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那覇地方裁判所 平成19年(ワ)1032号 判決 2008年8月06日

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求の趣旨

1  被告は,沖縄県において,別紙「被告商標目録」(1)ないし(4)記載の表示を使用した紅いも菓子を販売し,販売のために展示し,又は電気通信回線を通じて提供してはならない。

2  被告は,その所有する別紙「被告商標目録」(1)及び(2)記載の表示を使用した密封包装袋,包装用紙箱及び包装紙を廃棄せよ。

3  被告は,沖縄県において,別紙「被告商品目録」記載の商品を製造し,販売し,販売のために展示し,又は電気通信回線を通じて提供してはならない。

4  被告は,別紙「被告商品目録」記載の商品及び同商品の製造用金型を廃棄せよ。

5  被告は,原告に対し,1億1000万円及びこれに対する平成19年7月12日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

原告及び被告は,それぞれ,沖縄県において,甘藷(さつまいも)の1品種である紅いもを原材料に含む菓子を製造販売するものであるが,本件は,原告が,被告に対し,原告の商品に使用している商品等表示(商標及び商品形態)が周知であり,かつ,被告がそれらに類似した商品等表示を使用して原告の商品と混同を生じさせていると主張して,不正競争防止法2条1項1号,3条及び4条に基づき,商品等表示の使用差止め等及び損害賠償を求める事案である。

1  前提事実(各掲記の証拠(すべての枝番を表す場合は,枝番の記載を省略する。)等によるほかは,当事者間に争いがない。)

(1)  当事者

ア 原告(甲3,7,30)

原告は,和洋菓子の製造及び販売等を目的とする株式会社である。

原告代表者は,昭和54年6月にa村でドーナツ等の菓子を製造する個人営業を始め,その後,平成2年8月に和洋菓子の製造及び販売等を目的とする有限会社ポルシェを設立し,同社が平成11年9月の組織変更により原告となった。

原告は,菓子の販売等を行う施設として,① 平成13年6月,沖縄県国頭郡i村に首里城正殿をモチーフとした建物からなり,商品の販売とともに,紅いもタルトの工場ラインを併設して製造過程の見学もできるようにし,さらに,レストラン等も併設した「御菓子御殿」(i店)をオープンさせ,また,② 平成17年7月には,沖縄県中頭郡a村に,正面に花笠をモチーフにした建築物を配し,新本社工場と店舗,食堂等を備え,店舗内から製造過程の見学もできる「御菓子御殿a本店」をオープンさせた。

イ 被告

被告は,土産品店の経営,織物・ガラス製品・陶器・菓子類の開発製造業,輸入業,卸小売販売業等を目的とする株式会社である。

被告の前身は,菓子及び土産品の卸販売等を目的として昭和59年に設立された有限会社南邦通商であり,その後有限会社ナンポー通商と名称変更され,平成14年の組織変更により被告が設立された。

(2)  当事者の商品

ア 原告商品

(ア) 原告は,設立当時である平成2年8月ころから,別紙「原告商標目録」(1)又は(2)記載の各表示(以下,順に「原告商標1」などといい,両者を併せて「原告商標」という。)を使用して別紙「原告商品目録」記載の構成(以下「原告商品形態」という。)による菓子(以下「原告商品」という。)を製造販売している(なお,被告は,原告商標目録記載の各表示は正確性に欠けるとして,原告商標を別紙「原告商標の使用態様」のとおりとすべき旨も主張するが,以下では,原告が本件の対象として主張する原告商標目録記載の各表示について,上記のとおり原告商標1などというものとする。また,原告が主張する被告商標(後記イ)についても同様である。)。

(イ) 原告代表者は,a村商工会からの,同村の特産品である紅芋を使った商品の開発ができないかとの依頼を受けて,昭和61年には紅いもタルトを含む紅いも菓子の製造販売を始めたものであり(甲3,12ないし14,18,19,24,25,44,50,51,68,82),その後,原告は,上記のとおり,設立当時から,原告商標1又は2を原告商品に使用して,原告商品を販売していたものである(現在における原告商標の原告商品への具体的な使用態様は,別紙「原告商標の使用態様」のとおりであり,また,原告商品形態の具体的な態様は,別紙「原告商品の写真」のとおりである。)。原告商品は,別紙「原告商標の使用態様」の「1 密封包装袋に表示のもの」のとおりに個別包装され,更に5個又は10個などの単位で箱詰め包装され(別紙「原告商標の使用態様」の「2 包装用紙箱に表示のもの」は,10個入り包装用紙箱である。),又は個別包装のままで販売されている。(甲1の2,7,9,34,57)

なお,原告は,平成17年7月ころから御菓子御殿a本店において,原告商品よりも形状がやや小さい商品(通称「子タルト」。以下「子タルト」という。)の製造を始め,6個又は12個などの単位で,「紅いも子タルト」との表示を付して販売するようになったが,その後,子タルトにも「紅いもタルト」の表示(ただし,原告商標とは字体を異にする。)を使用して販売するようになった。その後,原告は,平成18年12月から,原告商品については原則として沖縄県内に7か所ある原告の直営店等のみで販売し,子タルトについてはそのような限定をせずに販売するようになった。(甲1の2,7,9,30,37,49,53,55ないし57,59,乙6,弁論の全趣旨)

また,原告は,御菓子御殿a本店において,形状が丸形の商品(通称「丸タルト」。)を製造し,「紅いもタルト」との表示を使用して販売していたが,平成18年12月で丸タルトの製造及び販売を終了している。(甲49,53,73)

イ 被告商品

被告は,平成13年10月ころから,別紙「被告商標目録」(1)及び(2)記載の各表示(以下,順に「被告商標1」などといい,両者を併せて「被告商標」という。)を使用して別紙「被告商品目録」記載の構成(以下「被告商品形態」という。)による菓子(以下「被告商品」という。)を製造販売している(被告商標の具体的な態様は,別紙「被告商標目録」(5)及び(6)記載のとおりであり,被告商品形態の具体的な態様は,別紙「被告商品の写真」のとおりである。)。被告商品は,別紙「被告商標目録」(5)記載のとおりに個別包装され,更に6個又は12個などの単位で箱詰め包装され(別紙「被告商標目録」(6)は,12個入り紙箱の包装紙である。),又は個別包装のままで販売されている。(甲2の3,乙15)

2  争点

(1)  原告商標の商品等表示性及び周知性

(原告の主張)

ア 原告商標の商品等表示性

(ア) 原告商標は,「紅いもタルト」の文字商標である。これは,素材の名称である「紅いも」とパイ生地を意味する「タルト」の文字を組み合わせて命名したものであり,日本語と外国語をミックスした魅力的な名称であって,原告商品の発売が開始された昭和61年当時,沖縄県において,「紅いも」も「タルト」も普通名称化しておらず,販売開始当時から自他識別力を具備していた。

需要者や取引者は,文字やデザインを記憶しているのではなく,「紅いもタルト」という文字商標としての称呼及び観念を記憶しているのであり,自他識別機能を有するのは「ベニイモタルト」と発音する称呼及び「紅いも」と「タルト」の組合せの観念である。

(イ) 仮に,「紅いもタルト」が普通名称の結合であるとしても,後記イのような販売数の増大等によって,原告商標が周知性を獲得する前までには使用による特別顕著性を具備している。

被告は,原告商標について「御菓子御殿」の表示を問題にするが,同表示については,原告商標が周知性を獲得した時期より後の平成13年6月以降に使用を始めたものであって,文字も小さく表示されており,原告商標に影響を及ぼすものではない。

なお,ぜいたく屋も「紅芋タルト」という商品を販売していたが,それは,平成5年2月ころ,ぜいたく屋が原告商品をまねて製造販売したものであり,販売期間も短く,販売数も少ないものであったから,原告商品の顕著性等に影響を及ぼすものではなかった。

イ 原告商標の周知性

原告商標は,以下のような原告商品の販売数の増加に加え,宣伝広告や紹介記事,さらには,従前には同種の商品名がなかったことなどから,少なくとも沖縄県において,平成9年ころか,遅くとも被告が被告商品を発売する平成13年には周知性を獲得した。

(ア) 原告商品の販売額及び販売数(概数)の推移は,以下のとおりである(なお,原告の事業年度は,当年7月1日から翌年6月30日までである。ただし,平成2年度については平成2年9月1日からの開始である。)。

[販売年度]    [販売額]     [販売数]

平成2年度     1500万円    22万個

平成3年度     4300万円    60万個

平成4年度     5700万円    81万個

平成5年度     6900万円    98万個

平成6年度     7900万円   108万個

平成7年度  1億0500万円   146万個

平成8年度  1億3600万円   180万個

平成9年度  1億4900万円   196万個

平成10年度  1億6900万円   217万個

平成11年度  1億7600万円   224万個

平成12年度  1億7000万円   216万個

平成13年度  2億1100万円   248万個

平成14年度  3億9000万円   439万個

平成15年度  4億5100万円   509万個

平成16年度  6億6100万円   748万個

平成17年度  8億5200万円  1033万個

平成18年度 11億5300万円  1562万個

(イ) 原告商品は,以下のとおり宣伝広告又は取材記事として,新聞,雑誌,業界紙等に広く掲載されている。

① 昭和62年12月10日付け「琉球新報」(甲12)

② 平成元年12月発行の「月刊おきなわ・緑と生活’89・12」(甲13)

③ 平成4年2月3日付け「琉球新報」(甲14)

④ 平成10年12月4日付け「日本経済新聞」(甲16)

⑤ 平成12年1月18日付け「朝日新聞夕刊」(甲17)

⑥ 「沖縄のオンリーワン企業②」(甲18)

⑦ 「うない2001年3,4月号」(甲19)

⑧ 「週刊レキオ Vol.847」(甲20)

⑨ 「シンニホンニュース2001年9月号」(甲21)

⑩ 「包装タイムス No.2066」(甲22)

⑪ 「TOP INTERVIEW VOL.24」(大同火災海上保険株式会社内報)(甲24)

⑫ 「月刊工連ニュース(平成12年4月号)」(甲25)

⑬ 平成16年10月10日付け「琉球新報」(甲44)

⑭ 「月刊工連ニュース(平成17年8月号)」(甲26)

⑮ 「月刊地域づくり(2005年8月号)」(甲27)

⑯ 「月刊地域づくりウェブページ」(甲28)

⑰ 平成17年7月22日付け「沖縄タイムス」(甲29)

⑱ 「シンニホンニュース(2005年11月号)」(甲30)

⑲ 「月刊HACCP(2006年1月号)」(甲31)

⑳ 「週刊ほーむぷらざ(1000号)」(甲32)

file_2.jpg「るるぶドライブ沖縄’03」(甲33)

file_3.jpg「るるぶ沖縄2005最新版」(甲34)

file_4.jpg「るるぶドライブ沖縄’05~’06」(甲35)

file_5.jpg「沖縄遊び2005」(甲36)

file_6.jpg「るるぶ沖縄’06」(甲37)

file_7.jpg「リッカドッカ’05-’06 Vol.9」(甲38)

(ウ) 博覧会での受賞等

原告は,平成3年,第15回沖縄の産業まつりに原告商品を含む商品「紅芋菓子詰合せ」を出品し,沖縄県知事優秀賞を受賞した。また,原告は,原告商品について,平成9年の第21回沖縄の産業まつりに出品して沖縄県知事奨励賞を受賞し,平成14年には第24回全国菓子大博覧会に出品して中小企業庁長官賞を受賞するなど,全国的にも高い知名度と評価を獲得している。

原告は,平成15年2月には,沖縄県知事から独創的な商品開発や企業経営等により沖縄県の産業振興に貢献したとして,平成14年度製造部門ビジネスオンリーワン賞を受賞し,平成16年5月には,内閣府沖縄総合事務局長から事業活動における努力と創意工夫を通じ沖縄県の産業振興に多大な貢献をしたことで表彰されている。

(エ) 御菓子御殿の建設

原告は,平成13年6月,i村に首里城をイメージした外観の店舗兼工場である「御菓子御殿」(737坪)をオープンしたが,同所は沖縄観光の新名所となり,観光客の観光コースとして定着し,原告商標及び原告商品形態の知名度は更に高まった。また,原告は,平成17年には本店所在地のa村にも「御菓子御殿a本店」を建設しオープンして,観光スポットとして人気を博している。

(被告の主張)

ア 原告商標の商品等表示性について

(ア) 原告商標は,原料である「紅芋」と,パイ下地を意味し,洋菓子としてごく一般的な種別の名称である「タルト」を組み合わせたものにすぎず,およそ特徴のある商品名とはいえない。このように,普通名称とさえいえる商品名に特定の出所を示す識別力が認められる余地はない。

実際に原告が密封包装袋又は包装紙箱に使用している商標は,別紙「原告商標の使用態様」のとおりであり,「御菓子御殿の紅いもタルト」あるいは「元祖紅いもタルト」と表示されている。

このうち,「御菓子御殿の紅いもタルト」の称呼についてみると,「御菓子御殿」が文字どおり出所を表示している特徴的な語句であるのに対し,「紅いもタルト」は,普通名称ないしは原料とタルト菓子を示す用語の結合でしかなく,「御菓子御殿の紅いもタルト」の要部が「御菓子御殿」にあることは明らかであって,原告の商標からは,その全体として,「おかしごてんのべにいもたると」あるいは「うくゎーしうどぅんのべにいもたると」との称呼が生じる。また,「御菓子御殿の紅いもタルト」から生じる観念は,「御菓子御殿が販売するべにいもたると」である。

次に,「元祖紅いもタルト」については,「元祖」,「紅いも」,「タルト」のいずれも識別力のある用語ではなく,全体として「がんそべにいもたると」の称呼が生じ,また,「元祖の紅いもタルト」との観念が生じる。

(イ) 原告は,使用による顕著性(商標法3条2項)に類似する主張をするが,沖縄県において,「ベニイモタルト」という商品を認知させたのは,ぜいたく屋である。ぜいたく屋は,昭和63年ころには,「紅芋タルト」の名称で,原告商品と同様な形態を有する商品を販売していた。また,現在では,原告及び被告を除く6業者からも同種の商品が販売されており,それらが競合している。したがって,「紅いもタルト」だけでは出所が不明なことは明らかである。

イ 原告商標の周知性について

原告が主張する原告商品の販売数は,原告代表者の記憶に基づいて算出したものにすぎず,客観的でない。

原告が周知性に関して提出する証拠は,ほとんどが平成13年以降についてのものであるから,周知性を獲得したのが同年中とは到底認められず,せいぜい御菓子御殿a本店を建設した平成17年以降というべきである。甲11によれば,その信用性をおくとしても,原告商品の売上げは,平成13年度において2億4400万円(244万個)程度であるのに対し,平成17年度には8億1500万円(815万個)となっている(しかも,これら数字は,「子タルト」や「丸タルト」など,原告商品以外の商品も含むものである。)。被告商品の平成18年度の販売個数が900万個以上であること(乙44)からしても,平成13年当時の販売実績をもって周知といえないことは明らかである。

(2)  被告商標の類似性

(原告の主張)

原告商標のうち,原告商標1は楷書体に近い文字であり,原告商標2は筆書き書体であるが,いずれも通常の文字商標といえるものであって,外観に特徴を有するものではなく,看者に記憶させ,自他商品識別機能を果たさせようとする点に特徴を有する表示であるから,類似性の判断においては,専ら称呼及び観念によって判断するべきである。

このような観点からすると,別紙「被告商標目録」(1)ないし(4)記載の各商標は,以下のとおり,それぞれ少なくとも要部において称呼及び観念が同一又は類似であるから,いずれも全体として原告商標と類似する。

すなわち,被告商標1は,少しデザイン化されているものの,原告商標中の「紅」と「タルト」を平仮名表記した文字商標にすぎず,称呼は同一で,観念も類似する。被告商標2は,英文字の「BENIIMO TARTE CAKE」を少しデザイン化して表記した文字商標であるが,このうち「CAKE」は英語の洋菓子の意味で自他識別力がないから,「BENIIMO TARTE」の部分が要部であり,同要部は原告商標と称呼,観念の点で類似する。別紙「被告商標目録」(3)記載の表示は,「紅いもたると」の文字商標であり,原告商標中の「タルト」を平仮名に変更したにすぎず,称呼は同一で,観念も類似する。別紙「被告商標目録」(4)記載の表示は,「紅芋タルト」の文字商標であり,原告商標中の「いも」の部分を漢字に変更したにすぎず,称呼は同一で,観念も類似する。

また,別紙「被告商標目録」(5)及び(6)記載の各商標については,識別性を有するのは,包装紙のデザインや色彩ではなく,文字部分であり,その中でも大きく表示されている「べにいもたると」の部分が要部となるところ,これは,原告商標に類似するものである。

そして,被告がその商標を選定した動機には,ただ乗り(フリーライド)の意図及び不正競争の目的が認められる。

(被告の主張)

原告は,「紅いもタルト」が原告商品の商品等表示であるとするが,前記(1)(被告の主張)ア記載のとおり,原告商標からは,その全体として,「おかしごてん(又はうくゎーしうどぅん)のべにいもたると」又は「がんそべにいもたると」との称呼が生じ,また,「御菓子御殿が販売するべにいもたると」又は「元祖の紅いもタルト」との観念が生じるのであり,このような称呼及び観念に外観も加味すれば,原告商標と被告商標が非類似であることは明らかである。

(3)  原告商品形態の商品等表示性及び周知性

(原告の主張)

ア 原告商品形態の商品等表示性

原告商品形態は,別紙「原告商品目録」記載のとおりであって,基本形態として,薄いベージュ色のパイ生地と紅いも餡の赤身がかった紫色の2色の色彩と,紅いもをイメージさせた中央部がやや太く底が浅い舟形のパイ生地(タルト)の上に,紅いも餡をボリューム感をもたせて搾り盛っていることを特徴としており,他の焼き菓子にはみられない独特の形態であり,それが人気を博し,原告商品の商品等表示として特別顕著性を有していた。

イ 原告商品形態の周知性

原告商品形態が周知性を獲得した時期は,前記(1)(原告の主張)記載の原告商標の場合と同じく,平成9年ころか,遅くとも平成13年である。

(被告の主張)

ア 原告商品形態の商品等表示性について

原告商品形態が別紙「原告商品の写真」のとおりであることは認めるが,言葉で別紙「原告商品目録」記載のように特定することは争う。

また,原告の主張する原告商品の基本的形態については,「ベニイモタルト」という商品区分に属する商品がすべからく備えている形態であり,特別顕著性が認められる余地はない。

さらに,現在では多数の同種の商品が市場に存在し,競合しているのであるから,原告の主張する商品形態だけでは出所が不明なことは明らかである。

イ 原告商品形態の周知性について

前記(1)(被告の主張)イ記載のとおり,原告商品形態が周知であるとはいえない。

(4)  被告商品形態の類似性

(原告の主張)

被告商品形態は,別紙「被告商品目録」記載のとおりであって,原告商品形態と基本的構成形態において同一であり,かつ,具体的構成形態において,大きさがわずかに異なるが,色合いも共通しており,全体の形態において類似する。

(被告の主張)

原告が主張する原告商品の具体的構成態様は,被告商品のそれとは大きさにおいて異なっており(むしろ,被告商品の後に原告が販売を開始した原告の「子タルト」が被告商品に類似するといえる。),非類似であることは明らかである。

(5)  営業上の利益の侵害又は侵害のおそれ

(原告の主張)

原告商品と被告商品は,同一市場において完全な競合関係にあり,被告の不正競争行為によって,一般消費者に対し,被告商品を原告商品と混同させることによって,原告は,営業上の利益を侵害されており,今後も侵害されるおそれが強い。

(被告の主張)

争う。

(6)  損害

(原告の主張)

被告は,平成16年7月から平成18年12月までで,合計1175万個の被告商品を販売した。そして,原告商品1個当たりの利益額は16.5円であるところ,不正競争防止法5条1項に基づいて,侵害者が譲渡した物の数量に,被侵害者がその行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を,被侵害者の当該物に係る販売その他の行為を行う能力に応じた額を超えない限度において,被侵害者が受けた損害の額とすることができるから,上記1175万個に16.5円を乗じて算出される原告が被った損害合計1億9387万5000円のうち,原告は,損害賠償として1億円を請求する。

また,被告の不正競争行為と相当因果関係にある損害としての弁護士費用は,1000万円である。

(被告の主張)

争う。

(7)  先使用の抗弁

(被告の主張)

原告商標又は原告商品形態に周知性があるとしても,それは原告が御菓子御殿a本店を建設した平成17年以降のことであり,被告商品の販売が開始された平成13年10月より後のことである。被告は,被告商品を不正の目的でなく使用していたから,本件において,不正競争防止法2条1項1号は適用されない(同法19条1項3号)。

(原告の主張)

前記(1)(原告の主張)イ及び(3)(原告の主張)イ記載のとおり,被告商品が発売された平成13年10月には,既に原告商標及び原告商品形態は周知性を獲得していたから,先使用の抗弁は成立しない。さらに,被告には,不正目的も認められる。なお,被告は,本訴に先立つ仮処分申請の前に,原告に対し,「弊社の商品開発は後発であり,先使用の抗弁主張の余地はありません。」旨明言していた(甲46)のであるから,本訴において先使用を主張することは禁反言により許されない。

第3当裁判所の判断

1  原告商標の商品等表示性について

(1)  原告商標の自他識別力について

原告は,自他識別力を有するのは「ベニイモタルト」と発音する称呼並びに「紅いも」及び「タルト」の組合せの観念であるとして,原告商標は「紅いもタルト」の文字商標である旨主張する。これに対し,被告は,原告が実際に使用している商標は,「御菓子御殿の紅いもタルト」ないし「元祖紅いもタルト」である旨主張するところ,この点をおいても,以下のとおり,「紅いもタルト」との原告商標が,自他識別力を有するものとは認められない。

すなわち,「紅いも」は,甘藷(さつまいも)の品種の一つであって,紫の肉色を有するものをいい(甲13),これは普通名詞(一つの類に属する個体のどれでもが,その例になり得るような事物を表す名詞)といえる。また,「タルト」は,① ゆず餡などをカステラで巻いた和洋折衷の菓子,又は,② 果物・ジャムなどをのせたパイ菓子を表すものであって(乙79,80),原告商標中の「タルト」は,このうち②の意味を有するものであるが,これも普通名詞といえる。

この点,原告は,原告商品の発売が開始された昭和61年当時,「紅いも」や「タルト」は普通名称化していなかった旨主張する。しかしながら,「紅いも」についてみれば,昭和62年12月10日付けの琉球新報(甲12)においても,「『紅(べに)芋』といえば『a』と言われるくらい,a村の紅芋栽培はよく知られている」等と記載されている。また,「タルト」についても,上記記載のような意味を有することは,昭和58年12月発行の広辞苑第3版(乙79)や,昭和63年11月発行の大辞林(乙80)にそれぞれ記載されているところであるし,また,原告商標中の「タルト」も意味する,果物・ジャムなどをのせたパイ菓子を「タルト」と称することは,昭和61年当時においても広く知られていたものといえる(弁論の全趣旨)。これらからすれば,「紅いも」や「タルト」は現時点はもとより,昭和61年当時においても普通名詞(普通名称)であったものと認められる。

次に,原告は,「紅いもタルト」との原告商標は,素材の名称である「紅いも」とパイ生地である「タルト」の文字を組み合わせて命名したものであり,日本語と外国語をミックスした魅力的な名称である旨主張する。

しかしながら,タルト菓子について,タルト生地の上にのせる素材等の名称を冠して,「チーズタルト」,「洋ナシタルト」,「チェリータルト」,「アップルタルト」,「ピーチタルト」,「バナナタルト」,「ブルーベリータルト」,「グレープフルーツタルト」,「オレンジタルト」,「ミックスフルーツタルト」,「かぼちゃタルト」,「木の実タルト」等と称されており(乙9の1),また,上にのせる素材が芋であるものについても,「金太郎いもタルト」(乙10),「焼きいもタルト」(乙11)等と称されているところであるから,「紅いもタルト」との表示についても,これらと同様に,タルト菓子について,タルト生地の上にのせる素材の名称を冠したものにすぎず,このように普通名詞を単に組み合わせたにすぎない「紅いもタルト」との表示自体が,自他識別力を有するものとは認められない。

なお,仮に,原告商標につき,外観(字体)を加味して商品等表示性を判断するとしても,原告商標1はゴシック体を基本とし,「紅」の字を構成する点(いとへんの第6画部分)を丸形にするなどして図案化されたものであり,原告商標2は楷書体又は行書体を基本として図案化されたものであるところ,共にそれ自体で特に際だった特徴を有するものとは認められないから,このような外観を加味したとしても,なお,原告商標がそれ自体で自他識別力を有するものということはできない。

(2)  使用による特別顕著性の具備の主張について

原告は,原告商標が周知性を獲得する前までには使用による特別顕著性を取得した旨主張し,原告商標が周知性を獲得した時期としては遅くとも被告商品の販売開始(平成13年10月)前である旨主張していることから,以下,原告商標が,平成13年10月の時点及び現時点において使用による特別顕著性を具備したといえるか否かについて検討する。

ア 原告商品の販売数について

原告は,平成2年度から平成18年度までの原告商品の販売額及び販売数(概数)の推移は,前記第2の2(1)(原告の主張)イ(ア)記載のとおりである旨主張している。

この点,原告代表者の陳述(甲94)によっても,平成12年度までの数値は,全体の売上高から販売高比率についての原告代表者の記憶に基づいて推計したものにすぎず,また,平成13年度から平成16年度も,原告の電算システムが充実してきたことからおおむね正確というものの(甲94),原告提出の書証自体(甲11,92)で数値が異なるなど,その正確性に疑義が存するところである。さらに,平成17年度以降は商品別売上管理ができる販売管理システムを導入しており,販売個数データは正確であるとするものの(甲94),原告が製造販売していた子タルトや丸タルト(前提事実(2)ア(イ))を除外した数値が示されていないなどの問題点が存する。

以上のように,原告の主張する数値自体,客観的裏付けを欠く不正確なものといわざるを得ないが,この点はおいて,以下,原告主張の数値を前提として検討する。

イ 平成13年10月時点における特別顕著性具備の有無について

(ア) 原告商品が掲載された宣伝広告及び取材記事等に関して原告が提出した証拠のうち,平成13年10月までに発行されたもの及びその内容等は,以下のとおりである。

① 昭和62年12月10日付け「琉球新報」(甲12)

a村の特産品開発の一環として,a村商工会が「ポルシェ」に製造を依頼した「紅いも羊かん」に関する記事及び原告代表者らの写真が掲載されており,同写真には原告商品らしきものも写っている。

なお,琉球新報の発行部数については,昭和56年11月に15万部を突破した(県内占有率50パーセント超)とある(甲109)。

② 平成元年12月発行の「月刊おきなわ・緑と生活’89・12」(甲13)

紅いもの特集記事の中で,原告代表者に対する紅いもを使った商品開発についての取材記事とともに,原告商品の写真及び「紅いもタルト」の商品名の記載がある。

なお,同誌の当時の発行部数は明らかではない。

③ 平成4年2月3日付け「琉球新報」(甲14)

紅いも菓子についての記事の中で,「aといえば紅イモ。紅イモといえばポルシェのお菓子-といわれるほど有名になったa村の特産品・紅イモ菓子。」,「最初に作ったのは県産業まつりの展示用として紅イモを使ったタルト,ヨウカン,シュークリームだったが,好評を博し『それから波に乗って現在まできている』という。いまは,紅イモを使った商品もパン,カステラから大福,ヨウカン,ケーキまで二十点余りにも増えているほどだ。」などの記載がある。

なお,平成4年2月当時の琉球新報の販売部数は,18万4571部である(甲90)。

④ 平成10年12月4日付け「日本経済新聞」(甲16)

「ベンチャー企業 九州を動かす」との記事の中で,「お菓子のポルシェは沖縄特産の紅芋,黒糖などの天然素材を使った菓子を製造販売している。」,「一階の店舗の奥では,従業員が慣れた手つきで鮮やかな紫色のクリームをパイ生地に盛りつけていく。同社のヒット商品『紅いもタルト』だ。」,「ポルシェは紅芋菓子を相次ぎ商品化,全国・県内で多くの賞を受賞して『沖縄の銘菓』のブランドを確立していき,今では紅芋菓子が全売上高の約四割を占めるまでになった。」などの記載のほか,原告商品らしきものを作成している様子の写真が掲載されている。

なお,同誌の当時の発行部数は明らかではない。

⑤ 平成12年1月18日付け「朝日新聞夕刊」(甲17)

「〝イモ食品〟色でブレーク」との見出しの下に,原告に対する取材記事が掲載され,「ムース,ショコラ,カステラ,ようかん……。一階の店舗には紅イモを入れたケーキや和菓子計三十五種が並ぶ。奥は工場で,紫色のペーストを盛りつけたタルトを一日六千個つくる。」,「ポルシェは一九八八年から紅イモを使ったシュークリームやタルトなどを作り始めた。注目されるようになったのは九五年,『沖縄の菓子』として那覇発の航空便の機内食に採用されてからだ。」などの記載がある。

なお,平成18年4月当時における朝日新聞西部本社の夕刊発行部数は,13万7042部である(甲89)が,平成12年1月18日当時の発行部数は明らかではない。

⑥ 平成12年4月15日発行「ニッチ・マーケット発見!沖縄のオンリーワン企業②」(甲18)

原告についての取材内容が掲載され,原告商品についての開発経緯,生産体制,食後の感想等のほか,「今一番売れているのは紅いもタルトです。」などの原告代表者の取材内容や,原告商品の写真などが掲載されている。

なお,同誌の当時の発行部数は明らかではない。

⑦ 平成13年3月1日発行「うない2001年3,4月号」(甲19)

原告代表者に対する取材記事が掲載され,「一番人気があるのは最初に作った紅芋タルトなんです。」などの原告商品に関する内容及び原告商品等の写真のほか,御菓子御殿の建設についての記載がある。

なお,同誌の当時の発行部数は明らかではない。

⑧ 平成13年6月21日発行「週刊レキオ Vol.847」(甲20)

原告代表者に対する取材記事が掲載され,御菓子御殿のオープンについて記載されている。

なお,同誌の当時の発行部数は明らかではない。

⑨ 平成13年9月1日発行「シンニホンニュース2001年9月号」(甲21)

原告代表者に対する取材記事が掲載され,オープンした御菓子御殿について,原告商品の製造工程の写真及び原告商品を含む原告の商品の写真が掲載されているほか,原告商品に関し,「村おこしと一体に育った『紅いもタルト』」との見出しや,「ポルシェが紅いもタルトを手掛けたのが一九八六年である。」,「村おこし運動と一体になって継続して育ててきたお菓子なのである。」などの記載がされている。

なお,当時の発行部数は明らかではない。

以上のうち,原告商品を紹介する記事(原告商品及び原告商標の記載が明確に読みとれるもの)は,②,④,⑥,⑦及び⑨であるが,このうち,⑦及び⑨の発行時期は平成13年10月のわずか数か月前であり,また,いずれの印刷物についてもその発行部数は不明である。

(イ) 他社商品の存在

被告は,ぜいたく屋が昭和63年ころには,「紅芋タルト」の名称で原告商品と同様な形態を有する商品を販売していた旨主張するのに対し,原告は,ぜいたく屋が「紅芋タルト」という商品を販売したのは,平成5年2月ころ,原告商品をまねて製造販売を始めたものである旨主張する。この点,ぜいたく屋の上記商品の販売開始時期が昭和63年であるとする客観的な資料はなく,同販売開始時期を,昭和63年ころと認めることはできないものといわざるを得ず,遅くとも,平成5年以降は,ぜいたく屋も「紅芋タルト」との商品を販売しているとの限度で認められるにとどまる。

そして,証拠(甲101,103の1及び2,乙29ないし35)によれば,ぜいたく屋の「紅芋タルト」も,原告商品と同様に舟形のタルトの上に紅いも餡をひだ状に搾り出してのせているもので,原告商品と類似すること,ぜいたく屋は那覇市jに本社があり,平成10年ころまでは那覇市内等に店舗も有していたこと,ぜいたく屋の「紅芋タルト」は,平成6年4月には,第22回全国菓子大博覧会で菓子博栄誉賞を受賞していること,ぜいたく屋は,その後も「紅芋タルト」の製造販売を行っており,平成14年ころから平成16年ころにかけては通信販売の方法による販売を行っていたことがそれぞれ認められる。なお,ぜいたく屋が販売していた「紅芋タルト」の販売個数については,客観的な資料がなく,明らかではない。

(ウ) 以上によれば,原告の主張を前提としても,平成12年度(平成12年7月1日から平成13年6月30日)の原告商品の販売数及び販売額は216万個,1億7000万円,平成13年度(平成13年7月1日から平成14年6月30日)の原告商品の販売数及び販売額は248万個,2億1100万円であって,平成2年度以降数を伸ばしてきているものと認められるが,御菓子御殿(i店)がオープンし,その宣伝効果もあって急激に売上実績を伸ばしてきたものと認められる平成14年度以降の販売数,販売額と比べるとその半分くらいあるいはそれ以下にすぎず,また,御菓子御殿a本店がオープンした平成17年度の販売数,販売額と比べると,平成12年度,平成13年度の各販売数,販売額は,その4分の1に満たないものである。このことに加え,平成13年10月以前の原告商品に関する宣伝広告や取材記事等の内容,原告商品と同様の商品としてのぜいたく屋の「紅芋タルト」の存在等の上記認定事実を併せ考慮すると,原告商標が平成13年10月時点において,特別顕著性を具備していたものと認めることはできない。

ウ 現時点における特別顕著性具備の有無について

(ア) 原告の主張を前提とすると,平成18年度(平成18年7月1日から平成19年6月30日)の原告商品の販売数及び販売額は1562万個,11億5300万円となり(ただし,この数値が子タルトや丸タルトを除外したものとは認められない。),御菓子御殿(i店)や御菓子御殿a本店の各オープンやその宣伝効果等もあいまって,原告商標を使用した原告商品は相当数販売されているものといえる。

(イ) 被告商品の販売

証拠(乙7,27,43,44)によれば,被告商品の販売実績について,以下の各事実が認められる。すなわち,被告商品は,平成13年10月に販売が開始され,その販売数については,平成18年1月1日から同年12月31日までで,約880万個(乙44の商品別・売上順位表から,「紅いもたると(大)パイナップル」や「紅いもたると(小)パイナップル」など,被告商品か否か判然としないものを除外して集計したもの。)に上っている。そして,被告は,平成14年ころからはJTAが隔月ごとに発行する機内誌「Coralway」に被告商品の広告を掲載している(ただし,各発行部数は不明である。)。また,「月刊地域産品ニュース」によれば,被告商品は,那覇空港ビルディング直営売店における土産物品販売ランキングで平成15年10月は7位に,平成16年4月は2位及び3位に,同年10月は1位及び3位に,平成17年4月は1位及び3位に,同年10月は2位及び3位に,平成18年4月は1位及び3位に,同年10月は1位及び2位に,同年12月は1位及び2位に,平成19年1月は1位及び2位になっている。そして,同誌の平成19年2月号には,被告商品の認知度は極めて高く,リピーターも多いため,常に売上げ上位を占めており,那覇空港土産菓子の代表の一つとなっているとの記載がされ,同年3月号には,被告商品は売上げトップを走り続けており,沖縄観光土産を代表する商品の一つとなっているとの記載がされている。

(ウ) 他社商品の存在

証拠(乙7,11,40,41,52,59)によれば,紅いもを原材料とするタルト菓子(焼き菓子)として,現在では,原告商品及び被告商品のほか,有限会社しろま製菓産業から「紅芋タルト」,有限会社モンテドールから「紅いもタルト」,南風堂株式会社から「紅芋タルト」,お菓子のマルシェ(有限会社宮城菓子店)から「紅いもタルト」,有限会社沖縄ユタカ農産から「紅イモタルト」,限会社沖縄エイサー物産から「紅芋タルト」との各表示を使用した商品が発売されていることが認められる。

(エ) これらからすれば,現時点においては,原告商標を使用した原告商品も相当数販売されており,原告商品の知名度も高いものといえるが,被告商標を使用した被告商品も相当数販売されており,また,ほかにも同様の商品について「紅芋タルト」ないし「紅いもタルト」との名称を付して販売している複数の業者が存在するのであるから,原告商標が現時点において,特別顕著性を具備しているものと認めることはできない。

2  原告商品形態の商品等表示性について

(1)  商品の形態は,商品の機能を発揮したり,商品の美感を高めたりするために適宜選択されるものであり,本来的にはその商品の出所を表示する機能を有するものではないが,① 特定の商品形態が同種の商品と識別し得る独自の特徴を有し,かつ,② それが長期間にわたり継続的にかつ独占的に使用されたり又は短期間であっても強力に宣伝されるなどして使用されたような場合には,結果として,商品の形態が商品の出所表示の機能を有するに至り,かつ,商品表示としての形態が需要者の間で周知になり,不正競争防止法2条1項1号にいう「他人の商品等表示」として保護されることがあり得るというべきである。ただし,商品の形態が,当該商品の機能ないし効果と必然的に結びついている場合には,その形態は,上記規定にいう「他人の商品等表示」ということはできず,これについて同規定による保護は及ばないというべきである。

(2)  これを本件についてみるに,原告商品の商品形態は,別紙「原告商品目録」記載の構成(原告商品形態)によるものである(前提事実(2)ア(ア))ところ,証拠(乙2,11,14ないし16,38,42)によれば,原告商品又は被告商品以外のタルト菓子商品の中にも,舟形のタルト生地を下部に備え,その上部にいもやバナナなどを原材料に含むペーストを搾り盛って焼いた形状の菓子が多く存在し,また,一般に販売されている菓子製造器具等を用いてこのような形態のタルト菓子の作成が可能であることが認められるから,原告商品形態は,焼き菓子(タルト菓子)のありふれた形態であるというべきである。

したがって,原告商品形態は,同種の商品と識別し得る独自の特徴を有するもの(前記(1)①)であるとはいえず,商品等表示には該当しない。

3  以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の主張はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中健治 裁判官 加藤靖 裁判官 渡邉康年)

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