那覇家庭裁判所 平成2年(家)1477号 審判 1991年4月01日
申立人 井上江美子
相手方 トーマス・J・パーシー
未成年者 ジョン・J・パーシー
主文
申立人を未成年者の親権者と定める。
理由
1 申立ての趣旨及び実情の要旨
(一) 申立ての趣旨
主文同旨
(二) 申立ての実情の要旨
申立人と相手方は昭和59年6月26日に婚姻し、同年8月30日未成年者をもうけた。しかし、相手方に生活力がなかったことが原因で婚姻関係が破綻し、相手方提起にかかる離婚訴訟において、平成2年2月23日アメリカ合衆国ミシガン州イングハム郡巡回裁判所は離婚を認容する判決を下した。そして同判決では未成年者が申立人と相手方の共同親権に服するものとされていた。
しかるに、相手方は住居所が不明で、現在未成年者は申立人が監護養育しており、今後も引き続き監護を継続していくつもりであるが、現在のように共同親権の状態では種々不都合があるので、本申立てに及んだ。
2 当裁判所の判断
(一) 申立人及び参考人安城照子の各審問の結果、家庭裁判所調査官の調査報告書その他の本件記録によれば、以下の事実が認められる。
(1) 申立人は、昭和58年ころ米国軍人として沖縄に駐留していた相手方(アメリカ合衆国ミシガン州出身)と知り合い、同59年6月26日婚姻し、同年8月30日未成年者を出産した。その後しばらく申立人ら一家は沖縄で生活していたが、相手方の転属により、昭和62年2月米国カリフォルニア州サンディゴ市に転居した。そして同年9月相手方が軍隊を除隊したので、申立人ら一家は相手方の郷里であるミシガン州ランシング市に転居した。
(2) 除隊後当座は相手方の恩給と失業手当で何とか申立人一家の生活をまかなってきたが、まもなくこれも支給されなくなったのに相手方が本気で仕事を探そうとしなかったので、申立人一家の生活が行き詰まり、次第に夫婦間に亀裂が生じ、ついに双方共離婚を決意するに至った。そこで、昭和63年1月相手方において、申立人との離婚を求める訴訟をミシガン州イングハム郡巡回裁判所に提起したが、その際、未成年者の親権者には申立人がなることで相手方との間に話がついていた。
(3) 申立人は、離婚判決が出るまでには相当期間がかかるということであったので、昭和63年2月未成年者を連れてカリフォルニア州に転居し、さらに同年7月、これ以上の米国での生活は経済的にも無理と判断して未成年者と共に沖縄に戻り、現在に至っている。
申立人と相手方間の上記離婚訴訟は平成2年2月23日離婚を認容する判決が下され、同判決は上訴もなく確定したが、未成年者は、申立人と相手方の共同親権に服するものとされた。
(4) 申立人は肩書住所地で未成年者及び両親(父は公務員、母は家事)との4人家族で生活しているが、フラワーショップで働き、月収11~2万円を得ている。未成年者(アメリカ合衆国国籍)は現在幼稚園に通っており、平成3年4月には小学校に入学する予定であるが、日本国籍を保有していないため、就学に不都合が生じている。
(5) 相手方は、これまで未成年者の養育費を送金してきたことはなく、かえって、経済的に苦しいとの理由で、申立人に対し、別居後上記離婚訴訟に関連して2回ほど送金を依頼する連絡をしており、その都度申立人は送金をしていた(合計額350ドル)。そして、相手方は申立人との別居後その所在が転々と変わり、現在では所在不明の状態となっている。
(二) 裁判管轄権
未成年者の監護その他その福祉の増進に関する問題については、未成年者の住所地の裁判所に裁判管轄権があるとするのが、各国国際私法の原則にもかない相当である。しかして、前認定の事実によれば、未成年者の母である申立人は昭和63年7月以来沖縄県糸満市の肩書住所地でその両親と共に生活しており、同所を住所地と見ることができるところ、未成年者は継続して申立人のもとで生活して来たものであり、また、現に生活しているものであって、このように監護養育している申立人の住所地をもって未成年者の住所地と見ることができるから、結局本件については、日本の裁判所が裁判権を有し、かつ、当裁判所が管轄権を有するものである。
(三) 準拠法
親権者の指定ないし変更については、親子間の法律関係の問題として法例21条によるべきところ、未成年者及び相手方はいずれもアメリカ合衆国国籍を有し、同国は地方に依り法律を異にするから、同法28条3項を適用し、未成年者と相手方の共通本国法であるミシガン州法が準拠法として考えられるが、一般に、ミシガン州のそれを含め米国抵触法理によれば、親権その他の子の監護に関する問題については、子の利益、福祉に最も密接に関連し、したがって最も有効適切な判断をなし得るところの裁判管轄権を有する裁判所が、その法廷地法を適用して裁判すべきものとされているところ、上記州際間の抵触法理は、特段の事情のない限り、国際間の法律関係にも適用され、子の利益・福祉に最も密接に関連するものとして日本に裁判管轄権が認められる場合には、日本の裁判所が法廷地法に従って適切な裁判すべきものとする、いわゆる隠れた反致を認めることができるから、法例32条により我が国の民法に従って親権者を定めるべきである。
(四) 結論
そこで、我が国の民法に従って検討するに、前認定の事実によれば、未成年者の親権者を申立人の単独親権に変更することが未成年者の福祉に最も合致することは明らかである。
よって、民法819条、同法附則14条、家事審判法9条乙類7号の規定を類推して、主文のとおり審判する。
(家事審判官 志田博文)