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那覇家庭裁判所 平成22年(家)192号 審判 2010年7月15日

主文

1  相手方は,申立人に対し,金71万2000円を支払え。

2  相手方は,申立人に対し,平成22年×月から平成23年×月又は申立人と同居若しくは婚姻解消に至るまで月額金8万9000円を,同年×月から申立人と同居又は婚姻解消に至るまで月額金9万3000円をそれぞれ毎月末日限り支払え。

理由

第1当事者の主張

(申立人)

相手方は,申立人に対し,生活費として毎月20万円を支払え。

(相手方)

申立人は,平成21年×月まで,相手方の家賃収入が振り込まれる通帳を管理していたが,固定資産税等を支払わず,相手方の財産を酒代等に消費した。相手方の収入は月113万4278円,支出は月116万3356円であり,婚姻費用を支払えない。

第2当裁判所の判断

1  一件記録によれば,次の事実が認められる。

(1)  申立人(昭和41年○月○日生)と相手方(昭和30年○月○日生)は,平成6年×月×日婚姻し,同年○月○日長女を,平成8年○月○日長男をそれぞれもうけた。申立人は,平成21年×月×日,子らを連れて実家に戻り,相手方と別居している。申立人の申立てにより,那覇地方裁判所は,同年×月×日,相手方に対し保護命令を発令した。

(2)  申立人は,倉庫でパート勤務をしており,税込収入は平成22年×月分が7万2370円,×月分が6万5835円である。

(3)  相手方の平成18年分・平成19年分の確定申告書によれば,相手方は,2軒のアパートの賃料収入があったほか,居酒屋を経営していたが赤字であり,平成19年×月,居酒屋を廃業した。平成20年分の確定申告書によれば,相手方の不動産所得金額は244万5928円であり,平成21年分の確定申告書によれば,相手方の不動産所得金額は337万8601円,社会保険料控除は21万6100円,青色申告特別控除額は10万円である。

(4)  申立人は,平成21年×月×日,夫婦関係調整(離婚)調停事件及び婚姻費用分担調停事件を申し立てたが,平成22年×月×日,いずれも調停不成立となった。

2  以上の事実関係に基づき検討するに,申立人と相手方は別居している夫婦であるが,この別居について主として申立人に責任があることを認めるべき資料はないから,相手方は,申立人に対し,自己の経済状態に応じた婚姻費用を分担すべき義務がある。

婚姻費用の支払義務は自分の生活を保持するのと同程度の生活をさせる義務(生活保持義務)であることから,婚姻費用分担額の算定は,収入の多い義務者・収入の少ない権利者双方の実際の収入金額を基礎とし,義務者,権利者及び子が同居しているものと仮定し,双方の基礎収入の合計額を世帯収入とみなし,その世帯収入を権利者グループの生活費の指数で按分するという計算式が現在では一般に採用されている。この場合,税込収入から公租公課,職業費及び特別経費を控除した金額を基礎収入とするが,公租公課については税法等で理論的に算出された標準的な割合によって,職業費及び特別経費については統計資料に基づき推計された標準的な割合によって基礎収入を推定し,給与所得者の基礎収入は総収入の34%から42%,自営業者の基礎収入は総収入の47%から52%とされている。また,成人の必要とする生活費を100とした場合,年齢0歳から14歳までの子の標準的な生活費の指数は55,15歳から19歳までの子の生活費の指数は90と算出されている。

以上の算定方式に基づき本件について検討すると,次のとおりとなる(計算式はいずれも円未満切り捨て)。

(1)  基礎収入

ア 申立人

税込収入の年額は,次のとおりとなる。

(7万2370円+6万5835円)÷2×12=82万9230円

申立人は給与所得者として,公租公課及び職業費を標準的な割合とみて,基礎収入を総収入の38%と認定する。

82万9230円×0.38=31万5107円

イ 相手方

相手方の平成21年分総収入は,次のとおりとなる。

337万8601円-21万6100円+10万円=326万2501円

相手方は自営業者として,公租公課及び職業費を標準的な割合とみて,基礎収入を総収入の50%と認定する。

326万2501円×0.5=163万1250円

(2)  権利者世帯に割り振られる婚姻費用

ア 長男が15歳に達する前月の平成23年×月まで

(31万5107円+163万1250円)×(100+90+55)/(100+90+55+100)=138万2195円

イ 平成23年×月以降

(31万5107円+163万1250円)×(100+90+90)/(100+90+90+100)=143万4157円

(3)  義務者から権利者に支払うべき婚姻費用の分担額

ア 長男が15歳に達する前月の平成23年×月まで

138万2195円-31万5107円=106万7088円(年額)

106万7088円÷12=8万8924円(月額)

イ 平成23年×月以降

143万4157円-31万5107円=111万9050円(年額)

111万9050円÷12=9万3254円(月額)

(4)  そうすると,相手方は,申立人に対し,婚姻費用として,平成23年×月までは月額8万9000円を,同年×月以降は月額9万3000円を負担するのが相当である。

3  以上により,相手方は,申立人に対し,婚姻費用として,本件申立ての月である平成21年×月から平成22年×月までの未払分71万2000円と,同年×月から平成23年×月又は申立人と同居若しくは婚姻解消に至るまで月額8万9000円を,同年×月から申立人と同居又は婚姻解消に至るまで月額9万3000円を支払うこととし,主文のとおり審判する。

(家事審判官 鈴木順子)

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