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那覇地方裁判所 昭和59年(行ウ)2号 判決 1985年12月10日

沖繩県宜野湾市字大謝名六二八番地

原告

南建工業株式会社

右代表者代表取締役

比嘉広

右訴訟代理人弁護士

宮里啓和

同県沖繩市字美里一二三五番地

被告

沖繩税務署長

岸本宏治

右指定代理人

布村重成

林田慧

町田宗伴

上原武博

宮里朝尊

主文

本件訴えを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告が昭和五八年七月二〇日付で原告の昭和五六年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度の法人税についてした更正処分及び加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決

二  被告

1  本案前の申立

主文と同旨の判決

2  本案の申立

(一) 原告の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

との判決

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は、被告に対し、昭和五六年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度の法人税につき、所得金額五八八九万九八一三円、法人税額二二九三万七五八〇円として確定申告(青色)をしたところ、被告は、昭和五八年七月二〇日付で、原告の右事業年度の所得金額を一億〇八二七万四八一三円、法人税額を四三六七万五〇八〇円にそれぞれ更正するとともに、過少申告加算税一〇三万六八〇〇円の賦課決定をした(以下「本件更正処分及び賦課決定処分」という。)。なお、原告は、右確定申告において、沖縄県生コンクリート協同組合(以下「協同組合」という。)から昭和五六年七月九日に支払を受けた一億円のうち南洋土建株式会社(以下「南洋土建」という。)へ支出した五〇〇〇万円について、収益に計上しなかったところ、被告は、これについて法人税法一三二条により右行為、計算を否認し、右一億円は生コンクリート販売のシェアー低落に対する対価であるからその全額を収益に計上すべきものとする一方、右五〇〇〇万円の支出を寄付金と認め、これについて損金不算入の限度額計算を行うと四九三七万五〇〇〇円が損金不算入となるとして、右金額を申告所得金額に加算して本件更正処分及び賦課決定処分をしたものである。

2  しかしながら、本件更正処分及び賦課決定処分は、次の(一)ないし(四)のとおり、原告が南洋土建に支払った五〇〇〇万円についてこれを寄付金とした誤った事実認定に基づいてなされた違法な処分であるから、取り消されるべきである。

(一) 協同組合は、生コン販売の窓口一本化を図ることにより、生コン業者の価格競争を制限し、かつ、代金の回収を確実にすることを目的として組織されたものであるが、右目的達成のため、各業者のシェアー(市場占有率)を決める必要があった。

(二) 原告は、右シェアー決定の協議において一工場(大謝名工場)として評価されていたが、従前西原町に別工場を所有していて、昭和五五年二月一日これを南洋土建に売り渡していたものの、買い戻しが可能な状態だったので、その西原工場の分のシェアーを強く要求したところ、協同組合が右西原工場を一億円で買い取ることで話がまとまった。

(三) そこで原告は、南洋土建に右西原工場を協同組合へ売却する件を相談したところ、原告と南洋土建が右一億円の代金を折半することを条件として、その承諾を得た。

(四) 原告が南洋土建に対し支払った五〇〇〇万円は右の経緯によって支払われたもので対価関係のないものではなく、原告のなした前記行為、計算は企業として当然のことであり、法人税法第一三二条に規定する法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものには該当しないにもかかわらず、被告がこれを寄付金と認定したことは事実誤認であり、同法条の適用を誤った違法がある。

よって、原告は、本件更正処分及び賦課決定処分の取消しを求める。

二  被告の本案前の主張

1  本件更正処分及び賦課決定処分の通知書(以下「本件更正処分等通知書」という。)は、昭和五八年七月二三日原告に送達されたが、原告は、国税通則法第七七条第一項所定の不服申立期間である二か月を経過した後の昭和五八年九月二六日に至ってはじめて国税不服審判所長に対し審査請求をしたため、同審査請求は、法定の期間経過後になされた不適法なものとして却下されたものである。ところで、国税通則法第一一五条は、国税に関する法律に基づく処分の取消しを求める訴えについて、審査請求をすることができる処分にあってはいわゆる審査請求前置主義をとっているところ、審査請求前置の要件が満たされたといえるためには、審査請求をしたというだけでは足りず、これが適法に提起され、本案について裁決を受けることを要するから、適法な審査請求に対する裁決を経ていない原告の本件訴えは審査請求前置の要件を欠き不適法である。

2  仮に右主張が理由がないとしても、本件更正処分及び賦課決定処分に対する審査請求についての裁決書謄本は、昭和五八年一二月二九日原告に送達された。そうすると、原告は、同日右裁決があったことを知ったにもかかわらず、同日から行政事件訴訟法第一四条第一項、第四項所定の法定の出訴期間である三か月を経過した後の昭和五九年三月二九日当庁に本件訴えを提起したのであるから、本件訴えは不適法である。

三  本案前の主張に対する原告の認否及び反論

1(一)  本案前の主張1の事実中、本件更正処分等通知書が原告に送達されたこと、原告が昭和五八年九月二六日に国税不服審判所長に対し審査請求をし、同審査請求が、法定の期間経過後になされた不適法なものとして却下されたことを認め、右通知書の送達日が昭和五八年七月二三日であることを否認する。右通知書が送達されたのは、同月二五日であって、裁決庁は適法な審査請求がなされているのに、誤って却下したものである。

(二)  同2の事実中、本件審査請求に対する裁決の裁決書謄本が昭和五八年一二月二九日原告に送達されたこと、原告が昭和五九年三月二九日当庁に本件訴えを提起したことを認め、その余の主張を争う。

2  原告が本件訴えを昭和五九年三月二九日当庁に提起するに至った事情は次のとおりであって、これは民事訴訟法第一五九条所定の不変期間につき追完が許される場合に該当するから、本件訴えは適法である。

(一) 原告は、顧問税理士国吉隆をして、本件訴状の原稿を作成させたが、同人は、昭和五九年三月二八日午前、原告の総務部長吉浜実博に対して、訴状原稿を手渡したうえ、これをタイプ浄書し、裁判所に同日中に提出するように指示した。右吉浜は、同日午後、原告訴訟代理人宮里啓和弁護士(以下単に「原告代理人」という。)に対して、同日中に提出しなければならないのでタイプをしてくれ、いずれ事件として依頼しなければならないと思う旨話してそのタイプを依頼した。そこで原告代理人は、同日午後五時ころタイプ浄書を了えた訴状を右吉浜に手渡した。その際、原告代理人は、吉浜に、裁判所に対して宮里啓和弁護士に依頼する予定である旨話すことを了承した。しかし、原告代理人は、右時点においては、訴状の作成に関与したものではなく、具体的に原告から事件の説明を受けていたものでもないのであるから、実質的に依頼を受けた代理人たる弁護士でないことは明らかである。

(二) 原告は、右吉浜をして、本件出訴期間の最終日である昭和五九年三月二八日午後七時ころ、被告の住所地を管轄する那覇地方裁判所沖縄支部を管轄裁判所と誤解して、当該訴状を同支部夜間受付の桑江良政裁判所事務官(以下単に「桑江事務官」という。)に提出させたところ、同事務官は本庁である当庁へ提出するように指示することなくこれを受理した。

(三) 翌二九日午前一〇時ころ、同支部受付係の宮里芳男裁判所書記官(以下単に「宮里書記官」という。)から原告代理人に対して、電話で、当該訴状を沖縄支部で受付をして本庁に回付するか否かとの照会があったので、原告代理人は、出訴期間内であれば、あえて同支部で受付けず、本庁に直接提出させた方がよいとの意見を述べたにすぎず、原告代理人の指示で訴状を取り戻したのではない。出訴期間内であるかどうかは、宮里書記官の意見に従ったもので、原告は同書記官から、行政訴訟は本庁の管轄であるので本庁に提出するようにと当該訴状を返却されたので、同日右吉浜が改めて当庁に本件訴状を提出したのである。

(四) 右事情は、民事訴訟法第一五九条の「当事者がその責に帰すべからざる事由に因り不変期間を遵守すること能はざりし場合」に該当するところ、原告は同年三月二九日に当庁に訴状を提出しているのであるから、追完により適法な訴えの提起と認めるべきである。

四  本案前の主張についての原告の反論に対する被告の再反論

1  宮里書記官が訴状を原告に返却したいきさつは、次のとおりである。

(一) 那覇地方裁判所沖縄支部の民事受付係宮里書記官は、昭和五九年三月二九日午前九時ころ、同支部桑江事務官(昭和五九年三月二八日の夜間受付係で、同日午後七時ころ本件訴状を受け取った者)より、当該事件は原告代理人が訴訟代理人に予定されていること及び訴状も原告代理人が作成したものであるとの報告を受けた。

(二) 宮里書記官は、当該訴状に裁決書の送達年月日の記載がなく、出訴期間が不明であったので、直ちに原告代理人に架電し、出訴期間を問い合わせたところ、同月二九日までであるとの返事であったので、事件は本庁扱いなので本庁に提出してほしい旨申し入れた。原告代理人は右申し入れを応諾し、原告の社員をして当該訴状を取り戻させたのである。

2  右事実によれば、原告代理人は、本件の出訴期間が昭和五九年三月二八日までであるにもかかわらず、そのことを失念したためか、あるいは送達日の誤解のためか、同月二九日と認識していた不注意により、本件出訴期間を経過するにもかかわらず、漫然と当該訴状を取り戻したため出訴期間を遵守しえなかったものであって、本件訴えを出訴期間内に提起することを書記官等によって妨げられたものではない。従って、原告代理人による右出訴期間の不遵守をもって、民事訴訟法第一五九条の原告の責に帰すべからざる事由によるものといえないことは明らかである。

なお、問題の訴え自体は、原告本人が訴訟を提起した形式をとっているが、当時既に原告代理人が実質的に訴訟代理人の地位あるいは訴訟代理人と同視しうる地位にあったことは、前述の原告代理人の一連の行動及び本件訴訟で原告代理人が原告の訴訟代理人となっていることからも明らかであるというべきである。

五  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実を認める。

2  同2の冒頭の主張を争い、(一)ないし(三)の各事実を否認し、(四)の主張を争う。被告の本件更正処分及び賦課決定処分は、同1後段に記載の理由に基づきなされた正当なものである。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中にある証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  被告の本案前の申立について判断する。

1(一)  請求原因1の事実並びに本件更正処分等通知書が原告に送達されたこと、原告が昭和五八年九月二六日これを不服として国税不服審判所長に対し審査請求をし、同審査請求が、法定の期間経過後になされた不適法なものとして却下の裁決をされたことは、当事者間に争いがない。

(二)  そこで、被告作成にかかる本件更正処分等通知書が原告に送達された日について検討するに、成立に争いのない甲第五号証、乙第一号証、第二号証の一、二、第三ないし第六号証、第一一号証、第一三ないし第一五号証並びに証人金城達広、同吉浜実博及び同池間啓行の各証言を総合すると、被告は、本件更正処分等通知書を、昭和五八年七月二一日、原告に送達するため配達証明付書留郵便として美里郵便局に差出し、これは、同月二三日に宜野湾郵便局から原告の許に送達されたことが認められる。

(三)  この点につき、原告は本件更正処分等通知書が原告に送達されたのは昭和五八年七月二五日であると主張し、右主張に副う証拠として、甲第五号証の原告会社の受付印の日付欄には「五八年七月二五日」、甲第七号証の八の文書発受信簿には「七・二五 法人税額等の更正通知書及び加算税の賦課決定通知書、沖繩税務署法人税課」の各記載があり、甲第八号証の二の国吉税理士事務所の電話受付簿には「七月二五日一六時五五分、南建工業の吉浜様から帰り次第連絡を請う」旨の伝言の記載がなされており、証人喜舎場明美及び同吉浜実博の各証言中には「喜舎場明美が昭和五八年七月二五日郵便外務員より本件更正処分等通知書の書留郵便物を受け取り、これを開披し、受付印を押して文書番号及び当日の日付を書き込み、文書発受信簿に記載した後直ちに上司の吉浜実博に渡した」との趣旨の供述部分がある。

しかし、前掲乙第三ないし第六号証、第一三ないし第一五号証、証人金城達広及び同吉浜実博の各証言を総合すると、本件更正処分等通知書は書留郵便に付されたが(引受局記号七九四一、引受番号三四九)、右郵便物の配達の事実(配達年月日及び受領者等)を証するために配達郵便局(宜野湾郵便局)において保管されていた書留郵便物配達証三一号には、受取人代人として原告の総務事務担当者である喜舎場明美の署名があり、かつ、その配達年月日として「昭和五八年七月二三日」のゴム印の押されていたことが、動かし難い事実として認められる。そして、証人池間啓行の証言によると、当時宜野湾郵便局においては、書留郵便物配達証は、まず特殊係の職員が、書留郵便物配達の準備作業として、書留郵便物配達証に受取人の住所氏名、引受局記号、引受番号、欄外の月日を記入したうえ、書留郵便物にこれを貼付し、次に、書留郵便物配達証の貼付された郵便物を特殊係から受け取った郵便外務員が、郵便物の宛所に赴き、書留郵便物配達証に受取人の受領印あるいは署名を受けて、これを郵便物から剥ぎ取って配達郵便局に持ち帰り、郵便外務員から書留郵便物配達証を受け取った特殊係の職員がその日のうちにこれに日付ゴム印を押して配達日を明らかにする方法により、一律かつ機械的に処理されていたことが認められる。そうすると、前記書留郵便物配達証三一号の配達年月日の記載は、信用度の高いものであるといわなければならない。

他方、証人喜舎場明美の証言によると、原告には郵便物の取り扱いについて明確な基準がなく、受付印の押捺、文書発受信簿の記載については右喜舎場明美の判断に任されており、右受付印及び文書発受信簿は、書留郵便物と普通郵便物の区別をせず、受付番号の記入も明確な基準なく行われており、文書中には回覧後に受付けられるものもあったことが認められ、それによれば、甲第五号証の受付印の日付欄、甲第七号証の八の文書発受信簿の記載は、前記書留郵便物配達証三一号の記載と対比すると、正確性の保障の点で劣り、にわかに措信することができない。更に、甲第八号証の二の国吉税理士事務所の電話受付簿の記載は、仮にその記載内容に副う事実が認められたとしても、このことから直ちに電話のあった日に本件更正処分等の通知書を原告が受け取った事実を推認できるものではなく、また、原告の主張に副う前掲証人喜舎場明美及び同吉浜実博の各供述も、前記書留郵便物配達証三一号の記載内容に照らして信用できないといわざるを得ない。そして、他に前記(二)の認定を覆すに足りる証拠はない。

2  右事実によれば、原告が国税不服審判所長に対して、本件更正処分及び賦課決定処分の審査請求をしたのは、本件更正処分等通知書が原告に送達された昭和五八年七月二三日から二か月を経過した後の同年九月二六日であるから、右審査請求は、不服申立期間を徒過したものであり、また、徒過したことにつきやむを得ない理由があったと認めるに足りる証拠もないので、不適法であるといわなければならない。

すると、国税不服審判所長が本件更正処分及び賦課決定処分に対する審査請求を却下した裁決には、何ら違法はない。

3  ところで、国税に関する法律に基づく処分で不服申立てをすることができるものの取消しの訴えを提起する場合は、審査請求をすることができる処分にあっては審査請求に対する裁決を経なければならないことは、行政事件訴訟法第八条第一項但書、国税通則法第一一五条第一項の規定上明らかであるところ、審査請求が本案審理を受けることなく却下された場合には、その却下裁決が違法なものでない限り、不服申立の前置があったとはいえないものというべきである。本件においては、前記認定のとおり、原告のなした審査請求に対しては却下の裁決がなされており、右裁決が適法なことは既に判断したとおりであるから、原告の本件訴えは、訴訟要件を欠く不適法なものというべきである。

二  よって、本件訴えは不適法であるから、その余の点について判断するまでもなくこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 河合治夫 裁判官 水上敏 裁判官 小坂敏幸)

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