那覇地方裁判所 平成17年(ワ)853号 判決 2006年2月23日
●●●
原告
●●●
同訴訟代理人弁護士
金高望
静岡市駿河区南町10番5号
被告
株式会社クレディア
同代表者代表取締役
●●●
主文
1 被告は原告に対し,金131万4390円及び内金125万6664円に対する平成13年7月29日から支払済みまで年6分,内金5万5000円に対する平成17年10月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを5分し,その4を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実
第1当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
(1) 被告は原告に対し,金165万9390円及び内金125万6664円に対する平成13年7月29日から支払済みまで年6分,内金40万円に対する平成17年10月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
(3) 仮執行宣言
2 請求の趣旨に対する答弁
(1) 原告の請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
第2当事者の主張
1 請求原因
(1) 被告は,無担保で利息制限法の利率を超えた高金利の貸付を主要な業務内容とする貸金業者であり,原告は一般市民である。
(2)ア 原告は,被告との間で,別紙①計算書記載のとおり借入,返済を繰り返した。なお,平成5年9月14日以降の取引経過については,被告開示の履歴によって明らかとなったが,同日前の取引経過については,被告が開示を拒否したため,同日前の時点で借入残高はないものとして計算した。
イ これを利息制限法の制限利率に引き直して計算すると,別紙①計算書のとおり,最後の取引日である平成13年7月28日までの計算で,125万6664円の過払元金及び2726円の過払い利息が発生し,被告は,原告の損失によって同額の利得を得たことになる。
ウ 過払いが生じた平成5年9月14日以降,被告は悪意の受益者であり,商事法定利率年6分の割合による過払い利息が発生する。
(3)ア 原告代理人は,原告の債務整理を受任して被告らにその旨通知して以降,金融監督庁「事務ガイドライン」(3-2-8(1)「債務者,保証人その他の債務の弁済を行おうとする者から,帳簿の記載事項のうち,当該弁済に係る債務の内容について開示を求められたときに協力すること」)に基づいて,被告に取引経過(貸付・返済の金額・年月日)の開示を求めてきた。
しかし,被告は,平成17年7月19日付け最高裁判決において,貸金業者は,債務者から取引履歴の開示を求められた場合には,特段の事情のない限り信義則上これを開示すべき義務を負うことが明確に判示されるに至った後も,履歴の開示を一部拒否し,今日に至っている。
かかる行為は,原告に対する不法行為であり,原告は,被告の不法行為により,債務整理に必要以上の時間と労力をかけることとなり,精神的苦痛を被った。
イ この精神的苦痛を慰謝するに足りる金額は,20万円と見積もるのが相当である。
ウ 原告は,本件紛争の解決を原告代理人に依頼した。本件紛争処理に当たる弁護士報酬相当額は20万円を下らない。
2 請求原因に対する認否
(1) 請求原因(1)は認める。
(2) 同(2)は否認する。原告は,平成5年9月14日の時点において,残高は零として計算するが,主張,立証責任の原則に反する。過払金に対する利息の請求を肯定することは,現在の貸し手と借り手の力関係から判断して,原告の利益を偏重するものであり,衡平性の原則に反する。
(3) 同(3)は否認する。被告は,信義則上の開示義務を十分果たしている。一部不明なため資料を提示できないが,不法行為が成立するほどの違法性を帯びるものではない。原告は,被告が平成13年3月31日に吸収合併した株式会社パブリック(以下「パブリック」という。)と取り引きしていたもので,被告は,吸収合併にあたり,パブリックから同社が保有する全電子データである平成5年9月以降の電子データを受け取った。したがって,被告は,これ以上の取引経過を原告に開示することはできない。
3 被告の抗弁―権利濫用
仮に,被告が悪意の受益者であったとしても,原告は,利息制限法を超過する利息を了承して貸金を申込み,経済的な危機を自主的に乗り切ったもので,被告,パブリックはそれに協力し,このようなことが10年以上の長期にわたり繰り返され,原告は金融サービスの利益を享受したのであるから,今更原告が過払金に対する利息の請求を行うことは,権利の濫用である。
4 抗弁に対する認否
否認する。
理由
1 請求原因について
(1) 請求原因(1)は争いがない。
(2) 請求原因(2)について
ア アについて
証拠(甲1,4,6の2)及び弁論の全趣旨によれば,原告とパブリック,被告間の平成5年9月14日以降の借入,返済の時期,額は別紙①計算書記載のとおりであると認められる。なお,平成9年3月25日に行われた48万3459円の弁済と平成11年1月19日に行われた30万円の借り入れとの間には,665日の期間が存在する。仮に,平成9年3月25日に行われた48万3459円の弁済により,当事者間においては約定利息に従えば債務が消滅したものとされ,その後平成11年1月19日になって30万円の借り入れが行われたとしても,両者の法律関係が対当額で消滅することなく併存すると考えるべきではなく,最終的に平成9年3月25日に行われた48万3459円の弁済により生じた不当利得返還請求権と平成11年1月19日以降に行われた借り入れによる貸金債権等とは当然相殺されるものと解するのが妥当である。なぜならば,そのように解するのが弁済者の合理的な意思に合致し,当事者の公平に叶い,他方,併存を肯定する考え方は,利息制限法に違反する高利の取得を放置することとなり,同法の趣旨に反することとなるからである。
ところで,甲1及び弁論の全趣旨によれば,被告は原告に対し,平成5年9月14日時点において,同日までの貸付の取引残高が38万1576円であると主張するが,同債権の発生原因事実についての主張立証責任は貸主側である被告が負担するものであり,本件において,同人は立証責任をなんら果たしていない。
以上から,平成5年9月14日前の時点で借入残高はないものとして計算する原告の主張は正当であると解する。
イ イについて
そうすると,利息制限法の制限利率に引き直して計算すると,別紙①計算書のとおり,最後の取引日である平成13年7月28日までの計算で,125万6664円の過払元金及び2726円の過払い利息が発生し,被告は,原告の損失によって同額の利得を得たことになる。
ウ ウについて
被告が無担保で利息制限法の利率を超えた高金利の貸付を主要な業務内容とする貸金業者であることは争いがなく,弁論の全趣旨によれば,パブリックも同様であると認められる。
以上のような貸主側の業態,上記取引の経過などから,被告らが原告から利息制限法上の制限を超過した利息を収受していることを認識していたことが認められる。以上から,被告は,悪意の受益者であると認められる。
そして,本件において,被告は株式会社という商人であり,無担保で利息制限法の利率を超えた高金利の貸付を主要な業務内容とする貸金業者であるから,不当利得により得た利得の主要な部分を恒常的に上記のような貸付に充てているものと推認できる。
このような事案においては,悪意の受益者の利息返還義務(民法704条)は年6分の利率とするのが相当である。
(3) 請求原因(3)について
ア 証拠(甲1,3ないし5,6の1,2,甲7の1ないし3,8の1,2,甲9,17)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 原告は,平成3年秋ころ以降,パブリックから30万円の金銭を借り入れ,以後継続的に返済と借り入れを行った。平成5年7月26日付け限度額契約証書(リボルビング)(甲8の2)によれば,それまでの限度額30万円から50万円に増額された。年利,遅延損害金はいずれも40.004%であり,当初融資額が50万円以下の場合,返済期間・回数は3年1月,37回以内で,毎月の最低支払額は当初融資額の4パーセント(1000円未満切り上げ)との約定であった。
(イ) 平成13年3月31日,被告はパブリックを吸収合併した。
(ウ) 原告は,平成13年9月ころ,●●●弁護士に債務整理を委任し,同月7日ころ取引履歴の開示を要求した。
これに対し,被告は平成13年4月26日に行われた50万円の貸付以降の取引履歴を記載した計算書(甲4)を開示した。なお,同計算書(甲4)には,それ以前にも両者間に取引があったことを示す記載はない。
(エ) その後●●●弁護士の事情により原告の債務整理が進行しなかったところ,同弁護士が業務停止処分を受けた後の平成17年3月,金高望弁護士が原告の債務整理を行うこととなった。同弁護士は,同月30日付けの通知書(甲5)を被告宛に送付し,原告との取引履歴の開示を要求した。
(オ) これに対し,被告は,平成17年4月4日ころ,平成11年1月19日以降の取引履歴を記載した文書(甲6の2)を開示した。同文書によれば,同日,被告は原告に対し,30万円を貸し付けたこと以降のことが記載されているが,それ以前にも両者間に取引があったことを示す記載はない。
(カ) 金高弁護士は,上記取引履歴が原告の記憶と異なっているところがあったため,事務員を通じて電話等で当初からの取引履歴の開示を被告に要求した。これに対し,被告は平成17年5月30日,個人情報開示申請書により再度申請することを文書で要請し,開示に協力しなかった。
(キ) 金高弁護士は,平成17年7月27日,そのころ原告が発見した平成5年7月26日付け限度額契約証書(リボルビング)(甲8の2)を添付して,ファックスにより再度取引履歴の開示を要求した。
(ク) これに対し,被告は,平成17年8月10日,平成5年9月14日から平成13年7月28日までの取引履歴を記載した文書(甲1)をファックスにより送付してきた。同文書によれば,平成5年9月14日時点における取引残高が38万1576円であると記載されていた。また,同文書には,被告は,吸収合併にあたり,パブリックから同社が保有する平成5年10月以降の電子データしか承継していないと記載されている。
(ケ) 原告は,平成17年8月30日,本訴を提起した。被告は,第1回口頭弁論期日(同年9月29日)以前に答弁書,準備書面1を提出したので,当裁判所は同期日においてそれらの陳述を擬制した。その後弁論終結に至るまで,計3回の口頭弁論期日が開かれたが,被告は一度として出頭することはなく,準備書面,書証などを送付してきたにとどまった(被告は電話会議を利用した弁論準備手続に付することを希望したが,原告代理人はそれに対して異議を述べた。)。そのように送付された書証として,原告がパブリックに融資を申込んだ際,職員が記入したという平成4年9月9日付け受付票(未提出の乙4),融資カード(未提出の乙5)が存在し,被告は,倉庫を捜索したところ,パブリックから受け継いだ資料からそれらの文書が発見されたと主張している(準備書面2の2頁参照)。
イ 以上の事実に基づき判断する。
まず,被告は,吸収合併にあたり,パブリックから同社が保有する全電子データである平成5年9月以降の電子データを受け取ったもので,これ以上の取引経過を原告に開示することはできないと主張するが,それに符合する証拠は全く存在しない。また,電子データ以外の顧客との取引履歴などの情報を貸金業者である被告が同種の業務を行ってきたパブリックから吸収合併にあたり承継しなかった理由は不明であり,そのような業務を目的とする企業として通常考え難いことである。被告の主張するように,パブリックにおいて電子データが作成,保存されていなかったとしても,それ以外の顧客に関する資料は必ず存在したはずである。
さらに,被告は過去3回にわたり原告の取引履歴を開示しているが,そのような経緯,開示された文書の記載内容等から判断すると,被告は自己が保有する原告に関する取引履歴を小出しにするやり方で開示してきたものと評価できる。また,被告は,平成17年8月10日,平成5年9月14日から平成13年7月28日までの取引履歴を記載した文書(甲1)をファックスにより送付したが,それは金高弁護士が,原告が発見した平成5年7月26日付け限度額契約証書(リボルビング)(甲8の2)を添付して平成17年7月27日ファックスにより再度取引履歴の開示を要求した結果であるところ,平成5年7月26日のわずか約1か月半後である同年9月14日以降の取引履歴が開示されたというのは,被告が作為的に期間を選別して提出しているとの疑いを否定できない。
以上から,被告は,開示した原告との過去の取引履歴以前の取引履歴について,何らかの形で保有しているのに,意識的に開示していないと認めるのが合理的である。これは,貸金業者が貸金業法の適用を受ける金銭消費貸借契約の附随義務として,信義則上負担する取引履歴を開示する義務に違反したもので,違法であり,原告に対して不法行為が成立する。これにより,原告は債務整理の進行が不当に遅滞し,取引履歴の開示が完全になされたならば,不当利得返還請求について,請求額を拡張することもあり得るのに,そのような途が閉ざされることとなった。
損害額(慰謝料の額)は,上記認定の今までの経緯,被告により開示された取引履歴の期間,原告の不利益等の程度を総合考慮して,5万円が相当と認める。
弁護士費用相当額は,事案の概要,審理の経過,上記慰謝料の認容額等から,5000円と認めることとする。
2 抗弁について
原告が過払金に対する利息の請求をするのが権利の濫用に該当するとは到底認められない。以上から,抗弁は理由がない。
3 結論
よって,原告の請求は主文の限度で理由があるから認容し,その余は理由がないから棄却し,主文のとおり判決する。
(裁判官 窪木稔)
<以下省略>