那覇地方裁判所 平成8年(行ウ)8号 判決 2000年4月25日
原告
株式会社 オフィスティーブイビー
右代表者代表取締役
伊添一成
右訴訟代理人弁護士
立岡亘
同
後藤昭樹
同
太田博之
同
中村勝己
同
大岡琢美
被告
那覇税務署長 朝山勝太郎
右訴訟代理人弁護士
渡嘉敷唯正
右指定代理人
和多範明
同
浜元良昌
同
眞榮城もと子
同
仲間喜美子
同
鍋内幸一
同
富村久志
同
古謝泰宏
同
外間克己
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
一 被告が平成五年五月二六日付けでした原告の平成元年四月一日から平成二年三月三一日までの事業年度の法人税の更正処分(ただし、平成八年六月二六日にされた裁決で取り消された部分を除く。)を取り消す。
二 被告が平成三年六月二六日付けでした原告の平成元年四月一日から平成二年三月三一日までの事業年度の法人税の過少申告加算税賦課決定処分(ただし、平成八年六月二六日にされた裁決で取り消された部分を除く。)を取り消す。
第二事案の概要
本件は、被告が平成五年五月二六日付けでした原告の平成元年四月一日から平成二年三月三一日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税についての再更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び平成三年六月二六日付けでした過少申告加算税賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい、右の本件更正処分と本件賦課決定処分とを併せて「本件各処分」という。)について、原告が、「合資会社照屋総業(以下「照屋総業」という。)は、昭和六二年七月二三日に購入した別紙物件目録記載の各土地(以下「本件各土地」という。)の開発事業を計画し、原告との間で右事業に関して匿名組合契約を締結した。その際、原告は、照屋総業に対し、一三〇〇万円の出資をした。照屋総業は、平成二年三月六日に本件各土地を東栄住宅株式会社(以下「東栄住宅」という。)に譲渡し、その譲渡等による利益の配当として、原告に対し、平成二年三月二六日及び同年五月一七日に合計二億六六四八万〇〇八九円(以下「本件金員」という。)を送金した。原告は、本件金員の性質を正確に把握できなかったことから、これを仮受金として処理し、本件事業年度の確定申告(以下「本件確定申告」という。)において、本件金員を益金として計上しなかったところ、被告は、本件更正処分において、右仮受金処理を認めず、本件金員を本件事業年度の収益として申告すべきであるとし、また、原告が本件各土地の共有持分を有していたとして、本件金員が本件各土地を譲渡したことによる収益の一部であると評価し、さらに本件各土地の譲渡は租税特別措置法(ただし、平成三年法一六号による改正前のもの。以下「措置法」という。)六三条の二で規定する超短期所有土地等に係る土地の譲渡に当たるとした。しかし、右処分及びこれを前提としてされた本件賦課決定処分は、いずれも違法である。また、仮に本件更正処分が適法であったとしても、原告には国税通則法六五条四項の「正当な理由」があるから本件賦課決定処分は違法である。」などと主張して、本件各処分の取消しを求めた事案である。
一 争いのない事実
1 原告は、不動産業を営む株式会社である。
2(一) 有限会社石垣観光開発(以下「石垣観光開発」という。)及び農業生産法人青葉農園(以下「青葉農園」という。)は、従前、本件各土地を所有していたが、昭和六二年七月二三日、本件各土地を売却した。
本件各土地のうち別紙物件目録記載の1ないし65の各土地(以下「本件1ないし65の各土地」という。)は、登記簿上、昭和六〇年二月六日付けで所有者を青葉農園とする所有権移転登記がされていたが、右売却に伴って、平成元年二月一六日付けで、同月一五日売買予約を原因とし、権利者を照屋総業とする所有権移転請求権仮登記が経由され、別紙物件目録記載66ないし106の各土地(以下「本件66ないし106の各土地」という。)は、登記簿上、昭和六〇年二月八日付けで、所有者を石垣観光開発とする所有権移転登記がされていたが、右売却に伴って、平成元年二月一六日付けで、同月一五日売買を原因とし、共有者を照屋総業、株式会社琉信(以下「琉信」という。)及び照屋三郎(以下「三郎」という。)、各共有持分を三分の一とする所有権移転登記が経由された。
(二) その後、平成二年三月六日、本件各土地は、東栄住宅に転売され、同社は、右売買代金として三〇億三六七六万円を照屋総業に支払った。
右取引後、本件66ないし106の各土地は、登記簿上、平成二年三月九日、右(一)の平成元年二月一六日付でされた照屋総業を権利者とする所有権移転請求権仮登記が抹消され、平成元年二月二六日付け売買予約を原因として、権利者を東栄住宅とする所有権移転請求権仮登記が経由された。なお、右取引に先立ち、本件1ないし65の各土地は、平成二年二月二六日、同月二二日売買を原因とする有限会社三友建設(以下「三友建設」という。)に対する所有権移転登記が経由された。
(三) 照屋総業は、平成二年三月二六日及び同年五月一七日、原告、有限会社豊伸開発(以下「豊伸開発」という。)、有限会社三友総業(以下「三友総業」という。)及び琉信に対して各二億六六四八万〇〇八九円を送金した。
3 原告は、右2(三)の金員(本件金員)を受領した後、これを仮受金として会計処理し、本件確定申告において、本件金員を益金として計上していなかったところ、被告は、本件各処分及び再度の過少申告加算税賦課決定をした。これに対して、原告は、国税不服審判所長に各審査請求をしたところ、国税不服審判所長は、当初及び再度の審査請求を併合審理し、本件各処分の一部を取り消し、再度の過少申告加算税賦課決定の全部を取り消した。
その経緯は、別紙「本件課税処分の経緯」記載のとおりである。
二 争点
1 原告は、本件各土地につき共有持分を有し、本件各土地が譲渡されたことによって持分相当の譲渡利益を得たといえるか。
2 本件各土地の譲渡は、措置法六三条の二で規定する超短期所有に係る土地の譲渡に当たるか。
3 原告が、本件金員を仮受金として会計処理し、本件確定申告において、右金員を本件事業年度の益金と計上して申告しなかったことは適法か。
4 原告が、本件確定申告において、本件金員を本件事業年度の益金として計上しなかったことに国税通則法六五条四項の「正当な理由」が認められるか。
三 争点についての当事者の主張
1 原告は、本件各土地につき共有持分を有し、本件各土地が譲渡されたことによって持分相当の譲渡利益を得たといえるか(争点1について)。
(被告の主張)
(一) 本件各土地購入に至る経緯
伊添一成(以下「伊添」という。)及び豊伸開発の代表者である仲村勝美(以下「仲村」という。)は、昭和六一年一〇月ころ、石垣観光開発の意向を受けて、照屋総業に対し、本件各土地の売買の話を持ち掛けた。照屋総業の代表者である照屋信榮(以下「信榮」という。)は、本件各土地を転売したり、これを開発することにより多額の利益を得ることができると判断し、本件各土地を購入することとし、昭和六二年四月一一日に売買予約をした。照屋総業は、当初、これを単独で購入する予定であったところ、信榮は、企業グループの強化を図る目的と危険負担を避けるため、共同体を組織して利益をその共同体の構成員に分配しようと考え、当時、仲介業者としての立場にあった伊添及び仲村に右共同体への参加を呼びかけたところ、右両名から積極的な事業参加の申出がされた。
その後、信榮は、三友総業の代表者である三郎に対しても、右共同体への参加を呼びかけたところ、同人から参加の承諾を得た。こうして、昭和六二年四月一六日、照屋総業、伊添、三友総業、豊伸開発が各一二五〇万円を出資して共同体(以下「本件共同体」という。)を結成し、昭和六二年七月二三日、本件各土地の購入契約を締結した。その後、昭和六三年七月ころ、琉信が本件共同体に参加し、また、伊添は、平成元年九月一四日、右共同体構成員の地位を原告に譲渡し、以後、原告が本件共同体に出資するようになった。
本件共同体の法的性質は民法上の組合であり、照屋総業が幹事役を務め、業務の執行に当たっており、照屋総業以外の四社は、口頭で業務の執行を照屋総業に一任した。
(二) 原告は、後記のとおり、照屋総業との間で匿名組合契約を締結しただけである旨主張するが、以下の理由から、右主張は失当である。
(1) 伊添ないし原告は、各一三〇〇万円を出資したが、単に土地取引やその利用計画に協力する立場の者が、一三〇〇万円もの大金を出資するとは考えられない。
(2) 本件共同体は、本件各土地取得に係る資金として、琉信から合計七億二〇〇〇万円を借り入れているところ、右借入の借主は三郎となっているものの、伊添も信榮及び仲村と共に連帯保証人となっていることからすると、右借入金の使途や返済の目途などを十分考慮し、自己の利益を検討した上でのことと推測されるから、伊添には、本件各土地を共同で取得してこれを共有する意図があったものと考えられる。
(3) 石垣観光開発は、原告に仲介手数料として二二七八万円を支払ったが、原告は、右手数料相当額を収益として計上しておらず、これを、本件共同体に帰属させた。他方、本件共同体は、この手数料相当額を共同体に帰属させた上、本件各土地の取得価格から手数料相当額を減額させる形で処理している。これは、原告ないし伊添が右手数料を本件共同体に帰属させてでも、本件各土地取引の当事者として本件共同体に入った方が有利であると考えていたからに他ならない。
(4) 本件各土地を取得する際の売買契約書には、冒頭に照屋総業が買主として表示されているが、末尾の買主欄には、照屋総業の記名押印の右側に、手書きで「他四社」と付記されている。
(5) 本件各土地の一部は、照屋総業だけでなく、三郎及び琉信も登記名義人となっているが、これは、本件各土地が本件共同体の構成員の共有に属するものであったことの証左である。
そして、本件各土地が東栄住宅へ売り渡された際の売買契約書には照屋総業、琉信、三郎が売主と表記されているが、これは、右三者が登記簿上の所有名義人になっていたという事情によるのである。
右のとおり、原告及び豊伸開発は、本件各土地につき、その登記名義人となっていないわけであるが、これは、右両者が本件各土地取引を斡旋した仲介業者の立場にあったため、仲介手数料を取得する目的によるものであった。
(6) 本件共同体においては、各構成員のそれぞれの会社経理とは別に、独立した総勘定元帳を作成し、かつ、事業共同体としての経理事務を行っていた。
なお、本件共同体の経理事務の処理は、当初三友総業の社員が担当していたが、昭和六三年四月一日以降は照屋総業の社員が担当するようになっていた。
(7) 本件共同体の構成員のうち琉信を除く四社は、昭和六二年四月一六日付けで、それぞれ一二五〇万円を出資していたが、資金の遊休化を避けるためとして、同年八月二五日付けで各七五〇万円の返還を受け、その後、本件共同体の資金需要に応じて資金を拠出した。
(8) 匿名組合においては、組合員相互間には何ら法律関係がないのであるから、出資額を対等にする必要はないところ、前記のとおり、本件共同体においては出資額が同額となっていた。
(9) 匿名組合においては、営業者は、いわば資金を調達してこれを運用する側であって、匿名組合員と同列に出資するということはあり得ないところ、本件共同体においては、照屋総業が組合の業務執行者となっているものの、同社も出資するなどしていた。
(三) 右(一)(二)において検討したところからすると、本件各土地は、民法上の組合である本件共同体が購入したものというべきであって、本件五社の共有に属するものである。
したがって、原告は、本件各土地につき共有持分を有していたのであるから、本件各土地の譲渡に係る利益が原告にも発生したというべきである。
(原告の主張)
(一) 原告が照屋総業に本件開発事業に関して出資し、同社から本件金員が送金されるに至った経緯
(1) 伊添は、個人で不動産仲介業を営んでいた当時、信榮の依頼により、本件各土地の取得に関する仲介業務に従事したが、その後、照屋総業から、本件各土地上に計画しているリゾート開発事業につき、そのプランニング資料に基づいて説明を受け、右計画に出資することとした(なお、その後、伊添は、昭和六三年四月二二日、自己が経営していた不動産取引業を法人化して原告を設立し、平成元年九月一四日、右出資にかかる権利を原告に譲渡し、その旨を照屋総業に伝え、その了解を得た。)。
(2) 伊添は、本件各土地の開発事業にあくまで出資するだけであり、信榮とともに共同して右事業活動をするなどという意図はなく、自己の従事していた不動産仲介業務の関係で知り合った石垣島の地元有力者へ、照屋総業又は信榮を紹介するなどしたことはあったものの、照屋総業から、右開発事業について積極的な関わりを求められたり、経営会議に誘われるなどといったこともなかった。
伊添は、信榮から、本件各土地の開発事業を実現させるため、将来、別法人を設立するという話を聞いていたので、右法人が設立されたときにはその法人に参加したいと思う程度であった。その後、右法人設立の話もないまま経過し、この間、伊添は、信榮に対して、本件開発事業の進捗状況について照会したことはなく、右事業がどのような展開をしたのかは知らない。
(3) その後、突然、原告は、照屋総業から、二億円の送金を受けたが、右金員の性質が全く分からず、その後、石垣島における土地売却代金の精算である旨のメモが照屋総業から送られてきたことから、以前に計画されていた本件各土地の開発事業が取り止めになったことに伴う精算であるとの意味合いを理解することができたが、当時、右精算の内容は全く分からなかった。
(二) 照屋総業と原告との関係
被告は、本件五社により、本件各土地の購入、譲渡に関する組合契約を締結した旨主張するが、伊添は、照屋総業に対して、本件各土地の開発事業に関して出資をしただけであったから、照屋総業と他の二ないし三社との間に組合契約が成立していたというようなことがあったとしても、本件五社の間に組合契約が成立していたなどということはなかった。
すなわち、組合契約の場合は、原則として、組合員全員の間で、特定の事業を共同経営することを合意する必要があり、また、一人の組合員に組合の業務の執行を集約するときは、組合員全員で右のような組合運営をすることを合意する必要があるところ、伊添は、他の四社との間で、本件開発事業についての協議をしたことはなく、また、組合の業務の執行を照屋総業に集約することに合意したこともなかったから、少なくとも、伊添ないし原告が照屋総業等との間で組合契約を締結したことはなかった。
原告は、あくまで照屋総業との間で匿名組合契約を締結したのであって、右契約に基づき一三〇〇万円を照屋総業に出資し、同社から利益分配として本件金員の交付を受けたにすぎない。
(三) なお、被告は、本件五社の間で組合契約が締結された根拠として、<1>照屋総業と本件共同体の会計処理は別個に行われていたこと、<2>業務執行者の照屋総業も、他の四社と同じく一三〇〇万円を出資していたこと、<8>出資金は各組合員から必要に応じて拠出させ、資金に余裕ができた場合は資金の一部を各組合員に払い戻しているという資金運用形態であったこと、<4>本件各土地の譲渡益を五社に平等に分配していること等を挙げているが、<1>については、会計処理の別勘定は匿名組合契約においてもされているところであり、組合契約特有のものではなく、<2>及び<3>についても、匿名組合契約においても、このようなことはあり得ることである。
また、被告は、三郎の琉信からの借入金につき、伊添がその連帯保証人となっていた点を捉えて、これを民法上の組合が成立していた旨の根拠である旨主張するが、伊添は、不動産担保があるから借入ができるのであり、実際に連帯保証に基づく返済をするなどといったことは全く考えたこともなかったのであるから、右主張も理由がない。
(四) したがって、本件金員は、照屋総業との匿名組合契約に基づく配当金であり、原告は、本件各土地に対する共有持分を有していたことはないのであるから、本件各土地の譲渡に係る利益が原告に発生したということはない。
2 本件各土地の譲渡は、措置法六三条の二で規定する超短期所有に係る土地の譲渡に当たるか(争点2について)。
(被告の主張)
(一)(1) 措置法六三条の二第二項、六三条二項の土地の取得時期については、原則として当該土地の引渡しを受けた日をいうものと解される。
本件共同体と石垣観光開発及び青葉農園との間で、本件各土地につき売買契約が締結されたのは、昭和六二年七月二三日であるが、右売買契約に係る不動産売買契約書には、土地の引渡しは所有権移転登記申請手続及び売買代金授受完了後遅滞なく行う旨の定めがあるところ、本件各土地については、平成元年二月一六日付けで、同月一五日売買又は売買予約を原因とする所有権移転登記又は所有権移転請求権仮登記がされており、売買代金の支払完了は平成元年二月二七日であった。
したがって、本件各土地が引渡されたのは、右売買代金の支払が完了した平成元年二月二七日である。このことは、本件五社のうち、原告を除く他の四者が、いずれも本件各土地の取得日は右同日と認識し、その旨申告していたことからも明らかである。
(2) これに対し、原告は、措置法関係通達六三の二(一)―四(以下「本件通達」という。)を根拠に、本件各土地の売買代金の三〇パーセント以上を支払った昭和六二年七月二三日が本件各土地の取得日である旨主張する。
しかし、本件通達は、「措置法六三条の二の規定を適用する場合において、法人の有する土地を取得した日とは、当該土地等の引渡しを受けた日とする。ただし、引渡しの日に関し特約がある場合を除き、当該土地等の売買代金支払額の合計額がその売買代金の三〇パーセント以上になった日(その日が売買契約締結の日前である場合には、その締結の日)以降引渡しまでの一定の日をもって法人がその取得の日としているときは、これを認める。」としており、右文言から明らかなように、法人の土地等の取得日は引渡しの日が原則である。そして、右ただし書きに係る取扱いは、「法人がその取得の日としているとき」を要件とし、法人が確定決算においてその旨の経理を行っている場合に限定しているところ、原告は右のような経理処理を行っていなかったのであるから、本件において、右ただし書きの適用の余地はない。
(二) そして、本件各土地が東栄住宅に譲渡されたのは平成二年三月二六日であったから、本件各土地の所有期間は二年以下となり、本件各土地の譲渡は措置法六三条の二が規定する超短期所有に係る土地の譲渡に当たる。
(原告の主張)
(一)(1) 措置法六三条の二第二項、六三条二項の土地の取得時期については、本件通達は、「その土地等の売買代金の三〇パーセント相当額以上を支払った日によることもできる」とし、また、「代金完済時はまだ土地が存在しない場合あるいは事実上の引渡しができない場合にまで、その三〇パーセント基準を適用して取得日を判定することには問題があるとして、土地等の引渡しの日に関して特約がある場合には、三〇パーセント基準の適用は認められない。」としており、そして、右「特約がある場合」の意味についても、「引渡しの日に関し特約がある場合とは、例えば、地方公共団体と公有水面の埋立地を分譲する契約を締結した場合に埋立て後その土地の引渡しを受けるとしているときとか、土地付きマンションの分譲契約を締結した場合にマンション竣工後建物と合わせてその土地等の引渡しを受けるとされているときとか、あるいは建物の取壊し、撤去を条件として土地等の引渡しを受けることとされている場合等」をいうとし、単に代金完済後所有権の移転登記手続又は引渡しを行う旨の条項があったとしても、右の特約がある場合には該当しないというべきである。
また、土地売買代金の支払とは別に、土地の引渡しがされた場合には、その日が「土地の所得日」であることはいうまでもない。
(2) 本件においては、本件各土地に係る売買契約の締結日である昭和六二年七月二三日に、売買代金の約四〇パーセントに相当する三億円が支払われているから、本件各土地の取得日は昭和六二年七月二三日である。仮に、右のように評価できないとしても、昭和六二年中には、照屋総業は、本件各土地を現実に支配、管理し、実際に使用収益していたから、遅くとも昭和六二年中には本件各土地の引渡しを受けたということができる。
(二) したがって、本件各土地の譲渡は措置法六三条の二が規定する超短期所有に係る土地の譲渡に当たらない。
3 本件金員を仮受金として会計処理し、本件確定申告において、右金員を本件事業年度の益金と計上して申告しなかったことは適法か(争点3について)。
(被告の主張)
(一) 法人税法は、ある益金をどの事業年度に計上すべきかについては明文の規定をおかず、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする」(法人税法二二条四項)と規定しているにとどまり、右公正妥当と認められる会計処理基準として、「企業会計原則」があるが、その損益計算書原則一のAは、原則として発生主義(収益が発生したときを基準とするもの)を採用している。そして、この発生主義は、税法においては、いわゆる権利確定主義(収益については原則として債権の確定をもって基準とするもの)として理解されている。さらに、損益計算書原則三のBは、現実主義を採用し、法人税法においても引渡基準を原則としている。
(二) 石垣観光開発及び青葉農園と照屋総業、伊添、三友総業及び豊伸開発との間で、昭和六二年七月二三日、本件各土地につき、代金を七億六五九八万円(ただし、後に七億五九三六万円に減額された。)とする売買契約が締結されたところ、本件各土地の引渡しは平成二年三月六日に実現したから、本件各土地の譲渡による収益は平成二年三月期の収益に計上すべきことが明らかである。
そうであるからこそ、照屋総業、三友総業、豊伸開発らは、本件各土地の譲渡による収益を平成二年三月期の収益として計上しているわけである。
(三) 原告の行った「仮受金勘定」の経理処理は、仮受金の振替処理と商品販売における収益計上時期とを混同したものである。
商品の販売による収益の計上時期は、権利確定主義に基づいて判断されるべきであり、売買代金債権については、法律上これを行使することができたときに収入すべき権利の確定があったというべきであって、通常引渡しの時がこれに当たると解されており(法人税法基本通達二―一―一)、仮受金を売上げとして振替処理した時点ではない。
また、二億円という大金を送金しようとする者は、送金するにあたって送金の理由を説明し、振込むべき銀行口座を問い合わせる等していたはずであり、二億円が理由不明で送金されてくるなどということはあり得ず、送金を受けた者も、仮に理由が不明であれば、電話で照会するなどするのが通常であり、そうすれば右金員の性格は容易に判明したはずである。そして、本件金員が振り込まれた口座は、原告がわざわざ本件金員を受け入れるために新規に開設したもので、原告は、二億円が銀行口座に入金された二日後には、右口座から一億九〇〇〇万円を引き出している上、原告の平成三年三月期の総勘定元帳によれば、原告は、「石垣口精算」という表題の書面(乙一七。以下「本件精算書二」という。)に記載されている一般経費を、各勘定科目ごとに自らの総勘定元帳に転記するなど、自社の取引として認識した経理処理を行っていたのであるから、原告も右書面の意味内容を十分理解し、納得していたことが窺われる。そして、本件精算書二は、照屋総業が本件金員を送金してきた際に送付してきた「精算書」という表題の書面(乙一、以下「本件精算書一」という。)に続く二回目の精算書であって、両者は一体となるべきものであるから、原告は本件精算書一の意味内容も理解し、納得していたものと推測できる。
(四) なお、原告の仮受金処理により、本件収益が平成三年三月期の決算として株主総会で承認されたとしても、会社としての経理処理が妥当であることと、税法上の利益計上時期が妥当であることとは全く別の問題である。
(五) したがって、原告が本件確定申告において、本件金員を本件事業年度の収益と計上して申告しなかったことは違法である。
(原告の主張)
(一) 法人税法は、期間ごとに課税所得を計算して課税することになっているところ、所得の帰属年度の基準については、税法上で明確に定められておらず、法解釈でこれを明確にせざるを得ないのであるが、その基準としては、現金主義、発生主義、実現主義、権利確定主義等の諸基準がある。
仮に、権利確定主義によって、収入金額の計上時期を収入すべき権利の確定した時期と解するとしても、権利の確定自体が計上時期を定める道具概念であり、発生した権利は時間を追って次第に強く確定化していくという実態に照らせば、計上時期についても、一定の枠内で納税者にその選択が許されていると考えるべきである。
したがって、経済取引について当事者間に紛争が存在する場合、右取引による収益の計上時期を紛争の解決時まで延ばすことは許されないとしても、紛争の内容如何によっては、権利の存在が確実でないときもあり、その場合には仮勘定を設定して紛争の解決時まで計上を延ばすことは許されるのである。
(二) ところで、法人所得の経済上の帰属及び帰属事由が明らかにされるまでの間は、税務上、仮勘定として計上することも許されている。
すなわち、企業会計上、現金を受け取った場合に、金額が確定していなかったり、処理する勘定が未定の場合、ひとまず、これを仮受金として会計処理することが認められており、後に金額が確定したり、処理勘定科目が決まると、それに振り替えられるのである。
(三) 本件では、原告には、照屋総業から交付された本件金員の入金時期における確定的な収入金額及びその帰属事由が判明しておらず、原告が本件金員の会計処理を仮受金処理したことは適法である。
この点、被告は、本件金員の性格について説明した本件精算書一及び二が照屋総業から送付されていることから、本件事業年度の確定した収入金額として会計処理すべきであると主張するが、原告は本件各土地の譲渡について全く関与しておらず、何らの経過説明も受けていないのであるから、かかる状況下、一方的に照屋総業から送付されてきた本件精算書一及び二により本件金員の帰属及び帰属事由が明確にされていたというのは明らかに社会常識に反するものである。
(四) したがって、原告が、本件確定申告において、本件金員を本件事業年度の益金と計上して申告しなかったことは適法である。
4 原告が本件確定申告において、本件金員を本件事業年度の益金として計上しなかったことに国税通則法六五条四項の「正当な理由」が認められるか(争点4について)。
(被告の主張)
(一) 原告は、照屋総業から送金されてきた本件金員の性質について十分理解していたのであり、本件金員を本件事業年度の収益として計上し、確定申告をすることができたはずである。
(二) また、国税通則法六五条四項にいう「正当な理由がある場合」とは、例えば、税法の解釈に関して申告当時に公表されていた見解がその後改変されたことに伴い修正申告をし、または更正を受けた場合あるいは災害または盗難等に関し申告当時損失とすることを相当としたものがその後予期しなかった保険金等の支払を受け、あるいは盗難品等の返還を受けたため修正申告をし、また更正を受けた場合等当時適法とみられた申告がその後の事情の変更により納税者の故意過失に基づかずして当該申告が過少となった場合のごとく、当該申告が真にやむを得ない理由によるものであり、かかる納税者に過少申告加算税を賦課することが不当若しくは酷になる場合を指称するものであって、納税者の税法の不知若しくは誤解に基づく場合はこれに当たらない。
原告は、本件金員につき、「その利益分配の清算として、出資者である原告にこのような金員が送られてきたものと推測した。」「したがって、原告の照屋総業に対する出資に伴う利益分配金及び出資の返還と理解した。」と主張しており、原告の本件事業年度に係る確定申告が自らの推測又は誤解に基づくものであることを認めているのであるから、国税通則法六五条四項にいう「正当な理由がある場合」に該当しないことが明らかである。
(三) また、そもそも、原告は、出訴期間経過後に、国税通則法六五条四項の「正当な理由」があるとして本件賦課決定の取消しを求める訴えを提起しているところ、右訴えは、本税の課税要件とは別個の原因に基づく加算税固有の紛争に関するものであるから、本税についての訴えである本件更正処分の取消しの訴えが出訴期間内に提起されていたとしても、出訴期間経過後にされた不適法な訴えというべきである。
(原告の主張)
照屋総業から送付された本件精算書一及び本件精算書二には、その精算に至る経緯についての説明がなく、右各書面を見ただけでは、申告までの二か月の間に本件金員の法的性格を認識することは困難であり、原告が本件金員を仮受金として計上したことはやむを得ない措置であった。
第三当裁判所の判断
一 本件確定申告に至る経緯
1 当事者等
証拠(甲一一号証、一六及び一七号証、一八号証の一ないし三、一九号証の一、二、二〇号証の一ないし五、二一号証、四七及び四八号証の各一ないし三、五八号証、原告代表者)並びに弁論の全趣旨によれば、次の各事実が認められる。
(一) 原告は、昭和六三年四月二二日に設立された株式会社で、不動産取引等を業としている。
伊添は、原告の代表取締役であり、原告を設立する前は、個人で不動産取引及び金融業等を営んでいた。
(二) 照屋総業は、不動産取引及び金融業を目的として昭和五二年に設立された合資会社で、不動産売買等の事業を数多く手がけ、いわゆるバブル経済期に売上を飛躍的に伸ばし、沖縄県内有数の不動産会社となっていたが、右バブル経済の崩壊とともに投資資金が固定化して経営が行き詰まり、平成一〇年三月二六日、破産宣告を受けた。
信榮は照屋総業の無限責任社員であった。
三友総業は、不動産取引業及び金融業等を目的として昭和五七年に設立された有限会社で、三郎が同社の代表取締役であり、信榮は昭和六〇年五月八日から平成元年三月一三日までの間、同社の取締役をしていた。
豊伸開発は、不動産取引等を目的として、昭和六一年六月に設立された有限会社であり、仲村は同社の代表取締役であった。
琉信は、金融業及び不動産取引等を目的に昭和四一年に設立された株式会社である。
2 本件各土地の購入及び転売に至る経緯
証拠(甲一ないし四号証、六ないし一〇号証、一五号証の一及び二、二六ないし二九号証、三〇号証の一ないし三、三一号証、三二号証の一及び二、三三号証の一ないし四、三四号証の一ないし一〇、三五号証の一及び二、三六号証、三七号証の一、二、三八及び三九号証、五二及び五三号証、五四号証の一、二、五六号証の一、二、五八及び五九号証、六四号証、乙二ないし四号証、五号証の一ないし七、六号証の一ないし一〇六、七号証、一〇号証の一、二、一一号証の一ないし三、一二及び一三号証、一四号証の一ないし七、一五号証、二〇号証、二一号証の一ないし四、二二号証、二五ないし三〇号証、三一号証の一、二、三二号証、証人石垣岩男、証人仲村勝美、証人照屋信榮、証人照屋三郎、証人神山峻於、原告代表者)並びに弁論の全趣旨によれば、次の各事実が認められる。
(一) 石垣観光開発は、砂利の採取・販売等を業とし、本件各土地からも砂利の採取をしていたが、昭和六一年ころ、業績が悪化し、多額の負債を抱え、その返済に窮していた。そこで、石垣観光開発の代表取締役であった石垣岩男(以下「岩男」という。)は、同社の取締役らと相談の上、同社及び同社のグループ法人である青葉農園が所有する本件各土地を売却して、その売却代金により同社の債務を返済し、さらに石垣観光開発を解散することとし、本件各土地の売却先を探していた。
なお、当時、本件各土地のうち、本件66ないし106の各土地は石垣観光開発が、本件1ないし65の各土地は青葉農園がそれぞれ所有していた。
伊添は、昭和六一年ころ、沖縄県社交業組合の役職に就いており、同組合の理事長であった石垣春副(石垣観光開発の取締役であり、岩男の従兄弟に当たる。以下「春副」という。)とは面識があったところ、春副から本件各土地の売却先を探して欲しい旨の相談を受けた。
これを受けて、伊添は、仲村に本件各土地の適当な売却先はないかと相談したところ、仲村は、当時、照屋総業が手掛けた事業に参加するなどしており、信榮と非常に親しい関係にあったことから、信榮に対し、石垣観光開発が本件各土地の売却先を探している旨の話を持ちかけた。これに対し、信榮は、当初、本件各土地に興味を示さなかったが、約半年程経過したころ、本件各土地の購入を考えるようになり、仲村に対し、本件各土地に関する情報の収集方を依頼し、実際に現地にも赴いて、本件各土地を見分するなどした。
(二) 信榮は、伊添、仲村、春副及び岩男の案内で本件各土地を見分した結果、本件各土地の周辺地域については、当時、本土のリゾート開発業者の用地取得の動きがあり、価格も上昇傾向にある上、新空港の建設予定もあって、採砂事業も有望視されていたため、本件各土地上にリゾート施設を建設し、また、これを転売するなどすれば、相当の利益が見込まれ、加えて、右のリゾート施設の建設又は転売までの間は、本件各土地から砂を採取して利益を上げることもできると考え、本件各土地を購入することとした。
こうして、昭和六二年四月一一日、照屋総業と石垣観光開発及び青葉農園との間で、本件各土地につき、売買の予約がされた(以下「本件売買予約」という。)。
本件売買予約上は、売買代金額は七億六五九八万円とされ、買主が売主に保証金として五〇〇〇万円を支払い、右保証金は後に国土利用計画法上の認可を得た時点で手付金に充当されることになっていた。
その際、伊添は売主である石垣観光開発及び青葉農園側の、豊伸開発は買主である照屋総業側のそれぞれ仲介人となることとされた。
(三) ところで、照屋総業は、当時、いくつかの会社ないし個人を照屋総業の事業に参加させて、その利益を分配するという手法を採ることが多く、これにより、照屋総業を中心とする企業グループを形成していた。仲村は、信榮の下で仕事をし、実際に照屋総業が手掛けた事業に参加したこともあったことから、本件各土地に係る事業においても右のような手法が採られるのであれば、その事業共同体の一員となって、右事業から生ずる莫大な利益に与りたいと思い、信榮に対し、その旨伝えたところ、信榮は、本件各土地についても、事業共同体によって本件各土地を購入し、照屋総業が中心となって、本件各土地を砂の採取やリゾート開発等に利用し、又はこれを転売して利益を上げるなどして、その利益を事業共同体の構成員に分配するという計画を有していたため(以下、信榮の右構想に係る事業共同体を「本件事業共同体」といい、本件事業共同体の行う事業を「本件事業」という。)、仲村の右申し出を承諾した。
そして、信榮は、照屋総業の企業グループの一員である三友総業も本件事業共同体に参加させることとし、また、仲村から、伊添も参加させて欲しい旨依頼されたため、同人を参加させることを了承した。そして、伊添は、仲村から、本件事業に関する話を聞き、本件各土地の売買を仲介するよりも、本件事業に参加した方が大きな利益を見込めるものと考え、本件事業へ参画することを快諾した。
そして、そのころ、照屋総業から、石垣観光開発及び青葉農園に対し、保証金として五〇〇〇万円が支払われた。
信榮は、本件各土地を購入して、これを利用ないし転売して得た利益を照屋総業、伊添、豊伸開発及び三友総業の四者間で平等に分配する意向を有していたため、右の五〇〇〇万円の保証金も右四者で平等で負担することとし、昭和六二年四月一三日、右四者から各一二五〇万円の出資を受けた。
その際、信榮は、本件各土地に係る事業計画及びその実行は全て信榮の判断で行うこととしていたため、本件事業に参加する者には、その旨を伝え、右の点を了承させていた。
なお、信榮、伊添、仲村及び三郎は、本件事業により得られた利益は、これを本件事業共同体の構成員で平等で分けることを了解していたが、当時はいわゆるバブル景気のころに当たり、不動産の価格は上昇を続けており、本件各土地の購入により損失が生ずるといった事態を想定していなかったため、損失が生じた場合の対策等について考慮することはなかった。
(四) その後、照屋総業と石垣観光開発及び青葉農園は、伊添及び仲村を仲介人として、本件売買予約に基づく本契約の締結に向けて折衝を重ねていたところ、石垣観光開発が、債権者(信販会社)から二億五〇〇〇万円の債務の返済を強く督促され、また、税金等の支払に充てるため早急に一億円の資金を捻出しなければならないという事情もあったため、照屋総業に対し、売買代金の内金として右金額をできるだけ早く支払って欲しい旨要望した。これを受けて、照屋総業は、売買代金の内金として、本契約の締結の日に二億五〇〇〇万円を、昭和六二年九月中に一億円をそれぞれ支払うことを了解した。
そこで、照屋総業、伊添、豊伸開発及び三友総業は、まず、本件売買予約に基づく本契約の際に支払うことになった資金を琉信から借り受けることになった。その際、信榮は、当時、琉信の関連会社の取締役をしており、照屋総業の名前を出すことができなかったため、借受人の名義を、資力があり社会的な信用力も高い三郎とし、連帯保証人を信榮、仲村及び伊添とするのが適当であると考え、琉信、三郎、仲村及び伊添らからその旨の了解を得た。
こうして、昭和六二年七月二三日、三郎と琉信との間で、借入金を三億円、連帯保証人を仲村及び伊添として金銭消費貸借契約が締結され、同日、三郎側に三億円が支払われたが、その際、本件各土地上に、右金銭消費貸借を原因として、昭和六二年七月二八日付けで、債務者を三郎、抵当権者を琉信、債権額を三億円とする抵当権が設定された。
そして、昭和六二年七月二三日、石垣観光開発及び青葉農園との間で、本件各土地につき、代金を七億六五九八万円(ただし、後に七億五九三六万円に減額された。)とする売買契約(以下「本件売買契約」という。)が締結されたが、本件売買契約に係る契約書(以下「本件売買契約書」という。)の売主の欄は「石垣観光開発外一社」、買主の欄は「照屋総業」となっており、石垣観光開発側も、本件売買契約の買主は照屋総業であると認識しており、本件売買契約書の本文には、「買主は、この契約締結と同時に手付金として三億円を売主に支払う。」、「本物件の引渡しは、所有権移転登記申請手続き、および売買代金授受の完了後、遅滞なく当事者立会いのうえこれを行う。」との記載がある。
本件売買契約書のうち照屋総業が保管することになった契約書には、後日、買主の欄の「照屋総業」の記載の横に「他四社」との文字が書き加えられ(なお、後記(五)のとおり、本件売買契約締結後、本件事業共同体に琉信も参加することになったので、同社も含めて「他四社」となった。)、また、琉信が保管していた本件売買契約に係る契約書の写しにも、本文の買主欄の「照屋総業」の記載の横に「照屋三郎他2名」と書き加えられた。
昭和六二年七月二三日、本件売買契約の内金二億五〇〇〇万円が石垣観光開発及び青葉農園に支払われたが、これを受けて、石垣観光開発は、右同日、債権者である信販会社に対して前記債務の返済として二億五〇〇〇万円を支払った(なお、前記のとおり、本件売買契約書上は、照屋総業が石垣観光開発側に三億円を支払う旨の記載がされたが、これは、本件売買予約に基づいて支払われた五〇〇〇万円を右三億円の一部に充当処理することとされたためであった。)。
当時、信榮は、本件事業を遂行していくにあたって、必要な諸経費の一部を、資金需要に応じて、本件事業共同体の構成員に出資させることとしていたが、昭和六二年八月二五日には、本件事業共同体の資金に余裕ができたことから、照屋総業、伊添、豊伸開発及び三友総業に対し、各七五〇万円を返還し、その後、何度かに分けて、後記(五)のとおり、本件事業共同体に参加する琉信を含めて、各合計一三〇〇万円の出資を受け、また、本件事業に係る独自の会計帳簿を作成して本件事業の会計処理を行っていたが、その処理も照屋総業に任されていた。
本件売買契約書上、本件各土地上の砂採取設備等の所有権も照屋総業に移転することになっており、また、石垣観光開発は、本件各土地上に存在する墓地を撤去し、本件各土地を耕作している者を退去させる義務を負っていたところ、昭和六三年三月ころ、照屋総業は、「下記事項を引き渡し時までに、確定するようお願い致します。」とした上、右事項として「<1>境界確定作業及び実測(隣接地主立会い)、<2>登記簿上面積と実測結果の増減の確認作業、<3>六三七番地、六四九番地及び六五〇番地の各土地が筆界未定のため地主より苦情あり、<4>敷地内にある墓地の所有者の確認作業(現在二基確認中、六三〇番地上にある墓地地主は売却した覚えがないとのこと)、<5>現在の里道部分の確認作業、<6>当敷地内の小作人の確認及び残金決済時までに退去させること」と記載した文書(乙二五号証、以下「昭和六三年三月付け依頼文書」という。)を作成して、これを石垣観光開発に交付した。
(五) 信榮は、琉信も本件事業に参加させようと考え、同社にその旨打診していたところ、昭和六三年七月二八日、琉信は、一一〇〇万円を出資して、本件事業共同体の一員となった。
また、伊添は、昭和六三年四月二二日、原告を設立し、平成元年九月一四日、本件事業共同体の構成員の地位を原告に譲渡し、その旨照屋総業に伝えた。
こうして、本件事業共同体の構成員は本件五社となった。
(六) 三郎は、本件売買契約に係る資金調達のために、琉信から、昭和六二年九月二五日に一億二〇〇〇万円を、昭和六三年八月五日に三億円をそれぞれ借り入れ、昭和六二年九月二五日の借入れについては信榮及び伊添が、昭和六三年八月五日の借入れについては信榮及び仲村がそれぞれ連帯保証をした(なお、右各借入契約において借主が三郎となった事情は昭和六二年七月二三日付けの借入契約のときと同様であった。)。その際、本件各土地上には、昭和六二年九月二九日付けの、債務者を三郎、抵当権者を琉信、債権額を一億二〇〇〇万円とする抵当権及び昭和六三年八月一二日付けの、債務者を三郎、抵当権者を琉信、債権額を三億円とする抵当権がそれぞれ設定された。
そして、本件売買契約に基づく代金の残額の支払については、昭和六二年八月三一日に一億円、昭和六三年六月三日に二〇〇〇万円、同年八月九日に二億一六五八万円、同年九月一三日に五〇〇〇万円、平成元年二月二七日に五〇〇〇万円がそれぞれ支払われた(石垣観光開発及び青葉農園に支払われた金額は合計七億三六五八万円であり、本件売買契約の代金である七億五九三六万円に二二七八万円不足するが、これは、石垣観光開発側が仲介手数料として伊添に支払うことになっていた仲介手数料分を控除したためであった。)。
本件1ないし65の各土地については、平成元年二月一六日付けで石垣観光開発から照屋総業、琉信及び三郎に対し、各共有持分を三分の一とする所有権移転登記がされ、本件66ないし106の各土地については、右同日付けで照屋総業を権利者とする所有権移転請求権仮登記がされた。
そして、本件売買契約に係る売買代金の全額が支払われた平成元年二月二七日、原告は、石垣観光開発に対し、本件売買契約の仲介手数料として二二七八万円を受領した旨の領収書を交付したが、実際は、原告は右手数料相当額を受領せず(石垣観光開発及び青葉農園と照屋総業との間で、伊添へ支払う仲介手数料は照屋総業が支払うことになっていた。)、また、右手数料相当額を原告の収益として計上せず、照屋総業も、その会計処理において本件売買契約の代金から右手数料相当額を差し引いた額を本件各土地の取得価格とした。
(七)(1) 信榮は、前記のとおり、本件各土地上にリゾート施設を建設し、また、本件各土地を転売して利益を上げる計画を有していたが、その間は、本件各土地から砂を採取して利益を上げようと考え、本件売買契約を締結し、石垣観光開発及び青葉農園に三億円を支払ってから間もなくして、石垣観光開発が使用していた砂採取のための重機をそのまま使用し、また、自ら購入等して持込んだ重機を使用するなどして、本件各土地の一部で砂の採取をするようになった(ただし、本件各土地のどの範囲の土地で右採取に及んでいたかは明確でない。)。
また、信榮は、本件各土地でヤシガニ栽培漁業を営もうと考え、建築設計事務所にヤシガニ栽培漁業施設の図面の作成や調査を依頼した。
なお、本件各土地の一部には基地や耕作地があって、前記のとおり、本件売買契約の内容として、右墓地の撤去や耕作している者の退去は石垣観光開発の義務となっていたが、石垣観光開発は、墓地の撤去については昭和六三年八月ころ、耕作者の退去については平成元年二月ころに右履行を終えた。
(2) そして、信榮は、本件各土地からの砂の採取と並行して、本件各土地を利用したリゾート開発の計画書(以下「本件計画書」という。)の作成を株式会社鴻池組に依頼し、昭和六三年一〇月ころ、本件計画書が完成した。本件計画書の内容は、本件各土地上にリゾートホテル、分譲別荘、ゴルフショートコースを建設するというものであった。
しかし、その後、信榮は、本件各土地をリゾート開発するよりも、転売した方が利益になると考え、これを転売することにした。
(3) なお、このような本件各土地の利用方法の計画及びその実行は、全て信榮の考えによってされたが、その際、信榮は、仲村又は三郎には簡単な相談をしたものの、伊添には全く相談をせず、仲村を介してその事後報告をしただけであった。
(八) こうして、信榮は、本件各土地の譲渡先を探していたところ、東栄住宅がこれを買い受けることになり、平成元年一〇月二日に売買の予約がされ、東栄住宅から平成元年一〇月二日及び一一月末日に合計六億円が支払われ、その後、平成二年三月六日、信榮、照屋総業の社員、東栄住宅の代表取締役及び常務取締役並びに仲介人の立会いのもと、本件各土地を東栄住宅に、売買代金二四億三六七六万六〇〇〇円で売り渡す旨の契約(以下「本件転売契約」という。)が締結され(ただし、右契約書上の代金額は、売却対象となった本件各土地の砂の代金六億円を含めた三〇億三六七六万六〇〇〇円であった。)、そのころ、右売買代金の残代金が支払われた。なお、本件転売契約の仲介手数料は七億五〇〇〇万円であった。
本件転売契約が締結された際、本件1ないし65の各土地は、三友建設が所有名義人となっており(平成二年二月二六日付けで照屋総業、琉信及び三郎の持分が全て三友建設に移転している。)、本件66ないし106の各土地は、青葉農園が所有名義人で、照屋総業を権利者とする所有権移転請求権仮登記が付されていたところ、本件転売契約に係る契約書上は、売主が照屋総業、琉信、三郎、青葉農園及び三友建設となっており、第一条で、本件各土地の真実の所有者は、照屋総業、琉信及び三郎であり、青葉農園及び三友建設は、登記簿上の所有名義人にすぎない旨が確認された。
3 本件確定申告に至る経緯等
証拠(甲二六ないし二八号証、四〇号証の一ないし三、五四考証の二、五六号証の一、二、五八号証、乙一号証、四号証、一六ないし一八号証、二一号証の一ないし四、証人照屋信榮、原告代表者)並びに弁論の全趣旨を総合すれば、次の各事実が認められる。
(一) 信榮は、本件転売契約に係る売買代金が支払われたことによって本件事業は目的を達成して終了したため、本件各土地の転売等によって得られた収益を本件五社に配分することとし、平成二年三月二六日、原告、豊伸開発、三友総業及び琉信に対してそれぞれ二億円を各自の銀行口座に振込み送金した。その後、同月の末までの間に、照屋総業の従業員であった崎原裕子は、右配分の方法等を説明した本件精算書一を原告に持参して交付した。また、右本件精算書一は、そのころ、豊伸開発、三友総業及び琉信にも送付された。
なお、本件各土地の購入、転売及び利用は、そのほとんどが照屋総業の活動によるものであったため、照屋総業は、右事業によって得た収益の各社への分配金の中から各一〇〇〇万円、合計四〇〇〇万円の手数料を取得した(したがって、照屋総業と本件事業共同体の他の四社との分配金は、五〇〇〇万円の差がある。)。
なお、本件精算書一には、表題として「精算書(石垣市字桴海645筆他)」と記載され、本文には、売上額三〇億三七六三万五二六九円から土地取得費七億四六七〇万五六七八円、斡旋手数料七億五九一九万円、支払利息一億五〇三五万九八〇〇円及び経費五万三〇三六円を差し引いた額である一三億二八三四万二九五五円を五で除した金額二億六五六六万八五九一円を各社の純利益とし、これに出資金である一三〇〇万円を足して一社当たりの配当分二億七八六六万八五九一円を算出し、右金額から三月二七日配当分の二億円及び照屋総業への手数料一〇〇〇万円を差し引いた六八六六万八五九一円が未払金として表示されている。
(二) 原告は、照屋総業から二億円が送金された際、新規に銀行口座を開設し、右口座に二億円が振り込まれると、その翌々日の平成二年三月二八日には右口座から一億九〇〇〇万円を引き出し、伊添個人の預金口座に振り替えた。
(三) 照屋総業は、平成二年五月一七日、本件各土地の転売等によって生じた利益のうち、同年三月二六日に配分した後の残金の配分方法等を説明した本件精算書二を作成して、これを原告、豊伸開発、三友総業及び琉信へ送付し、右同日、右四社に対し、各六六四八万〇〇八九円を送金した。
(四) 原告は、平成二年五月三〇日、本件金員を仮受金として会計処理し、本件事業年度の収益として計上せずに、本件確定申告を行った。
一方、照屋総業、三友総業、豊伸開発及び琉信は、いずれも、本件各土地の譲渡によって得た利益について、本件事業年度の収益として、かつ、措置法六三条の二で規定する超短期所有土地等に係る土地の譲渡に当たるとして確定申告をした。
(五) その後、別紙「課税処分の経緯」のとおり、本件各処分、再度の過少申告加算税賦課決定処分及び裁決がされ、原告は、右裁決によって取り消された後の本件各処分を不服として本件訴訟を提起した。
沖縄県国税事務所は、平成一〇年八月ないし一〇月に、照屋総業、三友総業、豊伸開発及び琉信に対し、<1>本件各土地を所有したことがあるか否か、<2>他に共有者はいたか否か、<3>本件各土地の取得年月日等について照会したところ、右各社は、いずれも、本件各土地を共同所有したことがある旨、原告も共同所有者であった旨及び右取得年月日は平成元年二月二八日である旨回答した。
二 原告は、本件各土地につき共有持分を有し、本件各土地が譲渡されたことによって持分相当の譲渡利益を得たといえるか(争点1について)。
原告は、照屋総業が計画していた本件各土地に係るリゾート開発事業につき、同社との間で匿名組合契約を締結し、その出資金として一三〇〇万円を支出しただけであって、本件各土地につき共有持分を有していたわけではない旨主張し、原告代表者本人尋問の結果中には、右主張に沿う供述部分が存する。
なるほど、前記認定のとおり、本件売買契約締結時の本件売買契約書の買主欄には伊添の名が掲げられていないわけであるが、この点は、石垣観光開発側との関係では、伊添は仲介者として行動しており、仲介手数料として二二七八万円を受けとることになっていたからであって、右の本件売買契約書の買主欄に伊添の名がないことをもって、同人が本件各土地の購入者でなかったことの証左であるということはできないし、むしろ、前記認定のとおり、伊添は、本件各土地の購入資金を捻出するために三郎が琉信から借り入れた四億二〇〇〇万円について連帯保証をしていたわけであるが、当時の経済状況を考慮しても、単にリゾート開発事業に出資をしたにすぎず、本件各土地について何らの権利を取得する意図のない者が、本件各土地の購入代金の半分以上となる四億二〇〇〇万円の借入れにつき、連帯保証するなどということは通常考えられず、また、伊添は、石垣観光開発及び青葉農園との間では、本件売買契約の仲介手数料として二二七八万円を受け取ることになっていたにもかかわらず(ただし、石垣観光開発側は本件売買契約の代金のうち、右仲介手数料分を控除した額の支払を受け、右仲介手数料は照屋総業から伊添に支払われることになっていた。)、右仲介手数料を受領せず、結果的に本件各土地の購入代金が右仲介手数料分だけ減額されることになったのである。右のような事情からすると、伊添が本件各土地の購入に対して単に利益の配当を目的とした出資という形で関わっていたにすぎないとみるのは困難である。
そして、前記認定のとおり、沖縄県国税事務所の照会に対して、照屋総業、三友総業、豊伸開発及び琉信は、いずれも、原告も本件各土地の共有者であった旨回答し、本件における証人尋問においても、信榮、仲村及び三郎は、いずれも、本件各土地は本件五社の共有であった旨証言している。
加えて、前記認定の、<1>本件売買契約書のうち、照屋総業が保管していたものには、後日、買主欄の照屋総業の記名押印の横に手書きで「他四社」と記載されていること、<2>本件66ないし106の各土地の登記簿上の所有名義は、照屋総業だけではなく、琉信及び三郎もその所有名義人となっていること、<3>本件各土地を転売したこと等による利益は、基本的には本件五社にほぼ五分の一ずつ配分されたこと、<4>照屋総業も、原告、豊伸開発、三友総業及び琉信と同様、本件事業共同体に対して一三〇〇万円の出資をしていることなどの事情は、原告が照屋総業との間で匿名組合契約を締結しただけであるとするとこれと整合しない。
右に検討したところを総合すると、本件各土地は本件五社の共有であり、原告も、本件各土地につき五分の一の共有持分を有していたというべきである。
三 本件各土地の譲渡は、措置法六三条の二で規定する超短期所有に係る上地の譲渡に当たるか(争点2について)。
措置法六三条の二、六三条二項の規定する超短期所有に係る土地とは、当該土地を取得した日の翌日から右土地を譲渡した日の属する年の一月一日までの所有期間が二年以下のものをいい、土地を取得したというためには、原則として当該土地の引渡しを受ける必要があるところ、本件においては、前記認定のとおり、本件売買契約上、本件各土地の引渡しは、所有権移転登記申請手続及び売買代金授受の完了後遅滞なく行う旨定められており、右売買契約に係る代金全額の支払いが完了したのは平成元年二月二七日であり、所有権移転登記手続も、本件66ないし106の各土地については、平成元年二月一六日付けで照屋総業、琉信及び三郎の共有名義への所有権移転登記がされ、本件1ないし65の各土地については、同日付けで照屋総業を権利者とする所有権移転請求権仮登記がされている。
確かに、前記認定のとおり、本件売買契約締結後、照屋総業は、本件各土地から砂を採取していたわけであるが、本件各土地のうち右採取がされた場所及び範囲は必ずしも明確でないし、仮に、相当の範囲に及んでいたとしても、そのような事情をもって本件各土地全体の引渡しがあったということはできないし、昭和六三年三月付け依頼文書(乙二五号証)の記載から明らかなように、本件売買契約上、石垣観光開発は、本件各土地上に存在する墓地を撤去し、本件各土地を耕作している者を退去させる等のいくつかの義務を負っていたのであり、また、照屋総業、三友総業、豊伸開発及び琉信は、いずれも、本件各土地の譲渡によって得た利益について、措置法六三条の二の超短期所有土地等に係る土地の譲渡に当たるとして確定申告をし、沖縄県国税事務所の照会に対しても、本件各土地の取得年月日は平成元年二月二八日である旨回答していたのである。
右のような諸事情からすると、本件売買契約の締結日である昭和六二年七月二三日に三億円、同年九月二五日に一億二〇〇〇万円がそれぞれ支払われていたという前記認定の事情を斟酌しても、本件各土地の引渡しが昭和六三年一月一日までにされたと認めることはできない。
そして、前記認定のとおり、本件各土地が東栄住宅に譲渡された日は平成二年三月六日であるから、原告が東栄住宅に対してした本件各土地の共有持分の譲渡は、超短期所有に係る土地の譲渡に当たる。
四 本件金員を仮受金として会計処理し、本件確定申告において、右金員を本件事業年度の益金と計上して申告しなかったことは適法か(争点3について)。
1 法人税法上、益金に計上されるのは、別段の定めがあるものを除き、資本等取引以外の取引に係る当該事業年度の収益とすると定められているが(同法二二条二項)、ある収益をどの事業年度に計上すべきかについて、同法は、特例について定めているほかは、原則的な基準について同法自体の中に明文の規定をおかず、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算するとしているにとどまるところ(同法二二条四項)、企業の収益のうち、たな卸資産の販売又は固定資産の譲渡に係る収益については、原則として、対象物が引渡された時に収益が生じ、右引渡しがあった日の属する事業年度に計上すべきである。
本件においては、前記一のとおり、本件金員は本件各土地及び本件各土地上の砂の譲渡等による収益に係る分配金であり、本件各土地及び本件各土地上の砂は平成二年三月六日に買主である東栄住宅に引き渡されているから、本件金員は、本件事業年度に計上すべきである(なお、本件金員のうち六六四八万〇〇八九円は本件事業年度中には原告へ入金されていなかったが、右のように、本件各土地及び本件各土地上の砂は既に東栄住宅に引き渡されていることに加え、本件転売代金は平成二年三月六日に支払われており、同月二六日までには、本件各土地の転売利益等の本件五社間での分配の計算も済んでいること、本件精算書一には、六八六六万八五九一円の未払金が存在する旨の記載があり、これによれば右未払金が近く原告に送金される予定であったものと認められること、実際にも右金員は同年五月一七日に原告に送金されていることからすると、原告は、右六六四八万〇〇八九円についても、本件事業年度において収益として支配しうるに至ったものと解される。)
2 これに対して、原告は、本件金員の法的性質を把握できなかったため、本件金員を仮受金として会計処理し、本件事業年度に益金として計上しなかったのであるから、右処理は公正妥当な会計処理であり、税法上も適法である旨主張し、原告代表者本人尋問の結果中には、右主張に沿う供述部分が在する。
しかしながら、本件精算書一の記載内容は前記一3(一)のとおりであり、その記載内容からすると、本件金員が本件各土地及び本件各土地上の砂を東栄住宅に譲渡したことによる譲渡益等を本件五社で等分したものであることは容易に理解し得る上、前記認定のとおり、原告は、照屋総業から本件金員が送金されるにあたって新規に銀行口座を開設し、平成二年三月二六日に二億円が右口座に振込まれると、同月二八日に右口座から一億九〇〇〇万円を引き出して、伊添個人の預金口座に振り替えているのであって、その性格を把握できない一億九〇〇〇万円という高額の金員につき、右金員を送金してきた照屋総業にその説明を求めることもなく、右のような処理をするのは極めて不自然であるから、原告の右主張に沿う原告代表者本人の右供述部分は信用できず、むしろ、伊添は、本件金員の性質を十分認識していたことが明らかである。
3 したがって、原告が、本件確定申告において、本件金員を本件事業年度の益金と計上して申告しなかったことは違法である。
五 原告が本件確定申告において、本件金員を本件事業年度の益金として計上しなかったことに国税通則法六五条四項の「正当な理由」が認められるか(争点4について)。
1 原告は、本件精算書一を見ただけでは、申告までの間に本件金員の法的性格を把握することは困難であり、原告が本件金員を仮受金として計上し、本件事業年度の益金として申告しなかったことには、国税通則法六五条四項の「正当な理由」がある旨主張するが、前記のとおり、伊添は本件金員の性質を十分認識していたのであるから原告の右主張は理由がない。
2 なお、被告は、原告の国税通則法六五条四項の「正当な理由」があるとして本件賦課決定処分の取消しを求める訴えは、出訴期間経過後にされた不適法な訴えである旨主張するが、過少申告加算税は、納税者の行うべき申告及び納税義務の履行について国税に関する法律の適正な執行を妨げる行為又は事実に対する防止及び制裁措置としての性質をもつ負担として課される一種の附帯税であって、あくまで本税の税額が有効に確定されていることを前提とし、本税の更正処分が違法であり取り消されるときは、過少申告加算税の賦課決定処分はその基礎を失い、当然に取り消されるという関係に立つから、本件賦課決定処分の取消しの訴えは、本件更正処分の取消しの訴えが提起された時に提起されたものと同視し得るものというべきであり、本件更正処分の取消しの訴えが、出訴期間経過前に提起されている以上、国税通則法六五条四項の「正当な理由」がある旨の主張を新たにすることも許されるというべきである。
六 まとめ
原告は、本訴において、前記第二、三の原告の主張部分を除いては、本件各処分の違法事由を主張せず、本訴の争点における被告の主張が認められた場合の被告主張の金額を争わないので、原告の本件事業年度における所得金額及びこれに対する法人税額、土地譲渡利益金額及びこれに対する法人税額、納付すべき法人税額並びに過少申告加算税の額は別紙「本件各処分の課税の根拠」記載のとおりである。
したがって、本件各処分はいずれも適法である。
第四結論
以上によれば、原告の本訴請求は、いずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 松田典浩 裁判官 佐野信 裁判長裁判官原敏雄は、転補につき、署名押印することができない。裁判官 松田典浩)
(別紙)
本件各処分の課税の根拠
一 本件更正処分
1 所得金額と税額
(一) 所得金額 二億〇五四二万八一八九円
(1) 原告が収受した金額
平成二年三月二七日 二億円
平成二年五月一七日 六六四八万〇〇八九円
右合計金額 二億六六四八万〇〇八九円
(2) 原告が支出した金額 一三〇〇万円
(3) 原告が申告した欠損金額 三三五三万八五一二円
(4) 損金不算入金額 二四八万四三七五円
(5) 繰越欠損金額 一二〇二万九〇一三円
(6) 合計
(1)から(2)ないし(5)を控除 二億〇五四二万八一八九円
(二) 税額 八一二九万一二〇〇円
(一)に対して、一〇〇〇円未満は切り捨て、所得金額八〇〇万円までは二九パーセント、同八〇〇万円を超える部分については四〇パーセントの税率を掛けると八一二九万一二〇〇円となる。
2 土地譲渡利益金額と税額
(一) 譲渡利益金額 三億一九八九万五九三四円
(1) 原告が、本件各土地の譲渡により得た収益の額は、本件精算書一に記載された売上金額二四億三三三〇万一〇〇〇円の五分の一である四億八六六六万〇二〇〇円である。
(2) 右(1)の金額から、次の<1>ないし<3>の合計金額を控除する(措置法六三条の二第二項、同法施行令三八条の四第六項)。
<1> 譲渡した土地に対応する原価の額 一億四九三四万一一三五円
<2> 法定の負債利子 一〇四五万三八七九円
<3> 法定の販売費及び一般管理費 六九六万九二五二円
(3) 右(1)の額から(2)の額を控除した後の課税土地譲渡利益金額は、三億一九八九万五九三四円となる。
(二) 税額 九五九六万八五〇〇円
前記(一)の金額(一〇〇〇円未満は切捨て)に措置法六三条の二第一項で規定する三〇パーセントの税率を掛けると、九五九六万八五〇〇円となる。
3 原告が納付すべき合計税額 一億七七二五万九七〇〇円
二 本件賦課決定処分
1 更正処分により納付すべき税額 一億七七二五万九七〇〇円
2 通常分(国税通則法六五条一項による計算)
(一) 加算税の基礎となる税額 一億七七二五万円
前記1の一万円未満を切捨てる。
(二) 加算税の額 一七七二万五〇〇〇円
前記(一)に一〇〇分の一〇の割合を乗ずる。
3 加算分(国税通則法六五条二項による計算)
(一) 加算税の基礎となる税額 一億七六七五万円
前記1から五〇万円を控除した金額の一万円未満を切り捨てる。
(二) 加算税の額 八八三万七五〇〇円
前記(一)に一〇〇分の五の割合を乗ずる。
4 過少申告加算税の額 二六五六万二五〇〇円
前記2(二)の額に前記3(二)の額を加算する
別紙 物件目録
本件土地の所在地及び地積等
<省略>
本件土地の所在地及び地積等
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本件土地の所在地及び地積等
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本件土地の所在地及び地積等
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別表1
本件課税処分の経緯
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