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那覇地方裁判所 平成17年(行ウ)1号 判決 2009年2月24日

主文

1  本件訴えのうち,被告に対してA’及びB’に対し金員の支払を請求するよう求める部分をいずれも却下する。

2  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第1当事者の申立て

1  請求の趣旨

(1)  被告は,C’及びA’に対し,3150万円及びこれに対する平成16年2月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ。

(2)  被告は,C’及びB’に対し,7350万円及びこれに対する平成17年5月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ。

2  答弁

原告らの請求をいずれも棄却する。

第2事案の概要

1  本件は,沖縄県の住民である原告らが,沖縄県石垣市において建設が計画されている新石垣空港建設事業(以下「本件事業」という。)に際して行われた環境影響評価(以下「本件環境影響評価」という。)において作成された環境影響評価準備書(以下「本件準備書」という。)の作成委託業務に対して沖縄県がした① 前払金としての3150万円の支出(以下「本件支出1」という。)に係る支出命令(以下「本件支出命令1」という。)及び② 完了検査後の7350万円の支出(以下「本件支出2」という。)に係る支出命令(以下「本件支出命令2」といい,本件支出命令1と併せて,「本件各支出命令」という。)が違法であると主張して,被告に対して,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,①については当時の沖縄県知事であったC’及び本件支出命令1の専決権者であったA’に対し,②についてはC’及び本件支出命令2の専決権者であったB’に対し,それぞれ支出相当額の損害賠償請求をすることを求める事案である。

2  前提事実(各掲記の証拠(すべての枝番を表すときは,枝番の記載を省略する。以下同じ。)及び弁論の全趣旨によるほかは,当事者間に争いがない。)

(1)  当事者等

ア 原告らは,沖縄県の住民である。

イ 被告は,沖縄県の執行機関である。

ウ(ア) C’は,本件各支出命令の当時,沖縄県知事の職にあり,本件事業の実施に伴う予算の支出を命じる予算執行権限を有していた。

(イ) A’は,本件支出命令1の当時,沖縄県新石垣空港建設対策室(以下「建設対策室」という。)長の地位にあり,本件支出命令1の専決権者であった(建設対策室長は,沖縄県事務決裁規程(昭和48年訓令第89号)8条の規定(課長専決事項)の例により専決することができるとされているところ(新石垣空港建設対策室設置規程(平成3年訓令第21号。平成8年3月31日訓令第16号による改正後のもの)4条1項),沖縄県事務決裁規程においては,課長専決事項として,「支出(委託料,工事請負費,公有財産購入費,備品購入費,負担金,補助及び交付金,貸付金,補償補填及び賠償金,投資及び出資金,寄附金並びに繰出金に限る。)を決定し,命令すること。」が挙げられている(同規程8条2項39号ク)。)。なお,沖縄県において,支出命令は,支出命令者(知事又はその委任を受けて支出を命令する者)が支出調書に押印して行うものとされている(沖縄県財務規則2条5号,75条2項)。(乙24)

(ウ) B’は,本件支出命令2の当時,沖縄県土木建築部新石垣空港課(組織改編前の建設対策室(乙24)。以下「空港課」という。)長の地位にあり,本件支出命令2の専決権者であった。

エ(ア) 被告の諮問に応じ,環境影響評価や事後調査等に関する技術的な事項を調査・審議するため,沖縄県環境影響評価条例(平成12年12月27日沖縄県条例第77号。乙39)に基づいて,沖縄県環境影響評価審査会(以下「審査会」という。)が設置されている(同条例51条)。審査会は,学識経験のある者のうちから被告が委嘱した13名以内の委員により組織されている(同条例52条)。

(イ) 事業者である沖縄県は,本件環境影響評価に関する指導及び助言を得るために,平成12年11月10日,新石垣空港環境検討委員会(以下「環境検討委員会」という。)を設置した。環境検討委員会は,環境や自然保護に精通した専門家で構成されている。

(2)  本件事業の概要及び目的

ア 概要

本件事業は,沖縄県が事業者となって,沖縄県石垣市内の別紙「対象事業実施区域の位置」記載の場所(以下「本件事業実施区域」という。)に,長さ2000メートルの滑走路を有する飛行場及びその施設を設置するというものである。

イ 目的(甲20,乙4の1,5,6,22の1)

現石垣空港は,那覇,宮古,与那国,多良間及び波照間の県内路線のほか,東京,大阪,名古屋及び福岡の本土路線が就航しており(本件環境影響評価に係る方法書,準備書及び評価書各作成時点),全国の第三種空港の中で旅客数及び貨物の取扱量が一,二位を競う八重山地域における基幹空港である。しかしながら,現石垣空港は,滑走路の長さが1500メートルのままジェット化しているため,一部の路線について重量制限等の制約を課さざるを得ない等の課題を抱えている。このため,重量制限等の大幅な改善を図るとともに,空港周辺地域への騒音影響の軽減,今後増大すると見込まれる航空需要に対応し,八重山圏域の振興発展を図るため,中型ジェット機が就航可能な2000メートルの滑走路を有する新空港を建設するものである。

ウ 本件事業実施区域等(乙4の1,6,22の1)

本件事業実施区域は,空港施設約142ヘクタールである。さらに,その周辺で関連事業等が行われる。

関連事業は,取付道路,付替道路,カラ岳切削部,航空障害灯である。取付道路は,国道から空港の駐車場を結ぶ道路で,付替道路は,現在の国道390号と空港北側の農道を迂回させる道路である。また,制限表面は,進入表面,転移表面,水平表面があり,これらの区域においては,航空機の安全な離着陸に必要な空間を確保するため,必要最小限度の切土及び樹木伐採を行う。カラ岳の山腹の一部は,進入表面及び転移表面に抵触することから切削する。カラ岳,タキ山,カタフタ山,水岳は,水平表面に抵触するが,環境保全や文化財保護の観点から切削することが事実上不可能なことから,航空障害灯を山頂付近に設置する。

さらに,工事中に一時的に利用する場所として,南側進入灯作業ヤードと南側仮設調整池がある。南側進入灯作業ヤードは,進入灯の設置工事のため利用される場所で,南側仮設調整池は,工事中に事業実施区域南側の一部で発生する赤土等を一時貯留するための施設であり,これらの箇所は,工事終了後,原状に戻すものである。

上記以外の事業として,国が実施する関連施設として,海上保安庁施設と航空機が空港の方向や距離を確認するための航行を援助するVOR/DME施設の設置事業がある。

(3)  本件の経過

ア 本件事業は,飛行場及びその施設(滑走路の長さ2000メートル)を設置するものであり,航空法38条1項により国土交通大臣の許可を要するものであるから,環境影響評価法(平成9年法律第81号。平成11年6月12日施行。以下「法」ともいう。)にいう「第二種事業」に該当する(法2条(平成17年法律89号による改正前のもの。以下同じ。)2項1号ニ,2号イ,3項,環境影響評価法施行令(平成9年12月3日政令第346号)6条,別表第一(平成15年政令第321号による改正前のもの。以下同じ。)の四項イ第3欄)。

沖縄県は,平成14年12月12日,法4条6項に基づき,法の規定による環境影響評価その他の手続を行うこととした旨を国土交通大臣に書面により通知した。(乙37)

イ 方法書の作成,送付及び縦覧等(甲10,11,乙5,37)

沖縄県は,平成14年12月,新石垣空港整備事業に係る環境影響評価方法書(乙5。以下「本件方法書」という。)を作成し,同月16日に被告等に送付し(法6条1項),同月24日から平成15年1月29日まで縦覧に供した(法7条)。

本件方法書に対しては,法8条1項に基づく意見書が提出され,沖縄県は,同年2月28日,被告に対し,これら意見の概要を送付した(法9条)。

被告は,同月14日,審査会に対し本件方法書の審査を諮問し,審査会は,同年5月21日,被告に対し,同諮問に対する答申として,意見を送付した。

被告は,同月29日,本件方法書について環境の保全の見地からの意見を述べた(法10条1項)。

ウ 準備書作成業務委託に係る契約の締結

(ア) 沖縄県は,平成15年9月18日,国土環境株式会社沖縄支店・株式会社沖縄環境保全研究所共同企業体(代表者国土環境株式会社沖縄支店)(以下「本件共同企業体」という。)との間で,履行期限を同月19日から平成16年3月26日までとし,業務委託料を1億0500万円として,本件準備書作成業務委託契約(以下「本件契約」という。)を締結した。(乙3の1)

(イ) 本件契約には,設計業務等委託契約書約款(乙16。以下「本件約款」という。)が適用される。(乙16,弁論の全趣旨)

また,本件契約に係る本件準備書作成業務は,沖縄県土木建築部制定の「設計業務等共通仕様書」及び「設計・調査・測量業務必携」に基づき実施しなければならず(委託業務特記仕様書2条),併せて,委託業務特記仕様書が作成されている。(乙32)

本件契約に基づいて本件共同企業体が行うべき業務は,① 予測及び評価のための環境現況解析及び取りまとめ,② 予測及び評価,③ 準備書の作成,④ 環境検討委員会の運営,⑤ 打合せ協議,⑥ 準備書縦覧後業務(住民説明会資料作成,住民意見の集約,知事意見に対する事業者見解等の取りまとめ)である(ただし,契約変更後のものを含む。)。(乙7)

委託業務特記仕様書において,本件準備書の作成に当たっての留意点として,「方法書に対する知事意見」及び「環境検討委員会の指導・助言」等を踏まえ適切に対処することとされ,また,本件契約により提出すべき成果品は,報告書,準備書(公告縦覧用,要約版,資料編及びリーフレット),その他(監督職員の指示による)と定められた。(乙32)

(ウ) 前払金の取決めについて(乙16)

本件約款においては,発注者(沖縄県)と受注者(本件共同企業体)との間における委託業務に係る前払金について,以下のとおり規定されている。

a 受注者は,保証事業会社と公共工事の前払金保証事業に関する法律(昭和27年法律第184号)2条5項に規定する保証契約を締結し,その保証証書を発注者に寄託して,業務委託料の10分の3以内の前払金の支払を発注者に請求することができる(本件約款34条1項)。

b 発注者は,受注者からa記載の請求を受けたときは,請求を受けた日から14日以内に前払金を支払わなければならない(本件約款34条2項)。

c 受注者は,前払金を本件契約に係る業務の材料費,労務費,外注費,機械購入費(この業務において償却される割合に相当する額に限る。),動力費,支払運賃及び保証料に相当する額として必要な経費以外の支払に充当してはならない(本件約款36条)。

エ 本件支出1

(ア) 本件共同企業体は,平成16年1月26日,西日本建設業保証株式会社との間で,公共工事の前払金保証事業に関する法律2条5項に基づく保証契約を締結し,保証証書を沖縄県に寄託した。(乙9の3,弁論の全趣旨)

(イ) 本件共同企業体は,平成16年2月5日,沖縄県に対し,本件準備書作成委託業務の前払金として,3150万円(業務委託料1億0500万円の10分の3に相当)の支払を請求した。上記前払金の使途は,本件事業の労務費とされた。(乙8,9の2)

(ウ) 本件共同企業体による上記請求に対し,建設対策室長A’は,平成16年2月5日,その専決権に基づいて支出調書に押印し,本件支出命令1を行った。その後,同月18日,本件共同企業体に対し,本件準備書作成委託業務の前払金として3150万円が支払われた。(乙23,24,26)

オ 本件契約の改定その1

沖縄県は,平成16年3月12日,本件共同企業体との間で,本件契約につき,委託業務の内容変更等により,契約額を1110万9000円増額し,履行期限を同年10月29日と変更する旨の一部改定契約を締結した。(乙3の2)

カ 沖縄県による業務内容の検査

(ア) 本件共同企業体は,平成16年3月19日,被告に対し,本件準備書作成委託業務の指定部分(本件準備書,同要約書及び同資料編(以下「本件準備書等」という。)の作成)が完了した旨を報告した。(乙32)

なお,本件準備書において,本件環境影響評価における調査(現地調査)の結果については,平成15年5月30日以降にされた調査のほか,同日より前にされていた調査の結果も併せて用いられた。(乙4の1)

(イ) 沖縄県は,平成16年3月22日,本件準備書作成委託業務の指定部分検査(以下「本件指定部分検査」という。)を行い,仕様書,図面その他指示事項に適合したものと確認したとして,本件共同企業体に対し,検査に合格した旨を通知した。当時の検査権者は建設対策室長A’であり,検査は検査員D’が実施した(検査権限については,本来的には被告が有するが,沖縄県事務決裁規程8条2項により,空港課長(建設対策室長)の専決事項とされる。また,検査の実施は,沖縄県財務規則113条1項により,委託を受けた検査員が行うこととされる。また,検査員は,検査の合格又は不合格の判定をする場合は,その成果物が契約図書に適合しているか否かで判定を実施するものとするとされ(沖縄県土木建築部委託業務検査要領(以下「検査要領」という。)7条1項),検査を終了したときは検査調書を作成しなければならないとされている(検査要領12条1項)。)。D’は,指定部分検査に係る成果物である本件準備書等(乙4)が契約書及び仕様書と適合しているか検査した上,合格と判定し,委託業務検査調書を作成した。(乙10,32)

キ 準備書の送付及び縦覧等(甲12,13,乙37)

沖縄県は,新石垣空港整備事業に係る環境影響評価準備書(乙4の1。本件準備書)を,平成16年3月26日に被告等に送付し(法15条),同月30日から同年4月30日まで縦覧に供した(法16条)。

沖縄県は,同月21日,法17条1項に基づき,本件準備書に関する説明会を開催した。

本件準備書に対しては,法18条1項に基づく意見書が提出され,沖縄県は,同年5月31日,被告に対し,これら意見の概要を送付した(法19条)。

被告は,同月14日,審査会に対し本件準備書の審査を諮問し,審査会は,同年9月6日,被告に対し,同諮問に対する答申として,意見を送付した。

被告は,同月28日,本件準備書について環境の保全の見地からの意見を述べた(法20条1項)。

ク 本件契約の改定その2

沖縄県は,平成16年10月22日,本件共同企業体との間で,本件契約につき,委託業務の内容変更等により,履行期限を平成17年3月25日と変更するなどの一部改定契約を締結した。(乙3の3)

ケ 評価書の作成及び送付等(甲14,15,乙6,22の1,37)

沖縄県は,平成17年2月,新石垣空港整備事業に係る環境影響評価書(乙6。以下「本件評価書」という。)を作成し,同月23日,国土交通大臣に本件評価書を送付した(法22条1項)。

国土交通大臣は,本件評価書の写しを環境大臣に送付して意見を求め(法22条2項(平成18年12月法律第118号による改正前のもの。以下同じ。)),環境大臣は,平成17年4月15日,国土交通大臣に対し,本件評価書に対する意見を述べた(法23条)。

国土交通大臣は,同年5月27日,沖縄県に対し,本件評価書に対する意見を述べた(法24条)。

沖縄県は,本件評価書を補正し(乙22の1。補正された本件評価書を,以下「本件補正評価書」という。),同年9月8日,国土交通大臣に送付した(法25条3項)。

また,沖縄県は,同月9日から同年10月11日まで,本件補正評価書を縦覧に供した(法27条)。

コ 本件支出2

(ア) 本件共同企業体は,平成17年3月25日,被告に対し,本件準備書作成委託業務を完了した旨の報告をした。(乙32)

(イ) これに対し,沖縄県は,平成17年3月30日,本件準備書作成委託業務の完了検査(以下「本件完了検査」という。)を行い,仕様書,図面その他指示事項に適合したものと確認したとして,同日付けで,本件共同企業体に対し,検査に合格した旨を通知した。当時の検査権者は建設対策室長E’であり,検査は検査員F’が実施し,同人が,同委託業務が契約書及び仕様書と適合しているとして,合格と判定し,検査調書を作成した。(乙18,19,31,32,33の2,35,証人F’)

(ウ) 本件共同企業体は,平成17年4月25日,沖縄県に対し,本件契約代金合計1億1610万9000円のうち,受領済みである前払金3150万円を控除した残額8460万9000円の支払を請求した。(乙20)

(エ) 本件共同企業体による上記請求に対し,空港課長B’は,平成17年4月25日,その専決権に基づいて支出調書に押印し,本件支出命令2を行った。その後,同年5月13日,本件共同企業体に対し,本件契約の残代金8460万9000円が支出された(このうちの7350万円が,本件支出2である。)。(乙21,24,26,36)

(4)  原告らによる監査請求及び本訴の提起

ア 監査請求

(ア) 原告らは,平成16年12月20日,沖縄県監査委員に対し,沖縄県と業者との間の本件環境影響評価に関する調査及びシミュレーション並びに方法書,準備書及び評価書の作成に関する業務委託契約に基づき業者が作成した本件方法書及び本件準備書は,環境影響評価法に違反し,非科学的な内容であり,契約に基づく本来の成果物とはいえない,沖縄県はこのような本件方法書や本件準備書を受領して,違法,不当な財務会計行為によって1億0500万円の無駄な公金の支出を行っている,被告及びその他の支出担当者は,違法,不当な公金支出により沖縄県が被った損害を賠償する責任があり,また,未履行の業務委託金の支払を停止すべき責任があるとして,地方自治法242条1項の規定により,① 被告は,業者に対し,必要な調査を更に行わせた上,科学的根拠に基づく,完全な方法書等の作成を改めて行わせ,成果物を適切なものに補完させること,② ①の追完を行わない場合には,被告ないしすべての支出義務者らから,違法不当な公金支出額を沖縄県に返還させる等,違法な公金支出行為による損害を填補するために必要な措置を講ずること,③ 被告ないしすべての支出手続担当者に対して,違法な公金支出となる業務委託金等の交付支出を差し止めることを勧告するなど必要な措置を請求する旨の住民監査請求(以下「本件監査請求」という。)を行った。(甲1)

(イ) これに対し,沖縄県監査委員は,平成17年1月24日,本件監査請求は,沖縄県の財務会計上の行為の違法性・不当性を具体的かつ客観的に示しているものとは認められず,不適法であるとして,本件監査請求を却下し,そのころ,本件監査請求人の原告J’にその旨通知した。(甲2)

イ 本訴提起

原告らは,平成17年2月22日,地方自治法242条の2第1項1号及び4号に基づき,被告に対し,本件支出1に関してC’及びA’らに対する3150万円と遅延損害金の損害賠償請求の義務付け(4号請求)と,本件支出2に関して被告に業務委託代金残代金の支払の差止め(1号請求)を各求める本件訴えを当裁判所に提起した。

その後,(3)コ記載のとおり本件支出2がされたことに伴い,原告らは,本件支出2に関しても,C’及びB’らに対する7350万円と遅延損害金の損害賠償請求の義務付けを求める4号請求に請求の趣旨を変更した。(当裁判所に顕著な事実)

3  法令の定め

(1)  環境影響評価法

ア 環境影響評価法は,土地の形状の変更,工作物の新設等の事業を行う事業者がその事業の実施に当たりあらかじめ環境影響評価を行うことが環境の保全上極めて重要であることにかんがみ,環境影響評価について国等の責務を明らかにするとともに,規模が大きく環境影響の程度が著しいものとなるおそれがある事業について環境影響評価が適切かつ円滑に行われるための手続その他所要の事項を定め,その手続等によって行われた環境影響評価の結果をその事業に係る環境の保全のための措置その他のその事業の内容に関する決定に反映させるための措置をとること等により,その事業に係る環境の保全について適正な配慮がなされることを確保し,もって現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に資することを目的として(法1条),平成9年に制定された。

空港整備法(昭和31年4月20日法律第80号。平成20年法律第75号により法律の題名が空港法と改められた。)2条1項に規定する空港その他の飛行場及びその施設の設置又は変更の事業で,長さが1875メートル以上2500メートル未満である滑走路を設けるものは,第二種事業とされ(法2条2項1号ニ,2号イ,3項,環境影響評価法施行令6条,別表第一の四イ第3欄),環境影響の程度が著しいものとなるおそれの有無についての判定を受けて環境影響評価の手続が行われる必要があるとされた場合(法4条3項1号),又はそのような判定を受けることなく環境影響評価の手続を行うこととした場合(法4条6項)には,法に基づく環境影響評価が実施されることになる。

イ 環境影響評価の概要

(ア) 方法書の作成等

事業者は,対象事業に係る環境影響評価(調査,予測,評価)を行う方法について環境の保全の見地からの意見を求めるため,事業者の氏名及び住所,対象事業の目的及び内容,対象事業が実施されるべき区域(対象事業実施区域),対象事業に係る環境影響評価の項目並びに調査,予測及び評価の手法(当該手法が決定されていない場合にあっては,対象事業に係る環境影響評価の項目)を記載した環境影響評価方法書(方法書)を作成し(法5条),対象事業に係る環境影響を受ける範囲であると認められる地域を管轄する都道府県知事及び市町村長に方法書を送付するとともに(法6条),公告し,方法書を縦覧に供しなければならない(法7条)。方法書について環境の保全の見地からの意見を有する者は,事業者に対し,意見を述べることができ(法8条1項),また,都道府県知事は,同意見の概要について送付を受けたときは,方法書について環境の保全の見地からの意見を述べるものとされている(法10条1項)。

(イ) 環境影響評価の実施

事業者は,法10条1項の都道府県知事の意見を勘案するとともに法8条1項の意見に配意して,環境影響評価の項目並びに調査,予測及び評価の手法を選定し(法11条),同選定した項目及び手法に基づいて,対象事業に係る環境影響評価を行わなければならない(法12条)。

(ウ) 準備書

事業者は,上記環境影響評価を行った後,当該環境影響評価の結果について環境の保全の見地からの意見を聴くための準備として,当該結果に係る環境影響評価準備書(準備書)を作成しなければならない(法14条)。

準備書には,① 事業者の氏名及び住所,対象事業の目的及び内容,対象事業実施区域及びその周囲の概況(法14条1項1号),② 方法書についての環境の保全の見地からの意見を有する者の意見(法8条1項)の概要(法14条1項2号),③ 方法書についての都道府県知事の意見(同項3号),④ ②及び③の各意見についての事業者の見解(同項4号),⑤ 環境影響評価の項目並びに調査,予測及び評価の手法(同項5号),⑥ 環境影響評価の項目並びに調査,予測及び評価の手法を選定するに当たっての主務大臣の助言(法11条2項)がある場合には,その内容(法14条1項6号),⑦ 環境影響評価の結果のうち,a 調査の結果の概要並びに予測及び評価の結果を環境影響評価の項目ごとに取りまとめたもの(環境影響評価を行ったにもかかわらず環境影響の内容及び程度が明らかとならなかった項目を含む。)(同項7号イ),b 環境の保全のための措置(当該措置を講ずることとするに至った検討の状況を含む。)(同号ロ),c bに掲げる措置が将来判明すべき環境の状況に応じて講ずるものである場合には,当該環境の状況の把握のための措置(同号ハ),d 対象事業に係る環境影響の総合的な評価(同号ニ)(同項7号),⑧ 環境影響評価の全部又は一部を他の者に委託して行った場合には,その氏名及び住所(同項8号)を記載しなければならない。

事業者は,準備書を作成したときは,関係都道府県知事及び関係市町村長に準備書及びこれを要約した書類(要約書)送付するとともに(法15条),準備書に係る環境影響評価の結果について環境の保全の見地からの意見を求めるため,準備書を作成した旨等を公告し,準備書及び要約書を縦覧に供し(法16条),また,準備書の記載事項を周知させるための説明会を開催しなければならない(法17条)。準備書について環境の保全の見地からの意見を有する者は,事業者に対し,意見を述べることができ(法18条1項),また,都道府県知事は同意見の概要及びこれに対する事業者の見解について送付を受けたときは,事業者に対し,準備書について環境の保全の見地からの意見を述べるものとされている(法20条1項)。

(エ) 評価書

事業者は,準備書についての都道府県知事の意見(法20条1項)を勘案するとともに,準備書について環境の保全の見地からの意見を有する者の意見(法18条1項)に配意して準備書の記載事項を検討し,その修正を必要とすると認めるときは法21条1項の区分に応じた措置を行い,主務省令で定めるところにより環境影響評価書(評価書)を作成し(法21条),免許等を行う者等へ送付しなければならない(法22条1項)。当該免許等を行う者等は,評価書の送付を受けた後速やかに環境大臣に当該評価書の写しを送付して意見を求めなければならず(法22条2項),環境大臣は当該免許等を行う者等に対し,評価書について環境の保全の見地からの意見を述べることができる(法23条)。そして,当該免許等を行う者等は,評価書について環境の保全の見地からの意見を述べることができる(法24条)。

事業者は,上記当該免許等を行う者等からの意見を勘案して評価書の記載事項を検討し,その修正を必要とすると認めるときは,法25条1項の区分に応じた措置を行い,主務省令で定めるところにより評価書の補正をし,当該免許等を行う者等へ補正後の評価書の送付又は補正を必要としない旨の通知をしなければならない(法25条)。また,事業者は,関係都道府県知事及び関係市町村長に対し,評価書(上記補正をした場合は補正後の評価書),これを要約した書面(要約書)及び当該免許等を行う者等の意見書(法24条)を送付するとともに(法26条(平成18年12月法律118号による改正前のもの)),評価書を作成した旨等を公告し,評価書,要約書及び当該免許等を行う者等の意見書を縦覧に供しなければならない(法27条)。

(オ) 対象事業の内容の修正等

事業者は,法7条による方法書についての公告を行ってから法27条による評価書についての公告を行うまでの間に対象事業の目的及び内容(法5条1項2号)を修正しようとする場合には,当該修正後の事業について,改めて環境影響評価の手続を経なければならない(法28条)。

(2)  主務省令

飛行場及びその施設の設置又は変更の事業に係る環境影響評価に関し,「飛行場及びその施設の設置又は変更の事業に係る環境影響評価の項目並びに当該項目に係る調査,予測及び評価を合理的に行うための手法を選定するための指針,環境の保全のための措置に関する指針等を定める省令」(平成10年6月12日運輸省令第36号。同日施行。平成18年3月国土交通省令第20号による改正前のもの。以下「本件省令」という。)が定められている。

本件省令2条は方法書の記載(法2条1項)に当たって留意すべき事項について,また,本件省令5条は環境影響評価の項目等の選定に当たって把握すべき事業特性及び地域特性について,それぞれ規定している。

第3争点及び争点に対する当事者の主張

1  本件支出命令1の違法性

(原告らの主張)

(1) 本件方法書の瑕疵

ア 方法書の手続(スコーピング)の重要性

(ア) 方法書の手続には,① 地域住民や専門家及び地元地方公共団体から提示されるデータ等を参考として事業者がより効率的でメリハリの効いた環境影響評価を行い,また,調査の手戻りを避ける,② 事業計画の早期の段階で住民等の懸念・要望や地方公共団体の環境保全の観点からの助言が示されることにより,環境配慮が事業計画に組み入れられる余地を大幅に拡大するといった重要な意義がある。また,準備書の記載内容に変更がある場合は,原則として,環境影響評価手続を方法書作成段階からやり直さなければならないとされている(法21条1項)。このように,方法書の手続は,後に環境影響評価を実施する上で極めて重要なプロセスである。

昭和59年8月28日に閣議決定された「環境影響評価の実施について」(閣議アセス)においては,方法書の手続がとられていなかったが,環境影響評価の中で得られた外部からの情報が適切に事業計画に反映されていないという批判や,事業者にとってみれば準備段階で無視し得ない環境情報や調査の不備が指摘された場合,大幅な調査の手戻りが必要になるという問題等に対応して,環境影響評価法では,諸外国で取り入れられている方法書の手続を導入した。

(イ) 以上のような方法書の手続の重要な意義からすれば,調査は,方法書の手続終了後にされるべきことになるが,実際には,本件のように,事業者が,方法書の手続に先立ち,調査に着手してしまう例が相当ある。しかし,このような方法書の手続に先立つ調査の着手には,以下のような重大な問題がある。

第1に,事業者が環境影響評価の項目を選定し,調査,予測及び評価の手法についてすべて決定して調査を行った後に,環境影響評価手続に入って方法書について意見聴取を行ったとしても,「後の祭り」であり,方法書に対する公告,縦覧及び意見聴取の手続が形骸化されてしまう。

第2に,方法書の手続に先立つ調査自体が,環境をかく乱し,評価の対象とすべき環境の現状を変更してしまうおそれがある。

(ウ) また,前記のような方法書の手続の意義からすれば,方法書には,事業内容が特定され,事業が環境に影響を与える要素,すなわち環境因子が確定されている必要がある。環境因子が確定されていなければ,環境への影響を調査,予測及び評価する手法を確立することはできないし,方法書に記載された手法を検証することもできない。

イ 方法書の手続に先立ち調査が実施されたこと

沖縄県は,本件環境影響評価において,環境影響評価法が方法書の手続を導入した趣旨を無視して,方法書の手続に先立って調査に着手した。

被告は,環境影響評価法は本件省令5条の調査実施を妨げるものではなく,同条に基づく適法な調査を行った旨主張するが,本件省令5条2項は,飽くまでも現地の状況を「確認」するよう努めることを求めているのであって,方法書作成に先立つ「調査」を求めていないことは明白である。また,上記調査は,周囲の概況(地域特性)の把握の域を超える内容であり,当初から,調査結果として本件準備書に引用する目的でされたことは明白である。このような調査は,本件省令5条が求めている周囲の概況(地域特性)の把握の域をはるかに超えるものである。

このように,本来,方法書に調査方法を記し,意見を聴取した上で調査に着手すべきであるのに,沖縄県は,方法書の手続並びに項目及び手法の選定のプロセスを経ずに,なし崩しに,数億円も投じて環境調査を行ったのである。

ウ 進入灯及び障害灯の記載について,事業計画と方法書とで順序が逆転していること

(ア) 進入灯は,航空機の離着陸を援助する飛行場灯火の一種であり,着陸しようとする航空機に最終進入の経路を示すために,滑走路末端から進入区域内に設置する灯火をいい,障害灯は,夜間等における航空機の航行の障害となる建築物などを視認させるための灯火をいう。

本件方法書は平成14年12月24日に縦覧に供されたが,障害灯が設置されることや進入灯(誘導灯)の規模等が初めて明らかになったのは,平成15年1月20日に公開された「新石垣空港整備基本計画(案)」においてである。

方法書には事業内容が特定され,環境因子が確定されている必要があるところ,上記のような環境に大きな影響を与えることが明らかな要素が方法書作成段階で明らかになっていなかったことは,重大な問題である。

(イ) 本件方法書における進入灯及び障害灯の記載に関する被告の主張について

a 被告は,進入灯について,本件方法書2-5頁に図示されているなどと主張するが,同図は,「切土,盛土区分図(全体計画平面図)」であり,切土区間と盛土区間を色分けして示すのみで,「進入灯」の文字は全く記載されていない。滑走路の延長線上に直線が記載されているが,これが進入灯であるとの説明は一切ない。しかも,長さや高さ,光の明るさなどについては,本件方法書に一切記載はない。基本計画で示された資料(平成15年3月11日付け「第8回 新石垣空港環境検討委員会資料 空港基本計画について」,甲6の2)を見なければ,どのような設備が設置されるのか,全く不明である。さらに,本件方法書の第4章「環境影響評価の項目並びに調査,予測及び評価の手法」には,進入灯についての記載が一切存在しない。

また,被告は,本件方法書4-2頁の表-4.1.1及び4-8頁ないし4-10頁において,進入灯が「工事の実施」及び「土地又は工作物の存在及び供用」に包含されているとも主張する。しかし,これを縦覧した住民が,「工事の実施」及び「土地又は工作物の存在及び供用」という文言に,個別具体的に進入灯を読み取ることは不可能である。

さらに,本件方法書が縦覧に供された後である平成15年4月11日の審査会において,進入灯及び障害灯などを記載した「基本計画(案)」が初めて明らかにされたが,事務局(沖縄県文化環境部環境政策課)は,「障害灯や誘導灯は飛行場の施設であり,当該事業と一体として整備されるものであることから,環境影響評価は,これらの整備による影響も含めて実施する必要があると考えております。そのため,それらの内容も含めて十分に審査していくことは当然で,審査会事務局としては,…こうした情報も方法書で示されるべきであったと考えております。」と発言しており(甲7),これは本件方法書に障害灯だけでなく進入灯の記載もなかったことの何よりの証左である。

b 被告は,障害灯について,方法書の段階では位置や形状等が決まってなく,このような場合,本件省令2条1項5号かっこ書の規定により,方法書への記述は必要ない旨主張する。

本件省令2条1項2号は,対象飛行場設置等事業が実施されるべき区域の位置の明示を求めているが,同号には,同項5号のように,「(既に決定されている内容に係るものに限る。)」との例外は認められていない。

しかし,本件の障害灯は,本件方法書に記載された事業実施区域の範囲外に作られることになっており,本件方法書が本件省令2条1項2号の記載要件を満たしていないことは明らかである。

また,「(既に決定されている内容に係るものに限る。)」との文言を根拠にあらゆる記載漏れが許されてしまうならば,方法書の手続は無意味である。

方法書には,事業内容が特定され,環境因子が確定されている必要があるところ,環境に重大な影響を与えかねない事項の記載漏れが,本件省令の「(既に決定されている内容に係るものに限る。)」などという文言で免罪されることは許されない。

エ 審査会及び環境検討委員会における議論並びに識者による批判

(ア) 平成13年3月22日に開催された第2回環境検討委員会において,委員の間で調査による環境かく乱を懸念する議論があった。また,事務局(建設対策室)は,「方法書というのは予測・評価の方法まで入れた形で議論してもらうのが本来なのですが,今回は位置の問題もありましたし,環境影響評価条例の施行も効いていない状況ということも聞いております。そういう形で調査がいつまでもできないと話になると,地元のみなさまは早期建設に向けて熱心でありますので,県としては調査だけは先に入らしてほしいということで,今回は調査の手法だけ議論していただいて,調査を先にさせていただけませんかということなんです。その調査を踏まえて,評価の手法なども絡めて最終的な方法書ができると思います。その段階で,公告・縦覧がなされることになります。今回は調査をさせてほしいという意味で委員の先生方に議論していただいて,県はそれで早めに調査に取りかかりたいという意味合いで委員会を行っております。…調査方法について一般の方から意見があるのではないかということであれば,公告・縦覧という話ではなくて,新聞等で資料の公表として,意見を伺うということは可能ではないかと考えている。そういった形がとれればよろしいのではないかと考えています。」と述べ(甲5),方法書に先立ちとにかく調査を終えてしまいたいという意図をあからさまにした。

環境影響評価手続において重要なのは,科学性と民主性であり,環境影響評価法は,民主性を担保するための手続として,事業者に方法書を縦覧に供するよう求め,住民が意見を述べる機会を確保しているが,建設対策室は,「新聞等で資料の公表」という簡易な手続ですり抜けようとしている。このような建設対策室の態度については,各委員から手厳しい批判があった。

(イ) 本件方法書を縦覧に供した後である平成15年1月20日に「新石垣空港整備基本計画(案)」が公開され,これによって初めて障害灯の設置が明らかになり,また,進入灯の規模等が明らかになった。

同年3月11日の第8回環境検討委員会において,建設対策室から,空港基本計画の説明がされたが,本件方法書を縦覧に供した後に基本計画が明らかになり,その中には,障害灯など,環境に著しい影響を与えることが明らかであるにもかかわらず,本件方法書には記載されていない施設が含まれていたため,委員から,建設対策室の姿勢を批判する発言が相次いだ。

(ウ) 平成15年4月11日の審査会において,事務局は,「障害灯や誘導灯は飛行場の施設であり,当該事業と一体として整備されるものであることから,環境影響評価は,これらの整備による影響も含めて実施する必要があると考えております。そのため,それらの内容も含めて十分に審査していくことは当然で,審査会事務局としては,…こうした情報も方法書で示されるべきであったと考えております。」と述べて(甲7),方法書に障害灯や進入灯(誘導灯)に関する記載が漏れていたことは問題であると指摘している。

また,委員の一人は,方法書の手続に先立って調査が行われ,その結果が本件方法書に記載されていることにつき,問題だと指摘している。

(エ) 平成15年5月9日の審査会においても,「既にほとんどの調査が済んでいて,その調査を基に方法書を作り,それに基づいて環境への影響の予測・評価を行うという手法になっている」(甲8)などと,手厳しい意見が相次いだ。

さらに,委員からは,本件方法書のずさんさ,レベルの低さを指摘する発言が相次いだ。

(オ) 審査会は,平成15年5月21日,被告に対して答申を示した。審査会答申は,本件方法書について,今後実施する調査の時期を始め,調査,予測及び評価の手法が具体的に示されておらず,また,記載内容についても十分に整理されていない,と厳しく批判するものであった。

(カ) 環境アセスメント学会に所属する専門家であるG’教授は,本件方法書の手続に関する問題として,① 方法書が作成され,縦覧に供される以前に2億数千万円ともいわれる費用をかけた事前調査が事実上のアセス調査として実施され,そこで得られた調査結果が準備書で利用されていること,② 方法書と基本計画の手順が逆転していることを指摘している。

環境アセスメント学会の会長(当時)であったH’名古屋大学名誉教授も,「『方法書はこれから実施するアセスの設計図』という趣旨に反し,既に済んでしまった現地調査の結果が全頁の90%を占める」,「本来なら基本計画ができてから方法書を作るべきであった。」などと問題点を指摘し,日本で一番悪いアセスと断じている(甲9の2)。

オ まとめ

方法書は,「環境アセスの設計図」であり,ずさんな設計図面に基づいて,良い成果物が完成するはずがない。本件環境影響評価は,正にずさんな方法書(設計図)に基づく調査,予測及び評価により,ずさんな準備書が作成された典型的な事例である。方法書の手続が極めて重要であるにもかかわらず,法の趣旨を没却して方法書の手続に先立って調査がされてしまったこと,基本計画も策定されないうちに本件方法書が作成されてしまったことが,準備書がずさんなものになってしまう大きな要因になったものである。

(2) 前払金3150万円を支払うべきではなかったこと

沖縄県は,平成15年9月18日,本件共同企業体に本件準備書作成業務を委託し,平成16年2月18日,委託費用の前払金として3150万円を支払った。しかしながら,(1)記載のとおり,本件準備書作成に先立つ本件方法書は内容が極めてずさんであり,その上,本件方法書が作成された後に新たに進入灯や障害灯の設置計画が明らかになるなど,当然方法書に記載されていなければならない内容が記載されていなかった。そして,これらの事実は,沖縄県が本件準備書作成業務を発注する以前から明らかになっていた。

このように,方法書に記載されるべき内容が記載されていないことが明らかになっていた以上,沖縄県としては,当然,本件環境影響評価を方法書作成にさかのぼって再度行うべきであった。

ところが,沖縄県は,再度方法書を作成することなく,本件準備書作成業務を発注し,委託費用の前払金として3150万円を支払った。

環境影響評価法の趣旨からすれば,このような本件準備書作成業務の発注は許されず,前払金3150万円の支出は違法かつ無駄な支出である。

(3) C’の責任

C’は,本件支出命令1当時の沖縄県知事であって,支出を命令する権限を本来的に有する職員であり,環境影響評価法の趣旨に反する違法な本件準備書作成業務について前払金の支払をするべきではなかった。

ところが,C’は,新石垣空港建設推進の立場から本件準備書作成業務を発注し,漫然と専決権者の判断にゆだねて,支払う必要のない前払金3150万円の支出命令を許す結果となり,沖縄県に同額の損害が生じた。

このように,C’は,専決権者に対する指導監督上の故意又は過失によって,沖縄県に3150万円の損害を生じさせた。

(4) A’の責任

A’は,本件支出命令1当時の建設対策室長の地位にあり,前払金3150万円の支出命令の専決権者であった。

A’は,前記のとおり,本件共同企業体に対して前払金3150万円を支払うべきではなかったにもかかわらず,専決権者として漫然と同額の支出を命じており,故意又は過失によって沖縄県に3150万円の損害を生じさせた。

(5) C’及びA’の賠償義務

以上のとおり,C’及びA’は,前払金3150万円の支出について賠償義務を免れないから,被告に対して,C’及びA’に対し,3150万円及びこれに対する前払金3150万円の支出の翌日である平成16年2月19日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払うよう請求することを求める。

(被告の主張)

(1) 本件方法書の瑕疵の主張について

ア 方法書の手続前に実施した調査について

方法書の手続前に実施した調査は,本件省令5条に基づいて法5条1項3号で規定されている方法書への記載事項である,対象事業が実施されるべき区域及びその周辺の概況(地域特性)について把握するためなどの調査であり,平成13年度及び平成14年度に実施したものである。

環境影響評価法は方法書の手続前の調査を禁止する条項を規定しておらず,方法書の手続前の調査は許容されている。

イ 本件方法書における進入灯及び障害灯の記載について

(ア) 進入灯について

進入灯の記載方法については,それを定めた基準は存在しないから,事業者である沖縄県の裁量にゆだねられている。

進入灯は,本件方法書2-5頁図-2.2.3「切土,盛土区分図(全体計画平面図)」に図示されている。また,本件方法書4-2頁表-4.1.1「環境影響評価の項目の選定」において,「進入灯」という文言は使用されていないが,「進入灯の設置工事」並びに「進入灯の存在及び供用」として,影響要因の「工事の実施」及び「土地又は工作物の存在及び供用」の記載に包含されている。そして,本件方法書4-8頁ないし10頁表-4.2.1「調査及び予測の手法(大気質)」において,環境要素「大気質」に与える影響についての調査及び予測の手法として示されている。

また,本件方法書2-2頁図2.2.1「対象事業実施区域の位置」に,進入灯を含めた対象事業実施区域として示されている。

(イ) 障害灯について

障害灯は,本件省令に基づけば,どのような書面に記載するかの指示はない。

障害灯は,本件省令2条1項1号ないし5号に該当するものであるが,本件における障害灯は,方法書の段階では位置や形状等が決まっておらず,このような場合,本件省令2条1項5号かっこ書の規定「(既に決定されている内容に係るものに限る。)」により,方法書への記述は必要でない。なお,その後,進入灯の形状及び障害灯の位置や形状等が決まった段階で,適正に環境検討委員会に報告され,調査方法等の助言の下で,本件準備書に記載がされている。

(2) 本件支出命令1の違法性は,争う。

沖縄県は,法令等に基づき適正な手続の下に本件方法書及び本件準備書を作成したものである。なお,方法書を再度作成しなければならないのは,法4条1項2号の事項に修正があった場合のみであるところ(法21条1項1号),本件環境影響評価においては,上記事項の修正はなく,方法書を再度作成する必要はなかった。

以上より,原告らの主張するような本件準備書の発注を妨げる要因はなく,本件支出命令1は適法適正にされたものである。また,C’及びA’には,いずれも,故意又は過失によって沖縄県に損害を与えた事実はない。

2  本件支出命令2の違法性

(原告らの主張)

(1) 本件準備書の瑕疵

ア 赤土流出問題に関する瑕疵

本件事業が及ぼす環境影響の中で,特に慎重に影響評価を行うべき項目の筆頭に赤土流出による白保のサンゴへの影響評価がある。本件事業によって赤土流出がどう起こり,それがどうサンゴに堆積し,そのサンゴ礁生態系に影響を与えるかというのは,環境影響評価の項目の中でも,とりわけ重要な項目である。

しかしながら,本件準備書における赤土流出問題に関する記載は,極めてずさんなものである。

(ア) 本件準備書における赤土流出問題に関する記載内容について

a 本件準備書は,潮流のシミュレーションを行い,赤土等の海域への拡散予測をしているが,河川等から流出した赤土の海域への堆積については,全く調査,予測及び評価していない。本件準備書は,平常時及び降雨時の赤土等の現場海域への拡散について予測するのみであり,赤土等の排出が工事の期間中継続した場合に,現場海域にいかなる影響を与えるかについては一切評価していない。仮に一時的に流出する赤土等の量はさほど多くなかったとしても,これが継続すれば,海中の濁りの濃度が高くなることは当然予測できるし,さらには,河川から海域に流出した赤土は海底に堆積していくのであって,工事期間中を通じた赤土等の海域への総排出量及び総堆積量について検討しなければ,海域への影響評価として全く意味がない。

すなわち,本件準備書の潮流シミュレーションは,それだけでは赤土等が海域に与える影響を評価する上で意味をなさない。

b これに対し,被告は,海域における降雨時のSS(懸濁物質)濃度の分布は,轟川の前面海域で0.1ミリグラム/リットル程度であり,轟川河口付近の現況の平常時のSS濃度1ないし2ミリグラム/リットルと比較しても極めて小さいレベルにあり,事業により発生するSS負荷によって現況の赤土等の堆積状況が大きく変化することはないと判断し,赤土等の堆積についての予測は行っていないなどと主張し,このように本件事業により発生するSS負荷が少量に抑えられる前提として,本件準備書では,下記のような赤土等流出防止対策をとるとしており,その上で,工事中における機械処理設備からの排水は,轟川に更なる環境負荷を与えるものではなく,現況の環境負荷を低減する効果があると試算されている旨主張する。

① 工事区域内の濁水処理については,浸透ゾーンを利用した地下浸透方式を主とするが,地質等の状況により実施できない場合は,機械処理方式を併用する。

② 機械処理方式の施設規模を設置するための降雨は10年確率降雨を対象とする。

③ 機械処理方式を適用する場合の排水基準は,生活環境の保全に関する環境基準(河川の水産1級,水産2級)を準用し,SS濃度を25ミリグラム/リットル以下とする。

※ 機械処理方式は,凝集処理を検討しているが,その凝集剤の種類等については,現場において,環境への負荷を考慮して選定する。

(イ) 本件準備書における赤土流出防止対策がよって立つ仮定について

a 本件準備書における赤土流出防止対策は,下記のような七つの仮定の上に成り立っており,これが一つでも欠ければ成り立たないという極めて危うい立論である。

① 台風や豪雨の場合,赤土の微粒子が石灰岩や浸透ゾーンの地盤に浸透し,時間の経過とともに目詰まりを起こし,その能力が低下するということはない。

② 浸透ゾーンが空洞につながっていて,流入した赤土が余りろ過されず濁度が高いまま海域でわき出し,サンゴ礁に被害を与えることはない。

③ 施設の降雨前,降雨中の施設の点検,監視,管理方法等が怠られることはない。

④ 浸透池の維持管理(池底に堆積した泥の除去による浸透機能の回復など)は適切に行われ,怠られることはない。

⑤ 実際の降雨条件で工事区域から発生する濁水の濁度を凝集沈殿で25ミリグラム/リットル以下の濁りに落とすという機械処理につき,実際規模の実例はないが,想定どおりに機能する。

⑥ 工事を行う7年間には,気象台データに基づく10年確率降雨を超える降雨はない。

⑦ モニタリングを通じて,海域に現状以上の赤土が流出しサンゴに堆積するという想定外の事態の発生が把握されたとしても,その時点で適切な改善措置を講ずることでサンゴへの致命的な打撃が回避できる。

b 仮定が既に崩壊していること(科学性の欠如)

(a) 既に目詰まりを起こしていること

平成19年7月23日に開催された第10回新石垣空港建設工法検討委員会において,水の染み込みやすさを示す浸透係数が従来の想定よりも相当低いことが報告された。浸透係数が低いということは,土壌に水が染み込まない,すなわち,赤土混じりの水がろ過されないということである。同委員会において配付された資料-2(甲56)には,「豪雨時における雨水の地下浸透能力不足が懸念されることから,対策を講じる事とする。」とされている。このため,工事着工から間がないにもかかわらず,既に大幅な設計変更を余儀なくされている。また,現に,工事現場では,平成20年6月7日,集中的に雨が降った際に,赤土混じりの水が地下へ浸透せずそのまま地表を流れて流出する現象が生じている。

(b) 新たな空洞の発見,パイピングの存在

本件事業実施区域には,石灰岩層が存在し,地下の至る所に洞窟が存在する。このような洞窟に赤土混じりの水が入れば,容易に流出してしまう。

ところが,本件環境影響評価終了後,当該地域において新たな洞窟が発見され,沖縄県は調査を余儀なくされている。しかも,洞窟が発見された場所は,空港完成後は,滑走路などに降った雨を導いて染み込ませる浸透ゾーンとして使うことになっている計画である。

本件事業実施区域地下の石灰岩層と海との間には「名蔵層」と呼ばれる層があるが,専門家の調査により,ここにパイピングによる空洞が形成されていることが明らかになった。パイピングによる空洞とは,未固結物質に浸透した地下水が,割れ目や小石の透き間,巣穴,木の根のような小さな空洞に集中して流れ,圧力が高まることによって空洞の周囲の物質を侵食して運び出し,次第に大きな管状の空洞を作ることをいう。パイピングによる空洞は,未固結の土壌,砂礫,砂,粘土などの地層にでき,周囲から地下水が集まって水圧が高まる場所に集中しやすい。ろ過機能はほとんどなく地下水の流れ道となる。そして,本件事業実施区域地下にある石灰岩層の空洞と,名蔵層に形成されたパイピングによる空洞は直結し,地下水が海岸湧水の分布している地域に流出しているものと考えられる。カラ・カルスト地域学術調査委員会作成の「カラ・カルスト地域における絶滅危惧種コウモリ類,洞窟内動物および洞窟気象と地下水系に関する学術調査報告書」(甲57)によれば,石灰岩層にあるA1洞窟,石灰岩層と名蔵層の間に形成されたE洞窟を流れる地下水が,名蔵層にあるパイピングを通じて海岸に流出しているとされている(各洞窟の位置については,別紙「洞窟の位置」参照。以下同じ。)。

すなわち,本件工事によって流出した赤土は,本件事業実施区域地下の石灰岩層にある空洞から,名蔵層にあるパイピングによる空洞を通過して,直接,海に放出される可能性が極めて高い。

(c) ろ過堤の管理不行き届き

現場では,既に造成工事が始まり,集水・ろ過施設などが作られている。具体的には,赤土混じりの水については,浸透処理を基本とし,ろ過沈殿池で沈殿処理し,沈殿池から,ろ過堤(石と砂の層)を通って赤土濃度が薄くなった排水が浸透池に入り,浸透池から地下へ水が浸透する際に,更に赤土が除去される建前となっている。

しかし,既にろ過堤の砂が一部崩落し,機能不全に陥っている。沖縄県の管理が行き届いていないことは,原告らが調査した際に現にろ過砂が流出し,端に透き間ができていたという事実から明らかである。

(d) 浸透池の機能不全

本件環境影響評価では,前述のとおり,赤土混じりの水については,浸透処理を基本とし,ろ過沈殿池で沈殿処理し,沈殿池からろ過堤(石と砂の層)を通って赤土濃度が薄くなった排水が浸透池に入り,浸透池から地下へ水が浸透する際に,更に赤土が除去される建前となっている。しかし,当然ながら,これを繰り返せば,浸透池に赤土が堆積し,水の浸透機能が損なわれる結果となる。そこで,浸透池の維持管理作業が不可欠となる。

ところが,現場では既に調整池が目詰まりを起こして水がたまるなどの現象が発生している。浸透池が機能不全を起こしていることは,平成20年6月7日の集中的降雨により本件事業実施区域内から赤土混じりの水が流出する現象が起きたことからして,明らかである。

(e) 機械処理は,実験すらされていない

被告は,機械処理により,SS濃度を25ミリグラム/リットル以下にして排水すると主張している。しかしながら,このような機械処理が成功した前例はない上,実験が行われた形跡すらうかがわれない。しかも,現場では既に工事が開始されているにもかかわらず,現場に機械処理施設は設置されていない。

(f) 10年確率を超える降雨の発生

本件環境影響評価においては,機械処理方式の施設規模を設置するための降雨は10年確率降雨を対象としている。10年確率降雨とは,10年に一度の確率で発生し得る降雨のことである。しかし,予定工期7年中,10年確率降雨を上回る降雨が発生しないことの保障は全くない。すなわち,10年確率降雨を前提に検討すれば良いという考え方は,技術的には根拠がない。

また,降雨量測候所と本件事業実施区域とでは降雨量に差があるにもかかわらず,この点が考慮されず,測候所のデータから降雨量の推定をしていることにも問題がある。

なお,本件方法書が縦覧に供される直前である平成14年10月29日及び同月30日には,石垣島気象台において,降り始め(同月29日午後9時)から終わり(同月30日午後6時)までの降雨量が336.5ミリを記録する集中豪雨があった。本件準備書6-5-40頁では,10年確率降雨は258.9ミリとされており,これをはるかに上回る降雨量である。

また,赤土防止条例の基準値自体,それ以下であれば海域に影響がないと科学的に証明された数値ではないから,条例に従ったからといって環境保全が科学的に十分ということにはならない。

(g) 以上のとおり,本件準備書がよって立つ仮定は,既に崩壊している。すなわち,本件準備書には科学性が欠如した瑕疵がある。

なお,沖縄県が作成した「平成18年度 新石垣空港整備事業に係る事後調査報告書」(甲61)では,環境(赤土等)パトロール実施状況の写真があるが,排水口から吐き出される排水は,明らかに土色をしている(4-11頁)。写真の場所は,「G-1」地点であり,正に海岸に面した部分である(4-10頁参照)。工事に着工したばかりの現時点において,既にこのように赤土が海域へ流出している。

また,平成20年6月7日,八重山地方に集中的な降雨(日降水量157ミリメートル)があり,沖縄県が設定した条件(日降水量264ミリメートル)を下回るものであったにもかかわらず,事業場内から外へ赤土混じりの濁水があふれ出す現象が発生した。

(ウ) 本件準備書における,本件方法書に対する住民等意見の無視及び軽視

a 本件事業が及ぼす環境影響の中で,特に慎重に影響評価を行うべき項目の筆頭に赤土流出による白保のサンゴへの影響評価がある。そのため,本件方法書に対しては,赤土流出問題の現状把握の方法や予測と評価の方法が適切か否かについて懸念を表明する意見が多数寄せられた。

しかしながら,本件準備書第4章「方法書に対する意見及び事業者の見解」に,本件準備書に対する住民等の意見と事業者である沖縄県の見解がまとめられているが,本件方法書に表れた赤土流出対策についての調査,予測及び評価の方法の不十分性を指摘する様々な意見は,沖縄県によって軽視され,例えば赤土の堆積については,「海域での堆積はほとんどないものと考え,予測は行っていません。」として無視されている。

b このような住民等意見の無視及び軽視の姿勢は,平成17年2月28日に縦覧に供された本件評価書まで続いた。

平成17年5月27日付け国土交通大臣意見として,「河川を通じて海域にもたらされる赤土等による濁り,堆積の影響については,現在の土地利用において…轟川に流出している赤土等の濃度及び総量を調査し,これらバックグラウンドとの比較や事業区域からの現在の赤土等の流出との比較により,本事業による影響の評価を行うとともに,機械処理設備からの排水濃度について検討を行うこと。また,降雨前の集水施設の点検,降雨中の監視を含めた機械処理設備の管理方法についても検討を行うこと。これらの結果を評価書に記載すること。」と指摘された(甲15)。そのため,沖縄県は,平成17年9月に本件補正評価書を作成・提出せざるを得なくなった。

これは,言い換えれば,本件準備書には大きな瑕疵があったということである。

c 民主性の無視及び軽視

環境影響評価において重要なことは,「科学性」と「民主性」であり,環境影響評価制度は,関係者間で合意形成を進めていくための民主的な手続を定めたものである。

環境影響評価法では,住民・有識者等が意見を表明し,事業者に見解をただす機会が,方法書段階と準備書段階の2度保障されている。方法書段階で受けた指摘を無視して準備書・評価書を作成し,主務大臣の指摘を受けて評価書の補正で対応することとなれば,決定的に重要な環境保全措置の内容が住民・有識者等には意見表明の機会がない場で初めて明らかにされることになる。すなわち,本件補正評価書で示された赤土流出対策は,住民・有識者のチェックなしでまかり通ることとなってしまう。

被告は,準備書に対する意見等を踏まえて評価書以降の手続で記載をすれば,何ら問題はないかのような主張をする。しかしながら,このような考え方は,環境影響評価制度が持つ民主的な意義を全く無視するものである。

(エ) 本件準備書に対する各方面からの厳しい指摘

審査会は,平成16年9月6日付けの被告に対する答申(甲12)において,赤土による水の濁りに関する本件準備書の記載に対し,赤土流出による環境への影響を評価する前提としての赤土流出防止施策(浸透ゾーン及び調整池,機械処理)についての具体的な記述がないことを手厳しく批判した。その上,赤土の堆積が環境に与える影響について調査及び予測する必要があることを明示的に指摘している。上記答申を受け,被告も,同様の意見を述べている(甲13)。

また,日本自然保護協会も,本件準備書の不備を厳しく批判している(甲19)。

(オ) 評価書以降の手続

前記のような関係各方面からの厳しい批判を受け,本件評価書においては,海域における赤土等の堆積についての項が追加された。このことからも,「事業により発生するSS負荷によって現況の赤土等の堆積状況が大きく変化することはないと判断し,赤土等の堆積について予測は行っていない。」という被告の主張に理由がないことは明白である。

しかしながら,本件評価書の記載も,極めて不十分であるとして,環境大臣及び国土交通大臣から,厳しい意見を突き付けられた。

本件環境影響評価が本件方法書の段階から極めてずさんなものであったことは従前主張してきたとおりであり,ずさんな方法書に基づいてずさんな準備書が作成され,それに基づいて評価書が作成されているのであるから,評価書が質の高いものであるはずはない。

(カ) まとめ

以上のとおり,本件準備書における赤土流出問題に関する記載は,不十分かつ不合理極まりないものであり,科学的な根拠を欠く。また,環境影響評価制度の民主的な意義からしても,当然に調査,予測及び評価すべき事項に関する記載を欠く本件準備書は,欠陥品というほかなく,評価書以降の手続で修正すれば済む問題ではない。

イ 希少コウモリに関する瑕疵について

本件事業実施区域の地下には複数の洞窟があり,ヤエヤマコキクガシラコウモリ,カグラコウモリ及びリュウキュウユビナガコウモリといった希少なコウモリが生息している。これら3種のコウモリ類は,環境庁(当時)が平成10年に発表したレッドリストで絶滅危惧ⅠB類に指定されている。新石垣空港が建設されれば,地下空洞の一部が消失するなど,上記希少コウモリ類の生息環境に大きな変化が生じる。そのため,上記希少コウモリ類について,事業による影響を調査,予測及び評価することは,本件環境影響評価上,重要である。

(ア) 調査に関する問題について

a コウモリ類調査報告書と本件準備書の関係

沖縄県は,平成13年度から平成15年度まで3年度にわたり,コウモリ類調査に係る報告書(乙13。以下,平成14年3月作成の「平成13年度新石垣空港コウモリ類調査業務報告書」(乙13の1)を「平成13年度コウモリ報告書」,平成15年3月作成の「平成14年度新石垣空港コウモリ類調査業務(その2)報告書」(乙13の2)を「平成14年度コウモリ報告書」,平成16年3月作成の「新石垣空港コウモリ類調査委託業務報告書」(乙13の3)を「平成15年度コウモリ報告書」といい,これらを併せて「本件コウモリ報告書」という。)をまとめている。その業務目的については,本件事業実施区域内及びその周辺地域の洞窟には前記3種の希少コウモリ類が生息していることから,これらコウモリ類の生息状況の現状把握と,工事実施中や工事完了後に保全対策を講じる際の基礎資料を収集することにあった。本件コウモリ報告書は,本件環境影響評価で求められる調査,予測及び評価のうち「調査」に該当するものであり,本件コウモリ報告書の調査結果が本件準備書に引用され,その調査結果を基に予測・評価が行われることになる。

なお,環境影響評価手続において本件方法書が縦覧に供されたのは平成14年12月24日であるが,平成13年度コウモリ報告書は平成14年3月に作成されており,ここでも方法書に基づかない調査が行われていた。

b 原データが合致していないことについて

(a) 本件コウモリ報告書の調査結果は,本件準備書に引用され,その調査結果を基に予測・評価が行われることになるものであるから,本件コウモリ報告書に記載された調査結果と本件準備書の記載は,原データに関する限り,完全に一致しなければならない。調査に基づく予測及び評価の結果については,他の要素を含めて判断する過程が介在するため,本件コウモリ報告書と本件準備書の判断が分かれることも理屈の上ではあり得る。しかし,例えばどの洞窟にコウモリが何個体いたかという調査結果の原データについては,本件コウモリ報告書と本件準備書の記載は一致しなければならず,もし,両者が一致しない場合は,その一方又は双方が誤っているということになる。

(b) 調査結果としての原データは,予測及び評価の前提となるものである。ある洞窟に希少コウモリが何個体ほど生息しているか,通年利用されているのか,一時的な利用にすぎないのかなどの原データは,本件事業による工事及び完成後の空港運用により一部の洞窟が失われた際に,希少コウモリ類にいかなる影響を与えるかを予測及び評価するために必要不可欠である。精度の高い予測及び評価をするためには,精度の高い調査結果が必要である。当然ながら,誤った調査結果に基づく予測及び評価が正しいものになるはずがなく,原データの正確性は,極めて重要である。

しかしながら,本件コウモリ報告書に記載された調査結果の数字と,本件準備書で引用された数字とでは,実に多くの齟齬がある。しかも,1個体や2個体の違いではなく,例えば本件コウモリ報告書では416個体が観測されたとしながら,本件準備書では零個体になるなど,著しい齟齬が多数含まれている。

このような誤った調査結果に基づいて予測及び評価した結果に科学的信用性がないことは明白である。

(c) 沖縄県の担当者は,本件準備書において誤記があったとしても,本件評価書の中で修正されているので,環境影響評価の手続は適切に行われたなどと述べるが,環境影響評価において重要なことは「科学性」と「民主性」であり,環境影響評価制度は,関係者間で合意形成を進めていくための民主的な手続を定めたものである。準備書に記載された調査結果に誤りがあっても,評価書で修正すれば足りるかのごとき意見は,環境影響評価制度が持つ民主的な意義を全く無視するものである。むしろ,本件完了検査を行った検査員F’は,検査の段階で本件準備書に誤記があることを把握していたにもかかわらず,評価書で修正されれば足りるとの考えで,本件準備書の修正はしなかったというのであり,環境影響評価手続が持つ民主的な意義を軽視する態度が如実に表れている。

c 本件環境影響評価終了後に行われた専門家による調査の結果,平成19年6月7日ないし同月9日の調査時には,A洞窟でリュウキュウユビナガコウモリの授乳雌が確認され,また,平成20年6月5日ないし同月7日の調査時には,C洞窟の洞口において妊娠末期の同種の雌が確認された。これらの事実から,A洞窟及びC洞窟は,石垣島で唯一のリュウキュウユビナガコウモリの出産・哺育場所となっている可能性が極めて高いことが明らかになった。

しかし,本件準備書では,A洞窟及びC洞窟について,リュウキュウユビナガコウモリ出産・哺育場所としての利用を確認したとはしておらず(この結論は,本件評価書においても維持されている。),事後調査によって本件準備書の瑕疵が証明された。

このような本件準備書の瑕疵は,沖縄県が,平成14年度コウモリ報告書(乙13の2)においても必要性を指摘されていた「複数年にわたる調査」を行わなかったことに起因するものである。

(イ) 予測及び評価に関する問題について

a 平成14年度コウモリ報告書(乙13の2)の指摘

平成14年度コウモリ報告書(10-10頁)では,「新空港の建設によって,A洞窟とD洞窟の(カグラコウモリの)コロニーの存在が脅かされることは明らかである。この2つのコロニーは,島の南東部に存在するすべてのコロニーの存続(特に冬期)に非常に重要であり,互いに遺伝的に非常に近い関係がある。予定地に存在するコロニーの損失は,島の南東部に存在するほとんどのコロニーの損失につながるとともに,幾つかの対立遺伝子の減少や損失などといった,遺伝的な変異の損失をも意味するだろう。」として,本件事業が石垣島のコウモリの生態系に危機的な損失を与えるであろうと警鐘が鳴らされた。その上で,「予定地のコロニーと島内他洞窟間におけるカグラコウモリの移動を解明するために,標識法を用いて,数年間の調査を行うこと」が提案された。さらに,「本研究の結果から,新空港の建設は,石垣島の南東部のコロニーだけではなく他のコロニーへも大きな影響を与える可能性があることが示唆されたため,建設の決定は,注意をして行うべきだと考える。…石垣島の南部におけるコロニーの損失は,石垣島のコロニーの隔離を引き起こす可能性があり,カグラコウモリの生存にも影響を与えるだろう。」として,新石垣空港建設により,石垣島のカグラコウモリが全滅する可能性があることが示唆された。

b 複数年調査は実施されていないこと

平成14年度コウモリ報告書が作成されたのは,平成15年3月である。他方,本件準備書は,平成16年3月に作成されており,平成14年度コウモリ報告書が提案した「標識法を用いた数年間の調査」は行われなかった。これは,本件準備書は,新石垣空港建設が環境に与える影響を予測及び評価するために必要十分な調査を行わないまま作成されたことを意味する。

c 被告の反論には理由がないこと

本件準備書においては,A洞窟やD洞窟がコウモリ類に利用されなくなる可能性は低いと考えられるとされている(本件準備書6-12-241頁)。

この点,被告は,本件準備書は環境保全措置を行うことも前提に含めた評価であり,環境保全対策を行わない前提の平成14年度コウモリ報告書とは前提条件が異なるから,平成14年度コウモリ報告書と本件準備書で予測及び評価の結果が異なっても問題はないと主張する。

しかしながら,前述のとおり,平成14年度コウモリ報告書は「予定地のコロニーと島内他洞窟間におけるカグラコウモリの移動を解明するために,標識法を用いて,数年間の調査を行うこと」を求めていたにもかかわらず,本件準備書は平成14年度コウモリ報告書作成から1年後に作成されているのであり,標識法を用いた数年間の調査は実施されていない。このような数年間の調査を実施せずしてA洞窟やD洞窟が利用されなくなる可能性は低いと結論付けた本件準備書に,科学的信用性がないことは明らかである。

しかも,本件準備書においては,「コウモリ類に何らかの生息妨害が及び,これらの洞窟を利用しなくなった場合の緊急避難場所としてのねぐらを確保するため,人工洞の設置を検討する。」とされており(本件準備書6-12-241頁),人工洞を設置するからA洞窟やD洞窟がコウモリ類に利用されなくなる可能性は低いなどということは述べていない。A洞窟やD洞窟がコウモリ類に利用されなくなる可能性は低いと結論付けた上で,いわば,念のために人工洞の設置を検討するとしているのである。

被告の上記主張は,本件準備書の記載を自らに有利なように恣意的に解釈したものである。

d 環境保全措置に具体性がないこと

沖縄県は,環境保全措置として,① 照明の設置,② 移動経路の創出,③ 餌場の確保,④ ねぐらの周辺環境の維持,⑤ 騒音・振動,⑥ 人工洞を挙げるが,いずれも具体性を欠き,実効性の存在について科学的な裏付けもない。

照明の設置について,沖縄県は,前述のとおり,進入灯及び障害灯について,どこに,いかなる設備を置くのか,本件方法書段階で明らかにしておらず,また,後述するとおり,本件準備書における記載も極めて不十分である。そのため,「誘虫性の低い街灯を使用すればコウモリ類への影響はない」とする結論について,一切の検証がされていない。

動経路の創出については,どこに,どのような移動経路を創出するのか,具体的な中身が何もない。また,創出された移動経路をコウモリ類が移動することの検証もされていない。

餌場の確保については,採餌場所が減少することは明らかであり,「緑地の確保を関係機関に要請する」というが,周囲の餌場だけで個体群を維持できるかどうかについて検討・検証した様子はない。また,対策が「関係機関に要請」という他力本願なものであり,実効性が確保されていない。

ねぐらの周辺環境についても,ねぐらが減少することは明らかであり,周辺環境の維持だけで十分なねぐらが確保できるかどうかについて検討・検証した様子はない。また,対策が「関係機関に要請」という他力本願なものであり,実効性が確保されていない。

騒音・振動についても,騒音振動を監視し,建設機械の稼動台数を調整するというが,例えば騒音を何デシベル以下に抑えれば影響を回避できるのかといった具体的検討・検証を行っていない。

人工洞については,本件準備書自身が記載しているとおり,国内外にこれまでに報告がないため,実効性があるかどうか全く不明である。

e 本件準備書は,A洞窟やD洞窟がコウモリ類に利用されなくなる可能性は低いと考えられると結論付けるが,これまでみてきたとおり,平成14年度コウモリ報告書が指摘した複数年調査が行われておらず,予測及び評価を行うために必要な調査が不十分である上,環境保全措置に具体性及び科学性がない。よって,上記のような本件準備書の結論には,科学的な裏付けはないといわざるを得ない。

(ウ) 本件準備書に対する厳しい指摘

審査会は,本件準備書に対する答申(甲12)の中で,小型コウモリ類に関し,実に12点もの留意点を指摘した上で,再度の予測及び評価が必要であると指摘した。また,騒音・振動による影響についても,より具体的な予測が必要であると指摘した。環境保全措置については,人工洞について実験洞に係る取組方針を明確にするなど本格的なものとするための検討をすること,小型コウモリ類の移動経路及び餌場の確保策について内容を具体的に検討すること,洞窟の入り口付近における照明に対する対策を検討すること等が必要であると指摘した。

これを受けて,被告も,同様の意見を述べている(甲13)。

(エ) 評価書以降の手続

沖縄県は,前記のような本件準備書に対する指摘を踏まえて,本件評価書を作成した。しかし,本件評価書の記載も,極めて不十分であるとして,環境大臣及び国土交通大臣から厳しい意見を突き付けられ,また,その他専門家による指摘もされた。さらに,本件環境影響評価は,方法書の段階から極めてずさんなものであったことは従前主張してきたとおりであり,ずさんな方法書に基づいてずさんな準備書が作成され,それに基づいて評価書が作成されているのであるから,本件評価書が質の高いものであるはずはない。

結局,沖縄県は,平成16年10月になって「小型コウモリ類検討委員会」なる諮問機関を設けて環境保全措置について検討せざるを得なくなった。このような検討は,当然本件準備書作成の段階で行われていなければならないことである。しかも,そのような検討を経ても,専門家からは調査や対策の不十分を指摘され,現に,工事によって希少コウモリ類の激減を招く結果となっているのである。

(オ) まとめ

以上のとおり,本件準備書における希少コウモリ類に関する記載は,不十分かつ不合理極まりないものであり,科学的な根拠を欠き,本件準備書は,欠陥品というしかない。

ウ 進入灯及び障害灯に関する瑕疵について

進入灯及び障害灯は,環境に重大な影響を与え得る環境かく乱要因であるから,環境影響評価手続の対象とすべきことに争いはない。しかし,本件準備書において,進入灯及び障害灯に関する調査,予測及び評価は,極めて不十分なものにとどまった。

(ア) 本件準備書における進入灯及び障害灯についての記載

被告は,進入灯及び障害灯のいずれも,本件準備書2-4頁の図-2.2(2)に位置を記載したと主張する。しかし,本件準備書第2章の本文中には進入灯及び障害灯について一切記載がなく,高さも規模も全く不明であるから,住民等は,到底,意見を述べるだけの情報を取得できないというべきである。

また,被告は,本件準備書第5章及び第6章において,進入灯及び障害灯が影響要因の「工事の実施」及び「土地又は工作物の存在及び供用」に包含されていると主張するが,被告は,これを縦覧した住民が,「工事の実施」及び「土地又は工作物の存在及び供用」という文言に,個別具体的に進入灯及び障害灯を読み取ることまで要求しているのであって,無理を強いるに等しい。

本件方法書が縦覧に供された後,環境検討委員会や審査会で進入灯及び障害灯の設置位置や規模等が明らかにされ,特に,本件準備書が縦覧に供されたときより1か月近く前の平成16年3月2日に行われた第11回検討委員会では,その配付資料(甲20)で進入灯及び障害灯を含む新石垣空港の全体像が示された。これらの重要な情報は,少なくとも本件準備書にはできる限り反映されるべきであったし,時間的にも間に合っていたはずであった。

(イ) カンムリワシに対する調査,予測及び評価について

a カンムリワシは,環境省(平成13年1月の中央省庁再編前の環境庁)レッドリストの絶滅危惧種に指定され,日本では石垣島と西表島にしか生息していない極めて希少な生物種である。カンムリワシの営巣木が本件事業実施区域内に確認されているため,進入灯及び障害灯の放つ光がカンムリワシに重大な影響を与え得る。

b しかし,進入灯及び障害灯の設置や規模は,本件方法書には一切記載されなかった。そのため,平成15年3月11日の第8回環境検討委員会で障害灯の設置が初めて明らかにされたとき,委員からは,障害灯がカンムリワシに与える影響について,きちんと調査されないのではないかという懸念や要望が示された。

c 本件準備書において,障害灯については,設置予定位置,周辺地域における動植物の現状,環境影響の調査,予測及び評価が一定程度されている。

しかし,カンムリワシの個体群の維持に障害灯を含めた本件事業がどのような影響を与えるかについて,その調査,予測及び評価が決定的に不足していた。

本件準備書では,平成15年,バンナ岳に設置された障害灯周辺で,カンムリワシの繁殖期に当たる4月ないし5月に調査した結果,障害灯の存在や赤色光の点滅がカンムリワシの生息・繁殖に及ぼす影響は小さいものと思われる旨の結論のみをわずか1頁に示している(6-12-224頁)。しかし,本件準備書の段階でも,調査,予測及び評価の方法は,それが適切か否か判断できる具体的な形では示されておらず,調査データも示されていない。

そして,決定的に問題であるのは,本件準備書に示されたカンムリワシの調査は,繁殖ペアと思われるカタフタ山の1ペアのみに集中し,若い個体の調査が欠落していることである。カタフタ山は,本件事業実施区域の北西およそ2キロメートルに位置する山であり,障害灯の設置が計画されている四つの山のうちの一つである。調査対象とされたペアの行動圏は,本件事業実施区域とほとんど重ならず,したがって飛行場の存在がカンムリワシの生息・繁殖に及ぼす影響は小さいと結論付ける。しかし,世代の継続,個体群の存続にとっては,次の世代である若い個体の生息環境への影響評価が不可欠である。そして,若い個体の行動圏は,成鳥の行動圏とは異なり,低地部の水田等で餌を採る行動が見られるということは沖縄県の調査にも散見される。したがって,若い個体の生息に及ぼす影響の調査,予測及び評価を欠いた本件準備書は,カンムリワシの絶滅リスクを評価する上で決定的に不十分である。本件準備書6-12-224頁は,データが示されず,検証に耐えられるだけの方法も示されないまま,結論だけが書かれており,航空障害灯が問題ないのかどうかという判断はできかねるものである。

(ウ) オオコウモリに対する調査,予測及び評価について

a オオコウモリは,小型コウモリが反響定位によって飛行するのに対し,視覚に頼って夜間に有視界飛行を行う。そして,オオコウモリは,本件事業実施区域周辺に多く生息している。したがって,進入灯及び障害灯が放つ光がオオコウモリの生態に重大な影響を及ぼし得る。

b しかし,前述したとおり,進入灯及び障害灯の設置や規模は,本件方法書には一切記載されなかった。

そのため,第8回環境検討委員会で障害灯の設置が初めて明らかにされたとき,委員からは,「このあたりにはオオコウモリが結構いると思うのですが,…オオコウモリというのは,有視界飛行しているもので,…視覚で,しかも夜動きますので進入灯が点灯されるとかなり影響を受けるのではないかと懸念があるのですが」との指摘があった。

しかし,やはりこの問題でも,委員の指摘が生かされなかった。本件準備書では,「進入灯及びエプロン照明については,空港照明の運用時間は現空港同様に21時までを想定していることから,影響のある時間は短く,重要な種の生息状況に及ぼす影響は極めて小さいと考えられる。」との結論が示されている(6-9-97頁)。この結論は,進入灯について,概略の位置が示されるだけで,具体的な位置や規模等は何ら記載されず,それがもたらす環境影響の予測及び評価の手法が明らかでないまま,根拠なく示された。そして,この結論は,陸上動物のうち昆虫に関して述べられたものであるが,オオコウモリについては,大丈夫なのかという指摘・懸念が環境検討委員会の議論の過程で出されたにもかかわらず,本件準備書に一切触れられなかった。

結局,カンムリワシについてもオオコウモリについても,環境検討委員会で示された懸念・要望は,本件準備書作成後も本件補正評価書に至るまで,十分に検討されなかった。これは,進入灯及び障害灯の設置位置及び規模等の重要な情報が本件方法書から漏れていたために,進入灯及び障害灯のカンムリワシやオオコウモリに与える影響が本件方法書段階できちんと議論されず,また,住民等意見を取り入れられなかったことが,最後まで響いたものである。

(2) 残金7350万円について支払を拒絶すべきであったこと

(1)記載のとおり,本件共同企業体が沖縄県に納品した本件準備書は,数々の致命的欠陥があったのであるから,沖縄県は,本件共同企業体から残金7350万円の請求があったとしても,成果物の納品がないことを理由にその支払を拒むべきであった(なお,実際には,契約改定に基づく追加報酬の支払もあるが,本訴訟においては,住民監査請求を経ている当初契約金の残金7350万円についてのみ問題とする。)。

(3) 成果物の検査について

ア 本件準備書の作成に当たっては,当時建設対策室主幹であったI’が,A’室長より主任調査員として命ぜられ,本件契約の締結から成果物が検査に合格するまで本件準備書作成委託業務の主任調査員を務め,受注者に成果物の作成に当たり直接指示をしてきた。

また,本件準備書作成委託業務の完了検査(本件完了検査)については,当時の検査権者であるE’より検査員として命ぜられたF’が行った。

上記検査結果については,建設対策室において決裁後,検査権者である建設対策室長E’より受注者あてに検査合格通知書及び委託業務等成績評定通知書が送付されている。

ところが,前記I’による指示及びF’による本件完了検査は,極めてずさんなものであり,本件準備書の瑕疵を見過ごすものであった。

イ そもそも,沖縄県が本件準備書作成を発注するに当たり,環境影響評価法が求めている住民等意見への配意(法11条1項,8条1項)は全く抜け落ちていた。

すなわち,沖縄県が委託先に提示した「委託業務特記仕様書」(乙32の資料6)には,「第6条(作成の留意点)」の条文があるが,同条は,「準備書の作成に当たっては,『方法書に対する知事意見』『環境検討委員会の指導・助言』等を踏まえ適切に対処すること。」とあり,環境影響評価法が要求していない環境検討委員会の指導・助言を踏まえることを要求しつつ,その反面,環境影響評価法の要求する住民等意見への配意については,全く触れられていない。

このように,沖縄県は,本件準備書作成委託業務の発注に当たっても,また,指導監督に当たっても,環境影響評価法が求める住民等意見への配意(法11条1項,8条1項)をないがしろにしてきた。

その結果,本件方法書に対する住民等意見が無視及び軽視され,本件準備書の瑕疵につながった。

ウ また,(1)イ記載のとおり,本件コウモリ報告書に記載された調査結果の数字と,本件準備書で引用された数字とでは,実に多くの齟齬がある。

I’は,本件準備書作成委託業務のみならず,本件コウモリ報告書の作成委託業務についても,主任調査員を務め,受注者に成果物の作成に当たり直接指示をしてきた。

にもかかわらず,I’は,本件コウモリ報告書と本件準備書に記載された原データに明確な齟齬が多数あることを見過ごした。しかも,その齟齬は,1個体や2個体の違いではない。例えば本件コウモリ報告書では416個体が観測されたとしながら,本件準備書では零個体になるなど,著しい齟齬が多数含まれている。I’には重大な過失があったというほかない。

さらに,F’は,上記のような明確な齟齬が多数あることを知っていたにもかかわらず,本件評価書において修正されれば良いとの認識で,本件準備書につき,受託業者に対して修正を求めないまま,合格の判断をした。評価書において修正されれば準備書の瑕疵は治癒されるかのごとき考え方は,正当性を持ち得ない。

エ その上,本件準備書は,環境検討委員会の指導・助言に対しても十分にこたえることができていない。すなわち,環境検討委員会では,進入灯や障害灯の設置が明らかになるに伴い,カンムリワシやオオコウモリに与える影響を懸念する意見が出されたが,本件準備書は,委員の懸念にこたえられる内容にはなっていなかった。

にもかかわらず,I’は,カンムリワシやオオコウモリについて調査を補充することを指示せず,F’も,漫然と合格の判断を行った。

オ なお,F’は,本件準備書作成委託業務に関する指定部分検査(本件指定部分検査)は既に行われており,F’は本件完了検査を行ったものである旨などを述べるが,そもそも指定部分検査を行った検査員D’に対しても,前記のI’及びF’に対するほとんどの指摘が当てはまるし,また,F’が本件完了検査を行うまで,沖縄県は発注先に費用を支出していなかったのであるから,当然,F’は本件指定部分検査後に明らかになった事情も踏まえて,全体について完了検査を行うべきである。

(4) C’の責任

C’は,本件支出命令2当時の沖縄県知事であって,支出を命令する権限を本来的に有する職員であり,本件共同企業体からの残金請求について,本件準備書が委託の本旨に従った成果物ではない以上,支払を拒むべきであった。

ところが,C’は,当時,新石垣空港建設の是非が沖縄県政の重大課題であって,沖縄県内外において新石垣空港建設による環境破壊が重要な問題として認識されていたのであるから,当然,本件準備書の内容についても注意を払い,精査をすべきであったにもかかわらず,新石垣空港建設推進の立場から,漫然と後記する専決権者の判断にゆだねて,その結果,支払う必要のない7350万円の支出命令を許す結果となり,沖縄県に同額の損害が生じた。

このように,C’は,専決権者に対する指導監督上の故意又は過失によって,沖縄県に7350万円の損害を生じさせた。

(5) B’の責任

ア B’は,本件支出命令2当時,空港課長の職にあり,支出命令の専決権者であった。

B’は,前記のとおり本件共同企業体に対して7350万円を支払うべきではなかったにもかかわらず,専決権者として漫然と同額の支出を命じており,故意又は過失によって沖縄県に7350万円の損害を生じさせた。

イ なお,7350万円の支出について,本件準備書作成委託業務の完了検査(本件完了検査)がされたのは平成17年3月30日であって,本件完了検査時の専決権者はE’であり,B’ではない。そして,実際の完了検査は,E’より検査員として命ぜられたF’が行った。

しかしながら,本件準備書の瑕疵は重大かつ明白であり,予算執行の適正確保の観点から決して看過することのできないものである。加えて,前述のとおり新石垣空港建設による環境破壊が重要な問題として認識されていたのであるから,当然,B’も,空港課の課長に就任するに当たり,E’やF’から十分な引継ぎを行い,課長就任後直ちに本件準備書の確認を行うべきであり,しかもそれは容易であった。

ところがB’は,新石垣空港建設推進の立場から,漫然と支出命令をしたのであるから,完了検査をしたのが前任者であったからといって,責任を免れることはない。

もし本件のように,前任者の完了検査合格判断を踏襲して後任者が公金支出をした場合,公金支出した者が責任を負わないことになれば,違法な公金支出につき,だれも責任を負う者がいなくなってしまう。これでは,地方自治体は,頻繁な人事異動により,だれも責任を負わない無責任体制を作出することができるようになってしまう。かかる結論が不当であることは明らかである。

(6) C’及びB’の賠償義務

以上のとおり,C’及びB’は,後払金7350万円の支出について賠償義務を免れないから,被告に対して,C’及びB’に対し,7350万円及びこれに対する後払金7350万円が支出された翌日である平成17年5月14日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払うよう請求することを求める。

(被告の主張)

(1) 本件準備書の瑕疵について

ア 赤土流出問題に関する瑕疵について

(ア) 原告らは,沖縄県による赤土流出防止対策は前提となる仮定が既に崩壊しており,現実に赤土が流出していると主張するが,赤土流出に対して,防止対策保全措置が講じられたか否かが問題であり,現実に通常程度の赤土流出があるか否かが問題なのではない。

a 既に目詰まりを起こしているとの主張について

第10回新石垣空港建設工法検討委員会で,赤土流出防止対策について検討した事実はない。同委員会で検討した事項は,空港供用開始後の地下水保全対策である。沖縄県による地下水保全対策は,滑走路と平行誘導路の間の盛土部分のみに幅25メートルのドレーン層を設ける計画であり,実際に,本件事業着工後に本件事業実施区域内11箇所で地下水対策の目的で浸透能力実験を行ったところ,浸透能力が低かったため,同委員会で対策を検討したのである。その結果,ドレーン層内にドレーン管を設置することになった。

実際に,滑走路と平行誘導路の間に盛土を行うのは2年次計画からで,平成20年8月ごろに着工予定である。そのため,大幅な設計変更はない。

b 新たな空洞の発見,パイピングの存在について

「名蔵層にあるパイピングによる空洞」は,存在しない。

「カラ・カルスト地域における絶滅危惧種コウモリ類,洞窟内動物および洞窟気象と地下水系に関する学術調査報告書」(甲57)に「パイピングによる空洞」の記載があるA1洞窟及びE洞窟について述べると,まず,A1洞窟は,琉球石灰岩層中に形成されている空洞であるから,「名蔵層にあるパイピングによる空洞」ではない。次に,E洞窟は,地表側が琉球石灰岩層と地中側が名蔵礫層(「名蔵層」と同義である。)の間に形成された空洞であり,その形成過程は,琉球石灰岩層の空洞から琉球石灰岩層と名蔵礫層との間に地下水が流れ込み,琉球石灰岩層は溶食を受け,名蔵礫層は砂礫分が浸食や吸い出しを受けて,形成された空洞であるから,原告らの主張する「名蔵層にあるパイピングによる空洞」ではない。

また,今後,本件事業による工事等において,名蔵層にパイピングによる空洞が形成されるおそれはない。「パイピングによる空洞」が形成されるには,未固結地層に浸透した水が小さな空洞等に集水し,かつ,名蔵層を形成する土粒子を動かす程度の水圧(浸透流)が必要である。水圧がある限界(以下「限界動水勾配」という。)を超すと,土粒子が動かされ,土塊が移動することにより,「パイピングによる空洞」が形成されるところ,本件事業実施区域地下の限界動水勾配は0.87であるのに対し,本件事業実施区域地下と海岸を結ぶ沖積層の水圧については0.005である。したがって,科学的にみて,水圧によって土塊が移動することも土粒子が移動することもない。

原告らは,陸地側から海岸向けに本件事業実施区域地下を通じて赤土流出が考えられるとし,実際に赤土流出を確認したとするが,同じ場所に平成20年6月6日と同月9日に穴を掘り,透視度計によりSS濃度を測定したところ,21ミリグラム/リットル以下であった。また,本件補正評価書と同じ場所の2地点で穴を掘ったところ,SS濃度値は21ミリグラム/リットル以下であった。今回の測定時の濁水は赤色ではないし,濁水には砂等も含まれている。以上より,赤土が流出していないことは明らかである。

c ろ過堤の管理不行き届きについて

ろ過砂がろ過施設外に出るのは,ろ過堤の機能が働いた結果である。そのため,沖縄県は,定期的にろ過砂の補充を行う等,ろ過堤の管理を十分に行っている。

d 浸透池の機能不全について

沖縄県による浸透処理方法は,まず,赤土混じりの水につき,場内仮設調整池で粗粒子の赤土を沈殿させ,その後,上澄みの赤土混じりの水をろ過施設へ流入させ,細粒子の赤土混じりの水を沈殿させるとともに,ろ過堤を通し,赤土をろ過する。さらに,通水後の微粒子の赤土混じりの水を浸透ゾーン(浸透池)へ流入させ,地下浸透する過程で微粒子の赤土を除去するというものである。

原告らは,赤土が堆積し浸透機能が損なわれているとする。しかし,そもそも調整池は,浸透機能を有した池ではない。また,ろ過施設において沈殿機能を有する部分に赤土や泥がたまるのは,正に沈殿機能が働き,赤土等が除去された結果である。さらに,浸透ゾーンについては,地下浸透に伴い赤土等が除去されるのであるから,その下底に赤土や泥がたまるのは当然のことである。

原告らは,平成20年4月17日の降雨量は,91.5ミリメートルであったとするが,仮に,浸透機能が目詰まりを起こしているならば,91.5ミリメートルの降雨は,浸透せずにたまっているはずであるところ,それだけの水量はたまっていないのであるから,地下浸透は機能しているのである。

e 機械処理は実験すらされていないとの主張について

沖縄県は,赤土流出防止対策の一つである濁水処理対策について,「浸透ゾーンを利用した地下浸透方式を主とするが,地質等の状況により実施できない場合は,機械処理方式を併用する。」,「難透水性の区域については,機械処理方式の濁水処理対策を実施する。」とし,具体的な難透水性の区域は南側仮設調整池設置予定箇所であり,南側仮設調整池は第5年次計画で設置する予定である。そのため,現時点では機械処理施設の設置を行っていない。

f 10年確率を超える降雨の発生について

沖縄県は,10年確率降雨を用いるに当たり,沖縄県赤土等流出防止条例及び同施行規則を根拠とした。沖縄県赤土等流出防止条例4条1項,同施行規則4条,別表第1の6(2)及び(3)は,赤土流出防止対策の浸透施設の容積算定に当たり,2年確率降雨強度を用いることを規定しているところ,沖縄県は,本件事業計画が5年であることから,その2倍の期間である10年確率降雨を合理的であるとして用いたのである。上記根拠については,条例及びその施行規則を基準とし,容積算定を行い,いたずらに過大な容積算定による弊を排して,法的基準を満たしているもののであるから,十分科学的である。

g 原告らは,排水口から吐き出される排水は,明らかに土色をしている,原告らが調査した結果,G-1地点周辺の砂浜は,赤土で色が染まっていた,工事に着工したばかりの現時点において,既にこのように赤土が海域へ流出していると主張する。しかし,原告らのいう赤土は,本件事業により流出した赤土ではない。

本件補正評価書に記載されている本件事業実施区域周辺の赤土流出の調査結果からすれば,本件事業実施前から,本件事業と無関係に本件事業実施区域周辺から赤土が流出していたことは明らかである。

平成19年5月1日に撮影された写真(甲61)については,沖縄県の平成18年度の事業予定は,本格的な事業実施前に必要な環境保全措置を講じることであったところ,実際に平成18年度の本件事業の施工が完了したのは平成19年5月31日であり,平成18年度の環境保全措置が完了しなければ適切な環境保全措置が講じられないため,環境保全措置の施工完了後に平成19年度施工予定の工事に着手したのである。平成19年5月31日以前は,主に環境保全措置工事で,平成19年度施工予定工事はなかった。

(イ) 原告らは,本件準備書に対して厳しい意見や批判が出されているとする。

しかし,まず,環境影響評価法における「環境の保全の見地からの意見」は,法所定の手続であって,これが特別に「批判」となるものではなく,本件準備書に瑕疵があることになるものでもない。

また,本件準備書においては,本件事業により発生するSS負荷によって現況の赤土等の堆積状況が大きく変化することはないと判断し,赤土等の堆積について予測は行っていない。すなわち,沖縄県は,河川においては河川流量と濁度の調査,海域においてはシミュレーションを実施し,さらには,底質中懸濁物質(SPSS)の調査も実施した調査結果から,赤土等の堆積状況が大きく変化することはないと判断したため,環境影響評価法の予測評価としての予測を行っていないものである。もっとも,上記判断については,広義では予測評価を行ったものともいえる。

この点に関し,本件評価書では,赤土等の堆積による影響についても予測を行うこととする旨の知事意見を勘案して,上記判断の根拠を記載したものである。さらに,本件補正評価書は,国土交通大臣意見を勘案して作成したものである。

環境影響評価法上,事業者は方法書や準備書に対する意見に配意し,又はこれを勘案するものとされており,さらに,評価書に対し,環境大臣意見を勘案して述べられた国土交通大臣意見を勘案して補正評価書が作成されるものである。沖縄県は,それぞれの意見について,環境影響評価法に則した手続を行っている。

イ 希少コウモリに関する瑕疵について

(ア) 本件各コウモリ報告書と本件準備書の関係について

平成14年度コウモリ報告書(乙13の2)は単年度の調査報告書であって,同報告書に係る調査は環境影響評価のための調査ではない。A洞窟及びD洞窟周辺の保全対策を行わないまま空港が建設されるとコウモリのコロニーの生息が脅かされることが明らかであるという意味で課題を提案した調査報告である。

他方,平成13年度ないし平成15年度にわたって小型コウモリ類関係調査が行われており,これらの調査結果も既存文献として本件環境影響評価に活用し,本件準備書の作成においては,このような平成15年度までの調査結果を取りまとめて環境影響の予測を行い,予測の結果から環境保全措置の必要性を判断し,評価している。

このように,本件準備書は,環境保全措置を行うことも前提に含めて評価しており,A洞窟及びD洞窟が利用されなくなる可能性は低いと考えられることを記載しているのであって,環境保全措置を行わない前提の平成14年度コウモリ報告書とはそもそもの前提条件が異なるものである。

(イ) 本件コウモリ報告書と本件準備書のデータの不一致について

平成15年度コウモリ報告書(乙13の3)に記載されている測定結果のデータと,本件準備書に記載されているデータは,必ずしも一致するものではない。本件準備書は,平成13年度から行われている小型コウモリ類の調査結果を基にしたものであり,平成16年1月の冬期調査をもって取りまとめられ,同年3月22日に完成した成果物であり,平成15年度コウモリ報告書は,平成16年3月まで調査を実施し,同月31日に完成した成果物であり,本件評価書は平成17年2月に完成した成果物である。それぞれ作成時点での調査結果,知見等を網羅して作成されていることから,調査結果が一致しないのは当然である。

A洞窟におけるリュウキュウユビナガコウモリの生息実態調査結果について,本件準備書では出産哺育群への生息妨害を避けるため夜間に入洞したときの目視調査結果を採用して零個体と記載したが,本件コウモリ報告書ではより正確な個体数が把握できるビデオ撮影法の結果を採用して416個体とし,本件評価書においても同様に416個体としたものであるなど,記載の違いには理由がある。

齟齬の修復は,その後の手続で行われるものであり,本件準備書には,コウモリ類の記載部分等に誤記等が存在するが,これらは環境影響評価法の手続の中で正しく修正されて次の段階の評価書が誤りなく作成されることが予定され,そのように正されたこと,本件準備書が縦覧に供されたという法の目的を達成した成果物であり,手続法的に法的安定性も配慮するべきことなどを勘案して,本件完了検査において成果不良とする重大な瑕疵は何らないことから,本件準備書に誤記等があっても完成した本件準備書作成委託業務の成果物の一部として適法に作成されたと評価したものである。

(ウ) 環境保全措置について

コウモリ類に関する環境保全措置(本件準備書6-12-241頁,242頁)の内容は以下のとおりであり,これらは事業者により実行可能な範囲内で環境影響をできる限り回避し,又は低減することを目的として,陸域生態系の環境影響評価の予測結果(本件準備書6-12-195頁ないし6-12-238頁)より検討されたものである。

a 照明の設置

外灯等の照明の設置については,誘虫性が低い照明を用いる。

b 移動経路の創出

A洞窟及びD洞窟の周辺の樹林と,カタフタ山,タキ山周辺の樹林,また,海岸林へ至る樹林との連続性を保ち,移動経路の創出を図る。

c 餌場の確保

採餌場となる緑地の確保を関係機関に要請する。

d ねぐらの周辺環境の維持

A洞窟及びD洞窟の洞口周辺の樹林を維持する。また,A洞窟及びD洞窟の周辺については,関係機関との連携によって現状の自然環境の維持に努める。

e 騒音・振動

コウモリの出産・哺育又は休眠時期については,騒音振動を監視し,建設機械の稼動台数を調整する。

f 人工洞

A洞窟やD洞窟がコウモリ類に利用されなくなる可能性は低いと考えられる。しかし,コウモリ類に何らかの生息妨害が及び,これらの洞窟を利用しなくなった場合の緊急避難場所としてのねぐらを確保するため,人工洞の設置を検討する。さらに,コウモリ類が洞窟の代替施設を元の洞窟と同じように利用した事例は,国内外でこれまでに報告がないため,設置する人工洞窟の構造,内部の微気象,建設場所及び周辺の環境について,設置前に十分に検討するとともに,設置後にも調査し,人工洞をコウモリ類が利用し得るかどうか検討する。

ウ 進入灯及び障害灯に関する瑕疵について

進入灯及び障害灯いずれについても,本件準備書2-4頁の図-2.2(2)に位置を記載し,さらに,本件準備書2-6頁,6-1-17頁では進入灯及び障害灯の内容に関する事項を記載している。

また,進入灯及び障害灯いずれについても,本件準備書第5章で,影響要因の「工事の実施」及び「土地又は工作物の存在及び供用」に包含される形で,調査及び予測の手法を記載している。例えば,進入灯及び障害灯が陸上動物に与える影響については,調査の概要(6-9-1頁ないし6-9-8頁),調査地点(6-9-9頁ないし6-9-18頁の図で明示されている。),調査結果(6-9-19頁ないし6-9-29頁),工事の実施に係る予測(6-9-30頁ないし6-9-79頁),土地又は工作物の存在及び供用に係る予測(6-9-80頁ないし6-9-101頁)及び評価(6-9-102頁ないし6-9-105頁)に記載されているし,その他の環境要素「大気質」等も本件準備書第6章に,また,それぞれの調査,予測及び評価の結果は,本件準備書第9章に総合評価として記載している。

以上のとおり,進入灯及び障害灯に関して,方法書及び準備書の手続は適切にされている。

なお,原告らが本件準備書の記載内容について,予測も評価も不十分であるとするのは,本件準備書に対する環境保全の見地からの意見であり,原告らにはこのような意見を提出する機会は与えられていた上,沖縄県は,本件準備書に対するこのような手続を経て本件評価書を作成したものであり,原告らの上記主張は,本件準備書の瑕疵となるものではない。

(2) 本件支出命令2の違法性は,争う。

沖縄県は,法令等にのっとり,本件準備書作成等の手続を適正に進めたものであり,成果物たる本件準備書の適正な納品を受けた以上,財務会計上,契約に基づき受託者の請求に応じて支払をすべきもので,支出を拒絶すべき理由はない。本件準備書作成委託業務に係る成果物の作成に際しては,受注者を適切に指揮監督し,成果物に対しては適正に検査をして引渡しを受けるなどの地方自治法234条の2に定める「契約の適正な履行を確保するため又はその受ける給付の完了の確認…をするため必要な監督又は検査をしなければならない。」とする規律につき,適切に対応したものである。

C’及びB’には,いずれも故意又は過失によって沖縄県に対し損害を与えた事実はない。また,本件準備書作成委託業務の完了検査時(平成17年3月30日)の検査に係る専決権者は,E’であり,B’ではない。そして,B’は,支出命令につき,本件完了検査の適正を確認の上,これを行ったものであり,漫然と支出を命じるなどしたものではない。

第4当裁判所の判断

1  本件訴えの適法性について

(1)  本件訴えのうち,A’及びB’を当該職員とする各損害賠償請求の義務付けを求める部分について

原告らは,本件訴えにおいて,被告に対して,① 本件支出命令1につき,その専決権者であるA’に対し,当該職員に対する損害賠償請求の義務付けとして,本件支出命令1に係る支出相当額3150万円及び遅延損害金の損害賠償請求をするよう求め,また,② 本件支出命令2につき,その専決権者であるB’に対し,当該職員に対する損害賠償請求の義務付けとして,本件支出命令2に係る支出相当額の一部7350万円及び遅延損害金の損害賠償請求をするよう求めている。

しかしながら,前提事実(1)ウ記載のとおり,A’は,本件支出命令1の当時,建設対策室長の地位にあり,沖縄県事務決裁規程及び新石垣空港建設対策室設置規程に基づき本件支出命令1の専決権を有していた者であり,B’は,本件支出命令2の当時,空港課長の地位にあり,沖縄県事務決裁規程に基づき本件支出命令2の専決権を有していた者であるから,両名は,地方自治法243条の2第1項後段に掲げる職員に当たり,同条3項の規定による賠償命令の対象となる者であって,両名に対しては,同法242条の2第1項4号後段による賠償命令の義務付けの訴えによる必要があり,同号前段による損害賠償請求の義務付けの訴えによることはできないものと解される。

したがって,本件訴えのうち,被告に対して,A’及びB’に対する各損害賠償請求をするよう求める部分については,不適法な訴えとして却下を免れない。

(2)  監査請求前置の点について

前提事実(4)ア記載のとおり,原告らは平成16年12月20日,本件監査請求を行ったが,沖縄県監査委員は平成17年1月24日,本件監査請求を不適法であるとして却下している。

そこで,本訴請求について,適法な監査請求を経たものといえるか否かが問題となる。

この点,沖縄県監査委員は,本件監査請求は,沖縄県の財務会計上の行為の違法性・不当性を具体的かつ客観的に示しているものとは認められず,不適法であるとして,却下している。

しかしながら,本件監査請求の内容は,前提事実(4)ア(ア)記載のとおりであって,本件監査請求は,本件環境影響評価に関する調査等の業務委託契約に基づく金員の支払を対象として,業者が作成した本件方法書及び本件準備書は環境影響評価法に違反し,非科学的な内容であり,契約に基づく本来の成果物とはいえないなどとして必要な措置を求めるものであり,監査委員において請求の対象を認識することが可能な程度に特定されているものといえ,かかる対象について原告らの主張する違法性が認められるか否かを判断することは可能であるといえるから,本件監査請求は適法にされたものと認められる。

2  本件支出命令1の違法性について

(1)  原告らは,方法書の手続に先立ち調査が実施された,進入灯及び障害灯の記載につき,事業計画と方法書とで順序が逆転しているなどとして,本件方法書は内容が極めてずさんであり,記載されるべき内容が記載されていないことが明らかであった以上,沖縄県としては,本件環境影響評価を方法書作成にさかのぼって再度行うべきであったのに,本件準備書作成業務を発注し,本件支出1を行ったものであるとして,本件支出命令1は違法である旨主張する。

(2)ア  そこで検討するに,第2の3(1)記載のとおり,環境影響評価法は,土地の形状の変更,工作物の新設等の事業を行う事業者がその事業の実施に当たりあらかじめ環境影響評価を行うことが環境の保全上極めて重要であることにかんがみ,環境影響評価について国等の責務を明らかにするとともに,規模が大きく環境影響の程度が著しいものとなるおそれがある事業について環境影響評価が適切かつ円滑に行われるための手続その他所要の事項を定め,その手続等によって行われた環境影響評価の結果をその事業に係る環境の保全のための措置その他のその事業の内容に関する決定に反映させるための措置をとること等により,その事業に係る環境の保全について適正な配慮がなされることを確保し,もって現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に資することを目的とするものであって,環境影響評価の概要として,まず,対象事業に係る環境影響評価の項目並びに調査,予測及び評価の手法等を記載した方法書を作成して,これに対する意見を勘案ないし配意した上で選定した手法に基づいて環境影響評価を行い,当該環境影響評価の結果を準備書として作成した上で,再度これに対する意見を勘案ないし配意した上で評価書を作成するものとされている。

このように,方法書の作成は,環境影響評価に係る一連の手続の第一段階をなすものであって,事業者は,対象事業に係る環境影響評価(調査,予測,評価)を行う方法について環境の保全の見地からの意見を求めるため,事業者の氏名及び住所,対象事業の目的及び内容,対象事業が実施されるべき区域(対象事業実施区域),対象事業に係る環境影響評価の項目並びに調査,予測及び評価の手法(当該手法が決定されていない場合にあっては,対象事業に係る環境影響評価の項目)を記載した環境影響評価方法書(方法書)を作成し(法5条),対象事業に係る環境影響を受ける範囲であると認められる地域を管轄する都道府県知事及び市町村長に方法書を送付するとともに(法6条),公告し,方法書を縦覧に供しなければならず(法7条),方法書について環境の保全の見地からの意見を有する者は,事業者に対し,意見を述べることができ(法8条1項),また,都道府県知事は,同意見の概要について送付を受けたときは,方法書について環境の保全の見地からの意見を述べるものとされている(法10条1項)のであり,事業者は,上記都道府県知事の意見を勘案するとともに上記環境の保全の見地からの意見を有する者の意見に配意して,環境影響評価の項目並びに調査,予測及び評価の手法を選定し(法11条),同選定した項目及び手法に基づいて,対象事業に係る環境影響評価を行わなければならない(法12条)ものとされている。そして,法が,このような方法書の手続を定めた趣旨は,事業者が環境影響評価を行うに当たって,あらかじめどのような項目が重要であるかを把握することにより,調査,予測及び評価の手戻りを防止し,効率的な環境影響評価を実施するとともに,再度の調査等の負担を回避することで,結果的に,事業者の自主的な環境保全の取組がより期待できるという点にあると解される。

イ  これを本件についてみるに,本件環境影響評価においては,方法書の手続に先立って調査が行われているところ,証拠(甲5)によれば,平成13年3月22日に開催された第2回環境検討委員会において,事務局(建設対策室)は,この点に関し,以下のような各説明をしていることが認められる。

(ア) 方法書というのは,予測・評価の方法まで入れた形で議論してもらうのが本来なのですが,今回は位置の問題もありましたし,環境影響評価条例の施行も効いていないという状況ということも聞いております。そういう形で調査がいつまでもできないという話になると,地元のみなさまは早期建設に向けて熱心でありますので,県としては調査だけは先に入らしてほしいということで,今回は調査の手法だけ議論していただいて,調査を先にさせていただけませんかということなんです。その調査を踏まえて,評価の手法なども絡めて最終的な方法書ができると思います。その段階で,公告・縦覧がなされることになります。今回は調査をさせてほしいという意味で委員の先生方に議論していただいて,県はそれで早めに調査に取りかかりたいという意味合いで委員会を行っております。それからもう一点,先ほど委員長がおっしゃっていましたが,調査方法について一般の方から意見があるのではないかということであれば,公告・縦覧という話ではなくて,新聞等で資料の公表として,意見を伺うということは可能ではないかと考えている。そういった形がとれればよろしいのではないかと考えています。

(イ) 事業を進めるに当たってアセスをする。それに対しどのように法の手続をとっていくか,これは,こういう事業がありますから始まって,方法書を出し,調査の仕方,予測・評価の仕方を議論していただいて手続をとっていき,準備書ができ,評価書ができていくというのが一つの流れです。そのためにはいろいろな調査をしなければならないというのが前提になってきます。そのために方法書というのが一つの手続の流れで出てくる。これがアセス法だと思います。今日の議論につきましては,事業者がアセスをしていかなければならない。そのためには現地の状況を把握しておかなければならない。現地の状況を把握する上で,特に生物関係については2年,3年かかるものもあるかと思います。これにつきまして,アセスをこれで行っていくというわけではなくて,現地の状況を把握する上でこういう調査を最低限,今からやっていって,現状把握をきちんとしていきたいというのが今日の主旨かと思います。この現状把握をするに当たって今日説明させていただいた内容の調査でよろしいでしょうかということでございます。

(ウ) 公告・縦覧をする,しないの議論については,県としては当然,手続上,公告・縦覧をしていきます。その上で補足があれば調査をします。スケジュール的にはターミナルの問題も含めまして,地元の合意を諮らなければならないということで,時間的な問題が出てくると考えており,すぐに決着するものではないと考えております。そのためにはある程度フィールドをきちっと押さえた上で地元との調整もやっていかなければ,西側,東側の議論もできないと考えている。そういうことを考えると現状を確認した上で位置決定をして,技術的な調査も加味しながらこれが妥当かどうか検討した段階で方法書の公告・縦覧をします。今回は前段のフィールドの調査だけさせてくださいということです。法の手続による公告・縦覧をしないというわけではないということで御理解していただきたいと思います。

(エ) 方法書の公告・縦覧がいつということはいえませんが,形として,今回の調査を行って,最終的に方法書の予測・評価も議論していただいた上で,公告・縦覧すると,それは地元の問題もいろいろありますので形が整った段階で,方法書の公告・縦覧を行う。もう一点,今回,いろいろ調査を行うわけですけども,調査の結果については,今年,来年とせっかく調査をしていくので,今後のアセスに活用していきたいと考えています。方法書の公告・縦覧の後,準備書,評価書と進めていく,ということは一連の法にのっとった手続はするということで御理解を頂きたいと思います。

(オ) 法律に関してはきちんと手続を踏んでいかなければなりません。今,議論いただいている内容は環境検討委員会ですので,新石垣空港の計画に対し,その場の環境がどうなっているかを御議論頂けなければならないのですが,そこに提供する独自の調査結果を全然持たない。これを取得するということは,環境影響評価法の手続とは全く別のもので,環境の現況を把握するということは環境影響評価法で何ら規定してはいない。これをやらないとしてはいけないということではありません。空港事業は環境影響評価法の手続が終わるまではしてはいけないです。だけど,何かを知りたいときにそこで調査をすることを禁じている法律は一切ありません。

(カ) 基本的に調査の結果がどんどん出てきて,方法書を作るときに環境の現況がこういう風に押さえられていますということが充実してくるわけですよね。それでも足りないところは調査をしなければいけないと思います。その時には調査をする方法になってくると思います。例えば,どこかで充実した調査が既に行われているというものがあれば,そこで調査をする必要はないわけで,既存の資料を使って予測にいってはいけないということはありませんので,そこの御判断かと思います。ですから,調査を重ねることで悪い方向に行くということは基本的にないと思います。

ウ  本件事業は,飛行場及びその施設(滑走路の長さ2000メートル)を設置するものであって,航空法38条1項により国土交通大臣の許可を要するものであるから,環境影響評価法にいう「第二種事業」に該当し,環境影響評価の項目並びに当該項目に係る調査,予測及び評価を合理的に行うための手法を選定するための指針,環境の保全のための措置に関する指針等を定める本件省令が適用される。

この点,本件省令5条1項は,事業者は,対象飛行場設置等事業に係る環境影響評価の項目並びに調査,予測及び評価の手法を選定するに当たっては,当該選定を行うに必要と認める範囲内で,当該選定に影響を及ぼす対象飛行場設置等事業の内容(事業特性)並びに対象飛行場設置等事業実施区域及びその周囲の自然的社会的状況(地域特性)に関する情報を把握しなければならない旨規定しており,このうち,地域特性に関する情報として,自然的状況と社会的状況を掲げているが,自然的状況に関し,把握すべきであるとする情報の内容として,① 気象,大気質,騒音,振動その他の大気に係る環境(大気環境)の状況(環境基準の確保の状況を含む。),② 水象,水質,水底の底質その他の水に係る環境(水環境)の状況(環境基準の確保の状況を含む。),③ 地形及び地質の状況,④ 動植物の生息又は生育,植生及び生態系の状況,⑤ 景観及び人と自然との触れ合いの活動の状況を掲げている。

そして,本件省令5条2項によれば,事業者は,地域特性に関する情報を入手可能な最新の文献その他の資料により把握するものとされ,この場合において,事業者は,当該資料の出典を明らかにできるよう整理するとともに,必要に応じ,関係する地方公共団体,専門家その他の当該情報に関する知見を有する者から聴取し,又は現地の状況を確認するよう努めるものとされる。

エ  ウ記載のように,本件省令において,事業者は,動植物の生息又は生育,植生及び生態系の状況等を含む対象飛行場設置等事業実施区域及びその周辺の自然的状況(地域特性)に関する情報を把握すべきものとされており,また,その情報の把握方法として,文献等によるほか,必要に応じ,専門家等からの知見の聴取や,現地の状況を確認するよう努めるものとされているところ,イ記載の平成13年3月22日開催の第2回環境検討委員会における事務局(建設対策室)の説明内容に照らせば,事業者である沖縄県において,本件環境影響評価に係る評価の項目並びに調査,予測及び評価の手法を選定するに当たって,本件事業実施区域ないしその周辺の自然的状況を把握する必要が存するものとして,本件省令5条2項に基づく現地の状況確認のための調査として,本件方法書作成前の調査を行ったものと認められる。

また,本件方法書(乙5)第3章の記載内容に照らしても,上記のとおり,本件方法書作成前にされた調査は,本件省令5条2項に基づく現地の状況確認のための調査としての位置付けを有するものであったといえる。

もっとも,証拠(乙5)によれば,本件方法書作成に先立ってされた調査は大規模にのぼっており,その内容も上記のような現地の状況確認のための調査に止まるというよりも,環境影響評価としての調査と評価すべきものを多々含んでいるものと認められるところであり,このことや,上記検討委員会における事務局(建設対策室)のイ(ア)記載のような説明内容に照らせば,事業者である沖縄県は,早期建設を熱望する地元の意見を踏まえ,まず対象事業に係る環境影響評価の項目並びに調査,予測及び評価の手法等を記載した方法書を作成して,これに対する意見を勘案ないし配意した上で選定した手法に基づいて環境影響評価を行い,当該環境影響評価の結果を準備書として作成するという環境影響評価法が予定している本来の手続を行っていたのでは長期間を要するとして,上記のような本件省令5条2項に基づく現地の状況確認のための調査の方法を利用して,本来同省令が予定する同目的に必要な範囲の調査に止まらず,その範囲を超え,方法書の作成に先立って環境影響評価としての調査を行おうとしたものといえる。このような沖縄県の態度は,環境影響評価を行うに先立つ手続として方法書の手続を定めた法の趣旨を没却しかねないものというべきである。

しかしながら,上記記載のとおり,本件において方法書の手続の前にされた調査が本件省令5条2項に基づく地域特性についての現地の状況確認としての位置付けをも有していたものであることに加え,本件方法書(乙5)においても,本件環境影響評価における調査の手法として,環境影響評価における調査において行うことが予定されている調査の手法とともに,方法書の手続に先立ってされた調査の手法も記載され,これが縦覧に供されていることからすると,事業者である沖縄県において,方法書の手続を無視又は回避するなどの法の趣旨を潜脱する意図があったとまでは認められない。

オ  また,原告らは,進入灯及び障害灯に関し,事業計画と方法書とで順序が逆転しているとし,具体的には,進入灯及び障害灯といった環境に大きな影響を与える要素が方法書段階では明らかになっていなかったなどとして,本件方法書には内容に瑕疵がある旨主張する。

この点,本件方法書に障害灯の記載がないことは被告も争っておらず,進入灯についても,本件方法書に明示されていない。被告は,本件方法書(乙5)の2-5頁図-2.2.3「切土,盛土区分図(全体計画平面図)」に進入灯が図示されている旨主張するが,同図面には進入灯との明示はなく,また,同図の説明(本件方法書2-3頁)も,対象事業に関する事項として,空港用地の造成に当たって,盛土用土砂の不足が生じるため,公共残土,購入土砂を充当する予定である,事業実施区域の切土,盛土区分図は,図-2.2.3に示すとおりである,というものであって,同説明から,同図面が進入灯の位置をも示しているものと読み取ることも困難である。また,被告は,本件方法書4-2頁表-4.1.1「環境影響評価の項目の選定」中の「工事の実施」及び「土地又は工作物の存在及び供用」の記載に「進入灯の設置工事」並びに「進入灯の存在及び供用」も包含されている旨主張するが,同表の「工事の実施」及び「土地又は工作物の存在及び供用」の記載から,進入灯も含まれているものと理解することはおよそ不可能というほかない。このほか,被告が指摘する本件方法書4-8頁ないし4-10頁の表-4.2.1「調査及び予測の手法(大気質)」や,本件方法書2-2頁図-2.2.1「対象事業実施区域の位置」にも,進入灯の明示はない。もっとも,上記のとおり,本件方法書が,進入灯の存在を明示的に明らかにし,それに基づく検討を行っているものとは認め難いが,上記各図からは,進入灯の存在及びその大まかな位置そのものはある程度推測されるものであるとはいえる。

本件方法書は平成14年12月に作成され,同月24日から平成15年1月29日まで縦覧に供されている(前提事実(3)イ)ところ,証拠(甲6,38)によれば,本件方法書作成後の同月20日に公開された「新石垣空港整備基本計画(案)」において,障害灯が設置されることや,進入灯(誘導灯)の規模等が初めて明らかとなり,その内容が同年3月11日に行われた検討委員会で事務局から各委員に説明されていることが認められる。この点,被告は,障害灯については,方法書の段階では位置や形状等は決まっていなかった旨主張するが,証拠(甲7)によれば,同年4月11日に行われた審査会において,事務局から,障害灯や誘導灯(進入灯)は飛行場の施設であり,当該事業と一体として整備されるものであることから,環境影響評価はこれらの整備による影響も含めて実施する必要があると考えており,これらに係る情報も方法書で示されるべきであったと考えている旨の説明がされており,これらからすれば,本件方法書作成段階において,障害灯の位置や形状等が決まっていなかったのかどうか,疑義も存するところである。

しかしながら,この点については,被告から本件方法書の審査を諮問された審査会において,航空障害灯等の関連工事の実施による環境の影響についても,調査,予測及び評価を行わせることとの意見が付され,また,自然環境関係(動物,植物,生態系)について,航空障害灯が設置されるカラ岳,タキ山,カタフタ山,水岳については,貴重な動植物種の生育が確認されており,また,「自然環境の保全に関する指針」において,自然環境の保護・保全を図る区域であるランクⅡと評価されている自然度の高い地域であることから,当該地域に係る調査及び予測の手法についても重点化させること等の意見が付されている(甲10)。そして,審査会から同答申を受けた被告も,上記審査会からの答申を踏まえ,本件方法書についての環境の保全の見地からの意見として,上記と同内容の意見を述べている(甲11)。

このように,進入灯や障害灯について本件方法書に少なくとも明示的な記載がされなかったことについて不備が存したのではないかとも解されるところであるが,この点については,本件方法書に対する意見において,航空障害灯等の関連工事の実施による環境への影響についての調査,予測及び評価を行うべきとの意見が付されているものであって,事業者においても,同意見を勘案した上で環境影響評価を実施し,その結果について準備書を作成するとの次の手続に進んでいくものであると認められる。

カ  以上検討の結果に照らせば,本件方法書においては,上記のような問題点が存するとしても,本件方法書が作成され,これに対する被告の意見や環境の保全の見地からの意見を有する者の意見を勘案ないし配意して,対象事業に係る環境影響評価の項目並びに調査,予測及び評価の手法を選定して環境影響評価を実施し,その結果について環境の保全の見地からの意見を聴くための準備として準備書の作成作業に進んだことが,環境影響評価法に違反して違法であるとまでいうことはできない。

(3)  準備書作成業務委託に係る契約の締結の内容は,前提事実(3)ウ記載のとおりであり,沖縄県は,平成15年9月18日に,本件共同企業体との間で,業務委託料を1億0500万円とする本件準備書作成業務委託契約(本件契約)を締結しているところ,(2)の検討結果に照らせば,沖縄県が本件共同企業体との間で本件契約を締結したことが違法である,あるいは,予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵が存するものということはできない。

そうであるところ,本件契約に適用される本件約款は,前払金について規定しており(前提事実(3)ウ(ウ)),本件支出1は,同前払金についての規定に沿った前払金の請求として,本件共同企業体から本件契約に係る業務委託料1億0500万円の10分の3に当たる3150万円の請求がされ,専決権者である建設対策室長A’が平成16年2月5日にした本件支出命令1に基づき,同月18日に本件共同企業体に前払金として3150万円が支払われたものと認められる(前提事実(3)エ)。

(4)  以上によれば,本件支出命令1は,違法であるとは認められず,本件支出命令1が違法であるとして,被告に対して,C’に対し3150万円の損害賠償請求をするよう求める原告らの請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。

3  本件支出命令2の違法性について

(1)  原告らは,本件共同企業体が沖縄県に納品した本件準備書の内容について,赤土流出関係,コウモリ関係並びに進入灯及び障害灯関係で致命的欠陥があったのであるから,沖縄県は,本件共同企業体から前払金を除く残金の請求があったとしても,成果物の納品がないことを理由にその支払を拒むべきであったとし,それにもかかわらずされた本件支出命令2(ただし,本件監査請求を経ている7350万円)は違法である旨主張する。さらに,原告らは,本件準備書についての検査では内容の瑕疵が見過ごされたものであり,また,本件準備書の瑕疵は重大かつ明白であるから支出命令権者は本件準備書を確認すべきであったのに漫然と支出命令をしたなどと主張する。

(2)  そこで,以下検討する。

ア 本件支出命令2は,専決権者である当時の空港課長B’が,見積書,入札書,開札調書,予定価格調書,検査調書,契約書及び請求書といった添付書類の内容を確認の上,支出調書に押印して行ったものである(前提事実(3)コ,乙36)。本件契約においては,成果物として,報告書,準備書(公告縦覧用,要約版,資料編及びリーフレット),その他(監督職員の指示による)と定められたところ,これらについての検査としては,本件指定部分検査及び本件完了検査が行われ,それぞれ検査調書が作成されている(前提事実(3)ウ,カ,コ)。

イ 本件準備書の記載内容について

(ア) 第2の3(1)イ(ウ)記載のとおり,事業者は,環境影響評価を行った後,当該環境影響評価の結果について環境の保全の見地からの意見を聴くための準備として,当該結果に係る環境影響評価準備書(準備書)を作成しなければならない(法14条)ところ,環境影響評価法14条は,準備書には,① 事業者の氏名及び住所,対象事業の目的及び内容,対象事業実施区域及びその周囲の概況(法14条1項1号),② 方法書についての環境の保全の見地からの意見を有する者の意見(法8条1項)の概要(法14条1項2号),③ 方法書についての都道府県知事の意見(同項3号),④ ②及び③の各意見についての事業者の見解(同項4号),⑤ 環境影響評価の項目並びに調査,予測及び評価の手法(同項5号),⑥ 環境影響評価の項目並びに調査,予測及び評価の手法を選定するに当たっての主務大臣の助言(法11条2項)がある場合には,その内容(法14条1項6号),⑦ 環境影響評価の結果のうち,a 調査の結果の概要並びに予測及び評価の結果を環境影響評価の項目ごとに取りまとめたもの(環境影響評価を行ったにもかかわらず環境影響の内容及び程度が明らかとならなかった項目を含む。)(同項7号イ),b 環境の保全のための措置(当該措置を講ずることとするに至った検討の状況を含む。)(同号ロ),c bに掲げる措置が将来判明すべき環境の状況に応じて講ずるものである場合には,当該環境の状況の把握のための措置(同号ハ),d 対象事業に係る環境影響の総合的な評価(同号ニ)(同項7号),⑧ 環境影響評価の全部又は一部を他の者に委託して行った場合には,その氏名及び住所(同項8号)を記載しなければならない旨規定している。

(イ) また,本件事業に係る主務法令として,本件省令が定められているところ,本件省令18条は,法14条1項の規定により対象飛行場設置等事業に係る準備書に対象事業の内容を記載するに当たっては,① 本件省令2条1項1号から3号までに掲げる事項(対象飛行場設置等事業の種類(設置の事業又は変更の事業の別及び変更の事業にあっては滑走路の新設を伴う事業又は滑走路の延長を伴う事業の別),対象飛行場設置等事業が実施されるべき区域(対象飛行場設置等事業実施区域)の位置,対象飛行場設置等事業の規模(設置の事業又は滑走路の新設を伴う変更の事業にあっては滑走路の長さ,滑走路の延長を伴う変更の事業にあっては延長前及び延長後の滑走路の長さ)),② 対象飛行場設置等事業の工事計画の概要,③ 対象飛行場設置等事業に係る飛行場及びその施設の区域の位置,④ 対象飛行場設置等事業に係る飛行場の利用を予定する航空機の種類及び数,⑤ ①ないし④に掲げるもののほか,対象飛行場設置等事業の内容に関する事項(既に決定されている内容に係るものに限る。)であって,その変更により環境影響が変化することとなるものを記載しなければならない旨規定している。

そして,本件省令によれば,事業者は,準備書に対象事業実施区域及びその周囲の概況を記載するに当たっては,入手可能な最新の文献その他の資料及び関係する地方公共団体若しくは専門家等からの知見の聴取内容又は現地の状況の確認内容により把握した結果(当該資料の出典を含む。)を,本件省令5条1項2号に掲げる事項の区分(地域特性に関する情報として,自然的状況と社会的状況。自然的状況の細項目は,2(2)ウ記載のとおり。)に応じて記載しなければならない(本件省令18条2項,2条2項)。さらに,事業者は,準備書に環境影響評価の項目並びに調査,予測及び評価の手法(法14条1項5号)を記載するに当たっては,当該環境影響評価の項目並びに調査,予測及び評価の手法を選定した理由を明らかにしなければならない(本件省令18条2項,2条4項)。このほか,本件省令18条3項ないし6項は,事業者が,準備書に,調査の結果の概要並びに予測及び評価の結果を環境影響評価の項目ごとにとりまとめたもの(環境影響評価を行ったにもかかわらず環境影響の内容及び程度が明らかとならなかった項目に係るものを含む。)(法14条1項7号イ),環境の保全のための措置(当該措置を講ずることとするに至った検討の状況を含む。)(同号ロ),同号ロに掲げる措置が将来判明すべき環境の状況に応じて講ずるものである場合には,当該環境の状況の把握のための措置(同号ハ),対象事業に係る環境影響の総合的な評価(同号ニ)を各記載するに当たって記載しなければならない事項を規定している。

(ウ) 本件共同企業体は,平成16年3月19日,被告に対し,本件準備書作成委託業務の指定部分(本件準備書,同要約書及び同資料編(本件準備書等)の作成)が完了した旨報告している(前提事実・*カ・*)。

そして,同月,本件共同企業体から沖縄県に提出された本件準備書は,第1章から第10章までの本文並びに参考資料及び用語解説からなっているところ,各章の概要は以下のとおりである(乙4の1)。

a 第1章 事業者の氏名及び住所

b 第2章 対象事業の目的及び内容

対象事業の目的及び内容のほか,その他の対象事業の内容に関する事項として,施工上の諸対策(切盛土対策,赤土等流出防止対策,地下水保全対策,排水処理対策)等が記載されている。

c 第3章 対象事業実施区域及びその周囲の概況

対象事業実施区域及びその周囲の概況については,自然的状況(3.1)及び社会的状況(3.2)に区分して記載されており,自然的状況については,① 大気環境の状況,② 水環境の状況,③ 土壌及び地盤の状況,④ 地形及び地質の状況,⑤ 動植物の生息又は生育,植生及び生態系の状況,⑥ 景観及び人と自然との触れ合い活動の状況の各項目について,それぞれ記載されている。

d 第4章 方法書に対する意見及び事業者の見解

本件方法書に対する意見について,住民等意見(環境の保全の見地からの意見を有する者の意見)の概要とこれに対する事業者の見解,知事(被告)意見とこれに対する事業者の見解が,それぞれ項目ごとに記載されている。

e 第5章 環境影響評価の項目並びに調査,予測及び評価の手法

環境影響評価の項目として,大気環境(大気質,騒音,振動),水環境(水象を含む。)(水質,地下水),土壌に係る環境その他の環境(地形及び地質),動物,植物,生態系,景観,人と自然との触れ合い活動の場,廃棄物等の各項目が選定され,それぞれにつき,その選定理由が記載されている。また,これら選定された各項目ごとの調査及び予測手法の選定とその選定理由が記載されている。

f 第6章 調査結果の概要並びに予測及び評価の結果

大気質,騒音,振動,水質(土砂による水の濁り及び水の汚れ),地下水,地形及び地質,陸上植物,陸上動物,河川水生生物,海域生物,生態系(陸域生態系及び海域生態系),景観,人と自然との触れ合いの活動の場並びに廃棄物等につき,それぞれ調査の概要と,予測及び評価の結果が記載されている。

g 第7章 環境保全措置

工事の実施に係る環境保全措置の検討及び検証結果として,陸上植物,陸上動物,河川水生生物,陸域生態系の各項目について記載されており,また,土地又は工作物の存在及び併用に係る環境保全措置の検討及び検証結果として,陸上植物,陸上動物,陸域生態系の各項目について記載されている。

h 第8章 事後調査

環境保全措置の検討結果を踏まえ,予測の不確実性の程度が大きい選定項目について環境保全措置を講じることとする場合又は効果に係る知見が不十分な環境保全措置を講ずる場合において行うこととされる事後調査の必要性並びに項目及び手法等が記載されている。

i 第9章 総合評価

各項目ごとに,調査結果,予測結果及び評価結果等が取りまとめられている。

j 第10章 環境影響評価を委託された者の名称,代表者の氏名及び主たる事業所の所在地

(エ) (ウ)記載の本件準備書の記載内容は,環境影響評価法や本件省令の規定に沿った項目となっているものと認められるところであり,また,環境影響評価の各項目に係る調査,予測及び評価等について,調査結果に係るデータが示されるとともに,同データ等に基づいて分析結果が詳細に記載されているものといえる。

この点,原告らが特に主張する赤土流出関係,コウモリ関係,進入灯及び障害灯関係についての本件準備書における記載の概要は,以下のとおりである(乙4の1)。

a 赤土流出関係

本件準備書の第3章対象事業実施区域及びその周囲の概況の水環境の状況の中で,赤土等に係る環境の状況として,調査の概要や調査結果(縣濁物含有量,赤土堆積状況,濁水流入状況,濁水拡散状況,赤土堆積状況調査(降雨後の経時変化を追跡))が記載されている(本件準備書3-54頁ないし3-61頁)。

また,第5章環境影響評価の項目並びに調査,予測及び評価の手法の中で,環境影響評価項目の選定及びその理由として,「土砂による水の濁り(赤土等流出)」が掲げられ(本件準備書5-4頁),調査及び予測手法の選定及び選定理由として,調査すべき情報,調査の基本的な手法,調査地域,調査地点,調査期間等,予測の基本的な手法,予測地域,予測地点,予測対象時期等が記載されている(本件準備書5-31頁ないし5-33頁)。

さらに,第6章調査結果の概要並びに予測及び評価の結果の中で,水質中,土砂による水の濁り(赤土等の流出)の調査概要,調査結果が記載されている(本件準備書6-5-1頁ないし6-5-37頁)。

b コウモリ関係

本件準備書の第3章対象事業実施区域及びその周囲の概況の動植物の生息又は生育,植生及び生態系の状況の中で,陸上動物としてコウモリについての記載がされている(本件準備書3-104頁,3-117頁,3-120頁)。

また,第5章環境影響評価の項目並びに調査,予測及び評価の手法の中で,環境影響評価項目の選定及びその理由として,「重要な種及び注目すべき生息地(陸上動物)」が掲げられ,その一つとしてほ乳類が挙げられている(本件準備書5-50頁ないし5-56頁)。

さらに,第6章調査結果の概要並びに予測及び評価の結果の中で,陸上動物の調査概要,調査結果,予測概要,予測結果が記載されており,その中のほ乳類としてコウモリの記載もされている(本件準備書6-9-1頁ないし6-9-38頁,6-9-72頁,6-9-76頁,6-9-85頁,6-9-90頁)。また,陸域生態系の調査概要,調査結果,予測方法,予測結果,評価の記載がされており,その中の地域を特徴付ける生態系の注目種として,小型コウモリ類が掲げられている(本件準備書6-12-1頁ないし6-12-12頁,6-12-18頁,6-12-143頁ないし6-12-180頁,6-12-193頁,6-12-213頁ないし6-12-215頁,6-12-237頁,6-12-238頁,6-12-240頁ないし612-243頁)。

そして,第7章環境保全措置の中で,陸域生態系に係る環境保全措置の検証及び検証結果として,コウモリ類の記載がされており(本件準備書7-6頁,7-7頁),また,第8章事後調査の中で,コウモリ類の記載がされている(本件準備書8-4頁)。

c 進入灯及び障害灯関係

本件準備書の第2章対象事業の目的及びその内容の中で,対象事業に係る飛行場及びその施設の区域の位置として示された図面において,航空障害灯や南側進入灯作業ヤードの位置が示されるとともに,対象事業実施区域及び関連事業の面積の項目において,関連事業の一つとして,航空障害灯が指摘され,カラ岳,タキ山,カタフタ山,水岳は,水平表面に抵触するが,環境保全上,文化財保護の観点から切削することが事実上不可能なことから,航空障害灯を山頂付近に設置するとの記載がされている(本件準備書2-3頁,2-4頁,2-6頁)。

このほか,第6章調査結果の概要並びに予測及び評価の結果の中で,陸上動物や陸域生態系に係る調査概要の中で航空障害灯設置予定用地が示され,また,飛行場施設の供用による影響の予測及び評価として,照明施設の設置による影響や環境保全措置が記載されるなどしている(本件準備書6-9-11頁ないし6-9-15頁,6-9-81頁,6-9-97頁,6-9-103頁,6-9-104頁,6-12-203頁,6-12-224頁,6-12-237頁,6-12-238頁)。

ウ 本件準備書に対する検査について

(ア) 本件共同企業体から,平成16年3月19日に本件準備書作成委託業務の指定部分(本件準備書,同要約書及び同資料編(本件準備書等)の作成)が完了した旨の報告を受けた沖縄県が,同月22日,本件準備書作成委託業務の指定部分検査(本件指定部分検査)を行い,仕様書,図面その他指示事項に適合したものと確認したとして,本件共同企業体に対し,検査に合格した旨を通知したこと,当時の検査権者は建設対策室長A’であり,検査は検査員D’が実施したが,同検査員は,指定部分検査に係る成果物である本件準備書等が契約書及び仕様書と適合しているか検査した上,合格と判定し,委託業務検査調書を作成したことは,前提事実(3)カ記載のとおりである。

また,本件共同企業体から,平成17年3月25日に本件準備書作成委託業務を完了した旨の報告を受けた沖縄県が,同月30日,本件準備書作成委託業務の完了検査(本件完了検査)を行い,仕様書,図面その他指示事項に適合したものと確認したとして,同日付けで,本件共同企業体に対し,検査に合格した旨を通知したこと,当時の検査権者は建設対策室長E’であり,検査は検査員F’が実施し,同検査員が,同委託業務が契約書及び仕様書と適合しているとして,合格と判定し,検査調書を作成したことは,前提事実(3)コ記載のとおりである。

(イ) まず,本件指定部分検査について検討する。

沖縄県財務規則の規定に基づき,沖縄県の土木建築部が委託契約した設計及び計画業務又は測量調査業務の検査に関し,必要な事項を定めることを目的として,沖縄県土木建築部委託業務検査要領(検査要領)が定められている(乙32)ところ,検査要領において,指定部分検査とは,発注者が設計図書において業務の完了に先立って引渡しを受けることを指定した部分の確認をするための検査とされている(検査要領3条3項)。検査員は,検査を行うに当たっては厳正かつ公平に実施し,合格,不合格を決定しなければならず(検査要領5条1項),また,あらかじめ検査の対象となるものの内容,契約図書を熟知の上検査にのぞむものとされている(同条2項)。そして,検査員は,検査の合格及び不合格の判定をする場合は,その成果物が契約図書に適合しているか否かで判定を実施し(検査要領7条1項),検査の結果,出来高不足及び成績不良等により不合格と決定したときは,検査結果指示書により監督権者に指示しなければならず(検査要領8条1項),この場合,監督権者は,修補命令書により受注者に修補の履行を求めなければならない(同条2項)。そして,検査員は,検査を終了したときは速やかに検査復命書を作成し検査権者に復命しなければならず(検査要領9条),検査権者は,検査が合格した場合は,速やかに検査合格通知書を受注者に通知しなければならない。

これを本件についてみるに,(ア)記載のとおり,本件指定部分検査を実施した検査員D’は,指定部分検査に係る成果物である本件準備書等が契約書及び仕様書と適合しているか検査した上,合格と判定し,委託業務検査調書を作成したものである。そして,本件準備書の内容は,イ(ウ)記載のとおり第1章から第10章までの本文並びに参考資料及び用語解説からなっているところ,その記載内容は,環境影響評価法や本件省令の規定に沿った項目となっているものと認められるところであり,また,環境影響評価の各項目に係る調査,予測及び評価等について,調査結果に係るデータが示されるとともに,同データ等に基づいて分析結果が詳細に記載されているものといえる(イ(エ))。また,原告らが特に主張する赤土流出関係,コウモリ関係,進入灯及び障害灯関係についての本件準備書における記載の概要は,イ(エ)のとおりであって,本件準備書においては,これら各関係についても,環境影響評価法や本件省令の規定に沿った項目で詳細な検討,記載がされているものといえる。

そうであるところ,上記のような検査要領の規定内容に照らせば,検査員は,成果物の内容についてもその品質等にわたって検査をすることが求められているものといえるものの,このような検査も,飽くまで契約の適正な履行を確保するという見地から,成果物と契約図書との適合性を判断するというものであり,契約図書に定められているところを離れ,それとは別個に専門的見地から詳細に内容の適正性を判断しなければならないというものではない。そうすると,上記のとおり,本件環境影響評価に関し,環境影響評価法や本件省令の規定に沿った各項目に係る調査,予測及び評価等について詳細に記述されている本件準備書を検査した検査員において,たとい原告らが主張するような,本件事業実施区域周辺の洞窟におけるコウモリ類の調査の結果についての本件コウモリ報告書と本件準備書との間に記載の齟齬があること等,本件準備書の記載内容の適正性の点について記載の不十分な点に気付かなかったとしても,本件準備書の記載内容が,契約図書と適合性を有するものとして合格との判定をしたことが,違法であったということはできない。なお,環境影響評価法は,準備書について環境の保全の見地からの意見を有する者は,事業者に対し意見を述べることができる旨規定しており(法18条1項),原告らが主張するような,本件準備書の記載内容が不十分である点については,本件準備書についての環境の保全の見地からの意見を有する者として,事業者である沖縄県に対し,その旨の指摘をした意見書を提出することもできるところである。

(ウ) 次に,本件完了検査について検討する。

検査要領によれば,完了検査は,委託業務の完了を確認するための検査である(検査要領3条1項)。そして,本件完了検査についても,(イ)で記載した検査要領が適用される。また,本件完了検査の実施に先立つ平成16年8月1日から,土木設計業務等検査技術基準(案)(以下「検査技術基準」という。)が試行されており,本件完了検査は,検査技術基準をも加味して実施されている(乙32)。

検査技術基準は,検査は,業務の成果品を対象として,契約図書に基づき,業務の遂行に求められる専門技術力,コミュニケーション力,及び業務の成果品の品質についての適否の判断を行うものとする旨規定するところ(検査技術基準2条),専門技術力の検査は,打合せ協議,検討項目・検討手段,発揮した技術力等に関する記録と,契約図書とを対比し行う(検査技術基準3条),コミュニケーション力の検査は,打合せ協議,説明内容,プレゼンテーション等に関する記録と,契約図書とを対比し行う(検査技術基準4条),成果品の検査は,目的の達成度,取りまとめの的確性,ミスの有無等と契約図書等を対比し行う(検査技術基準5条)ものとそれぞれされている。

これを本件完了検査についてみるに,(ア)記載のとおり,本件完了検査を実施した検査員F’は,本件準備書作成委託業務が契約書及び仕様書と適合しているとして,合格と判定し,検査調書を作成したものである。そして,上記のとおり,本件においては,本件完了検査に先立って本件指定部分検査が実施されており,本件準備書等については,既に本件指定部分検査により合格の判定がされているところ,証拠(乙32,35,証人F’)によれば,本件完了検査は,このような本件指定部分検査により本件準備書等が合格していることを前提として,本件準備書等以外の成果品である環境検討委員会の運営や本件準備書縦覧後の業務について検査が行われたが,環境検討委員会の運営については,委員会での資料や議事録等,成果品の中で確認が行われ,また,本件準備書縦覧後の業務については,同縦覧後の住民説明会問答作成,住民説明会対応,住民意見への見解資料作成,知事意見への見解資料作成について,専門技術力の発揮やプレゼンテーションの記録,目的の達成度等を成果品の中で確認した上で,評定を行い,合格との判定をしていることが認められる。

そうであるところ,本件のように完了検査に先立って指定部分検査が実施され,同検査について既に合格の判定がされている場合に,完了検査においては,その指定部分検査の結果を前提とした検査をすること自体が違法であるということはできないし,また,上記のとおり,そのような前提で行い,合格との判定をした本件完了検査について,これが違法であると認めるに足る的確な証拠もない(なお,証拠(乙6,証人F’)によれば,本件完了検査を行った検査員F’は,同完了検査の時点においては,本件事業実施区域周辺の洞窟におけるコウモリ類の調査についての本件コウモリ報告書と本件準備書との間に記載の齟齬があることを認識していたものと認められるが,同記載の齟齬については,本件評価書において修正がされているものと認められるところであって,このような修正が,環境影響評価法の趣旨に反する違法なものとまでいうこともできない。)。

(3)  本件完了検査で合格との判定がされたことを受け,本件共同企業体が,平成17年4月25日,沖縄県に対し,本件契約代金合計1億1610万9000円のうち,受領済みである前払金3150万円を控除した残額8460万9000円の支払を請求し,これに対し,空港課長B’が,同日,その専決権に基づいて支出調書に押印し本件支出命令2を行い,同年5月13日,本件共同企業体に対し,本件契約の残代金8460万9000円が支出されたことは,前提事実(3)コ記載のとおりである。

(4)  以上によれば,本件支出命令2は,違法であるとは認められず,本件支出命令2が違法であるとして,被告に対して,C’に対し7350万円の損害賠償請求をするよう求める原告らの請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。

4  以上より,本件訴えのうち,被告に対してA’及びB’に対し金員の支払を請求するよう求める部分は不適法であるからいずれも却下し,その余はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中健治 裁判官 加藤靖 裁判官 渡邉康年)

<編注:『*』部分は原文のとおり。>

別紙 「対象事業実施区域の位置」 (乙22の1,補正評価書2-2頁)

別紙 「洞窟の位置」 (←「洞窟の分布とコウモリ類各種のねぐら場所」 (甲57・図2))

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