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那覇地方裁判所 平成8年(行ウ)9号 判決 2003年6月06日

主文

1  原告らの各訴えのうち,

(1)  被告沖縄県知事Aに対し,広域基幹林道奥与那線事業に関する公金支出等の差止めを求める訴え

(2)  被告沖縄県知事Aが,被告Bに対し,同被告が広域基幹林道奥与那線事業に関して平成7年5月2日から平成7年8月14日までに合計4210万6400円の工事請負代金を支出したことについて,不法行為に基づく同支出額相当の損害及びその遅延損害金の賠償請求権を有しているにもかかわらず,その行使を怠っていることが違法であることの確認を求める訴え

(3)  被告Bに対し,沖縄県に代位して,同被告が広域基幹林道奥与那線事業に関して平成7年5月2日から平成7年8月14日までに合計4210万6400円の工事請負代金を支出したことについて,不法行為に基づき同支出額相当の損害及びその遅延損害金の賠償を求める訴えをいずれも却下する。

2  被告沖縄県知事Aが,被告Bに対し,同被告が広域基幹林道奥与那線事業に関して工事請負代金等を支出したことについて,不法行為に基づく金3億29万3600円並びに内金1370万2296円に対する平成8年4月1日から,内金1262万178円に対する同月15日から,内金814万2562円に対する同月26日から,内金1837万3758円に対する同年5月2日から,内金3767万5134円に対する同月15日から,内金1477万9672円に対する同月31日から,内金4726万7800円に対する平成9年4月1日から,1444万78円に対する同月4日から,内金5450万1254円に対する同年5月2日から,内金879万868円に対する同月31日から,内金3773万1120円に対する平成10年4月1日から及び内金3226万8880円に対する同年5月15日から各支払済みまで,年5分の割合による損害賠償請求権を有しているにもかかわらず,その各行使を怠っていることが違法であることを確認する。

3  被告Bは,沖縄県に対し,金3億29万3600円並びに内金1370万2296円に対する平成8年4月1日から,内金1262万178円に対する同月15日から,内金814万2562円に対する同月26日から,内金1837万3758円に対する同年5月2日から,内金3767万5134円に対する同月15日から,内金1477万9672円に対する同月31日から,内金4726万7800円に対する平成9年4月1日から,1444万78円に対する同月4日から,内金5450万1254円に対する同年5月2日から,内金879万868円に対する同月31日から,内金3773万1120円に対する平成10年4月1日から及び内金3226万8880円に対する同年5月15日から各支払済みまで,年5分の割合による金員を支払え。

4  原告らのその余の請求を棄却する。

5  訴訟費用は,原告らと各被告との間に生じた分をそれぞれ8分し,その1を原告らの負担とし,その余を各被告の負担とする。

事実及び理由

第1当事者の申立て

1  請求の趣旨

(1)ア  主位的請求

被告沖縄県知事Aは,広域基幹林道奥与那線事業に関して,公金を支出し,契約を締結若しくは履行し,債務その他の義務を負担し,又は地方債起債手続をとってはならない。

イ  予備的請求

被告沖縄県知事Aが,被告Bに対し,広域基幹林道奥与那線事業に関して,不法行為に基づく金3億4240万円の損害賠償請求権並びに内金1億4740万円に対する平成8年4月1日から,内金1億2500万円に対する平成9年4月1日から及び内金7000万円に対する平成10年4月1日から各支払済みまで,年5分の割合による損害賠償請求権を有しているにもかかわらず,その各行使を怠っていることが違法であることを確認する。

(2)  被告Bは,沖縄県に対し,金3億4240万円並びに内金1億4740万円に対する平成8年4月1日から,内金1億2500万円に対する平成9年4月1日から及び内金7000万円に対する平成10年4月1日から各支払済みまで,年5分の割合による金員を支払え。

(3)  訴訟費用は被告らの負担とする。

2  被告らの請求の趣旨に対する答弁

(1)  本案前の答弁

ア 原告らの訴えをいずれも却下する。

イ 訴訟費用は原告らの負担とする。

(2)  本案の答弁

ア 原告らの請求をいずれも棄却する。

イ 訴訟費用は原告らの負担とする。

第2事案の概要

1  本件は,沖縄県(以下「県」という。県名について記載しない場合,沖縄県内の市町村を指す。)の住民である原告らが,広域基幹林道奥与那線事業(以下「本件事業」という。)が,森林法等に違反し,自然環境を破壊する違法な事業であるとして,①地方自治法(平成14年法律第4号による改正前のもの。以下,「地方自治法」という場合,同改正前のものを指す。)242条の2第1項1号に基づき,被告沖縄県知事A(以下「被告知事」という。なお,訴訟提起時の被告知事はBであったが,訴訟係属中にAが被告知事の地位を承継している。)に対し,本件事業に関する公金支出等の差止めを求め,②同条項4号に基づき,県に代位して,県が本件事業に関し,平成7年度から平成9年度にかけて,合計金3億4240万円を支出した(以下「本件各支出」という。)ことが違法な公金支出であり,県に同額の損害を与えたとして,当時県知事として支出の命令権限を有していた被告B(以下「B」という。)に対し,本件各支出相当額の損害とこれに対する各支出の後からの民法所定年5分の割合による遅延損害金の賠償を求め,③上記①差止請求の予備的請求として,同条項3号に基づき,被告知事に対し,県がBに対する上記②損害賠償請求権を有しているにもかかわらず,その各行使を怠っていることが違法であることを確認することを求めた事案である。

2  前提事実(争いのない事実及び証拠により明らかに認められる事実)

(1)  当事者

原告らは,県の住民である。

被告知事は,県の公金の支出,財産の管理若しくは処分,契約の締結若しくは履行,債務その他の義務の負担,又は地方債起債手続などの行為をなすにつき最終権限を有する者である。

Bは,本件各支出当時,県知事の職にあり,本件事業の実施に伴う予算の支出を命じる予算執行権限を有していた。

(2)  本件事業の概要

本件事業は,県が施行主体となって行う,国頭郡国頭村(以下「国頭村」という。)字佐手の県道2号線を基点として,照首山林道,我地佐手林道の一部,楚洲林道の一部,造林作業道,伊江林道の一部,奥1号林道を編入し,国頭村字奥の集落の南側に至る総延長14.2キロメートル,全幅5メートルの林道である広域基幹林道奥与那線(以下「本件林道」という。)の開設事業である。本件事業は,平成5年度着工,同11年度完成予定,総事業費は21億5000万円とされ,沖縄振興開発特別措置法に基づき,国がその事業費の80パーセントを負担し,施行主体である県の負担は20パーセントの4億3000万円として計画された。

本件事業の計画・実施に際して,環境影響事前評価(環境アセスメント)は行われなかった。

(3)  本件各支出

Bは,県知事として,本件事業に関して,平成7年度に1億4740万円,平成8年度に1億2500万円,平成9年度に7000万円を,それぞれ支出した。

(4)  監査請求

原告らは,平成8年9月26日,県の監査委員に対し,地方自治法242条1項に基づき,本件事業が必要性を欠き,希少種の生息地を破壊するため文化財保護法等に反し,県と本件事業の工事業者との契約は違法であるから,工事費用の支出も違法であるとして,平成8年度以降の工事の中止,工事請負契約の解約,平成7年度支出の1億4300万円の返還,既工事部分の原状回復等を知事に勧告することを求める内容の「沖縄県職員措置請求書」を提出し,監査請求を行った(甲1,以下「本件監査請求」という。)。

これに対し,同監査委員は,平成8年10月29日付けで,原告らの監査請求は住民監査請求の制度に適合せず不適法の請求であるとして却下する旨通知した(甲2)。

(5)  本訴提起等

原告らは,平成8年11月25日,被告知事に対し,本件事業に関する公金支出等の差止めを,Bに対し,県に代位して,平成7年度支出分(1億4300万円)について,支出相当額の損害及び遅延損害金の賠償を求める住民訴訟として本訴を提起した。

原告らは,平成10年5月27日第8回口頭弁論において,同日付け訴え変更申立書で,Bに対する損害賠償代位請求について,本件事業に関する平成7年度支出額を1億4740万円に変更し,平成8年度支出分(1億2500万円)を追加して,各支出相当額の損害及び各遅延損害金の賠償を求める訴え変更の申立て(同変更申立書提出日は平成10年5月26日)をした。

原告らは,平成11年5月19日第2回準備的口頭弁論において,同日付け訴え変更申立書で,被告知事に対し,本件事業に関する公金支出等の差止請求の予備的請求として,Bに対する本件事業に関する違法な本件各支出につき不法行為に基づく支出相当額(平成7年度から平成9年度まで合計3億4240万円)の損害賠償請求権及び各遅延損害金請求権を有しているにもかかわらず,その各行使を怠っていることが違法であることの確認を求める訴えを追加する訴えの変更の申立て(同変更申立書提出日は平成11年5月14日)をした。

原告らは,平成13年3月9日付け第12準備書面(主張整理)において,予備的請求として,平成9年度支出分(7000万円)を追加して,支出相当額の損害及び各遅延損害金の賠償を求める意思を明らかにし,平成14年12月13日第19回口頭弁論において,Bに対する主位的請求として,平成9年度支出分(7000万円)を追加して,平成7年度から平成9年度まで合計3億4240万円の支出相当額の損害及び各遅延損害金の賠償を求める訴えの変更の申立てをした。

(6)  本件事業及びそれに関する公金支出の完了

本件事業の施行に伴う工事は平成10年3月31日に完了し,本件事業に関する県の公金支出は同年5月15日ころ完了した。

第3本案前の答弁に関する争点及び争点に対する当事者の主張

1  訴えの利益(差止請求について)

(被告知事の主張)

本件事業及びそれに関する公金支出は完了しているから,差止請求は,差し止める対象が存在せず,訴えの利益を欠くため不適法であり,却下されるべきである。

(原告らの主張)

訴えの利益を欠くとの主張は争う。

2  監査請求前置ー監査請求期間徒過についての正当な理由(平成7年度の支出のうち4210万6400円分に関する被告知事に対する損害賠償請求権不行使の違法確認及びBに対する損害賠償代位請求について)

(被告らの主張)

平成7年度の支出は,うち576万8000円が平成7年5月2日に,1928万1600円が平成7年7月31日に,922万8800円が平成7年8月8日に,782万8000円が平成7年8月14日に,それぞれ,工事請負代金として支出されたものであり,これら支出合計4210万6400円については,各支出がなされた日から1年の監査請求期間を徒過して監査請求がなされており,不適法である。

本件事業に関する工事請負契約の入札結果は公表され,書面の閲覧が可能であるし,平成4年7月1日施行の沖縄県情報公開条例の情報公開制度を利用することによっても工事請負代金の支出については知り得たといえ,監査請求期間を徒過したことについて,地方自治法242条2項但書所定の正当な理由は認められない。

(原告らの主張)

原告らが,平成7年度支出分のうち4210万6400円について,監査請求期間を徒過したことには,地方自治法242条2項但書所定の正当な理由がある。

工事請負契約の入札結果が公表されていたとしても,具体的な支出日及び支出額を知り得るわけではないし,県の情報公開制度は,県民の公文書の開示を請求する権利を明らかにする目的で制定されたものであって,住民に制度を利用することを義務付けるものではないから,被告ら主張の点をもって,原告らが公金の具体的支出の事実を知り得たということはできない。

3  監査請求前置(平成8年度及び平成9年度支出分に関する被告知事に対する損害賠償請求権不行使の違法確認及びBに対する損害賠償代位請求について)

(被告らの主張)

平成8年度及び平成9年度の支出については,監査請求がされていないから,監査請求前置の要件を欠き,不適法である。

(原告らの主張)

監査請求の前置の有無については,監査請求の内容と住民訴訟の請求に同一性があるか否かにより判断されるところ,原告らによる監査請求は,平成8年度以降の工事の中止,建設業者との請負契約の解約,平成7年度の支出額の返還,既工事部分の原状回復を求めており,本件事業の工事に関する支出全部を監査の対象とし,平成8年度以降の公金支出の差止めが含まれていることは明らかである。そして,本件訴訟では,当初,被告知事に対して,本件事業に関する公金支出の差止めを,Bに対して,平成7年度支出額の損害賠償請求を求めたものであるから,本件監査請求の内容と本件訴訟の請求内容との間には同一性がある。また,住民訴訟において,公金支出の差止めを求めていたところ,その公金の支出が行われてしまった場合には,当該支出を対象として新たに監査請求をする実益はなく,当該支出を行った者を被告とする損害賠償代位請求及び当該損害賠償請求権不行使の違法確認請求を追加提起すればよいと解すべきであるから,本件訴訟における平成8年度及び平成9年度の支出額に係る請求も,監査請求前置の要件を満たしているといえ,適法である。

4  出訴期間(上記3と同じ各請求について)

(被告らの主張)

原告ら主張のとおり,監査請求後の支出分について,訴えの追加的変更によることが認められるとしても,訴えの変更は,新訴の提起に他ならないから,出訴期間の定めのあるものは,その出訴期間内に変更の申立てがなされなければならないのが原則であり,その場合の出訴期間は,当該公金支出を住民が知り得た日から30日以内と解すべきである。そして,上記2指摘の事情によれば,原告らが,各支出のなされたころには,それを知り得たというべきである。

原告らは,本件において,平成8年度支出に関するBに対する損害賠償代位請求について平成10年5月26日,平成8年度及び9年度を含めた被告知事に対する損害賠償請求権不行使の違法確認について平成11年5月14日,平成9年度支出に関するBに対する損害賠償代位請求について平成14年12月13日に,それぞれ訴えの変更をしており,いずれも支出のなされた日から30日を経過した後で,出訴期間を経過した後になされたものであることは明らかである。

よって,訴え変更により追加された請求については,出訴期間を徒過したもので不適法であり,却下されるべきである。

(原告らの主張)

上記3主張のとおり,本件監査請求の内容と本件訴訟の請求内容との間に同一性があり,当初の訴えが適法な出訴期間内に提起されているのであるから,訴えを追加的に変更した請求についても,出訴期間の要件は満たしているというべきである。

被告らが主張するように,訴えの追加をする際の出訴期間を当該公金支出を住民が知り得た日から30日以内と解した場合,地方自治法が住民に与えている1年間の監査請求期間が全く考慮されないこととなり,出訴期間の算定において,個別に監査請求手続をとった場合に比して,住民に著しく不利益な結果となり,不当である。

5  住民訴訟の対象及び違法事由(被告知事に対する損害賠償請求権不行使の違法確認及びBに対する損害賠償代位請求について)

(被告らの主張)

地方自治法242条の2第1項の規定に基づく住民訴訟の対象事項となるのは,公金の支出等のいわゆる財務会計上の行為に限定される。また,地方自治法における住民訴訟制度は,普通地方公共団体の行政一般の適正を確保することを目的とするのではなく,地方公共団体の財務会計の適正を担保することを目的とする制度であるから,住民訴訟において問題とされる違法事由は,専ら地方公共団体の財務会計の適正を図る観点からの違法事由であり,裁判所が,住民訴訟においてそれ以外の観点から違法事由の有無を審理・判断することを同法は予定していないというべきである。

よって,本件訴訟において,本件事業の違法を問題とし,財務会計上の行為以外の原因行為の違法を主張している原告らの本件訴えは,住民訴訟として不適法であり,却下されるべきである。

(原告らの主張)

原告らは,本件訴訟において,公金支出等の財務会計上の行為を対象とし,その違法性についても,本件事業が違法であるため,県と本件事業の工事業者との契約が違法であり,工事代金等の支出も違法であるとして,財務会計上の行為自体の違法性を問題としているのであって,住民訴訟として適法である。

第4本案に関する争点及び争点に対する当事者の主張

1  先行する原因行為の違法と当該財務会計行為の違法との関係について

(原告らの主張)

住民訴訟において問題とすべき財務会計行為の違法性は,その制度趣旨に鑑み,当該行為により地方公共団体に財産的損失を与えることが法的に許容されるか否かという観点から総合的に評価されるべきであり,この違法性の評価は,一連の行政過程から財務会計行為だけを取り出し,これを他から切り離して独立には評価することができず,財務会計行為とその原因となった行為を一体的に捉えて初めて的確に判断することが可能である。

よって,財務会計上の行為の原因行為が違法であることにより,当該財務会計上の行為が,当該地方公共団体の財産的利益の擁護という観点からして,違法となる場合があり,本件はその場合に該当する。

(被告らの主張)

たとえ財務会計上の行為に先行する原因行為に違法事由が存する場合であっても,財務会計上の行為を捉えて損害賠償請求を問うことができるのは,その原因行為を前提としてなされた当該職員の財務会計行為自体が財務会計法規上の義務に違反する違法なものであるときに限られるとするのが相当であり,先行行為の違法が後行の財務会計上の行為に影響を及ぼすのは,処分が著しく合理性を欠き,そのためこれに予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵が存する場合に限られる。

2  本件事業の違法性の有無について(平成13年6月15日の第13回準備的口頭弁論調書添付の争点整理案(改訂版)に基づく)

(原告らの主張)

(1) 林業基本法(平成13年法律第107号による改正前のもの。以下,「林業基本法」という場合,同改正前のものを指す。)違反

林業基本法3条2項では,国の林業政策の目標達成に必要な諸施策について,国土の保全その他森林の有する公益的機能の確保及び地域の自然的経済的社会的諸条件を考慮して講ずるとし,同法4条2項では,国土の保全その他公益的機能を有する国有林野については,その機能が確保されるように努めるとし,同法5条では,地方公共団体は,国の施策に準じて施策を講ずるように努めなければならないとして,地方公共団体の行う施策にも同法を準用している。

ここにいう自然的条件考慮要件は,その内容として環境影響調査義務を内包しているところ,本件事業については環境影響評価が行われておらず,本件事業の内容自体も,自然的条件考慮要件に反している。

経済的条件考慮要件は,林業施策の経済的合理性として,費用対効果分析を要求し,社会的費用便益分析によって担保されるところ,本件事業においては,いずれの分析も行われていない上,本件事業の内容自体も,効果は期待できないのに,自然破壊による環境保全事業,自然災害による災害復旧事業を不可避なものとしており,費用が効果を上回ることが明らかであって,経済的合理性を欠く。

社会的条件考慮要件については,林業施策の必要性を地域の社会的条件に照らして検討するものであるが,本件事業では,国頭村の地域の林業や生活に必要な道路は整備済みであり,地域の社会的条件からは本件林道を必要としないにもかかわらず,同要件が考慮されていない。

また,これらの各考慮要件を充足するためには,林業施策につき総合的なアセスメントを実施する必要があるが,本件事業では必要性や相当性の検証,代替案の検討が全くなされておらず,意思決定過程の合理性を欠く。

(2) 森林法違反

ア 林地開発許可制度

森林法10条の2においては,地域森林計画の対象となっている民有林において開発行為をしようとする者は,省令で定める手続に従い,都道府県知事の許可を受けなければならないとされている。この許可制度は,同条1項1号において,国又は地方公共団体が行う場合は適用されないと規定されているが,これは,国や地方公共団体が主体となる場合には許可基準に抵触しない開発行為がなされることが当然であるから許可を要しないという趣旨であって,地方公共団体等による林地開発行為においても,それが同条2項の許可基準に抵触するような内容・態様のものである場合には,同条違反として違法と評価されるべきである。本件事業については,その施行区域の一部は,水源かん養保安林,土砂崩壊保安林,土砂流出保安林に指定されているから,同条2項の許可基準に抵触し,違法である。

イ 保安林の解除手続,伐採許可

保安林において立木の伐採等土地の形質を変更する行為を行う場合には,都道府県知事の許可を要し(同法34条),保安林の指定の理由が消滅したときは保安林の指定を解除しなければならない(同法26条1項)。

本件事業の計画路線範囲内には水源かん養保安林(辺野喜ダム上流一帯)と土砂流出防備保安林(奥川流域の4か所)及び土砂崩壊防備保安林(奥川流域の2か所)が存在し,本件林道は,水源かん養保安林を約3ないし4キロメートル以上,土砂流出防備保安林を約2キロメートル以上,土砂崩壊防備保安林を約2キロメートルにわたって通過し,各保安林内において,相当量の立木伐採,立木損傷,下草等採取,土地形質の現状変更がなされ,恒久的に保安林の現状を変更するものであるから,本件事業の実施に先立ち,該当部分の森林について保安林解除の手続をとる必要があった。

仮に,保安林解除手続をとらないのであれば,本件事業が保安林内の立木を伐採する以上,少なくとも同法34条1項の許可を得る必要があったにもかかわらず,本件事業は,同項所定の伐採許可さえもとらずに実施された。

被告らが許可を得たとして主張する同法34条2項の土地の形質変更許可は,測量及び地質調査のための作業許可であり,本件事業を実施する工事のための作業許可ではない。また,本件事業は,未舗装の林道を恒久的にアスファルトないしコンクリート敷きに全面的に作り替え,規模も著しく拡大するものであり,他方,土砂流出防備保安林及び土砂崩壊防備保安林は禁伐指定を受けているのであるから,同法34条1項及び2項の許可要件を欠き,保安林の解除手続が必要とされていたものである。

(3) 沖縄県環境影響評価規程違反

沖縄県環境影響評価規程によれば,県内における林道新設の場合,広域基幹林道で車道幅員が4メートル以上,延長2キロメートル以上のものについては,環境影響評価を行わなければならないところ,本件事業においては,環境影響評価が実施されておらず,違法である。本件林道は,ほとんどの部分において未舗装既存林道の拡幅・改築という形をとっているものの,その事業規模,周辺の生態系に与える影響からすれば,広域基幹林道の新設に該当するというべきであり,環境影響評価が必要である。また,既設林道の拡幅は林道の新設に当たらないとする被告らの主張によっても,少なくとも,既存の造林作業道A区間及び同B区間に対応する部分については,新設というべきであるところ,両区間を合計すると2050メートルで,基準の2キロメートルを超えるのであって,上記規程に基づく環境影響評価が必要であった。

(4) 文化財保護法違反

天然記念物の保存に影響を及ぼす行為をしようとするときは,文化庁長官の許可を受けなければならない(文化財保護法80条1項)ところ,本件事業は,自然林の伐採やその後の立ち枯れ,天然記念物の生息域の分断により,天然記念物の生息範囲を縮小させた上,本件林道を通行する自動車等の騒音や排ガスにより天然記念物に悪影響を与え,本件林道の側溝設置物への天然記念物である小動物の落下などを招き,その生存を脅かすものであるが,文化庁長官の許可を受けておらず,違法である。

(5) 絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(平成11年法律第160号による改正前のもの。以下,「種の保存法」という場合,同改正前のものを指す。)違反

国内希少野生動植物種の生きている個体は,捕獲,採取,殺傷又は損傷をしてはならない(種の保存法9条)とされ,「生きている個体の捕獲等」とは,その個体に影響を及ぼす行為を広く意味し,故意過失を問わないと解すべきであるところ,本件事業は,自然林の伐採やその後の立ち枯れ,国内希少野生動植物種の生息域の分断により,同動植物種の生息範囲を縮小させた上,林道を通行する自動車等の騒音や排ガスにより同動植物種に悪影響を与え,側溝設置物への小動物の落下などを招き,その生存を脅かしているのであるから,これに該当する。同法54条では,地方公共団体が行う事務又は事業については同法9条の適用を除外しているが,地方公共団体の事業においては,捕獲等を回避する措置がとられるのを当然の前提としているから除外されているのであって,地方公共団体の事業であっても,捕獲等の結果が予見されるときにはその回避義務があるというべきであり,これを怠ったときは違法となる。

また,地方公共団体は,国内希少野生動植物種の生きている個体の捕獲等をしようとするときは,あらかじめ環境庁長官に協議しその同意を得なければならない(同法54条2項)ところ,本件事業では,環境庁長官に協議して同意を得ておらず,違法である。

(被告らの主張)

(1) 林業基本法について

林業基本法は,国の林業に関する政策の目標を明らかにし,その目的達成に資するための基本的な施策を示そうとする宣言立法であり,法の内容自体は一般的抽象的事項を規定するに止まり,同法の規定自体から具体的な法的義務を導き出すことはできない。

また,同法3条2項にいう,林業政策の目標達成に必要な諸施策は地域の自然的経済的社会的諸条件を考慮して講ずるとは,林業の発展が,地域的条件によって左右されるところが大きく,気候,地勢,土壌,林野所有の在り方,市場との関係,就業動向その他広く地域全体の自然的経済的社会的諸条件に応じて異なった現れ方をするから,林業政策についてもそれらの諸条件に応じて画一的でなく,きめ細かく実施しなければならないという意味を強調したものにすぎない。よって,同条項は,環境影響評価調査や費用対効果分析,総合的なアセスメントを実施することを義務付けるものではない。

(2) 森林法について

ア 林地開発許可制度

森林法10条の2第1項但書1号において,国又は地方公共団体が行う開発行為については都道府県知事の許可が必要とされないことは文言上明らかである。なお,本件事業については,事業着手前に,積極的に,地形,水系利用等の自然環境を含めた全体計画調査を行い,かつ,自然環境等の保全や災害防止,希少動物の保全に留意して事業が実施された。よって,本件事業が同法10条の2第2項等の規定の趣旨に抵触することはない。

イ 保安林の解除手続,伐採許可

本件事業に際しては,当該森林地域が,水源かん養保安林及び土砂崩壊防備保安林とされていることから,同法34条2項に基づき,水源かん養保安林につき,平成7年11月6日沖縄県北林指令第2号,平成8年2月27日沖縄県北林指令第7号,土砂崩壊防備保安林につき,平成8年2月19日沖縄県北林指令第5号,平成9年7月14日沖縄県北林指令第18号で,知事の土地の形質変更許可(作業許可)を得た。通達(「改正許可基準等の運用に当たっての留意事項について(平成2年7月3日2-20林野庁治山課長から各都道府県林務担当部長・営林・(支)局経営,業務部長あて)」,以下「本件通達」という。)によれば,「林道については,車道幅員が4メートル以下であって,森林の施業・管理に供するため周囲の森林と一体として管理することが適当と認められる場合に作業許可の対象とする。」と規定されており,本件事業はこれに該当し,保安林解除手続の必要はない。

また,本件事業施行区域には土砂流出防備保安林は存在しない。国頭村における土砂流出防備保安林については,保安林台帳上,本件事業施行区域内には何ら記載がない一方で,他の区域に存する土砂流出防備保安林は202ヘクタールとなっており,市町村別の民有保安林現況表等によっても,土砂流出防備保安林の面積は202ヘクタールで変化はなく(乙10ないし26),土砂流出防備保安林の位置及び面積につき,保安林台帳の記載が正しいといえる。全体計画調査報告書(甲23)添付の規制区域区分図の表示は誤りである。

(3) 沖縄県環境影響評価規程について

本件事業は,既設林道を拡幅する改築工事が主体であり,林道の新設ではなく,同規程の要件に該当しないため,環境影響評価の必要がない。仮に,相当程度の自然の改変を必要とした造林作業道A区間を「新設」と評価したとしても,この区間は1.5キロメートルしかなく,本規程には該当しない。また,県は,環境影響評価こそ実施しなかったが,事業着手前に積極的に,地形,地質,気象,動植物,水系利用等の自然環境を含めた全体計画調査を行い,自然環境に関する必要な情報を収集し,その調査結果に基づき保護措置を検討した上で本件事業を実施した。

(4) 文化財保護法について

文化財保護法80条1項但書は,影響が軽微である場合はこの限りでないと規定しており,①本件事業は,既設林道等の拡幅工事が主体であること②編入予定の既設林道等は昭和一桁年代から開設されている路線もあり,統一して整備した方が既存のU型側溝の改良進度が速まることにもなり,小動物対策上好ましいこと③側溝はL型を採用し,やむを得ずU型を採用する場合は,蓋を付けるか小動物が脱出可能なスロープ型を適所に配置していること④集水ますにもスロープを設けていることからして,自然環境に配慮して遂行しており,同項但書に該当する。

(5) 種の保存法について

種の保存法54条2項所定の「生きている個体の捕獲等をしようとするとき」とは,特定の個体を故意に捕獲,採取,殺傷又は損傷することを意味する。本件事業は,特定の個体を故意に捕獲,採取,殺傷又は損傷するものではないから,同項に違反しない。

3  本件公金支出自体の違法性の有無について

(原告らの主張)

国頭村における林業人口はわずか1.5パーセントにすぎず,木材供給量は減少の一途にあり,木材関連産業も減少,素材生産量も減少している。この程度の森林施業のためには,既存林道で十分対応が可能であり,広域基幹林道を整備する必要性はない。しかも,県は,本件林道編入予定路線につき,林業従事者の利用状況を調査しておらず,既存林道の現実の利用状況を調査することなしに,森林施業のために広域基幹林道の整備が必要であると主張している。

また,沿岸道路の一部不通時における迂回路としての役割については,交通量調査,交通予測調査等が行われておらず,どの程度の需要が存するか不明である上,沿岸道路よりもむしろ林道の方が台風などには弱く,通行止めとなる可能性が高いのであって,仮に迂回路としての役割を期待するにしても,既存林道を舗装する程度で対応が十分可能である。

本件林道の巨額の建設費用及び将来にわたって支出が予想される維持修繕費用を考えると,本件事業に要する費用は,本件林道開設によってもたらされる効果をはるかに超えるものであって,経済的合理性を欠くことも明らかである。

このように本件事業の実施は,必要性や経済的合理性を欠くところ,本件事業施行区域の自然環境の価値を適正に考慮せず,本件林道開設による法面の土砂流失・崩壊,林道の陥没・決壊・崩落等自然災害の発生を考慮せず,本件事業施行区域が水源として重要な地域であることを適正に考慮せず,災害時の迂回路としての役割やレクリエーション目的の利用を過大に評価するなど,その裁量判断の方法及び過程に誤りがあり,明らかに裁量の逸脱・濫用があるから,原因行為である本件事業の違法性の有無に関わらず,本件事業のための公金支出は,地方財政法2条1項,3条1項,4条1項及び8条に違反し,違法である。

(被告らの主張)

本件事業は,①支線の林道の整備と相まって,林道網の適正配置による計画的な森林づくりの促進,木材生産機能,輸送力向上,交通安全の確保など林業の合理的経営及び集約的管理,②小面積の伐採・搬出による自然環境への配慮,③森林レクリエーションの場としての活用,④災害時等の迂回路,⑤水源かん養機能の確保等森林の管理を図ることを目的としている。

国頭村の林業従事者数は約260人(平成7年就業者数の9.7パーセント)であり,これらの従事者により,フローリング,家具等の内装材や土木用資材の生産,チップ生産が行われており,県林業の中核的地域である。また,本件林道の利用区域内の人工林率は,県平均に比べ格段に高い。既設林道においては,①図面上の幅員が4メートルであったが,実際には草が覆い被さっていてそれだけの幅員が確保できない箇所があったこと②路面が未舗装で,雨等の影響でえぐられた部分が生じ,木材の搬出が困難であったこと③原木搬出時,荷崩れの危険を避けるため,かなり迂回して工場まで運んでいたこと④道路勾配がきつく,運搬のため普通のダンプカーを使用できず,4輪駆動車等に限られていたことなど,非効率的であった。

このような事情から,統一した基幹林道が必要であるとして,平成3年6月,国頭村から,県に対し,林道開設の要請があった。

広域基幹林道の場合,林業効果指数が1.2以上であることが国庫補助の採択基準の一つであるが,本件林道は7.19となっており,優に採択基準を満たしている。また,採択基準でいう利用区域森林面積とは,当該林道にその地域内の林業経営及び森林管理を依存することとなる地域のことであるが,山間部においては,原則として国有林,民有林を問わず集水区域を利用区域とすることとなっており,本件林道もこれに従って設定しているところ,本件林道の利用区域は3152ヘクタールあり,国庫補助の採択基準である1000ヘクタールを超えている。また,鳥獣保護区,保安林等の制限林については,適正な手続により施業が認められている森林であり,これらの制限林の諸機能を確保するために,適正な管理を行うことも,林道の機能として必要であり,制限林について林道の利用区域に含めることにも問題はない。本件林道は,米軍に提供された北部演習場(国有林)を除く民有林だけでも,2713.5ヘクタールの利用区域がある。

県は,自然環境に与える影響を最小限にとどめるために,既設林道を利用することとし,通達に従って,全体計画調査を実施した。そして,調査の結果に基づいて,小動物に配慮した側溝や近自然工法を用いる等,自然環境に配慮した細心の工法で本件事業を実施した。

原告らは,既設林道の改良で十分であると主張するが,降雨量が多く,降雨強度の強い本県では,雨に耐え得る道路構造でなければ,道路の損傷が多発し,通行上危険であるので,本件林道を開設することが必要であった。

以上の本件事業の目的,本件林道の必要性・合理性,国庫補助採択基準の充足,自然環境に対する配慮等を総合的に考慮すれば,本件事業遂行のための支出は合理的なものであり,適法である。

第5本案前の争点に対する裁判所の判断

1  差止請求について

前記前提事実(6)記載のとおり,本件事業の施行に伴う工事は平成10年3月31日に完了し,本件事業に関する県の公金支出は同年5月15日ころ完了している(当事者間に争いがない。)。

よって,原告らが,被告知事に対し,本件事業に関する公金支出等の差止めを求める訴えは,訴えの利益を欠くことが明らかであり,不適法といわなければならない。

2  平成7年度支出のうち4210万6400円分の監査請求期間徒過について

本件事業に関する平成7年度の支出において,本件事業施行に伴う工事の請負代金として,576万8000円が平成7年5月2日に(乙38),824万円(乙43)と1104万1600円(乙45)の合計1928万1600円が平成7年7月31日に,922万8800円が平成7年8月8日に(乙47),782万8000円が平成7年8月14日に(乙41),それぞれ支出されたことが認められる(なお,支出額につき,上記各書証においては,国の負担分も含めた各支払工事請負代金額が明らかになるのみであるが,事業費の県負担割合が20パーセントであることは争いのない事実であるところ,被告ら主張の支出額は,各書証において認められる工事請負代金の20パーセント相当額と合致するものであるから,被告ら主張の額を認めることができる。)。これらの合計4210万6400円については,各支出がなされた日から1年の監査請求期間を徒過して,原告らによる監査請求がなされている。そこで,監査請求期間の徒過について,地方自治法242条2項但書所定の正当な理由が認められるか否かが問題となる。

地方自治法において,監査請求に期間制限が設けられた趣旨は,住民訴訟が提訴者の個人的権利や利益と関係なく提起できる客観訴訟であり,普通地方公共団体の執行機関,職員の財務会計上の行為が,いつまでも監査請求ないし住民訴訟の対象となり得るとすると,当該行為の法的安定性を損なうからである。そして,同法242条2項但書は,当該行為が秘密裡になされ,1年を経過してから初めて明らかになったような場合等には,その趣旨を貫くのは相当ではないことから定められたものであって,ここにいう正当な理由の有無は,普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査したときに客観的にみて当該行為を知ることができたか,また,当該行為を知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって判断すべきものである。そして,当該行為が秘密裡になされた場合に限らず,普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査を尽くしても客観的にみて監査請求をするに足りる程度に当該行為の存在又は内容を知ることができなかった場合も同様に,特段の事情のない限り,普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査すれば客観的にみて監査請求をするに足りる程度に当該行為の存在又は内容を知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求をした場合には,正当な理由があると解すべきである(以上につき,最高裁判所昭和63年4月22日第2小法廷判決・裁判集民事154号57頁,同平成14年9月12日第1小法廷判決・民集56巻7号1481頁参照)。

そこで検討するに,本件事業に関し,平成5年から,国頭村において,事業施行に伴う工事がなされていたことは外形的に明らかであるところ,県発注の工事請負契約の入札結果等については,工事名,工事場所,落札金額等に関する書面の閲覧が可能であることが認められる(乙37)。そうすると,県の住民は,本件事業に関する工事請負契約に関する書面を閲覧することにより,その具体的内容等を知ることができ,さらには,県の情報公開制度を利用することによって,当該工事請負契約に関する具体的な工事代金の支出等についても知り得たというべきである。

原告らは,工事請負契約の入札結果が公表されていたとしても,具体的な支出日及び支出額を知り得るわけではないし,県の情報公開制度は,県民の公文書の開示を請求する権利を明らかにする目的で制定されたものであって,住民に制度を利用することを義務付けるものではないから,原告らが公金の具体的支出の事実を知り得たとはいえないと主張する。

しかし,原告らによる本件監査請求が,前記前提事実(4)記載のとおり,本件事業が必要性を欠き,希少種の生息地を破壊するため文化財保護法等に反することを違法の理由とするものであったことからすると,具体的公金支出行為が明らかになって初めてその違法性を認識し得たというわけではなく,具体的公金支出を特定して監査請求をするにしても,客観的にみれば,情報公開制度を利用し得たことが明らかであるから,当該公金支出後,さほど間をおかずして,監査請求をするに足りる程度に当該行為の存在又は内容を知ることが可能となったというべきである。

したがって,原告らが,平成7年5月2日から同年8月14日までに支出された合計金4210万6400円に関して1年間の監査請求期間を徒過したことについて,地方自治法242条2項但書所定の正当な理由があるとは認められず,原告らの主張は採用できない。

そうすると,原告らが,被告知事がBに対する不法行為に基づく損害賠償請求権等の行使を怠っていることの違法確認を求める訴え及びBに対してする損害賠償代位請求のうち,平成7年5月2日から同年8月14日までに支出された合計金4210万6400円に関しては,監査請求期間の徒過について,地方自治法242条2項但書所定の正当な理由が認められないから,適法な監査請求の前置を欠くことになり,不適法といわなければならない。

3  監査請求後になされた支出に関する監査請求前置の要件充足について

住民訴訟を提起するには,当該訴訟の請求と同一の事項について監査請求を経ていることが必要であるが,その請求が同一であるとして住民訴訟の対象となる範囲は,監査請求に係る行為若しくは事実から派生し,又はこれを前提として後続することが必然的に予測されるすべての行為若しくは事実に及ぶと解すべきである。

本件においては,前記前提事実(4)記載のとおり,原告らが,本件事業が必要性を欠き,希少種の生息地を破壊するため文化財保護法等に反するから,県と本件事業の工事業者との契約は違法であるなどと主張して,平成8年度以降の工事の中止,工事請負契約の解約,平成7年度支出の1億4300万円の返還,既工事部分の原状回復等を知事に勧告することを求める本件監査請求をしており,監査請求後の本件事業に関する工事代金支払等の公金支出は,本件監査請求の対象となった本件事業に関する工事や支出等から派生し,又はこれを前提として後続することが必然的に予測される行為といえるから,当該監査請求をもって,監査請求後になされた支出に関する損害賠償請求権不行使の違法確認及び損害賠償代位請求についても,監査請求前置の要件を満たしていると認めるのが相当である。

被告らは,平成8年度及び平成9年度の支出について,監査請求がなされていないから,監査請求前置の要件を欠き不適法であると主張する。

しかし,上記説示のとおり,監査請求の対象となった事業に関する工事や支出等から派生し又はこれを前提として後続することが必然的に予測される行為に関して,改めて監査請求前置を求める必要性が乏しいことは明らかであるから,被告らの主張は採用できない。

4  訴え変更により追加された各請求の出訴期間の要件充足について

前記前提事実(5)記載のとおり,原告らは,監査請求後になされた県の公金支出に関し,訴えの追加的変更により,被告知事の損害賠償請求権不行使の違法確認及びBに対する損害賠償代位請求を提起している。

訴えの追加的変更は,変更後の追加された新請求については,新たな訴えの提起に他ならないから,その新請求について出訴期間が遵守されているか否かは,原則として,訴えの変更時を基準とすべきものである。しかし,変更後の新請求と変更前の旧請求との間に訴訟物の同一性が認められる場合,又は両者の関係からして,出訴期間の遵守の点において,変更後の新請求に係る訴えを旧請求の提訴の時に提起したものと同視し得る特段の事情があるときには,例外的に旧請求の訴えの時に新請求の訴えの提起があったものとみなすことにより,出訴期間の遵守に欠ける点がないと認めるのが相当である。

これを本件についてみると,本件事業に関する公金支出の差止め及び既になされた平成7年度支出分に関する損害賠償代位請求と,監査請求後になされた平成8年及び9年度支出分に関する損害賠償代位請求及びその不行使の違法確認とは,同じ違法主張を前提とするもので,その中心的な争点を共通とし,公金支出の事前差止請求と公金支出後の損害賠償代位請求等は,密接不可分の関係にあり,差止めを求められている公金が支出された場合,これに関して損害賠償代位請求等がなされるであろうことは当然に予測されるものといえる。また,被告についても,当初提訴の時から,被告知事とBを相手方とするものであり,変更後の新請求においても,両名を被告としており,差止請求を維持しつつ,当初から提訴されていた損害賠償代位請求(附帯請求を含む。)の金額が変更され,これに伴う不行使の違法確認が追加されたにすぎない。

そうすると,本件においては,変更後の新請求に係る訴えを旧請求の訴えの提起の時になされたものと同視し,出訴期間の遵守において欠けるところがないと解すべき特段の事情があるものというべきである。

5  住民訴訟の対象及び違法事由について

被告らは,住民訴訟において問題とされる違法は専ら地方公共団体の財務会計の適正を図る観点からの違法であり,裁判所が,住民訴訟においてそれ以外の観点から違法事由の有無を審理・判断することを地方自治法は予定していない旨主張して,原告らが本件事業の違法性を問題としていることを,財務会計上の行為以外の原因行為の違法に該当するとして,住民訴訟として不適法であると主張する。

しかし,原告らは,本件訴訟において,公金支出等の財務会計上の行為を対象としており,違法事由の問題については,後述のとおり,財務会計上の行為の違法事由として当該行為の原因又は目的となった事項の違法性を主張できるかという違法性の判断に関わるものであり,財務会計上の行為をした当該職員に対する損害賠償代位請求訴訟を前提とした場合であっても,当該職員が財務会計上の行為を行うに際して,財務会計上の行為に先行する原因行為に違法事由が存する場合,その職務上,どのような財務会計法規上の義務を負うかという観点から検討されるべきことであるから,これは当然本案において審理・判断すべき問題であり,原告ら主張に係る違法事由が裁判所が住民訴訟において審理・判断することを同法が予定していないものとはいえないから,被告らの主張は採用できない。

第6本案に関する争点に対する裁判所の判断

1  証拠(甲1(枝番号を含む。以下同じ。)ないし7,甲9ないし32,甲34ないし42,甲49,甲56ないし61,甲69ないし71,甲74ないし76,甲78,甲80,甲82,甲84,乙2,乙8ないし26,原告C,証人D,平成12年9月29日実施の検証結果)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

(1)  やんばる地域の自然環境

国頭村は,沖縄本島の最北端,北緯26度,東経128度付近に位置し,東村,大宜味村と隣接しており,これら沖縄県北部地域の最北部三村,国頭村,東村,大宜味村にまたがる山岳地域を通称やんばる(山原)という。

やんばるは,イタジイを主とする亜熱帯常緑広葉樹に覆われており,その土壌は国頭マージと呼ばれる赤土である。

やんばるには,沖縄本島最高峰の与那覇岳(498メートル),西銘岳(420メートル),伊湯岳(446メートル)などの大小幾多の山々が中央部を縦走して連なり,海岸近くまで丘陵地となっている。山々には無数の沢が流れ,大小の多くの河川となって海に注いでいるが,河川勾配が急峻で,流路面積が短い河川が多く,そのため渓流が複雑な地形を形作り,亜熱帯の渓流に特徴的な渓流植物群落が発達している。これらの植物は各々渓流により隔離され,固有種の分化が多い。

やんばるの年間降雨量は,与那覇岳山頂付近では3000ミリメートルを超えるなどの多雨地域であり,大量の雨水をスポンジのように吸収して貯えるイタジイの自然林が,県民の水瓶,生活用水の供給源として極めて重要な機能を果たしてきた。

やんばるには,多くの固有種が分布生息しており,文化財保護法による天然記念物,種の保存法・同法施行令17条所定の希少動植物種,環境庁編日本版レッドデータブック「日本の絶滅のおそれのある野生生物」掲載の絶滅危惧種・危急種・希少種が多数見られ,やんばるは,その種の多様性,希少性という点で国際的に有名であり,「東洋のガラパゴス」ともいわれている。やんばるにだけ生息する動植物は,現在判明しているものだけで192種に及び,これらの生物を育んできたのが,イタジイを主とする亜熱帯常緑広葉樹林である。イタジイの森は,そこに生息する生き物たちを台風や冬の北風,潮風から守り,夏の強い日差しを和らげ,これら希少動植物の生息に最適な温暖湿潤で安定した環境を保つ役割を果たしてきた。

やんばるの固有種の代表例といえるのはー①「ヤンバルクイナ」国指定天然記念物,種の保存法希少野生動植物種に指定され,絶滅危惧種である。世界中でやんばるのみに生息する。飛翔力のないこの鳥は,木立の密度が高く,樹冠が鬱閉し,林床にも植物が密に生息する沢や谷沿いに生息し,明るいところには稀にしか現れないといわれている。②「ノグチゲラ」国指定特別天然記念物,種の保存法の希少野生動植物種に指定され,絶滅危惧種である。世界中でやんばるの原生的自然林の中だけで生息する一属一種のキツツキで,営巣適木は樹齢50年以上のイタジイの大木や老木で,傾斜した部分(地表に対し60から75度)を巣として利用し,同じ巣は再度使用しないなど多くの条件がある。生息数がわずか90羽前後(1990年時点)と推定されており,個体群を維持できるかどうか危惧されている。③「ヤンバルテナガコガネ」国指定天然記念物,種の保存法の希少野生動植物種に指定され,絶滅危惧種である。日本最大の甲虫類で,やんばるの自然林だけに生息し,学術上は「生きている化石」の一つとされている。幼虫は老木や古木のウロ(樹洞)の中の腐食土を食べて成長する。やんばるの開発に伴い,ウロのある古木が急速に失われている現在,絶滅が最も心配されている種である。④「オキナワトゲネズミ」やんばるのみに生息する固有亜種で,学術的に貴重な動物とされている。国指定天然記念物,危急種。⑤「リュウキュウヤマガメ」やんばる,久米島,渡嘉敷島だけに生息する固有亜種。国指定天然記念物,危急種。⑥「ホントウアカヒゲ」沖縄本島と慶良間諸島に生息する固有亜種の留鳥。国指定天然記念物,種の保存法希少野生動植物種,危急種ーである。

(2)  広域基幹林道大国線

広域基幹林道大国線(以下「大国林道」という。)は,国頭村字与那の県道2号線を起点として,大宜味村字大保の国道331号線に至る全体延長35.5キロメートルの林道であり,昭和52年度に着工し,総事業費45億9000万円,17年の歳月をかけて,平成5年度に完成した。

大国林道は,その開通式を平成6年5月18日に予定していたが,雨で土砂崩れが起こり,通行不能となったため延期され,平成7年3月30日に実施された。その3か月後である平成7年6月にも大雨のため27か所で土砂崩れが起こり,路肩がガードレールごと崩れ落ちるなどし,その修復費用が1億1000万円を超えるとの県の見解が発表された。

大国林道開設後,リュウキュウヤマガメ等の小動物が,林道脇のU字溝に転落して脱出できないまま死亡するという例が報告されたり,大国林道で車にひかれて死んでいるヤンバルクイナのひなが発見されたことが新聞で報道されるなどした。

(3)  本件林道開設の経緯

平成3年6月11日,国頭村長が,県知事に対し,「大国林道区間延長について(要請)」と題する書面(乙2)において,「本村の林道は,広域基幹林道と普通林道を組み合せた林道網整備計画に基づいて開設されている。林道は,林業の合理的な経営および森林の集約的な管理のための基幹施設であるばかりでなく,山村地域の生活道として,また,森林レクリエーション施設にも広く利用され,多面的に活用されている。林道を整備することにより進行する本村の過疎化を防止し,林業者の定住化と林業の担い手の育成確保,沖縄北部広域圏の経済的社会的地位の向上を図る。」「北部地域の総合的な振興を図るために,国頭村字奥から名護市世富慶に至る中央山頂部を通過する林道を開設構想が打ち出された経緯もあり,大国林道はそれの代替え施設でもあることから,ポスト大国として与那から奥までの区間の延長が重要であるため,早期に継続してもらいたい。」旨述べて,県により,大国林道の区間延長として本件林道を開設することを要請した。

県では,平成3年11月26日,既に作成されていた平成元年4月1日から同11年3月31日を計画期間とする沖縄北部地域森林計画書(甲19)を変更し,始期を平成3年11月26日とし,終期を同11年3月31日とする沖縄北部地域森林計画変更計画書(甲25)で,林道の開設その他林産物の搬出に関する事項において,路線名を奥与那線,延長18.0キロメートル,利用区域面積1600ヘクタールとして,本件林道の開設を組み込んだ。また,始期を平成6年4月1日とし,終期を同16年3月31日とする沖縄県北部地域森林計画書(甲20)においては,本件林道に関し,延長14.2キロメートル,利用区域面積3152ヘクタールとし,備考欄に改築である旨記載された。

その後,県は,本件林道開設の事業実施計画を策定し,国の補助金交付申請手続を行い,平成4年7月,本件事業に関し,林野庁長官通達(甲78,「林道事業に係る自然環境保全対策について」)に基づく全体計画調査を,コンサルタントに委託して行うこととし,県農林水産部北部林業事務所事業課のD(同年4月同課配属,以下「D」という。)が,その調査業務の指導を担当し,平成5年2月,全体計画調査報告書(甲23)が作成された。

県は,本件林道の予定路線について,この全体計画調査以外に,林業従事者の利用状況,一般者の利用状況及び予測調査,動植物の棲息環境に与える影響に関する調査等は行わなかった。

(4)  全体計画調査報告書の内容

ア 調査の目的

「広域基幹林道奥与那線の整備計画にあたり,本路線が地域林業の活性化のみならず,沖縄本島北端沿岸に分散する国頭村各集落の交通網形成の一環としても重要な位置を占める路線であること,ならびに,路線調査地を含む沖縄本島北部山岳地域が貴重な野生鳥獣の生息テリトリーや,植物の分布地として重要な地域であることに鑑み,この調査では,林道の開設が林業経営をはじめ地域社会に与える効果と,自然環境に対する影響及びその保全上留意すべき事項を明らかにする。

また,以上の調査結果に基づき,計画路線の現地踏査と測点設定及び概略測量を行ない,調査区域を含む広域的な環境保全に配意した経済的でかつ林道規程・林道技術指針等の諸規程に適合した整備計画を策定し,概略設計を行うものである。」

イ 調査地の概要

「調査地は,沖縄本島北端の村である国頭村中央部の脊稜山地の北半分(照首山と西銘岳を結ぶ稜線)一帯を占め,行政区域は沖縄県国頭郡国頭村のみに属している。調査区域は,従来の全体計画調査事業の場合(開設事業の場合),当該路線の利用区域を指すのが一般的であるが,本調査の場合は全線既設道路を利用する計画であり,ルートラインがほぼ確定した状態であることから,計画路線の両側それぞれ500メートル程度をその範囲とした。なお,自然環境調査の内容に応じ,調査範囲を広げる必要もあるので,西銘岳周辺と辺野喜川流域は路線の西側2000メートル程度まで区域を広げた。区域面積は,2120ヘクタール(測定)である。調査区域は国頭村の基幹産業のひとつである林業及びその関連事業の資源地帯であるとともに,ヤンバルテナガコガネ,ノグチゲラをはじめとする貴重な野生鳥獣の生息テリトリー(西銘岳・佐手・伊部岳各鳥獣保護区とその周辺)を含んでおり,辺野喜ダム,宜名真ダム,普久川ダムの水源地帯としても重要な地域である。」

ウ 調査路線

「調査路線は,県道2号線(与那安田横断線)の照首山南側を起点とし,ほぼ脊稜山地沿いに,照首山林道,我地佐手林道,楚洲林道,造林作業道,伊江林道,の各部分を利用連結し,さらに奥1号林道を全線当路線に編入して,稜線から奥川沿いに下り,国道58号線の奥の集落の南側に連結する(林道終点と国道の間に村道を介在する)総延長1万4235メートルの1級規格(全幅5メートル)の広域基幹林道である。なお,本路線は,前記のように全線既設道路(林道及び作業道)を改築利用する線形になっており,作業道の区間を除き,全幅4メートル(2級)から5メートル(1級)の拡幅改良,路側施設と法面改良,排水施設の改良,舗装等が主な整備内容で,線形改良は2級から1級への規格変更に伴う整備内容である。」

エ 土地利用・森林の概況

「本村は村土の82.5パーセントが森林で占められている。(中略)森林は26.4パーセントが国有林,73.6パーセントが民有林であり,国有林は米軍演習地になっている部分が多い。調査区域の照首山から北側へ向かう稜線の東側の普久川の上流域は,ほとんど米軍演習地になっている。(中略)整備対象路線の利用区域は,利用区域図に示したとおりである。総面積は2955ヘクタールで,民有林が2517ヘクタール,国有林が438.5ヘクタールである。国有林は全域軍用地であり一般的な森林施業はほとんど行われていない。従って,実質的な利用区域面積は2517ヘクタールと考えてよい。利用区域内の制限林は,水源かん養保安林が398.75ヘクタール(県有林57,58,59林班),土砂流出防備保安林が64.66ヘクタール,特別鳥獣保護区が60.40ヘクタールである。」

オ 地域の道路網

「本村は半島の先端部に位置しているために,集落はすべて海岸沿いにある。各集落と村役場のある辺戸名とは,半島沿岸を周回する国道58号線及び県道名護国頭で連絡されている。2本の道路は半島先端の集落奥で連絡しており,西岸側を国道58号線,東岸側を県道名護国頭線が走行している。また,半島を横断する一般公道には西岸側の与那と東岸側の安田を連絡する県道2号線(与那安田線)がある。村はこの県道を境に北半分と南半分に分かれるが,調査区域はこの県道与那安田線と沿岸を走る国・県道に囲まれた北半分の中にある。国県道に囲まれた北半分の地域の中は林道が連絡系を形成しており,林業のみならず,農耕地への通いや海岸沿いの国県道の災害時の迂回路として利用されている。これらの林道は現在,未舗装のものが多く,勾配の急な区間では路面の荒廃している所もあるため,各集落からは舗装と改良に対する要望が多い。この北半分地域は横断線形の林道である我地佐手線,伊江線によって,南北に3分されるが,両林道の間を連絡する道路が未完(古い造林作業道があるが,現在は利用不可能)である。この部分を整備して連絡系を形成すると,北半分地域の山岳地帯から与那にある森林組合の加工施設への連絡がスムースになる他,奥,伊江方面から県道与那安田線へ連絡する迂回路が形成される。」

カ 本件林道整備の目的

「本路線が林道本来の木材の生産手段としてはたす役割以外に,国頭村北部の集落のロードネットワークの一部としても重要な機能を持っていることが明らかになった。また,森林施業の面でも,この区域のほとんどすべての林道が整備路線に接続した線形になっていることから,事業対象地と村内の各集落の連絡や事業地間の移動の枢軸として機能することが期待されている。ことに,今後,タワーヤーダをはじめとする様々な林業機械が利用されるようになると,集約性を高めるために事業地間でのオペレータや機械の移動が頻繁に発生することになり,本路線はそのための運搬路としても高度な機能をもとめられるようになる。国頭村では,県内随一の森林地帯というユニークな環境を求めて,外部からの入り込み者が増加しており,辺野喜ダム周辺に森林レクリエーション施設整備の計画を持っている。

村ではさらにこの周辺エリアや調査区域内の豊かな自然に多くの人々がふれあえる機会を増やそうと考えており,本路線はそのような森林レクリエーションのためのアクセス道路としても機能することが期待されている。もともと,木材の生産手段としてそれぞれ個別のポリシーによって開設された現状の本路線が,必ずしも上記のようなニーズに対応できるような状況でないことは既述したが,村の基幹施設のひとつとして機能してゆくためには,少なくとも大型車(消防車,救急車,小型バス等を含む)がスムーズに走行できるだけの幅員,路側施設の安全性,及び走行の快適性をそなえる必要がある。すなわち,現在,別々の路線として連結しているだけの本路線を,統一性のある規格(自動車道1級)で1本の幹線林道に改良し,林業関係者以外にも広く利用される山村道にすることが,本事業の目的である。」

キ 環境調査

環境調査は,法的規制事項については,森林簿・林班区分図等を資料として,調査要領(林道必携設計編)に従って全部の項目について位置,面積等を調べるほか,既存の資料を基本として,補足的に現地踏査を行うなどして,水系利用,地形・地質,気象,荒廃現況,動物・植物,森林現況,道路現況について調査をしており,下流域への土砂流出防止に留意した伐採方法を工夫することや,乾燥と風害により植物群落が浸食されることを避けるため,保全対象とする群落周辺では少なくとも50メートル以上現存の立木を残存させ,できるだけ面的に広がりのある状態で保存すべきことなどを指摘している。

また,保全対象となる貴重な動植物についてリストアップし,調査区域内で生息が確認されている絶滅危惧種のヤンバルクイナ,ノグチゲラ,ヤンバルテナガコガネ,危急種のオキナワトゲネズミ,ケナガネズミ,ホントウアカヒゲ,リュウキュウヤマガメ,イシカワガエル,ホルストガエル,アラモトサワガニ,オオサワガニ,クロイワゼミの12種が,いずれも深い森林をすみかにし,ノグチゲラ,ケナガネズミ,ヤンバルテナガコガネには大径木の存在が生息条件として必須であること,両生・爬虫類の危急,希少種は深い森の中の沢の源流に生息するものが多いこと,ヤンバルクイナやノグチゲラが路線予定地周辺にも出没していることを指摘している。そして,地上歩行をする小動物や,水辺に沿って移動する小動物にとって,トラフ型のコンクリート側溝,流路をしゃ断するする形の盛土構造,連続するコンクリート構造物,長大な法面等の構造は,生息域を限定してしまう可能性が高いため,構造物に重点的な改良が必要であるとして,

「①側溝はU型側溝をすべて撤去してL型にするか,有蓋とする。②集水ますには山側に地山に沿ったスロープを付ける。スロープの表面はコンクリートに自然石をうめ込む。③暗渠は地山に接して配置する。④横断溝を短間隔(100メートル内外)に配置して流水を一箇所に集めない。(源流の保全)⑤フトンカゴによる流未処理で水流を緩和する(源流の保全,浸食防止)。⑥地上歩行生物が計画路線を横断しそうな箇所への標識の設置(生物の交通事故防止)⑦自然に復しつつある法面(木木類の侵入が顕著な法面)には,できるだけ手を加えないような改築方法をとる。手を加えた法面は可能な限り緑化する。⑧路側のコンクリート構造物の切れ目を保全するような改築方法をとる。(現状以上に構造物を連続させない)」などの対策を挙げている。

ク 法的規制事項

「調査区域内には,水源かん養保安林,土砂崩壊防備保安林,特別鳥獣保護区の3項目以外に法的な規制はない。水源かん養保安林は,辺野喜ダムの上流域一帯が指定を受けている。森林施業上,特に厳しい規制はないが,ダムの水質保全のためには,現在,稜線上を走行している水源かん養保安林内の路線を変更しない方が良い。土砂崩壊防備保安林は奥川流域に4箇所指定されている。この流域は,高位段丘面である標高150~200メートルの台地の縁に支流の谷頭がつき上げているために崩壊地が多く,奥川本流にも砂防えん提が施設されている。保安林内は全て禁伐措置がとられている。鳥獣保護区は,西銘岳鳥獣保護区,佐手鳥獣保護区,伊部岳鳥獣保護区の3箇所の指定がある。伊部岳鳥獣保護区を除く2箇所は,禁伐ないし択伐の施行指定がなされている。特に保護種の指定はなされていないが,いずれも,動物の項に述べたように,ヤンバルテナガコガネ,ノグチゲラ等貴重な生物の生息域となっており,生息域も限定されていることから,今後も区域内の森林が分断されることのないような対策がとられる必要がある。」

ケ 路線整備推進上の留意事項

路線整備推進上の留意事項として,地形に関し,中腹以下に路線を移動すると不経済有線形になるので,稜線部を走行している原道の位置は,できるだけ維持した線形をとる必要があること,地質に関し,幹線林道としての機能を維持するために全線舗装をすることになっているが,全般に浸食を受けやすい地質なので,路面排水施設を多めに設置し,地山や源流部への排出箇所では,フトンカゴ等で確実な流未処理を行う必要があり,切取法面には,硬質粘土状の岩体が出現する所が多く,植生が活着しにくいので,原道の大きな切取法面で自然に復しつつある所(植生がよく入っている所)はできるだけ手を加えない方が良いこと,植生に関し,保全状態の良い老齢天然林に接した区間では,現存の森林を大きく損なうような線形変更や道路構造の変更を避けることが望ましい(特に鳥獣保護区と国有林の周辺)こと,動物に関し,鳥獣保護区を分断するような線形変更は行わないことのほか,上記構造物等に関する8項目の対策をとる必要があること,土地利用・水系利用に関し,ダムの水質保全のために,たん水区域での路線変更は行わず,既設の水道施設が埋設されている奥1号線の区間では水道施設の移設が必要であること,森林レクリエーションに関し,本件林道の整備に伴って,外部からの入り込み者が増えることが予想されるので,既存の残土処理跡地や余幅のある区間には,路線整備に併せて駐車施設や休憩施設の整備も進めることが望ましいことを指摘している。

コ 既設道路の概況と整備方針

林道の規格を,自動車道1級とし,設計速度時速30キロメートル(やむを得ない場合時速20キロメートル),車道幅員4メートル,路肩幅員0.5メートルの全幅員5メートル,その他,曲線半径,縦断勾配,設計荷重を設定し,既設道路の現況を基に,幅員確保や勾配修正のための路面の切下げや盛土,側溝施設等について,路線の概略設計をしている。

照首山林道は,幅員が4メートルであることから1メートルの拡幅をし,中腹走行であるために降雨の影響を受けやすく路面が浸食されて走行しにくい区間が多いことから,排水施設を設置し直すことなど,我地佐手林道は,幅員が4メートルであることから1メートルの拡幅をし,両性・爬虫類の貴重種が生息している可能性が高い地域であることから,現状の環境を損なわないように改良すること,生息環境保全のために既設置の浸食防止用トラフを改良すること,楚洲林道は,幅員4メートルであることから1メートルの拡幅をし,我地佐手林道との分岐の取り合わせを改良するためにカーブ設定を変更すること,造林作業道のA区間は,幅員3メートルで,急勾配区間での路面浸食や路肩欠損のため自動車の通行が不可能な未通区間があることから,拡幅,線形の修正,勾配の修正等大幅な改良が必要であること,造林作業道のB区間は,幅員5メートルで,路体構造には手を加える必要はないが,側溝はできるだけ蓋をすること,伊江林道は,幅員4メートルであり,一部5メートルの幅員を有して改良を必要としない区間もあるが,路面を切下げるなどして幅員を確保すべきところもあること,奥1号林道は,幅員4メートルであることから1メートルの拡幅をし,渓流沿いの急斜面を走行している区間が80パーセントもあるが,法面が安定していることから,新たに手を加えるより路側の構造物を入れ替えて可能な限り川手側を拡幅すること,渓流沿いに生息する生物の保全のためや路面浸食防止のために排水施設等を設置し直すことなどを指摘している。

(5)  本件事業の工事施工

県は,全体計画調査報告書に基づき,L型側溝,スロープ付き集水ます,有蓋側溝等を採用した側溝工,自然に復しつつある法面の保全,法面保護工を採用した事業実施設計図書を作成し,平成5年6月ころから,本件事業の工事に着手した。

(6)  特殊鳥類等生息環境調査

県環境保健部自然保護課は,沖縄島北部地域(大宜味村の塩屋湾より東村平良湾にわたる地峡以北の地域)における特殊鳥類(ノグチゲラ,ヤンバルクイナ等,本地域のみに生息する鳥類)等の貴重な野生生物の保護増殖を図るための方策を検討し,その基礎的な資料を得ることを目的として,昭和63年度から平成3年度まで調査班による調査をし,平成5年3月,その報告書として,「特殊鳥類等生息環境調査Ⅵ」(甲41,76)が作成された。

同書面においては,「北部山地は,沖縄島の原生的自然の姿が比較的によく残っており,島嶼生態系の安定性に寄与しているところが大きい。また,豊かな情緒,精神文化,伝統文化を育てる基盤ともなっている。更に,自然との触れあいを通して,自然の仕組みの精妙さを学び,生命の尊さを感得する場としても貴重な存在である。しかし,近年この北部山地は森林皆伐,林道,畜産団地,ダム建設などの開発によって,野生動植物の種族の維持さえ危ぶまれている。」と指摘されている。

また,鳥獣保護区が5地区,西銘岳地区に75ヘクタール,佐手地区に120ヘクタール,伊部岳地区に224ヘクタール,与那覇岳地区に662ヘクタール,安波岳地区に470ヘクタールの合計1551ヘクタール,うち特別保護地区が,西銘岳地区に30ヘクタール,佐手地区に58ヘクタール,伊部岳地区に224ヘクタール,与那覇岳地区に23ヘクタールの合計335ヘクタール設定されているが,各地区が散在し,開発が規制される特別保護地区の面積が小さく4区に分離しているという問題点を指摘し,ノグチゲラの絶滅を防止するには,その生息地となっている林齢40年以上のイタジイ自然林の広がる,西銘岳から照首山,与那覇岳,玉辻山へと続く沖縄島北部の脊梁山系全域を連続した鳥獣保護区と特別保護地区として拡大設定すべきであると提案されている。

(7)  本件林道及び付近の状況について

ア 既設の旧林道との関係

本件林道は,県道2号線の照首山南側を起点とし,起点から約1450メートル地点までの約1450メートルが旧照首山林道,それに連続して約5675メートル地点までの約4225メートルが旧我地佐手林道の一部,それに連続して約6015メートル地点までの約340メートルが旧楚洲林道の一部,それに連続して約7515メートル地点までの約1500メートルが旧造林作業道A区間,それに連続して約8065メートル地点までの約550メートルが旧造林作業道B区間,それに連続して約8995メートル地点までの約930メートルが旧伊江林道の一部,それに連続して終点までの約5240メートルが旧奥1号林道に該当する。

イ 制限林との関係

本件林道の起点の西側には,佐手鳥獣保護区及び特別保護区(別紙図面①及び②)が広がっており,起点から旧造林作業道に至る地点までの東側一帯は国有林で,米軍に提供されて演習場として利用されており,その中に伊部岳鳥獣保護区(別紙図面③)が位置している。

旧照首山林道から旧我地佐手林道に入る付近(別紙図面A地点)から旧伊江林道に至るまでの西側一帯には,水源かん養保安林(別紙図面④,流域保全上重要な地域にある森林の河川流量調節機能を高度に保ち,その他森林の機能と相まって,洪水,渇水を防止し,又は各種用水を確保するという目的のために指定される保安林のこと。通常,重要河川その他の水害頻度の高い河川の上流水源地帯において,地形,地質,気象又は従来の森林の取扱い慣習等を考慮して,奥地上流から指定されるものである。)が広がり,本件林道は,3箇所にわたり(別紙図面A地点からB地点まで約750メートル,同C地点からD地点まで約3000メートル,同E地点からF地点まで約600メートル),上記水源かん養保安林を通過している。

旧伊江林道以北の地帯には,西側に西銘岳鳥獣保護区及び特別地区(別紙図面⑤及び⑥)がある。

旧伊江林道及び旧奥1号林道付近一帯に,土砂流出防備保安林(材木及び地表植生その他の地被物の直接間接の作用によって,表土の流出及び林地の崩壊を防止する目的のために指定された保安林のこと。主として,はげ山,崩壊地等を含み土砂流出が著しく,下流地帯に重要な保全対象を有する地域に指定されるものである。)が存在するかについては争いがあるので後に検討することとして,本件林道は,別紙図面G地点からH地点まで約1000メートル,同I地点からJ地点まで約450メートルの2箇所において,原告らが土砂流出防備保安林(別紙図面⑦ないし⑩)であると主張する部分を通過し,同K地点から同P地点まで約800メートル,同Q地点から同R地点まで約400メートルの2箇所において,土砂崩壊防備保安林(別紙図面⑪,主として材木の根系の物理的作用によって崩壊の発生を防止し,家屋,耕地,道路等を直接に保護する目的のために指定される保安林のこと。直接の被保護物が明確であって,土砂の崩壊のおそれのある地盤不安定な箇所に指定されるものである。)を通過している。

そこで,土砂流出防備保安林が存在するか否かについて,検討する。

全体計画調査報告書の作成に関わった証人Dによれば,全体計画調査の保安林に関する調査は,沖縄北部地域森林計画図(報告書の作成時期からして平成元年作成にかかる計画図であると思われる。)を基にしたと認められるところ,平成5年作成の沖縄北部地域森林計画図(甲38)によれば,別紙図面⑦ないし⑩の位置には土砂流出防備保安林が記載されているが,別紙図面⑪の位置には土砂崩壊防備保安林が記載されていないと認められるから,同計画図による限りは,土砂流出防備保安林は別紙図面⑦ないし⑩の位置に存在したということになる。そして,地域森林計画は,都道府県知事が,森林法5条1項に基づき定めるものであり,水源のかん養や土砂の流出防備等森林の公益的機能の観点から各種の規制がなされる保安林の存在,位置,範囲は,森林計画の重要な前提事項となるものである(同条2項7号)から,保安林に関する調査は慎重かつ十分な検討を経てなされているはずであると考えられる。

他方,保安林については,都道府県知事は,保安林台帳を調製し,これを保管しなければならないとされている(森林法39条の2)ところ,被告らは,本件において保安林の存否及び位置が問題となった当初から,前記平成5年作成の沖縄北部地域森林計画図の記載に反して,別紙図面⑦ないし⑩の位置の土砂流出防備保安林は保安林台帳に記載がなく,別紙図面⑪の位置の土砂崩壊防備保安林は保安林台帳に記載があると一貫して主張している。そして,原告らは,当裁判所による文書提出命令発令後の平成13年3月1日付け被告ら準備書面の記載を踏まえて,第12回準備的口頭弁論期日と第13回準備的口頭弁論期日の間に,被告側から任意の開示を受けて,国頭村の保安林台帳全体を閲覧したわけであるが,その後原告らから,別紙図面⑦ないし⑩の位置の土砂流出防備保安林を記載した保安林台帳が存在する旨の主張は何らされていないから,原告らが開示を受けた時点においては,保安林台帳の記載は被告ら主張のとおりであったと推認される。また,被告らは,5年ごとに行われる平成10年度の沖縄北部地域森林計画の見直しの際に,平成5年作成の同森林計画図を前記保安林台帳の記載に沿ったものに訂正したとする(被告らの平成13年5月7日付け準備書面の別紙図面2)が,県農林水産部林務課が毎年作成する「沖縄の林業」の市町村別・民有保安林現況表における国頭村の土砂流出防備保安林の面積は,昭和61年版から平成13年度版まで,沖縄北部地域森林計画図の前記訂正の前後を通じ一貫して202ヘクタールとされており,その記載に変動が見られない(乙10ないし26)。保安林台帳の内容は,その性質上容易に変更されるものではないと考えられることに加え,地域森林計画図の内容が変更されたにもかかわらず,「沖縄の林業」の市町村別・民有保安林現況表における土砂流出防備保安林の面積に変動が見られないなどの事情を併せ考慮すると,保安林台帳の記載は,昭和61年以降は,被告ら主張のとおりの内容であったものと推認される。

このように,本件においては,保安林台帳の記載と沖縄北部森林計画図の記載が相違しているわけであるが,①保安林台帳は保安林について法律上調製を義務付けられた台帳であり,保安林について最も直接的な資料ということができること,②上記平成5年作成の沖縄北部地域森林計画図には,保安林台帳に記載されている別紙図面⑪の土砂崩壊防備保安林が記載されていないという明白な誤りがあり,その内容の信頼性に疑問があることからして,保安林台帳の記載を重視するのが相当である。

これに対し原告らは,保安林台帳の記載が存在しないにもかかわらず,上記沖縄北部地域森林計画図において別紙⑦ないし⑩のように保安林の存在及び位置を明確に記載するという誤りが生じるとは考え難いと主張する。この点に関し,被告らは,誤記載の理由として,平成5年度作成のものと同一内容と思われる平成元年度作成の沖縄北部地域森林計画図は,沖縄県の本土復帰による琉球森林法から現行の森林法への移行に伴う混乱が原因で,同森林計画図には指定のない土砂流出防備保安林が誤って記載されたと思われると述べており,これを裏付ける的確な証拠はないものではあるが,上記のとおり,沖縄北部地域森林計画図には,保安林台帳には記載されている別紙図面⑪の土砂崩壊防備保安林が記載されていないという明白な誤りがあることからすれば,上記沖縄北部地域森林計画図の作成に際して,誤って保安林台帳以外の資料に依拠した可能性も否定できず,結局,原告らの上記主張は採用できない。

また,原告らは,被告らの主張によれば上記沖縄北部地域森林計画図及び全体計画調査報告書の保安林の記載の誤りについて平成5年4月ころに気付いたにもかかわらず,全体計画調査報告書の訂正をせず,沖縄北部地域森林計画図も平成10年まで訂正することをしておらず,さらに,平成9年4月1日時点の民有林道台帳(甲26,甲37)においても,利用区域内の森林資源のうち法令に基づく制限等の区分及び面積として,土砂流出防備保安林が64.66ヘクタールあると記載されており,これらからすれば,県は,長年の間,誤りを放置していたことになるが,このようなことは林務行政上考え難いことであると主張する。しかし,上記のとおり,県は,別紙図面⑪に存在することが明らかな土砂崩壊防備保安林について,全体計画調査報告書の訂正をせず,沖縄北部地域森林計画図も平成10年の見直しの際まで訂正することをしておらず,さらに,上記民有林道台帳においても存在を記載していなかったのであって,この点では実際に誤りを放置し続けていたものと認められるから,別紙図面⑦ないし⑩の土砂流出防備保安林の記載についても同様であったとしても必ずしも不自然ではない。このような県の対応は,保安林の適正な管理及び住民への適切な情報開示という観点からすると極めてずさんといわざるを得ないが,このような管理等のずさんさが保安林の客観的な存否に影響を及ぼすものではない。

以上よりすれば,全体計画調査報告書添付の規制区域区分図に図示された記載⑦ないし⑩の土砂流出防備保安林が実際に存在していたとする原告らの主張を認めることはできないものというべきである。

ウ 平成12年9月29日(検証日)の状況

平成12年9月29日の検証実施時,本件林道及びその付近において,法面の土砂等が崩壊した箇所(検証調書図面番号2-1,同写真番号56,93,94),路肩が崩壊している箇所(同写真番号63,65ないし72,80ないし82,84ないし87,89,92)土捨て場が残っている箇所(同図面番号6-1,6-2,6-3),路面に亀裂が生じている箇所(同写真番号18,96)があり,旧造林作業道に該当する辺りでは,本件林道が,曲線,勾配等の関係で旧道と異なる線形をとっているため,本件林道と離れて旧林道が残っていることが確認された(同図面番号8-1,8-2)。

2  先行する原因行為の違法と当該財務会計行為の違法との関係について

地方自治法242条の2第1項4号に基づき,財務会計上の行為をした当該職員に損害賠償責任を問うことができるのは,先行する原因行為に違法事由がある場合であっても,上記原因行為を前提にしてされた当該職員の行為自体が財務会計法規上の義務に違反する違法なものであるときに限られる(最高裁平成4年12月15日第3小法廷判決民集46巻9号2753頁)。

そして,財務会計上の行為に先行する原因行為に違法事由となるべき瑕疵が存在するにもかかわらず,当該職員が,その原因行為を前提とした財務会計行為を行った場合に,財務会計上の義務違反行為に当たるか否かは,原因行為に存する瑕疵の内容及びその違法性の程度,当該職員において,その瑕疵の存在を認識することが可能であったか否か,瑕疵の存在を認識できたとすれば,これを是正することが可能であったかなどの事情を総合的に検討して判断されるべきものである。

以下,まず,原告ら主張にかかる本件事業の違法性の有無につき検討した上で,上記観点から,Bが本件事業に関して工事請負代金等の公金を支出したことが違法といえるか否かにつき検討する。

3  本件事業の違法性の有無について

(1)  林業基本法違反の主張について

原告らは,林業基本法3条2項及び4条2項から,環境影響調査や,費用対効果分析,林業施策についての総合的なアセスメント等の実施が要求されており,本件事業においては,その実施及び検討を欠き,自然的経済的社会的条件を欠いているとして,本件事業の違法を主張する。

しかし,同法は,基本法という名称の示すとおり,一般的な指針を定めたものにすぎず,同条項が,原告らの主張するような環境影響評価調査や費用対効果分析,総合的なアセスメントを実施することなどの具体的行為を義務付けているとはいえないから,原告らの主張は採用できない。

(2)  森林法違反の主張について

ア 林地開発許可制度

森林法10条の2第1項但書1号において,同条項本文が定める開発行為の許可制度は,国又は地方公共団体が行う場合については適用がないことが明らかであるから,県が施行主体である本件事業が同条項違反であるとする原告らの主張は,独自の見解を述べるにすぎず,これを採用することはできない。

イ 保安林の解除手続,伐採許可

本件林道が,別紙図面④の水源かん養保安林及び同⑪の土砂崩壊防備保安林内を通過していることは争いがなく,同⑦ないし⑩の土砂流出防備保安林が存在すると認められないことは前記のとおりである。そして,本件林道が上記保安林内を通過する具体的な各区域は,上記認定のとおり,水源かん養保安林(別紙図面④)を別紙図面A地点からB地点まで約750メートル,C地点からD地点まで約3000メートル,E地点からF地点まで約600メートル,土砂崩壊防備保安林(別紙図面⑪)をK地点からP地点まで約800メートル,Q地点からR地点まで約400メートルであるところ,各区域において,本件林道開設による幅員拡幅等のために立木伐採等をする工事がなされ,その工事に際して,保安林解除の手続がなされていないことは争いがない。

そこで,保安林解除手続の要否について検討する。

上記保安林内の各区域において,具体的にどのような工事が行われたかは必ずしも明らかではないが,本件林道の開設事業は,基本的には既設林道の線形を利用しながらも,ほぼ全区域において幅員を拡幅し,アスファルト舗装をするものであり,本件林道の開設前後の一連の状況を撮影した写真(甲29,甲35の2ないし12)によっても,当然のことながら,立木の伐採,立木の損傷,下草等の採取等,その対象部分を森林に復することが恒久的に困難となるような土地の形質変更をなすものであったと認められる。

被告らは,本件事業に際して,森林法34条2項に基づき,保安林における県知事の土地の形質変更許可(作業許可)を得たと主張するが,これを裏付けるに足る書証等はなく,また,当該許可の前提となる保安林に,前記水源かん養保安林及び土砂崩壊防備保安林(あるいは土砂流出防備保安林)が含まれていたのか否かも明らかではない。しかし,この点を措くとしても,同法34条2項の許可制度については,同条5項において,2項の許可の申請があった場合には,その申請に係る行為がその保安林の指定の目的の達成に支障を及ぼすと認められる場合を除き,これを許可しなければならないとされており,この保安林の指定の目的の達成に支障を及ぼすか否かは,当該行為の内容,保安林の状況等からみて,当該行為がなされた場合,その対象地域が森林としての状態を保持することができるかという観点から判断されるものといえ,加えて同法34条の3において,保安林において立木を伐採した場合,原則的に当該伐採跡地につき植栽義務が定められていることからすると,同法34条2項(1項についても同様である。)における立木の伐採や土地の形質変更行為は,その後に保安林を原状のとおりの森林に復帰させることを予定したものと解される。そうすると,保安林を恒久的に森林でなくするための手続としては,本来,保安林の解除が予定されているものであり,同法34条2項(1項についても同様である。)によって許可をなし得るのは,原則として,森林としての状態をそのまま存続させ,一時的にその状態を失わせても将来的には元の森林に復帰させることを予定したものに限られ,森林を森林でなくするまでには至らない一時的仮設的な土地の形質の変更については許可の余地があるとしても,林道の開設や,恒久的な建造物の建築等,部分的にせよ森林としての状態を将来にわたって失わせるような行為については,許可の対象には該当しないものと解さなければならない。

したがって,仮に,本件事業に際し,被告らが同法34条2項の許可を得ていたとしても,林道開設のために保安林内の立木伐採等を行うには,保安林の解除が必要であったものであり,この手続を履践することにより,前記土砂流出防備保安林及び土砂崩壊防備保安林の存否及びその正確な位置も明らかにされたものといえる。なお,被告らが保安林解除の手続が必要ではない根拠として主張する本件通達の規定「林道については,車道幅員が4メートル以下であって,森林の施業・管理に供するため周囲の森林と一体として管理することが適当と認められる場合に作業許可の対象とする。」については,当該部分をもってして,本件事業において保安林解除の手続を不要とする趣旨のものとは解することができず,被告らの主張を合理的なものとする根拠とはいえない。

本件事業においては,上記のとおり,保安林であることが明らかな水源かん養保安林(別紙図面④)及び土砂崩壊防備保安林(別紙図面⑪)において,保安林解除の手続をしないまま,林道の幅員拡幅等のための立木伐採や土地の形質変更行為を行ったものであり,これは,森林法の保安林制度の趣旨に著しく反するものとして違法といわざるを得ない。

そして,先に述べたとおり,本件林道のうち保安林内を通過する部分は一部にすぎないが,本件事業は,始点から終点までの1本の広域基幹林道を整備するもので,一部区間についての工事が違法で本来なし得ない場合に,残区間のみの工事だけをしても無意味であることからすると,財務会計行為の違法性に対する影響という観点から見た場合,保安林内通過区間の工事について保安林解除の手続をとらなかった違法は,本件事業に対する公金支出全体の違法性に影響するというべきである。

(3)  沖縄県環境影響評価規程違反の主張について

県の沖縄県環境影響評価規程(甲12別表第1の1)において,県内における林道の場合,環境影響評価の対象事業となるのは,車道幅員4メートル以上で延長2キロメートル以上の規模の広域基幹林道の新設とされている。そして,被告らは,本件林道の開設事業が,林道全線の新設ではなく既設林道の拡幅・改良であり,一部に新しく開設した部分もあるが,2キロメートル以内の範囲のものであるから,環境影響評価の対象事業とならないと主張する。そこで検討するに,前記認定のとおり,本件事業は,既設林道を前提とした拡幅・改良を主体としたものであると認められ,一部に新しく開設した部分(旧造林作業道A区間)もあるものの,その延長区間が2キロメートル以上であると認めることはできないことからすると,被告らの主張は,同規程の解釈として合理的範囲のものであるといえ,本件事業の自然環境に対する影響及びその保全上留意すべき事項を明らかにする目的で全体計画調査を行い,かつ,それに基づいた工法等を採用してなされたことなどをも考慮すると,本件事業に際して,環境影響評価を行わなかったことが同規程に反するとまではいうことはできず,この点をもって本件事業の違法をいう原告らの主張は採用できない。

(4)  文化財保護法違反の主張について

原告らは,本件事業がやんばるの天然記念物の保存に影響を及ぼすとして,文化財保護法80条1項により,天然記念物の保存に影響を及ぼす行為をしようとするときは,文化庁長官の許可を受けなければならないのに,その許可を受けていないとして,本件事業の同法違反を主張する。

しかし,同条項但書において,保存に影響を及ぼす行為であっても,その影響が軽微である場合には許可を要しないとされているところ,本件事業が,既設林道の存在を前提としたものであり,工事の具体的内容として,例えば,小動物の落下対策のため,できるだけL型側溝,有蓋側溝,スロープ付き集水ますを採用するなど,天然記念物の保存に配慮した工法を採用していることからして,その事業実施に際し,文化庁長官の許可を得なければ違法となるほどに,やんばるの天然記念物の保存に影響を及ぼすものということはできず,原告らの主張は採用し得ない。

(5)  種の保存法違反の主張について

原告らは,本件事業が国内希少野生動植物種の生きている個体の捕獲等(捕獲,採取,殺傷又は損傷)をしようとするときに該当するとして,種の保存法54条2項により,環境庁長官に協議しその同意を得なければならないのに,その同意を得ていないとして,本件事業の同法違反を主張するが,本件林道開設事業が,生きている個体の捕獲等をしようとするときに該当するとはいえないことは明らかであるから,原告らの主張は採用し得ない。

4  本件事業の違法性に基づく本件各支出(平成7年5月2日から同年8月14日までに支出された4210万6400円を除く。以下同じ。)の違法性について

以上の検討によれば,本件事業には,上記のとおり,事業実施に先立って,保安林の存否及びその位置等に関する調査を十分に行わず,存在が明らかであった保安林についても,その解除の手続をしないまま保安林内の立木伐採等を行って,恒久的な林道を建設したという点などにおいて森林法違反の瑕疵があるものである。森林法における保安林制度は,森林の土砂崩壊等災害防止,水源のかん養等の公益的機能に着目し,森林がこれらの機能を発揮し,社会の安寧を確保し,生活環境を保全する公共目的を達成するため設けられたものであり,その解除がなされないままに立木伐採等を行って林道を開設することは,明白かつ重大な瑕疵であるといわざるを得ない。そして,本件において問題となっている保安林は,いずれも県において把握・管理されているものであり,県知事は,本件事業に際し,解除に利害関係を有する地方公共団体の長として,保安林指定の解除を農林水産大臣に申請する権限を有していたものである。このような事情からすると,Bは,本件事業において,保安林指定の解除手続を経ないまま実施されているという明白かつ重大な瑕疵が存するにもかかわらず,とり得べき是正措置を何らとることなく,事業実施のための工事代金等を支出したのであって,これは予算の執行の適正を確保すべき財務会計法規上の義務に違反したものといわざるを得ず,本件各支出は違法なものといわなければならない。

5  本件公金支出自体の違法性の有無について

原告らは,国頭村における林業人口が1.5パーセントにすぎず,木材供給量は減少の一途にあり,木材関連産業も減少,素材生産量も減少している状況において,広域基幹林道を整備する必要性はなかった旨主張する。

確かに,国頭村における林業の状況については,国頭村森林組合長である証人Eの証言などによっても,森林の伐採量が減少し,林業生産品高も減少傾向にあり,収益としては助成事業である造林事業による補助金が最大を占めていることなどが認められ,原告らが指摘するような状況が窺われる。また,国頭村から知事に対する本件林道開設の要請の文書(乙2)では,林道の機能として,山村地域の生活道や森林レクリエーション施設としての活用が指摘され,林道整備の目的として,林業育成の観点に加え,国頭村の過疎化防止,沖縄北部広域圏の経済的社会的地位の向上等が指摘されていること,全体計画調査報告書における本件林道整備の目的の記載内容,証人Dが,本件林道は地元からの要請であり,路網ネットワークの観点から幹線が必要であると考えていたと述べていることなどからしても,既設林道を広域基幹林道として整備する理由が,その道路網としての機能に大きく比重をおいていることが窺われる。

さらに,本件事業計画の一方では,時期をほぼ同じくして,県において,沖縄島北部地域におけるノグチゲラ,ヤンバルクイナ等の貴重な野生生物の保護増殖を図る方策を検討するための調査を行い,森林皆伐,林道,畜産団地,ダム建設などの開発により野生動植物の種族の維持が危ぶまれているとして,西銘岳から照首山,与那覇岳,玉辻山と続く沖縄島北部の脊梁山系全域を連続した鳥獣保護区及び特別保護地区として拡大設定し,開発規制すべきであると提案する報告書(甲41,76)が作成されるなど,やんばる地域の貴重な野生動植物の保護の在り方が検討されていることも認められる。

ところで,普通地方公共団体は,その事務を処理するに当たっては,最少の経費で最大の効果を上げるようにしなければならず(地方自治法2条14項),地方公共団体の経費は,その目的を達成するための必要かつ最少の限度を超えて支出しなければならないとされている(地方財政法4条1項)から,これら規定に抵触する経費の支出は違法と評価され得るものである。しかしながら,経費の支出において,目的に従った最大効果を達成するために何をもって必要かつ最少の限度というべきかは,当該事務ないし事業の目的,当該経費の額,経済状況等の諸事情の下において,社会通念に従って決定されるべきものであるから,第一次的には,予算の執行権限を有する財務会計職員の社会的,政策的又は経済的見地からする裁量に委ねられていると解するのが相当であり,具体的な支出が,当該事務ないし事業の目的,効果との均衡を著しく欠き,予算の執行権限を有する財務会計職員に与えられた前記裁量を逸脱してされたものと認められるときに限り,違法になるものというべきである。

しかるところ,証人Eの証言によると,既設林道が未舗装・管理不全であるために林業施業の効率化を妨げる要因となっていたことは否定できず,国頭村から本件事業実施の要請を受けたことも併せ考えれば,被告らが,本件林道の整備事業が林業の合理的経営等に資するものであって,生活道や森林レクリエーション施設としての活用の観点も含めて,その必要性があるとした判断が著しく不合理であったとまでいうことはできず,原告らが主張する自然環境保護等の必要性や本件事業に起因する法面や路肩の崩壊等による維持修繕費用の支出の点を考慮しても,本件事業が必要性や経済的合理性を著しく欠き,そのための経費の支出が事業の目的,効果との間の均衡を著しく欠くとまでは認められない。

したがって,本件事業のための公金支出が,地方財政法4条1項に違反して違法ということはできず,また,同法2条1項,3条1項及び8条に違反するともいえない。

6  Bの責任

Bは,本件各支出当時,県知事の職にあり,本件事業に関する公金の支出を命じる予算執行権限を有していた責任者であり,上記のとおり,本件事業において保安林解除を経ていないまま実施されているという違法があって,本件事業に関する工事代金等を支出することが違法となることを容易に知り得る立場にあったものであるから,違法に本件各支出をしたことに過失があったことは明らかであり,県に対し,本件各支出相当額の損害賠償の責任を負わなければならないというべきである。

なお,遅延損害金の始期に関し,原告らは,平成7年度支出分(1億4740万円)につき平成8年4月1日から,平成8年度支出分(1億2500万円)につき平成9年4月1日から,平成9年度支出分(7000万円)につき平成10年4月1日からと特定して請求しているものであるが,平成7年度に,工事請負代金として1億3262万328円が支出され,このうち,1262万178円が平成8年4月15日(乙44),814万2562円が同月26日(乙49の2),1837万3758円が同年5月2日(乙46),3767万5134円が同月15日(乙42,乙48)に支出され,事務費として1477万9672円が平成7年4月1日から平成8年5月31日までに支出され,平成8年度に,工事請負代金として1億1620万9132円が支出され,このうち,1444万78円が平成9年4月4日(乙51,乙52),5450万1254円が同年5月2日(乙56,乙58,乙60,乙62)に支出され,事務費として879万868円が平成8年4月1日から平成9年5月31日までに支出され,平成9年度に,工事請負代金として6831万8250円が支出され,このうち,3058万7130円が平成10年5月15日(乙28,乙32)に支出され,事務費として168万1750円が平成9年4月1日から平成10年5月15日までに支出されたものと認められる(上記各書証においては,国の負担分も含めた各支払工事請負代金額が明らかになるのみであるが,県の負担が20パーセントであることは争いのない事実であるところ,被告ら主張の支出額は,各書証において認められる工事請負代金の20パーセント相当額と合致するものであるから,工事請負代金につき,被告ら主張の上記支出額を認めることができ,各年度毎に,その余の分が事務費として,遅くとも各翌年5月31日までに支出されたことが認められる(弁論の全趣旨)。)から,原告らの主張する始期は採用できず,上記各支出日以後の限度で遅延損害金の請求は理由がある。

7  被告知事のBに対する損害賠償請求権不行使の違法性

上記6のとおり,Bが,県に対し,本件各支出に関し,損害賠償の責任を負うものである以上,県の財産管理等の最終権限者である被告知事が,その行使を怠っていることは,違法であるといわなければならない。

第7結論

以上のとおりであるから,差止請求並びに平成7年5月2日から平成7年8月14日までに支出された合計4210万6400円に関する損害賠償代位請求及びその不行使の違法確認の訴えを却下し,その余の支出分に関し,被告知事に対し,Bに対する損害賠償請求権の行使を怠っていることが違法であることを確認する請求,Bに対し,県に代位して行う損害賠償請求及び各支出の後からの遅延損害金の請求を認め(遅延損害金については,原告らの請求の一部を認め,その余は棄却する。),訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法64条本文,65条1項本文を適用して,主文のとおり判決する。なお,仮執行の宣言は相当でないから付さない。

(裁判長裁判官 清水節 裁判官 高松宏之 裁判官 池田弥生)

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