那覇地方裁判所 平成20年(ヨ)166号 決定 2009年12月11日
主文
1 債権者が本決定正本の送達の日から10日以内に債務者Aに対して50万円の担保を立てることを条件に,債務者Aは,別紙物件目録1ないし4記載の各土地について,債務者A自ら又は債務者Aと意を通じた第三者をして,座込み,自動車の駐車,テントの設置その他の方法により,債権者が上記各土地を自動車による通行を含めて通路として使用することを妨害してはならない。
2 債権者が本決定正本の送達の日から10日以内に債務者Cに対して50万円の担保を立てることを条件に,債務者Cは,別紙物件目録1ないし4記載の各土地について,債務者C自ら又は債務者Cと意を通じた第三者をして,座込み,自動車の駐車,テントの設置その他の方法により,債権者が上記各土地を自動車による通行を含めて通路として使用することを妨害してはならない。
3 債権者のその余の申立てをいずれも却下する。
4 申立費用は,債権者に生じた費用の7分の1と債務者A及び債務者Cに生じた費用とを債務者A及び債務者Cの負担とし,債権者に生じたその余の費用とその余の債務者らに生じた費用とを債権者の負担とする。
事実及び理由
第1申立て
1 債務者らは,別紙物件目録1ないし4記載の各土地について,債務者自ら又は第三者をして,座込み,自動車の駐車,テントの設置その他の方法により,債権者が上記各土地を自動車による通行を含めて通路として使用することを妨害してはならない。
2 債務者らは,本決定正本の送達の日から5日以内に,別紙物件目録1ないし4記載の各土地上にある別紙妨害物目録1ないし3記載のテント及び同テント内にある机等の動産一切を撤去せよ。
3 債務者らが前項の期間内に前項の各物件を撤去しないときは,債権者は,那覇地方裁判所名護支部執行官に債務者らの費用で上記各物件を撤去させることができる。
第2事案の概要
本件は,債権者において,アメリカ合衆国(米国)との合意に基づき,沖縄県国頭郡東村内及び国頭村内の複数箇所にヘリコプター着陸帯(いわゆる「ヘリパッド」)を建設するため,これらの建設予定地に至る所有土地を通路として通行して使用するに際し,この建設に反対する債務者らが通路の入口等において債権者による通行等を現に妨害し,今後も妨害するおそれがあると主張して,債務者らに対し,土地の所有権に基づく妨害排除請求及び妨害予防請求として,前記第1のとおりの仮処分を申し立てた事案である。
1 前提となる事実
(1) 当事者等と関係土地
債権者は,沖縄県北部の国頭郡東村又は国頭村に所在する別紙物件目録1記載の土地(以下「進入口①-1」という。),同目録2記載の土地(以下「進入口①-2」といい,進入口①-1と併せて「進入口①」という。),同目録3記載の土地(以下「進入口②」という。)及び同目録4記載の土地(以下「進入路③」といい,進入口①及び進入口②と併せて「本件各土地」という。)を所有している。(甲2)
債務者らは,債務者Iを除き,沖縄県国頭郡東村又は那覇市に住所を有する住民であり,債務者Iは,平成19年3月から平成20年2月まで,農業の研修生として,債務者E・債務者F夫妻と同居していた。債務者A,債務者C及び債務者Jは,「『ヘリパッドいらない』住民の会」(以下「『住民の会』」という。)の共同代表であり,債務者Nは,「なはブロッコリー」の代表である。(争いのない事実,審尋の全趣旨)
沖縄防衛局は,平成19年9月,従前の那覇防衛施設局に代わり新設された防衛省の地方組織であり(以下「沖縄防衛局」という場合に従前の「那覇防衛施設局」を含むことがある。),沖縄県内における防衛行政の拠点である。(審尋の全趣旨)
(2) 本件各土地と隣接地の管理,利用関係
進入口①は,いずれも,林野庁が所管し,沖縄県が林野庁の下部機関である沖縄森林管理署から県道70号線敷として賃借し,管理している。進入口①にいずれも隣接して別紙物件目録中の別紙1-1-1(①-1,①-2)図面に米軍提供施設区域と示された土地は,林野庁が所管しており,沖縄防衛局が沖縄森林管理署から使用許可(使用承認)を受け,米軍の北部訓練場の用に供されている。(甲2)
進入口②は,林野庁が所管し,沖縄県が沖縄森林管理署から県道70号線敷として賃借し,管理するとともに,沖縄防衛局が沖縄森林管理署から使用許可(使用承認)を受け,米軍の北部訓練場の用に供されており,沖縄防衛局と沖縄県との間で共同使用が認められている。進入口②に隣接して別紙物件目録中の別紙2-1(②)図面に米軍提供施設区域と示された土地は,林野庁が所管しており,沖縄防衛局が沖縄森林管理署から使用承認(使用許可)を受け,米軍の北部訓練場の用に供されている。(甲2)
進入路③は,林野庁が所管し,電源開発株式会社(以下「電源開発」という。)が沖縄森林管理署との貸付契約により進入路として賃借し,管理するとともに,沖縄防衛局が沖縄森林管理署から使用承認(使用許可)を受け,米軍の北部訓練場の用に供されており,沖縄防衛局と電源開発との間で共同使用が認められている。進入路③に隣接して別紙物件目録中の別紙3-1(③)図面に米軍提供施設区域と示された土地は,林野庁が所管しており,沖縄防衛局が沖縄森林管理署から使用承認(使用許可)を受け,米軍の北部訓練場の用に供されている。(甲2)
(3) 日米合意とヘリパッドの移設
かねてより,沖縄県における米軍施設・区域の整理,縮小等が沖縄県民の強い要望であったところ,平成7年11月,沖縄県に所在する在日米軍施設・区域に係る諸問題に関して協議することを目的として,日本政府と沖縄県との間に「沖縄米軍基地問題協議会」,日米間に「沖縄に関する特別行動委員会」(「Special Action Committee on Okinawa」,いわゆる「SACO」)がそれぞれ設置され,平成8年12月2日に承認されたSACO最終報告では,北部訓練場について,その返還予定区域内にある既存のヘリコプター着陸帯(「ヘリパッド」)を残余の部分に移設することなどを条件として,北部訓練場の過半の約3987ヘクタールを返還することが盛り込まれ,日米の両国政府間で合意された。(争いのない事実,甲19)
別紙位置図に着陸帯移設予定地と示された土地(以下「着陸帯予定地」という。)にヘリコプター着陸帯を建設する事業(以下「本件事業」という。)は,上記の日米合意に基づく北部訓練場の過半の返還を実現するための条件となる事業である。そして,本件事業の工事において,進入口①は,いずれも,同位置図上の「N-4地区」の着陸帯予定地2箇所への進入口であり,進入口②は,同じく「N-1地区」の着陸帯予定地2箇所への進入口であり,進入路③は,同じく「H地区」の着陸帯予定地1箇所及び「G地区」の着陸帯予定地1箇所への進入路である。(甲19,20,172~175,審尋の全趣旨)
(4) 本件事業の進捗と状況
沖縄防衛局は,平成19年7月ころ,本件事業の工事に着手したが,以後,これに反対する住民らにより,本件各土地において,工事用車両の進入が阻止されるなど,工事関係者や車両が着陸帯予定地に入場したり,資材を搬入したりすることの困難な事態となった。(審尋の全趣旨)
債権者は,平成20年11月25日,本件の仮処分を申し立てた。(顕著な事実)
現在,本件事業の工事は,環境への配慮のための工事中断の期間を挟んで,その進行がほぼ停止した状態にあり,また,進入口①-1,進入口②及び進入路③には,それぞれ,別紙テント関係で示された各位置と各写真のとおり,別紙妨害物目録1ないし3記載の合計4張りのテント(以下「本件各テント」という。)が設置されている。(審尋の全趣旨)
2 争点
(1) 物権的請求権の行使と制約
(2) 妨害予防請求権と債務者らによる妨害のおそれ
(3) 妨害排除請求権と本件各テントによる妨害
(4) 保全の必要性
(5) 本件申立てと訴権の濫用
(6) 本件申立てと信義則(クリーンハンドの原則)
第3争点に関する当事者の主張
1 争点(1)〔物権的請求権の行使と制約〕
〔債務者らの主張〕
債権者は,本件申立ての被保全権利として,本件各土地の所有権の一内容である自己所有地を通行する権利を主張する。しかし,債権者は,次のとおり,本件各土地について,これを第三者に賃貸ないし第三者と共同使用するなどして,その排他的な使用権限を失い,通行を内容とする用益権が制約されているから,債権者において,物権的請求権(妨害排除請求権及び妨害予防請求権)を行使することができない。
(1) 賃貸借契約の締結
本件各土地について,債権者は,進入口①及び進入口②につき沖縄県との間で,進入路③につき電源開発との間で,それぞれ賃貸借契約を締結し,それらの使用収益を許している。
これにより,本件各土地の使用収益権は,債権者から沖縄県又は電源開発に移転しており,占有侵害等が生じた場合には,これらの賃借人において固有の妨害排除請求権等が認められる反射として,賃貸人である債権者の物権的請求権の行使は否定される。
(2) 道路管理権の設定
進入口①及び進入口②については,いずれも県道70号線として使用されており,沖縄県は,道路管理者としての地位に基づいて道路の占用許可等を出すことや違法放置物件の除去等をする権限を有する。
このような道路管理権を沖縄県が取得することにより,債権者は,所有権に基づく土地の使用収益権を失っており,物権的請求権を行使できない。
(3) 米軍に対する提供
進入口②及び進入路③について,債権者は,米軍と沖縄県又は電源開発との共同使用区域であると主張する。
仮に,既に債権者が米軍に提供していた土地について,米国の同意を得て,債権者が沖縄県及び電源開発と賃貸借契約を締結しているのであれば,米軍に対する当初の土地提供により,日米地位協定3条に基づき,使用を許された区域の管理権は,すべて債権者から米軍に移転するから,債権者は,土地の使用権限を喪失し,所有権に基づく物権的請求権を行使できない。
また,仮に,沖縄県及び電源開発に賃貸された後に米軍に提供された場合においても,第三者に対する賃貸借の時点で,債権者は,所有権の制約を受け,物権的請求権の行使ができない。
〔債権者の主張〕
債権者は,本件各土地の所有権を有しており,物権的請求権(妨害排除請求権及び妨害予防請求権)の行使については,次のとおり,何ら妨げられない。
(1) 賃貸借契約の締結について
所有者が所有土地につき賃借権や用益物権を設定した場合であっても,所有者において,無権原で占有する者に対し,所有権に基づく物権的請求権を行使できる。間接占有者である所有者は,不法占拠によって直接占有が妨げられることにより,自己の占有が妨げられることからも,物権的請求権を行使し得ることは当然である。
本件各土地について,無権原の第三者が道路敷や進入路としての本来の用法と異なる形態でこれを利用,占有する場合,債権者は,所有権に基づいてこれを排除できるのであって,賃貸借契約の設定は,物権的請求権の行使の妨げになるものではない。
(2) 道路管理権の設定について
進入口①及び進入口②について,沖縄県が道路敷に供し,道路管理権を有しているとしても,道路における通行妨害の排除は,道路敷の所有権又は占有権等に基づいて行われるべきであり,道路法に基づく管理権によって,物権的請求権の行使が妨げられるものではない。すなわち,道路敷においては,占有権に基づく物権的請求権の行使が肯定されているから,所有権に基づく行使が肯定されるのは当然である。
また,道路法4条は,道路を構成する敷地につき私権を行使することができない旨定めているが,同条の禁止は道路の効用を害するものに限られるから,進入口①及び進入口②について,道路敷の所有者である債権者が道路における通行の妨害を排除及び予防することを目的として所有権に基づく物権的請求権を行使することの妨げにはならない。
(3) 米軍に対する提供について
進入口②及び進入路③は,「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約」(昭和35年条約第6号),「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定」(昭和35年条約第7号,以下「地位協定」という。)等に基づき,米軍の使用が許されているところ,地位協定2条1項(a)は,「合衆国は,相互協力及び安全保障条約第6条の規定に基づき,日本国内の施設及び区域の使用を許される。個々の施設及び区域に関する協定は,第25条に定める合同委員会を通じて両政府が締結しなければならない。」と定めている。
そして,債権者は,進入口②及び進入路③について,本件事業に関する日米合同委員会を通じた協議により,施設及び区域内への立入りを含め,本件事業の工事を行うことが認められているから,債権者が所有権に基づく物権的請求権を行使することに特段の支障はない。
2 争点(2)〔妨害予防請求権と債務者らによる妨害のおそれ〕
〔債権者の主張〕
債務者らは,次のとおり,「住民の会」ないしその前身の「ブロッコリーの森を守る会」(以下「『守る会』」という。)又は「なはブロッコリー」という団体による本件事業に対する反対活動に参加して,自ら本件各土地において座込みを行ったり,所有又は管理する自動車を本件各土地上に駐車したりするなどして,債権者の通行を妨害するとともに,座込みに参加する者を募るなどして,通行の妨害行為を主導する者である。
したがって,今後も,債権者が本件事業の工事を継続して本件各土地を通路として使用する際に,債務者らにおいて,自ら又は第三者をして,座込み,自動車の駐車,テントの設置等の方法により,その使用を妨げるおそれが極めて高い。
(1) 座込みと参加呼びかけによる妨害行為
ア 債務者A
債務者Aは,「守る会」の発足に伴って,その会長に就任し,後身である「住民の会」を結成して,債務者C及び債務者Jとともに,その共同代表に就任し,債権者による本件各土地の通行を妨害する目的で,本件各土地において,自ら座込み等を行って実際に債権者の通行を妨害しただけでなく,座込みへの参加者を募るなど,妨害行為を主導している。
イ 債務者B
債務者Bは,債務者Aの妻であり,債権者による本件各土地の通行を妨害する目的で,自ら本件各土地において座込みを行い,インターネットを通じて,本件各土地での座込みに参加する者を募るなどしている。
ウ 債務者C
債務者Cは,「守る会」の発足に伴って,その副会長に就任し,後身である「住民の会」を結成して,債務者A及び債務者Jとともに,その共同代表に就任し,債権者による本件各土地の通行を妨害する目的で,本件各土地において,自ら座込み等を行って実際に債権者の通行を妨害しただけでなく,座込みへの参加者を募るなど,妨害行為を主導している。
エ 債務者D
債務者Dは,債務者Cの妻であり,「住民の会」の主要な構成員であり,債権者による本件各土地の通行を妨害する目的で,本件各土地において座込み等を行っている。
オ 債務者E
債務者Eは,「守る会」及び「住民の会」の構成員であり,債権者による本件各土地の通行を妨害する目的で,自ら座込み等を行っている。
カ 債務者F
債務者Fは,債務者Eの妻であり,債務者Eとともに,債権者による本件各土地の通行を妨害する目的で,本件各土地において座込み等を行っている。
キ 債務者G
債務者Gは,「住民の会」の構成員であり,債権者による本件各土地の通行を妨害する目的で,本件各土地において座込み等を行っている。
ク 債務者H
債務者Hは,債権者による本件各土地の通行を妨害する目的で,「住民の会」が集団的,組織的に行っている座込み等の妨害活動に参加している。
ケ 債務者I
債務者Iは,債務者E及び債務者Fとともに,債権者による本件各土地の通行を妨害する目的で,「住民の会」らによる反対,阻止活動に参加し,本件各土地において座込み等を行っている。
コ 債務者J
債務者Jは,「住民の会」を結成して,債務者A及び債務者Cとともに,その共同代表に就任し,債権者による本件各土地の通行を妨害する目的で,本件各土地において,自ら座込みを行ってきただけでなく,座込みへの参加者を募るなど,妨害行為を主導している。
サ 債務者K
債務者Kは,「住民の会」らが債権者による本件各土地の通行を妨害する目的で集団的,組織的に行っている座込み等の妨害活動の現場に出入りし,座込みに参加したり,ほかの参加者らを支援したりするなどしている。
シ 債務者L
債務者Lは,「住民の会」の構成員であり,本件事業の反対派らによる反対,阻止行動を撮影,編集したDVDを作成するなどして,同会の主要な活動を担っており,債権者による本件各土地の通行を妨害する目的で,自らも積極的に座込み等を行っている。
ス 債務者M
債務者Mは,債務者Lの妻であり,債務者A・債務者B夫妻の経営する飲食店において住み込みで稼働していた関係で,債務者A,債務者Bらとともに,債権者による本件各土地の通行を妨害する目的で,本件各土地において座込み等を行っている。
セ 債務者N
債務者Nは,本件事業に対する反対行動を行うことを目的とする「なはブロッコリー」を結成して,その代表となり,「守る会」及び「住民の会」らと相互に連携しつつ,債権者による本件各土地の通行を妨害することを目的として,集団的,組織的に座込みを行い,「なはブロッコリー」の代表として,インターネットやチラシを利用するなどして,座込みへの参加を呼びかけ,妨害行為を主導している。
(2) 自動車を利用した妨害行為
債務者A,債務者D,債務者Eらは,債権者による通行を妨害する目的で,自ら所有する自動車を本件各土地上に駐車した。債務者Cは,父の甲の自動車を進入口②に駐車して,債務者Gは,夫の乙所有の自動車を進入口①-1に駐車して,債権者がこれらの土地を通行するのを妨害した。
また,丙は,「なはブロッコリー」の構成員であって,本件事業に対する反対,阻止活動を行っており,その所有する自動車が進入口②に駐車されていたが,この自動車は,債務者らの管理下にあった。丁は,「住民の会」とともに本件事業に対する反対,阻止活動を行っており,その所有する自動車が債権者による通行を妨害する目的で進入口②に駐車されていたが,妨害活動が「住民の会」によって組織的に行われていることからして,この自動車は,債務者らの管理下にあった。
〔債務者らの主張〕
債務者らにおいて,債権者の主張するような通行の妨害行為はしておらず,そもそも,本件事業に関する債務者らの行為は,憲法に定められた表現の自由の行使である。また,自動車を用いた通行の妨害活動もない。
(1) 座込みと参加呼びかけによる妨害行動について
ア 債務者A
債務者Aが「守る会」の会長及び「住民の会」の共同代表に就任したこと,本件事業に対する反対活動の一環として,本件各土地において自ら座込みに参加し,座込みへの参加者を募るなどしたことは認める。
しかし,この座込みは,本件事業に対する監視と沖縄防衛局の職員に対して説明ないし話合いを求める活動であり,その中で本件各土地に座ることもあるが,それは債権者による通行を妨害するものではない。
また,債務者Aは,新聞等のインタビューに答えたり,ブログを通じて高江の様子を伝え,座込みに参加してくれる者を募ったりしているが,これは,一市民として,高江の状況をさまざまな人に伝え,ヘリパッド建設反対運動を広げるために行う情報発信の一形態であるから,正当な表現行為である。
イ 債務者B
債務者Bが債務者Aの妻であること,「高江発ヤンバルの自然を守りたい!」と題するホームページを開設したことは認める。しかし,債務者Bが本件各土地において通行を妨害する活動を行ったことはない。債務者Bが開設した上記ホームページは,高江の現状を伝え,ヘリパッド建設反対を呼びかける正当な表現活動であるし,このような呼びかけ自体が本件各土地の通行の妨害行為にあたることはない。
ウ 債務者C
債務者Cが「守る会」の副会長,「住民の会」の共同代表に就任したことは認める。
しかし,債務者Cが本件各土地において行った活動は,那覇防衛局の職員に対して説明を求めたり,自らの立場を説明して説得したりするものであって,通行を妨害する活動は行っていないし,それを主導したこともない。
エ 債務者D
債務者Dは,債務者Cと同様,ヘリパッドの建設現場に来た沖縄防衛局職員に対し,説明を求めたり,自らの立場を説明して説得したりしたことはある。
しかし,本件各土地において,通行を妨害する活動を行ったことはない。
オ 債務者E
債務者Eは,本件事業に反対する立場から,本件各土地において監視活動を行っている。
しかし,本件各土地において,通行を妨害する活動を行ったことはない。
カ 債務者F
債務者Fが債務者Eの妻であることは認める。
しかし,債務者Fが本件各土地において通行を妨害する活動を行ったことはなく,監視活動にすら参加したことはない。
キ 債務者G
債務者Gが「住民の会」に参加していること,本件事業に反対する立場から本件各土地の監視活動を行ったことは認める。
しかし,本件各土地において,通行を妨害する活動を行ったことはない。
ク 債務者H
債務者Hは,本件各土地において,沖縄防衛局関係者らに対し,本件事業による高江住民及び自然環境に対する悪影響を繰り返し説き,ヘリパッド建設をやめるよう説得,抗議したことはある。
しかし,本件各土地において,通行を妨害する活動を行ったことはない。
ケ 債務者I
債務者Iは,本件各土地に置かれているテントにおいて,監視活動をしたことはある。
しかし,本件各土地において,通行を妨害する活動を行ったことはない。債務者Iは,東京都にある喫茶店において,自然や人々の生活を紹介する目的で高江の写真を展示する個展を開催したが,これは妨害活動とは全く無関係の行動であり,また,平成20年2月に神奈川県に戻ってから,一度も沖縄県を訪れていない。
コ 債務者J
債務者Jが債務者A,債務者Cとともに「住民の会」を結成し,その共同代表に就任していること,本件事業に反対し,本件各土地における座込みへ参加する者を募ったことは認める。
しかし,債務者Jの行った反対活動は,いずれも説得,監視活動に止まり,通行を妨害する活動ではない。
サ 債務者K
債務者Kは,本件各土地にあるテントにおいて監視活動を行っていた者らに対し,パイナップルの差し入れをしたことはある。
しかし,本件各土地において,通行を妨害する活動を行ったことはない。
シ 債務者L
債務者Lは,本件各土地において監視活動を行い,これらの土地を含め高江の状況を撮影したことはある。
しかし,本件各土地において,通行を妨害する活動を行ったことはない。
ス 債務者M
債務者Mが債務者Lの妻であること,債務者A・債務者B夫妻の経営するカフェで働いていたことがあることは認める。
しかし,債務者Mが本件各土地において通行を妨害する活動を行ったことはなく,現場の状況を見守っていたものである。
セ 債務者N
債務者Nが「なはブロッコリー」を結成し,その代表となったこと,本件各土地において,沖縄防衛局の職員等に対し,本件事業についての説明を求める活動を行ったこと,本件各土地における座込みへ参加する者を募ったことは認める。
しかし,債務者Nが本件各土地において通行を妨害する活動を行ったことや妨害活動を組織的に主導したことはない。
(2) 表現の自由と差止め
債務者らの行為は,本件各土地において,本件事業の遂行を監視し,沖縄防衛局職員らに対し,説明を求め,工事の中止を説得するというものであり,それは同時に高江住民の生命,身体の安全,精神の安寧及び周辺の生態系等に悪影響を及ぼす本件事業に反対することによって平和的生存権の実現を図るべく,自らの立場,主張を表明する行為であるから,憲法上の権利である表現の自由の行使である。
したがって,これらの行為が差止命令の対象とされること及び差止めを肯定する根拠とされることは,広く国民の表現行為に萎縮的な効果が生じ,憲法の要請に著しく反するものである。
(3) 自動車を利用した妨害行為について
債務者らが自ら所有する自動車を本件各土地の通行を妨害する形態で駐車したことはない。また,債権者の主張するその余の自動車についても,債権者の通行を妨害するため,債務者らが管理して駐車させたことはない。
3 争点(3)〔妨害排除請求権と本件各テントによる妨害〕
〔債権者の主張〕
本件各テントは,反対派が活動を開始した時期から随時交換されるなどして設置されており,この活動を主導しているのは,「住民の会」及び「なはブロッコリー」である。また,本件各土地に設置されたテントが座込み活動の受付場所や活動資金獲得のための物品販売所とされ,破損等が生じた場合に,「住民の会」が随時交換していることからも,これらが「住民の会」によって,管理,使用されていることは明らかである。
本件各テントについて,進入路③にあるテント2張りは,債権者の通行を妨害する形態で設置されており,進入口①-1と進入口②の各テントも,「住民の会」が集団的,組織的に行っている座込み等の妨害活動を指揮,管理するために設置されている。このように,本件各テントは,いずれも,債務者ら自身が実際に使用して,その共同管理下にあるから,債務者らにおいて,本件各テントとその内の動産一切の撤去義務を負う。
〔債務者らの主張〕
本件各テントが本件事業に反対する不特定多数の人々により使用され,債務者らがその使用者の中に含まれることは認める。しかし,本件各テントは,いずれも,不特定多数の者が監視,説得活動を行うために設置されたものであり,債務者らの共同管理下にあるものではない。
4 争点(4)〔保全の必要性〕
〔債権者の主張〕
債権者において,本件事業を完成できなければ,米国から北部訓練場の過半の返還を受けることができず,沖縄県民の負担軽減及び在日米軍施設・区域の整理,縮小を早期に実現することが不可能となるのみならず,日米両政府の合意事項がほごにされることとなり,日米安全保障体制の維持及び在日米軍再編など,今後の日本国における外交政策,防衛政策等として,著しい損害を被ることが明らかである。
本件各土地においては,債務者らによる通行妨害行為により,本件事業に係る工事関係者や工事車両の出入りが不可能な状態にあり,工事開始予定日から1年4か月以上を経過しても本件事業に着手できない状況にある。
〔債務者らの主張〕
債権者が主張する日米両政府間の合意事項とは,あくまでも政治的な合意であり,その不履行によって生じ得るのは政治的な悪影響に過ぎない。また,普天間飛行場の移設など,実際に合意が不履行になっている事態も多く生じているが,債権者は,これらの不履行については,著しい損害を主張していない。米軍基地等の返還に関する多くの不履行事項の中で,本件事業のみ緊急性が認められるはずもないから,債権者が主張する損害は,国民の私生活上の権利に関する損害にあたらないし,具体的な損害発生の疎明もされていない。債権者が損害として主張する政治的悪影響は,司法上の手段ではなく,政治的努力によって解決されるべきものである。
また,本件事業を遂行するために,本件各土地の通行が不可欠ではない。すなわち,本件事業の着陸帯予定地に至るには,本件各土地以外にも道路が存在し,それらを拡幅ないし改修すれば,債権者はそこを通行して工事に着手することが可能であるし,空輸される工兵隊によっても工事の遂行は可能である。
5 争点(5)〔本件申立てと訴権の濫用〕
〔債務者らの主張〕
本件事業の遂行の是非は,極めて政治的な問題であり,これに反対する住民らとの間で発生した紛争は,民主的な過程で解決されるべきであって,司法による救済の対象たり得ないものである。このような紛争でありながら,債権者において,被保全権利や保全の必要性の主張,疎明がいずれも不十分なまま,あえて民事保全手続という手段を選択し,しかも,多くの反対派の中から,債務者らのみを家族ぐるみで対象として選択しているのは,本件事業に反対する表現活動に対する威嚇,恫喝を目的としているものとしか考えられず,裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く違法な行為であり,訴権の濫用にあたる。
〔債権者の主張〕
債権者による被保全権利及び保全の必要性の主張,疎明はいずれも十分なものであり,債務者らの行為は正当な表現活動を超えた違法な所有権侵害であるから,本件申立てが訴権の濫用にあたる理由はない。
6 争点(6)〔本件申立てと信義則(クリーンハンドの原則)〕
〔債務者らの主張〕
本件事業によるヘリコプター着陸帯の建設は,沖縄県環境影響評価条例(以下「アセス条例」という。)2条2項1号,同別表(第2条関係),沖縄県環境影響評価条例施行規則3条,同別表第1(第3条関係)に基づき,アセス条例の「対象事業」として,環境影響評価を行うことが必要な事業である。しかし,沖縄防衛局は,本件事業がアセス条例の対象事業に該当しないという独自の見解のもとに,建設を強行しようとしている。一方で,沖縄防衛局は,本件事業について,事業者の自主的な判断により,アセス条例に準じた環境影響評価(以下「自主アセス」という。)を行ったとしているが,この自主アセスには,重大な欠陥があり,明らかにすべき事業計画に脱漏があるなど,極めて不十分なものであった。このように,沖縄防衛局は,本来されるべきアセス条例に従った環境影響評価をせず,極めて不十分な自主アセスを脱法的に行ったのみで本件事業を強行しており,その法令無視の態度は顕著である。
したがって,このような債権者において,債務者らのアセス条例違反に対する抗議や説明を求める諸活動を妨害行為と称して法的な救済を求めるのは,正義に反し,信義則の一類型であるクリーンハンドの原則に反するものであるから,本件申立ては,却下されるべきである。
〔債権者の主張〕
債務者らの行為は,その態様からして,アセス条例違反に対する抗議や説明に止まるものではなく,債権者の本件各土地の所有権を侵害する通行妨害行為である。本件事業がアセス条例の対象事業であるか否かを判断する権限を有するのは県であり,沖縄県は,対象事業にあたらないと判断している。それにも関わらず,債権者は,自然環境の保護,保全を目的として自主アセスを行っているのであり,債務者らの主張するような信義則が問題となる余地はない。
第4当裁判所の判断
1 争点(1)〔物権的請求権の行使と制約〕について
(1) 本件各土地の所有関係と管理,利用関係については,前記第2の1(1)及び(2)のとおりであり,債権者において,本件各土地(進入口①-1,進入口①-2,進入口②,進入路③)を所有し,進入口①及び進入口②をいずれも沖縄県に県道70号線敷として賃貸し,進入口②をさらに米軍の北部訓練場の用に供し,進入路③を電源開発に進入路として賃貸し,かつ,米軍の北部訓練場の用に供している。
(2) 債務者らは,本件各土地について,債権者が第三者に賃貸ないし第三者と共同使用していること,あるいは,進入口①及び進入口②について,道路管理権が設定されていることを根拠として,債権者が本件各土地につき物権的請求権(妨害排除請求権及び妨害予防請求権)を行使できないと主張する。
しかしながら,土地の所有者がその土地を第三者に賃貸した場合,所有者として,賃借人との関係においては,賃貸人としての債務を履行するために土地の用益が制限されることがあり得るものの,賃借人以外の者との関係において,直ちに土地の所有権の内容である用益的権能が失われることはない。特に,本件各土地のようにその土地が道路敷や通路である場合には,賃貸借の設定後も,所有者と賃借人のみならず,通常の通行利用者も含めて,共同で利用されることがその賃貸借関係の実態といえる(その意味では,所有者として,排他的な使用権限があるわけではない。)。そして,道路敷や通路としての本来の利用形態に従わない態様でこれを無権原で占有する者に対しては,自己の通行利用を妨げられた所有者として,土地の所有権に基づく物権的請求権の行使が妨げられるいわれはない。このことは,進入口①及び進入口②について,沖縄県に道路管理権が設定されているとしても異なるところではない。
したがって,債務者らの上記の主張は失当であり,賃貸や共同使用の事実あるいは道路管理権の設定によって,債権者が本件各土地につき物権的請求権を行使できなくなるとはいえない。
(3) また,債務者らは,進入口②及び進入路③について,米軍の用に供されており,債権者の物権的請求権の行使が妨げられると主張する。
この点,債権者の所有する土地が米軍の訓練場の用に供されている場合,土地の利用に関する私法上の権利関係については,必ずしも明らかでないものの,この場合においても,土地の所有者として,不法占拠者や利用妨害者に対する関係では,所有権に基づく物権的請求権が失われないことが原則である。仮に,地位協定の該当条項や債権者と米軍との間の具体的な取決めなどにより,所有者である債権者がすべての第三者に対する関係において,土地の利用権ないし管理権を喪失することがあり得るとしても,進入口②及び進入路③がそのような法的状態にあることの明確な根拠は示されていない。他方,審尋の全趣旨によれば,本件事業の遂行にあたり,その責任を負う債権者の立場上,どのような法的状態にあるにせよ,日米合同委員会を通じた協議などによって,一定限度で利用権等が当然に留保されるなどして,債権者による所有権に基づく権利の行使が可能であるものと窺うことができる。
したがって,債務者らの上記の主張は失当であり,米軍の用に供されている事実によって,債権者が進入口②及び進入路③につき物権的請求権を行使できなくなるとはいえない。
(4) 以上のとおりであるから,債権者として,本件各土地についての物権的請求権(妨害排除請求権及び妨害予防請求権)の行使にあたり,これが制約されることはないものと認められる。
2 争点(2)〔妨害予防請求権と債務者らによる妨害のおそれ〕について
(1) 疎明及び審尋の全趣旨を総合すれば,次の事実を認めることができる。
ア 平成18年4月26日,本件事業に反対の立場を表明する高江ヘリパッド反対対策委員会「ブロッコリーの森を守る会」(「守る会」)が発足し,会長に債務者A,副会長に債務者Bが就いた(甲21)。また,平成18年8月,本件事業に対する反対行動を行うことを目的とし,これを支援する抗議団体である「なはブロッコリー」が結成され,代表に債務者Nが就いた(甲22)。
イ 「なはブロッコリー」は,平成19年1月21日,那覇防衛施設局長(現沖縄防衛局長)に対し,本件事業の即時中止等を求める旨の申入れを行った。また,債務者A,債務者C,債務者E,「なはブロッコリー」及び東村高江区民有志は,平成19年6月12日,那覇防衛施設局長に対し,本件事業についての説明等を求める旨の申入れを行った。「なはブロッコリー」は,平成19年7月2日,那覇防衛施設局長に対し,本件事業について,前の申入れに対する回答を求める旨の申入れを行った。(争いのない事実,甲3~5)
ウ 本件事業に反対する東村住民を中心とした反対派により,本件事業の本格的工事を阻止する目的で,平成19年8月24日,「『ヘリパッドいらない』住民の会」(「住民の会」)が結成され,債務者A,債務者C及び債務者Jがこの会の共同代表に就任した。(争いのない事実,甲6の1~3)
エ 那覇防衛施設局は,平成19年7月ころ,本件事業の工事に着手した。
オ 反対派は,平成19年7月3日から平成20年7月1日までの間,債権者が本件事業の工事を実施すべく本件各土地を通行して着陸帯予定地に進入するのを阻止するために,本件各土地の状況を継続的に監視し,本件各土地内において座込みを行って自らの主張を表明するとともに,実際に本件事業を遂行するために作業員,工事用車両等が本件各土地を通行しようとした場合に,債権者による退去要請に反して本件各土地上で座込みを継続する,債権者の通行を妨害する形態で自動車を駐車する,作業員や工事用車両の前に立ちはだかる,工事用車両の下にもぐり込むなどして,実力を用いて通行を阻止する行動に出ることを繰り返した。反対派は,平成19年7月6日から平成20年2月4日までの間に,本件各土地上に順次テントを設置し,それらのテントを監視活動のために利用しており,現時点において,進入口①-1,進入口②及び進入路③には,合計4張りの本件各テント(別紙テント関係で示された各位置と各写真のとおり)が設置されている。(甲7~19,35~37,42,47~50,52,54~58,64~72,76,85,92,113,115,116,118~120,124,127~142,156,157,160,164)
カ 債務者A(乙3)は,従前から「守る会」の会長を務めており,「住民の会」結成にあたり,共同代表として,「ヘリパッド建設で山を壊し,生活を壊すことは許されない。絶対に造らせないよう立ち向かいたい。」と決意表明をするとともに,広く支援を求める趣旨の発言をした(甲24,25)。そして,反対派により本件各土地に設置されたテントを利用するなどしながら,継続的に本件各土地における監視活動や座込みを行い,平成19年8月22日,進入口②において,那覇防衛施設局職員がトラック等により通行して土砂を搬入しようとした際,自ら実力による阻止行動に参加してその通行を妨害した(甲13,14,45,57,58)。また,同じく「住民の会」の共同代表である債務者Cとともに,本件事業の遂行を阻止するために,インターネット上のブログの記載を用いて,本件各土地における座込みに参加する者を募集した(甲28,51)。
キ 債務者B(乙4)は,債務者Aの妻であり,インターネット上に,「高江発ヤンバルの自然を守りたい!」と題するホームページ(ブログ)を開設し,平成19年6月28日ころ,そのホームページ上において,本件事業の遂行を阻止するために,本件各土地において座込みに参加する者を募集する旨の記載をした。(甲23,59,60)
ク 債務者C(乙5)は,従前から「守る会」の副会長を務めており,「住民の会」の共同代表として,「危険なヘリパッド建設を認めるわけにはいかない。座込みを続けて絶対に阻止する。」旨の発言を繰り返すとともに,広く一般に座込みへの参加を呼びかけるなどした(甲67,69~71)。そして,反対派により本件各土地に設置されたテントを利用するなどしながら,継続的に本件各土地における監視活動や座込みを行い,平成19年8月22日及び同年12月25日,進入口②において,那覇防衛施設局職員又は沖縄防衛局職員がトラックにより通行して土砂を搬入しようとした際,自ら実力による阻止行動に参加してその通行を妨害した(甲13,14)。
ケ 債務者D(乙6)は,債務者Cの妻であり,平成20年7月7日,「住民の会」が沖縄県議会議長に対して本件事業の即時中止を要請した際には,共同代表の債務者Cとともに県議会議長を訪れ,要請文を読み上げるなどした(甲74,75)。そして,本件各土地において,反対派により本件各土地に設置されたテントを利用するなどしながら,継続的に監視活動及び座込みを行い,那覇防衛施設局職員又は沖縄防衛局職員らが本件各土地に訪れたり,本件各土地を通行しようとした際には,これらの者に対し,抗議をするなどの行動を繰り返した(甲7,8,10,11,16,17,76)。
コ 債務者E(乙7)は,平成19年6月12日,「守る会」の会員として,債務者A,債務者C,債務者Nらともに,那覇防衛施設局長に対し,本件事業についての説明等を求め,平成20年2月7日,債務者A,債務者Nらとともに,本件事業について,東京での防衛省に対する要請行動に参加した(争いのない事実,甲45,46)。そして,本件各土地において,反対派により本件各土地に設置されたテントを利用するなどしながら,継続的に監視活動及び座込みを行い,那覇防衛施設局職員又は沖縄防衛局職員らが本件各土地に訪れたり,本件各土地を通行しようとした際には,これらの者に対し抗議をするなどした(甲7,8,13,14,53)。
サ 債務者F(乙8)は,債務者Eの妻である。
シ 債務者G(乙9)は,「住民の会」のメンバーであり,本件事業に反対する立場から,本件各土地において,反対派によって本件各土地に設置されたテントを利用するなどして,継続的に本件事業に対する監視活動及び本件各土地における座込みを行い,那覇防衛施設局職員又は沖縄防衛局職員らが本件各土地を訪れたり,通行したりしようとした際には,これらの者に対し,説明を求め,抗議をするなどした。(甲7,8,10,11,13,14,16,17,82~84)
ス 債務者H(乙10)は,本件事業に反対する立場から,本件各土地において,反対派によって本件各土地に設置されたテントを利用するなどして,継続的に本件事業に対する監視活動及び本件各土地における座込みを行い,那覇防衛施設局職員又は沖縄防衛局職員らが本件各土地を訪れたり,通行したりしようとした際には,これらの者に対し,説明を求め,抗議をするなどした。(甲7,8,10,11,13,14,16,17,85)
セ 債務者I(乙11)は,平成19年3月から平成20年2月まで,農業の研修生として,債務者E・債務者F夫妻と同居し,本件事業に反対する立場から,反対派によって本件各土地に設置されたテントを利用するなどして,継続的に本件事業に対する監視活動及び本件各土地における座込みを行った。(甲13,14,86~90)
ソ 債務者J(乙12)は,平成19年8月24日,「住民の会」を結成し,債務者A及び債務者Cとともに,共同代表に就任した。そして,本件事業に反対する立場から,反対派によって本件各土地に設置されたテントを利用するなどして,継続的に本件事業に対する監視活動及び本件各土地における座込みを行い,那覇防衛施設局職員又は沖縄防衛局職員らが本件各土地を訪れたり,通行したりしようとした際には,これらの者に対し,説明を求め,抗議をするなどした。(甲13,14,91~94)
タ 債務者K(乙13)は,本件事業に反対する立場から,本件各土地に設置されたテントを利用して監視活動及び座込みを行っている反対派にパイナップルを差し入れるなどした。(甲55,96,98)
チ 債務者L(乙14)は,「住民の会」のメンバーであり,本件事業に反対する立場から,本件各土地において,反対派によって本件各土地に設置されたテントを利用するなどして,継続的に本件事業に対する監視活動及び本件各土地における座込みを行い,インターネット上の「ブログ高江の現状」の記載を用いて,座込みへの参加を求め,反対派による本件事業に対する反対,阻止活動を撮影,編集したDVDを作成するなどした。(甲7,8,13,14,16,17,27,44,45,50,99~108)
ツ 債務者M(乙15)は,債務者Lの妻であり,債務者A・債務者B夫妻が経営する飲食店で稼働しており,本件事業に反対する立場から,本件事業によって生じる悪影響を懸念する発言や表現を行った。(甲55,109)
テ 債務者N(乙16)は,平成18年8月,本件事業に反対し,その遂行を阻止する目的で「なはブロッコリー」を結成し,その代表に就任した(甲22)。そして,本件事業に反対する立場から,本件各土地において,反対派によって本件各土地に設置されたテントを利用するなどして,継続的に本件事業に対する監視活動及び本件各土地における座込みを行い,インターネット等を利用して,本件各土地における座込みへの参加を呼びかけるなどした(甲7,8,16,17,110,111)。
(2) 前記第2の1前提となる事実及び前記(1)の認定事実を踏まえて,以下,個別の債務者ごとに,今後の債権者による本件事業の工事を妨害するおそれの有無につき検討する。
ア 債務者A及び債務者Cについて
標記債務者2名は,本件事業に反対する立場を表明し,これを中止させる目的で結成された「住民の会」の共同代表であり,本件事業を阻止する旨の発言を公にし,本件各土地において継続的に座込みを行うとともに,広く一般に対しても本件各土地における座込みに参加するよう呼びかけるなどした。そして,実際に,沖縄防衛局など債権者側の人物又は車両が本件各土地を通行しようとした際,実力をもってその通行を妨害した。
したがって,標記債務者2名の反対派における地位,本件事業の遂行阻止に向けられた積極的な言動,債権者の通行を実力をもって妨害した事実などに照らせば,標記債務者2名において,今後の債権者による本件事業の工事を妨害する高度の蓋然性を認めることができる。
イ 債務者B,債務者D,債務者E,債務者G,債務者H,債務者I,債務者J,債務者L及び債務者Nについて
標記債務者9名は,本件各土地において座込みを行い,インターネットを利用するなどして一般に座込みへの参加を呼びかけ,本件各土地に沖縄防衛局の職員などが訪れた場合に,これらの者に対して工事の中止を説得したり,抗議をしたり,説明を求めたりすることなどのいずれかの行動に出ている。
しかし,標記債務者9名について,これまで実際に債権者の通行を実力を用いて妨害した事実を認めるに足りる的確な疎明はない。
そして,本件各土地において,上記の抗議行動等をしているとしても,これらの行動自体をもって,実力を用いた通行の妨害行為と捉えることには慎重であるべきである。すなわち,一般の通行利用も可能な本件各土地において,沖縄防衛局職員らに対する説得,抗議等をすることは,本件事業に反対する立場の者における政治的な信条に基づく行為である限り,一定限度のもとに許容され,かつ,尊重されなければならないところ,本件疎明によっても,未だそのような限度を超えていたものとは,必ずしも認められないからである。そうして,このような行動を根拠にして,今後における実力を用いた通行の妨害行為に出るような意思を予測することは困難であるというほかない。
なお,本件疎明によれば,本件事業の反対派が当番を決めて本件各土地において監視活動をしていること,沖縄防衛局の職員等が本件各土地に訪れた場合には,携帯電話等を用いて連絡を取り合い,応援を求める行動をとっていることなどを認めることができるものの,標記債務者9名において,「住民の会」を組織的,集団的に主導して,確立された指揮系統下に,ほかの反対派を用いて,計画的,組織的に通行の妨害活動に出ているような事実関係を認めるに足りる疎明はない。
したがって,標記債務者9名において,今後の債権者による本件事業の工事を妨害する蓋然性を認めることができない。
ウ 債務者F,債務者K及び債務者Mについて
標記債務者3名は,本件事業に反対する立場にある者である。
しかしながら,今後の通行妨害活動の根拠となるような具体的事実を認めるに足りる疎明はない。
したがって,標記債務者3名において,今後の債権者による本件事業の工事を妨害する蓋然性を認めることができない。
(3) なお,債権者は,債務者らが自ら所有する自動車及び管理下にある自動車を用いて,債権者による本件各土地の通行を妨害した旨主張する。
疎明(甲47,112~148)及び審尋の全趣旨によれば,本件各土地又はその付近において,反対派の自動車が駐車されていたこと,債務者A,債務者D,債務者Eの所有する自動車のほか,債務者らの親族の所有名義の自動車が駐車されていたことが認められる。
しかしながら,債権者の提出する疎明(甲115,116,118~120,124,127~142)によれば,これらの自動車の駐車を確認した際の場所,時刻,車両,台数,反対派の人数などが分かるものの,現に債権者の通行を妨害したのかは必ずしも明らかでなく,債務者らが組織的に自動車による妨害を行っていることを裏付ける的確な疎明もない。
したがって,債務者A及び債務者Cを除く債務者らにおいて,自動車を用いることにより,今後の債権者による本件事業の工事を妨害する蓋然性を認めることができない。
(4) 他方,債務者らは,本件事業の工事に対する債務者らの行動について,平和的生存権の実現を図るために自らの立場等を表明する行為であって,憲法上の表現の自由であり,これに対して差止めがされることは憲法の要請に反するなどと主張する。
仮に,債務者らの行為について,表現の自由をもって論ずることができることがあったとしても,他者の権利や法的利益との関係において,その保障が内在的な制約を受けることは憲法上予定されているところであり,本件申立てにおいて,土地所有権の侵害が肯定された結果,物権的請求権による禁止行為が命ぜられたとして,何ら憲法の要請に反するものではない。なお,このような侵害の有無の認定にあたっての基本的な考量については,前記(2)イで述べたとおりである。
したがって,債務者らの上記の主張は失当である。
(5) 以上のとおりであり,債務者らのうち,債務者A及び債務者Cについては,妨害のおそれを肯定することができるが,その余の債務者らについては,これを肯定することができないから,債務者A及び債務者Cに対しては,債権者の妨害予防請求権の行使は認められるが,その余の債務者らに対しては,その行使は認められない。
3 争点(3)〔妨害排除請求権と本件テントによる妨害〕
(1) 前記2(1)オのとおり,本件各土地上に,反対派によって,平成19年7月6日から平成20年2月4日までの間に,順次テントが設置されて,監視活動のために利用されており,現時点において,進入口①-1,進入口②及び進入路③には,合計4張りの本件各テント(別紙テント関係で示された各位置と各写真のとおり)が設置されている。
(2) 債権者は,本件各テントが債務者らの共同管理下にあり,債務者らが本件各テントとその内の動産一切の撤去義務を負うと主張する。
しかしながら,本件疎明によっても,本件各テントの所有者及び設置者は明らかでなく,債務者らの一部が本件各テントを使用したことは認められるものの,債務者らのみが借り受けるなどして独占的に本件各テントを使用していたと認めるに足りる疎明はないから,本件各テントが債務者らの共同管理下にあったということはできない。
したがって,本件各テントについて,債務者らに撤去義務を負わせることのできる事実関係は認められないから,債権者は債務者らに対し,妨害排除請求権の行使をすることができないというべきである。
(3) もっとも,4張りの本件各テントのうち,進入路③に設置されたテント2張りについては,その先の進入を妨害する位置に設置されていることが明白であり,他方で,債務者らからは,これらのテントの権利関係について,明らかにすることがされておらず,また,前記2のとおり,「住民の会」の共同代表の債務者A及び債務者Cについては,いずれも,今後の妨害のおそれを肯定することができるところである。
したがって,権利関係が不明というほかないこれらのテントに関しては,債務者A及び債務者Cにおいて,債権者自身による近傍への移動を拒むのであれば(あるいは,テントの権利関係を積極的に主張して実際に拒む者があれば,その特定された者において),その受忍を求める申立ては可能であると考えられる。
4 争点(4)〔保全の必要性〕
(1) 債権者は,本件事業の遂行のためには,本件各土地を通行することが不可欠であり,この通行の妨害によって,北部訓練場の過半の返還の遅れや米国との外交関係に問題を生ずるなど著しい損害を被ることが明らかである旨主張する。これに対し,債務者らは,本件各土地を通行できないことによって債権者に生じ得るのは政治的悪影響であって,著しい損害にあたるものではなく,あくまでも政治的努力によって解決されるべきである旨主張する。
確かに,本件事業の遂行に関しても,政治的な動向によって影響を受ける一面のあることは否めないところであり,実際に,SACO最終報告で承認済みの事項についても,今や日本政府によるその履行が政治問題化していることは紛れもない事実である。そして,本件事業の工事について,今なお打開を図る余地があり得るというのであれば,その糸口の模索がされるべきであることはいうまでもない。
しかしながら,本件申立てにおいては,本件事業の工事にあたり,債権者による物権的請求権の行使が認められる限度において,本来の保全の必要性を議論すべきものであるから,本件事業自体の当否を含めて,政治的な要因やそれによる影響を問題とするのであれば,債権者及び債務者らの上記の各主張はいずれも失当である。
そして,債権者において,所有する土地を通行できる利益そのものの実現が妨害されるときは,それ自体が本件各土地の所有権に対する侵害ないしその危険性の現れといえるから,これによって著しい損害が生じることは明らかである。
(2) また,債務者らは,本件事業の対象となる着陸帯予定地に至るには,本件各土地以外からも道路があることなどから,債権者において本件各土地を通行する必要性に乏しく,著しい損害が生じない旨を主張する。
この点,疎明(甲20,184)及び審尋の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア 「N-4地区」の着陸帯予定地2箇所へは,進入口①のほかに,米軍キャンプ・ゴンザルベス基地内の道路が通じている。しかし,この基地内道路においては,スイッチバック斜路となるヘアピン状の屈曲部分や幅員の狭い部分が存在し,工事用車両の通行が困難である。
イ 「N-1地区」の着陸帯予定地2箇所へは,進入口②のほかに,高江集落から高江1号農道を経由するルート及び新川ダムから高江1号農道を経由するルートが存在する。しかし,前者のルートを工事用車両が通行することについて,沖縄防衛局は,騒音等の集落への影響が大きく望ましくないと判断し,後者のルートを工事用車両が通行することについては,高江区長から当時の那覇防衛施設局に対して,農業用車両の通行のため,進入を控えてもらいたい旨の要請がされた。
ウ 「H地区」の着陸帯予定地1箇所及び「G地区」の着陸帯予定地1箇所に至る通路は,進入路③のほかには存在しない。
したがって,本件各土地については,着陸帯予定地に至るほかのルートとの対比などにおいても,本件事業の工事のため,債権者による通行の具体的な必要性が認められるから,債務者らの上記の主張は失当である。
(3) 以上のとおりであり,本件申立てについて,債権者による保全の必要性が認められる。
5 争点(5)〔本件申立てと訴権の濫用〕について
債務者らは,本件申立てについて,本件事業に反対する表現活動に対する威嚇,恫喝を目的とする不当なものであり,訴権の濫用として許されない旨を主張する。
しかしながら,前記2のとおり,一部の債務者らによって,現実に債権者による本件各土地の通行が妨害されたことは事実であるから,その余の債務者らについて,債権者の疎明が不十分であったとしても,これをもって,本件申立ての目的が債務者らの表現活動に対する威嚇,恫喝であるとは認められない。
したがって,債務者らの上記の主張は失当である。
6 争点(6)〔本件申立てと信義則(クリーンハンドの原則)〕について
債務者らは,債権者において,本件事業がアセス条例の対象事業に該当するにもかかわらず,ずさんな自主アセスのみにより,本件事業を強行しており,信義則(クリーンハンドの原則)によって,債権者による本件申立ては許されない旨を主張する。
しかしながら,疎明(甲176の1~甲177)及び審尋の全趣旨によれば,本件事業について,アセス条例の対象事業であるか否かを判断するのは沖縄県であり,沖縄県において,本件事業につきアセス条例の対象事業にあたらないと判断していることが認められる。
したがって,債務者らの上記の主張は失当である。
7 まとめ
以上の検討のとおり,本件申立ては,債務者A及び債務者Cに対して妨害行為の禁止を求める限度で理由があり,その余の申立てについては,いずれも理由がない(なお,債務者A及び債務者Cに対する妨害行為の禁止の不作為命令においては,自ら妨害する態様と第三者をして妨害する態様とが想定されるところ,後者の態様の第三者としては,本件の事案に鑑み,債務者A又は債務者Cの各自と意を通じた第三者であることを明示することとする。)。
第5結論
よって,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 平田直人 裁判官 田邉実 裁判官 早山眞一郎)
file_2.jpg別紙