那覇地方裁判所 平成21年(行ウ)4号 判決 2010年9月29日
原告
琉球港運株式会社
同代表者代表取締役
甲野太郎
原告
外9名
原告琉球港運株式会社を除く原告ら訴訟代理人弁護士
阿波連光
原告ら訴訟代理人弁護士
植松孝則
畑知成
被告
那覇港管理組合
同代表者管理者
仲井眞弘多
被告訴訟代理人弁護士
大城浩
上原義信
主文
1 原告琉球港運株式会社と被告との間で,被告が原告琉球港運株式会社に対してした別紙港湾施設使用料賦課処分一覧表記載1の港湾施設使用料賦課処分がいずれも無効であることを確認する。
2 原告琉球海運株式会社と被告との間で,被告が原告琉球海運株式会社に対してした別紙港湾施設使用料賦課処分一覧表記載2の港湾施設使用料賦課処分がいずれも無効であることを確認する。
3 原告産業港運株式会社と被告との間で,被告が原告産業港運株式会社に対してした別紙港湾施設使用料賦課処分一覧表記載3の港湾施設使用料賦課処分がいずれも無効であることを確認する。
4 原告株式会社オゥ・ティ・ケイと被告との間で,被告が原告株式会社オゥ・ティ・ケイに対してした別紙港湾施設使用料賦課処分一覧表記載4の港湾施設使用料賦課処分がいずれも無効であることを確認する。
5 原告株式会社第一港運と被告との間で,被告が原告株式会社第一港運に対してした別紙港湾施設使用料賦課処分一覧表記載5の港湾施設使用料賦課処分がいずれも無効であることを確認する。
6 原告丸三海運株式会社と被告との間で,被告が原告丸三海運株式会社に対してした別紙港湾施設使用料賦課処分一覧表6の港湾施設使用料賦課処分がいずれも無効であることを確認する。
7 原告沖縄港運株式会社と被告との間で,被告が原告沖縄港運株式会社に対してした別紙港湾施設使用料賦課処分一覧表記載7の港湾施設使用料賦課処分がいずれも無効であることを確認する。
8 原告南日本汽船株式会社と被告との間で,被告が原告南日本汽船株式会社に対してした別紙港湾施設使用料賦課処分一覧表記載8の港湾施設使用料賦課処分がいずれも無効であることを確認する。
9 原告鹿児島荷役海陸運輸株式会社と被告との間で,被告が原告鹿児島荷役海陸運輸株式会社に対してした別紙港湾施設使用料賦課処分一覧表記載9の港湾施設使用料賦課処分がいずれも無効であることを確認する。
10 原告マルエー物流株式会社と被告との間で,被告が原告マルエー物流株式会社に対してした別紙港湾施設使用料賦課処分一覧表記載10の港湾施設使用料賦課処分がいずれも無効であることを確認する。
11 訴訟費用は被告の負担とする。
事実および理由
第1 請求の趣旨
主文同旨
第2 事案の概要
本件は,海上運送事業ないし港湾運送事業等を営む会社であって被告が管理する那覇港港湾施設(以下「本件港湾施設」という。)を営業のために利用している原告らが,被告から受けたふ頭通過料並びにこれに係る督促手数料及び延滞金等(併せて以下「本件ふ頭通過料」という。)に係る各港湾施設使用料賦課処分
(以下「本件各処分」という。)には租税法律主義の趣旨に反する重大な違法があると主張して,被告に対し,本件各処分の無効確認をそれぞれ求める事案である。
1 本件に関係する那覇港管理組合港湾施設管理条例(平成14年4月1日条例第7号。ただし,平成18年8月25日条例第4号による改正前のものをいい,以下「本件条例」という。甲1,乙36)及び同施行規則(平成14年4月1日規則第14号。ただし,平成20年8月29日規則第2号による改正前のものをいい,以下「本件施行規則」という。甲2,乙34)の定め
(1)本件条例3条1項
港湾施設を使用しようとするものは,管理者の許可を受けなければならない。ただし,航路その他管理者が定める港湾施設については,この限りでない。
(2)本件条例17条1項
港湾施設を使用する者は,別表第2又は別表第3により算定した額に100分の105を乗じて得た額の使用料を納付しなければならない。この場合において,その額に1円未満の端数を生じたときは,これを切り捨てるものとする。
なお,別表2には,ふ頭通過料金として,① 県外から輸移入される貨物については,1トン又は1立方メートルまでごとにつき40円,② 県外へ輸移出される貨物及び県内貨物については,1トン又は1立方メートルまでごとにつき27円(ただし,500キログラム未満又は2分の1立方メートル未満は16円),③①,②中車両等の換算については別に定める,④ 家畜類については,牛馬各1頭につき27円,豚1頭につき11円,やぎ1頭につき6円とそれぞれ定められている。
2 前提事実等(各掲記の証拠(すべての枝番を含む場合は,枝番の表記を省略する。)等によるほかは,当事者間に争いがない。)
(1)当事者について
ア 原告らは,いずれも海上運送事業ないし港湾運送事業等を営む株式会社であり,被告が管理する本件港湾施設を営業のために利用する者である。
イ 被告は,沖縄県,那覇市及び浦添市により港湾管理者として,平成14年4月1日に設立された特別地方公共団体(一部事務組合)であり(港湾法33条1項,地方自治法284条2項),那覇市から行政財産である本件港湾施設の管理を移管された者である。
(2)本件各処分について
被告は,別紙港湾施設使用料賦課処分一覧表の原告欄記載の原告らに対し,それぞれ対応する年月日欄記載の年月日に,発生月欄記載の発生月に係る港湾施設使用料等欄記載の使用料等を賦課する旨の納入通知書を発行して,本件各処分を行った。
(3)なお,ふ頭通過料は,平成21年4月1日発生分以降は廃止されている。(甲7)
3 当事者の主張
(1)原告らの主張
同一法令において,同一用語を用いる場合,その用語は同一の意味内容を有しなければならず,仮に同一法令内において,同一用語が異なる意味で用いられるとすれば,当該法令の文理解釈は不可能となる。このような状態が租税法律主義(憲法84条)の趣旨が及ぶ規定に存するのであれば,当該規定は納税義務者に予測可能性を与えるものではなく違法無効となるというべきである。
これを本件について見るに,本件条例17条が定める使用料は,一方的に徴収され,滞納者に対して,督促手数料及び延滞金を付した上で地方税の滞納処分の例により強制徴収することが可能な点で租税と性質を共通にするものであるから,本件条例には租税法律主義の趣旨が同じく妥当するというべきである。そして,本件条例3条は,「港湾施設を使用しようとするもの」は管理者の許可を受けなければならないと定めており,そうすると,同許可を受けたもののみが,本件条例17条が定める使用料の納付義務を負うものとされなければならない。そうであるにもかかわらず,本件各処分を受けた原告らは,本件条例3条が定める許可を受けていない。また,被告も本件条例17条の「港湾施設を使用する者」と本件条例3条の「港湾施設を使用しようとするもの」が異なった意味内容で用いられていることを自認している。
以上によれば,本件条例は,上記の点において,文理解釈が不可能であって,租税法律主義の趣旨に反する重大な違法があるから,本件各処分は,無効である。
(2)被告の主張
本件条例3条が規定する管理者の許可を受けた港湾施設の使用者のみが,本件条例17条1項が規定する港湾施設を使用する者であるとして使用料の納付義務を負うわけではない。
すなわち,本件条例17条が規定する使用料は,本件条例別表2の一般使用に係る使用料と本件条例別表3の専用使用に係る使用料とに分類されるところ,一般使用とは,一時的に港湾施設を使用する場合であるから,本件条例3条が規定する許可を不要とする場合があり,例えば,本件条例別表2に規定された駐車場料金やシャワー料金は,港湾施設の使用料でありながら,その使用は許可の対象とされていない。本件ふ頭通過料も,船社や港運事業者等が接岸した船への積み込みあるいは船からの陸揚げとして一時的に港湾施設を使用する場合の使用料であり,使用する時点においてしか算定できないことから,駐車場やシャワーの使用と同様,その使用は許可の対象とされていない。これに対して,本件条例別表3の専用使用については,一定の面積を一定期間使用する場合であるから,その使用が許可の対象とされている。
第3 当裁判所の判断
1 本件条例3条1項(前記第2の1(1))は,「港湾施設を使用しようとするものは,管理者の許可を受けなければならない。ただし,航路その他管理者が定める港湾施設については,この限りでない。」と規定し,本件条例17条1項(前記第2の1(2))は,「港湾施設を使用する者は,(中略)使用料を納付しなければならない。」と規定している。
一般に,同一の法令の中で同一の表現がされている場合には,その意味内容は同一のものであると理解すべきであるところ,本件条例3条1項の「港湾施設を使用しようとするもの」と17条1項の「港湾施設を使用する者」は,字句まで同一ではないものの,前者は,管理者の許可を受ける前の状態であるために「使用『しようと』する」という表現になっているものと解することができ,後者と異なる者を対象としているものとは解されないし,「もの」と「者」という表現の差異が何らかの意味を有するとも解されない。そうすると,本件条例3条1項の「港湾施設を使用しようとするもの」が同項によって管理者の許可を受けることにより,17条1項の「港湾施設を使用する者」となるものと解するのが自然であり,同「港湾施設を使用する者」は,管理者の許可を受けた者と解するのが相当である。したがって,航路その他管理者が許可を不要と定める港湾施設以外の港湾施設については,管理者から許可を受けて使用する者が使用料を納付する義務を負っているものと理解できる。
この点,本件ふ頭通過料については,航路その他管理者が許可を不要と定めた港湾施設の使用に係る使用料であるとの主張立証はないから(港湾施設の一般使用に係る使用料であることなどを理由として,管理者の許可を不要とする旨の被告の主張については後述する。),本件条例17条1項に定める港湾施設の使用料に該当するものということができる。そして,原告らが管理者から許可を受けていないことについては当事者間に争いがないから,本件条例17条1項は,本件各処分の法令上の根拠とはなり得ず,本件各処分が,他の法令上の根拠に基づくものであることの主張立証もない。
したがって,本件各処分は,何ら法令上の根拠なくなされたものであるから,本件条例に租税法律主義が妥当するか否かについて論ずるまでもなく,重大な違法があり,かつ,違法が明白であるから,無効といわざるを得ない。
2 これに対して,被告は,本件ふ頭通過料は,本件条例別表2の一般使用に係る使用料であり,一般使用に係る使用料の中には,駐車場料金やシャワー料金等,港湾施設の使用料でありながら,その使用が許可の対象とされていないものが存するところ,船社や港運事業者等が接岸した船への積み込みあるいは船からの陸揚げとして一時的に港湾施設を使用する場合の使用料である本件ふ頭通過料等についても,使用する時点においてしか算定できないことなどから,駐車場やシャワーの使用と同様,その使用が許可の対象とされていないなどと主張する。
しかしながら,本件条例3条1項は,専用使用(一定の施設を期間を定めてその施設の使用目的に従い特定の者の使用に供すること(本件条例13条2項))と一般使用(その施設の使用目的に従い随時一般の者の使用に供すること(同条3項))とを区別せず,「港湾施設を使用しようとするもの」は,管理者の許可を受けなければならないと規定しており,他に本件条例及び本件施行規則において,一般使用であれば管理者の許可を不要とする旨の規定は存しないため,本件ふ頭通過料が本件港湾施設の一般使用に係る使用料であるからといって,本件条例の規定上,その使用に管理者の許可が不要であるとは解されない。また,被告が主張する駐車場やシャワーの使用は,一般使用の中でも特に不特定多数の者を対象とした施設の使用であり,その使用に係る使用料と,船社や港運事業者等の限られた者が使用すると解される本件ふ頭通過料等とを同一に解することは相当でない(なお,駐車場の一般使用については,本件施行規則2条4項において,使用しようとする者に対して,明示的に,許可申請書の提出に代えて所定の駐車券の交付を受けることを求めており,かかる規定が存することからしても,本件条例及び本件施行規則が駐車場以外の港湾施設の一般使用について管理者の許可を不要とする趣旨であるとは解されない。)。さらに,管理者が本件港湾施設の使用を許可するに際し,当該使用に係る使用料を具体的に算定しておくことが必要であるとは認められず,実際に使用するまで本件ふ頭通過料が算定できないからといって,管理者の許可が不要となるものとは解されない。したがって,被告の前記主張は採用できない。
また,本件条例3条の「港湾施設を使用しようとするもの」は,管理者の許可を受けなければならないが,同許可を受けずに港湾施設を使用する者についても,本件条例17条1項が適用されて,使用料を支払わなければならないという解釈も,文理上考えられないではないが,そうであれば,原告らは,港湾施設を使用する者として管理者の許可を受けなければならない立場になければならないところ,被告は,原告らがそのような立場にあると主張しているものではないし,証拠上も,被告が原告らに対し,管理者の許可を得るよう促したことは何らうかがわれないから,原告らが本件条例3条の「港湾施設を使用しようとするもの」に該当しないことは明らかである。したがって,前記のとおり,本件条例3条の「港湾施設を使用しようとするもの」と17条1項の「港湾施設を使用する者」が同一概念である以上,原告らは,17条1項の「港湾施設を使用する者」にも該当せず,使用料の支払義務を負わないと解するのが相当である。
3 結論
以上によれば,原告らの本件請求は,いずれも理由があるから,これを認容することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 酒井良介 裁判官 新海寿加子 裁判官 横倉雄一郎)
別紙港湾施設使用料賦課処分一覧表<省略>