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那覇家庭裁判所 平成26年(少)350号 決定 2014年11月12日

主文

少年を医療少年院に送致する。

理由

(非行事実)

第一  少年は、平成○年○月○日午前八時頃から同月○日午前四時四七分頃までの間に、窃盗の目的で、○○○○が看守する○○市<以下省略>所在の××××のプレハブ事務所に侵入した上、その頃、同所で、軽乗用車(車両番号<省略>)のエンジン始動鍵一本(○○○○所有。時価約五〇〇〇円相当)を窃取した。

第二  少年は、前記日時、前記××××の駐車場で、前記軽乗用車一台(○○○○所有。価額約二〇万円相当)を窃取した。

(法令の適用)

第一のうち

建造物侵入につき 刑法一三〇条前段

窃盗につき 刑法二三五条

第二につき 刑法二三五条

(処遇の理由)

一  少年は、平成○年○月、自動車窃盗の非行に及び、平成○年○月、保護観察に付されたが、同月○旬頃、自動車窃盗や盗んだ自動車を無免許運転した非行に及び、同年○月、中等少年院送致の処分を受けた。少年は、同年○月、少年院を仮退院したが、保護観察継続中の平成○年○月○旬頃、単独で又は共犯少年とともに自動車やそのエンジンキーを窃取する非行に及び、同年○月、再度の中等少年院送致処分を受けた。しかし、少年は、平成○年○月○旬の仮退院後二か月ほどで、転売目的で自動車やそのエンジンキーを窃取するなどの本件各非行に及んだ。少年が、少年院での矯正教育を二度受けてもなお、同種再非行に及んだことは、少年の非行(特に自動車窃盗)に対する積極的姿勢が更に強まっていることを表している。

もっとも、少年が、本件で窃取した自動車を、氏名や電話番号を明らかにして売却したり、値札や鍵の札という証拠品を自室や自宅駐車場に置きっ放しにしたりするなど、本件各非行には、発覚を免れることを十分考えたとは言い難い稚拙な面も見られる。

二  少年は、直近の仮退院後、関係の悪かった両親と同居せず、○○が手配した施設等で生活していたが、結局は就労中心の健全な生活を送ることなく、手っ取り早く金を手に入れるために本件各非行に及んだ。その背景には、少年の父母に対する強い不信感と、これによる両者の関係の希薄さ、さらに、心的外傷後の反応及び双極Ⅱ型障害が疑われる少年が、自殺願望を抱いたり、自傷行為や睡眠薬や精神安定剤の服用に逃避したりするほど自棄的で不安定な精神状態にあることが指摘できる。上記一で指摘した本件各非行の稚拙な面にも、少年の自棄的な心情がうかがえる。

少年が、本件審判直前、長らく対話を拒んできた父母と面会したことは、少年の精神安定の基盤の一つとなる少年と父母との関係が改善する可能性を示すが、少年の自傷等の逃避的行動が鑑別所収容中にも見られたこと、少年が、審判廷でも、生きていたい気持ちと死にたい気持ちが半分半分である旨述べていることからすると、少年の精神状態を安定させるには、父母との関係の再構築のための対話の継続に加え、医療的な管理も必要と認められる。

三  以上の事情を考慮すると、少年に対しては、規範意識を徹底的に定着させるとともに、健全な生活の確立を妨げる精神的な不安要素を解消する手当てを施すことで、その改善更生を図る必要があり、そのための手段としては医療少年院での処遇が相当である。

なお、上記医療的措置の必要がなくなれば、少年が二度の中等少年院入院歴を有することから、少年の資質上の特性に十分配慮した矯正教育を受けさせるため、少年を特別少年院に移送することが相当である。

よって、少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項を適用して主文のとおり決定する。なお、訴訟費用は、少年法四五条の三第一項、刑訴法一八一条一項ただし書を適用して少年に負担させない。

(裁判官 蜷川省吾)

別紙 少年の環境調整に関する措置について

少年 Y

年齢 一八歳(平成八年○月○日生)

当裁判所は、平成二六年一一月一二日、少年について、医療少年院に送致する旨の決定をしましたが、上記少年については、その環境調整に関する措置が特に必要であると考えますので、少年法二四条二項、少年審判規則三九条により、下記のとおり要請します。

なお、詳細については、別添の決定書、鑑別結果通知書及び少年調査票の各写しを参照してください。

一 必要とする措置

(1) 少年とその父母との間の意思疎通を図り、相互に信頼関係を構築できるよう、指導、助言すること

(2) 少年及び家族の意向、少年の心身の状態、家族の状況等を踏まえ、適切な帰住先を確保するとともに、その受入態勢を整備するよう指導、援助すること

二 上記措置を必要とする理由

(1) 少年に対しては、○○家庭裁判所による平成○年○月の前件少年院送致処分の際、少年院出院に際し、父母が帰住先として適切か慎重に調査・検討する必要があるなどとして、適切な帰住先を確保されたい旨の環境調整命令が発せられていた。

これを受け、少年は、平成○年○月○日の仮退院後、○○が手配した施設や住居で生活していたが、結局生活を安定させることができず、本件非行に及んだ。

(2) 少年は、本件により鑑別所送致された後も父母との対話を拒んできたが、同年○月○日の審判期日の直前、自ら希望して父母と各別に面会した。少年は、同日の審判で、父母と話をしてよかった、本当は三人一緒にいる場所で話をしたかったので、今後そうしたいと述べ、父母も少年と面会したことを肯定的に受け止めている旨述べた。しかし、少年と父母との関係を改善するためには、今後も対話を継続する必要があるが、これまで少年と父母との間で対話が十分でなかったことを考慮すると、少年と父母の努力のみで対話を継続することは困難と見られる。

また、少年は、父との面会の際、自身に子がいる旨述べ、父はその子を少年とともに引き取り面倒を見たい旨述べている。しかし、少年が、子を友人に預けていると述べながら、その友人に迷惑を掛けたくないので友人の氏名は言いたくないと述べていることや、少年が上記審判期日まで本件非行の犯人でないとの虚偽の弁解をしていたことを考慮すると、上記子が実在するかは疑わしい。仮に少年の子が実在しないことが判明した場合、父が少年を引き取る意欲を喪失し、両者の関係改善が望めなくなる事態も想定される。

(3) 以上の理由から、前記一のとおり要請する。

なお、以前から少年の更生を支援していた○○○○が、少年が望めば今後も少年の更生を支援する旨審判廷で述べている。

(裁判官 蜷川省吾)

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