那覇地方裁判所 平成20年(ワ)895号 判決 2009年1月22日
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第1当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
(1) 被告は、原告に対し、3590万円及びこれに対する平成20年7月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
(3) 仮執行宣言
2 請求の趣旨に対する答弁
(1) 原告の請求をいずれも棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
第2当事者の主張
1 請求原因
(1) 被告は、貸金業等を業とする株式会社である。
(2) A(以下「A」という。)は、被告の従業員であった。
(3) Aは、被告の従業員であったとき、原告に対し、真実は受領した金員を自らの被告に対する横領の穴埋めに用いる意思であったにもかかわらず、被告に金を預ければ被告の得意先に貸し付け利益を上げて返還すると申し向けて、原告から、以下のとおり合計3100万円を受領した。
平成16年 3月31日 500万円
平成17年 1月26日 300万円
平成17年 5月30日 500万円
平成17年 12月24日 500万円
平成18年 1月10日 400万円
平成18年 1月11日 500万円
平成18年 2月6日 300万円
平成18年 3月10日 100万円
合計 3100万円
(4) Aは、被告の従業員であったとき、B(以下「B」という。)に対し、前記(3)と同様に申し向け、同人から、平成18年5月9日までに少なくとも190万円を受領した。
(5) Aは、原告が発起人である模合(掛金1口30万円)において、真実は受領した金員を自らの被告に対する横領の穴埋めに用いる意思であったにもかかわらず、被告の業務として模合に加入し、平成18年2月25日に300万円を落札したが、その後、同年12月25日までに支払うべき掛金合計300万円を支払わなかった。
(6) Aの前記(3)ないし(5)の行為は、客観的、外形的に見て被告の被用者であるAの職務の範囲内に属する行為である。
(7) Aの行為により、原告は、前記3の支払額3100万円及び前記4の未払掛金300万円に相当する損害を、Bは、前記5の支払額190万円の損害を、それぞれ受けた。
(8) 原告は、平成18年5月9日、被告に代わりBに対し、同人の承諾を得て190万円を弁済し、同人に代位した。
(9) よって、原告は、被告に対し、使用者責任に基づき、原告の損害3400万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成20年7月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、Bから弁済による代位により取得した同人の被告に対する使用者責任に基づく損害賠償請求権190万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成20年7月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
2 請求原因に対する認否
(1) 請求原因(1)及び(2)は認める。
(2) 請求原因(3)ないし(8)は不知ないし否認する。
3 抗弁
(1) 抗弁1…弁済
Aは、原告に対し、不法行為に基づく損害賠償債務の弁済として40万円を支払った。
(2) 抗弁2…原告の悪意
原告は、Aの行為がAの職務の範囲内に属する行為ではないことを知っていた。
(3) 抗弁3…選任監督についての相当の注意
Aは、原告との取引の過程で被告が定めるプロセスを経ておらず、被告において行動を監督することが不可能であった。
4 抗弁に対する認否
抗弁1は、原告が20万円の弁済を受けた限度で認め、その余は否認する。
理由
1 請求原因(1)及び(2)は当事者間に争いがない。
2 請求原因(3)及び(6)について
(1) まず、証拠(甲1ないし8)によれば、Aが、被告の従業員であった期間中に、請求原因(3)記載の合計3100万円を原告から受領した事実が認められる(なお、証拠(原告本人、証人A、乙1)によれば、金員を受領した日については書証の記載と異なる可能性が高いが、いずれにせよ、Aが被告の従業員であった期間中に3100万円を受領したことに変わりはない。)。
また、証拠(甲11)によれば、Aは、原告から受領した金員を自己の被告に対する負債の穴埋めに充てたことも認められる。
(2) 次いで、Aが、客観的、外形的に見て被告の被用者の職務の範囲内に属する行為を行ったか、すなわち、Aが、(A個人ではなく)被告に対して金を預けるように申し向けたか否かについて検討する。
ア 原告は、陳述書(甲12)において、Aから今使う予定のない金を被告に回してほしいと申し向けられて金員を渡した旨、当事者尋問において、被告と関係ないのであればA個人に金を出すことはない旨、それぞれ供述し、また、金員の受領に係る預り証8通のうち7通(甲1ないし7)には、「(株)手形情報センター」(被告の当時の商号)、「代表取締役 C」という記載も存在する。
イ しかしながら、被告の商号が記載された預り証をみると、いずれにも被告の電話番号の記載や社判の押捺がなく、かえって、Aが自らの住所を記載して(甲1、4(電話番号あり)、5、6)、署名押印しており(甲1ないし7全て、ただし甲7のみ押印がない)、中にはAの母親の氏名と連絡先が記載されたもの(甲4)も存在するところ、A個人ではなく会社である被告との間での取引であれば、従業員個人の住所や連絡先を記載したり、まして、家族の連絡先を記載するとは考えにくい。しかも、預り証のうち1枚(甲8)には、被告の社名の記載すらない。
ウ また、預けた金員が返還されなかった際、まず、原告はAのもとに返還を求めに行き、そこで断られた後に、日を置いて被告に対して返還を求めているところ(原告本人・13頁)、Aの行為が被告の業務としてなされたという認識であれば、第一に被告に返還を求めるか、少なくとも、Aが返還を拒絶した後速やかに被告に返還を求めるのが通常であるし、しかも、被告に対して請求した理由として原告が当事者尋問で述べるところは、原告から受領した金員をAが被告に対する(負債の)穴埋めに使用したのであるから、被告が支払うべきであるという趣旨のものと理解され(原告本人・13頁、15頁)、Aの行為が被告の業務としてなされたことを理由として被告に対して請求したものとは理解し難い。
原告は、Aに預けた金員に関して原告に対して金員の融通をした第三者に対して、被告ではなくAのもとに請求に行くよう教示している(原告本人、17頁以降)が、この点も、原告が、Aの行為を被告の従業員としての行為であると考えていたかについて疑問を抱かせる事情として挙げられる。
エ そうすると、原告の陳述書及び当事者尋問の結果その他原告提出の証拠によっては、AがA個人ではなく被告に対して金を預けるように申し向けたとの原告の主張を認めるには足りず、その他、原告の主張を認めるに足りる証拠はない。
他方、これまでに判示したところによれば、Aは、原告に対し、A個人に対して金銭を預けるように申し向け、原告はこれに応じて原告に対して金員を預けたものと認めるのが相当である。
(3) よって、このようなAの行為は、被告とは無関係になされたAが個人の名前で行った個人の行為であり(原告もこれを認識していた。)、客観的、外形的に見て被告の被用者の職務の範囲内に属する行為とは認められない。
3 請求原因(4)及び(6)について
証拠(証人A)によれば、Aは、被告の従業員であったとき、原告に対するのと同様の方法で、Bから少なくとも190万円を受領したことが認められるが、前記2で判示したとおり、原告に対するAの行為は客観的、外形的に見て被告の被用者の職務の範囲内に属する行為とは認められず、Bからの金員の受領についても、これと異なる事情の存在は窺われない。
4 請求原因(5)及び(6)について
(1) 証拠(甲9、証人A)によれば、Aは、被告の従業員であったとき、原告が発起人である模合(掛金1口30万円、毎月25日開催、12回)に加入し、2回目に落札したが(落札額は360万円、このときまでに掛金は60万円支払済み)、その後、同年12月25日までに支払うべき10回分の掛金合計300万円を支払わなかったことが認められる。
(2) しかしながら、Aが模合に加入したことが被告の被用者の職務の範囲内に属する行為にあたるような何らかの外観の存在を認めるに足りる証拠はない(模合帳(甲9)にも被告名の記載はない。)。
確かに、1口30万円という掛金はAのような給与所得者が支払うには大きな金額であるが、それだけで、模合の加入が被告の被用者の職務の範囲内に属する行為としてなされたものであるかのような外観が生じるものではない。
第3結論
以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 加藤靖)