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那覇地方裁判所 平成17年(ワ)1206号 判決 2007年5月30日

主文

1  被告は,原告に対し,金1億4636万3266円及びうち金7530万9918円に対する平成17年12月13日から,うち金7105万3348円に対する平成18年12月29日から,いずれも支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用はこれを5分し,その3を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。

4  この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

1  主位的請求

被告は,原告に対し,3億9224万4513円及びうち3億2119万1165円に対する平成17年12月13日から,うち7105万3348円に対する平成18年12月29日から,いずれも支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

2  予備的請求

被告は,原告に対し,1億3698万3420円及びうち6593万0072円に対する平成17年12月13日から,うち7105万3348円に対する平成18年12月29日から,いずれも支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

本件は,原告が,被告に対し,主位的には,被告との間でごみ処理施設の建設を目的とする工事請負契約を締結したにもかかわらず,被告が原告とは別に建設を依頼した会社がごみ処理施設を完成させたため,被告との間における請負契約が履行不能となったとして,債務不履行に基づき,損害賠償及び訴状送達の日の翌日から(一部の損害については,訴変更申立書送達の日の翌日から。以下同じ。)の商事法定利率による遅延損害金の支払を求め,予備的には,仮に請負契約が成立していなかったとしても,被告は,原告との間で契約締結の準備段階に入っていたのであるから,原告に損害を生じさせないよう配慮する信義則上の義務があるにもかかわらず,上記のとおり別会社にごみ処理施設建設工事を依頼して原告が請負契約を締結して工事を進行させるのを故意に妨害したとして,信義則上の義務の不履行に基づき,損害賠償及び訴状送達の日の翌日からの商事法定利率による遅延損害金の支払を求める事案である。

1  前提事実

(1)  原告は,ごみ焼却のための溶融還元炉の研究及び開発等を業とする株式会社である。

被告は,沖縄本島の北西に位置する離島である伊平屋島を区域とする普通地方公共団体である。

(2)  被告においては,平成12年当時,平成4年度,5年度の農村総合整備モデル事業で建築されたごみ処理施設(以下「旧ごみ処理施設」という。)が稼働していたが,旧ごみ処理施設は故障が相次ぐとともに,一時的にごみを集積する施設がなかったため,ごみの臭気が施設内を漂い,ハエやゴキブリ等の害虫が大量に発生し,また,トラックスケール(ごみを積んできたトラックの重量を測定する施設)が設置されていないため計量ができないなどの問題があり,これに,ごみ処理施設設置基準などの改正もあり,新たなごみ処理施設を建設することが急務となっていた。

そこで,被告は,新たなごみ処理施設を建設するため,平成12年12月,伊平屋村一般廃棄物ごみ焼却施設用地及び機種選定委員会(以下「機種選定委員会」という。)を設置した。審議の結果,機種選定委員会は,平成13年9月7日,ごみ焼却施設の機種としては,コークスベット式ガス化高温溶融炉ミニ高炉を選定するのが妥当である旨の答申を伊平屋村長に対して行った。

機種選定委員会の答申を受けて,被告は,同年11月に株式会社Aコンサルタント(以下,「Aコンサルタント」という。)との間で,伊平屋村ごみ処理焼却施設整備事業発注仕様書作成業務委託契約を締結し,以後,Aコンサルタントからごみ焼却施設整備事業の助言指導等を受けるようになった。また,被告は,同月,原告ほか2社に対して,ごみ処理施設建設工事見積を依頼した。これに対し,原告以外の2社は見積を辞退したため,被告は,見積書を提出した原告のみとの間で,ごみ処理施設整備事業の発注に係る交渉を行うこととなった。

(3)  原告は,平成14年3月に沖縄県島尻郡渡名喜村から,同年11月に沖縄県島尻郡座間味村から,高温溶融炉ミニ高炉を用いたごみ処理施設建設工事の発注を受け,いずれも工事を完成させている。

(4)  平成15年3月25日,伊平屋村議会に平成14年度伊平屋村ごみ処理施設建設工事に係る工事請負契約の締結について,原告との間で請負金額を8億3989万5000円とする請負契約(以下「本件請負契約」という。)を締結したい旨議案が提出され,翌同月26日,同村議会で同議案が審議され,原案どおり可決された。

同工事に関し,工期を同月27日から平成16年3月10日までとし,請負代金額を8億3989万5000円(消費税及び地方消費税3999万5000円を含む。)として,発注者として被告のC村長の記名と被告の公印(伊平屋村長印)が押印され,請負者として原告の記名押印がされた,平成15年3月26日付け建設工事請負契約書(以下「本件契約書」という。)2通が存在する。

(5)  被告は,平成15年8月14日,原告に対し,伊平屋村ごみ処理施設建設工事請負契約について(通知)と題する文書を発送し,ごみ処理施設建設工事に関する原告との交渉を一切終了させる旨を通知した。

(6)  被告は,新たに発足させた機種選定委員会がストーカー方式焼却炉を選択するのが妥当である旨答申したことを受けて,平成16年1月8日,株式会社B(以下「B社」という。)との間でごみ処理施設建設工事請負契約を締結し,同社は,同工事を平成17年5月31日に完成させた。

2  争点及び争点に対する当事者の主張

(1)  争点1…原被告間に請負契約が成立したか否か

(原告の主張)

ア 原告と被告は,伊平屋村議会の議決を受けて,平成15年3月26日,被告のごみ処理施設建設を目的とする,以下の内容の建設請負工事契約(本件請負契約)を締結した。

工事名  伊平屋村ごみ処理施設建設工事

工事場所  沖縄県島尻郡伊平屋村字a地内

工期  自平成15年3月27日 至 平成16年3月10日

請負代金  7億9990万円(税込8億3989万5000円)

本件請負契約締結の時点で,平成15年3月に被告が作成した「伊平屋村ごみ処理事業施設建設工事発注仕様書」(以下「発注仕様書」という。)の記載にかかわらず,不燃物処理資源化施設(リサイクルセンター)の建設は契約に含まれないこと,ごみの受入供給設備はピットアンドクレーン方式(ごみをピットといわれる縦穴式の貯留施設に集積して,クレーンで炉の中にごみを搬入する方式)ではなく,原告が渡名喜村のごみ処理施設において施工したホッパーアンドコンベア方式(ごみをホッパーといわれる貯留施設に集積して,コンベアで炉の中にごみを搬入する方式)を採用すること,また,年間の管理運営委託料を1000万円とすることが確認されていた。

イ 本件請負契約に係る本件契約書中,伊平屋村長の記名押印部分は,C村長の指示のもと,被告の住民課係長であるDが行ったものであり,同部分は真正に成立している。

ウ 被告がピットアンドクレーン方式の採用を主張するようになったのは,本件請負契約成立後である平成15年7月以降に被告が本件請負契約を反故にしようとしてからのことである。

エ 本件請負契約が成立しているにもかかわらず,被告は,前記前提事実(6)記載のとおり,B社に対してごみ処理施設建設工事を発注し,同社が工事を完成させたことにより,本件請負契約は履行不能となった。

(被告の主張)

ア 平成15年3月26日に本件請負契約が成立した事実は否認する。

原告の受注申出は,伊平屋村ごみ処理事業に係る契約条件書(以下「契約条件書」という。)や前記発注仕様書に定める契約条件に従わない不適合なものであったから,平成15年3月26日の時点では,未だ契約は事前協議中であった。

すなわち,離島村である被告では,一括処分するのに必要な量のごみの集積を待つピットアンドクレーン方式が必要であり,その旨発注仕様書にも記載してあるにもかかわらず,原告は,ホッパーアンドコンベア方式に固執し,工事内容について合意に至っていなかった。

イ 本件契約書の伊平屋村長の記名押印は,Dが,C村長の指示なく無断で行ったものである。C村長やDの上司が契約書の作成を指示したことはあったが,押印の指示はしていない。

(2)  争点2…履行不能について,被告に帰責性がないか否か

(被告の主張)

以下に述べるところによれば,本件請負契約が履行不能になったのは,もっぱら,原告の責に帰すべき事由によるものであり,被告に帰責性はない。

ア 原告は,被告の発注仕様書に従わなかった。

原告は,発注仕様書でピットアンドクレーン方式が採用されているにもかかわらず,既にホッパーアンドコンベア方式を採用することで合意されたと主張し,被告の発注仕様書に従わなかった。

また,平成15年4月以降も,原告は,発注仕様書に従うようにとの再三の連絡にもかかわらず,基本設計,仕様について,渡名喜村ごみ焼却施設建設工事と同じ基本設計仕様とするなどと主張して方針を変更せず,被告の発注仕様書に従う姿勢をみせなかった。

イ 原告は,被告に対し,実施設計図書を提出しなかった。

本件請負契約については,被告は設計施工付き契約(いわゆる性能発注方式の契約)を予定していたのであるから,原告は,被告に対して実施設計図書を提出して,その承諾を得る必要があった。にもかかわらず,原告は,実施設計図書を提出しておらず,当然,それに対する承諾も得ていなかったのであるから,自己の債務を履行しておらず,他方,原告から反対債務の履行を受けていない被告には債務不履行はない。

ウ 原告は,被告からの来村の要請に従わなかった。

国や沖縄県では,平成14年,15年度の事業として,伊平屋村ごみ処理事業施設建設工事事業を予定して事務処理が進んでいたことから,平成15年夏には事業執行に至らないと,補助金利用ができず負担が増加して事業が頓挫するおそれもあり,時間的に極めてひっ迫していた状態であった。また,被告の旧ごみ処理施設の使用可能期限は,平成14年11月末であり,既に旧ごみ処理施設は使用できなかったので,早急な新ごみ処理施設の稼働が待たれていた状態であった。

そのような状態であったため,被告では,再三にわたり,原告に対して来村を要請し,契約交渉の破棄手続をとると言明したにもかかわらず,原告は,平成15年6月18日の電話連絡以来,来村しなかった。

(原告の主張)

以下に述べるとおり,本件請負契約が履行不能になったのはもっぱら原告の責に帰すべき事由によるものであるとの被告の主張には理由がない。

ア 前記争点1(原告の主張)のとおり,原告と被告は,発注仕様書の記載にかかわらず,ホッパーアンドコンベア方式を採用することで合意していたものであり,原告が発注仕様書に従わなかったとの主張は前提に欠ける。

イ 原告が被告の来村要請に応じられなかったのは,被告が原告に対して無理な要請をしたことによるものである。

被告は,平成15年8月8日,通常の会社であればお盆休みであり,かつ,繁忙期で飛行機の予約を取るのが困難な同月13日を一方的に指定して,来村を要請し,原告において重要な会議が入っていることや飛行機の予約を取れないことを理由とする原告からの再三にわたる日程変更の要請にも回答しなかった。

(3)  争点3…本件請負契約が成立していない場合,被告に信義則上の義務違反があるか(予備的請求)

(原告の主張)

仮に,原告と被告との間で,本件請負契約が成立していないとしても,前記争点1(原告の主張)のとおり,原告と被告は,少なくとも契約の準備段階には入っており,契約の準備段階に入った当事者には相手方に損害が生じさせないよう配慮する信義則上の義務がある。

にもかかわらず,被告は,この信義則上の義務に違反し,平成15年8月以降,原告との交渉を一方的に打ち切り,その後,B社に対してごみ処理施設建設工事を発注して同社に同工事を進行させ,原告が工事を進行させるのを故意に妨害した。

(被告の主張)

争う。被告には,信義則上の義務違反はない。

契約不成立になったのは,原告が発注仕様書に係る契約条件に従わない契約申出をしたからである。

(4)  争点4…損害

(原告の主張)

ア 主位的請求に係る損害額 3億9224万4513円

(ア) 積極的損害 1億3698万3420円

a ミニ高炉設備(機械プラント)費 1億3105万3348円

原告とJ株式会社(以下「J社」という。)は,平成15年4月15日,ミニ高炉設備製作を主な目的とする請負契約(以下「本件下請負契約」という。)を代金4億3684万4495円で締結した。

原告は,本件下請負契約5条1項に基づき,J社に対して本件下請契約締結後,J社からの請求書受領後90日以内に,契約金額の30パーセントと消費税,地方消費税の合計額である1億3105万3348円を支払う義務があり,平成15年10月9日,同社に対して6000万円を支払い,残額7105万3348円についても同社から請求を受け,弁済期が到来している。

b 設計費 157万5000円

原告は,本件請負契約締結後,ごみ処理施設の基本設計その他の設計をE建築設計室に発注し,平成15年11月10日,原告は,同人に対して,157万5000円を支払った。

c 旅費 290万7628円

d 人件費 115万8400円

e 消耗品費 18万5194円

f 受注のための活動費 10万3850円

(イ) 逸失利益 2億5526万1093円

a 本件請負契約から生ずる予定であった原告の逸失利益 2億2526万1093円

本件請負契約の工事代金の総額は,8億3989万5000円である。

また,本件請負契約に係る工事の原価を正確に計算することは不可能であるが,本件請負契約に係るごみ処理施設の仕様は,既に稼働中の座間味村のごみ処理施設とほぼ同様であり,また,座間味村のごみ処理施設の方が規模が大きく,契約金額も座間味村のごみ処理施設の方が上回っていることからすれば,被告のごみ処理施設建設の原価が,座間味村のごみ処理施設建設に関する原価である6億1463万3907円を上回ることはない。

原告は,本件請負契約によって,工事代金8億3989万5000円と工事の原価である6億1463万3907円の差額である2億2526万1093円の利益を得られるはずであったが,被告の債務不履行により,これを得ることができなかった。

b ごみ処理施設管理運営委託契約から生ずる原告の逸失利益 3000万円

原告と被告との間では,ごみ処理施設管理運営委託契約に関する覚書により,原告が建設するごみ処理施設に関しては,原告が被告から,平成16年4月から15年間にわたり,年間1000万円の委託料で管理運営を委託されることとなっていた。

原告が被告との管理運営委託契約により得られる予定であった利益は,被告が支払う管理運営委託料の20パーセントを下らない。

よって,原告が本件管理運営契約により得られる利益は,以下のとおり3000万円である。

1000万円/年×20%×15年=3000万円

イ 予備的請求に係る損害額1億3698万3420円

予備的請求に係る損害額は,積極的損害である前記アの金額となる。

ウ 原告主張の損害は,別表「損害額計算書」(略)中,「原告の主張」欄記載のとおりである。

(被告の主張)

いずれも否認ないし争う。

第3当裁判所の判断

1  争点1(原被告間に請負契約が成立したか否か)について

(1)  原告は,被告との間で本件請負契約が成立したと主張し,本件契約書を提出するところ,被告は,本件契約書の伊平屋村長作成部分について,伊平屋村長名下の印影が被告の公印であることは認めるものの,これは,被告の住民課係長のDが被告のC村長に無断で押印したものであるとして,本件契約書が真正に成立したことを否認する。

しかしながら,本件契約書の伊平屋村長作成部分については,その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められ,真正に成立したものと推定される(民事訴訟法228条2項)ところ,以下に述べるところによれば,その推定は覆らず,真正に成立したものと認めるのが相当である。

ア 前記前提事実欄記載の事実に加え,証拠(略)によれば,本件契約書作成に至る経緯について,以下の事実が認められる。

(ア) 平成15年3月20日,伊平屋村役場において,原告からは原告代表者,担当者のF,被告からはC村長,助役のG,住民課長のH,Dが参加して,ごみ処理施設建設工事について話し合いがされた。

その席で,工事請負金額については,消費税抜きで7億9990万円とし,その後の管理運営費については,年間1000万円とすることで合意した。また,その際,不燃物処理資源化設備の建設工事については工事内容に含まない旨の合意もされた。そして,今後の工程として,同契約は村議会の議決を要する案件であり,同月26日付けの契約書となる旨確認された。

(イ) また,同月25日にも,伊平屋村役場において,原告からはF,被告からはC村長,H,Dが参加して,話し合いがされた。

その席では,契約金額が同月20日に合意した7億9990万円(税抜き)であること,運営管理委託費用が年間1000万円であることが再度確認されるとともに,契約書は同月26日付けで交わすこと,及び,工期は,同月27日から平成16年3月10日までの349日間とすることが合意された。また,ごみ処理施設の管理運営委託契約については,沖縄県内の業者で電気設備及び配管設備に精通し会社経営が優良な者を管理運営保証人とした後に締結をするという内容の覚書が交わされた。

(ウ) Fは,平成15年3月26日,被告側で作成され,原告側で事前に検討した本件契約書2通に原告の記名押印をし,うち1通に同日朝伊平屋村郵便局で購入した18万円の収入印紙を貼付して,被告側に提出した。この時点では,伊平屋村長の記名押印はなかった。

(エ) ごみ処理施設建設工事に対しては国庫から補助金が支出されるところ,窓口となる沖縄県から,平成14年度廃棄物処理施設整備費国庫補助金(ごみ処理施設)の交付を受けるためには,事務手続上,平成14年度末(平成15年3月末)までに契約を締結しておくのがよいと教示を受けていたことから,C村長は,同月25日,伊平屋村議会に対して,追加案件議案第39号「工事請負契約の締結について(平成14年伊平屋村ごみ処理施設建設工事)」として,原告との間でごみ処理施設建設工事に係る請負契約を代金8億3989万5000円(税抜き7億9990万円)で締結することについての議決を求める議案を提出した。

この議案については,同月26日に開催された伊平屋村議会で審議された。その中で,議員からは説明不十分を指摘する意見が出され,納得がいく説明がなされていないとして反対する議員もいたが,審議の後,伊平屋村議会は,賛成多数で原案どおり可決した。

(オ) これを受けて,C村長は,担当者であるHやDに対して,事務を急ぐように指示した。

(カ) 平成15年4月になって,被告から原告宛てに被告の公印(伊平屋村長印)の押捺がある本件契約書2通が送付されてきた。うち1通については,印紙に消印をして原告が被告に返送した。

(キ) Dが,本件契約書の作成に関して被告から処分を受けたことはなく,また,被告が,公文書偽造などの罪でDを告発したこともない。

(ク) 伊平屋村公印に関する規程(昭和59年6月5日訓令第2号)によれば,本件契約書に使用された伊平屋村長印を含む被告の公印は,公印保管者(上記村長印については,総務課長)において厳正に取り扱い,使用しない場合には,堅固な容器に納めて錠を施さなければならないものとされ(もっとも,被告においては,実際には,公印の入っている鍵付き金庫は施錠がなかった。),公印は,決裁済みの原議書を保管者に提示し承認を経て使用しなければならないものとされている。また,伊平屋村文書事務取扱規程(昭和47年6月13日訓令第5号)によれば,公印を押印するときは,その押印しようとする文書に当該決裁文書を添えて,当該公印を保管する課の長又は当直員に提示し,審査を受けなければならず,公印を保管する課の長又は当直員は,上記審査において適法と認めたときは,当該決裁文書の所定欄又は公印使用簿に認め印を押印のうえ,公印を使用させるものとされている。

イ 以上のような事実関係,とりわけ,原告と被告との間では,平成15年3月25日の時点で,原告が7億9990万円(税抜き)でごみ処理施設の建設工事を請け負うことが合意されたこと,国庫補助金申請のためには同月末までに契約書を交わして契約を締結しておく必要があったこと,同月末に契約締結が間に合うように,追加議案として契約締結に必要な議案を村議会に提出し,その議決を得ていることに加え,前記のような被告における公印の保管,押印に係る規程に反し,DがC村長その他の上司に無断で本件契約書に公印である伊平屋村長印を押捺する理由がないことを併せ考慮すると,Dは,C村長の指示の下,本件契約書に被告の公印(伊平屋村長印)を押捺したものと考えるのが合理的である。

ウ この点,C村長は,本件請負契約締結に係る決裁書類が自分のところに上がってこなかった,同年4月30日になってはじめて本件契約書の存在に気づいたと供述するところ,この供述を前提とすれば,年度内に契約を締結する必要があり,同年3月26日に村議会の議決を得たにもかかわらず,議決から1か月余りもの間,契約書についてDら担当者に対してなんらの確認もしなかったことになるが,通常そのようなことは考えられず,C村長の上記供述は信用することができない。

(2)  また,被告は,原告の受注申出は,契約条件書や前記発注仕様書に定める契約条件に従わない不適合なものであった,具体的には,被告では,一括処分するのに必要な量のごみの集積を待つピットアンドクレーン方式が必要であり,その旨発注仕様書にも記載してあるにもかかわらず,原告は,これに従わなかったから,平成15年3月26日の時点では,未だ契約は事前協議中であったと主張する。

確かに,発注仕様書に,ごみの受入供給設備として「原則としてピット・アンド・クレーン方式」(5頁),「4.ごみピット(建築工事仕様参照)または受入ホッパ」「ごみの貯留を行う施設で,原則としてピットによる貯留を行うものとする。」(38頁)との記載があることは,被告主張のとおりである。

しかしながら,以下に述べる事実関係によれば,本件においては,平成15年3月26日の時点においては,発注仕様書の記載にかかわらず,原告と被告との間では,ごみの受入供給設備としては,渡名喜村や座間味村で原告が建設したごみ処理施設と同様のホッパーアンドコンベア方式を採用することで合意していたものと認められる。

ア まず,発注仕様書自体が,ピットアンドクレーン方式以外のごみの受入供給設備の採用を許さない趣旨とは認められない。

(ア) 被告の旧ごみ処理施設における課題の一つとして,一時的にごみを集積する施設がなかったため,ごみの臭気が施設内を漂い,ハエやゴキブリ等の害虫が大量に発生したという点があるのは前提事実記載のとおりであるところ,ピットに限らず,ホッパーもまた,一時的にごみを貯留することが可能な施設であり,十分な容量を確保すれば,ごみ貯留施設としてホッパーを採用しても,被告の要望に応えることは十分に可能である。

また,炉に入れるごみを均質化するという機能についても,発注仕様書に「ピット内またはホッパ内で十分なごみの均質化を図れるような構造とする。」とある(38頁)ことからすれば,ホッパーアンドコンベア方式でも実現可能な機能であると認められる。

そうすると,これらの点について,ホッパーアンドコンベア方式も,ピットアンドクレーン方式と同等の性能を有するものである。

(イ) そして,ごみの受入供給設備の仕様に関する発注仕様書の記載は,「『原則として』ピット・アンド・クレーン方式」(5頁),「4.ごみピット・・・または受入ホッパ」,「5.ごみクレーンまたは搬送コンベア類」(いずれも38頁)というもので,ごみの貯留施設としてはホッパー,ごみの搬送施設してはコンベアを採用することがあり得ることを前提とするものであり,また,ピットアンドクレーン方式でごみの搬送施設として用いるクレーンについては,「6.クレーン操作室・・・[ごみクレーンを設ける場合に摘要]」(40頁)という記載となっており,ごみクレーンを設けない場合も想定された記載となっている。

(ウ) そうすると,発注仕様書は,被告が抱える課題を解決するための方法としては,ピットアンドクレーン方式だけでなくホッパーアンドコンベア方式もあるという理解を前提に,このいずれかを採用することを求めているものと読むのが相当である。

イ また,原告からの提案は一貫して渡名喜村や座間味村のごみ処理施設建設工事で原告が採用したのと同様のホッパーアンドコンベア方式であり,この提案に対し平成15年6月に至るまで被告側が異を唱えた形跡はみられない。仮に,被告が主張するように,ピットアンドクレーン方式の採用がどうしても譲れないものであるならば,ホッパーアンドコンベア方式に対して異議を述べないなどという対応は考えられない。

(ア) 被告の機種選定委員会は,原告から出された見積仕様書をAコンサルタントと共に検討し,これを踏まえて,平成14年5月1日,原告の職員らが来村しての説明会を行っているが,その際に,ごみの受入供給設備については,特段の指摘をしていない。

(イ) 被告は,平成15年2月28日,環境大臣に対して国庫補助金の交付申請を行ったが,同申請書に添付された事業計画説明書には,受入供給設備として,「ごみ・・・は各ホッパーを経て,貯留ホッパーに搬送し,貯留する。」との記載があり,同様に同申請書に添付されていた本工事費種別明細書には,業者見積として,受入供給設備について,ごみ搬送コンベア,ごみ貯留ホッパーの費用が計上されている。また,同申請書に添付されている処理工程概要図表に記載されている廃棄物処理設備フロー図も,ホッパーアンドコンベア方式として記載され,設計図面にも,設置される施設として可燃ごみホッパーとコンベアが記載されている。

(ウ) また,伊平屋村議会に原告との本件請負契約締結についての議決を求めるに際して,議員に対しても,ホッパーアンドコンベア方式が記載された,国庫補助金交付申請の際に添付したものと同様の資料を配付している。

(エ) 平成15年3月24日,原告のFが被告に対して,ごみ処理施設の仕様は渡名喜村及び座間味村と同等とすることなどの明記を求めるファックスを送信しているが,これに対して,被告側が異議を述べた形跡はない。

(オ) 伊平屋村役場においてされた平成15年4月30日の協議においても,原告が提案していたホッパーアンドコンベア方式では問題があるなどの話は被告側から出てきていない。

(カ) 被告側が,原告の提案は渡名喜村や座間味村と同一のものであって被告の発注仕様書に沿わないので変更を求めるなどと主張するようになったのは,平成15年6月10日に伊平屋村役場でなされた協議以降のことである。これに対し,平成15年3月の時点で既に被告側がピットアンドクレーン方式を採用するよう原告側に念を押した旨のC村長やHの陳述やC村長の供述は,上記各認定事実に照らし,信用することができない。

ウ そうすると,渡名喜村や座間味村と同様のホッパーアンドコンベア方式を採用したごみ処理施設を建設するという原告の提案は,被告の発注仕様書に沿うものであったし,被告も,原告の提案に対して異議を述べず,この提案を採用したものと認めるのが相当である。

(3)  なお,平成15年6月17日付けで原告のIが被告のC村長に宛てて提出した書面(なお,同書面上は,IとFの両名の作成名義となっているが,証拠(略)によれば,同書面はIが作成したものであり,Fは作成に関与していないものと認められる。)には,このままでは,原告は設計さえできず,設計ができなければ見積もできない,見積ができないということは,被告との契約7億9990万円の決定もできないとの記載があり,また,現在まだ契約書は原告の印鑑を押さずに保管している,本当に7億9990万円で、かつ,平成16年3月までに完成できるか確認がとれるまでは保管する旨の各記載があり,これらの記載からは,原告と被告間で未だ本件請負契約が締結されていないのではないかとの疑義も生じ得るところである。しかしながら,同書面は,平成15年6月10日の被告との協議において,被告から,本件請負契約締結時の合意内容からの仕様の変更等を求められた原告が,このような状態では設計もできず,また,合意した請負代金7億9990万円で建設工事を行うことができるかどうかも分からない旨を記し,また,本件契約書(原告保管分)を返すようにとの被告の要求に対しても,これを返すことはできないとして同要求を拒否し,これら上記協議における被告の対応の元凶がAコンサルタントにあると考えて,Aコンサルタントを外すことによって,本件の建設工事を軌道に乗せたいとの思惑から作成されたものと理解することができるところであって,上記契約書への原告の押捺がされていないとの点も,原告の印鑑の押捺はされていたものであり,同記載はIの間違いと思われるとの原告代表者の供述が存するところであるから,同書面の記載内容から,本件請負契約の成立を否定することはできない。

また,原告代表者が平成15年8月17日付けで作成し,被告に対し,同月18日にメール送信された書面にも,基本仕様が確認できないと,基本設計もメーカーの見積もできない,見積ができないと請負金額7億9990万円で完成できるのか,それとも別途3億円から5億円の赤字となるのか判断できない,前進させるためには,被告がどのような基本仕様とするのか明確にしてほしい,原告として被告の工事請負が可能である金額内においては,原告として前向きに検討したい,原告のミニ高炉システムを採用してほしい旨の記載がある。しかしながら,同記載についても,被告から,本件請負契約締結時の合意内容からの仕様の変更等を求められ,さらに,被告としては原告との請負契約は成立できなかったものと判断し通知する,原告との契約に関する事務連絡等は一切終了する旨記載された伊平屋村長作成名義の同月14日付け「伊平屋村ごみ処理施設建設工事請負契約について(通知)」と題する書面を受け取った原告が,被告の要望も可能な限り考慮する旨申し入れ,それに伴う必要な変更も行った上で,本件請負契約の存続を図りたいとの趣旨で作成したものと理解できるところである(原告代表者)から,原告代表者作成の同書面から,本件請負契約の成立を否定することもできない。

(4)  以上のとおりであるから,平成15年3月26日の時点で,原告が主張する内容の本件請負契約が成立したものであり,そうであるにもかかわらず,被告が,B社に対して,別途,ごみ処理施設建設工事を発注し,同社が工事を完成させたことによって,本件請負契約は履行不能となったものと認められる。

したがって,争点1についての原告の主張には理由がある。

2  争点2(履行不能について,被告に帰責性がないか否か)について

(1)  被告は,本件請負契約が履行不能になったのは,原告が,被告の発注仕様書に従わなかった,被告に対し実施設計図書を提出しなかった,被告からの来村の要請に従わなかったなど,もっぱら原告の責に帰すべき事由によるものであると主張する。

(2)ア  まず,原告が,被告の発注仕様書に従わなかったという点については,争点1について判示したとおり,本件では,平成15年3月26日の本件請負契約成立の時点で,渡名喜村や座間味村と同様の仕様(ごみ受入供給設備はホッパーアンドコンベア方式)のごみ処理施設を建設することで原告と被告間に合意が成立したものであるから,被告の主張はその前提に欠けるものである。

イ  また,原告が,一旦渡名喜村や座間味村と同様の仕様で合意したにもかかわらず仕様の変更を求められるようになったのは,前記のとおり平成15年6月ころからであるが,証拠(略)によれば,被告が原告に変更を求めるに至る経緯として,原告が建設した渡名喜村のごみ処理施設を被告の担当者が視察した際,作業員が人力でごみを炉に投入しているとか,スラグ(ごみを炉内で溶融して生じるガラス質の物質)が排出口から溶岩のように流れ出るという問題点が指摘され,その旨の報告書が提出されたことから,原告に対して,渡名喜村と同様の仕様を採用することについて難色を示すようになったことが認められる。

しかしながら,渡名喜村において生じた問題が,原告の設計に不備があることによって生じたもの,あるいは,ホッパーアンドコンベア方式から不可避的に生じるものと認めるに足る的確な証拠はなく(むしろ,原告代表者は,渡名喜村の施設運営に問題があって生じたものであることを示唆する趣旨の供述をしている。),これに,平成15年6月10日の時点になって,被告側は,本件請負契約締結時点では工事内容に含まないことで合意していた不燃物処理資源化設備(リサイクルセンター)の建設工事も工事内容に含まれているとの話を持ち出すなど,ここでも一旦成立した合意を反故にする姿勢を示していることや,仕様の変更によって生じる費用の上昇(ピットアンドクレーン方式の方が,クレーンを設置するに足りる強度の鉄骨が必要となり,建設コストが高くなる。)について被告から特段の手当がないことを併せ考慮すると,被告が,渡名喜村や座間味村と同様の仕様のごみ処理施設を建設することで一旦成立した合意の変更を求めたことに合理的な理由があったとは認められない。

(3)  実施設計図書を提出しなかったという点についてみるに,確かに,平成15年8月の時点ではまだ原告から被告への実施設計図書一式の提出はなかったものと認められる(これに対し,Fは,実施設計図書を平成15年6月10日に被告に提出した旨の証言をするが,同日実施設計図書が提出されたことを示す的確な証拠は存せず,Fの同証言は,前掲各証拠に照らしても,信用できない。)。しかしながら,原告からすれば,既に座間味村や渡名喜村でも本件請負契約と同様のホッパーアンドコンベア方式によるごみ処理施設の建設を経験済みなのであるから,それと同様の仕様である本件請負契約に係る実施設計図書を作成すること自体はさほど困難ではなかったものと認められ,現に,同年9月には被告に実施設計図書が提出されているところ,本件において,それ以前に実施設計図書の提出がされなかったのは,ごみ処理施設の造成工事が終わっていなかったため,一部設計ができない部分があったことと,前記認定のとおり,被告側が,本件請負契約締結後に,同締結時の合意と異なる要求を出してくるなどしたため,仕様を確定することができなかったことによるものと認められるから,実施設計図書の提出がなかったのは原告の責に帰すべき事由によるものではなく,被告側の事情によるものと認めるのが相当である。

(4)  来村要請に応じなかったという点についても,最後に原告側が伊平屋村に赴いて協議したのは平成15年6月10日であって,被告が交渉の打ち切りを通告する同年8月14日までの期間は2か月程度しかなく,その間にも,電話や電子メール等によるやりとりで協議は続いていたものであるから,この2か月間の間に原告が伊平屋村に行かなかったことから直ちに本件請負契約を解消することが正当化されることにはならない。

また,同年8月13日の協議の日程も,被告側で,わずか5日前の同月8日に原告の予定を聞かずに一方的に設定したものであり,同日程にしたのも,原告が被告の指示に従わないためであって(しかも,同指示の内容であるごみ受入供給設備の変更が,本件請負契約締結時の合意内容を一方的に変更しようとするものであることは,前認定のとおりである。),飛行機の手配がつかないために変更をお願いしたいとの原告側の要望も聞き入れず,協議予定日の翌日である同月14日には,原告との請負契約ができなかったものと判断し,原告との契約に関する事務連絡等は一切終了する旨の通知文書を原告宛てに発するなどしている被告の態度からしても,原告が被告の来村要請に応じなかったことをもって,原告の責任に帰するものということはできない。

(5)  その他,本件全証拠によっても,履行不能について被告側に帰責事由がないことを基礎づける事実を認めることはできず,被告は,履行不能によって原告に生じた損害を賠償すべき責任を負う。

3  争点4(損害)について

(1)  積極的損害・ミニ高炉設備(機械プラント)費

既払分 6000万円

履行期到来分 7105万3348円

ア 証拠(略)によれば,本件下請負契約について,以下の事実が認められる。

(ア) 原告は,J社との間で,平成15年4月15日,本件請負契約に基づいて原告が建設する予定であったごみ処理施設に用いるミニ高炉などの設備製作を主な目的とする本件下請負契約を締結した。

本件下請負契約に係る契約金額は4億3684万4495円(消費税及び地方消費税を含む。以下同様。)であり,原告は,J社に対し,契約締結後,J社が発行した請求書を受領した後90日以内に,契約金額の30パーセントを支払うこととされた(本件下請負契約5条(1)。以下「本件契約締結時払条項」という。)。

(イ) 原告は,平成15年4月30日,J社から,本件契約締結時払条項に基づき,契約金額の30パーセントにあたる1億3105万3348円の請求を受けた。

原告は,J社との協議に基づき,上記のうち6000万円をまず支払い,残金は後日支払うこととして,平成15年10月9日,6000万円を同社に支払った。

(ウ) その後,原告は,J社から,平成17年11月30日付けの請求書で,本件契約締結時払条項に基づく支払額から既払金を控除した残額である7105万3348円の請求を受けている。

イ そうすると,本件下請負契約に係る本件契約締結時払条項に基づいて原告がJ社に支払った6000万円及び履行期が到来し支払義務を免れない7105万3348円は,いずれも,本件請負契約が履行不能になったことによって生じた原告の損害にあたる。

ウ なお,被告は,本件請負契約は,設計施工付き契約(いわゆる性能発注方式の契約)であるから,実施設計図書が未提出であり,当然被告においてその承諾もしていない本件において,被告には支払義務は一切存しない旨主張する。しかしながら,本件請負契約が設計施工付き契約であっても,本件請負契約に係るごみ処理施設は,原告がこれまで手がけてきた座間味村や渡名喜村と同様のホッパーアンドコンベア方式によるものであって,詳細は別として施設の概要は両村における施設と同様のものとなると解される一方,工期が本件請負契約締結日の翌日である平成15年3月27日から翌平成16年3月10日までの1年弱とされており,原告としても,早期に高炉設備等の製作に着手する必要があると認められるから,実施設計図書の作成,提出以前の段階で原告がJ社との間で本件下請負契約を締結したことが相当性を欠くものとはいえないし,これまで説示したように,原告が実施設計図書の提出ができず,また,本件請負契約が履行不能となったのも,被告側の責任に帰するものと認められることからすれば,たとい本件において実施設計図書が未提出であり,そのためこれに係る被告の承諾がないとしても,それによって被告に本件請負契約の履行不能により原告に生じた損害の賠償責任が存しないものということはできない。

(2)  積極的損害・設計費 157万5000円

証拠(略)によれば,原告は,本件請負契約締結後,本件請負契約に基づいて原告が建設する予定であったごみ処理施設の基本設計その他の設計をE建築設計室に発注し,平成15年11月10日,原告は,同人に対して,同設計費として157万5000円を支払ったことが認められるから,同支出は,本件請負契約が履行不能になったことによって生じた原告の損害にあたる。

(3)  その他の積極的損害 187万1718円

ア 旅費 168万9468円

原告は,被告に対する受注活動の際に要した旅費として290万7628円を支出したと主張し,その証拠として証拠(略)を提出する。

確かに,証拠(略)によれば,原告代表者をはじめとする原告側の者がたびたび伊平屋村を訪れるなどして受注活動を行ったことが認められ,受注活動に要した経費は,請負代金によって回収するのが通常であるから,原告は,本件請負契約が履行不能になったことにより,受注活動に要した経費に相当する損害を負ったと認められる(この点については,原告主張の人件費,消耗品費,受注のための活動費においても同様である。)。

しかしながら,原告提出の書証の中には,被告に対する受注活動に要した交通費かどうか一見して疑問があるものもある上,前提事実(3)記載のとおり,原告は,被告に対して受注活動を行っていたころ,同じく沖縄県内の座間味村や渡名喜村でも受注活動を行っていたものであるから,原告側の者が沖縄に行ったというだけでは,被告に対する受注活動なのかどうかは,なお明らかではないといわざるを得ない。

このような観点からみると,原告主張の旅費のうち,履行不能による損害と認めるのが相当なのは,別表「3・旅費」(略)中,「○」を付したものに限られ,その合計額は168万9468円となる。

イ 人件費 0円

原告側の者が相当回数にわたり伊平屋村まで受注活動に赴いたと認められるのは前記のとおりであるところ,原告は,証拠(略)記載の人件費が損害にあたると主張している。

しかしながら,証拠(略)記載の者が原告とどのような関係にある者であり,その者がどのような活動を行ったのかは明らかでないというほかなく,証拠(略)の記載から原告主張の人件費の損害を認めることはできない。

ウ 消耗品費 18万2250円

証拠(略)上,原告主張の消耗品費のうち,本件請負契約の履行不能によって原告に生じた損害と認めるに足りるものは,別表「5・消耗品費」(略)中,「○」を付したものに限られ,その合計額は18万2250円である。

エ 受注のための活動費 0円

証拠(略)にある領収書は,いずれも伊平屋村内の飲食店におけるものであるが,これらの領収書に係る飲食が,原告代表者や従業員の飲食費ではなく,受注のための活動のために用いられたことを認めるに足りる的確な証拠はない。

(4)  逸失利益・本件請負契約から生ずる予定であった原告の逸失利益0円原告は,座間味村でのごみ処理施設建設工事の実績を基に,本件請負契約に基づく工事によって,請負代金と工事費用の差額にあたる2億2526万1093円の利益を得ることができたと主張する。

しかしながら,本件請負契約の請負代金は7億9990万円(税抜き)であるところ,証拠(略)によれば,伊平屋村の前にごみ処理施設を建設した座間味村においては請負金額と工事費用が同程度,渡名喜村においては離島である同村への資材輸送費にコストがかかったため赤字となったところ,伊平屋村において工事を行うにあたっては,那覇から今帰仁村の運天港まで陸送して資材を船積みするため,那覇から船積みが可能な座間味村や渡名喜村よりもさらに輸送コストがかかること,そのため,採算ラインとなる請負金額は8億3000万円(税抜き)であり,請負代金が7億9990万円(税抜き)では赤字が生じる可能性が高いことが認められる。

そうすると,本件請負契約に基づく工事によって,原告が利益を得ることができたとは認められない。

(5)  逸失利益・ごみ処理施設管理運営委託契約から生ずる原告の逸失利益 1186万3200円

ア 前記1(1)アで判示したところによれば,本件請負契約締結の時点で,原告と被告との間において,ごみ処理施設完成後の管理運営委託料については,年間1000万円とすることで合意していたところ,証拠(略)によれば,完成したごみ処理施設の管理運営は,原告が設立する管理運営を目的とする特定目的会社が行うこと,期間は平成16年4月1日から平成31年3月31日までの15年間であることが認められる。

そうすると,原告と被告との間では,特定目的会社を設立するとはいえ,実質的には,本件請負契約に基づいて施設を建設した原告が,15年間にわたり年間1000万円の委託料で管理運営の委託を受けることが合意されていたと認めるのが相当である。

よって,原告は,本件請負契約が履行不能になったことにより,15年間分の管理運営委託料を得ることができなくなり,管理運営業務を行うことによって得られたであろう利益は,本件請負契約が履行不能になったことによって生じた原告の損害にあたると認められる。

イ 弁論の全趣旨によれば,管理運営業務による利益は10パーセントは存すると認められるので,原告は,被告に対して,15年分の利益に相当する金員を損害賠償として請求することができる。

ただし,平成19年度分以降の管理運営委託料については履行期が到来していないので,ライプニッツ係数によって現在価値に引き直す必要があるところ,別表「将来の管理運営委託費」(略)のとおり,15年分の利益に相当する金員の現在価値を求めると1186万3200円である。

(6)  以上のとおりであるから,被告が原告に対して賠償すべき損害は,別表「損害額計算書」(略)中,「裁判所認定」欄記載のとおり,合計1億4636万3266円である。

第4結論

よって,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく,被告である伊平屋村に対して,債務不履行に基づく損害賠償として,1億4636万3266円及びうち7530万9918円に対する訴状送達の日の翌日である平成17年12月13日から,うち7105万3348円に対する訴変更申立書送達の日の翌日である平成18年12月29日から,いずれも支払済みまで商事法定利率による年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判長裁判官 田中健治 裁判官 加藤靖)

裁判官北村治樹は,差し支えのため署名押印できない。裁判長裁判官 田中健治

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