であり一般職員ではないから,原告らの主張する服務規程違反に値するものでなく,原告らの本件署名簿の署名自体が無効であるとの主張に理由はないとして,本件異議申出を棄却する旨の決定(以下「本件決定」という。)をした。

2  争点及び当事者の主張

本件の争点は,本件署名簿の署名の効力である。

(原告らの主張)

本件署名簿の署名は,以下のとおり,法令に定める成規の手続によらない無効なものであり,これを有効とする判断を維持した本件決定は違法であって,その取消しを免れない。

(1) 地方公務員の服務規程違反により収集された署名である。

一般職に属するすべての地方公務員は,署名運動を企画し,又は主宰する等これに積極的に関与することが禁じられており(地方公務員法36条2項2号),解職請求運動は,地方自治法に基づく一種の署名運動にほかならないところ,多良間村民生課に属していたAら3名及び同村土原区長であったDは,いずれも多良間村の職員であり,また,本件代表者らから委任を受けた者(地方自治法施行令110条,92条2項)の中にも多良間村の職員が多々含まれていた。このような者らが解職請求代表者あるいはその委任を受けた者として解職請求の署名の収集に携わることは,上記法令により厳に禁じられた違法行為である。したがって,本件署名簿の署名は,違法行為に基づいて収集された無効なものである。

被告は,Aら本件署名簿の署名の収集に携わった者は,仮に地方公務員であったとしてもいずれも多良間村の臨時職員であり,一般職でないから,違法ではないとして本件異議申出を棄却しているが,Aら3名外上記委任を受けた多良間村職員が,臨時的に任用されたとはいえ,地方公務員法3条3項各号に掲げる特別職のいずれにも該当しないことは明らかである。被告は,臨時的に任用された公務員はすべて特別職であると誤解し,法令の解釈を根本的に歪めている。

(2) 解職請求代表者となることができない者が解職請求代表者となっている。

地方公共団体の公務員は,公職選挙法89条1項各号に該当する者を除いて,普通地方公共団体の議会の議員の解職請求代表者となることができないところ(地方自治法85条1項,同法施行令115条,公職選挙法89条1項),Aら3名及びDは,地方公共団体の公務員であり,89条1項各号のいずれにも該当しない者である。

したがって,少なくとも本件署名簿の署名は,解職請求代表者の資格のない者が収集したものにほかならず,法令の定める成規の手続によらない署名として無効であることに疑いの余地はない(地方自治法80条4項,74条の3第1項1号)。

(被告の主張)

(1) (原告らの主張)(1)について

ア 多良間村の臨時職員に関する規則は,地方公務員法22条5項の規定に基づき定められているところ,同項中の臨時的任用者は必ずしも一般職に属する地方公務員と限定されていない。

また,地方公務員の場合,ある職が地方公務員であるかどうかを決するのは最終的には各任命権者であると解されているところ,多良間村の臨時職員に関する規則10条は「賃金は日額とし,臨時的任用職員の所定の勤務時間による勤務に対する報酬とする。尚,別表の日当賃金表により,一般職との均衡を考慮して村長が定める。」旨規定しており,「一般職との均衡を考慮して」との文面からしても,多良間村の臨時の職が一般職に属さないことは明白であり,地方公務員法の適用はないと解される。条例又は規則が議会の議決又は執行機関により制定されることからすれば,任命権者である村長又は議会は,多良間村の臨時職員が一般職に属さないことを決定づけている。このように,地方公務員であるかどうかの最終的判断を任命権者が決するという観点から,多良間村の臨時職員は一般職に属さないと判断される。さらに,多良間村が発行する「広報たらま」には多良間村の定員状況について,地方公務員の身分を保有する休職者,派遣職員を含む一般職に属する職員数が「職員数」として記載され,そこには臨時又は非常勤の職員は含まれていないから,この点においても一般職に属する地方公務員と臨時又は非常勤の職員とは,はっきりと区別されている。「広報たらま」は,任命権者である多良間村長の権限に基づき編集,発行されたものであり,上記のとおり,地方公務員であるかどうかの最終的判断は任命権者が決するとされていることからすれば,臨時職員が一般職に属する地方公務員であるとの判断には達し得ないものである。

イ 多良間村土原区長についても,そもそも多良間村における区長制度は,その区における年功によって区民によりその区を統括するため選出されたものにすぎず,村役場の事務を受け持つために任命されたものではない。すなわち,当初から村長の選任により任命されたものではなく,村役場事務の利便性上たまたま区民により選出された者に委嘱しているにすぎない。その事務内容も月1回程度広報等を配布する程度のものである。したがって,当該区長は一般職に属する地方公務員ではない。

ウ 以上より,本件署名簿の署名は有効である。

エ また,仮に,原告らが主張するとおり,署名収集者が地方公務員の服務規程に違反していたとしても,そのことによって収集された署名簿の署名そのものが直ちに無効となるものではない。

今回の解職投票においては,平成16年5月7日に期日前投票が開始されてから執行停止に至るまでの間に,既に期日前投票者726名,不在者投票者36名,合計760名に及び高投票率となっている。その背景には,市町村合併問題で2回にわたる住民意向調査や制定された条例の結果を覆された住民の怒り等があるものと考えられる。住民の意思を重視するならば,原告の主張には,正当性がなく,被告の判断が正当であるというべきである。

(2) (原告らの主張)(2)について

知らない。

第3当裁判所の判断

1  請求代表者となることができない者の本件解職請求への関与について(第2の2(原告らの主張)(2)について)

(1)  解職請求代表者となる資格がない者を解職請求代表者の一人に加えて収集した村会議員解職請求の署名は,たとえその者が直接署名の収集に従事しなかったとしても,その者が請求代表者に名を連ねていることが署名の収集に影響を及ぼす可能性を常に否定し得ないことからすると,すべて法令の定める成規の手続によらない署名として無効であると解するのが相当である(最高裁判所昭和29年5月28日第二小法廷判決・民集8巻5号1014頁等参照)。

(2)  そこで,本件について検討するに,前記第2の1の事実,証拠(甲1,2,4~6,17~19)及び弁論の全趣旨を総合すると,①本件解職請求の請求代表者のうちAら3名は,地方公務員法22条5項所定の臨時的任用の多良間村民生課の職員として,多良間村クリーンセンターに勤務する者であり,辞令上は,いずれも事務補助員として任用されているが,多良間村の事務分掌上は,Aら3名のみがごみ処理施設及び衛生に関する事務を担当する者とされていること,②Aら3名は,多良間村クリーンセンターの管理運営全般をその担当職務としており,その担当職務の具体的内容は,施設管理全般,所轄部署への業務報告,分別作業等の現業を行う作業員の手配や出勤の管理など多岐にわたるものであること,③多良間村クリーンセンターに勤務する職員は,ごみの搬入や分別といった現場作業を行う作業員等を除けば,Aら3名のみであることが認められる。

これらの事実によれば,Aら3名は,地方公務員法22条5項所定の臨時的任用の職員として採用された一般職に属する地方公務員であると認められ,かつ,地方自治法85条1項,同法施行令115条が準用する公職選挙法89条1項各号が規定する普通地方公共団体の議会の議員の解消請求代表者となることができる者のいずれにも該当しない者であると認められる。

(3)  そうすると,本件解職請求の請求代表者のうち,少なくともAら3名は,請求代表者となることのできない者であるから,本件解職請求における本件署名簿の署名の収集は,解職請求代表者となることができない者が解職請求代表者に加わって行われたものとなる。そして,前記(1)のとおり,解職請求代表者となる資格がない者を解職請求代表者の一人に加えて収集した解職請求の署名は,たとえその者が直接は署名の収集に従事しなかったとしても,すべて法令の定める成規の手続によらない署名として無効であると解するのが相当であるから,結局,本件解職請求に係る本件署名簿の署名については,Aら3名が直接署名の収集に従事していたかどうかに関わらず,すべて無効であるというべきである。

(4)  したがって,Aら3名ほか多良間村の臨時職員らが解職請求代表者等に加わって収集された本件署名簿の署名が無効であるとして行った,原告らの被告に対する本件異議申出は理由があり,これを理由がないとして棄却した本件決定は不当であって,取消しを免れない。

2  結論

以上の次第で,その余の点について判断するまでもなく,原告らの本件請求は,いずれも理由がある。

よって,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西井和徒 裁判官 松本明敏 裁判官 岩崎慎)

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