那覇地方裁判所沖縄支部 平成11年(ワ)373号 判決 2005年3月24日
第1事件、第3事件、第4事件原告(第2事件、第5事件、第6事件被告)
株式会社ホットスパーコンビニエンスネットワークス
上記代表者代表取締役
A
上記訴訟代理人弁護士
与世田兼稔
第1事件被告(第2事件原告)
甲山太郎
第1事件被告
乙野次郎
第3事件被告(第6事件原告)
丙川三郎
第3事件被告
丙川春子
第4事件被告(第5事件原告)
丁木四郎
第4事件被告
丁木五郎
第4事件被告
戊谷六郎
第5事件原告
己田七郎
上記8名訴訟代理人弁護士
新垣勉
第1事件被告両名、第2事件原告、第3事件被告両名訴訟代理人弁護士
伊志嶺善三
第1事件被告甲山太郎、第3事件丙川三郎、第4事件被告丁木四郎、第5事件原告両名訴訟代理人弁護士
岡島実
主文
1 第1事件被告甲山太郎及び同乙野次郎は、同事件原告株式会社ホットスパーコンビニエンスネットワークスに対し、連帯して、金1856万0476円及びこれに対する平成11年8月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 第2事件原告甲山太郎の同事件被告株式会社ホットスパーコンビニエンスネットワークスに対する請求を棄却する。
3 第3事件被告丙川三郎及び同丙川春子は、同事件原告株式会社ホットスパーコンビニエンスネットワークスに対し、連帯して、金1122万1924円及びこれに対する平成12年3月15日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
4 第6事件原告丙川三郎の同事件被告株式会社ホットスパーコンビニエンスネットワークスに対する請求を棄却する。
5 第4事件被告丁木四郎、同丁木五郎及び同戊谷六郎は、同事件原告株式会社ホットスパーコンビニエンスネットワークスに対し、連帯して、金1289万4368円及びこれに対する平成12年5月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
6 第5事件原告丁木四郎及び同己田七郎の同事件被告株式会社ホットスパーコンビニエンスネットワークスに対する請求をいずれも棄却する。
7 訴訟費用は、第1事件、第3事件及び第4事件については各事件被告らの、第2事件、第5事件及び第6事件については各事件原告らの負担とする。
8 この判決は、主文第1項、同第3項及び同第5項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 第1事件
主文同旨
2 第2事件
第2事件被告株式会社ホットスパーコンビニエンスネットワークスは、同事件原告甲山太郎に対し、金6736万2902円及びこれに対する平成7年2月28日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3 第3事件
主文同旨
4 第4事件
主文同旨
5 第5事件
(1) 第5事件被告株式会社ホットスパーコンビニエンスネットワークスは、同事件原告丁木四郎に対し、金2959万2706円及びこれに対する平成7年2月28日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(2) 第5事件株式会社ホットスパーコンビニエンスネットワークスは、同事件原告己田七郎に対し、金2377万1680円及びこれに対する平成7年8月14日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
6 第6事件
第6事件被告株式会社ホットスパーコンビニエンスネットワークスは、同事件原告丙川三郎に対し、金360万6322円及びこれに対する平成9年1月25日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 第1事件、第3事件及び第4事件(以下、まとめて「本訴請求」という。)は、第1事件被告甲山太郎(以下「被告甲山」という。)、第3事件被告丙川三郎(以下「被告丙川」という。)及び第4事件被告丁木四郎(以下「被告丁木」という。)との間でコンビニエンスストアの経営に関し加盟契約を締結した上記各事件原告ホットスパーコンビニエンスネットワークス(以下、全事件を通じて「原告ホットスパー」という。)が、上記被告らに対し、加盟契約に基づき、商品代金等の支払を求めるとともに、第1事件被告乙野次郎(以下「被告乙野」という。)、第3事件被告丙川春子(以下「被告春子」という。)並びに第4事件被告丁木五郎(以下「被告五郎」という。)及び同戊谷六郎(以下「被告戊谷」という。)に対し、上記加盟契約から生じる債務について締結した連帯保証契約に基づき、上記商品代金等の支払を求めたところ、被告甲山、被告丙川及び被告丁木が、①上記加盟契約は要素に錯誤があるため無効であり、②仮に加盟契約が有効であるとしても、原告ホットスパーの商品代金請求は信義則に反する旨主張し、更に、③原告ホットスパーは客観的かつ合理的な資料に基づく正確な情報を提供すべき義務や、被告らに対し閉店を指導すべき義務に違反したから、原告ホットスパーの商品代金等請求権と、債務不履行に基づく損害賠償請求権や不当利得に基づく返還請求権を対当額で相殺する旨主張して、支払義務を争う事案である。
第2事件、第5事件及び第6事件(以下、まとめて「反訴請求」という。)は、原告ホットスパーとの間で加盟契約を締結した被告甲山、被告丁木、被告丙川及び第5事件原告己田七郎(以下「己田」という。)が(以下、これらの者をまとめて「被告ら」と呼ぶ。)、①原告ホットスパーは、加盟契約締結に当たり、客観的かつ合理的な資料に基づく正確な情報を提供すべき義務等に違反し、被告らは錯誤により加盟契約を締結したから、上記各加盟契約は無効である旨主張して、不当利得に基づき、ロイヤリティ相当額等の返還を求めるとともに、②原告ホットスパーの被告ら(己田を除く。)に対する商品代金請求は信義則に反するから、上記被告らが閉店後原告ホットスパーに対し支払った金員は不当利得になる旨主張して、当該金員の返還を求め、③原告ホットスパーは、上記の情報提供義務のほか閉店指導義務も怠った旨主張して、債務不履行に基づき、ロイヤリティ相当額等の損害賠償を請求し、更に、④上記被告らが原告に送金した売上金等は加盟契約上預託に相当する旨主張して、加盟契約に基づき、被告らが原告に預託した売上金等の支払を求めた事案である。
2 前提となる事実
以下の事実は、当事者間に争いがないか又は証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めることができる。
(1) ホットスパーは、オランダのアムステルダムに本部を有し、ヨーロッパを中心に約28か国、加盟店舗数は全世界で約2万店の食品小売りチェーンである。原告ホットスパーは、我が国において、フランチャイズ事業によるコンビニエンスストアの経営を目的として、加盟店希望者との間で加盟契約を締結し、技術援助、指導等を行っており、我が国における店舗数は約2000である。
(2) 第1事件及び第2事件について(被告甲山、被告乙野関係)
ア 加盟契約の締結
原告ホットスパーと被告甲山は、平成7年2月28日、コンビニエンスストアであるスパー○○店の経営に関し、概ね下記の事項を含む内容の加盟契約を締結した。なお、この加盟契約は、店舗の建物や設備の一切を原告ホットスパーにおいて提供する、いわゆるBタイプ契約と呼ばれるものであった。
記
(ア) 店舗名
スパー○○店
(イ) 店舗所在
沖縄県名護市字名護<番地略>
(ウ) 協力関係
原告ホットスパーは、被告甲山に対し、スパーシステムによるコンビニエンスストアの経営指導・技術援助・情報の提供を行い、被告甲山は、上記店舗において、上記契約に基づいて原告ホットスパーの指導事項を実行してその経営に当たり、これについての一定の対価を支払う。
(エ) 相互の独立
原告ホットスパーと被告甲山はそれぞれ独立の事業者であり、被告甲山は原告ホットスパーの代理人又はその使用人ではなく、被告甲山はスパー店の経営を自己の責任と負担において行う全ての権限を有し、義務を負う。
(オ) 権利
①スパーシステムによるコンビニエンスストアの経営ノウハウ及び各種情報を継続して伝達し、これに必要な手引き書類・資料、書式用紙等の提供を受けること ②スパー店の経営において、ホットスパーの商標、サービスマーク、意匠著作物及びこれに類する標章、看板並びにスパー店舗であることを示すその他営業のシンボルを使用すること
(カ) 原告ホットスパーの販売協力
原告ホットスパーは、被告甲山に対し、以下のサービス又は援助を行い、被告甲山の販売に協力する。
①スパー店で扱うにふさわしい商品の供給 ②消耗品、什器備品の供給及び斡旋 ③最も効果的と判断される標準小売価格の提示 ④被告甲山の仕入れの簡素化、効率化を図る受発注システムの提供 ⑤スパーシステムによる販売促進のための技術、情報の提供 ⑥経営に関する継続的指導援助 ⑦スパー店の共通の知名度を高め、販売促進のため原告ホットスパーが必要と考える広告宣伝 ⑧公共料金収納代行等サービス業務の斡旋
(キ) 商品の供給
原告は、被告甲山のため、スパー店において販売する商品のほか、消耗品、什器、備品等を被告甲山の発注に基づいて供給する。
(ク) 総売上金等の送金
被告甲山は、毎日の営業収入の全て(店内の売り上げ、サービス提供による手数料等)をレジスターに登録し、その集計額をもって総売上金とし、毎日、総売上金につき現金全額を原告ホットスパーの指定する銀行預金口座に入金する。
(ケ) ロイヤリティ
被告甲山は、次の条件により算出した額をロイヤリティとして原告に支払う。
a 酒、たばこ、米、塩、医薬品の売上高に対し
売上高×0.015
b 上記aを除く商品の売上高に対し
売上総利益×0.32
c その他営業収入に対し
その他営業収入×0.32
(コ) 決済
商品代金、ロイヤリティ、消耗品代、保守料金等(以下、まとめて「商品代金等」ということがある。)の決済方法は、次のとおりとする。①被告甲山が毎月1日から末日までの商品代金等を上記(ク)の方法により送金した売上金より控除して精算し、原告は控除後の残金を被告甲山の口座に振替返還する。この返還額に利息は付さない。②被告甲山が送金した売上金をもって商品代金及びロイヤリティに足りない場合には、被告甲山は、原告ホットスパーからの通知があり次第、原告ホットスパーに不足額を支払う。③その他、本契約に定めのない原告ホットスパー・被告甲山間の債権債務の決済については、交互計算(商法529条以下)の定めを適用する。
(サ) 最低保障
被告甲山が契約所定の事項を遵守して毎日営業しても、その年間の総収入(売上総利益に24時間助成金を加算した額から、ロイヤリティを控除した額をいう。)が1200万円に達しないときは、原告ホットスパーはその不足分を補填する。ただし、原告ホットスパーが補填する額はそのロイヤリティの額を限度とし、月次最低保障の補填額は、被告甲山の月次の総収入が3万2500円に営業日数を乗じた額に満たない金額とする。
イ 連帯保証契約の締結
被告乙野は、前同日、原告ホットスパーとの間で、上記加盟契約に基づく被告甲山の債務を連帯保証する旨合意した。
ウ 加盟契約の合意解除等
原告と被告甲山は、平成11年6月25日付けで上記加盟契約を合意解除した。この時点における被告甲山の原告ホットスパーに対する商品代金等の未払額は、2286万3828円であった。そして、原告ホットスパーは、被告甲山との間で、前同日付をもって、前同日現在スパー○○店内に存する被告甲山所有に係る商品及び備品を原告ホットスパーが434万1291円で買い取る旨の合意をし、原告ホットスパーは、前同日、被告甲山に対し、原告ホットスパーの被告甲山に対する前記434万1291円の債務と被告甲山の原告ホットスパーに対する前記2286万3828円の債務を対当額で相殺する旨の意思表示をした。その結果、同日の時点における被告甲山の商品代金等の債務額は、1852万2537円となった。さらに、その後、上記相殺の時点で伝票の未処理分があり、原告ホットスパーが被告甲山に対して4万1612円の商品代金等債権を有することが判明したため、原告ホットスパーは、これを同年7月期の商品代金等として計上することにし、その結果原告ホットスパーの商品代金等債権額は、1856万4149円となった。
他方、スパー○○店のDDIの電話料金については、加盟契約終了後は原告ホットスパーの負担となるところ、平成11年7月分、10月分ないし12月分の4か月分の合計3673円が被告甲山の口座から引き出されている事実が判明した。そこで、原告ホットスパーは、平成12年6月14日の口頭弁論期日において、上記電話料金債務と商品代金等債務を対当額で相殺する旨の意思表示をした。
よって、原告ホットスパーが被告甲山に対して有する商品代金等の額は、平成11年7月末日の時点で、1856万0476円となる。
(3) 第3事件及び第6事件について(被告丙川、被告春子関係)
ア 加盟契約の締結
原告ホットスパーと被告丙川は、平成5年2月24日、沖縄県宜野湾市宜野湾<番地略>に所在する店舗名「スパー××店」のコンビニエンスストア経営に関し、加盟契約を締結した。この加盟契約の内容、すなわち、両者の協力関係、相互の独立、被告丙川の権利義務、原告ホットスパーの販売協力、商品の供給、ロイヤリティの額及びその算定方法、商品代金等の決済方法、最低保障等の事項は、おおむね原告ホットスパーと被告甲山との間の加盟契約と同様である。ただし、被告丙川の加盟契約は、いわゆるCタイプ契約と呼ばれるものであり、ロイヤリティの割合が低い反面、家賃、諸経費、リース物件、什器備品を加盟店が負担する内容となっていること、最低保障制度適用の前提となる総収入額が年間1800万円であること、補填額算定の上限が4万9000円に営業日数を乗じた額とされていること、商品売上(ただし、酒、タバコ、米、塩を除く。)又はその他の営業収入に対するロイヤリティの割合が16.94パーセントとされていること等において、被告甲山の加盟契約と異なっている。
イ 連帯保証契約の締結
被告春子は、平成5年2月24日、原告ホットスパーとの間で、上記加盟契約に基づく被告丙川の債務を連帯保証する旨合意した。
ウ 加盟契約の解除等
被告丙川は、スパー××店を経営していたが、原告ホットスパーに対する未払いを発生させたため、原告ホットスパーは、被告丙川に対し、平成12年2月19日、上記加盟契約を解除する旨の意思表示をした。この時点における原告ホットスパーの被告丙川に対する商品代金等の債権額は、1122万1924円であった。
(4) 第4事件及び第5事件について(被告丁木、被告五郎、被告戊谷関係)
ア 加盟契約の締結等
原告ホットスパーと被告丁木は、平成7年2月28日、沖縄県中頭郡北谷町所在のスパー△△店の経営に関し、加盟契約を締結した。この加盟契約の内容、すなわち、両者の協力関係、相互の独立、被告丁木の権利義務、原告ホットスパーの販売協力、商品の供給、ロイヤリティの額及びその算定方法、商品代金等の決済方法、最低保障等の事項は、おおむね原告ホットスパーと被告甲山との間の加盟契約と同様である。ただし、被告丁木の加盟契約は、店舗の建物の家賃を被告丁木が負担するいわゆるAタイプ契約と呼ばれるものであること、最低保障制度適用の前提となる総収入額が年間1800万円であること、補填額算定の上限が4万9000円に営業日数を乗じた額とされていること等において、被告甲山の加盟契約と異なっている。
そして、原告ホットスパーと被告丁木は、同年9月22日、沖縄県中頭郡北谷町字桑江<番地略>所在の建物について、被告丁木が原告ホットスパーから転貸を受ける旨の合意をし、被告丁木は、同年12月24日、上記建物でホットスパー△△店を開店した。
イ 連帯保証契約の締結
被告五郎及び被告戊谷は、平成7年2月28日、原告ホットスパーとの間で、上記加盟契約に基づく被告丁木の債務を連帯保証する旨合意した。また、被告五郎及び被告戊谷は、同年9月22日、原告ホットスパーとの間で、上記転貸借契約に基づく被告丁木の債務を連帯して保証する旨の合意をした。
ウ 加盟契約の合意解約等
被告丁木は、平成12年3月1日以降、加盟契約で定められた売上金の送金を全く行わなかった。原告ホットスパーは、同月14日、15日及び17日付け文書によって売上金の入金を催告したが、被告丁木は、同年4月12日に至っても売上金を送金しなかった。そこで、原告ホットスパーは、被告丁木に対し、同月14日、加盟契約を解除する旨の意思表示をした。同年3月1日から上記解除の意思表示の日までの間における、原告ホットスパーの被告丁木に対する商品代金等の債権額は、890万7404円であった。
他方、原告ホットスパーと被告丁木は、平成11年12月1日、同年10月末日現在の時点における未払の商品代金等代金額が549万1964円であることを被告丁木が承認した上、被告丁木は、上記金員を、同年11月末日限り140万円、同年12月から平成12年11月まで毎月末日限り3万5000円、同年12月から平成13年11月まで毎月末日限り4万円、同年12月から平成14年11月まで毎月末日限り7万円、同年12月から平成16年9月まで毎月末日限り10万円、同年10月末日限り15万1964円に分割して支払う、被告丁木が上記債務を履行しないとき又は加盟契約が解除されたとき等の場合には、被告丁木は期限の利益を喪失する等を内容とする弁済の合意をした。しかし、被告丁木は、平成12年3月分の分割金の弁済を怠り、又は上記のとおり加盟契約が解除されたことによって、遅くとも平成12年4月14日の経過により、期限の利益を喪失した。この時点における上記金員の残金は、398万6964円である。
(5) 第5事件について(己田関係)
ア 加盟契約の締結
原告ホットスパーと己田は、平成7年8月14日、沖縄県名護市字喜瀬<番地略>に所在する店舗名「スパー□□」のコンビニエンスストア経営に関し、加盟契約を締結した。この加盟契約の内容、すなわち、両者の協力関係、相互の独立、己田の権利義務、原告ホットスパーの販売協力、商品の供給、ロイヤリティの額及びその算定方法、商品代金等の決済方法、最低保障等の事項は、おおむね原告ホットスパーと被告甲山との間の加盟契約と同様である。ただし、己田の加盟契約は、最低保障制度適用の前提となる総収入額が年間1800万円であること、補填額算定の上限が4万9000円に営業日数を乗じた額とされていること等において、被告甲山の加盟契約の内容と異なっている。
そして、己田は、同年10月25日、□□店を開店し、平成10年9月30日までの間同店を経営していた。
イ 加盟契約の合意解約等
己田と原告ホットスパーは、平成10年9月30日限りでスパー□□店を閉店する旨の合意をし、加盟契約は解約された。そして、原告ホットスパーは、己田に対し、未払の商品代金等として1121万1129円を請求し、己田との間で、平成11年3月5日ころ、己田が上記金額を月3万円ずつ支払う旨の合意が成立した。己田は、現在、この合意に基づき、原告ホットスパーに対し月3万円を支払っている。
3 本件の争点及び争点に関する当事者の主張
(1) 本件における主要な争点
本件の主要な争点は、①原告ホットスパーが、被告らとの間で加盟契約を締結するに当たり、被告らに対し、店舗の収支予測等について、客観的かつ合理的な資料に基づく正確な情報を提供すべき信義則上の義務等に違反したか否か(本訴請求に係る錯誤無効の抗弁、損害賠償請求権による相殺の抗弁、反訴請求に係る不当利得に基づく返還請求権の請求原因、債務不履行に基づく損害賠償請求権の請求原因に関する争点)、②原告ホットスパーに閉店指導義務違反があったか否か(本訴請求に係る上記相殺の抗弁、反訴請求に係る上記損害賠償請求権に関する争点)、③原告ホットスパーの被告ら(己田を除く。)に対する各加盟契約に基づく商品代金等の請求が信義則に反するか否か(本訴請求に係る信義則違反の抗弁、反訴請求に係る不当利得返還請求権の請求原因に関する争点)、④原告ホットスパーとの間で加盟契約を締結した被告らの加盟契約に基づく預託金返還請求の当否(反訴請求に係る加盟契約に基づく預託金返還請求権の請求原因等に関する争点)、⑤被告らの損失又は損害額の5点である。
そして、第1事件ないし第6事件について、上記の争点に関する当事者の主張の概要は、次のとおりである(なお、本件においては、本訴請求及び反訴請求のいずれにおいても、訴訟物、請求原因及び抗弁がほぼ共通するので、以下、争点毎に関係当事者の主張を掲記する。)。
(2) 原告ホットスパーの情報提供義務違反の有無(争点①)について
ア 被告らの主張
原告ホットスパーと被告らの間には、経済力、経営ノウハウ、情報力、交渉力等において圧倒的な格差が存在する。この圧倒的な格差の中で、原告ホットスパーは「パッケージ化されたノウハウ」を目玉として加盟店を勧誘し、加盟契約を締結するから、加盟店となろうとする者の実態は「パッケージ化されたノウハウ」を購入する「消費者」としての地位に立つ。そして、原告ホットスパーと加盟契約を締結しようとする者は、「消費者」としての地位に基づき、原告ホットスパーが提供する情報を重要な判断の根拠として契約締結の可否を判断することになる。
したがって、原告ホットスパーは、被告らと加盟契約を締結するに当たっては、信義則上、店舗の収支予測(収入、費用、利益等)等に関し、客観的かつ合理的な資料に基づき正確な情報を提供すべき義務を負う。また、原告ホットスパーが提供する情報は、信義則上、客観的かつ合理的な資料に基づく正確性を有する情報であることを義務づけられていると解すべきである。ところが、以下のとおり、原告ホットスパーが加盟契約締結に当たり被告らに提供した情報は、虚偽のものであるか、許容し得ない程度に不正確なものであったから、原告ホットスパーには加盟契約締結に当たり情報提供義務違反があったというべきである。そうすると、被告らとの間の加盟契約はいずれも錯誤により無効であるのみならず、原告ホットスパーは、被告らに対し、情報提供義務違反に基づく損害賠償債務を負う。
原告ホットスパーの被告らに対する情報提供義務違反を基礎付ける具体的事実は、次のとおりである。
(ア) 被告甲山について
原告ホットスパーが被告甲山に勧誘したスパー○○店は、前経営者の時代には採算ベースに乗らなかったものであった。このように、原告ホットスパーは、素人である被告甲山に対し、赤字であるか又は採算ベースに乗らない店舗を引き継がせて加盟契約を締結させようとするのであるから、勧誘に当たっては、収支について適切に判断できる情報を提供すべきであった。ところが、原告ホットスパーは、被告甲山に対し、単に、従前の売上高を10ないし15パーセント伸ばせば採算ベースに乗り、可処分所得が30ないし50万円は上がる旨を説明したにすぎず、採算にとって重要な経費に関する情報を全く説明しないまま、加盟契約を締結させた。
このように、原告ホットスパーが客観的かつ合理的な資料に基づき正確な情報を提供しなかった結果、加盟契約締結後、被告甲山が原告ホットスパーの説明どおり10ないし15パーセントの売上高増を達成したにもかかわらず、スパー○○店の収支は採算ベースに乗らなかったのであるから、原告ホットスパーの上記説明は情報提供義務違反であって、上記加盟契約は錯誤により無効であるか、仮に加盟契約が錯誤により無効でないとしても、原告ホットスパーは被告甲山に対し債務不履行に基づく損害賠償義務を負う。
(イ) 被告丙川について
原告ホットスパーは、社内においてスパー▲▲店の売上を月938万円と予測していたにもかかわらず、被告丙川に対する加盟契約の勧誘に当たっては、売上高を月1020万円である旨の過大な説明をし、また、経費についても、社内では月183万9000円と予測していたにもかかわらず、被告丙川に対してはより過小な額を説明した上で、加盟契約を締結させた。ところが、被告丙川が加盟契約を締結し、▲▲店を開店した後の実績は、平均売上高が月約660万円にすぎず、原告ホットスパーが被告丙川に対し説明した前記売上高よりもかなり低くなっており、経費についても月平均で約203万円を要していたから、原告ホットスパーの説明よりも多額の経費がかかっていたことになる。
このように、原告ホットスパーが客観的かつ合理的な資料に基づき正確な情報を提供しなかった結果、被告丙川は▲▲店を採算ベースに乗せることができなかったのであるから、原告ホットスパーの上記説明は情報提供義務違反であって、上記加盟契約は錯誤により無効であるか、仮に加盟契約が錯誤により無効でないとしても、原告ホットスパーは被告丙川に対し債務不履行に基づく損害賠償義務を負う。
(ウ) 被告丁木について
原告ホットスパーは、被告丁木に対し、スパー△△店の開店に関する加盟契約締結に当たり、毎月の売上高が1101万円、粗利益が306万5000円、粗利益率が26.54パーセントとなるなど、実態と著しく異なる過大な収支情報が記載された「収支予測表」を示して勧誘し、加盟契約を締結させた。ところが、上記売上高等に関する原告ホットスパーの予測は、その基礎となる資料や予測方法において初歩的な誤りがあるか、極めて非現実的な数値を前提とするなど合理的なものではなく、信頼性の乏しい不正確なものであった。そして、スパー△△店の開店以後における平均売上高は、酒類販売の免許を取得するまでの間がわずか月約647万円、酒類免許を取得した後にも月約803万程度にすぎず、原告ホットスパーの上記売上予測がずさんなものであったことは明らかである。
このように、原告ホットスパーが客観的かつ合理的な資料に基づき正確な情報を提供しなかった結果、被告丁木は△△店を採算ベースに乗せることができなかったのであるから、原告ホットスパーの上記説明は情報提供義務違反であって、上記加盟契約は錯誤により無効であるか、仮に加盟契約が錯誤により無効でないとしても、原告ホットスパーは被告丁木に対し債務不履行に基づく損害賠償義務を負う。
(エ) 己田について
原告ホットスパーは、己田に対し、スパー□□店の開店に関する加盟契約締結に当たり、「事業計画書」を示した上、同店の経費が月約170万円程度である旨の情報を提供して勧誘した。ところが、上記事業計画書の経費欄には、「廃棄高」や「不明ロス」等のあるべき項目が欠け、しかも「減価償却」欄の記載は0円となっていた。これらの事項は、経費の中でも重要な位置を占めるから、原告ホットスパーは、己田に対し、上記のような不正確な情報を提供したばかりか、人件費等を考慮すれば実態よりも約25万円も低い経費に関する虚偽の情報を提供して勧誘し、己田に加盟契約を締結させた。
このように、原告ホットスパーが客観的かつ合理的な資料に基づき経費に関する正確な情報を提供しなかった結果、己田は□□店について事業計画書に記載された数値よりも大きく劣る収益しか上げることができなかったのであるから、原告ホットスパーの上記説明は情報提供義務違反であって、上記加盟契約は錯誤により無効であるか、仮に加盟契約が錯誤により無効でないとしても、原告ホットスパーは己田に対し債務不履行に基づく損害賠償義務を負う。
イ 原告ホットスパーの反論
被告らの主張はいずれも争う。
原告ホットスパーが作成し、被告らに示した事業計画書等の資料は、被告らが主張するような一定の収支があることを保障する「収支予測表」ではなく、一定程度の売上が達成でき、平均的な店舗における経費額で収支を予測した場合における被告らの実質的な取り分を理解させるために作成された一種のシミュレーションにすぎない。また、原告ホットスパーがした上記収支に関する推定は、開店しようとする店舗の規模、周辺の世帯数、道路通行量、企業等の存在等の事情を総合的に判断してしたものであるが、この過程にも、被告らが指摘するような誤りはない。そして、原告担当者は、上記資料を用いてスパーシステム等を説明するに当たり、被告らに対し、上記数値は一応の見込みにすぎないこと、スパーシステムは決して易しいものではなく、楽して儲かるという事業でもないこと、自己の労力を最大限に投じて、可能な限り人件費を削減すれば平均的な給与所得者よりは良い収入が得られる可能性があるというにすぎないことを念を押して説明してきた。とりわけ、被告丁木に対しては、以上の説明に加えて、同人が酒類免許を有していなかったため、酒類免許がなければ十分な売上を確保することは困難であり、酒類免許取得までは最低保障の適用があるかもしれないことを更に説明した。
被告らは、いずれも実社会で就労した経験を有しているから、加盟契約の内容はもとより、こうした説明の内容を十分理解できたはずである。特に、被告丙川は、もともと原告ホットスパーの社員として、店舗新設の展開を行う開発担当をしていた人物であり、本件において原告ホットスパーが商品代金等を請求しているスパー××店も、被告丙川自身が開発し、その後自ら経営を引き継いだのであるから、加盟契約の内容について十分認識していたことはもとより、コンビニエンスストア経営の知識についても十分有していたはずである。また、己田についても、沖縄地区におけるスパーシステムは、もともと、●●販売株式会社(以下「●●」という。)によって運営されていたところ、己田は、この当時、●●に勤務していたのであるから、コンビニエンスストア経営の内容について十分知識を有していたはずである。
被告らは、いずれも、以上のような説明や知識等を前提として加盟契約を締結したのであるから、原告ホットスパーの担当者が、実態と著しく異なる不適切な情報を提供した事実はなく、被告らに対し加盟契約の締結に関する判断を誤らせるような説明をした事実もない。したがって、原告ホットスパーの情報提供義務違反はないというべきである。
(3) 原告ホットスパーの閉店指導義務違反の有無(争点②)について
ア 被告らの主張
原告ホットスパーは、被告らに対し、加盟契約に基づき、「経営に関する継続的指導援助」を行う義務を負っている。そして、この義務は、原告ホットスパーが経営情報及び金銭情報を集中管理し、経営の運営・維持に関する専門的情報に基づき指導援助を行うことを内容とするものであるから、加盟店の経営が困難であり、経営を継続することにより加盟店に損害を与えるおそれが生じたときは、速やかに、原告ホットスパーにおいて分析した経営の実態に関する情報を提供し、損害の発生を回避するため、閉店する必要性を指摘し、指導援助する義務を含む。しかし、本件において、原告ホットスパーは、次のとおり、この義務を怠ったから、下記の被告らに対し、債務不履行に基づく損害賠償義務を負う。
(ア) 被告丙川について
被告丙川は、スパー▲▲店を開店した平成9年2月から、キャッシュフローが最低賃金額を大幅に下回る額になるどころか、マイナスの状態になり、こうした状態は同年11月に閉店するまでの間継続していた。したがって、原告ホットスパーは、遅くとも開店6か月後の同年8月ころには、被告丙川に対し、経営改善の具体的方策を示すか、そうでなければ速やかに閉店の指導を行うべきであったのに、この指導義務を尽くさなかった。
(イ) 被告丁木について
被告丁木は、スパー△△店を開店した翌々月である平成7年12月から、キャッシュフローが最低賃金を大幅に下回る額となり、この状態は閉店する平成12年3月までの間継続している。その上、被告丁木は、平成9年8月からは原告ホットスパーに対する商品代金等の未払を発生させている。したがって、原告ホットスパーは、遅くとも開店6か月後である平成8年6月ころまでには、被告丁木に対し、閉店指導を行うべきであったのに、この指導義務を尽くさなかった。
(ウ) 己田について
己田は、スパー□□店を開店した平成7年10月から、キャッシュフローが最低賃金を大幅に下回る額となったばかりか、マイナスの状態となり、その後は一部持ち直したものの、閉店する平成10年10月までの間、キャッシュフローがマイナスの状態か又は手取額があったとしても最低賃金を下回る状態が継続していた。その上、己田は、平成7年11月から商品代金等の未払を発生させ、平成8年10月からは未払が恒常的になっていた。したがって、原告ホットスパーは、遅くとも開店6か月後である平成8年4月ころまでには、己田に対し、経営改善の具体的方策を示すか、そうでなければ速やかに閉店指導を行うべきであったのに、この指導義務を尽くさなかった。
イ 原告ホットスパーの主張
被告らの主張は争う。そもそも、原告ホットスパーと上記被告らはそれぞれ独立の事業者であり、加盟店は原告ホットスパーの代理人又はその使用人ではなく、加盟店の経営は上記被告らが自己の責任と負担において行うべきであることを、原告ホットスパーと上記被告らは、加盟契約の締結に当たり、明文をもって確認している。そして、原告ホットスパーは、加盟契約に基づき、スパーシステムによるコンビニエンスストアの経営指導、技術援助、情報の提供を行うとともに、スパーシステムによる販売促進のための技術・情報の提供、経営に関する継続的指導・援助などのサービスないし援助を行い、加盟店の販売に協力する義務を負っている。具体的には、原告ホットスパーは、加盟店に対し、①開店準備時においては、店舗レイアウト、各種什器・備品の発注、商品構成の決定等に関する援助、ノウハウを提供するとともに、開店後においても、②新製品情報、季節商品案内等を記載したウィークリーレポートを提供したり、③スーパーバイザーが店舗を定期的に訪問し、POSシステムにより得られた販売状況等のデータ分析に基づき、商品の品揃え、発注、陳列等に関し売上増のため必要な指導をきめ細かく行っている。
原告担当者は、上記被告らに対しても、このような加盟契約に基づく経営指導をきめ細かく実施していたのであるから、原告ホットスパーは、このような加盟契約に基づく指導義務のほかに、上記被告らが主張するような閉店指導義務を負うものではない。
(4) 被告らに対する原告ホットスパーの商品代金等請求と信義則(争点③)について
ア 被告ら(己田を除く。以下本争点において同じ。)の主張
仮に、被告らの錯誤がなく、加盟契約が有効であるとしても、原告ホットスパーがこの加盟契約に基づき被告らに対し商品代金等を請求することは、以下のとおり信義則に反し許されない。
すなわち、原告ホットスパーは、コンビニエンスストアの経営に関し「パッケージ化されたノウハウ」を加盟店に提供し、この対価としてロイヤリティを取得するが、上記ノウハウの具体的内容は不明であり、企業秘密の名の下に秘匿されているから、その質・内容は、加盟店の収益という結果によって把握されることになる。そして、原告ホットスパーは、加盟契約に基づき、被告甲山から6486万2902円、被告丙川から301万8533円、被告丁木から3245万1374円という多額のロイヤリティを取得しているにもかかわらず、上記被告らは、いずれも、最低賃金を大幅に下回る家族労働を強いられていたのであるから、原告ホットスパーのノウハウは極めて劣悪であり、到底上記のような多額のロイヤリティには値しなかった。したがって、原告ホットスパーは既に多額のロイヤリティを取得しているのであるから、閉店時における商品代金等債権は否定されるべきであるし、被告らが閉店後商品代金等債権について支払った額についても不当利得になる。
イ 原告ホットスパーの主張
被告らの主張は争う。そもそも、被告らの主張は、「加盟店が収益(利益)を上げられなければ原告ホットスパーはロイヤリティを取得すべきでない」とする見解を前提とする点において失当である。前記(3)イで主張したとおり、被告らは、個人として商店を開業する場合と異なり、原告ホットスパーと加盟契約を締結することによって、原告ホットスパーが提供する各種ノウハウやサービスの提供を享受してきた。そして、原告ホットスパーは、被告らにノウハウやサービスを提供するため、貸与備品のリース負担、受発注の代行、商品の選定・手配・配送、スーパーバイザーによる各種フォロー等のコストを負担しているのであるから、被告らの前記主張が自らについてのみ都合の良い不合理な主張であることは明白である。そして、ロイヤリティの算定方式も、個人事業主の場合と異なり、仕入れベースではなく、売上がないとロイヤリティが発生しないことを前提としているのであるから、公正かつ合理的な算定方式というべきである。
(5) 原告らの預かり金返還請求の当否(争点④)について
ア 被告らの主張
仮に加盟契約が有効であるとしても、被告らが加盟契約に基づき原告ホットスパーに送金した金員は、法的には被告ら加盟店の売上として加盟店に帰属する金員であって、原告ホットスパーはこの預かり金から商品代金等を控除することができるにすぎない。そして、原告ホットスパーに対し、①被告甲山は平成7年5月から平成11年6月までの間に5億7103万2147円を、②被告丙川は平成9年2月から同年11月までの間に6966万8177円を、③被告丁木は平成7年12月から平成11年2月までの間に5億4754万4267円を、④己田は平成7年10月から平成10年9月までの間に3億9239万3391円をそれぞれ送金したから、被告らは、原告ホットスパーに対し、加盟契約に基づき、上記預かり金の返還を請求する。
なお、原告ホットスパーの加盟契約に基づく相殺の主張は、全て否認し又は争う。なぜなら、上記相殺の主張は、①原告ホットスパーが主張する「商品代金額」は、原告ホットスパーが仕入れ先から受け取っているはずのバックマージン額が控除されておらず、形式的な仕入額が上記「商品代金額」となっている点、②被告らが送金した預かり金から消費税を控除するとの合意がないにもかかわらず、一方的に預かり金から消費税を控除している点、③ロイヤリティ算定の基礎となる「売上高」に廃棄商品及び棚卸ロス商品が含まれるなど、ロイヤリティの計算方法に何ら正当性がない点において、不当だからである。
イ 原告ホットスパーの主張
被告らの主張はいずれも争う。
原告ホットスパーは、被告らとの間で、加盟契約を締結するに当たり、商品代金等の精算方法について、①被告らが毎日の営業収入の全てをレジスターに登録し、その集計額をもって総売上金とし、毎日、総売上金について現金全額を原告ホットスパーの指定する銀行預金口座に入金すること、②原告ホットスパーが①のとおり被告らから送金を受けた預かり金は、毎月1日から末日までの商品代金等に関する原告ホットスパーの被告らに対する各債権を預かり金より控除し、残額を翌月15日に被告らに返還する方法で精算すること、③預かり金をもって商品代金やロイヤリティ等に足りない場合には、被告らは、原告ホットスパーから通知があり次第、その不足額を支払うことを合意した。
そして、加盟契約期間中における原告ホットスパーと各被告らとの間の精算状況は、被告甲山については別紙1、被告丙川については別紙2、被告丁木については別紙3、己田については別紙4のとおりであり、被告らが上記①の方法で送金した預かり金から、原告ホットスパーが上記②の方法で商品代金等を控除した結果、いずれの被告らについても不足額が生じている。したがって、原告ホットスパーが被告らに返還すべき預かり金はない。
(6) 被告らの損害等(争点⑤)について
ア 被告らの主張
(ア) 原告ホットスパーの不当利得(加盟店契約無効の場合)
原告ホットスパーと被告らの加盟契約は、いずれも錯誤により無効であるから、原告ホットスパーには次のとおりの不当利得が発生する。
① 被告甲山 合計7177万9193円
a 加盟金250万円及びその消費税 7万5000円
b ロイヤリティ 6486万2902円
c 閉店時残債権として支払った 434万1291円
② 被告丙川 合計929万7071円
a 加盟金250万円及びその消費税 7万5000円
b 設備資金391万7960円のうち未返還分 79万9263円
c 保証金1500万円のうち未返還分 8万3000円
d ロイヤリティ 301万8533円
e 閉店時残債権として支払った 282万1275円
③ 被告丁木 合計4219万3539円
a 加盟金250万円及びその消費税 7万5000円
b 設備資金 416万7165円
c 敷金 300万円
d ロイヤリティ 3245万1374円
④ 己田 合計4375万9189円
a 加盟金250万円及びその消費税 7万5000円
b 設備資金 150万円
c ロイヤリティ 3060万6615円
d 閉店時残債権として支払った 907万7574円
(イ) 情報提供義務違反による被告らの損害
被告らは、原告ホットスパーの情報提供義務違反により、次のとおりの損害を被った。
① 被告甲山 合計9030万1730円
a 加盟金250万円及びその消費税 7万5000円
b ロイヤリティ 6486万2902円
c 閉店時残存売掛債権 2286万3828円
② 被告丙川 合計929万7071円
a 加盟金250万円及びその消費税 7万5000円
b 設備資金391万7960円のうち未返還分 79万9263円
c 保証金1500万円のうち未返還分 8万3000円
d ロイヤリティ 301万8533円
e 閉店時残存売掛債権 282万1275円
③ 被告丁木 合計5659万2907円
a 加盟金250万円及びその消費税 7万5000円
b 設備資金 416万7165円
c 敷金 300万円
d ロイヤリティ 3245万1374円
e 閉店時残存売掛債権 1439万9368円
④ 己田 合計4589万2744円
a 加盟金250万円及びその消費税 7万5000円
b 設備資金 150万円
c ロイヤリティ 3060万6615円
d 閉店時残存債権 1121万1129円
(ウ) 閉店指導義務違反による被告らの損害
原告ホットスパーが閉店指導義務を履行しなかったため、被告ら(被告甲山を除く。以下この争点について同じ。)の損失が継続、拡大することになったのであるから、この損失は原告ホットスパーの上記義務の不履行により生じた損害として、損害賠償義務の対象となる。この場合、上記義務の不履行後に原告ホットスパーが取得したロイヤリティは、原告ホットスパーへの帰属が否定され、加盟店に帰属すべき損害となると解すべきである。被告らが原告ホットスパーに対し閉店後支払ったロイヤリティの額は、次のとおりである。
① 被告丙川 91万6419円
② 被告丁木 2957万5740円
③ 己田 2639万7249円
(エ) 相殺(本訴請求に対する主張)
原告ホットスパーは、被告ら(己田を除く。)に対し商品代金等を請求しているが(本訴請求)、仮に加盟契約が有効であり、原告ホットスパーの商品代金等債権が存在するときは、被告らは、上記(ア)ないし(ウ)の各債権をもって、それぞれ対当額で相殺するとの意思表示をする。
(オ) 不当利得返還請求又は債務不履行に基づく損害賠償請求(反訴請求)
また、被告らは、原告ホットスパーに対し、不当利得又は債務不履行に基づき、①被告甲山については6736万2902円及びこれに対する平成7年2月28日(スパー○○店に関する加盟契約締結日)から支払済みまで商事法定利率年6分の遅延損害金、②被告丙川については360万6322円及びこれに対する平成9年1月25日(スパー▲▲店に関する加盟契約の締結日)から支払済みまで商事法定利率年6分の遅延損害金、③被告丁木については2959万2706円及びこれに対する平成7年2月28日(スパー△△店に関する加盟契約の締結日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金、④己田については2377万1680円及びこれに対する平成7年8月14日(スパー□□店に関する加盟契約の締結日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める(反訴請求。なお、元本についてはいずれも一部請求である。)。
イ 原告ホットスパーの主張
被告らの損害又は原告ホットスパーの不当利得に関する被告らの主張は全て否認し、相殺に関する被告らの主張は争う。
第3 争点に対する判断
1 争点1(情報提供義務違反の有無)について
(1) フランチャイザー側の説明等と情報提供義務違反の関係
原告ホットスパーと被告らとの間の各加盟契約は、いわゆるフランチャイズ契約であり、本件各事件においては、いずれも、フランチャイザーである原告ホットスパーが、加盟契約締結に当たり、フランチャイジーになろうとする関係被告らに対してした説明等が情報提供義務に違反するか否か、上記被告らが加盟契約を締結するに当たり錯誤に陥っていたか否かが争点となっている。そこで、まず、加盟契約締結に当たりフランチャイザー側に求められる説明や情報提供の内容、程度について検討する。
フランチャイズ契約において、フランチャイジーになろうとする者にとっての最大の関心事は、通常、加盟契約締結後にどの程度の収益を得ることができるかどうかという点であると解されるから、加盟契約を締結する段階において、フランチャイザーがフランチャイジーになろうとする者に提供する売上予測等に関する情報は、フランチャイジーになろうとする者が加盟契約を締結するか否かの判断をするに当たり重要な資料となるというべきである。加えて、一般的に、フランチャイザーは、ノウハウ及び専門的知識の蓄積を前提に独自のフランチャイズシステムを構築しているのに対し、フランチャイジーになろうとする者は、上記のノウハウ等はもとより、フランチャイズシステム自体についての知識が乏しいことが少なくない。したがって、フランチャイザーは、フランチャイズ契約を締結する段階において、フランチャイジーになろうとする者に対し、売上予測に関する情報、契約期間中にフランチャイザーに対し支払う金銭の額などその収益に関する重要な情報について、できる限り客観的かつ正確な情報を提供すべき信義則上の義務を負っていると解すべきである。
もっとも、一般的に、フランチャイジーが実際に加盟契約締結後に得ることのできる収益は、商圏内における人口の増減、消費動向、経済情勢等の多種多様で不確定な諸要素に左右されることは否定できないというべきであるから、フランチャイザー側が加盟契約締結に当たり行った説明等の中に、事後的かつ結果的にみれば正確さを欠いた部分があったとしても、それだけで当該説明等が違法の評価を受けるものではない。そして、本件加盟契約においては、フランチャイザーとしての原告ホットスパーとフランチャイジーである被告らが基本的に独立した対等の事業体として加盟契約を締結する旨定められており、フランチャイジーは、本来、自己の責任により経営を行うものであって、フランチャイズ契約を締結するに当たりフランチャイザーとしての原告ホットスパーが提供する上記の情報も、フランチャイジーとして加盟しようとする被告らが自らの判断と責任においてフランチャイズ契約を締結することを前提としているものと解すべきである。そうすると、フランチャイザー側の情報提供が情報提供義務違反を構成するためには、当該情報提供によって、フランチャイジーになろうとする者に加盟契約締結に関する判断を誤らせるおそれが大きい不適切な情報提供があった場合に限り、信義則上の情報提供義務違反を構成し、また、加盟契約は錯誤により無効と解すべきである。
以下、この観点から、原告ホットスパーが関係被告らとの間で加盟契約を締結するに当たり情報提供義務違反があったか否かを検討する。
(2) 第1事件及び第2事件について(被告甲山、被告乙野関係)
ア 認定事実
証拠(甲1ないし17(枝番の証拠を含む。)、甲ロ26ないし29、乙1、被告甲山本人)及び弁論の全趣旨によれば、被告甲山が原告ホットスパーとの間で加盟契約を締結するに至った経緯や、原告ホットスパーが加盟契約締結に当たり被告甲山に対し説明した内容等について、次の事実を認めることができる。
(ア) 被告甲山は、高等学校を中退後、農業のほか、地元の共同売店の実質的な経営者として、経理等を担当していた。被告甲山は、小売業に興味があり、また将来性等の理由から職業を変えたいという思いがあったところ、自宅から名護市内に向かう途中にある原告ホットスパーの店舗が繁盛しているのを見かけ、コンビニエンスストアの経営を始めたいと考え、原告ホットスパーと交渉を行った。
(イ) 被告甲山に対する説明等を担当したのは、当時原告ホットスパーの沖縄地区の最高責任者であった子原A男本部長(以下「子原本部長」という。)である。子原本部長は、被告甲山に対し、コンビニエンスストアの将来性等について話した上、原告ホットスパーが本部町に開店を計画している店舗を紹介した。しかし、被告甲山は、その周辺の状況を自ら確認し、本部町では集客力が弱く、名護市周辺で店舗を探した方がよいと考え、上記紹介を断った。
(ウ) 次に、子原本部長は、被告甲山に対し、スパー○○店を紹介した。スパー○○店は、当時丑上B男(以下「丑上」という。)が経営していたが、売上が上がらず、採算ベースに乗っていなかったため、丑上は子原本部長に対し同店の経営をやめたい旨話していた店舗であった。子原本部長は、被告甲山に対し、店舗自身の商環境は良い、今採算ベースに乗っていないのは経営者である丑上の経営方法が悪いからである、一所懸命やれば売上げをもう少し上げることができるなどと話した。また、子原本部長は、被告甲山に対し、現状では日販27ないし28万円であるが、これはオープン当初としては良い方であるものの、採算は難しい、スパー○○店の採算がとれていないのは商品の管理が悪く、商品ロスがあること等が理由である、しかし売上げを10ないし15パーセント上げれば採算ベースに乗るなどと説明した。
(エ) 被告甲山は、子原本部長の上記説明を受けて、子原本部長に対し、スパー○○店の実績表を求めたところ、原告ホットスパー側から同店の売上実績等が記載された文書(乙1)の交付を受けた。この文書には、平成6年3月から平成7年2月までの1年間における1日当たり平均売上高が28万1820円であること等が記載されている。もっとも、上記文書にはスパー○○店の経費については記載されておらず、子原本部長も○○店の経費について被告甲山に具体的に説明したことはなかった。しかし、被告甲山は、子原本部長が、最低保障制度に関し、どんなに売上げが悪くても最低100万円の保障を受けることができる旨説明していたことから、平均的な売上げがあり、経費をその範囲内に抑えれば同店を経営していくことができると考えた。また、被告甲山は、自ら売上げが10パーセント上昇した場合における利益率等を計算し、この金額であれば経営が可能であり、自らの手元に残る金額も増えるだろうと判断し、原告ホットスパーとの間で加盟契約を締結することを決意した。
(オ) 被告甲山は、原告ホットスパーとの間で、平成7年2月28日、加盟契約を締結した上(その内容は、前記前提となる事実に記載したとおりである。)、同年5月1日、スパー○○店を開業し、平成11年6月25日付けで上記加盟契約を合意解除するまでの間、その経営に当たった。
(カ) 被告甲山がスパー○○店の経営に当たっていた上記期間における実績をみると、まず、売上実績は、開店1年目が1024万7317円、開店2年目が1122万9102円、開店3年目が1245万4389円、開店4年目が1213万2012円であり、平成7年5月から平成11年5月(閉店時)までの49か月を全体としてみると、総売上額が5億6368万1685円(月平均で1150万3708円)であった。
(キ) 原告ホットスパーは、スパー○○店の出店に当たり、立地判定方式と客数判定方式を併用して月当たり売上高を927万6000円と予測しており、この予測数値を丑上に対し示していた。甲山がスパー○○店の経営を引き継いでからの売上高は、この予測数値をかなり上回る結果となっており、それぞれ達成率は開店1年目が110.47パーセント、開店2年目が121.06パーセント、開店3年目が134.26パーセント、開店4年目が130.79パーセント、閉店時までの49か月全体が124.02パーセントであった。そして、丑上がスパー○○店を経営していた平成6年3月から平成7年3月までの売上実績は、月平均845万4000円であるが、この金額と被告甲山の49か月全体の売上実績と比較すると、136.07パーセントに達している。
また、平成9年1月から平成11年4月までの利益をみても、平成9年1月から同年12月までの営業利益が366万9639円(経常利益が349万4639円)、平成10年1月から同年12月までの営業利益が477万7469円(経常利益が460万2469円)であり、月ごとに変動がみられるものの、おおむね一定の収益を上げているといえる。
イ 上記認定事実を前提として、被告甲山に対する情報提供義務違反があったか否かについて判断する。
被告甲山は、加盟契約締結に当たり、被告甲山との間で契約締結に向けた交渉をしていた子原本部長がスパー○○店の経費に関する説明をしなかった等の点で情報提供義務違反がある旨主張するところ、原告ホットスパーが同店の売上実績等に関し作成、交付した文書には経費に関する具体的な記載がなかったこと、子原本部長は被告甲山に対し同店の経費について具体的な説明をしなかったことは前記認定のとおりである。
しかしながら、前記認定の事実によれば、被告甲山は、子原本部長がした、スパー○○店の日販は27ないし28万であって採算ベースに乗っていないものの、これは丑上の商品管理が悪かったこと等が理由であるから、売上げを10ないし15パーセント上げれば採算ベースに乗る、またどんなに売上げが悪くても最低100万円の保障を受けることができる旨の説明を受け、原告ホットスパーから交付を受けた丑上の売上実績表を踏まえ、共同売店経営の経験に照らして、売上げが10パーセント上昇した場合における利益率等を計算するなどした上、前記最低保障の適用を受けることになっても、平均的な売上があり、経費をその範囲内に抑えることができれば自らの手元にも一定の利益が残る旨判断し、原告ホットスパーとの間で加盟契約を締結したと認められる。そうすると、被告甲山が加盟契約を締結した主要な動機は、スパー○○店の売上をより増大させることによって、自らが丑上よりも多額の利益を享受することにあったというべきであり、被告甲山が主張する経費の点についても、最低保障の範囲内に収めれば一定の利益を上げることができる旨自ら判断して加盟契約を締結したのであるから、子原本部長が経費を具体的に説明しなかったとしても、被告甲山の加盟契約締結に関する判断を誤らせるおそれが大きい適切な情報提供をしなかったとは認められない。
そして、前記認定の事実によれば、被告甲山がスパー○○店の経営を引き継いでからの売上高は、丑上の実績額である月平均845万4000円という数値はもとより、原告ホットスパーが当初予測していた月927万6000円という数値をもかなり上回る結果となったほか、被告甲山は、自ら同店を経営することによって一定の利益を上げてきたと認められるのであるから、被告甲山は、加盟契約締結の主要な動機ないし目的をまさに達成したというべきであって、この点からしても、子原本部長が被告甲山に対し加盟契約締結に向けた判断を誤らせるおそれが大きい不適切な説明をしたとは認められない。なお、被告甲山は、情報提供義務違反の根拠として、スパー○○店で確保できる駐車場の台数が当初説明を受けていた台数よりも少なかったことをも主張し、被告甲山本人も同旨の供述をするが、前判示のとおり、被告甲山が加盟契約を締結した主要な動機は、同店の売上をより増大させることによって、自らが丑上よりも多額の利益を享受することにあったというべきであり、本件全証拠を総合しても、被告甲山は、加盟契約締結当時、スパー○○店の駐車場の台数如何を重視して、原告ホットスパーとの間で加盟契約を締結するか否かを決定したとは認められないから、仮に駐車場の台数に関する子原本部長の説明に誤り又は不適切な点があったとしても、被告甲山の加盟契約締結に向けた判断を誤らせるような事情には当たらないというべきである。
以上によれば、子原本部長は、加盟契約締結に当たり、被告甲山の加盟契約締結に向けた判断を誤らせる説明等をしたと認めることはできないから、被告甲山の主張は理由がない。したがって、被告甲山の錯誤の主張は理由がないし、また、原告ホットスパーに情報提供義務違反があったとも認められないから、原告ホットスパーが被告甲山に対し債務不履行に基づく損害賠償義務を負うとも認められない。
(2) 被告丙川に対する説明等について
ア 認定事実
証拠(甲イ1、7、13、16、18の1ないし4、19、20、乙イ1、4ないし7、9ないし11、証人寅沢C男(以下「寅沢」という。)、被告丙川本人)及び弁論の全趣旨によれば、被告丙川が原告ホットスパーとの間で加盟契約を締結するに至った経緯や、原告ホットスパーが加盟契約締結に当たり被告丙川に対し説明した内容等について、次の事実を認めることができる。
(ア) 被告丙川は、昭和53年3月に大学を卒業した後、家電販売会社に約10年間勤務し、その後、昭和63年11月、沖縄スパー本部株式会社(以下「沖縄スパー」という。)に入社した。沖縄スパーは、当時、原告ホットスパーとの業務提携の下に、沖縄県でコンビニエンスストアを展開していた。そして、被告丙川は、同社の開発係及び建築係として、約2年間にわたり、出店を適当とする物件の調査、開発等に従事していた。具体的には、被告丙川は、物件やオーナー探し、建築業者との工事請負に関する交渉、車の通行量や近隣の世帯数等の調査を行っていた。
(イ) 被告丙川は、■■大学前に空き店舗を見つけ、戸数調査や交通量調査をした上で、有望な店舗として上司に報告したところ、沖縄スパーは、平成元年5月、上記店舗を賃借してコンビニエンスストアを開店することとなり、以後約1年数か月にわたり直営店として運営していた。この店舗は、大学の前にあることなど条件が良かったことから、良好な売上実績を残していた。このため、被告丙川は、将来性のある同店を自ら経営したい旨上司に要望し、会社を退職すると、平成2年11月ころ、沖縄スパーとの間で加盟契約を締結し、スパー××店を経営することとなった(なお、沖縄スパーは、その後関東スパー本部等と合併して原告ホットスパーになり、スパー××店については、平成5年2月24日、改めて原告ホットスパーと被告丙川の間で加盟契約書が作成された。)。
(ウ) 被告丙川は、同店の収支がかなり順調に推移していたため、2号店を出店して事業を拡大したいと考えた。また、被告丙川は、原告ホットスパーの加盟契約の内容について、加盟店側にとって有利とされたCタイプが廃止されるとの情報があったことから、できるだけ早く2号店を出店したい旨の希望を子原本部長に伝えた。これに対し、子原本部長は、2号店を出店する際には被告丙川に担当させる旨回答し、被告丙川は、平成4年ころ、原告ホットスパーとの間で、2号店が具体的にいかなる店舗になるか未確定の状態であったが、新たに原告ホットスパーの店舗経営に関する合意をした。その後、原告ホットスパーは、被告丙川に対し、2号店の候補として、平成7年1月ころ、スパー◎◎店を紹介したことがあり、両者は開店に向け準備していたが、最終的に、被告丙川は、立地条件が悪い等の理由からその出店を断った。
(エ) スパー▲▲店は、当初原告ホットスパーが他の出店希望者との間で交渉をしていた店舗であったが、被告丙川が原告ホットスパーに対し自ら同店を経営したい旨要望したため、原告ホットスパーは、平成9年1月25日、同店の経常に関し、被告丙川との間で加盟契約を締結し、同年2月27日、同店を開店した。この加盟契約の内容は、商品の実地棚卸の負担が原告ホットスパーとなっていることや、ロイヤリティが20パーセントとなっていること等を除けば、被告丙川がスパー××店について締結した加盟契約の内容とおおむね同一である。
(オ) 原告ホットスパーの担当者である卯松は、スパー▲▲店の出店について被告丙川に対し説明するため、被告丙川に対し、「ホットスパー▲▲店事業計画」と題する文書を示した。卯松は、当初は、よりロイヤリティが高いAタイプの契約を前提に作成された事業計画を示したが、被告丙川が2号店の出店に関し合意していた契約形態(前記(ウ))がCタイプであったため、その後、卯松は、ロイヤリティが比較的低いCタイプの契約を前提とする事業計画を提示して、被告丙川との交渉に当たった。後者の事業計画書には、5か年事業計画として、月平均売上高が初年度1020万円(損益分岐点807万円)で、ホットスパー全店(沖縄地区)の平均伸び率を適用すると、2年目には10パーセント、3年目には5パーセント、4年目以降は年3パーセントの売上増が見込まれる旨の記載があるほか、営業利益については初年度から月50万2000円、経常利益については24時間助成金と支払利息がほぼ相殺されて営業利益並みの利益が可能であり、具体的には、初年度から月43万6000円の経常利益が得られること等の記載がある。他方、原告ホットスパーがスパー▲▲店に関し内部的に作成した損益計算書には、予想される売上額が月948万円、営業利益が57万4000円、経常利益が15万7000円、キャッシュフローが21万1000円、損益分岐点が871万円であること等の記載があり、全体として上記事業計画書における売上高等よりも低い額となっている。
(カ) 加盟契約締結当時、スパー▲▲店の周辺においては、ビーチはあるものの、住宅が少なく、計画中のバイパス道(架橋)が未だ工事に着工していない状況であり、必ずしも良好な環境にあるとはいい難い状況であった。しかし、被告丙川は、このような事情を認識していた上で、将来的には店舗の近隣に橋が架かりバイパスが開通すれば交通量も増加するので極めて有望である、バイパスが開通するまでは厳しい経営になるがやむを得ないと考えており、交渉経過の中で、原告ホットスパーの担当者にもその旨の認識を表明したこともあった。また、被告丙川は、経費の点についても、スパー××店とほぼ同じ月170万円程度と予想していた。
(キ) スパー▲▲店の開店以降における実績は、商品売上にその他の営業収入を合計した額についてみると、累計で5981万8194円(月平均約660万円)であり、原告ホットスパーが内部的に予測していた売上高である月948万円と比較すると、その達成率は平均約69.7パーセントに留まっており、また、卯松が示した事業計画書における予想売上高月1020万円と比較すると、約64.8パーセントにすぎない。また、被告丙川が実際に計算した比較表(乙イ9)はもとより、原告ホットスパーが作成した損益計算書(乙イ1)によっても、営業利益は累計で赤字となっていた。
(ク) 被告丙川は、スパー▲▲店の営業利益が赤字となっており、順調な売上を上げていたスパー××店の収益を割く結果となっていたことや、近隣に同じコンビニエンスストアであるローソンが開店する旨を聞いて、開店から約9か月後である平成9年11月30日、同店を閉店した。そして、両者は協議の上、平成10年2月13日、原告ホットスパーが同店を直営店にし、在庫商品、設備等を原告ホットスパーが638万4226円(設備等311万8697円、商品等326万5529円)で買い取る方法で精算する旨合意した。その結果、スパー▲▲店に関する被告丙川の損失は、初期投資に係る357万3845円から上記311万8697円を控除した45万5148円程度に減少した。
(ケ) 被告丙川は、平成12年2月までスパー××店を経営していた。平成5年5月から平成12年2月までの間における同店の総収入をみると、平成5年度が合計2636万2681円、平成6年度が3551万3702円、平成7年度が3473万5614円、平成8年度が3500万2077円、平成9年度が3304万2154円、平成10年度が3129万8349円、平成11年度が2947万0115円などとなっており、スパー××店は、全体としてかなりの高収益店舗であった。そして、被告丙川は、同月にスパー××店を閉店すると、同年4月、ローソン××店を開店し、現在に至るまで同店を経営している。被告丙川は、別紙2記載のとおり、平成11年12月から連続して未清算金を発生させており、殊に閉店月である平成12年2月には全く送金をしていないが、これは、被告丙川が既に当時ローソン××店の新規開店を準備していたことが原因であった。
イ 上記認定事実を前提として、被告丙川に対する情報提供義務違反があったか否かについて判断する。
(ア) そもそも、本件において原告ホットスパーが被告丙川に対し請求しているのは、被告丙川が当初開店したスパー××店に関して生じた未払の商品代金等である。ところで、被告丙川が原告ホットスパーの情報提供義務違反として主張する事由は、いずれも、スパー××店の開店に関する事情ではなく、被告丙川がスパー××店の開店後に経営を開始した2号店であるスパー▲▲店の開店に至るまでの経緯等に関する事情と認められ、被告丙川が××店に関する加盟契約の錯誤無効等を主張していないことは、被告丙川の主張自体から明らかであるから、原告ホットスパーが被告丙川との間で締結したスパー××店に関する加盟契約は、スパー▲▲店の出店に至るまでの経緯にかかわらず、有効に成立しているというべきである。したがって、被告丙川の情報提供義務違反に関する主張は、原告ホットスパーの被告丙川に対する上記請求に対する錯誤無効の抗弁を基礎付ける事実としては、主張自体失当であり、被告丙川の上記主張は、この点において既に理由がない。
(イ) そこで、被告丙川の情報提供義務違反に関する主張は、本訴請求の関係では、原告ホットスパーの上記請求に対する相殺の抗弁(スパー▲▲店に関する加盟契約の錯誤無効を理由とする不当利得返還請求権又は債務不履行に基づく損害賠償請求権に基づく相殺の抗弁)を基礎付ける事実としてのみ法的意味を有することになるから、以下、被告丙川の主張はこの趣旨をいうものと解し、判断を加えることとする。
被告丙川は、スパー▲▲店に関する加盟契約締結に当たり、卯松が、過大な売上高を前提として説明したほか、経費についても実態よりもかなり少ない額を提示して勧誘した点において、情報提供義務違反があった旨主張する。そして、スパー▲▲店における実際の売上高が、原告ホットスパーの内部的な予測額に対して平均約69.7パーセントに留まっており、また、卯松が示した事業計画書における予想売上高月1020万円と比較しても約64.8パーセントであったことは、前記認定のとおりである。
しかしながら、前記認定の事実によれば、被告丙川は、沖縄スパーの社員として、スパー××店の開店に当たり、戸数調査や通行量調査など開店の可否を決するための基礎調査を自ら行っていたほか、沖縄スパーがスパー××店を直営店として開店した後は、同店の業績が好調であるのをみて自ら経営を希望し、数年間にわたりオーナーとして同店の経営を行ってきたのであるから、被告丙川は、コンビニエンスストアの開店及び経営にとって好ましいとされる周囲の立地条件や、予想される売上高、コンビニエンスストア経営に一般的に必要とされる経費等の事項について十分知識と経験を有していたと認められる。のみならず、被告丙川は、加盟契約の形態が将来的にオーナー側に不利益になり得ることを見越すと、原告ホットスパーとの間で予め2号店の出店について合意をし、更に、原告ホットスパーが当時他の出店希望者との間で交渉をしていたスパー▲▲店について、将来的には店舗の近隣に橋が架かりバイパスが開通すれば交通量も変わり、極めて有望である、バイパスが開通するまでは厳しい経営になるがやむを得ないなどと考え、自らが経営することを希望して加盟契約を締結したと認められる。このように、被告丙川は、コンビニエンスストア経営の知識、経験を踏まえ、スパー▲▲店について、当面の経営が厳しいものの、将来性は十分ある旨自ら判断して加盟契約を締結したというべきであるから、仮に開店後約9か月の段階における売上高の実績が予測値を下回る結果となったとしても、それは被告丙川の判断の結果であって、卯松の説明によって被告丙川が加盟契約締結の判断を誤った結果ではない。
また、前記認定のとおり、卯松が、被告丙川との交渉に際して同被告に提示した5か年事業計画に記載された売上高等の各金額は、原告ホットスパーの内部的に作成した損益計算書における金額よりも、売上高や経常利益等につき、いずれも低い金額となっているが、金額の乖離が著しいとまでは認められないし、上記5か年事業計画書及び損益計算書の各算定根拠について合理性を疑わせるに足りる証拠も窺われないから、卯松が被告丙川に対して上記5か年事業計画書を提示したとしても、被告丙川に加盟契約の締結に関する判断を誤らせるおそれが大きい不適切な情報提供があったと認めることはできない。
被告丙川が指摘する経費の点についても、前記のとおり、そもそも、被告丙川は、スパー▲▲店に関する加盟契約の締結に先立ち、スパー××店を自ら経営していたのであるから、コンビニエンスストア経営に一般的に必要とされる経費の内容及び金額について、十分な知識を有していたと認められ、実際、前記認定の事実によれば、同人は、スパー▲▲店の経営に必要な経費の額はスパー××店とほぼ同程度の月170万円と予想し、この予想を踏まえて加盟契約を締結したと認められる。したがって、仮に、スパー▲▲店の経営に実際必要であった経費が上記予測額を上回る結果となったとしても、それは被告丙川自らの判断に基づく結果であり、被告丙川が卯松の説明によって加盟契約締結の判断を誤った結果ではない。
(ウ) 以上によれば、スパー▲▲店に関する加盟契約締結について、原告ホットスパーの情報提供義務違反は認められないし、また被告丙川の錯誤はなかったというべきである。したがって、原告ホットスパーの商品代金等請求に対する相殺の抗弁、原告ホットスパーに対する不当利得返還請求はいずれも理由がない。
(3) 被告丁木に対する説明等について(第4事件及び第5事件関係)
ア 認定事実
証拠(甲ロ1ないし16、19、21及び22(いずれも枝番の証拠を含む。)、26ないし30、乙ロ1ないし11、19ないし24(いずれも枝番の証拠を含む。)、証人辰森D男(以下「辰森」という。)、被告丁木本人)及び弁論の全趣旨によれば、被告丁木が原告ホットスパーとの間で加盟契約を締結するに至った経緯や、原告ホットスパーが加盟契約締結に当たり被告丁木に対し説明した内容等について、次の事実を認めることができる。
(ア) 被告丁木は、専門学校を卒業した後、※※株式会社で家電製品の販売及び修理工事に従事していた。被告丁木は、妻とともに、家電製品の販売には将来的な不安があると話していたところ、当時、妻の友人である巳川がスパー◇◇店を経営していたことから、同人の紹介により、平成6年2月ころ、原告ホットスパーの子原本部長と面会し、子原本部長から有望な店舗がある旨説明を受けた。寅沢は、子原本部長から被告丁木の件を引き継ぎ、以後、月1回程度、開店の条件等に関し説明したり、出店のための援助等に当たることとなった。
(イ) 寅沢は、子原本部長が被告丁木に対し加盟契約等について既に説明を済ませていたので、専ら開店のため必要な資金や店舗経営等を中心として説明した。寅沢は、被告丁木に対し、出店には約1700万円の資金が必要である旨説明したところ、被告丁木はその全額を借り入れでまかないたい旨答えたので、金融機関から新規事業資金を借り入れする場合には20パーセントの自己資金が必要である、手持ち資金なしで事業を起こすことは経営者としての自覚が欠如していると判断される旨説明した。これに対し、被告丁木は、個人金融を営む知人から自己資金分を借り入れしたいと考えている旨話したので、寅沢は、被告丁木に対し、高利の個人金融から借り入れるくらいであれば、コンビニ経営はやめた方がよいと説明した。そこで、被告丁木は、身内から約250万円を借り入れ、これを自己資金として、同年5月ころ、##から融資を受けた。寅沢は、この融資手続について被告丁木を補助した。
また、寅沢は、沖縄県における過去の事例からして、開店時から売上実績が損益分岐点を超えることは難しく、損益分岐点を超えるのは酒類販売免許を取得した後と考えられること、酒類販売免許を取得するためには条件があり、被告丁木は人的条件を満たしていないため、免許取得まで最低2年を要すること、したがって、被告丁木は開店後2年程度は売上が損益分岐点に達しないため、最低保障制度が適用となる可能性があるが、この最低保障制度による収入の範囲内で生活することができるか否かをよく考えて欲しい旨話した。そして、この最低保障額の範囲内で生活するためには、まず経費項目のうち大きな割合を占める人件費を抑えることが必要であり、そのためには夫婦で長時間勤務する必要があることを説明した。これに対して、被告丁木は、寅沢に対し、会社では朝早くから夜遅くまで長時間働くことに慣れている、会社員として長時間拘束されるより自分が経営する店で長時間働きたい旨答えた。
(ウ) 寅沢が加盟契約の内容等について説明するに当たり、被告丁木に対し、売上高の目標や、予想されるキャッシュフロー額などが記載された資料(乙ロ1の2)を示し、被告丁木は、上記融資手続に際し、金融機関にこれを提出した。
この資料には、上記店舗では酒類販売がないことを前提とした上で、加盟契約初年度における平均売上高が月1101万円、総収入合計が月215万5000円、営業費合計が月163万5000円、営業利益が月52万円、キャッシュフローが月35万4000円、損益分岐点が月961万5000円である旨の記載がある。ただし、上記平均売上高の記載には、それが目標額である旨が付記されているほか、寅沢も、社内で上記数値があくまで予測であって売上を保証したものではないと必ず説明するよう指導されていたので、被告丁木に対しその旨説明した。
他方、上記資料には、売上高が月1101万円からプラスマイナス300万円の範囲で30万円毎に変動した場合や、売上高を月1101万円に固定し、地代家賃や人件費等の固定費がプラスマイナス20万円の範囲で2万円毎に変動した場合における損益やキャッシュフローの額について、原告ホットスパーがそれぞれ具体的に試算した結果が記載されており、被告丁木が上記店舗において損益をプラスにするためには、少なくとも月981万円の売上高を上げる必要があること、売上高が月801万円の場合にはキャッシュフローの額がマイナス17万7000円となる等の事情が明示されている。
(エ) 被告丁木は、寅沢の説明を受けて、夫婦2人で働けば月35万4000円の収入が得られる旨考えた。また、上記公庫から融資を受けられることになり、原告ホットスパーの元社員であった妻の弟の友人が大丈夫だと話していたことから、原告ホットスパーと加盟契約を締結することを決意し、平成7年2月28日、原告ホットスパーと加盟契約を締結し、原告ホットスパーから建物の転貸を受けて、同年12月24日、スパー△△店を開店した。
(オ) 被告丁木が原告ホットスパーとの間で加盟契約を締結し、平成7年12月24日に「ホットスパー△△店」を開店した後における売上高の実績をみると、平成8年度が合計6977万6880円(月平均約581万円)、平成9年度が合計8371万8550円(月平均約698万円)であり、原告ホットスパーが被告丁木に対し示した上記売上高目標額を下回っている。なお、被告丁木は、平成10年3月27日付けで酒類販売業免許を取得しているが、平成10年度以降における売上高の推移をみても、同年度が合計1億0939万5883円(月平均約912万円)、平成11年度が合計1億1993万9527円(月平均約999万円)、平成12年1月及び2月が合計1871万0675円(月平均約936万円)であった。原告ホットスパーが試算し、被告丁木に示した上記目標売上高は、酒類を販売しない状態を前提とするものであったが、平成10年度以降の売上高の実績は、この目標売上高も下回る結果となっている。
(カ) 他方、寅沢らは、被告丁木に示した資料のほか、売上予測等に関する社内向け資料を作成している。すなわち、寅沢は、平成6年、スパー△△店の立地場所がコンビニエンスストアとして適切か否かを判断するため、立地判定方式に基づき売上額を試算した社内向け資料を作成した。この資料の中で、寅沢は、原告ホットスパーのマニュアルに基づき、商圏特性、車の通行量、店舗条件、競合店を考慮して、スパー△△店の立地条件を54点と判定し、この立地評価得点から予想される売上(坪当たり平均月商、開店後7ないし12か月平均)を24万1050円とした。この金額から日販の金額を算出すると、同額である24万1050円となるが、原告ホットスパーの内部基準では、△△店の立地条件はあまり良くなく、その出店は他の要因も併せて慎重に推進する旨判定されている。そして、寅沢は、免許品を含む売上予測として上記金額に3万円を、更に24時間営業を含む売上予測として8万円をそれぞれ加算し、最終的な売上予測額としては日額35万1050円とした(△△店の店舗面積(30坪)を用いて計算すると、月額1053万1500円となる。)。なお、上記免許品は、具体的にはタバコの売上を指し、酒類の販売は含まれていない。
また、寅沢らは、被告丁木と加盟契約を締結する以前の平成7年3月16日付けで、△△店出店予測資料と題する社内向け資料を作成した。この資料における売上予測は、寅沢が作成した平成6年の資料と異なり、立地判定方式ではなく客数判定方式により算定されている。寅沢らは、固定商圏としては北谷町の△△及び◇◇を想定し、これに実際に交通量を調査した結果に基づき流動商圏の客数を加味して、1日当たり客数を734人とした上、客単価を1人当たり500円(沖縄県について社内で定められている額)として1日の売上予測を36万7000円とし、これに30日を乗じて1か月当たりの売上予測を1101万円と算定している(ただし、この算定は、上記平成6年の資料が作成されたころとほぼ同時になされたものである。)。そして、上記出店予測資料に添付された損益計算書案には、スパー△△店の損益分岐点は月841万5000円であり、売上合計が1101万円の場合、経常利益は44万7000円になる旨が記載されている。
イ 上記認定事実を前提として、被告丁木に対する情報提供義務違反があったか否かについて判断する。
被告丁木は、加盟契約締結に当たり、原告ホットスパーが過大な売上予測を提示した旨主張する。そして、前記認定の事実によれば、寅沢が被告丁木と加盟契約締結に向けて交渉している間に示し、被告丁木が平成6年5月ころに融資のため金融機関に提出した資料には、スパー△△店の平均売上高として月1101万円と記載されているところ、上記資料は、寅沢らが同店の売上予測に関し立地判定方式及び客数判定方式を用いて算定した数値を利用して作成されたものと認められるから、寅沢らは、被告丁木に対し、△△店について予想される売上額が月1101万円であることを前提として、契約締結に向けた交渉を行っていたというべきである。また、被告丁木が上記店舗において実際に挙げることのできた売上額をみると、酒類免許を取得する前後を通じて、全体として前記売上額に達しなかったことも、前記認定のとおりである。
しかしながら、前記認定の事実によれば、寅沢は、被告丁木に対し、開店時から売上実績が損益分岐点を超えることは難しく、スパー△△店の売上が損益分岐点を超えるのは酒類販売免許を取得した後と考えられること、被告丁木の同免許取得までには最低2年を要すること、したがって、被告丁木は開店後2年程度は売上が損益分岐点に達しないため、最低保障制度が適用となる可能性があるが、この最低保障制度による収入の範囲内で生活することができるか否かをよく考えて欲しい旨話した上で、この最低保障額の範囲内で生活するためには人件費を抑えることが必要であり、そのためには夫婦で長時間勤務する必要があることを説明し、被告丁木は、このような説明内容を了知した上で加盟契約を締結したと認められるから、被告丁木は、開店後最低2年程度は売上が損益分岐点に達しない可能性があることや、その場合、被告丁木が最低保障制度による補填額の範囲内で店舗を運営することを余儀なくされる等の事情を前提として、上記加盟契約を締結したというべきである。そして、前記前提となる事実に証拠(証人寅沢、被告丁木本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば、最低保障制度による補填は、ロイヤリティ相当額を上限とする等の規制があるため、被告丁木が現実に生活できるだけの利益を得られることまでを保障するものではなく、最低保障制度の適用を受けてもなお収支が赤字となる可能性もあると認められるところ、前記認定の事実によれば、この点についても、寅沢は、被告丁木に対し、人件費をできるだけ圧縮する等の方法を教示した上で、最低保障制度によって生活できるか否かの具体的な検討を求め、被告丁木は、このような検討を踏まえて加盟契約を締結したと認められるから、寅沢の説明に被告丁木の加盟契約締結に関する判断を誤らせるような不適切な点はなかったと認められる。
また、寅沢らは、被告丁木との間の交渉において、社内で検討した月1101万円という予想売上高を前提としたと認められることは前判示のとおりであるが、寅沢らがした上記予想が、その算定方法、算定資料収集の方法等において著しく不合理、不適切であることを認めるに足りる証拠はなく、原告ホットスパーが現在では立地判定方式や客数判定方式を採用していないことは、これを左右するものではない。のみならず、そもそも、将来の売上高に関する試算はあくまで予測にすぎず、店舗を取り巻く人口動向や、消費動向等の不確定な諸要素に左右されるものであり、現に、寅沢は被告丁木に対し上記売上高が予測値にすぎない旨を説明したと認められるのであるし、寅沢が被告丁木に対し提示した資料には、上記月1101万円という平均売上高が目標値であることがカッコ書きで付記されているほか、平均売上高がこの金額から最大で300万円減少した場合におけるキャッシュフローの額等が具体的に試算されており、被告丁木がスパー△△店において損益をプラスにするためには、少なくとも月981万円の売上高を上げる必要があること等の事情が明示されている。しかも、被告丁木は開店後少なくとも2年間は最低保障制度による補填額の範囲内で生活することを余儀なくされる可能性があることを前提として加盟契約を締結したと認められることは前判示のとおりであるから、被告丁木としては、寅沢の説明によって、上記月1101万円という平均売上高が一応の予測にすぎず、かなり売上高が減少することもあり得ること、この売上高の減少に伴い損益がマイナスとなることもあり、売上高が月801万円の場合にはキャッシュフローの額がマイナス17万7000円となり、かなりの赤字が発生する危険があることを十分了知することができたというべきである。
以上によれば、寅沢らは、加盟契約締結に当たり、被告丁木の契約締結に向けた判断を誤らせるおそれが大きい不適切な説明等をしたと認めることはできない。そして、被告丁木は加盟契約を締結するに際し、前記認定のとおりの説明を受けていたのであるから、前記資料に記載された月35万4000円の収入(キャッシュフロー)を当初から、現実にしかも確実に得られると信じていたとは到底認められないのであり、したがって、原告ホットスパーが説明した前記収入があると信じたのに同収入が得られなかったことを理由とする錯誤の主張は理由がないし、また、原告ホットスパーに情報提供義務違反があったとも認められない。よって、原告ホットスパーは被告丁木に対し債務不履行に基づく損害賠償義務を負うものではない。
(4) 己田に対する説明等について(第5事件関係)
ア 認定事実
証拠(甲ハ1ないし9(枝番の証拠を含む。)、乙ハ1、2、9の1ないし3、10の1及び2、11の1及び2、12の1ないし3、己田本人)及び弁論の全趣旨によれば、己田が原告ホットスパーとの間で加盟契約を締結するに至った経緯や、原告ホットスパーが加盟契約締結に当たり己田に対し説明した内容等について、次の事実を認めることができる。
(ア) 己田は、高校を卒業すると、東京でバーテン業をした後に沖縄に戻り、●●で営業担当社員として勤務していた。●●は、当時、別会社として沖縄スパーを設立し、沖縄県においてスパー名義のコンビニエンスストアを運営していた。子原本部長は、己田の2期後輩であり、●●に在籍していたが、沖縄スパーに転籍すると、平成7年2月ころ、己田に対し、コンビニエンスストアの経営をやってみないかなどと勧誘した。
(イ) 己田と子原本部長は、コンビニエンスストアの経営に関し、10ないし15回程度会って話をした。子原本部長は、己田に対し、候補としてスパー□□店を含む4つの店舗を示した。このうち、スパー□□店は、原告ホットスパーが、国道58号線に面しており、交通量等が非常に多く、店舗前面に駐車スペースがとれるため、車を利用する客の利用が見込まれる、周辺に競合店がないため地域住民の集客も見込まれる、更に500メートル以内にホテルが2つあるためホテル客からの集客も見込まれることから、十分売上を確保することができると判断し、開設を決定した店舗である。子原本部長も、このような判断を踏まえ、己田に対し、スパー□□店について、現在原告ホットスパーが出店を予定している良い物件であるなどと勧誘した。
(ウ) また、子原本部長は、己田に対し、この交渉の中で、「ホットスパー**店事業計画書」と題する書面(乙ハ1)を示した。この事業計画書のうち「5ヶ年事業計画」と題する文書には、売上高としてはホットスパー全店(沖縄地区)の平均伸び率を適用して、2年目には10パーセント、3年目は5パーセント、4年目及び5年目は3パーセント(いずれも対前年度比)とし、初年度から月平均1203万円と試算している。また、一般管理費は月平均1093万円、営業利益は月平均64万2000円、経常利益は月平均65万1000円、キャッシュフローは月平均57万7000円である旨の記載がある(なお、上記の数値はいずれも初年度のものである。)。ただし、上記「5ヶ年事業計画」には、原告ホットスパーが被告丙川に対し示した同種の書類(乙イ4)と比較すると、一般管理費の項目として「廃棄高」、「不明ロス」に関する具体的な記載がなく、また、減価償却に関する記載も、初年度以降全ての年度において0円として試算されていた。
(エ) 己田は、子原の上記説明や事業計画書の内容等を踏まえ、原告ホットスパーと加盟契約を締結することを決意し、株式会社$銀行%支店を窓口として、##に対し1400万円の事業資金の融資申し込みをした。そして、己田は、この融資が得られる見込みが立ったので、平成7年8月14日、原告ホットスパーとの間で加盟契約を締結し、同年10月25日、スパー□□店を開店した。
もっとも、己田と子原本部長は、当初、Eタイプの加盟契約を前提として交渉していた。しかし、己田は、上記融資申し込みをした後、Eタイプの加盟契約はロイヤリティが50パーセントとかなり高いが、夏場で大きな売上をしたときのことを考えると、そこで手取りを増やさないと厳しい冬場を越すのは大変であるなどと考え、子原本部長に対し、Aタイプの加盟契約(ロイヤリティが32パーセントと比較的低いものの、新たに保証金や家賃等の負担が必要となる。)に変更するよう求めた。このため、己田は、新たに1000万円の保証金を負担することが必要となったが、己田は、当初Eタイプの加盟契約を前提として交渉し、既に融資申し込みをしていたため、子原本部長は、上記保証金の支払を免除してよい旨話した。己田が原告ホットスパーとの間で締結した上記加盟契約は、Aタイプの加盟契約であった。この加盟契約の内容は、前記前提となる事実記載のとおりである。
(オ) 原告ホットスパーは、己田と加盟契約を締結した後である平成7年10月10日付けで、社内において、Aタイプの加盟契約を前提として、□□店に関する予測資料を作成した。原告ホットスパーは、この資料において、客単価・客数から売上高を月平均1203万円と予測した上で、営業費合計が月平均120万6000円、営業利益が月平均105万3000円、経常利益が月平均44万9000円、キャッシュフローが月平均50万3000円である旨予測している。なお、この資料には、上記事業計画書と異なり、棚卸増減高及び商品廃棄値下高として月平均17万2000円、減価償却費として月平均5万4000円との記載がなされていた。
(カ) 開店月の翌月である平成7年11月から閉店月である平成10年9月までの約3年間におけるスパー□□店の経営状況をみると、まず、原告ホットスパーが作成した損益計算書によれば、売上高実績(平均値)は、1年目が月1171万4398円、2年目が月1280万0497円、3年目が月1178万1303円であり、原告ホットスパーが事業計画書の中で記載し、かつ、内部的に予測した数値である月1203万円と比較すると、その達成率は、1年目が97.38パーセント、2年目が106.40パーセント、3年目が97.93パーセントとなっている。そして、己田は、開店月である平成7年10月を除けば、いずれの月においても営業利益を上げており、営業利益(累積額)は、平成7年10月から平成8年2月までが142万1596円、平成8年3月から平成9年2月までが1894万3303円、平成9年3月から平成10年2月までが2885万2895円、平成10年3月から同年9月までが1633万7703円であった。
また、己田は、税理士に依頼して毎年確定申告用の決算書を作成していたが、これを踏まえて己田の訴訟代理人弁護士が計算したところによっても、平成7年度は赤字であったものの、平成8年度は465万2070円、平成9年度は750万2645円、平成10年度(ただし、同年9月まで)は640万7873円の経常利益をそれぞれあげていた(ただし、この額は、己田が原告ホットスパー以外から仕入れた商品に関する収支を除外した数値である。)。
イ 上記認定事実を前提として、己田に対する情報提供義務違反があったか否かについて判断する。
己田は、原告ホットスパーが、加盟契約締結を勧誘するに当たり、己田に対し、「廃棄高」、「不明ロス」等の重要な経費に関する情報を提供せず、かえって、経費に関する予測として、原告ホットスパーが内部で試算した経費額よりも約10万円程度も低い額を提示した点において、情報提供義務違反がある旨主張する。そして、加盟契約締結に向けた交渉の中で子原が己田に示した事業計画書には、「廃棄高」、「不明ロス」に関する具体的な記載がなく、減価償却に関する記載も、初年度以降全ての年度において0円として試算されていたこと、他方、原告ホットスパーは、社内的にスパー□□店の収支を予測するに当たり、前記事業計画書と異なり、棚卸増減高及び商品廃棄値下高として月平均17万2000円、減価償却費として月平均5万4000円を要することを前提としていたことは、いずれも前記認定のとおりである。
しかしながら、前記認定の事実によれば、スパー□□店は、原告ホットスパーが、車を利用する客や、地域住民の集客、更には近隣のホテル客からの集客も見込まれることから、十分売上を確保することができると判断し、開設を決定した店舗であり、子原本部長も、己田に対して、スパー□□店について原告ホットスパーが出店を予定している良い物件であるなどと勧誘し、己田はこの勧誘等を踏まえて加盟契約を締結したと認められるから、己田が加盟契約を締結した主たる目的ないし動機は、原告ホットスパーが試算し、予想した売上高によって自らの利益を上げることにあったというべきである。そして、己田がスパー□□店を開店後、原告ホットスパーが予想した月1203万円という売上高を概ね達成したのみならず、原告ホットスパーが作成した損益計算書はもとより、己田の確定申告書等を踏まえて前記訴訟代理人弁護士が計算したところによっても、開店年度である平成7年度を除けば、平成8年度が465万2070円、平成9年度が750万2645円、平成10年度(ただし、同年9月まで)が640万7873円という経常利益を上げてきたことにかんがみれば、己田は、加盟契約を締結した目的を一応達成したと認められる。
もっとも、己田が□□店の経営のため実際に要した経費の額が、加盟契約締結に当たり子原本部長が己田に示した経費に関する予測数値を超えていたことや、子原本部長が己田に対して交付した「5ヶ年事業計画」には、一般管理費の項目として「廃棄高」、「不明ロス」に関する具体的な記載がなく、減価償却に関する記載も、初年度以降全ての年度において0円として試算されていたことは前判示のとおりである。
しかしながら、そもそも、前判示のとおり、己田は、実際に要した経費を前提としても、閉店するまでの間に一定の利益を上げており、加盟契約を締結した主要な目的をある程度達成したと認められる。のみならず、証拠(甲ハ7、9、乙ハ9ないし12(いずれも枝番の証拠を含む。)、己田本人)及び弁論の全趣旨によれば、己田は、平成8年度以降、かなり多額の本部外仕入れ(販売する商品を原告ホットスパー以外から仕入れること等)を行っていたこと、いずれの年度においても多額の廃棄ロスや不明商品が生じていたこと、人件費などその他の経費の額も相当多額であったこと等が認められ、スパー□□店が上記のような良好な売上を記録していたにもかかわらず、己田が現に手にした利益が事業計画書記載の経常利益等と比較して低額となったのは、商品の適切な発注、在庫管理、経費の削減など、第一次的には、経営者である己田自身において、その経営判断と責任に基づいて行うべきで事項に関する処理が不適切であったことがその原因であるといわざるを得ない。そうすると、経費の問題によって己田が自ら予想した程度の利益をあげることができなかったとしても、それは、加盟契約締結後に自ら招いた結果であって、子原本部長がスパー□□店の経費に関して廃棄ロス等の額に関する説明をしなかったことによって、生じた結果ではない。
そうすると、原告ホットスパーが、己田に対し、加盟契約締結に当たり、契約締結に向けた判断を誤らせるおそれが大きい不適切な説明等をしたと認めることはできない。そして、前記事業計画書に記載された利益が得られなかったのは上記の理由によるのであり、原告ホットスパーの説明により錯誤に陥ったものでもないから、錯誤の主張は理由がないし、また、原告ホットスパーに情報提供義務違反があったとも認められない。よって、原告ホットスパーが己田に対し不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償義務を負うものではない。
(5) 以上によれば、原告ホットスパーの被告甲山、被告丙川、被告丁木及び己田に対する情報提供義務違反はなかったというべきであるし、被告ら及び己田と原告ホットスパーの各加盟契約締結において錯誤があったということはできない。よって、原告ホットスパーの商品代金等請求に対する上記被告らの不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償請求権を自働債権とする相殺の抗弁はいずれも理由がない。また、上記被告らの不当利得に基づく返還請求又は不法行為若しくは債務不履行に基づく損害賠償請求は、いずれも理由がない。
2 争点2(原告ホットスパーの閉店指導義務違反の有無)について
(1) 被告丙川について
ア 被告丙川は、スパー▲▲店を開店した平成9年2月から、キャッシュフローが最低賃金額を大幅に下回り、赤字になっていたから、原告ホットスパーとしては、遅くとも、開店から6か月後である同年8月ころまでには、被告丙川に対し速やかに閉店指導を行う義務があったのに、この義務を怠った過失がある旨主張する。
イ しかしながら、前記1(2)アで認定したとおり、被告丙川は、コンビニエンスストア経営の知識、経験を踏まえ、スパー▲▲店について、当面の経営が厳しいものの、将来性は十分ある旨自ら判断して加盟契約を締結したというべきである。このことに、被告丙川が原告ホットスパーと締結した加盟契約には、両者がそれぞれ独立の事業者であり、被告丙川はスパー店の経営を自己の責任と負担において行う旨が定められていることを併せ考慮すれば、仮に、被告丙川が主張する開店6か月後の時点において、被告丙川がスパー▲▲店の経営によって利益を上げることができない状況にあったとしても、原告ホットスパーが被告丙川に対し閉店を指導すべき義務まではないというべきである。
したがって、被告丙川の前記主張は理由がない。
(2) 被告丁木について
ア 被告丁木は、△△店を開店した平成7年12月から、キャッシュフローが最低賃金額を大幅に下回る額となっていたから、原告ホットスパーとしては、遅くとも、開店から6か月後である平成8年6月ころまでには、被告丁木に対し閉店指導を行う義務があったのに、この義務を怠った過失がある旨主張する。
イ しかしながら、前記1(3)アで認定したとおり、被告丁木は、酒類販売免許を取得する約2年後までの間には売上が損益分岐点に達しない可能性があることや、その場合、最低保障制度による補填額の範囲内で店舗を運営することを余儀なくされる等の事情を自ら検討し、これを前提とした上で、原告ホットスパーと加盟契約を締結したと認められる。このことに、被告丁木が原告ホットスパーと締結した加盟契約には、両者がそれぞれ独立の事業者であり、被告丁木はスパー店の経営を自己の責任と負担において行う旨が定められていることを併せ考慮すれば、仮に、被告丁木が主張する開店6か月後の時点において、売上額が原告ホットスパーが示した目標売上額に達しておらず、そのため、被告丁木が想定していた利益を上げることができなかったとしても、原告ホットスパーが被告丁木に対しスパー△△店の閉店を指導すべき義務まではないというべきである。
したがって、被告丁木の前記主張は理由がない。
(3) 己田について
ア 己田は、スパー□□店を開店した平成7年10月から、キャッシュフローが最低賃金を大幅に下回り、赤字になる状態であったから、原告ホットスパーとしては、遅くとも、開店から6か月後である平成8年4月ころまでには、己田に対し、経営改善の具体的方策を示すか、そうでなければ速やかに閉店指導を行う義務があったのに、この義務を怠った過失がある旨主張する。
イ しかしながら、前記1(4)アで認定したとおり、スパー□□店は、開店以降の期間において、原告ホットスパーが予測した売上高をおおむね達成するという良好な売上を継続して上げていたのであるから、そもそも、己田が指摘する開店からわずか6か月後の時点において、閉店する理由などない。
のみならず、己田が原告ホットスパーと締結した加盟契約には、両者がそれぞれ独立の事業者であり、己田はスパー店の経営を自己の責任と負担において行う旨が定められているのであるから、己田が閉店指導義務の根拠として挙げる原告ホットスパーの継続的な指導・援助義務も、己田自らが、スパー□□店の経営を自己の責任と負担において行うことを前提としていると解すべきである。そして、前述のとおり、スパー□□店が上記のような良好な売上を記録していたにもかかわらず、己田が現に手にした利益が事業計画書記載の経常利益等と比較して低額となったのは、商品の適切な発注、在庫管理、経費の削減など、第一次的には、経営者である己田自身の経営判断と責任に基づく結果であるというべきところ、この点についても、証拠(甲ハ7、9、乙ハ9ないし12(いずれも枝番の証拠を含む。)、己田本人)及び弁論の全趣旨によれば、午岡ら原告ホットスパーの担当者は、スパー□□店を定期的に訪問した上、一般的な指導事項に加えて、特に客が減少する冬場に多額の本部外仕入れを続けていると資金繰りに詰まる危険があることを具体的に指摘した上、本部外仕入れを止めるよう度々勧告したり、過剰な人件費の削減や、在庫ロス等を減少させるための指導を行っており、原告ホットスパーは加盟契約に基づき己田に対し負っている販売協力義務を尽くしたと認められるから、この義務の範囲を超えて、原告ホットスパーには己田に対し閉店を指導すべき義務まではないというべきである。
したがって、己田の前記主張は理由がない。
(4) なお、被告甲山は、上記被告らと異なり、閉店指導義務違反を主張していない。
3 争点3(原告ホットスパーの商品代金等請求と信義則)について
(1) 被告らは、原告ホットスパーが提供したノウハウの質、内容は極めて粗雑であり、原告ホットスパーが加盟契約により取得した多額のロイヤリティには到底値しないから、原告ホットスパーが加盟契約を締結した各被告らに対する商品代金等の請求は信義則に反し、また、閉店後被告らが原告ホットスパーに対し支払った商品代金等は不当利得になる旨主張する。そして、原告ホットスパーは、各加盟契約に基づき、ロイヤリティとして、被告甲山から6486万2902円、被告丙川から301万8533円、被告丁木から3245万1374円、己田から3060万6615円の支払を受けたと認められる(弁論の全趣旨)。
(2) しかしながら、前記前提となる事実によれば、原告ホットスパーは、被告丁木に対し、加盟契約に基づき、経営に関する継続的指導援助等の販売協力義務を負っているところ、前記前提となる事実に証拠(甲ロ9、15、26、28ないし30、証人寅沢、証人辰森D男、被告丁木本人)及び弁論の全趣旨を総合すると、原告ホットスパーは、担当者(スーパーバイザー)が被告らの店舗をおおむね週1回程度訪問した上、当該店舗毎に販売データ等を調査、分析し、新規商品、売れ筋商品、キャンペーン等を案内して商品等の発注を確認したり、在庫や廃棄ロスにおける問題点を指摘するなど、販売力、収益力の向上に向けた具体的な指摘、指導を行っており、特に被告丁木に対しては、上記の指導等に加えて、担当者である辰森が加盟契約のタイプを変更してより負担を軽減することを強く勧めたり、被告丁木の依頼を受けて、店舗の家賃を減額するため家主との間で交渉に当たったことが認められる。そうすると、原告ホットスパーは、被告丁木に対してはもとより、その他加盟契約を締結した被告らに対しても、加盟契約上の指導義務の履行を尽くしたというべきである。
このことに、ロイヤリティの支払は各加盟契約に定められた被告らの義務であり、被告らはその具体的内容を了解した上で加盟契約を締結したと認められること、被告らは、原告ホットスパーに対しロイヤリティの支払義務を負う一方で、加盟契約の締結によって、スパー店の経営に当たり、原告ホットスパーが保有する商標等の使用、店舗物件の選定、加盟契約の種類如何によっては家賃負担の免除、原告ホットスパーが定める店舗のイメージに即した設備・什器の搬入、多種多様な商品の迅速な供給、効率的な仕入れを図るためのシステムの提供など、被告らが加盟契約を締結することなく個人として商店等を開業した場合には得ることが極めて困難と考えられる利便や利益を享受することができたと認められ(甲1の1、甲イ1、甲ロ1の1、乙ロ2、乙ハ2、弁論の全趣旨)、これによれば、被告らが原告ホットスパーとの間で合意したロイヤリティの算定方法やその額等が社会通念に照らして著しく不合理、不適切とは認められないことを併せ考慮すれば、原告ホットスパーの被告らに対する商品代金等の請求が社会通念上是認し得ないと認めることはできない。
特に、被告丙川は、上記の事情のほか、コンビニエンスストア経営に必要な知識、経験を十分有していたこと、スパー▲▲店を閉店するに当たり原告ホットスパーとの間で原告ホットスパーがその商品等を買い取る旨の合意をし、これにより、損失を一定程度軽減することができたこと、スパー▲▲店の閉店後も本件における請求の対象となっているスパー××店の経営を約3年にわたり異議なく継続していたこと、しかし新たにローソン××店を開店しようと考えると、その準備のため、原告ホットスパーに対する送金を怠るようになったこと等の事情が認められ、こうした事情にかんがみれば、原告ホットスパーの被告丙川に対するスパー××店の商品代金等に関する請求が社会通念上是認し得ないとは到底認めることができない。
したがって、被告らの主張は理由がない。
4 争点4(原告ホットスパーに対する預託金請求の当否)について
(1) 被告らは、原告ホットスパーに対し被告らが送金し、預託した金員は法的には加盟店の売り上げとして加盟店に所属する金員であるから、原告ホットスパーは、被告らに対し、加盟契約に基づき、上記預託に係る金員を返還すべきである旨主張する。そして、閉店までの間に被告らが原告ホットスパーに対し送金した額は、被告甲山が5億7103万2147円、被告丙川が6966万8177円、被告丁木が5億4754万4267円、己田が3億9239万3391円であると認められる(弁論の全趣旨)。
(2) しかしながら、前記前提となる事実によれば、被告らは、原告ホットスパーとの間で加盟契約を締結するに当たり、いずれも、商品代金の送金及び決済方法として、①被告らが毎日、総売上金につき現金全額を原告ホットスパーの指定する銀行預金口座に入金すること、②原告ホットスパーは、被告らが毎月1日から末日までの商品代金等を上記①の方法により送金した売上金より控除して精算し、原告は控除後の残金を被告らの口座に返還すること、③被告らが送金した売上金をもって商品代金及びロイヤリティに足りない場合には、被告らは、原告ホットスパーからの通知があり次第、原告ホットスパーに不足額を支払う旨を合意したことが認められる。このように、被告らは、加盟契約によって、まず、その総売上金の全額について原告ホットスパーに送金する旨を義務づけられているのであり、原告ホットスパーは、被告らから送金を受けた上記総売上金から被告らに対する商品代金等を控除した額のみを被告らに対し返還すれば足りるのであるから、被告らは、原告ホットスパーが上記控除をした残額についてのみ、原告ホットスパーに対し返還を請求することができるにすぎないと解すべきである。したがって、被告らの上記主張は、総売上金の全額について返還請求することができるとすることを前提とする点において、そもそも失当であるといわざるを得ない。
のみならず、仮に、被告らが主張するとおり、加盟契約の解釈として、被告らが原告ホットスパーに対し総売上金の全額について返還請求をすることができ、原告ホットスパーはこれに対し相殺を主張しうるのみであるとしても、原告ホットスパーは、被告らから送金を受けた総売上金から原告ホットスパーが被告らに対し有する商品代金等債権で精算処理した結果、被告甲山に対しては別紙1のとおり1856万476円の未清算金が、被告丙川に対しては別紙2のとおり1122万1924円の未清算金が、被告丁木に対しては別紙3のとおり1289万4368円の未清算金が、己田に対しては別紙4のとおり1120万3721円の未清算金がそれぞれ生じていると認められるから(甲ロ3の1ないし16、11、弁論の全趣旨)、原告ホットスパーが上記の被告らに返還すべき金員はないと認められる。そして、被告らは、上記未清算金算定の基礎となった商品代金額からバックマージン額を控除すべきである、商品代金等に対する消費税は原告ホットスパーが負担すべきであるなどと縷々主張して、原告ホットスパーの上記未清算金の額を争うが、上記の各証拠に証拠(甲ロ23、24)及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告ホットスパーと被告らとは、加盟契約締結に当たり、商品代金等の精算方法は別紙1ないし4記載に係る計算方法による旨を合意したと認められ、これを左右するに足りる証拠はない。したがって、この点からしても、被告らの上記主張はいずれも理由がない。
第4 結論
よって、原告ホットスパーの被告らに対する各請求はいずれも理由があるからこれを認容することとし、被告ら及び己田の原告ホットスパーに対する各請求はいずれも理由がないから、その余を判断するまでもなく、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官・飯田恭示、裁判官・品川英基、裁判官・進藤壮一郎)
別紙1〜4<省略>