那覇地方裁判所 昭和48年(ワ)53号 判決 1975年7月09日
原告 国
訴訟代理人 島尻寛光 中川康徳 喜屋武静雄 仲村盛男 ほか二名
被告 株式会社沖縄興業銀行
主文
原告と被告との間において、別紙目録記載の土地につき、原告が所有権を有することを確認する。
被告は別紙目録記載の土地について、那覇法務支局一九六六年七月二六日受付第一六〇一六号の所有権保存登記の抹消登記手続をせよ。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第一当事者双方の求めた裁判
一 原告
主文同旨。
二 被告
原告の請求はいずれもこれを棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者双方の主張
一 原告の請求原因
(一) 原告は別紙目録記載の土地(以下本件土地という)を所有している。
すなわち
1 (主位的主張)
本件土地は公有水面を埋立てて造成された土地である。
2 (予備的主張)
(1) 原告は一〇年の取得時効により本件土地の所有権を取得した。すなわち、米国民政府財産管理官は本件土地が米軍の土砂等の投棄により造成されたものであることが調査により判明したので、これを日本国有地と認定し、財産の管理と題する布告(一九四八年四月七日軍政府布告第七号)に基づき、昭和二九年九月一〇日原告のために管理占有を開始し、沖縄の日本復帰の際、本件土地の管理を日本国に引継ぎ、現在大蔵省が普通財産としてこれを管理している。
従つて、原告は本件土地を昭和二九年九月一〇日、原告の所有に属するについて過失なく占有を始め現にこれを占有しているので、占有開始のときから一〇年を経過した昭和三九年九月一〇日の経過により時効によつて本件土地の所有権を取得した。
よつて、原告は本訴において右時効を援用する。
(2) 仮りに右一〇年の取得時効が認められないとしても、原告は右のとおり昭和二九年九月一〇日から占有を始め、現にこれを占有しているので、占有開始のときから二〇年を経過した昭和四九年九月一〇日の経過により時効によつて本件土地の所有権を取得した。
そこで、原告は本訴において右時効を援用する。
(二) しかるに、本件土地には被告のために那覇法務支局一九六六年七月二六日受付第一六〇一六号の所有権保存登記がある。
(三) よつて、原告は被告に対し本件土地の所有権確認並びに本件土地の所有権保存登記の抹消登記手続を求める。
二 被告の請求原因事実に対する認否
(一) 1 請求原因(一)1(主位的主張)記載の事実は認める。
2 同(一)2(予備的主張)記載の各事実は否認する。
(二) 請求原因(二)記載の事実は認める。
三 被告の抗弁
(一) 請求原因(一)1に対して
本件土地は護得久朝惟が公有水面の埋立免許を受けて(但し、その日時は定かでない)埋立工事に着工し、右工事が竣工しないうちにその所有権を取得し、同人は本件土地を担保にして沖縄銀行から融資を受け、その後沖縄銀行、那覇商業銀行、産業銀行が合併して被告銀行が設立され、右沖縄銀行の右護得久に対する債権も被告に引継れたが、右護得久が右債務の弁済をなさないため被告が本件土地を取得した。
(二) 同(二)1に対して
復帰前の沖縄の「土地所有権の取得時効の特例に関する立法」(一九六一年四月七日立法一一号)により、沖縄群島内の土地について、民法一六二条二項の規定が排除されており、また、「沖縄の復帰に伴う特別措置に関する法律」 (昭和四六年一二月三一日法律一二九号、施行昭和四七年五月一五日)六六条には「沖縄群島内の土地については復帰の日から起算して六ケ月以内は民法一六二条二項に規定する取得時効は完成しない」旨規定されているので、原告主張の一〇年の取得時効は沖縄が復帰した昭和四七年五月一五日から六ケ月以内の同年一一月一四日までは進行しない。
(三) 同(二)1、2に対して
1 (時効中断の抗弁)
被告は昭和三八年六月一二日中央巡回裁判所に対し、本件土地につき所有権認定の申立をなし、昭和四一年六月二八日本件土地の所有権認定を受けたのであるから、原告の取得時効の進行は本件土地につき所有権認定の申立をなした昭和三八年六月一二日に中断された。
2 (権利濫用の抗弁)
仮りに右申立が取得時効の中断事由に該当しないとしても、沖縄の復帰前、米国民政府およびその機関は訴訟手続の当事者になり得ないとされており、被告において本件土地を管理占有していた米国民政府を相手方として訴訟により時効を中断する方途がなかつたのであるから、右事情を知悉している原告が被告に対し本訴においてあえて取得時効の主張をなすのは権利の濫用である。
四 原告の抗弁事実に対する認否
(一) 抗弁(一)記載の事実はこれを否認する。
(二) 同(二)記載の事実中、被告主張の法律および条文のあることは認めるが、その主張は争う。 「沖縄復帰に伴う特別措置に関する法律」の第六六条は民法一六二条二項の取得時効の停止を設けたものであり、復帰の日から六ケ月経過後には、既に完成していた時効期間が完成するのである。従つて、被告の主張するように本件取得時効の期間は昭和四七年一一月一四日まで進行しないものではない。
(三) 1 同(三)1(時効中断の抗弁)記載の事実はこれを認めるが、その余の主張は争う。中央巡回裁判所の土地所有権認定の決定は非訟事件的なもので、従前の土地所有権認定委員会の事業の延長にすぎず時効の中断事由とはなり得ず、また、仮りに中断事由になり得るものとしても、原告の関与しない右所有権認定申請が、原告に対し時効中断の効果が生ずるものではない。
2 同(二)2(権利濫用の抗弁)記載の事実は認めるが被告の主張は争う。
第三証拠関係<省略>
理由
一 (請求原因に対する判断)
(一) 原告の主位的主張について
1 請求原因(一)1および(二)記載の事実は当事者間に争いがたい。
二 (本件土地の所有権取得の抗弁に対する判断)
被告は、護得久朝惟が公有水面の埋立免許を受けその埋立未宗成のうちに本件土地の所有権を取得し、被告が同人から本件土地を譲受けた旨主張するが、公有水面埋立法二四条本文には「第二一条〔編注・二二条の誤りと思われる。〕ノ竣功認可アリタルトキハ埋立ノ免許ヲ受ケタル者ハ其ノ竣功認可ノ日ニ於テ埋立地ノ所有権ヲ取得ス」と規定され、公有水面を埋立てその埋立地の所有権を取得するためには同法二条の地方長官の公有水面埋立免許を受けた者がその埋立工事竣功後、地方長官の竣功認可を受けることを要するものであるから、この点において被告の本件主張自体理由がないのみならず、右護得久が本件土地の埋立造成について所轄長官より公有水面の埋立免許を受けたと認めるに足りる証拠はない。
してみると、被告の本件抗弁は採用し難い。
三 よつて、原告の本訴請求はいずれも理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 山口和男 喜如嘉貢 仲宗根一郎)
別紙物件目録<省略>