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那覇地方裁判所 平成9年(行ウ)11号 判決 1999年3月03日

原告 那覇空港ターミナル株式会社

右代表者代表取締役 鈴木通雄

右訴訟代理人弁護士 岩崎明弘

同 多川一成

同 冝保安浩

被告 大阪航空局長

右指定代理人 佃美弥子

<他9名>

主文

一  本件訴えを却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  原告

被告が、平成八年一一月二〇日付けで那覇空港ビルディング株式会社に対し、空港管理規則(昭和二七年運輸省令第四四号)第一二条の規定に基づき那覇空港における構内営業(営業の種別 第一類営業、営業種目 ターミナルビル業)の承認(阪空理承第八―五号)をした処分は、無効であることを確認する。

二  被告

(本案前の答弁)

主文同旨

第二事案の概要

一  本件は、現在、那覇空港において旅客ターミナルビルを所有管理し、同所で構内営業を営んでいる原告が、新旅客ターミナルビルの事業主体である那覇空港ビルディング株式会社に対して被告がなした空港管理規則一二条に基づく平成八年一一月二〇日付けの構内営業の承認の無効確認を求めた事案である。

二  前提事実

1  当事者

原告は、昭和三二年二月一八日、当時の琉球政府から那覇空港における旅客ターミナル事業及び付帯施設を運営する免許を付与され、その後、昭和四七年五月一五日の沖縄の日本復帰に伴い制定された「沖縄の復帰に伴う特別措置に関する法律」五三条一項及び「沖縄の復帰に伴う運輸省令の適用の特別措置等に関する省令」四二条に基づき、空港管理規則(昭和二七年運輸省令第四四号)一二条により右営業の承認を受けた者とみなされ、現在那覇空港において使用されている国際線一棟、国内線二棟の旅客ターミナルビルを所有管理し、同所で貸室業、物品販売業、駐車場業等を営んでいる会社である。

2  那覇空港ビルディング株式会社に対して構内営業の承認がされるに至った経緯

(一)  那覇空港は、昭和八年に旧日本軍の飛行場として設置され、戦後、米軍の施政権下の時代を経て、沖縄の日本復帰に伴い、運輸大臣の管理する第二種空港に指定された。

(二)  ところが、当時の旅客ターミナルビルでは、昭和五〇年七月開催予定の沖縄国際海洋博覧会の見物客等の需要に対応することができないと見込まれたため、運輸省は、暫定的に現在の埋立地部分に暫定ターミナルビルを設置することを計画し、昭和四八年八月一四日、運輸省航空局飛行場部管理課長、原告社長、日本航空株式会社空港部長、全日本空輸株式会社調達施設部長の四者により会議が行われ、次の内容の合意がなされた。

(1) 将来、地方公共団体、原告を含む地元財界及び航空会社の共同出資により新会社を設立し、本格ターミナルの建設、管理及び運営にあたらせる。

(2) それまでの間、原告が暫定ターミナルビルを建設し、その管理及び運営にあたる。

(3) 暫定ターミナルビルは、本格ターミナルが新会社により運営開始となったときは、日本航空株式会社、全日本空輸株式会社に残存価格で売却するか、新会社が承継する。

(三)  原告は、それまで現在の国内線第二ターミナルビルで対応してきたが、右合意に基づいて、昭和五〇年四月に国内線第一ターミナルビルを建設して供用開始し、その後も、国際線ターミナルビルを建設して供用開始するとともに、これらのターミナルビルの整備、拡充を行ってきた。

(四)  しかし、ターミナルビルの分散が利用者の利便性を阻害し、また、那覇空港の更なる需要の増大により、那覇空港ターミナル諸施設の能力が限界になってきた。

(五)  このような状況の中、沖縄県は、前記合意に基づき、平成二年ころから、本格ターミナルとその建設運営主体等について具体的な検討を始め、平成四年一月二七日、沖縄県と原告は、次の内容の「那覇空港新ターミナルビルの整備に関する覚書」(以下「本件覚書」という。)を締結した。

(1) 新空港ターミナルビルの事業主体は新たに設立される第三セクター方式の株式会社とする。

(2) 新会社に対する出資割合は、暫定的に沖縄県が二五パーセント、那覇市が三・二パーセント、航空会社が二二・八パーセント、原告四一パーセント、金融機関等財界が八パーセントとする。

(3) 新会社による旅客ターミナル、駐車場等の一元的な管理運営が図られるようにする。

(4) 原告は、新空港ターミナルビルの供用開始と同時に、国際線旅客ターミナル等関係諸施設を原則として無償で新会社に引き継ぐ。

(5) 原告の職員のうち、ターミナルビルの施設及び管理部門の職員を新会社に引き継ぐ。

(6) 新空港ターミナルビルにおける原告の営業について、その継続、発展が図られるように努め、現在のテナント事業者についても、新空港ターミナルビルでの営業を保障する。

(7) 新会社の代表取締役には原告が推薦する者を充て、新会社出資者も常勤役員等必要な職員の派遣を行う。

(六)  さらに、平成四年一〇月五日、沖縄県と原告は、次の内容を含む「那覇空港新ターミナルビルの整備に関する覚書の細目協議書」(以下「本件細目協議書」という。)を締結した。

すなわち、沖縄県は、本件覚書に定めた原告の営業については、新会社の経営計画の中で新ターミナルビルにおける公共的なサービス機能の確保が図られること、新会社の健全な経営が確保されることを前提に、原告のこれまでの経営実績を踏まえ、その継続、発展が図られるよう新ターミナルビルにおける原告の優先配慮に努める。

(七)  本件覚書及び本件細目協議書は、平成四年一〇月一三日に原告の臨時株主総会の特別決議で承認され、同年一二月一日、新会社である那覇空港ビルディング株式会社(以下「空港ビルディング」という。)が設立された。

(八)  平成五年五月、国は、那覇空港ターミナル地域整備事業の工事に着手し、平成六年四月、那覇空港新ターミナルビル基本設計を完了した。

(九)  このような状況の中、原告は、平成六年九月二六日に空港ビルディングに対して、以下の内容を要望する「那覇空港ターミナル(株)の継続発展に係る要望書」を提出した。

(1) 国際線を無償で譲渡するが、免税店(保税倉庫を含む)の家賃及び歩合については免除すること

(2) 国内線第一ターミナルビルを帳簿価格で新会社に譲渡すること

(3) 物販等の事業利益額程度(二億四〇〇〇万円)は、新ビル後も確保できるよう特別な配慮(面積の確保、優先配慮)をすること

(4) 建設協力金は積極的に協力するが、額は別途協議すること

(一〇)  さらに、原告は、平成七年九月一一日、空港ビルディングに対して、次の内容の申し入れをした。

(1) 国内線第一ターミナルビル及び国際線ターミナルビルを残存帳簿価格で有償譲渡すること

(2) 営業移転(貸室業)の補填に替え、物品販売等の営業利益の最低補償として年間二億四〇〇〇万円を一〇年間補償すること

(3) 新ターミナルビルでの原告の営業規模について、現ビル以上の規模を確保すること

(一一)  そして、平成八年二月二六日には、原告から空港ビルディングに対して、前記申入事項の全面的な受諾を内容として含む営業譲渡契約書(案)が提出された。

(一二)  この内容に対して、沖縄県は、平成八年四月三日、原告、空港ビルディング及び沖縄県の三者による協議を申し入れ、その後、協議を重ねたが、結局合意には至らなかった。

(一三)  平成八年九月一九日、空港ビルディングは、被告に対して、空港管理規則一二条に基づき那覇空港における第一類営業の承認申請をし、同年一一月二〇日付けで被告は、空港ビルディングに対し、右承認をした(以下「本件承認」という。)。

三  争点

1  原告は、行政事件訴訟法三六条にいう「無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者」に当たるか。

(原告の主張)

(一)(1) 原告は、以下のとおり、那覇空港において旅客ターミナルビル事業の独占的営業権を保障されている。

ア 原告は、昭和三二年に当時の琉球政府から那覇空港における旅客ターミナル事業及び付帯施設を運営する免許を付与され、これにより那覇空港において独占的に旅客ターミナル事業を営業する権利を取得したが、この原告の地位は、沖縄の日本復帰に際しても、既得権として当然尊重されるべきである。したがって、原告が、沖縄の日本復帰に伴い、空港管理規則一二条により那覇空港における構内営業の承認を受けた者とみなされたことは、右既得権が日本国政府においてもそのまま承認されたものであるといえる。

イ 航空法の規定(同法五五条の二第二項、同法五四条の二第一項)を受けて定められた空港管理規則は、空港の能率的運営とその秩序維持のため必要な事項を定めることを目的とし(同規則一条)、空港における第一類営業について地方航空局長の承認を必要としているところ(同規則一二条、同一三条、同二六条)、公共性の極めて高い旅客ターミナル事業において右目的を達成させるためには、右事業を一つの事業主体に独占させ、複数の事業者による過当競争を避け、事業の経営の合理化と安定維持を図ることが不可欠である。そこで、同規則は、右事業には地方航空局長の承認を要することとして、その独占的営業権を保障しているのである。

特に、同規則一三条は、第一類営業の譲渡について譲渡人に対し営業譲渡の承認を申請することを求めているが、これは、譲渡人の意思を確認するとともに、譲渡人に営業譲渡の対価を確保するための手段を与え、譲渡人が利益を損なうことのないように配慮する趣旨であって、右規定は、譲渡人の営業権を保障したものといえる。

実際上も、日本国内において、同一の空港敷地内に複数の事業主体が別個にターミナル事業を営んでいる例はない。

ウ このように、原告の旅客ターミナル事業の独占的営業権は、航空法及び空港管理規則により与えられているが、これらの原告の権利は、営業の自由、財産権、平等原則を定める憲法二二条一項、同二九条一項、同一四条一項によって保障されている。

(2) 本件承認により、原告には、以下の不利益が生じることになる。

ア 空港ビルディングに対して本件承認がされたことにより、新旅客ターミナルビルが完成すれば、空港ビルディングは同ビルを使用して旅客ターミナル事業を開始することができ、その反面、原告の旅客ターミナル事業の独占的営業権は侵害されることになる。

イ 被告を含む運輸省関係当局は、原告に対し、新会社を設立し、適正な対価ないし補償の下に旅客ターミナル事業を新会社に営業譲渡するよう強く行政指導したにもかかわらず、新会社である空港ビルディングが設立された後、同社から営業承認の申請がされると、営業譲渡の規定である空港管理規則一三条ではなく、同規則一二条に基づいて営業承認したのであって、これにより沖縄県は本件覚書及び本件細目協議書を遵守しなくなり、原告は、何らの対価も確保されない状態にある。

ウ 旅客ターミナル事業は、極めて公共性の高い事業であり、しかも、ターミナル施設の建築に巨額の費用を必要とすることから、旅客ターミナル事業を行う事業者は一つで十分であり、複数の事業者に営業を承認する必要はない。運輸省航空局が策定した那覇空港ターミナル地域整備基本計画においても、旅客ターミナル事業は一つの事業者が行うことを前提としている。

とすると、営業譲渡がなされないまま、空港ビルディングが旅客ターミナル事業を開始すれば、原告の旅客ターミナル事業は営業不可能となり、廃業に追い込まれることになる。

実際上も、被告は、原告に対し、平成一〇年一一月三〇日付けの文書により、構内営業の期間更新の承認について、新旅客ターミナルビルの供用開始までしか更新しない旨を通知している。

この事態をこのまま放置すれば、原告の経営は破綻し、雇用関係は全て消失することになる。

(3) このように、本件承認により、原告は、旅客ターミナル事業の独占的営業権を侵害され、重大な不利益を受けることになるから、行政事件訴訟法三六条にいう「法律上の利益を有する者」に当たる。

(二) また、那覇空港における原告の旅客ターミナル事業は、航空法及び空港管理規則により保護されている利益であるといえる。

すなわち、前記のとおり、航空法の規定を受けて定められた空港管理規則は、同規則一条で、空港の能率的運営とその秩序維持のため必要な事項を定めることを目的とする旨規定しているが、極めて公共性が高い旅客ターミナル事業において右目的を達成させるためには、旅客ターミナル事業を一つの事業主体に独占させ、複数の事業者による過当競争を避け、事業の経営の合理化と安定維持を図る趣旨も含まれていると解される。

したがって、原告が旅客ターミナル事業を行うことは、本件承認の根拠法規である航空法及び空港管理規則により保護されている利益であるといえるのであるから、原告は、行政事件訴訟法三六条にいう「法律上の利益を有する者」に当たる。

(三) さらに、本件承認により、原告は、旅客ターミナル事業を廃業に追い込まれることになるが、これは、本件承認と同時に原告に対して営業拒否処分がされたのと実質的には同一であり、空港ビルディングに対する本件承認と原告に対する営業承認の拒否処分は、表裏の関係にあるといえる。したがって、このような場合には、単に形式的に原告が行政処分の名宛人でないという理由で原告適格を否定するのは妥当でなく、実質上、行政処分の名宛人として原告適格を認めるべきである。

特に、本件では本来空港管理規則一三条により営業譲渡の承認がされるべきであったのに、行政機関が誤った法令適用をし、同規則一二条による承認をしたために原告が名宛人とならなかったのであるから、当該行政機関が、処分の名宛人でないとして原告適格を争うことは許されない。

また、原告にとっては、空港ビルディングを名宛人とする本件承認の無効が確認されて初めて原告の営業が継続され、あるいは営業譲渡の対価を確保することができるのであり、この点からも原告適格を認めるべきである。

しかも、現在、新旅客ターミナルビルの建設工事が進んでおり、後日原告が自己を名宛人とする営業承認拒否処分の取消を請求したとしても、現実にこれを覆すことが容易でなくなることになり、原告の救済が図られなくなる。

したがって、原告は、実質的な行政処分の名宛人として、行政事件訴訟法三六条にいう「法律上の利益を有する者」に当たる。

(被告の主張)

(一) 原告は、那覇空港において、旅客ターミナルビル事業の独占的営業権を保障されていない。

(1) 国が設置管理する空港における旅客ターミナルビルでの構内営業は、航空法及び同法の規定を受けた空港管理規則による規制を受けることになるが、同規則一条は、「この規則は、運輸大臣の設置し、及び管理する公共用飛行場の施設の管理、構内営業の規制その他運輸大臣の設置し、及び管理する公共用飛行場を能率的に運用し、及びその秩序を維持するために必要な事項を定めることを目的とする。」と規定し、同規則一二条は、構内営業を行おうとする者について、所定の事項を記載した申請書を提出して地方航空局長の承認を受けなければならない旨規定している。したがって、同条の規定は、その高度の公共性に鑑み、構内事業の主体、種別、場所、営業方法などの適切性を確保することによって、専ら、当該空港の能率的運営とその秩序維持のためという公共の利益の達成を目的として必要な事項を定めているにすぎないのであって、特定の個人に具体的な権利を付与するものとはいえない。

(2) 原告は、沖縄の日本復帰前に当時の琉球政府から付与された那覇空港の旅客ターミナル事業の独占的地位が既得権として保障されている旨主張するが、「沖縄の復帰に伴う特別措置法に関する法律」五三条一項は、沖縄法令の規定によりされた免許等は本土法令の相当規定によりされた処分又は手続とみなすという規定であるから、琉球政府によって付与された原告の免許についても、その免許が空港管理規則一二条の営業承認とみなされるというだけであり、原告の既得権を保障するという趣旨は含まれていない。

(3) また、原告は、営業譲渡に関する空港管理規則一三条の規定により独占的営業権が保障されている旨主張するが、同条は、構内営業における営業主体が管理者である国の知らない間に譲渡が行われることを防止するために設けられた規定であり、飛行場の能率的な運営とその秩序の維持という専ら公益的な観点から規制を定めたものであるから、右規定をもって、構内営業の独占的営業権を保障したものとはいえない。

(4) さらに、原告は、日本国内において、同一の空港敷地内に複数の事業主体が別個にターミナル事業を営んでいる例はない旨主張するが、例えば、石垣空港は、沖縄県が設置し石垣市が管理している旅客ターミナルとエアーニッポン株式会社が設置管理している旅客ターミナルが併存しており、旅客ターミナル事業の独占制が認められていない。石垣空港は、第三種空港として空港管理規則の適用がないものの、原告の主張する事業の独占制は第三種空港にも当然要請されており、独占制の例外とはいえない。

(二) 行政処分の名宛人以外の者が営業上の利益を侵害されたとして無効等確認の訴えを提起することができるのは、当該処分の根拠となった法規が、業者間の適正配置基準を定める等の規定を持ち、既存の業者の営業上の利益を保護する趣旨を含んでいる場合に限られるところ、本件では、前記のとおり、本件承認の根拠法規である航空法及び空港管理規則は、飛行場の能率的な運営とその秩序の維持という専ら公益的な観点から規制を定めたものであり、新たに構内営業の承認をする際に、これまで承認を受けて営業を行っていた者の利益を考慮すべきことを定める規定やその趣旨を窺わせる規定を置いていない。

したがって、航空法及び空港管理規則は、業者の営業上の利益を保護する目的はなく、本件承認によって、仮に原告がその営業利益に影響を受けるとしても、それは事実上のものにすぎない。

(三) 以上から、原告は、行政事件訴訟法三六条にいう「法律上の利益を有する者」に当たらない。

2  本件承認は無効であるか。

(原告の主張)

(一) 原告は、昭和三二年に那覇空港における旅客ターミナル事業等の運営の免許を付与されて以来、今日まで約四〇年に亘り旅客ターミナル事業、駐車場事業等を独占して営業してきたのであり、これまでターミナルビルの建設及び増改築に多額の費用を投資してきたが、運輸省の強力な行政指導により、那覇空港において、本格ターミナルを建設してその管理運営を行う新会社を設立し、その新会社に原告が営業譲渡することを合意した。

(二) 営業譲渡にあたっては、本件覚書及び本件細目協定書において、那覇空港における原告の構内営業権及び空港ターミナル関係施設を新会社に譲渡する対価ないし補償を定める枠組を決めており、新会社設立後、原告と新会社が右枠組において正当な対価ないし補償を具体的に取り決め、その後に原告が空港管理規則第一三条に基づいて、第一類営業権の新会社への譲渡承認の申請を被告にすることが当然予定されていた。

(三) 原告は、新会社である空港ビルディングが設立された後の平成六年九月ころから、空港ビルディングとの間で構内営業権の譲渡についての具体的な協議を始め、平成八年二月に営業譲渡契約書を提示したところ、沖縄県からの申し入れにより、原告、空港ビルディング及び沖縄県の三者間による協議を行うことになった。しかし、その協議において沖縄県が回答した価額は、正当な対価ないし補償にはほど遠い内容であり、結局、平成八年七月には、この三者間の協議は中止となった。

(四) にもかかわらず、空港ビルディングは、被告に対して空港管理規則第一二条に基づいて新規に第一類営業をすることの営業承認を申請し、被告は、同年一一月二〇日付けでこれを承認したのである。

(五) このように、被告は、原告が被告の強力な行政指導により旅客ターミナル事業の営業譲渡を合意したにもかかわらず、約束された対価を空港ビルディングとの関係で何ら確保できないままでいることを知り、旅客ターミナル事業の営業承認が空港管理規則一二条ではなく同一三条によりなされるものであることを十分認識しながら、あえて同規則一二条により新規に営業承認をしたのであって、同規則一三条に違反することは明白である。

(六) また、このことは、原告の営業権が財産権として保障される憲法二九条に反するものであるとともに、原告に対する正当な対価が決まらないまま、空港ビルディングに新規の営業承認をして原告を不利益に扱うのは、平等原則を定める憲法一四条に違反するものである。

(七) しかも、被告は、自ら営業譲渡をするように行政指導をしておきながら、それに反する空港管理規則一二条による営業承認をしているのであって、信義則に著しく反する。

(八) 以上から、本件承認は無効である。

第三争点に対する判断

一  争点1について

1  行政事件訴訟法三六条は、「無効等確認の訴えは、当該処分又は裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者その他当該処分又は裁決の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者で、当該処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによって目的を達することができないものに限り、提起することができる。」と規定しているが、ここでいう「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうと解される。

2  そこで、原告が「法律上の利益を有する者」に当たるかどうか検討する。

(一)  まず、原告に旅客ターミナル事業について独占的営業権が保障されているか検討する。

(1) 那覇空港は運輸大臣が設置管理する第二種空港であり、その旅客ターミナルビルにおける構内営業は、航空法及び同法の規定(五五条の二第二項、五四条の二第一項)を受けた空港管理規則による規制を受けるものである。原告は、航空法及び空港管理規則により原告の独占的営業権が保障されている旨主張する。しかし、空港管理規則一条は、同規則の目的について、空港の能率的運用とその秩序維持のために必要な事項を定めることとし、それを受けて同規則一二条が、構内営業を行おうとする者は、所定の事項を記載した申請書を空港事務所長を経由して地方航空局長に提出し、その承認を受けなければならない旨を、同規則一三条が、第一類営業の承認を受けた者が、営業の全部又は一部を他人に譲渡等をしようとするときは、所定の事項を記載した申請書を空港事務所長を経由して地方航空局長に提出し、その承認を受けなければならない旨を規定していることからすると、航空法及び空港管理規則は、高度の公共性を有する空港ターミナル事業について、能率的運用と秩序維持という公共の利益を図ることを目的として、その運営の適正さを確保するために、これらの規制を設けていると解されるのであって、特定の個人に独占的な営業権を付与するものとは認められない。

(2) また、原告は、沖縄の日本復帰前に当時の琉球政府から付与された権利が既得権として保障されている旨主張するが、「沖縄の復帰に伴う特別措置に関する法律」五三条一項によれば、沖縄法令の規定によりされた免許等は本土法令の相当規定によりされた処分又は手続とみなすと規定するだけであるから、現行法規により与えられる地位以上に原告に何らかの具体的な権利を与えているものとは認められない。

(3) したがって、旅客ターミナル事業について、原告に独占的営業権が保障されていることは認められず、この点に関する原告の主張は採用できない。

(二)  次に、原告に、法律上保護された利益があるかどうか検討する。

(1) 法律上保護された利益とは、行政法規が私人等権利主体の個人的利益を保護することを目的として行政権の行使に制約を課していることにより保障されている利益であると解されるところ、これを本件についてみるに、前記のとおり、本件承認の根拠法規である航空法及び空港管理規則は、高度の公共性を有する空港ターミナル事業について、能率的運用と秩序維持という専ら公共の利益を図ることを目的として、その運営の適正さを確保するために、同規則一二条、同一三条の規定を設けていると解されるのであって、同法及び同規則には、同一空港内において複数の事業者の営業を禁止する規定や複数の事業者の営業を調整する規定が設けられていないことからすると、同法及び同規則には、その目的に既存の事業者の営業上の利益を保護する趣旨は含まれていないものと解される。

(2) したがって、原告には法律上保護された利益があるとはいえず、この点に関する原告の主張も採用できない。

(三)  原告は、本件承認により、原告の事業が廃業に追い込まれることになるから、本件承認は、実質的には原告に対する営業拒否処分と同一であるから、原告適格を認めるべきである旨主張する。

確かに、国が設置する第一種、第二種空港においては、同一空港敷地内に複数の事業主体が別個にターミナル事業を営んでいる例はないこと、被告は、原告に対して、平成一〇年三月三一日付けで同年四月一日から平成一一年三月三一日まで第一類営業の期間更新を承認していたが、本件承認後、平成一〇年一一月三〇日付けの文書により、那覇空港の構内営業の期間更新の承認について、新旅客ターミナルビルの供用開始までしか更新しない旨を通知していることが認められ、結果的には、本件承認に基づく新旅客ターミナルビルの供用開始により原告が旅客ターミナル事業をすることができなくなることが認められる。

しかし、前記のとおり、航空法及び空港管理規則には、既存の事業者の営業上の利益を保護している趣旨は含まれておらず、しかも、原告に対する営業拒否処分と本件承認とは別個の処分であることからすると、本件承認により、結果的に原告が旅客ターミナル事業をすることができなくなったとしても、その影響は、事実上のものにすぎず、航空法及び空港管理規則により保護された利益に対するものとはいえない。したがって、この点に関する原告の主張も採用できない。

3  以上から、原告は、行政事件訴訟法三六条に規定する「法律上の利益を有する者」には当たらないと認められる。

二  結論

よって、本件訴えは、原告適格を欠く不適法なものであるから、その余の点について判断するまでもなくこれを却下することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 喜如嘉貢 裁判官 齊藤啓昭 井上直哉)

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