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那覇地方裁判所沖縄支部 平成3年(ワ)214号の2 判決 2002年3月14日

別紙当事者目録記載のとおり

主文

一  被告らは、連帯して、原告比嘉とし子に対し、金五四九四万〇五七九円及びこれに対する平成二年一一月二三日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を、原告比嘉正朗、同比嘉武志及び同比嘉艶子に対し、それぞれ金一八九七万〇一九三円及びこれに対する平成二年一一月二三日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を、原告拝根キヨミに対し、金五〇二九万三〇七一円及びこれに対する平成二年一一月二三日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を、原告拝根博昭、同拝根慶明、同拝根真由美及び同拝根和彦に対し、それぞれ金一三二三万〇七六八円及びこれに対する平成二年一一月二三日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を、原告A野花子に対し、金一八二万一〇三〇円及びこれに対する平成二年一一月二三日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を被告らの連帯負担とし、その余は原告らの負担とする。

四  この判決は、原告ら勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

被告らは、連帯して、原告比嘉とし子に対し、金九一三五万五七五五円及びこれに対する平成二年一一月二三日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を、同比嘉正朗及び同比嘉武志に対し、それぞれ金四〇三八万五二五二円及びこれに対する平成二年一一月二三日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を、同比嘉艶子に対し、金四〇三八万五二五一円及びこれに対する平成二年一一月二三日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を、同拝根キヨミに対し、金九〇〇四万四八四三円及びこれに対する平成二年一一月二三日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を、同拝根博昭及び同拝根慶明に対し、それぞれ金三四四六万一二一一円及びこれに対する平成二年一一月二三日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を、同拝根真由美及び同拝根和彦に対し、それぞれ金三四四六万一二一〇円及びこれに対する平成二年一一月二三日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を、同A野花子に対し金二九二万一〇三〇円及びこれに対する平成二年一一月二三日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。

二  請求の趣旨に対する答弁(被告C山)

原告らの請求をいずれも棄却する。

第二当事者の主張

一  請求原因

(1)  当事者

(ア) 故比嘉正雄(以下「比嘉巡査部長」という。)は、昭和二二年一〇月一八日出生し、平成二年一一月当時、沖縄県沖縄警察署に巡査部長として勤務していた者である。

原告比嘉とし子(以下「原告とし子」という。)は、比嘉巡査部長の妻、原告比嘉正朗(以下「原告正朗」という。)、同比嘉武志(以下「原告武志」という。)、同比嘉艶子(以下「原告艶子」という。)は、いずれも比嘉巡査部長の子である(以上の原告らをまとめて以下「原告とし子ら」ともいう。)。

故拝根正吉(以下「拝根巡査長」という。)は、昭和二三年九月一一日出生し、平成二年一一月当時、沖縄県沖縄警察署に巡査長として勤務していた者である。

原告拝根キヨミ(以下「原告キヨミ」という。)は、拝根巡査長の妻、原告拝根博昭(以下「原告博昭」という。)、同拝根慶明(以下「原告慶明」という。)、同拝根真由美(以下「原告真由美」という。)、同拝根和彦(以下「原告和彦」という。)はいずれも拝根巡査長の子である(以上の原告らをまとめて以下「原告キヨミら」ともいう。)。

原告A野花子(以下「原告花子」という。)は、本件当時事件現場付近を通りかかった者である。

(イ) 被告C山竹夫(以下「被告C山」という。)は、本件当時暴力団三代目B山会D原一家の実質的組員として活動していた者である。

被告D川梅夫(以下「被告D川」という。)は、本件当時三代目B山会D原一家総長代行の地位にあった者である。

(2)  本件銃撃事件の発生

暴力団C川会は、三代目B山会から分裂した組織であり、平成二年九月以降、相互に対立抗争を繰り返していたが、被告C山は、同年一一月初旬、D川から対立するC川会組員を殺害するよう指令を受けてこれを承諾し、実行に移す機会をうかがっていた。

他方、比嘉巡査部長及び拝根巡査長は、三代目B山会とC川会との間の対立抗争に伴う防犯のため、同月二三日夜、当時被告C川らがD原一家の活動拠点として使用していた《住所省略》所在のマンション「E原ハイツ」(以下「E原ハイツ」という。)付近の空き地(《住所省略》所在の松田栄次方前空き地)において、捜査用の普通乗用自動車を停車させて車内から周囲を警戒していたところ、ハイツへ向かう途中であった被告C山がこれを発見し、比嘉巡査部長及び拝根巡査長をC川会の組員であると誤認して、両名の殺害を決意し、自動装填式けん銃を五発発射して車内にいた両名に命中させ、そのころ、同所において、比嘉巡査部長を心臓損傷により、拝根巡査長を脳挫傷によりいずれも即死させた。

また、被告C山は、この直後上記現場付近を普通乗用自動車を運転して通りかかった原告A野に上記銃撃を目撃されたと考え、けん銃を持っていた右手を振って原告A野を追い払おうとしたところ、誤って引き金を引いてけん銃を発射して原告A野の左下腿部に命中させ、同人に加療約八週間を要する左下腿貫通創の傷害を負わせた。(以下これらの事件をまとめて「本件銃撃事件」という。)

(3)  被告らの不法行為責任

被告D川は、三代目B山会D原一家総長代行として、同組員として活動していた被告C山と共謀してC川会の組員の殺害を企て、この旨被告C山に指令し、これを受けて、被告C山が本件銃撃事件を実行したのであるから、これらはいずれも被告らが共同して実行した不法行為である。

したがって、被告らは、被告らの共同不法行為により原告らが被った損害について、民法七〇九条及び同七一九条により、連帯して、不法行為に基づく損害賠償義務を負う。

(4)  比嘉巡査部長の相続人はその妻である原告とし子(相続分二分の一)並びにその子である原告正朗、原告武志及び原告艶子(相続分各六分の一)であり、拝根巡査長の相続人はその妻である原告キヨミ(相続分二分の一)並びにその子である原告博昭、原告慶明、原告真由美及び原告和彦(相続分各八分の一)である。

(5)  比嘉巡査部長の損害

比嘉巡査部長は、本件銃撃事件がなければ平成二〇年三月三一日まで警察官として稼働できたのであり、この間に同人が受けるべきであった給料から同人の生活費としてその三割を控除し、新ホフマン係数により中間利息を控除すると、別紙の別表1のとおり在職期間中の逸失利益は八四六二万〇九一六円となる。また、退職後六七歳までの間は、退職時の年収一〇六〇万六二八七円の七割相当の収入があるものと推測されるため、この金額から上記と同様に生活費及び中間利息を控除すると、この間の逸失利益は一七七八万八五六七円(1060万6287円×0.7×0.7×3.4228)となる。

また、比嘉巡査部長が定年時まで警察官として勤めていた場合の退職手当の現価は、退職時の給料月額五一万六〇〇〇円に退職手当支給率六二・七と本件銃撃事件から退職時までの期間に相当する新ホフマン係数〇・五四〇五を乗じた一七四八万六九〇四円であるところ、原告とし子らの遺族が現に受領した金額は一五五八万四八七七円であるから、その差額一九〇万二〇二七円が退職手当に関する逸失利益となる。比嘉巡査部長が本件銃撃事件により被った精神的損害は三〇〇〇万円を下らない。

さらに、原告とし子は、本件銃撃事件により比嘉巡査部長の葬儀費用一二〇万円の支出を余儀なくされ、また、本件銃撃事件により被った精神的損害は一五〇〇万円を下らない。なお、原告とし子は、本件訴訟を原告代理人らに委任するにあたり、その報酬として八〇〇万円の支払いを約した。

本件銃撃事件により原告正朗、同武志及び同艶子が被った精神的損害は各一五〇〇万円を下らず、また、原告正朗、同武志及び同艶子は、本件訴訟を原告代理人らに委任するにあたり、その報酬として各三〇〇万円の支払いを約した。

よって、原告とし子は、比嘉巡査部長の損害の相続分及び固有の損害合計九一三五万五七五五円及びこれに対する本件銃撃事件の日である平成二年一一月二三日から支払済みまで民法所定の年五パーセントの割合による遅延損害金の支払いを、原告正朗及び同武志は、比嘉巡査部長の損害の相続分及び固有の損害合計各四〇三八万五二五二円及びこれに対する平成二年一一月二三日から支払済みまで民法所定の年五パーセントの割合による遅延損害金の支払いを、原告艶子は比嘉巡査部長の損害の相続分及び固有の損害合計各四〇三八万五二五一円及びこれに対する平成二年一一月二三日から支払済みまで民法所定の年五パーセントの割合による遅延損害金の支払いをそれぞれ請求する。

(6)  拝根巡査長の損害

拝根巡査長は、本件銃撃事件がなければ平成二一年三月三一日まで警察官として稼働できたのであり、この間に同人が受けるべきであった給料から同人の生活費としてその三割を控除し、新ホフマン係数により中間利息を控除すると、別紙の別表2のとおり、在職期間中は逸失利益は七九一〇万七七〇九円となる。また、退職後六七歳までの間は、退職時の年収九四〇万七七一八円の七割相当の収入があるものと推測されるため、この金額から同様に生活費と中間利息を控除すると、この間の逸失利益は一五四〇万〇八二〇円(940万7718円×0.7×0.7×3.3409)である。

また、拝根巡査長が定年まで警察官として勤めていた場合の退職手当の現価は、退職時の給料月額四七万八七〇〇円に退職手当支給率六二・七と本件銃撃事件から退職時までの期間に相当する新ホフマン係数〇・五二六三を乗じた一五七九万六六二六円であるところ、原告キヨミらの遺族が現に受領した金額は八六一万五四七五円であるから、その差額七一八万一一五一円が退職手当に関する逸失利益となる。拝根巡査長が本件により被った精神的損害は三〇〇〇万円を下らない。

原告キヨミは、本件銃撃事件により拝根巡査長の葬儀費用一二〇万円の支出を余儀なくされた。また、本件銃撃事件により原告キヨミが被った精神的損害は一五〇〇万円を下らない。なお、原告キヨミは、本件訴訟を原告代理人らに委任するにあたり、その報酬として八〇〇万円の支払いを約した。

本件銃撃事件により原告博昭、同慶明、同真由美及び同和彦が被った精神的損害は各一五〇〇万円を下らない。原告博昭、同慶明、同真由美及び同和彦は、本件訴訟を原告代理人らに委任するにあたり、その報酬として各三〇〇万円の支払いを約した。

よって、原告キヨミは、拝根巡査長の損害の相続分及び固有の損害合計九〇〇四万四八四三円及びこれに対する平成二年一一月二三日から支払済みまで民法所定の年五パーセントの割合による遅延損害金の支払いを、原告博昭及び同慶明は、拝根巡査長の損害の相続分及び固有の損害合計各三四四六万一二一一円及びこれに対する平成二年一一月二三日から支払済みまで民法所定の年五パーセントの割合による遅延損害金の支払いを、原告真由美及び同和彦は、拝根巡査長の損害の相続分及び固有の損害合計各三四四六万一二一〇円及びこれに対する平成二年一一月二三日から支払済みまで民法所定の年五パーセントの割合による遅延損害金の支払いをそれぞれ請求する。

(7)  原告A野の損害

原告A野は、本件銃撃事件で前記の受傷をし、平成二年一一月二三日から同年一二月八日までの一六日間中部徳洲会病院に入院し、同月九日から平成三年二月二三日までの間に合計五日通院して治療を受けた。

本件による原告A野の治療費は一九万〇五九〇円、入院雑費は二万〇八〇〇円、介護費用七万二〇〇〇円、通院費用一万七六四〇円、休業損害三六万円の損害を被った。また、本件による原告A野の精神的損害は二〇〇万円を下るものではない。なお、原告A野は、本件訴訟提起にあたり弁護士費用として二六万円を支払うことを約した。

よって、原告A野は、損害合計二九二万一〇三〇円及びこれに対する平成二年一一月二三日から支払済みまで民法所定の年五パーセントの割合による遅延損害金の支払いを請求する。

二  請求原因に対する認否等

被告C山は、請求原因(1)(ア)の事実は認め、その余の事実は不知又は否認と述べたり、認否を行っていない。

被告D川は、公示送達による呼び出しを受けながら、本件口頭弁論期日に出頭しない。

理由

一  請求原因(1)(ア)は被告C山に関しては当事者間に争いがなく、被告D川に関しては、《証拠省略》によってこれを認めることができる。

二  請求原因(1)(イ)、(2)ないし(4)については、《証拠省略》によってこれを認めることができ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

三  請求原因(5)~(7)について

(1)  《証拠省略》によれば、比嘉巡査部長は、本件当時(死亡時)四三歳で、年収は七二九万八九九七円であったことが認められるところ、本件による同人の逸失利益は、本件当時の年収に、本件銃撃事件時から稼働可能年齢である六七歳までの二四年間のライプニッツ係数一三・七九八六を乗じて中間利息を控除し、生活費としてその三割を控除した七〇五〇万一一五八円と認めるのが相当であり、同人の慰謝料については、暴力団抗争中の故意による射殺事件であるという本件の性質などを考慮すると、二四〇〇万円と認めるのが相当である。

さらに、《証拠省略》によれば、原告とし子は、葬儀費用として一二〇万円を支出して同額の損害を被ったことが認められ、原告とし子らの固有の慰謝料としては、一人あたり一五〇万円と認めるのが相当である。

以上によれば、原告とし子の損害合計は、四九九五万〇五七九円(3525万0579円+1200万円+120万円+150万円)となり、原告正朗、原告武志及び原告艶子の損害合計は、各一七二五万〇一九三円(1175万0193円+400万円+150万円)となるが、弁護士費用として、原告とし子は四九九万円の、原告正朗、原告武志及び原告艶子は各一七二万円の損害を被ったと認めるのが相当である。

(2)  《証拠省略》によれば、拝根巡査長は、本件当時(死亡時)四二歳で、年収は六三四万九八七四円であったことが認められるところ、本件による同人の逸失利益は、本件当時の年収に、本件銃撃事件時から稼働可能年齢である六七歳までの二五年間のライプニッツ係数一四・〇九三九を乗じて中間利息を控除し、生活費としてその三割を控除した六二六四万六一四二円と認めるのが相当であり、同人の精神的損害については、暴力団抗争中の故意による射殺事件であるという本件の性質などを考慮すると、二四〇〇万円と認めるのが相当である。

さらに、《証拠省略》によれば、原告キヨミは、葬儀費用として一二〇万円を支出して同額の損害を被ったことが認められ、原告キヨミらの固有の慰謝料としては、一人あたり一二〇万円と認めるのが相当である。

以上によれば、原告キヨミの損害合計は四五七二万三〇七一円(3132万3071円+1200万円+120万円+120万円)となり、原告博昭、原告慶明、原告真由美及び原告和彦の損害合計は、各一二〇三万〇七六八円(783万0768円+300万円+120万円)となるが、弁護士費用として、原告キヨミは四五七万円の、原告博昭、原告慶明、原告真由美及び原告和彦は各一二〇万円の損害を被ったと認めるのが相当である。

(3)  《証拠省略》によれば、原告A野は、本件銃撃事件により、一六日間の入院加療及び合計五日間の通院治療を余儀なくされ、治療費一九万〇五九〇円、入院雑費二万〇八〇〇円、介護費用七万二〇〇〇円、通院費用一万七六四〇円、休業損害三六万円の損害を被ったことが認められる。また、本件銃撃事件による原告A野の慰謝料は一〇〇万円と認めるのが相当であり、弁護士費用は一六万円と認めるのが相当である。

四  以上によれば、原告らの本訴請求は、被告ら各自に対し、原告とし子について五四九四万〇五七九円及びこれに対する本件銃撃事件の日である平成二年一一月二三日から支払済みまで民法所定の年五パーセントの割合による遅延損害金の、原告正朗、原告武志及び原告艶子について、それぞれ一八九七万〇一九三円及びこれに対する本件銃撃事件の日である平成二年一一月二三日から支払済みまで民法所定の年五パーセントの割合による遅延損害金の、原告キヨミについて五〇二九万三〇七一円及びこれに対する本件銃撃事件の日である平成二年一一月二三日から支払済みまで民法所定の年五パーセントの割合による遅延損害金の、原告博昭、原告慶明、原告真由美及び原告和彦について、それぞれ一三二三万〇七六八円及びこれに対する本件銃撃事件の日である平成二年一一月二三日から支払済みまで民法所定の年五パーセントの割合による遅延損害金の、原告A野について一八二万一〇三〇円及びこれに対する本件銃撃事件の日である平成二年一一月二三日から支払済みまで民法所定の年五パーセントの割合による遅延損害金の支払いを求める限度において理由があるからこれを認容し、その余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法六四条本文、六五条一項ただし書を、仮執行宣言について同法二五九条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 杉山愼治 裁判官 沖中康人 佐藤建)

<以下省略>

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